蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

しずくちゃんにシズクちゃん、誕生日おめでとう!ちょっと遅いけど!流石に1万6千文字を連続では出来なかったよ…

さて本編はラグナ対千景!!少女を悪夢から醒ますことが出来るだろうか!因みにぐんちゃんはハクメンの攻撃を一ヶ所だけやっています。それではどうぞ。

The wheel of fate is turning…Rebel1…Action‼


Rebel88. 彼岸での決闘、黒と白

「レイチェル、戻って…!!?どうしたんだ、この人だかりは!?」

 

若葉たちがラグナたちの帰りを待っていると外の方から喧噪と共に薔薇の香りを感じた。レイチェルが転移して帰ってきた証だ。すぐに窓から顔を出して友人たちを見つけるが、そこでは自分たちの知る者以外でも多くの人々がいた。

 

動けるものはすぐに彼女のいる場所へ急ぎ、若葉もひなたに連れられて彼女たちの元へ向かう。

 

「友奈さん!!しっかりしてください!!」

「アハハ…大丈夫だよ、アンちゃん…これくらい、なんともないから…」

「何言ってるの!?顔色がさっきより悪くなってるじゃない!早く休まないと!」

「…ごめんなさい皆。友奈だけでなく、彼らを病院へ運ぶのも手伝って頂戴。気絶しているだけだけれど、念のためにね」

「…分かった。杏は友奈を運んでくれ。私は他の人たちを」

「分かりました…」

 

勇者たちが速やかに村人を運んでいく。作業を進める中、周囲を見渡してみると千景とラグナの姿が見当たらないことに球子が気づいた。

 

「なあ、レイチェル…どうして千景とラグナがいないんだ?その様子だと大社の神官と帰ったようには見えないけどさ…」

「…あの二人は…ここにはいないわ。当然大社と同行はしていない」

「…もしかしてですけど…あの人たちと何か関係があるんですか?何だか…すごく弱っているように感じたんですけど…まるで…身体の力が一気に無くなったような…活力を感じられなくて…」

 

レイチェルによって転移させられた村人たちは皆意識を失っていた。老若男女区別なく生気の無くなったような顔をしており、顔色も少し青くなっている。

 

「…ええ。貴女の言う通りよ、水都。その者たちは生命力を奪われたわ。すぐに避難したからそれほど問題はなさそうだけれど…」

「まさか…またラグナが暴走を…?」

 

雪花の推測にレイチェルは首を横に振る。それを見て、ひなたが何かに気付いたようだった。

 

「…千景さんですね」

「…あの娘のもう一体の精霊の力よ。本質そのものはラグナのソウルイーターに酷似しているみたいで…今彼はあの娘を助けるために戦っているわ」

「そこまで…なのか?」

「…無差別に作用してしまう以上、危険であることは確かよ」

 

ラグナの力と同じということはつまり、黒き獣とよく似ているとも取れる。それが敵味方関係なく使われるのだから、如何に今の千景の力が危険なのかを想像するのは容易だった。

 

「…私はそろそろ戻るわ。まだ人のいる可能性があるし、必要なら二人を迎えに行かなければ」

「じゃあ私たちも行くわ。そういう話であれば、じっとはしていられないもの!」

「タマも行くぞ!!」

「私も行こう。少しでも人手は多い方が良い」

 

歌野の言葉に球子と棗も続く。レイチェルは少し考え込んだが、覚悟を決めて三人に向き直った。

 

「…本当ならここで待っていて欲しいけれど、緊急だものね。でも、二人のいる場所には絶対に近づかないで。体力のある貴女たちでも何が起こるかは分からないわ」

「それだったら私と杏はここで待機しているよ。多分何往復かはするんでしょ?」

「そうね…杏は体調のこともあるし、それにここから連絡が出来る娘がいてくれると助かるわ」

「それでは私たちは他の病院でも皆さんを迎えられますよう、大社に連絡しましょう。一つの村分の人間では、ここだけでは難しいと思いますから」

「…そうね。それとひなた。もし大社に連絡するなら、ヴァルケンハインに言伝を頼みたいのだけれど」

「あら…それはどのような?」

「少しこっちに来て…」

 

レイチェルがひなたと少しヒソヒソ話をすると、ひなたが何を理解したようで頼もしい笑顔を見せた。

 

「分かりました。そういうことでしたら、ぜひお手伝いをさせていただきます」

「ありがたいわ。後は若葉。これは友奈もそうだけれど、今回は傷を癒すことに専念して」

「…承知した。千景の様子も心配だが、皆に任せよう」

「助かるわ…では歌野、球子、棗。向かいましょう」

『おお!!』

 

四人はすぐに高知へと飛び、村に到着する。その光景に少女たちは驚く。本来ここは静かな田舎だが、今では見る影もない。家屋は破壊され、稲は茶色になり、鳥や獣が地面に転がっている。歌野が土を手で少し掬い取ってその質を見る。

 

「…これは酷いわね。栄養が全然ないみたい。土地もかなりやせ細ってるかも…」

「これもその精霊の力だっていうのかよ…」

「…少し空気も息苦しく感じるな。これも生命力を吸い取られた弊害か?」

「かもしれないわね」

 

これがもし人が集まる都市で使われているところなんて考えたくもない。きっと大惨事は免れないだろう。そう考えていると自分たちから遠い場所で爆音が聞こえてくる。その方向では黒い風が集まっていき、紅い閃光も見えた。

