蒼の男は死神である   作:勝石

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どうもお久しぶりです。勝石です。

漸く時間が作れたよ。いやー大変だった。ただし若葉ガチャは爆死する。うわーん。

そしてバレンタインイベント後半ですが、とうとうキスしましたねゆうみも。ゴールインはいつだ?あれ、もうしてた?ていうか東郷さんとぐんちゃんのノリが完全にジンやニューのそれで爆笑した。

さて今回は神社での日常回。同居生活を始めたラグナと千景ですが、お客さんが来たようです。とても長いですが、それではどうぞ。


Rebel90.過去を振り返る

庭の方でラグナと千景は木製の武器で訓練していた。千景が大鎌を振るい、ラグナは大剣でそれを押し返す。それがここ数日の二人の日課だった。

 

「これならどう!」

「甘ぇ!!」

 

二人は武器だけでなく、徒手格闘を交えながら模擬戦を行う。ラグナが言うにこれから千景が精霊の力を扱うなら身に付ける上で損はないとのこと。

 

無論千景は友奈のような素手での戦い方は知らないし、十兵衛からは教わっていたものの、ラグナのやり方もどちらかというと我流である。強いて表現するならば不良の喧嘩殺法に近い。

 

それでも不自由を感じない辺り、有効な戦術なのが分かる。しかし、まだラグナから見ればまだまだのようだ。

 

「どうした!! そいつが自由に使いこなせなきゃ精霊なんざ無理だぜ!!」

「だったら…少しは手加減したらどうなの!?」

「手加減したら訓練の意味ねえだろうが!」

 

今の千景に課せられているのは今の武器を手足のように自由自在に扱うこと。これも精霊を制御することと繋がっているらしい。

 

朝から打ち合い続けること二時間。しばらくすると二人は武器を下ろす。今日はここまでのようだ。二人は家に戻り、昼食の準備を始めた。

 

「今日も勝てなかった…」

「まあ、そんなにしょげんなよ。まだまだなところはあるが、システム無しでも滅茶苦茶強くなったじゃねえか」

「そう…かしら?」

「今のお前に手加減しても訓練にならねえしな」

「そう…」

 

そう言われたら悪い気はしない。少し嬉しそうにしながら千景はうどんを茹で、その横でラグナが天ぷらを揚げていた。

 

一人でもうどんが作れるようになった千景はその後、他の具剤の作り方もラグナから教わるようになった。友奈の好きな肉ぶっかけうどんのために肉の焼き方も学んだし、きつねもたぬきも作れるようになった。

 

そして今日はラグナの好物である天玉うどんを作っているのだ。油は良い音を立てながら弾け、天ぷらは黄金色の衣を露わにしながら浮かび上がっていく。

 

「今日はいい出来だな」

「そうね」

 

そう言って千景はラグナの方を見る。彼とこうして過ごすようになってからの時間は基本的に平和だ。ついこの前まではバーテックスが毎日のように襲撃していてピリピリしていたのに今は嘘のように静かだった。

 

樹海化も確認されていない。今四国が平和である証拠だ。だがある意味少し不気味でもある。以前から敵は集合体を作ることで進化していった。以前から出現していた完全体も、恐らくは同類だろう。

 

昼食を作り終え、食べている最中にドアベルが鳴った。そう言えば今日は大社の方から職員が来るとレイチェルから聞いていた。

 

ラグナは立ち上がってドアの方へ行った。そこでは食べ物を持ったひなたと安芸がいた。他にも若葉に球子、友奈、そして杏がいた。

 

「こんにちは、ラグナさん。お元気そうで何よりです」

「そっちもな」

「郡ちゃんは元気にしてる?」

「ああ。中でメシを食っていたところだ」

「メシだと!!」

 

メシと聞いて球子の目が煌めく。それと同時に腹がグーグー鳴り出した。仲間たちはそれに微妙な表情をした。

 

「タ、タマっち先輩…お昼…さっき食べたばっかりでしょ?」

「アレだけじゃタマの胃袋は満たされなかった!!」

「ここに来るまではしゃぎまわったのが原因じゃないか?」

「どんだけ騒いでたんだよ!!?」

「タマちゃん、会うのが楽しみで眠れなかったって言ってたもんね!」

「それとこれとで関係あんのかよ!!?」

 

