漸く用事にひと段落着いたぜ…辛かった…なお忙しいのが終わったとは言っていない。だがぐんちゃんの誕生日には間に合わせてもらう。イベントの方を見ると、やっぱりいいお姉さんって感じになってきたなぁ…原作の彼女を知っていると泣けてくる…
ただ済まない。今回の話は彼女にとってかなりつらいものになる。何せ、西暦の闇が読者の前で浮き彫りになった甲斐だから。それでは一万五千ですが、どうぞ。
ラグナが病院へ向かった頃、千景は勇者の武器である大鎌を横に置きながら地元の田舎へ向かうバスに乗っていた。大社の職員はというと自分と少し離れた席で座っていた。
家族を丸亀市に移住させるのは自分に心の拠り所を作って心身を安定させるため。そんなことは千景でも理解できることだった。何せ勇者システムは精神状態に大きく作用されるのだ。不安定な状態では上手く力を使うことが出来なくなる。
『大社は貴女を気遣ってはいないわ。貴女という『道具』を手放したくないだけ。大社にも、大人にも、貴女の味方なんていないのよ…』
先ほどから先日の少女が自分に向かって語り掛けてくる。それを無視しようとするが、響いてくる声のせいで趣味のゲームにも集中出来ない。ミスを連発するのを見て、これ以上のプレイは無駄だと判断した千景は電源を消して目を瞑った。
(これであの二人のいる家で過ごすのね…)
そんなの…苦痛でしかないのに。あんなにも疲弊しきった両親のところにいたところで何も変わらないのに。千景は両親について考える。
聞いた話によると、両親は恋愛結婚でその時は親戚からの猛反対を押し切ってのものだったらしい。二人は村にある小さな借家で暮らすようになり、しばらくして娘を授かることが出来た。それこそが千景だった。
両親は千景の誕生を心から祝福した。これから三人で慎ましくも幸せな日々を送ることになる。そう思われていた。
(だけど…そうは…ならなかった…)
千景の父親は未熟な子どもがそのまま大人になったような性格で、自分本位な人物だった。家族に対する思いやりなどは皆無で、育児も家事も殆ど手伝わず、自分の自由を優先させるような男。そんな、父親としても社会人としても問題のある人物だった。
千景は忘れたりはしない。かつて母が高熱を出して病床に伏せたとき、当時幼かった自分は仕事に出ていた父親に電話を掛けた。しかし返ってきた言葉は薬を飲ませて寝かせろというものだった。
それだけを告げると父は電話を切った。その時、無情に流れる電話のツーツーとした音を聞いてその時の千景の思考はぐちゃぐちゃになった。
電話を戻した後は薬を探したものの、当然そんなものは家には見当たらず、買おうにもどの薬を買えば良いのかが分からなかった。疲れ果てた千景は結局何も出来ず、ただ苦しそうに呻く母親の傍で泣きじゃくりながら父を待った。
その父親が家に帰ってきたのは夜中の午前の二時。酷く酔いつぶれた状態だった。
そんなことを繰り返していくと夫婦の間に確執が生まれていき、やがて母親の不倫が発覚した。小さな村ではこういったことは話題になりやすい。二人の醜聞はあっという間に広まった。そしてその娘である千景もまた、誹謗中傷の的となった。
周りの大人たちは自分を汚物のように見ては陰口を言い、学校では同級生から阿婆擦れの子だの淫乱だのと謂れのない言葉で罵られる。居場所なんて、この村のどこにもなかった。
目を開けて思考を切った千景は切り傷の付いた右耳を押さえる。思い出せば思い出すほど、過去の者たちに対する憎悪が溢れ出してきた。そしてそれはこの頃、勇者を批判する人間たちのせいでより激しく疼くようになった。
『酷い人たちよね…勇者やあの男のおかげで平和に生きて来られたのに、いざ苦戦すれば好き放題に言うんだもの』
そんな夢の中の少女の話が聞こえる中、バスは千景の故郷の最寄りまでに来る。少し乱暴にベルを鳴らしてバスに止まってもらうようにした。
その後、大社の人々は母を運んだりするための準備をせねばならないため、先に家へ向かってくれるように千景に言った。
渋々それを承諾した千景は実家の借家へと向かう。広がる水田を縫うように細い道があり、そこには作業している者もいる。しかし彼らは千景を一目見た後にすぐ顔を伏せた。道中で会った母親と同年代の女性たちと話が出来たが、余所余所しい感じがあった。
前にここへ来た時、ラグナと知り合う少し前のことだが、自分は村から敬われる存在だった。昔自分を気味悪いとヒソヒソ話していた者は気前良くなっていた。自分を虐めていた同級生たちも自分に媚びへつらうようになった。しかし今はそうではない。
「どうしてこんな場所にいるのかしら…早く化け物を倒しにいけばいいのに…」
「結局はあの親の娘ね…あの娘のせいで死んだ人だったいるのに…」
結局は同じだ。こいつらは所詮自分たちをネット上で卑下していた連中と同じなのだ。心無い彼らの言葉を避けようと、家へ向かう千景の足取りは早くなっていく。人混みを避け、耳も手で塞ぐ。そのせいか、携帯の着信に気付くことが出来ない。