 

「おい!!もしかしてあそこに千景たちがいるのか!?」

「そうみたいだな…」

「…今は彼に任せましょう。私たちは私たちのやれることをやるわよ」

「ええ。それにこの様子では、時間もなさそうだものね」

 

歌野の言葉に他の二人も納得し、四人は一度別れて村を駆け回る。友二人の無事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおぉぉぉぉ!!!!」

「セイッ!!!」

 

ラグナはというと千景と大鎌を何度も激しくぶつけ合っていた。先ほどから移動しながらも二人は死闘を繰り広げていた。

 

千景とは何度も一緒に訓練した仲だが、一対一でここまで苦戦したのは初めてである。全く攻撃が通らず、相手の方も仮面で表情を隠しているせいでどんな動きをしようとしているのかが分からない。そのせいで彼女に近づいて魔道書を使うことが出来ないでいた。

 

(にしても…クソ!お面野郎と同じツラの癖に、戦い方が全然違えせいで読みにくいったらねえ!!)

 

かつてのハクメンは大太刀で戦っていて、しかもこちらの攻撃を受け止めて反撃するドライブ、『斬神』を持っていたため、積極的に攻勢に出ることはそれほどはなかった。

 

しかし千景の場合、元のスピードが速いために怒涛の攻めに転じることが出来る。しかもあっちもラグナの動きをある程度把握しているため、攻撃を弾かれてしまう。

 

「うふふふ…どうしたの?本気の貴方なら…もっと強いでしょ…?」

「クッソがぁ…」

 

猫を撫でるように言う千景の言葉を聞いてラグナも悪態を吐かざるを得ない。流石あのお面を被っているだけはあるということだろうか。

 

「野郎、強ぇなんてモンじゃねぇ…ユーナやワカバもそうだったが…精霊が違うってだけでここまで変わるもんなのかよ…!」

「あら…貴方がそこまで弱音を吐くなんて…珍しいじゃない…」

「…ちょっと有利になってるからって余裕ぶっこくのは早えぞ!!」

「それはさっきまでの貴方でしょ…?今この状況…どう見たって貴方の方が不利よ…でも、これで解ったでしょう?」

「あぁ?何をだ?」

「今の私は…貴方よりも強い…貴方では止められない…これ以上やったところで…結末は何も変わらない。アイツらを…高嶋さんを傷つけようとしたアイツらを…境界の深淵にいようと見つけ出して…この手で殺すまで…私は止まらない…!!!」

 

その言葉を聞いて、ラグナは物悲しく思う。彼女の憎悪が歯止めの利かないところまで来たのは紛れもなく友奈が攻撃されたことが原因だ。誰かを大事に思い、絆が強いが故に怒りと憎しみが強くなった。そのため、彼女の言うことは痛いほど理解できる。

 

「…だろうな。けどそう言われて、はい、そうですかって言うわけにはいかねぇんだよ、俺は」

 

それでも、だからこそ止めねばならない。そんなことをしても仲間たちも千景本人も笑わないことを知っているから。

 

「…愚かにもまだ挑むの…?諦めの悪さは知っていたつもりだけど…ここまで来ると最早救いようのない馬鹿ね…」

「へいへい。で、陶酔しきった前口上は終わったか?終わったなら…続きを始めるためにも…さっさと来いよ!!」

「そうね…もう面倒だから…眠ってもらうわ…永遠にね…!!」

 

それを皮切りに二人は激突を再開する。ラグナの大鎌は千景の胴へと向かうが、それを千景も打ち払う。しかしそれによって腕が持ち上がった。すかさずラグナは懐に飛び込んでパンチを繰り出す。

 

「ヘルズファング!!!」

「ッう!!」

 

ラグナの右ストレートは千景の腹部を捉え、そのまま左のパンチで殴り飛ばした。その時に奇妙な感覚に襲われたが、民家に突っ込んで破壊してしまった千景に追撃しようと構わず突撃する。それを見た千景も斬撃を繰り出してきたが、それを大剣で払いのける。

 

再び殴り掛かったが、千景とて大人しくやられはしなかった。ラグナの拳が届く前に素早くローキックを入れ、そこから更にハイキックで彼の鳩尾を蹴りつける。

 

「ぐぇはッ!?」

「うかつに私に近づかない方が得策よ…今の私なら…触れるだけでも危険だから…」

 

千景はすぐさまラグナの首根っこをつかみ取る。15歳の少女では考えられないほどの力で締め付けられ、同時に身体の力が急激に失われていくことに彼は苦しむ。

 

精霊玉藻前を憑依した今の千景は周囲の生命力を際限なく吸収し続けている。だがその中でも彼女自身に触れることは特段に危険だ。そうなった場合、離れているときよりも格段に精霊の力の影響は強くなる。事実彼女が足で踏んだ場所は衰弱したようになっていた。

 

「ぐッ…あぁ…!!」

「あはははは…さっきの威勢はどこへ行ったのかしら…!!」

 

あれだけ恐れていた黒き獣を、仲間の中で最も強いと思っていたラグナを今、自分が完膚なきまでに叩きのめしている。恐怖の対象を一方的に痛めつけることが出来て心に悦びが増していくと同時に、魂が自分のものでなくなるように感じていく。

 

