ヤンデレに愛される最強   作:翠晶 秋

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ヤンデレと表彰式

 

全てのダンスが終了した!

女神の気まぐれ、ダンスをする意味などないこの大会。

女神が可愛らしくうんうん唸っている間に、出場者は思い思いの時間を過ごしていた。

 

「フィリアたん、結婚しようよ!」

「何を言っているのかわからないのだけど?」

「だってフィリアたんの服、見たことないから高級なやつでしょ!?ボクのためにそんな服を……!ボク、フィリアたんを幸せにするよ!」

 

フィリアが顔をしかめた。

この服を高級なものと考えるとは、さすがは容姿が豚……いやまぁ多分高いんだろうけど!

今フィリアが着ているジャージという服は美術を学んでいないフィリアでもわかる。全くオシャレじゃない。

 

もちろん、素材にかかっているお金は少ない。一般の服と大差ない程である。

しかしそれは素材の話。

ハクからの頼みなら何でも聴く!財力、知恵、環境の全てが揃ったイヴが!

魔王城の金庫の三分の一を使って長い長い研究の末に生み出したジャージ!

研究費も含めれば、土地が買えるほどの価値があるのである!

 

「イヴさん、今夜いっしょにお食事でもどう?」

「嫌だ。雑草でも食ってればいいじゃん、豚が」

「ありがとうございますっ!」

 

そしてこちらにも、顔をしかめている少女が一人。

同じような勘違いをした好青年が、既に調教済みの状態で土下座していた。

足を踏まれ、SAN値が削られる視線を向けられ、なおも立ち上がる好青年……否、現在はただの変態である。

 

可憐な容姿から放たれる一撃が、僕をまた一つ強くする!

さあ、その華麗なるおみ足で僕を踏んで……ありがとうございます!

 

「お疲れ二人とも……って……。その……随分と仲良くなったみたいだな……?」

「「違うのハク!それとお疲れ様!」」

「お、おう……」

 

片や鼻息荒いブタを引き離し、片や鼻息荒い変態を踏みつけている二人が、声を合わせて挨拶したのだ、怖い以外の何者でもない。

 

「お疲れ様ハク!どう、自信は?」

「お疲れ様。今お茶を入れるわね」

「え、いやうん……あの人たちはいいのか……?」

「「構わない、あんなブタどもなんて」」

 

ヤンデレとは、一途なものである。

ヤンデレは気にしない。いくら人の人格が変わろうと。

ヤンデレは分からない。注ぐ愛の重さ加減が。

 

よって、二次被害が凄いことになる。

 

「ねえハク、私、ちゃんとしたドレスは用意してきたのよ……。あとで踊りましょ……?」

「わかった、わかったから」

「やった」

 

最近ハクでも収集がつけられなくなってきたヤンデレという新たな生物は、濁った目をしながらハクに近づいていく。

最近ハク分を補給できなかったのだ、愛が原動力の彼女たちには死活問題だったのだろう。

しかしそれも終わった。大会が終われば、枷を外された犬が餌を求めて走り回るのは必然だ。

 

「「さあハク、まずは……」」

『レディースえぁーんどジェントルメーン!!』

「お、表彰式始まったみたいだぞ」

「「…………」」

 

しかしその餌は女神によっておあずけされた。

 

『すばらしいダンスをありがとう!まずは3位から発表するぞ!』

 

雲の上。そこに設立されたステージに立つ女神は、その小さいお口で『どぅるるるるるるる』と巻き舌を披露して見せる。

「あれ、ドラムのつもりか……?」とクエスチョンマークを生産するハクたちを気にも止めず、息が切れたので一回の息継ぎを挟み、ドラムが鳴り続ける。

やがて『だん!』と元気いっぱいな声が鳴り響き……

 

『イヴニン&レイブン!!』

「イヴニン?ああ、イヴのことか」

「そうだよ。さすがに本名のまま出場するのはいけないからね」

「あの変態はイヴって呼んでたけど?」

「アダ名として呼んでもらってたんだ。それより3位かー、残念」

 

イヴが頰を膨らませる。

 

『続いて、第2位!だらだらだら……省略、だん!!』

「さて、誰だ……」

『フィリア&アキレウス!!』

「やりましたなフィリアたん!」

「お前アキレウスなの!?めっちゃ名前負けしてるじゃん!」

『あれ?もしかしてアキレウスってあのドラゴンスレイヤーの?』

「へへへ、だいぶ昔の話ですが」

「アキレウスすげえええええええ!!」

 

どーりで聞いた事のある名前だと思った……!