そうしない内に千景は家に着く。相変わらず家はボロボロで臭いも少しする。ドアを開けて玄関を通ると、やはり母は布団の中で眠っていた。天恐のステージ3となり、ステージ4へと移行する兆候を見せている彼女は最早薬無しで生活出来なくなっていたのだ。
すぐ横で座っていた父親は千景に気付く。かなり憔悴しているようで、実の娘が帰ってきたことを喜んでいる様子はなかった。
「ああ、千景。帰ってきたのか」
「ええ。お母さんは?」
「今は薬を飲んだ後で寝ているよ。この頃は起きていると喚きながら暴れるから寝てもらっている方が良いんだけどな…」
「…そう」
見るに堪えない彼の姿に千景が興味なさそうに見ていると、父は言った。
「なあ…千景。冗談だろ?」
「…何が?」
「家族で暮らす?母さんがこの状態なのにか?そんなこと出来る訳ないだろう!?」
「で…でもそれは大社の決定で…」
「ああ聞いたよ、その話は!!でも母さんを病院に入院させる方が一番安心だろ!!」
「だから…そのための施設のある香川へ引っ越すんでしょ…」
「ああそうだ!!村から引っ越すのは大賛成だ!!こんな村!!こっちから離れたいさ!!今すぐにでも出て行ってやる!!!」
父の大声に千景は怯んだ。この前ラグナが怒鳴った時とは全然違う。怒りを容赦なくぶつけられている感じだ。余裕がないことが表情から読み取れる。
「…どういう…こと…?」
「これだよ!!!」
父は苛立たし気に髪の束を千景の前に投げつける。地面にばら撒かれたそれには勇者や郡家についての非難や悪口に溢れていた。
「何なの…これ…?」
千景は眩暈を覚える。覚束ない足は散らばった紙から本能的に遠ざかろうとしていると父親からの罵倒は続く。
「毎日毎日家の中に投げ込まれるんだぞ、それは!!それだけじゃない!!外に出る度に村の皆がその紙にあるようなことを陰口みたいに言うんだ!!」
「…どうして…」
「お前のせいに決まってるだろ!!勇者が人を守れないから!!お前が役立たずだから!!」
その言葉を聞いて千景は吐きそうになる。元々自分たち家族は村の嫌われ者で、この前まで敬われていたのは自分が勇者だったからだ。
『ほらね。勇者が苦戦するようになったらこの様よ』
その中で勇者そんな中で千景は一つの紙を見つけた。
《怪物を助けるな、売国奴!!》
それを見た千景は震える手で紙を拾い上げる。髪に書かれているバーテックス。それが誰のことか、千景にはすぐに理解した。そんな彼女の気持ちを知らないのか、その紙を見て父親は頭を掻きむしりながら怒鳴った。
「この前のテレビで見たぞ!!何だ、あの街の破壊されっぷりは!!お前たちはあれを倒すためにあるんだろ!!人間をあの怪物から守るためにいるんだろ!!」
「……それはッ!!」
「しかも聞くところだとお前たちは妙な男を匿ってるらしいな!!それもその男、あの黒い怪物から出てきたそうじゃないか!!!怪物の身体から出てきたような奴なんて同じ『化け物』に決まってるだろ!!!化け物なんかじゃなくて人を守れ!!クズが!!!」
「…!!!」
父親のその言葉を皮切りに千景は家から逃げるように出て行った。化け物。その言葉は自分がラグナに向かって言い放った言葉と同じだった。
一切家族のことを考えず自分勝手に生きる父と家族を捨てて別の男へと逃げた母。千景はそんな二人のことが大嫌いだった。自分は二人のようにはならない。そう思いたかった。そうならないように怖くても、強大な敵に命懸けで戦った。しかし
(その結末が…これだというの…!?)
勇者という自身の存在を否定された。そして自分が忌み嫌っていた親と同じなのだと自覚させられた。
外へ出た千景は誰かにぶつかる。そこにいたのは数人の少女たちだった。その顔を千景はよく覚えている。かつて自分を虐めていた少女たちの一部だ。その手にあったのは
《さっさと敵を倒せ、クズ勇者》
それを見て、千景の中で一気に黒い感情があふれ出始める。こんなことを言われるために皆は戦ってきたのか。文字通り身も心も削って戦ってきたのか。
(……ふざけるな…)
そうだ。こんなことは間違っている。こんなことのために戦ってきたのではない。
(クズなのは…『無価値』なのは…)
こいつらの方だ。
「こ…郡さん…な、何を…?」
気付けば千景は袋から大鎌を取り出し、勇者システムを起動させていた。淀んだ紅色の瞳で自分たちをごみのように見る千景の冷たい視線は少女たちを怯えさせるのに十分だった。
「こ、こんなところで何ぼーっとしてんのよ!!刃物なんて持って街を出歩いて!!そんなもの持ってるならとっとと化け物でも倒しに行きなさいよ!!」
「アンタなんかに期待したこっちが馬鹿だったわ!!結局アンタなんて無能だったのよ!!」
「しかも化け物の男なんて引き入れちゃって!!所詮淫乱の子なのよ、アンタは!!!」
少女たちは恐怖を誤魔化すように強がりの罵声を浴びせてくるが、そんなものは今の千景には聞こえない。幽鬼のようにゆっくりと迫る彼女の中で疼き回るのは大量の黒い靄だった。