ラグナを頭上に向かって投げると無防備になった彼に千景は猛烈な斬撃の嵐を繰り出す。玉藻前の能力によって吸収された生命力によって彼女の身体能力や大鎌に籠った霊力は強化され、禍々しく巨大な黒い刃が彼を襲った。

 

「私の武器に宿る霊力は…『大葉刈(おおはがり)』…」

 

それは農耕を司る地の神が死んだ友人の喪屋を怒りのままに切り壊した際に使われた剣。死者をも冒涜する呪われし刃。心を通わせた仲間を傷つける忌まわしき刃。だからこそ

 

「死神である貴方が死ぬのには…相応しい武器でしょう…」

 

鎌の刃で千景の方へと引き寄せられたラグナは逃げられない。高速で切り刻まれて彼の身体から血が噴き出る。ボロボロになった彼に千景は止めに上段から大鎌を振り下ろした。

 

「『幽世煉獄大鎌』!!!!」

「ぐぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

吹き飛ばされたラグナは田んぼの中へと叩きこまれる。身体中から血が出て、泥水も真っ赤に染まっていく。千景に付けられた傷も全く治る気配を見せない。

 

しかしうつ伏せになったラグナは立ち上がろうとする。それを見た千景の心に再び自分とそっくりなあの少女の声が満たされていく。

 

『黒き者は敵。貴女を傷つける敵。アイツらと同じ敵。だから殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』

 

この時。いや、父と再会したときから千景は自覚した。夢で見た自分そっくりの少女は他の誰でもない、千景自身だった。そしてこれもまた、彼女自身の心の声だと。

 

立つのもやっとのラグナに千景は大鎌を振りかぶりながらゆっくりと近づく。大剣を地面に突き立ててひざを折る彼の前まで来ると小さく告げた。

 

「取った…わ…!!」

 

大鎌を握る力を強め、足を踏み込み、千景は全力でそれを振り下ろす。

 

「………な!!?」

 

しかし、それはラグナに届くことはなかった。何故かは分からないが、身体が全く動けない状態にあった。身体の内側から何かを引っ張り出されようとしている感覚があった。

 

(何が…起こっているの!!?)

 

千景の異常にラグナも気づく。武器を翳したまま棒立ちしている千景に彼もまた驚いていた。

 

「まさか……神樹から…の…事象…干渉か…!!?」

 

その言葉が千景を焦らせる。意味が良く分からないが、彼の言うことを言葉通りに読み取るならば、それは神樹が自分から勇者の力を奪おうとしているということだ。

 

(神さえも…私を否定するというの!!?)

 

ふざけるな

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「のわッ!!」

 

仮面の下で千景は絶叫する。今まで自分が仲間たち、特に高嶋と共にいられた大きな要因は勇者であったことにある。それを失うということはもう彼女の傍にはいられないということだ。そしてその彼女を傷つけようとした者たちを殺すという目的も果たせなくなる。

 

「邪魔を…するなぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

憤怒の声を上げる千景は全身から黒い波動を放ちながら大鎌を振り下ろす。直前にラグナも辛うじて横へ飛んで回避し、千景の様子を見る。疲労が溜まっているようだが、それでも精霊の状態を保てているようだ。

 

「……干渉を…ディスペル…しやがるとはな…」

「…私は…こんなところでは…終われない…次の一撃で…クッ…!!」

 

止めを刺そうとしても千景は再び神樹から干渉を受けてしまう。大量に吸い取った力で強化された自身と玉藻前との相性の良さに救われたのだろう。しかしそう何度も同じことは出来ない。それをラグナも悟る。

 

「…クソッ…出来れば…ここで使いたくは…なかったが…神樹が干渉してんなら…そうも…言ってられねえな…!!!」

 

ラグナは右腕を翳し、コードを詠みあげ始める。千景の時と勝るにも劣らぬ夥しい量の瘴気が彼の右腕へと集中する。

 

確かに神樹のやろうとしていることは正しいかもしれない。ここで千景から勇者の力を奪えば、ラグナも死なずに済む可能性が高い。それ自体はラグナも理解している。しかし、それではダメだ。それでは彼女の心は救えない。

 

「第666拘束機関…開放!次元干渉虚数方陣…展開!!イデア機関…接続!!」

 

ソウルイーターの力が活発になったことで、ラグナ自身の傷も少しずつ癒えていく。千景によって集められた生命力が彼の方にも集まっていったのだ。

 

蒼の魔道書(ブレイブルー)起動!!!」

 

本来ならこの傷では今の蒼の魔道書を使うのは危険だ。何せ万全の状態でも使えば疲弊してしまうから。しかし、こういうときこそ根性の出しどころ。何とか意識を保つことが出来た。

 

「オラ見ろ神樹!!『(バーテックス)』ならここにいるぜ!!!」

 

千景が干渉を受けている理由は恐らく、『ラグナ(人間)』を攻撃していたからだ。『勇者』が『人間(守るべき存在)』を攻撃することなんて、あってはならない。

 

だがそれが『黒き獣(バーテックス)』であれば話が変わる。彼のものたちは敵だ。勇者が倒さねばならない敵。敵が出現したなら神樹も今の千景に頼る他ない。

 

ほどなくして千景の身体が動く。どうやら神樹の方も干渉をやめたようだ。

 