どこまでもフリーダムな奴らである。だが腹を空かしている様子を見ては放っておくことも出来ない。

 

「…しょうがねえな。丁度俺も食い終わったとこだからテメェの分も作ってやるよ」

「ホントか!? やったー!!」

「ガキみてぇにはしゃいでんじゃねぇ、ったく…まあ、ここで話していても仕方ねえし、お前らも入ってこいよ」」

「では、失礼する」

「お邪魔しま~す!」

 

球子の態度でどこかの猫を思い出しながらラグナは家の中へ入っていく。友奈たちもそれに続いて入っていく。中では千景が食事を終わらせていた。

 

「皆…久しぶりね」

「久しぶりだね、ぐんちゃん! 元気そうで良かったよ!」

「千景さんも、大分調子が良くなったみたいで安心しました」

「ええ…」

 

いつもの仲間たちが来たことに千景は嬉しく思ったが、そのときに気がかりなことがあった。

 

「あら? 白鳥さんたちは来てないの?」

「ここに来れる人間の数は限定されているからな。私たちもひなたや真鈴さんの護衛に来たようなものだ」

「勇者に来てもらっても…大丈夫だったの?」

「それに関しては心配はいりませんよ。大社にも納得させましたから」

 

ここに若葉たちが来れたのはひなたが上手く大社の人間たちを上手く説得出来たおかげだ。話を聞くに歌野たちは来週、水都ともう一人、別の巫女とともにここへ来る予定だとのこと。

 

「どんな人なのかしら…」

 

ひなた以外の巫女と聞いて水都ともう一人、『眼鏡の少女』を思い浮かんだ。別れて以降は殆ど話しかけていなかったが、今頃何をしているのだろうか。

 

「なあなあラグナ! メシはまだなのか!?」

「急かすなって。すぐに適当なモン作ってやるから待ってろ」

「ラグナさん。お手伝いします」

「悪ぃなヒナタ。助かる」

 

料理を始めていたラグナを手伝おうとひなたも向かっていった。彼女たちが支給してくれた食べ物からうどんと具剤を取り出し、また料理をし始めた。横では今度はひなたが天ぷらを揚げていた。

 

「にしても手慣れてんな、ヒナタ。前から家事をすんのが趣味だっつてたがよ、こういうこともしてんのか?」

「はい。若葉ちゃんも喜んでくれますからね。美味しそうに食べている姿を見たら余計作りたくなるじゃないですか」

「分からなくもないな」

 

そりゃあ自分が作ったもので他人が喜んでくれたら自分もやる気が出るものだ。

 

「おーいタマコ! 卵の方は固ぇのと半熟、どっちにすんだ?」

「タマっぽいので!」

「意味分かんねえよ!!」

「固ゆでだそうです!」

「テメェは分かるのかよ、アンズ!?」

 

球子の要求を杏が翻訳してくれたおかげでラグナも卵を茹でる準備に入った。横でその様子を見ていたひなたは笑っていた。元の日常が着実に戻ってきていることを嬉しく思ったのだ。

 

「フフ…ではラグナさん。球子さんのためにもそろそろ作りましょうか」

「そうだな。このままグズグズしていたらもっと喧しくなりそうだ」

 

そういってラグナたちは料理を進めていく。作り終えたうどんを球子の方へ持ってくると球子はガツガツしながら食べ始めた。

 

「タマっち先輩はいつ見ても美味しそうに食べるね」

「それだけ二人の料理が美味しいんだよ!」

「友奈の言う通りだぞ、あんず!! ほれ、お前も食ってみろよ!」

「ひなたさんも一緒に作っていたもんね。それだったら私も…」

 

いざ自分も食べると確かに美味しかった。杏が思わず感心する。

 

「流石ですね…とても美味しかったです」

「いえ、殆どはラグナさんが作ったんですよ。私が手伝ったのは天ぷらだけですよ」

「そういっちゃあいるが、何だかんだ言ってテメェの揚げた天ぷらも美味かったじゃねぇか」

「ん? ラグナも食ったのか?」

「さっき、味見に一つ貰ったんだよ。かなり美味かったぜ」

「普段から食べているラグナさんからお墨付きが貰えたなら問題はありませんね」

 