ハクがまだ駆け出しの頃、旅の道中に最前線の魔王軍の竜騎士が破れた事を小耳に挟んだ。

討伐者の名をアキレウス。ギルドトップのベテラン冒険者である!

 

『さいご!第1位!だらだら、略、だん!』

 

全員が唾を飲み込む。

空間が引き伸ばされ、体を硬ばらせる者もいた。

女神が息を整え、その口を開き───

 

 

 

『デキソガ!!相方がいなくて可哀そうだったから優勝です!』

「「「誰だよお前ぇぇぇぇぇ!?」」」

 

 

 

絶叫するハクたちの隣でぽかんと口を開ける青年がいた。

可哀想だったから優勝、というあまりにも横暴な結果に、参加者がいきり立つ。

 

『えーなになに聞こえなーい』

「おい女神テメェ!なぁにが可哀想だ!公平にジャッジしやがれ!」

『だってこれ私的なイベントだもん。公平なジャッジとかいる?職権乱用して景品を『好きな願い叶える』にはしたけどさ』

「だからって、女神がそんなことしていいのかよ!」

『いいの良いの、私、神さまだもん。その青年はあれ、女神に選ばれたってやつ!』

「女神のくせに小生意気だ!」

 

しかし誰も手を上げない。

なぜなら、その分女神に助けて貰っているから。

 

「ったく気まぐれな女神だぜ……ほら、早く願い言えよ」

「あ、ああ」

「やれやれ。幸運だったな、お前も」

 

デキソガが舞台に上がって行く。

 

『さ、これが【願いの宝玉】だよ。これに願いを込めて』

「えー、俺の願い。それは……」

 

瞬間、漆黒の風が吹き荒れた。

禍々しい魔力が、デキソガに集まっていく。

 

「邪神の再臨!」

「バカかあいつ……っ!」

「すごい、こんな魔力見た事ない!邪神とはどんなもんkなのか、一度見てみたかった!」

『え、ちょ、バカなのぉぉぉぉ!?』

 

魔力の渦はどんどん濃くなっていく。

願いの宝玉が魔力の渦に飲み込まれ、急に渦が晴れた。

 

【人間。お前が我を呼び出したのか……?】

「ああ!邪神と呼ばれるお前がどのような姿なのか、見てみたかった!」

【ならば今のうちにとくと見よ。じきに太陽も見えなくなるのだから!!】

 

3本対の腕。鬼のような顔。獅子のようなタテガミ、理想的な筋肉。

阿修羅を思わせるその邪神こそが、300年程前に勇者と女神のタッグで封印された、邪神アストロボルグ・レオである。

 

【エリースよ。久方ぶりだな?】

『アンタにはこの先ずっと会いたくなかったけどね……!』

【辛辣だな?】

『普通の対応……さっ!!】

 

女神の姿が、幼いものからぐんぐんと大きくなる。

成長が止まった頃には、女神の名を冠するに相応しい姿になっていた、

 

【レオ。君は素晴らしい。人間から神格に成り上がったのだから、とても強い人間さ】

【お前だってそうだろう?アストロボルグ・エリース】

 

レオの合計六本の腕が、大砲の形に変化する。

その全ての砲塔が、獅子の形をしていた。

一本が、轟音を立ててエリースに向かって放たれる。

黒煙の立ち込める中、響く声は健在だった。

 

【まったく……君はやっぱり戦闘を楽しむ傾向にあるね】

【やはりこれくらいでは死なぬか……】

【当たり前だよ。これでも十二宮なんだ】

 

黒煙の中に堂々と立つエリースは、光り輝く鎧を身につけていた。

 

十二宮。砲のレオと、鎧のエリース。

かつての戦争とは真逆に、レオに愉悦が、エリースは冷や汗を浮かべた。

本気とばかりに放たれ続ける砲台を、エリースは鎧で防いでいく。

 

【果たして、お前に俺が倒せるか?】

【どういう意味かな、それは】

【力が衰え始めているお前と、封印された全盛期のまま復活した我。どちらが勝つか、わからないお前ではあるまい?】

【ぐっ……】

 

獅子と羊が見合っている間。

雲の上のステージでは、阿鼻叫喚の状態だった。

 

「押さないでくださーい!豆の木が潰れちゃいますー!!ああもう、お父さんはどこにいるのさ!」

「諸君!騎士である私のもと、順番に……だめ!ハク、収集がつかない!」

「オラこのっ!てんめなに呼び出してくれてんだ!「ああ、神々の戦い……美しい……!」だめだコイツいかれてやがる!」

 

ハクがさりげなく流れ弾を弾き、固めた雲の大地に穴が空く。

ひょんなことから復活した邪神と、ひょんなことから女神に昇格した巫女の、戦いが始まろうとしていた。

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