「何の…つもり…?」

「…水を差されんのが気に喰わなかっただけだ。オラ掛かって来いよ…待ちわびてた本気ってやつだ」

「…礼なんて言わないわよ…冥府の王の元へ…逝かせてあげるわ…」

 

そこからは鎌だけではない。千景は精霊で、ラグナはドライブで集めた生命力を使った攻撃まで交えて戦うようになった。

 

千景が斬撃でエネルギー弾を飛ばし、ラグナはそれを叩き割る。その後に彼が瘴気で引っ掻くとそれを今度は千景が大鎌を横一閃に薙ぎ払って弾く。お互いにとって本気の戦いとなった。

 

「デッドスパイク!!!」

「『悲鳴ノ奈落』!!!」

 

ラグナは千景に向かって瘴気を飛ばすが、彼女が大鎌を地面から掬い取るように切り上げてそれをかき消す。彼女も大鎌を高速で回転させ、ラグナの方へ突進する。

 

「天界ノ毒炉鎌!!!」

 

そんな彼女にラグナもまた迎え撃つ。逆手に取った大剣で一気に間合いを詰めて千景の攻撃を叩き伏せる。

 

「カーネージシザー!!!」

「紅凶冥府!!!」

 

振り抜いた時に生じた瘴気は千景が切り裂いていった。その時に千景の頭の中で声と景色が入ってきた。

 

『俺はテルミ。ユウキ=テルミ。生きてたら覚えといてね~、ラグナちゃ~ん!!!ヒャッハハハー!!!』

「なっ!!!?」

 

燃え盛る教会らしき場所。血を流しながら瓦礫からぶら下がったシスター。若葉のものに匹敵する長さの太刀を持った少年。気絶した少女。それを抱えて汚らしい声で高笑いする緑髪の男。そして自分の足元らしき場所では

 

『待……て…!!!!』

 

右腕が切断された死に体の少年がいた。自分が良く知る男と似た金髪の少年。その眼に映っていたのは今の自分と同じ、激しい怒りと憎悪だった。緑髪に名前で呼ばれたところから想像する限り、この少年こそが

 

(あの人ってこと…?)

 

過去の話自体は聞いたことがある。しかし、それは想像の斜め上の出来事だった。たった一瞬で彼は全てを奪われていた。

 

何でそんなものが見えたのかが分からないが、今そんなことを気にしている場合ではない。すぐにあっちも反撃に出るだろう。

 

「『月下冥陽』!!!」

「インフェルノディバイダー!!!」

 

大車輪の如く切り掛かる千景にラグナも応戦する。大鎌の刃を弾き、ガントレットハーデスを決めて千景を地面へ叩き伏せる。彼にもまた、千景と同じような現象が起こった。

 

『貴方が千景を引き取ってよ!!これじゃ離婚も出来ないじゃない!!』

『何を言っているんだ!!子どもを育てるのは母親の役目だろ!!お前が引き取れ!!俺は忙しいんだ!!』

「なんだよ…これ…!!?」

 

そこでは二人の男女が怒鳴り合う光景が見えた。男の方は眼鏡をかけた痩せ気味の男で、女性の方は千景に似た長い黒髪だった。千景の名前が出てくるところからラグナはすぐに二人が誰なのかを推測した。

 

(こいつらが…チカゲの両親…)

『そんなこと言って!!会社の同僚と飲みに行っているだけでしょ!!家のことなんて全然やらないんだから!!』

『うるさい!!生活のための金を稼いでるのは誰だと思ってるんだ!!』

 

とても聞くに堪えない二人の争いにラグナも虫を噛んだように顔を顰める。家族で仲が悪いことは自分の周りでもよくあったことだが、千景を押し付け合うように話す二人を見ているのは気分が悪かった。

 

そんな中、部屋の奥で一人、見慣れたゲーム機を見つめている少女がいた。自分の知る者よりかは幼く、服は少し傷ついていたが、間違いない。郡千景だ。

 

(話は聞いていたが…ここまで酷ぇのかよ…)

 

その様子を見て、ラグナの中で沸々と怒りが湧いてきた。これを見て二人が千景を守る気がないんだと理解したのだ。

 

「よそ見していられるなんて…随分と余裕ね…」

 

千景の一言で我に返ったラグナはすぐに千景の蹴りを躱して後退する。そんな千景の方も肩が上下に動いていた。

 

「…そっちこそ、さっきより動きが鈍くなってるみてぇじゃねぇか」

「そんなこと…ない…」

 

強がりを見せるが、長時間の精霊の使用によって千景は自分の身体が重くなっているように感じてきた。無尽蔵に吸収され続けられた力は彼女の華奢な身体に圧し掛かる。まるで石になったように身体の動きもぎこちなくなっていく。

 

しかし、同じようにラグナも時間はあまり残されていない。魔道書がそろそろ暴れ出しそうになっていた。早く決着を付けないと千景を助けることが一気に困難になってしまう。

 

千景は大鎌の霊力を極限までに高める。妖狐の爪は血に染まったような紅のオーラを発し、ラグナの首を狩りたくて仕方がないようだ。

 

ラグナもまた蒼の魔道書の力を大鎌の刃へと集中させる。顕現した獣の牙は禍々しい黒と紅の瘴気を纏い、千景の生き血に飢えているようだった。

 

二人の周囲から瘴気の炎と黒い疾風が吹き荒れる。響き渡る轟音は狐の遠吠えと獣の雄叫び。争っていた水田の水も干からびてしまった。最早誰も今の二人の戦いに干渉することは出来ない。