優し気に笑うひなたを見て千景は少しだけ羨ましそうにしていた。以前の出来事に関して彼女に謝りたいとは考えていた。

 

しかし、ラグナと一緒に料理しているところを見たときに何故か少しだけ焦りを感じた。ひなたはお淑やかで物腰は柔らかいし、家事も出来てスタイル抜群。自分のような人間よりもよっぽど一緒に居て楽しいだろう。

 

「どうしたの、ぐんちゃん?」

「あ、いえ。何でもないわ」

 

別にひなたが悪いわけではないことは分かるし、自分も正直に言うなら友奈の方が好きだから別に何ともないはず。なのに、心がモヤモヤした。

 

「でも、私だったらぐんちゃんの作ったうどんを食べてみたかったな~。お昼を食べて来ない方が良かったかも」

「すぐに作ってくるわ」

「まあ、待てチカゲ。ユーナも食べたばっかだろうし、うどんは少し腹にも重いだろ? せっかくだからテメェが朝に採ってきたアレを出したらどうだ?」

「アレ…ああ、そうだったわね」

 

そう指摘されて千景は冷蔵庫の方へ向かって皿を出してきた。今朝の修行の前に採ってきた野生の木苺だ。無論水で洗い済みである。

 

「ほう。ここにはこんなものもあったのか」

「森の方にあるのよ。採ってみたけど、味は確かよ」

「うわ~…ぐんちゃんの勇者服と同じですっごく綺麗な色だね…それじゃ、いっただきまーす!」

 

木苺を一つ摘み取って口の中へ放り込む友奈。パクっと食べた瞬間、頬を押さえながら嬉しそうに声を出していた。

 

「ん~~~!! これ美味しいよ~~!! 今まで食べた果物の中でも一番だよ~~!!」

「喜んでもらえて良かったわ。いつかは高嶋さんにも食べてもらいたかったけど…こんなに早くその時が来るなんて思わなかった」

「チカゲは朝っぱらにコイツを採ろうと張り切ってたからな。どうだユーナ、そいつの味は?」

「大満足だよ!!ありがとう、ぐんちゃん、ラグナ!!」

 

咲き誇った桜のような笑顔で御礼を言う友奈を見て千景は一瞬心臓が止まりかけたが、ここで倒れるわけには行かない。何とか堪えることに成功した。

 

「そんなに美味しいのか、友奈?」

「うん! 若葉ちゃんもどう?」

「そうだな…構わないか、千景?」

「ええ。遠慮しなくても良いわよ」

「それでは一つ…おお! これは…野生のものとは思えないほど美味いな!」

 

蕩けた顔をしながら木苺を食べる若葉とその様子を横から激写するひなた。それに対してひなたを見ている安芸はニヤニヤしている。その視線はひなたの胸に集中していた。

 

「…ねえ、球子。上里ちゃんって…本当に立派だよね~」

「やっぱり真鈴も分かってくれるんだな!」

「あの、球子さんに安芸さん? どうしたのでしょうか?」

 

不穏な視線に気づいたひなたが二人の方を見ると不気味な笑い方をした球子と安芸がいた。

 

「いや〜、ね? 上里ちゃんのその豊かな双丘はいつ見ても眼福だなーっと思って」

「セクハラなら訴えますよ?」

「球子、真鈴さん。ひなたには手を出させないぞ」

 

若葉はひなたの前に立ち、二人のワキワキする手から彼女を守ろうとする。しかし二人の眼はシイタケのようになって輝いている。何があっても実行する気のようだ。

 

「安芸さんにタマっち先輩。そろそろいかがわしい想像をやめないとひなたさんも怒ってしまいますよ?」

「止めるな、あんず…タマたちは退くわけは行かないんだ!!」

「決意めいた台詞で言ってもやろうとしてることが色々とダメだよ、タマっち先輩!!」

「伊予島ちゃん…山を登る理由はね、そこに山があるからなんだよ!」

「安芸さんもタマっち先輩の戯言に乗らないでください!!」

 