『勇者の犠牲の上で生きているのに今まで散々頼ってきたのに状況が悪くなれば手のひらを返して』
ー 許せない -
『なぜ褒めてくれないのなぜ讃えてくれないのなぜ愛してくれないの』
ー 許せない -
『価値を認めてくれないなら私を愛してくれないなら』
- 許せない ー
『ー……ならいっそのこと…!!!」
そう小さく口から漏らした千景は折り畳まれた鎌の刃を展開し、自分に指さしている少女に向かって鎌を縦一閃に振り下ろした。斬られた服は上から下まで真っ二つに開き、その下の肌には薄い切り傷があった。そこから紅い雫がじわりと浮かび上がった。
「…ぁ…ぁ…ぎゃあああああああああ!!!!」
「ひ、ひゃああぁぁぁぁ!!!」
大した傷ではないが、それはこれまで平和な場所で生きていた少女たちに明確な死の予感を与えた。泣き叫ぶ彼女たちは千景から逃げた。斬られた少女も腰を引かしながらも同じように這い蹲って逃げようとするが、そんなことを彼女は許さない。その娘の逃げ道に鎌の刃を目の前で突き刺し、退路を塞いだ。
「あ…や…誰か…助けて…だずげで…」
恐怖で少女は呂律が回らなくなり始める。鼻水と涙を流すその様を見て千景は汚らしいものを見るように睨みつける。震える少女を見ながら千景は低い声で言った。
「……戦いなさい」
「え”ッ…」
「皆は…土居さんは…伊予島さんは…高嶋さんは…乃木さんは…白鳥さんは…秋原さんは…古波蔵さんは…あの人は例えどれだけ絶望的な力を持った相手が来ても…逃げずに戦ったわ…バーテックスとも…あの黒き獣とも…!!!」
自分だってなまじ皆とは共闘していない。こんな世界になってから勇者それぞれの形で苦しい想いをしてきた。バーテックス相手に殺されかけられたこともあった。あの強大な黒き獣を相手に戦い、何とか生き延びた。
その中でも最たるものがラグナであった。自分でも思う。彼は化け物じみている。だが同時に思う。それはただ力のおかげだけじゃない。脅威に立ち向かう彼自身の
「私だって…それが出来た…だから今度は貴女たちがやってみせなさい…!!」
そう言って再び大鎌を振り上げて少女を斬りつける。今度は太ももから血の線が走った。当然少女は声を張り上げる。それでも恨み節を吐きながら千景は武器を振るう。
「戦いな…さい…!!」
「いやああああぁッ!!!」
無力な相手を恐怖させることで千景の心はどんどん黒い感情で染まっていく。ぐちゃぐちゃになった心がタールで無理やりくっつけられた感覚だ。
それによって生まれる感覚は弱者に対する優越感、そして怒りに身を任せて攻撃する快楽。だが、それよりも心から湧き上がる怒りはこの程度で収まることはなかった。
「戦いなさい…戦いなさいよ…戦え!!!私たちの苦しみを知れ!!!」
「あ…ぁぁ…あぁ…」
武器を振り下ろしながら千景は哭き続ける。何とか彼女の側から離れられた少女たちもこの叫びに怯えて動けず、仲間が切られるのを見ることしか出来ない。ついに千景は大鎌を少女の心臓に向けて切り掛かる。命を刈り取る死神の鎌は少女の胸に向かって一直線に下ろされ
「危ねぇな……けど何とか最悪の事態になる前には間に合ったか」
「-------え…?」
もう一人の死神の刃に止められた。見慣れた赤コートに身を包み、逆手に持った大剣で千景の大鎌を受け止めている彼がいた。
「どうして…貴方がここに…!!?」
「そいつは俺が聞きてぇよ。ったく、いきなり精霊がヤベーって聞かされたと思ったら今度はテメェがここに来てるって聞いてよ。探しに来たらいつの間にか誰かを殺しかけてるし…どうなってんだ」
男、ラグナは状況がいまいち分かっていないようだが、退く気配を見せない。あくまで後ろの少女を守る構えのようだ。その彼女がラグナの姿を見るや否や更に怯えた。
「な…なんで…化け物男が…」
その言葉は千景の勘に触った。守ってもらっているのにそんな言葉をこの期に及んで言えるこの少女に怒りを通り越して憎しみすら覚える。対してその言葉にラグナは鬱陶しそうに溜息を吐きつつも静かに言った。
「…おいアンタ。ちょっと下がってろ。こいつと話がある」
「……どうも!!」
そう吐き捨てて少女たちは四肢をあたふたさせながら逃げ出す。ラグナは少女の言葉を聞いて大鎌を押す力を強めた千景の方へと振り向く。
「…二日ぶりだなチカゲ…酷えツラだが、何があった」
「…邪魔を…しないで!!!」
「…話次第でな!」
二人は武器をぶつけ合う。怒りのままに叫ぶ千景に対して努めていつも通りの調子で話しかけるラグナ。今の千景が正気でないのはラグナから見ても明らかだった。
しかし千景はラグナが何故自分から彼を悪く言った少女を庇ったのかが分からなかった。そしてそれに対して怒りもしない彼を見て苛立つ。
「…チカゲ、これ以上は止めろ! テメェは精霊に精神を汚染されて冷静でいられてねえだけなんだ!」
精霊による精神汚染。そんなものは千景だって何度も聞いてきた言葉だ。だが