 

しばしの沈黙が過ぎた後、二人はその牙と爪で斬り合い始める。その光景は正に二体の怪物による魂の喰い合いだった。

 

「ブラックオンスロート!!!!」

「落命死葬!!!!」

 

二つの刃はぶつかり合う。攻撃の度に瘴気と霊力が弾け飛ぶ。それを二人の力で取り込まれ、二人の力も増していく。その度に妙なイメージが流れ込んでくる。

 

ラグナが見た時には千景の母親が家から出て行くところだった。家族として完全に破綻した状況になっても二人は離婚している様子はない。その理由は自分たちの娘であり、今のラグナの視点の横にいる少女だった。

 

どちらが少女を引き取るかと話し合うことになった時に二人は彼女を押し付け合った。両親にとって『娘』は自分たちを過去に縛り付ける『楔』だった。

 

そんな彼女の境遇は決して良くなることはなかった。両親の醜聞が村に広がり始まると周りは少女を冷遇し出す。両親も恨めしそうに少女を見る。そしてそのときにラグナは彼女の心の声が聞こえた。

 

ー 私は、無価値で疎ましいだけの子なんだ -

 

少女の存在は決して認められない。彼女はそれを理解すると心をどんどん閉ざしていた。だからゲームに没入していった。

 

画面に集中していれば他の子どもが自分を嘲笑う様子を見ることがない。イヤホンを付けていれば、その声も聞こえてこない。完全な形で世界から自分を切り離すことが出来る。

 

『あそこの娘らしいわよ』

『不気味よね』

『ロクな大人にならないわよ、きっと』

 

例え先生たちが自分の様子を見てもなお、あの親の子じゃロクな大人にならないと言われても

 

ー 何も聞こえない -

『筆箱?知らないよ~?』

『服燃やしちゃえ』

『や~い、いんら~ん』

 

例え自分の持ち物が毎日のように奪われたり、無理やり服を脱がされてそれが焼却炉に投げ込まれても

 

ー 何も感じない -

『落ちちゃった』

『逃~げ~ろ~』

『あまり問題起こさないで』

 

例え遊びと称して階段から突き落とされても

 

ー 何も痛くない -

『長ったらしい髪』

『切っちゃえ切っちゃえ』

『あ、血』

 

例え髪を鋏で切られて、一緒に耳まで傷つけられても

 

ー 何も………ンなわけ…ねぇだろうが!!!)

 

その声に納得できないラグナは怒鳴る。

 

(何が『聞こえねえ』だ!!何が『感じねえ』だ!!何が『痛くねえ』だ!!この馬鹿が!!!ずっと独りで…泣いてんじゃねえか!!!)

 

少女を笑う声は聞こえてくる度に少女は泣いていた。無価値な存在だからと平然と傷つけられた時は苦しくて仕方がなかった。傷つけられた時に心や身体は痛くてたまらなかった。

 

故に少女は心を閉ざした。これ以上傷つけられないように。氷のように固くし、他者と接触しないようにしてきた。丸亀城に来たばかりの頃は殆ど誰とも接しなかったし、今では一番仲のいい友奈とも、彼女たちが中学に入ってから初めてのクリスマスになってからようやく仲が良くなったくらいだ。

 

初めは勇者たちとも心は開いていなかった。だがそんな彼女に友奈はずっとそばにいて、話しかけた。それまでの人間のように自分がゲームしているのを馬鹿にしたりはしなかった。優しく、心の温かい友奈と触れ合う内に千景の心は解されていった。

 

『ねえ、ぐんちゃん。私もゲーム買うから、今度は一緒に遊んでくれる?』

『…協力プレーが出来るのがあるから、それをあげるわ。それで一緒に遊べるから…』

『ありがとう!私も何かプレゼントを贈るね!』

『ありがとう…それと高嶋さん…』

『なになに~?』

『私の名前…『ぐん』じゃなくて…『こおり』…』

『あれ、そうだったの!?ごめんね、間違えちゃって!』

『ううん…いいの。高嶋さんだけは…そう呼んで良いよ』

 

そこでようやく、少女は笑顔を見せた。子どもの時の彼女では決して見られなかった表情だった。そして遂にラグナの耳にその『願望(ゆめ)』が届く。

 

『私は強くなる…乃木さんよりも…あの人よりも…そうすれば…もっと頑張れば、もっと皆が私を愛してくれる…』

 

そこでラグナは理解する。最初に打ち合っていた時の千景の言葉は精霊による汚染は多少あれども偽りのない本心だった。そして千景にとってどれだけ友奈の存在が大きかったのか、そしてこの村の存在がどれだけの影響を彼女に与えたのかも理解した。

 

(…たくさん傷ついて…奪われたテメェの望んだ(みた)願望(ゆめ)』は…これだったんだな…)

 

誰かの愛が欲しかった。誰かに自分の存在に触れて欲しかった。誰かに自分の存在を認めて欲しかった。欲しくて欲しくて欲しくてたまらなかった。

 

そんな想いが形となったのが、このソウルイーターに酷似した力。他者の愛を求め、他者の想いを求め、その結果他者の想いの根本たる魂を喰らう怪物となり果てる悲しい力。

 