必死に訴える杏に安芸と球子も一度引き下がろうとするが、その時に二人は杏の方を改めて注目する。彼女の身体を見て二人はグフフと笑い出した。

 

「え、えっと…二人ともどうしたの?」

「そういえば…あんずも結構育ったよな」

「この前会ったときも思ったけど、小学生のときよりも色々育ったよね~」

「ひ、ひぇッ!?」

 

中年のオッサン二人の視線は自分の方へと向き直っていた。これは不味いと判断して逃げようとしたが、それよりも素早く球子が背後に回った。

 

「タマからは逃げられないぞ、あんず!!」

「ひゃああああああ!!!?」

 

胸を鷲掴みされて杏は悲鳴を上げる。暴れる二人はそのまま居間に転がった。もう色々滅茶苦茶である。

 

「どうなの、球子!?杏山(あんずやま)からの光景は!?」

「ひなたに比べたら少し小さいが…それを差し引いても高い!これはアルプス山脈…いや、モンブランだ!!」

「何だって!?それ本当!?良し。こうなったらアタシも混ざらないと!!」

「いぃぃやぁぁぁぁぁああ!!?」

 

安芸までも参戦したことでいよいよもってカオスになってきた。杏の方も顔を赤らめていく。

 

「ちょっ、二人とも何処触って、ひゃん!?だ、ダメェ!!?」

「あ、アンちゃんがもみくちゃになっていく!!?」

「な~はっはっは~!! 良いではないか、良いではないか~!!」

「そう言って満更でもなさそうだよ~、伊予島ちゃ~ん!!」

「何やってんだこの馬鹿どもがぁぁぁぁぁ!!!」

『あだッ!!?』

 

グヘヘと笑いながら変態行為を繰り返す二人の頭に見ていられなかったラグナの拳骨が振り下ろされた。二人の登山家は撃沈し、そのまま沈静化した。

 

「ったく…人んちを痴漢現場にしてんじゃねえよ」

「ねえ、上里さん。ああいった輩はなんて呼ばれていたかしら?」

「紛れもなく変態ですね」

『ぐふぅ!!?』

 

ひなたから絶対零度の視線を向けられながらそう言われた球子と安芸は精神的に瀕死になった。その様子に友奈は苦笑いし、若葉と千景も呆れるしかなかった。

 

「球子はともかく、まさか真鈴さんまでそっち側だったとはな。これを機に少しは反省したらどうだ?」

「嫌だ! 例え何があってもタマは絶対に諦めない!! それこそ立ちふさがるのが黒き獣だろうと!!」

「そうだよ! 少しは味わっても良いじゃん!!」

「テメェは仮にも年上なのに何言い出してんだ!!?」

 

それはラグナも同様のようで特に安芸の方に頭を痛めていた。未来では自分の知り合いである彼女の子孫とは真反対の人格に戸惑いを覚えていた。

 

(こいつの遺伝子からどうやって眼鏡のねーちゃんみてぇな堅物が生まれんだよ…)

 

よもや実は、なんてことはないと願うばかりである。そんなラグナの悩みとは裏腹に安芸の方がしたり顔で言い返した。

 

「え~、だったらさ。ラグナ君はどんな女の子が好みなのさ?」

「………は?」

 

ちょっと意味が分からなかったためにラグナの思考がフリーズした。逆にそれを聞いてさっきまでぐったりしていた杏が瞬時に復活した。

 

「ラグナさんの恋愛関係と聞いて!!!」

「はしゃぐんじゃねぇ、スイーツ野郎が!! ンな話一度もしてねぇよ!!」

「あ、それも良いね~。そっちの方を聞けば自然と好みも分かってくるかもね~」

「マスズ、テメェ!!!」

 

杏の目が星のようにキラキラしてらっしゃる。安芸も悪乗りして話を掘り下げ始めた。他の勇者たちも少し興味深そうにしていた。

 

「そういえばラグナって私たちとは結構長い間一緒にいるけど、あんまりそういった話って聞かないよね」

「そうですね。先ほどの杏さんにも全く反応しませんでしたし」

「え、そうなんですか?」

「…さあな。だがそういう目で見た覚えはねえよ」

 