「…そんなもの、関係ない!!!」
「な、何言ってやがる!?」
「まだ分からないの!!? 私たちは…裏切られた…命を懸けて、人を、守ってきたのに…冷静でいられるはずない!! さっきの女の言葉が何よりの証拠よ!!!」
ラグナとて聞き逃したわけではない。正直苛ついたが、そんな言葉は目の前の千景の現状に比べれば些末なことだ。でも千景は、そんな助けられてもなお感謝の念も示さない身勝手な人間が許せなかった。
そんな気持ちが乗った斬撃にラグナも大剣で応戦することが困難になり、後ろへと弾き飛ばされる。やむを得ないと判断してラグナはそれを大鎌の姿へと変形させた。先端から漏れ出る赤いオーラの刃が露わになり、二人は攻撃を打ち合う。
「本当に…ふざけてる…ふざけてるわ…どいつもこいつも!! 何のために…何のために私たちは戦っているの…!!? …守ってきたのに…人を守ってきたのに…!! 何故私たちは蔑まれないといけないの!!? こんなことになるなら…戦う意味なんか、人を守る意味なんか、ない!!!」
「チカゲ…」
奪われたから。裏切られたから全てを壊す。正に自分がかつて歩んだ道だ。しかし、それだって辛く、そして決して報われる道ではない。それはラグナが何よりも知っている。
「本当に…あの頃と同じ…!!! 人にとって…自分以外の全ての存在は…『自己の認める基準』でしかない…!!! 自分の存在を認識するためなら……どんなことをしてでも…他者の存在を否定するのよ…!!! そうやって…
「……」
「私には解るわ…!!! だって…だって…」
渾身の力でラグナを斬りつけながら千景は絞り出すように叫んだ。
「ずっとそうされて…生きてきたんだから!!!!!」
その攻撃はラグナを大きく後ろへと吹き飛ばす。何とか体勢を整えた彼は千景に答える。
「チカゲ…テメェの言いたいことも分からなくもねえ。だけど、それは絶対に人の本質じゃねえ」
「…あれだけのことを言われて!! まだそんな絵空事が言えるの!!?」
「…人間ってやつは誰も皆、不完全な存在だ。誰もがどこか欠けてるし、それを補うために他人がいる…自分の欠けた部分はここだって主張して…誰かに解って欲しくて、補って欲しくて、乞い、願うんだよ」
必ずしもその存在が合う訳ではないから、時として衝突し、争うのだがな。そう付け足すラグナに千景は反論する。
「…そうよ…でもその結果がこの村の実態なのよ…!!! こいつらは…少なくとも私や貴方の
憎悪をまき散らす千景を前にしてもラグナは怯まない。確かに彼女の顔は怒りに満ちている。だが、それだけではないことも彼には分かった。
「…ああ。そいつは…悔しいが、賛同するよ。だがな、テメェが関わってきた人間はここの連中だけじゃねえ。それにさっきの話に関してはそいつはテメェ自身にも当てはまる」
「…どういうことよ…!!」
「テメェは確かに…こいつらのことが憎くて仕方ねえだろうよ。けどただそれだけじゃねえ。テメェが叫んでんのはこいつらに対する『拒絶』じゃねえ…『願望』だ…さっきからずっとな…」
認められること。愛されること。それが長い間虐げられてきた少女の、たった一つの
かつてレイチェルに言われたように、千景は他の者たちを愛しようとした。普段は言わないが、仲間たちのことを大事に思ってきたつもりだ。
でも返ってきたのは民衆からの酷い非難と否定。求めているものとは違うものだった。故に傷ついた。そして同時に他者の愛情を求めた。
「…もう帰ろう、ぐんちゃん」
少し普段よりも明るさが少ないが、聞き間違えるはずのない声に千景は驚く。声の主を見ると、そこにいたのはレイチェルと車いすに座った、ここにいるはずのない人物だった。
「高嶋…さん…」
ある意味、この村には一番来て欲しくなかった親友がそこにはいた。ラグナやレイチェルに文句を言おうと千景は二人に怒鳴りかけようとしたが、その前に友奈が彼女に語り掛けてきた。
「ぐんちゃん…すごくここに皆を来させたくなかったのは知ってるよ。でも私、どうしてもぐんちゃんが心配で…だから二人に無理して頼んだんだ」
「…それが分かってたなら…どうしてここに来てしまったの!!?ここには…高嶋さんだけは来て欲しくなかったのに…!!」
誰に対しても優しい友奈がここに来れば、きっとショックを受けるだろう。惨めな自分を見てしまうかもしれない。最悪、自分を庇って攻撃されるかもしれない。それを考えたら、自分の身の出来事以上の恐怖を感じた。
「…若葉ちゃんの時と同じだよ。友達が傷つくかもしれないのに…何もしないなんて、私にはできないよ。それに、私にとってぐんちゃんは一番大切な友達だよ? そんな風に『助けて』って友達が泣いているなら猶更行かなきゃだよ…」
それを聞いて、千景は本当に泣き崩れそうになった。あぁ、この娘は。この娘はどうして自分に対してこんなにも優しいのだろう。そして自分は一体何度この娘の存在に救われてきたのだろう。そう考えてしまうと千景の心から戦意が無くなっていく。