負けられない。これを観測()たからには、絶対に負けるわけにはいかない。少女を救うために。大鎌を振るうラグナの力は一層強くなった。

 

対する千景は別の光景を見ていた。そこは見覚えのない病室。そこでは一人の少年、見覚えのある少女、そして服を着た猫がいた。

 

少年は見慣れた白髪で紅と碧のオッドアイ。悲痛な声で母親らしき人物に話しかけていた。しかし女性は言葉を返さない。

 

『…なあ、頼むよ。なんとか言ってくれよ…巫女…いや、母さんッ…!!』

 

慟哭を上げる彼の眼からこの世界では一度も見たことのなかった涙が流れた。それを見て千景の胸は苦しくなった。話で聞くよりもその『痛み』は『伝わって』くる。

 

(あの人でも…こんなにたくさん…傷ついてきたんだ…)

 

その後、少年は大切なものを何度も失い、その度に守ろうと必死になって抗った。幾度と無く強敵と理不尽と戦い、自身の犯した罪で心が折れそうになった。

 

『あの時に死んだのはね!!!アタシと樹の両親なのよ!!!!アンタのせいで!!!!アタシたちの家族は滅茶苦茶になったのよ!!!!』

『ヒャッハー!!!そのナリで何が出来んだよ!!?テメェも分かってんだろ!?どう転んだってこの俺様に勝てやしねーってことをなァ!!!』

『沙耶は世界なんてどうなったって構わない!!沙耶はただ…兄さまの傍にいられれば…それだけで…良かったの…』

『忘れたくない…もう、大切な人たちのことを…忘れたくないよぉ…!!!!』

 

罵られようと、嫌われていようと。それでも彼は決して歩みを止めず、立ち上がり続けた。そしてそんな彼の下に人が集まった。その姿を千景は羨ましく思い、また眩しく感じた。あんなふうであったらどれだけ良かったことだろう。真っすぐ突き進む彼の背中を見て不覚にもそう感じた。

 

大鎌の激突は次第にクライマックスへと至る。唸りを上げながらアラマサの顎と大葉刈の鉤爪は顕現し、止めの一撃が放たれた。

 

「ナイトメアレイジ…ディストラクション!!!!」

「『冥府ノ…火怨鎌』!!!!」

 

凄まじい激突が村中を震わせる。黒炎は辺りを焼き尽くし、爆風は全てを吹き飛ばす。一つだけ、ピシリと音が立つと

 

「なッ…!?」

 

千景の大鎌の刃は折れ、クルクル回転しながら宙を舞っていた。自分の刃が地面に突き刺さったのを見て、千景はラグナの方を見る。彼の得物は健在だった。それが意味するのは

 

(私の…負け…)

 

そう悟った千景の心は不安定になる。精霊の力もそれに合わせて増強される。さきほどよりも膨大な量の生命力が身体に入って来る。

 

「くぅ……あぁぁぁぁッ!!!」

「チカゲ!!!どうした!!?」

 

刃を失くした大鎌を取り落とすと、千景はその場で蹲って苦しみだす。それを見てラグナも駆けつけた。しかし玉藻前の力が解除される気配を見せない。

 

この力は命を吸い取る力。人の想いに触れたくて得た力。故にその代償もまた『重い』。身体が集めた力の量に耐えられなければ、そのまま力に押し潰されてしまう。そしてやがて、『石』のように動けなくなってしまう。

 

「…これもまた…人を傷つけた…報い…なのかしらね…」

 

でも、これで止まることが出来る。人を傷つける必要もない。だが、もう愛されることはないだろう。千景は静かに目を瞑った。

 

「…まだ終わりじゃねーぞ、チカゲ!!!」

「……ぇ?」

 

その状況に置かれてもラグナは動いた。すぐに千景を起こして、自分の方へと抱き寄せた。当然玉藻前の力がラグナの身体を襲う。苦しそうにしている彼の声を聞いて、千景は呼びかける。

 

「やめなさい…それ以上私に触れていたら…貴方も…!!」

「心配…すんな…!!これくらい…大したこと…ねえよ!!行くぜ!!!イデア機関、接続反転!!!」

 

叫ぶと同時にラグナの魔道書が蒼く光る。千景も身体の方から何かが自分から吸い出されるような感覚に襲われた。これまで吸収してきた生命力がラグナの方へ向かい始めていたのだ。

 

しかし精霊の力も留まる様子を知らず、ラグナがどれだけ生命力を吸収しても補おうとしている。下手にやりすぎて千景の勇者としての力まで奪わないよう、彼も慎重になっているが、それでは精霊に勝つのは難しい。

 

それでもラグナは諦めない。必死に精霊と魂の奪い合いをしている中、千景は彼に問いかける。

 

「…どうして…私を…助けようとするの…?私は…貴方を…殺そうとしたのに…」

「…そんなモン…最初から言ってるはずだ!!」

 

不安そうにしている千景にラグナは力強く言った。

 

「俺は…『テメェ』を『助けるため』に…ここにいるんだよ!!!もう大切なモンを『失わないため』に、『守るため』に!!!ここへ来たんだよ!!!それと!!そんなモン気にしているんだったらな!!俺は今ここにいねえよ!!」

「貴方…」

「…それと、病院にいた時はすまなかったな…独りで苦しんでたのに…俺は…あの時のテメェの気持ち…解ってやれなかった…」

 