不思議とその通りで、ラグナは杏に対していやらしい目で見ることは出来ず、先ほどの球子と安芸とのやり取りを見ても度が過ぎ始めたから止めようと思った程度である。

 

変な目で見られてなかったことは嬉しかったが、地味にちょっと女性として落ち込むべきかと一瞬悩んだ杏であった。だが、その程度のことでは自分の恋愛話への探究心は止められない。取り敢えずラグナを追究した。

 

「そ、そんなことは良いんですよ! それよりラグナさん、どうなんですか? ラグナさんでしたらきっと色んな経験があるでしょう?」

「…いや。前にも言ったが、全然何もねえよ」

「いーや嘘だね!! その反応は絶対に一つや二つあったやつだよ!!」

「だから! 何もねぇっつてんだろ!!」

「そう言わずに~!! レイチェルちゃんとかきっとただならない仲に決まってるじゃないですかぁ!!?」

「何でそこでウサギの名前が出てくんだよ!!?」

「大体ラグナさんと一緒にいる女子と言われたらレイチェルちゃんが一番最初に名前が挙がるからですよ!!」

 

まさか周りからもそういう認識をされていたのだろうか。別にレイチェルは信頼しているし、悪いやつだとは思ってないが、幼い頃から顔を合わせた彼女にそういった意識を持つことはなかった。第一、自分にドMの趣味はない。

 

「お、伊予島ちゃん。そのレイチェルちゃんってどんな娘なの?」

「一言で言うならかっこいい幼女です!!」

「アンちゃん、その言い方だと誤解生まれちゃうから!!」

「ですが、確かにレイチェルちゃんの頼もしさは本当ですからね。大社への対応も彼女のおかげでやりやすいですから」

「何故かそれを聞いて滅茶苦茶不安になってきたぞ…」

 

一体何人の大社職員があのドS吸血鬼に辛酸を嘗めさせられたのかを考えると少しだけ同情したラグナであった。まあそれでこっちは助けられているし、今更大社を庇おうとは思わないが。

 

「じゃあラグナ君は女王様タイプが好きってことね!」

「違ぇよ!! 何でそうなるんだよ!!」

「違います安芸さん! どちらかというとレイチェルちゃんはツンデレなんですよ!! 口調が少し過激になるんですけど、それはラグナさんと一緒にいるときだけで自然体になるんですよ!!」

「確かに! レイチェルちゃんとラグナってよく口喧嘩するけど、すぐに仲直りしてるもんね! 仲良しの証拠だよ!」

「ユーナまで何言ってんだ!!?」

「じゃあどうなんですかラグナさん!? 実際のところ、他に浮いた話はなかったんですか!?」

「クソ…しつけぇな…」

 

どうやら杏は自分を逃がすつもりがないようだ。ラグナは悩む。このままレイチェルの話をしても絶対に杏たちの発作を酷くなるだけだし、セリカとの冒険の話も杏からすればご褒美でしかない。

 

ニューは過激すぎてドン引きされる可能性があるし、ノエルとも仲は普通だから聞いてもおかわりを要求されるだけだろう。タオ?彼女はじゃれ合ってくる愉快な友達さ。

 

では勇者部の面々はどうだ。残念ながら彼女たちは異性とは認識しているが、恋愛感情まで持っているかと言われたら否である。正直そっちよりも仲間で友人である意識が強く、何より全員が西暦組に負け劣らず濃い連中ばかりだ。

 

「……でも、確かにちょっとだけ気にはなるわね」

「チカゲもかよ!? ったく…仕方ねぇな…」

 

どうしたものかと悩んでいると、一つ思い浮かんだことがあった。

 

「そうだな…一つだけあったよ」

「やっぱりあったんですね!!」

「そうだ。そいつは『ラムダ』って言ってな」

 

前の世界に関する内容を少しぼかして、ラグナは自分の知る限り最も平和的で杏が大人しく聞きそうな話をし始めた。ニューとミューとも違う、もう一人の素体の少女についてだ。

 

その少女の名前は『λ(ラムダ) - 11(イレブン)』。あの世界のココノエに境界からサルベージされたニューの魂を第十一素体の肉体に定着させたことで生まれた、とても物静かで大人しい少女だ。