「…高嶋さん!!私…私…ずっと貴女に…!!」
「うん…解ってるよ…おいで、ぐんちゃん!」
千景は友奈の元へ駆けつけようとする。ようやく会えた。長い間待った。そして彼女に手が届く。
「おい!! あれって、化け物のところにいた男じゃないのか!?」
「何でこの村に!!?」
不意にラグナの後ろから声が聞こえてくる。突然の乱入者に一同が驚いていると、千景は気づいた。大人たちの輪の中で守られるように先ほどの少女たちがいることに。ほくそ笑みながらこっちを見ているところから推測するに、この集団は彼女たちが連れてきたのだろう。
「話によれば郡のところの娘が子どもたちを攻撃したのを奴が庇ったようだぞ!!」
「勇者が人を攻撃したということか!?」
「これじゃあ親以下ね!! あんな男を連れてくるなんて!!? 本当に疫病神じゃない!!」
村人の言葉にラグナは虫を噛んだような顔をする。レイチェルも眉を少し顰めるも、どんどん不機嫌になっていくのが目に見えて分かった。二人は基本的に他者からの悪意を気にしないスタンスを取るが、それも自分が対象であった場合である。流石にここまで仲間がコケにされたら怒る。
「…喧嘩を売ってんなら買うぞ?」
「…随分と威勢が良いのね、蛆虫の分際で」
「な!? 誰が!?」
「みっともなく鳴き声を上げることしか出来ない貴方たちにはぴったりの名前だと思うのだけれど? あら? それともバーテックスの方が良かったのかしら? 天を這うか地を這うかの違いしかないから、どちらで呼ぼうと違いはなくてよ?」
「ふざけるな!! 隣の化け物と一緒にするな!!」
「…その言葉、テメェらにそっくりそのまま返してやるよ」
「はぁ!!?」
「…今まで一人の少女にやってきたことを考えれば、それほど貴方たちに適した呼び名はないと思うわよ? 正しいことだと思ってやっていたというなら隣の県の誰かに自分たちがどのようなことを彼女にしてきたのか、自慢してみせてはいかが? 貴方たちの話を聞いて相手がどのような反応を見せるのか、実に見物ね」
こう言っているが、笑っていない今の二人を知る者であれば分かる。あれは心底相手を軽蔑しているときの口調だ。一応二人も千景の過去や家庭環境を聞いていたので、この村人たちがいかにおかしいのかも知っている。
「まあ、仕方がないんですものね。今までまともに外の世界に出たことのない田舎者しかいなさそうだし、見分が狭いのでしょう。本当に哀れに思うわ」
「な…なんだと…!?」
「少し前まで城にいる時間の方が長かった奴の言う台詞かそれ?」
「その前もお父様と一緒に城から出て旅行してた時期があったわよ」
「いや、それ外の世界に出た内に入らねえだろうが」
レイチェルの言い分にラグナが突っ込むが、村人の方は黙っていなかった。
「何よ!? その娘はろくでなしの親父と尻軽女から生まれてきてんのよ!? 実際こうして厄介ごとを持ってきて「もうやめてよ!!!」ヒィッ!!?」
それまで黙っていた友奈が大声で女子の言葉を遮った。辛そうな表情をしながらも必死に訴えるように叫んだ。
「ぐんちゃんが何をしたっていうの!? それで誰かを傷つけてたわけじゃなかったのに!! その家のことだって望んでそうなったわけじゃないのに!!? どうしてそれだけでそんな酷い目に遭わせられるの!!?」
他者に対して攻撃的になることに抵抗のある友奈もこれには悲痛な声を上げるばかりだった。彼女の周りには良い人間がたくさんいた。そのせいか、これ程までに人間の悪意を感じることはなかった。
しかし、だからと言って悪そのものを知らないわけではない。やってはいけないことの区別くらいは出来る。問題は千景がこんな仕打ちを受けているにも関わらず、誰もおかしいとは思わず、やめさせられることがなかったことだ。それまでずっと被害者だった千景を考えると、友奈の眼から涙が流れた。
「他の人が悲しむようなことはしちゃいけないなんて…子どもだって分かることなのに…どうしてそんなことが出来るの…酷いよ…そんなの、酷すぎるよ…」
「…ッうざいわね!!」
頭に血が上った女子は手元にあった石を拾い上げ、友奈の方へと投げつける。しかしその前にいたラグナが大剣で打ち返した。石はそのまま高く飛んでいき、やがて見えなくなった。
「………ぇ?」
「…ウサギ、先に二人と一緒に丸亀の病院へ戻れ」
「…無理はしないで」
「しねえよ。俺の方がテメェらよりかは安全なd…ん?なんだ地震か!?」
突如地面が大きく揺れ、多くの者たちが立ち上がれなくなった。震源が分からない中、ラグナの目線に千景が映る。そこにいる彼女はラグナにも、レイチェルにも、友奈にも全く視線を移していない。千景の眼に映っているのはただ一人。
「な…何…よ…」
友奈に向けて石を投げた少女だった。光のない目で一直線に彼女を千景は凝視する。何を感じているのかが表情からは読み取れない。ただ、その心は
(そう……そこまでやるのね……)