千景はそれを聞いて目に涙が溢れ始めた。それは寧ろ彼に心無い言葉をぶつけた自分が謝るべきだと感じていた。

 

「…ううん…私こそ…本当に…ごめんなさい…!!」

「ったく…テメェの謝ることじゃねぇよ…後は俺に任せろ。テメェの『悪夢』は…俺が、終わらせてやる!!」

 

ラグナはソウルイーターで玉藻前と格闘し続ける。その瞳に宿る炎は言えることがない。

 

(そう…そういうことだったのね…)

 

失わないために。そして守るために。そのために彼は手にした蒼の力を使ってきたのだ。奪われる恐怖を知っているから、彼は強くなろうとした。守ると決めたものを守り通すために抗い続けた。

 

(『蒼の力が強かった』から戦えたんじゃない…『あの人自身の心が諦めなかった』から戦えたんだわ…)

 

彼の強さは心の強さだ。それを今、千景は理解した。すぐ横で自分を助けようとしているラグナを見る。ここで戦ってからかなり長いが、何度殺されかけられようと彼は自分の方へと向かってきてくれた。それは自分を助けるためだ。

 

(彼にも出来たなら…私も…!!)

 

千景は思考する。例え元が精霊の力でも自分が発動させているなら、自分の方から止められるかもしれない。意識を集中させて精霊が納まるよう、働きかける。

 

精霊の方はまだ止まる様子を見せない。しかし、千景もラグナも粘り強く戦う。やがて、身体に流れ込む力は徐々に減っていく。それを感じ取った千景はラグナに叫ぶ。

 

「精霊の力が弱まってきているわ…!!今なら…!!」

「…ったく!無茶しやがって…けどありがとよ!!」

 

千景の尽力にラグナが最後の仕上げに入る。二人の周囲から蒼い光を発され、黒い瘴気はラグナの腕へと取り込まれる。

 

(今度こそ…今度こそ助けるんだ…!!)

 

もう我武者羅でそこから先はよく覚えていない。しかし傍では自分に呼びかける声があったおかげで意識を途切れることはなかった。その声に懐かしさすら覚えた。

 

「これで…終ぇだッ!!!」

 

その掛け声と共に右手を千景から離し、蒼の魔道書の力を治める。精霊は解除され、千景の顔を覆い隠すお面も消失した。しかし、千景は勇者服を着たままだった。

 

(勇者服がまだある…てことは…!!)

「う……うぅ…ん…」

「おい、チカゲ!!無事か!?身体のどこか悪くねえか!?」

「…今のところは…何とも…」

「そうか…」

 

それを聞いてラグナは安堵する。千景の勇者の力を奪わずに彼女を助けることを成し遂げたのだ。ついにラグナはその手で助けることに成功したのだ。

 

「成せば大抵何とかなる、だな…でも本当に良かった…」

「そういう貴方は…大丈夫なの…?」

「何とかな…つーか、そのお面の下。やっぱ泣いてたんじゃねえか。目が腫れてんぞ」

「……言わないでよ…」

 

二人がそんなやり取りをしていると、レイチェルたちが現れた。ボロボロの二人を見て駆けてくる。

 

「お~い、ラグナ~!!千景~!!」

「二人とも、無事だったの!?」

「ああ…一応な」

「いや。お前、身体を見てみろ。ボロボロじゃないか」

 

先ほどに比べれば大分マシにはなったが、それでも所々出血が見られた。服装も切り傷だらけで戦いの激しさを物語っていた。それでもラグナは平気そうに言う。

 

「大したことねえよ。それより、早くここから出ようぜ。こんな景色でなくてもここには長居したくねえ」

 

村を見渡すと悲惨な光景が映っていた。畑は荒れ、建物は破壊され、空気は淀んでいた。もうこの土地に人は住めないだろう。

 

「これ…神樹はどうにか出来ると思うか、ウサギ」

「…ここ一帯の命は根こそぎ吸い取られているけれど、それだけよ。以前の黒き獣とは違って土地そのものが犯されていないから、ここの土地を再生させるにしても後回しになるでしょう」

「じゃあ、ここで住んでいた皆はどうなるんだ?」

「他の場所で生きることになるんでしょうね」

 

果たしてその者たちがこれからどこで生きていくのか。それはラグナたちに知る術はない。ラグナとしては二度と千景に関わって欲しくはないが。

 

「こうなってしまった以上…私が責任を取る必要があるわね…」

「な、何言ってんだよ千景!タマたちと離れ離れになるなんて嫌だぞ!?」

「…確かに、この惨状ではお咎めなしというわけにはいかないでしょうね…」

「おいレイチェル!!そんな言い方しなくてもいいだろ!!」

「良いのよ、土居さん…アルカードさんの言う通りだから…」

 

千景もそれは自覚していた。怒りに任せた行動で故郷を潰してしまった。何らかの刑罰を受けるのは確定だろう。

 

「…ウサギ。大社の連中はチカゲにどうするつもりだ?」

「それは、そこの彼が答えてくれるのではないかしら?」

 

レイチェルの指す方向には大社の職員たちがいた。それにラグナは不機嫌になる。それはとても見覚えのある光景だった。

 