 

初めこそ敵対する関係にあったが、ある時に二人に転機が訪れた。境界に落ちたせいで姿が異形となった存在、『アラクネ』に襲われたところを助けた。

 

その後、そこから出てきた『軟体動物門腹足網のターター』を通じて心を通わせた。僅かな時間だったが、二人にとっては貴重な時間になった。

 

事実、このときにラムダは優しさや思いやりといった感情が芽生え、ラグナも素体に対する考えを変えるきっかけになった。

 

その後、ラムダはラグナとハザマの戦いに割り込み…命を落とした。その時に彼女から託されたイデア機関は後にラグナを何度も救うことになった。

 

「…その後、ちょっと複雑な事情があったけどアイツには礼を言えたよ」

 

出来るならあの時に自分の身代わりになるような形で死んでほしくはなかったし、あの時にまともに礼も言えずに別れてしまったのが心残りだった。だからきちんとエンブリオにいた時にお礼を言えて、元気な姿で再開したときは嬉しかったりもした。

 

「…彼女は幸せものね。命を懸けてでも助けたいと思った貴方がそれだけ想ってくれているから…」

「チカゲ…」

「それに貴方は彼女を忘れていなかった…きっと御礼を言われて嬉しかったと思うわ」

「……ありがとな」

 

ラムダの話に共感した千景が自分なりの考えを述べ、それにラグナも礼を言った。それに対して杏は黙ったままだった。

 

「…うぅぅぅ」

 

唸る杏を見て流石にこの話は重すぎたのだろうかと心配したが、それは杞憂に終わった。少し震えた後に火山の爆発のように彼女は興奮気味に早口で話した。

 

「すっっっっごくロマンチックな話ですね!!」

「はぁ!!? どうしてだ!!?」

「些細な時間を共に過ごしながらも強い絆で繋がった二人!!そしてヒーローのピンチに駆けつけるヒロイン!! でもうぅ…出来るなら生き残ってお二人がどのように時間を共に過ごすことになったのかも知りたかったな~」

「俺とラムダはそんな関係じゃねぇよ!!?」

 

なお、ラムダは勿論のこと、彼女の魂の元であるニューも当然ラグナのことが好きである。妹のクローンであることが大きいだろうが、それでも純粋に彼のことが好きだ。

 

「なるほどねぇ。つまり、ラグナ君は物静かな子が好きなんだぁ」

「だからそういうんじゃねぇっての!!」

 

寧ろクローンとはいえ、妹に対して何故恋愛感情を持つんだと抗議するラグナだった。それに杏がすかさず反論する。

 

「ラグナさん、神話では兄妹同士の恋愛というものはよくあることでしてね…日本の国造りの神、イザナギとイザナミもそうでしたし」

「不穏なことを言うんじゃねぇよ、俺にそれを当てはめたら洒落になんねぇよ!!?」

 

それは自分と『冥王イザナミ』となったサヤの組み合わせを彷彿させてしまう。違いは自分があちら側に恋愛などという感情は一切ないことだ。

 

「そういやラグナ、他にはどんな奴と一緒だったんだ? やっぱあんずやひなたみたいな巨峰もいたのか?」

「た、球子さん!!」

「…ノーコメントで」

 

いたにはいたが単なる知り合いだし、ここで言ってしまっても自爆するのが目に見えていたのでこれ以上は語らなかった。

 

「コラコラ、杏に球子。真鈴さんもそこまでにしておけ。ラグナが困っているぞ」

「アハハ、そうだね。でもなんかこういう話って中々聞けないから新鮮だったよ!」

「ったく…テメェらもそこそこ色恋沙汰に縁がありそうだけどな。ワカバとかユーナなんて滅茶苦茶モテそうだしよ」

「私、男の子とそういうこと全然なかったよ?」

「私もだな。寧ろ堅物で良く避けられていたよ」

「そうだよな…小学生だとジンも結構モテてた記憶があったが、これが普通だよな」

 

二人はラグナの話を否定したが、そこへひなたが入ってきた。

 