自分に飽き足らず、友奈までも蔑むのか。自分にはあの娘しか残されていないのに。そんな、ささやか、でも何物にも代えられないほど大切なものまでもお前たちは傷つけるのか。私から、奪っていくのか。
『それなら………「アレ』は…殺すしかないわね…♪」
千景の顔に少女には似合わないほど大きく、歪な三日月が広がる。これまでの単純な怒りの混じった憎しみではない。それは悦楽に満ちた、狂気を内包した黒い感情だ。
「ふふ…ふふふ…うふふふふふふふふふふふふふふふふ…」
「ぐ…ぐん…ちゃん…?どうしちゃったの?」
「あははははははははは!!!!! あはははははははは!!!!! そう…そうよ…簡単なことだった…何でこれを真っ先にしなかったのかしら…?」
愉しそうに千景は笑う。しかしその表情に友奈は困惑する。普段なら分かる千景の言っていることが全く理解できない。
「私を愛してくれないなら…私が愛した者すら奪うなら…全員残らず刈り取ればいいのよ…!!!!」
「えっ!!? 待って、私はだいじょbキャッ!?」
友奈の制止を聞かず、千景は疾風のように駆ける。手に取った大鎌は女子の首を胴から切り離そうと迫りくる。
「させるか!!」
大剣で何とか鎌の斬撃を受け止めるが、それまでとは比べ物にならない力がラグナの大剣に圧し掛かった。そして何よりラグナの気を引いたのは千景の表情だった。
先ほどの千景は苦痛に満ちたものだったが、今の彼女は笑っていた。非常に見覚えのあるそれにラグナは悪態を吐く。
「クソッ!『また』これかよ!!」
「…うふふ、どうしたの? それで本気なのかしら?だったらがっかりね…」
「うるせえな!! ちょっと目ェ離したら生意気なこと言い始めやがって!! つーかいつの間にそんな馬鹿力身に付けたんだよ!!?」
何とか千景の初撃を弾くが、再び直進してきた千景の姿が変わり始める。フードで顔を隠した白装束を身に付けた彼女が七人に分裂して一気に襲い掛かった。
「そんな!!? 精霊まで!!?」
「ラグナ逃げなさい!!!」
「『七人御先』かよ!! クッ、めんどくせえ!!」
レイチェルの勧告も空しく、七人の千景はラグナを襲う。しかし、ラグナもまだ焦る様子を見せない。
「なら全部叩き落とすだけだ!!」
『出来るなら…ね…』
「舐めんじゃねえ!!」
すぐに大鎌に変形させ、自分に向かってくる影を柄の部分で払っていく。切られた千景の分身は花のように散って消滅する。しかしいくら攻撃しても数が減る気配を見せない。
「おいどうなってやがる!!? 全然減らねえぞこいつら!!?」
「うふふ…貴方でも…焦ることがあるのね…」
「クソ…一体どういうこった!!?」
「ラグナ!! 七人御先は千景を常に七人同時に出現させる精霊よ!!『七人全員同時に』倒さなければそのままジリ貧だわ!!!」
「ハァッ!!? そんなのアリかよ!!?」
つまり同時に言えば一人でも健在であれば絶対に倒せないと言う事でもある。しかも全然ダメージを受けている様子がないため、スタミナ切れも期待できないようだ。それだと肉弾戦なんかでは勝負にならない。
「クソッ!!! 済まねえがチカゲ!! 少し本気を出させてもらうぜ!! シード・オブ・タルタロス!!!」
そのまま鎌を振り回しながら回転し、そのまま瘴気の波を派生させる。千景の分身の数々は消し飛んでいき、空中で居座っていた一体に向かってラグナが間髪入れずに飛び掛かった。
「ブラッドサイズ!!!」
「くあッ!?」
空中の千景を大鎌の柄で叩き落すと千景の精霊は解除された。でも当の本人はまだやる気満々だ。友奈も急いで彼女に呼びかける。
「ダメだよぐんちゃん!! これ以上やったら人が巻き込まれちゃうよ!!」
「…高嶋さんは優しいのね…あんな奴らに…自分を傷つけようとしたアイツらにも…でも私は…許せない…そんな貴方を傷つけようとしたあのクズどもを…絶対に…許さない!!」
「だったら…!!」
その言葉に呼応してラグナは千景の前に立ちふさがる。
「俺が相手だ…それだけは…させられねえんだよ!!」
「…貴方が…邪魔をするの?」
そう言う千景は少し寂しそうだった。その真意がどういうものだったのかは分からない。しかし、この状況でのラグナの答えは一つだった。
「…ああ」
「そう…貴方なら…高嶋さんの次に私の気持ちを…理解してくれると思ったのだけれど…やっぱり貴方も…ダメだったのね…」
それを聞いた直後、千景は恐ろしい笑みを浮かべながら眼に再び鋭い眼力が宿らせる。一切の容赦はしない。一目でそれが分かる。
「なら…『黒き者』は………殺すしかないわ!!!!!」
「…テメェがそこまで『殺し合い』をしてえなら…良いぜ、加減はいらねえ。全力で掛かってこい。その代わり、俺はテメェを必ず『助けてみせる』よ」
「…そんなことを言っていられるのも、今の内よ…!!」
目を閉じると千景は精霊を召喚する準備に入る。周りから旋風が巻き起こり、彼女の姿も変化していく。そのときの彼女を見ると、全身が震えはじめた。
(な、何だ!?蒼の魔道書が、怯えて…いや、違う!!!!)