「…何の用だ」

「郡様をお迎えに上がりました。至急大社へ戻っていただくために」

「まさか、千景を罰するためにか!?」

「…今回の件で郡様は一般市民に攻撃したことが知れ渡りました。したがって彼女には我々で処罰せねばなりません」

「具体的に何をするのか、説明していただけないかしら?」

「…貴方たちには関係ありません」

「もしあの家族のいる家での謹慎処分だったら、彼女は引き渡せないわよ」

 

それを聞いて神官は驚く。どうやらレイチェルの予想は当たっていたようだ。千景は身震いする。母は天恐で情緒不安定、父親は家事なんてするはずがない。そんな両親が四六時間中いる家で過ごすなんて悪夢でしかない。

 

「俺もウサギと同じだ。あんな『クソガキ』にチカゲを任せられねえ」

 

左腕の中で震える千景を見ると、ラグナは神官と向き合う。彼は千景の両親の中でも特に父親の方が気に喰わなかった。守るものを放り出して好き勝手にしている様は本当に印象が悪かった。

 

「ではどうするのですか?彼女の力は間違いなく他の勇者様方に危害を与えてします。よもや精神が不安定な状態の彼女を放置するのですか?」

 

それを聞いてラグナは幼き日を思い出す。あの時と同じだ。沙耶と刃と離れ離れになった時と同じようなやり取りだ。確かにそのおかげで他の友人には逢えたが、沙耶を脅したような手口は思い出すだけでも腹立たしかった。

 

「あら?それだったら簡単よ。制御できるようにすれば良いじゃない」

「…簡単に言ってくれますね。精霊は我々にとっても未知の存在です。人ならざる存在の制御などどうやって…」

「そうね…でも少なくとも彼女に力の使い方を教えられる人間がいるのよ」

「と、言いますと?」

「貴方なら彼女を導けるのではなくて…ラグナ」

 

レイチェルはそう言ってラグナの方を見る。その眼には確かな信頼が宿っていた。

 

「…ああ。やってみせるさ」

「彼に精霊の力を教えられるとは思えませんが…」

「彼の使う力は千景の精霊と酷似しているの。彼が千景を止める…いいえ、助けることが出来たのはそのおかげよ」

 

レイチェルはそう言ってくれたが、神官はまだ疑わしく思っているようでまだ質問を重ねていく。

 

「…しかし、謹慎する場所に丸亀城は」

「そこ以外の場所なら用意しているところよ」

「保護者の任意なしでは」

「心配しなくとも私の方から話を付けてくるわ。それに子どもの心のケアをするだけの余裕、彼女の両親にはないと聞いているけれど」

「武器と勇者システムを持っていては」

「まあ、そればかりは妥協点かしら。千景の大鎌は壊れてるし。ラグナ、システム無しでも訓練できるかしら?」

「は、初めの時点ならない方が良いかもな」

「決まりね。そういうことで神官の貴方。大社へ戻ってらっしゃい。詳しい話はまた後日」

「は…はあ…承知いたしました」

 

怒涛の勢いで神官を論破し、追い返していくレイチェル。相手の方はぐうの音も出せないまま退散していった。その様に少女たちは苦笑いしていた。

 

「あの神官、ズバズバ言われっぱなしで全く言い返せていなかったな」

「…相手からすればタマったものじゃないぞ」

「流石口喧嘩のベテラン、レイチェルちゃんね!!」

「いやその称号、全く嬉しくねえだろ!?」

 

勇者たちはそんな気の抜けた言い合いをしているが、それも脅威が過ぎ去ったことで安心したからだ。

 

「まあ、なんだ…ありがとな、ウサギ」

「良いわよ。あんな親に任せたくないというのは私も同じだったもの。さ、帰りましょう」

 

用が終わった一行は集まる。千景は今ラグナにおぶられた状態だ。長旅に精霊を使用した長時間の戦闘でもう身体がヘトヘトだった。

 

「…ごめんなさい…貴方も…疲れているでしょうに」

「ったく…気にすんなって。それとチカゲ」

「何…?」

「…テメェ、本当によく頑張ったな。あの中でもたった一人で、テメェは本当によく頑張った…」

「……うん」

「けど、もう十分テメェはやったよ。だから…もう『休め』」

「…どうして?」

「テメェが頑張りすぎて潰れたら、皆が悲しむ。頑張るテメェは好きだが…俺たちがみたいのはテメェが笑っているところだからよ」

 

だから休んだって良いんだ。それを聞いて千景の眼から銀色の雫が落ちる。色んなものを壊し、傷つけた末に千景は皆との絆を再認識出来た。

 

自分が今乗っている背中は広く、温かい。その温もりは友奈のような優しい日差しとは違う。例えるなら燃え盛る蒼炎だ。しかしそれがまた彼女を安心感に包んでくれた。

 

疲れた彼女の瞼は少しずつ落ちていく。その裏で見たのはかつてのような虐げられる悪夢ではない。少なくはあるけれど、確かに自分を観測()てくれる者たちがいる、幸せな夢がそこにはあった。




他人を拒絶する。しかし同時に人からの愛が欲しい。それで人の魂を求めるようになってしまった。千景がソウルイーターを身に付けるならこれが原因だとは決めていた。

ハクメンのお面に関しても同じように拒絶ですね。素顔を見せないようにしているのは頑張っている姿の後ろで、恐怖と戦っている感じにしたかった。(なお本物のハクメンではあまり見られないかも…ツバキとかの件だったら有り得るか?)

次回ですが、日常編ですかね。もしくは花結。それではまた。
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