この感覚は魔道書のものではなく、自分のもの。これまでの敵とは一線を引き、そして自分が一度対峙したような錯覚を覚えるような脅威を前にしようとしてる。
「来なさい…『
対する千景の方はというと、服装が小回りや機動に支障が出ないように改造された真っ白な十二単になった。美しい黒髪はさらに長くなり、一つになるようポニーテールに結わえられた。髪を結った場所に彼岸花の飾りがついていた。
一目すれば今の千景の美しさにたちまち人は心を奪われるだろう。それも当然であろう。何せ今の千景の身に宿っているのは「玉藻前」。平安期に当時の権力者であった鳥羽上皇の寵愛を受けた傾国の美姫であり、同時に数々の国を滅ぼしてきた日本三大妖怪、「
しかし、ラグナが感じたものはその真逆。困惑、そして恐怖である。かなり違いはあるが、それでもその姿を見れば、思わず別の世界の勇者を思い出してしまう。その中でラグナの眼を引いたのは
「…何故…その『お面』が!!!?」
頭に被った穢れ一つない、「真っ白なお面」だった。目や鼻の模様も、神世紀の大赦で見られるような神樹のマークもない。横に耳のような棘が両端にある以外、一つの汚れもない「白」。大鎌から漏れ出ている禍々しく黒い妖気とは対比出来るほどの白さだった。
いる。確かにいる。かの九尾と同じような特徴のある戦士を、ラグナは良く知っている。
ー 我が名は -
(『ハクメン』…だと!!!?)
「六英雄ハクメン」。ラグナの世界でも指折りの強者であり、スサノオユニットそのものである。全盛期であれば全力を出せば地球がヤバいことになるなどの噂も飛んでいた、ラグナの腕である黒き獣を討伐した六英雄のリーダー。アレに真正面から挑めるのはそれこそ完成体のレオ・バーテックスか「狂犬アズラエル」くらいのものだろう。
戦った時は本来の二割の強さだったが、それでも殺されかけられた。相当な死線を潜る必要があると覚悟を決める前に千景はクスクス笑いながらこちらを見る。その紅い瞳には一切の光はない。
「何がおかしい!?」
「震えているようね…貴方にも…怖いものがあるなんて…少し意外だわ…」
「…ッ!」
「…それが、恐怖よ。私たちが戦いながら感じたもの…」
「…知ってらぁ…」
寧ろ戦うのが怖くなかった勇者なんて、ラグナの知る限りはいなかったくらいだ。
「けど…『お面野郎』のコスプレしたからって、俺に勝てるなんざ思うんじゃねえぞ!」
「…うふふふふふ」
不気味な笑いを見せると、千景は手を上空へと翳す。警戒を強めるラグナに千景は語り掛ける。
「ねえ…貴方は玉藻前が時の陰陽師に正体が暴かれ、討伐された後、どうなったのかを知っているかしら…?」
「…知らねえな」
「…可哀想な玉藻前は人間に討たれた後、那須で石へと変貌したの。その石は通りすがったお坊さんに鎮められるまで近づいてくる鳥や獣、果てには人間の命を吸い取って行ったわ。その名も、『
「…じゃあなんだ。テメェはその殺生石とやらを作り出して攻撃でもできんのかよ?」
「いいえ…そんな単純でつまらないモノではないわ…私が出来るのは、こういうことよ!!!」
「…!!! ラグナ!!! 今すぐ彼女を止めなさい!!」
「どういうことだよ、ウサギ!!?」
「何故態々彼女が貴方に話したと思っているの!!? 千景の精霊の能力は!!!」
レイチェルが言葉を言い切る前に千景の翳した右手へ黒い風が集まっていった。村中からそれは千景の方へと向かっていき、彼女の身体の中へと流れ込んでいくようだった。
「なんだこれは!? 毒ガスか!? …いや、まさか!!?」
ラグナは後ろの方へ目をやると、そこではもがき苦しむ村民の姿があった。どんどん生気を失っていくその姿を見て、ラグナは衝撃を覚える。
「チカゲ…テメェはスゲーやつだと思ってたけどよ…まさか『ソウルイーター』まで使ってくるとはな…」
精霊の力を引き出しやすくするには、その文献を読み、精霊のイメージを掴むことが重要だ。そしてことこの玉藻前とその伝承である殺生石は千景にとってとても身近に感じられるほどイメージがしやすかった。
玉藻前は恐ろしい力を持つ悪女の側面が目立つ反面、愛情を求め、運命に翻弄された悲劇の女性という面もある。それが千景にとって他人事には感じられなかった。
そして殺生石。こっちの方が寧ろ簡単だった。何故ならそれに近いものを常に右肩からぶら下げている奴が傍にいたからだ。憎しみの籠った声で千景は笑う。
「あはは…あはははははは!!!! この力なら…アイツらを殺せる…!!私を傷つけることでしか自分を保つことの出来なかった奴らを…!! 正義という名の暴虐と理不尽で…私たちを虐げてきた奴らを…!! 私の大切なものを傷つける奴らを…!!! 誰にも…邪魔はさせないわ…誰にもね!!!」
「やめて…ぐんちゃん…お願い…だから…」
この力の渦は少なからず友奈にも影響が出始めていた。元々病人だったのだ。ここにいてまだ意識が保っている方が奇跡なのだ。村民の何人かも気絶しているようで、ラグナはレイチェルに言葉を飛ばす。
「ウサギ!! 今はユーナと村の他の連中を連れてここから離れろ!!後のことは俺がどうにかする!!!」
「そうするしかないけれど…貴方まさか、戦うつもりなの!!?」
「…戦うんじゃねえよ。助けるんだ!! 前にも似たようなことがあったからな!! 今回もそいつでどうにかする!!」
ラグナは腕である魔道書を見る。以前の沙耶や結城友奈と同じ方法を使えば、千景を救えるかもしれない。だがそれにレイチェルは真剣な顔を返した。
「…貴方のソウルイーターは彼女の勇者の力を奪い取ることが出来るのよ。ただでさえ今それは不安定な状態なのに調整を間違えたりしたら…あの子を救うことが出来なくなる…それを頭から離さないで」
そう。どの時も仲間たちの助けがあったり、出来たとしても何らかの代償を払う必要があった。そのことはラグナも忘れていない。だが、千景の暴走を今止めることが出来るのはソウルイーターを持つおかげで彼女の力に抗える自分だけだ。彼女を救うなら、失敗は許されない。一発勝負だ。
「…分かってるって。なるべく諦めねえ方向でいくさ」
「…貴方のなるべくはもうそこから逸脱している気もするけどね」
「まあ、約束事みてえなモンだからよ。それに…約束なら、あいつともしている」
何も奪わず、奪わせもしない。アルカード城で結んだ何気ない約束。それを果たすためにも、ラグナは力を使うことを決意する。彼の方を見て、友奈は自身の願いを託す。
「ラグナ、お願い…ぐんちゃんを…助けてあげて!!」
「…任せろ!!」
力強くラグナが返事を返すと同時にレイチェルと村民と一緒に友奈は消失する。今ここにいるのは「黒」と「白」の二人の死神のみ。先に口を開けたのは千景だった。
「…高嶋さんを連れて行ったわね」
「ここにいたら身体に良くねえからな。ったく、全然加減が出来てねえじゃねえか。それじゃあ力に振り回されてるっていうんだぜ」
「…これが最後の警告よ…邪魔をしないで…でないと…本当に殺されるわよ…?」
「…悪ぃが、そいつは出来ねえよ。その願望は…叶えさせてやるわけには行かねえ!!!!」
ここで千景がその『願望』を成就すれば、本来の『願望』が叶わなくなってしまう。それは連鎖的に友奈や他の勇者たちにも悪影響を及ぼす。何より
「そんな風に殺すだのなんだの叫んでんのは…ユーナの言う通り、助けてくれって泣き叫んでるガキとそう変わんねえよ。そんな奴…ほっとけるわけねえだろ」
「そう……なら…覚悟なさい。ここからが…貴方の地獄の始まりよ…」
「地獄なんてねえよ。あるのは…無だけだ」
「………そう」
それを聞いて千景は仮面で顔を隠し、大鎌を構える。ラグナも大剣から大鎌に持ち変え、目の前の少女を見据える。その時に不意と思い出した。
(ユウナ…あの時…フウと俺の戦いに割って入った時、テメェもこんな気持ちだったのか…)
仲間が…友達が誰かを傷つけるなら、身体を張ってでも止めた少女。同じ名前を持った彼女もまた、そうしたかっただろう。でも今それをやるのは危険だ。だから今回は、自分がその役目を果たす番だ。
全てにおいて歪んだ世界で生きてきた彼岸花の少女。その彼女を終わることのない
(成せば大抵何とかなる…そうだろ、テメェら)
今は全力でやるしかない。彼女が救われる可能性を探すために。未来の仲間たちに想いを馳せていると、千景が処刑の文句を並べ始める。
「私は千景…郡千景…彼岸より貴方に終わりを告げ…その魂を…刈り取る者…行くわよ!!」
千景は挨拶とともに黒い突風を発生させる。それによってポニーテールは九つの房に別れ、彼岸花を象るように広がる。それを見てラグナも返す。
「俺は…死神、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ」
一度目を閉じた後に力強く開け、右腕から黒煙を噴出させる。
「テメェを助ける野郎の名前だ!!覚えとけ!!」
「…もう知っているわ…さあ…思う存分…殺し合いましょう!!!」
「やれるもんならやってみやがれ!!!!行くぞ、この『お面娘』が!!!」
二つの大鎌は再びぶつかり合う。黒い風と炎が周りの建物を床から根こそぎ引きはがし、草木も枯らしていく。常人に気付かれることなく、されど樹海でない場所で、死神同士の戦いの幕は切って落とされた
CFのオープニングをラストで意識したんですけど、どうですかね?個人的にこの主題歌か一番好きだったりします。2番目はまた後に出てきますよ。
千景の二つ目の精霊はのわゆのあとがきの方でも生き残っていたらというif設定で書かれていたように、玉藻前です。まあ実際、彼女自身の逸話自体がかなり千景の原作での展開に近いものだったからしょうがないね。
ただその内容がラグナ三兄弟のヤベー部分を全部ぶち込んだような形になってしまった…というのは最初の段階でハクメンっぽい感じにはしようとは考えていました(ハクメンも白面金毛九尾の狐がモデルと思われる。後筆者が重度のハクメン好きだから)。しかし、能力は全然ぐんちゃんっぽくなかった。
そんな時に殺生石の設定を見て、あれ?これソウルイーターっぽくね?…ピロリ―ン☆チカゲはソウルイーターをおぼえた!そんでたかしーに対しては若干ニュー、ラグナにはハクメンっぽい感じでやりました。多分服装とかは白基調の輝弥サヤで良いんじゃないかな? 因みにぐんちゃんはズェアしません。
さて次回ですが…次回はラグナ対千景orリクエスト花結回です。どっちも書けますが、どっちにするかはアンケートで聞きます。それでは…
The wheel of fate is turning…Rebel1…Action‼
どれがいい?
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本編の方だよ、兄さぁぁぁん!!
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ここは番外編という名の餌場だろう!!