「そんなことはありませんでしたよ、ラグナさん!! 若葉ちゃんは小学生時代ではそれはもうモテていましたから!」

「ちょ、ひなた!!?」

「そうだったのか。そんじゃあ浮いた話もあったのか?」

「浮いた話というわけではありませんが、下級生の女子から特に人気で密かにファンクラブがあったりしたものですよ~」

「それ、私ですら知らない事実だぞ!?」

「乃木さんは昔から乃木さんだったのね…」

「溢れ出るカリスマ性は隠すことが出来なかったのか…」

 

しかしこれだけひなたのガードが固ければ男子も近づけないだろう。それにしても親友というものは皆これだけべったりなものなのだろうかと考えるラグナである。

 

「ヒナタは昔からワカバと一緒だったらしいしな。通りで知っているわけだ」

「はい! それはもう幼稚園の頃からの付き合いですから!」

「そうだな。一緒にいない時間がなかったくらいではないか?」

「何だか羨ましいな~、そう言う関係って!」

「せっかくですから皆さんにも若葉ちゃんの可愛い写真を見せましょう! 確かここにあったはず…」

 

そういってひなたが大量のメモリーカードを取り出してテーブルの上に出した。その数は優に百を超えている。趣味の写真を如何に普段からしていたのかがよく分かる。

 

「こ、この数は何なんだ!?」

「若葉ちゃんの赤ちゃんの頃から今に至るまでの全ての写真が入ったメモリーカードたちです」

「赤ん坊の頃の!? どうやってそんなものまで!?」

「若葉ちゃんの実家のアルバムにある写真を全てデータ化しまして…」

「全部!? いつの間に!!?」

「つーかおい。さっきも撮ってたけどよ、まさか現在進行形でこいつは増えるのか?」

「当然ですよ! 若葉ちゃんの成長記録を付けることこそ、私のライフワークですから!!」

「胸張って言うことか、それ!!?」

「親友ですので♪」

「クソッ!! 悔しいが、そいつを聞いて納得しそうな俺がいやがる!!」

「納得しないでくれ、ラグナ!! お前が陥落したらいよいよひなたは止まらなくなる!!」

「安心しろ!! もしヒナタが一人で俺が口説けないと分かったらウサギを召喚してくるはずだ!!」

「もう終わりじゃないか!!」

「ていうかラグナ君の中の親友のイメージって何なのさ?」

 

四つん這いになってオワタと嘆く若葉。レイチェルに口喧嘩で勝つことなどほぼ不可能である以上、最早どう足掻いてもひなたに写真を撮られるしかないらしい。

 

東郷もそうだったが、この世界の親友の定義は一体どうなっているのだろうか。ラグナは益々分からなくなった。

 

「ハァ…あんまとやかくは言わねぇが、程ほどにしておけよ」

「大丈夫です。そこは気を付けていますから」

「不安だな、おい…」

 

普段のひなたからはおっとりとした雰囲気を感じるが、若葉関連では東郷並みに暴走することがある。

 

(そういえばソノコの奴も結構フワッとしたっていうか…こう、柔らかい雰囲気だったよな…正直ワカバの子孫よりヒナタの子孫って言われた方が違和感ねえんだよな…)

 

そこまで来て、ラグナは何かを悟る。九重たちから聞いた話によると、自分が暴走した時に最初の封印の儀を施したのも園子だったらしい。無論自分の傍にいても魔道書は動いていたからきっとセリカや今のひなたのような力は持っていないだろう。

 

だがしかし。もし。もしもだ。もしひなたが何等かの形で乃木家に血筋を残すことが出来ていたら。万が一それが巡り巡って当時封印の儀の技術がまともに整っていない状況の中、園子に自分を止める力を与えていたとしたら。

 

「………ワカバ」

「ど、どうした?」

「…頑張れよ」

「何だその意味深な間は!? 何があったんだ!?」

 

止めよう。これ以上詮索しては乃木家の闇に首を突っ込む羽目になるだけだ。そんなラグナの想いを知るよしの無い若葉が混乱していると友奈が一つ、色の異なるカードを見つけた。

 

「あれ? ヒナちゃん、こっちのは他と違うの?」

「ああ、それですね。それはこの三年、皆さんと過ごすようになってから撮った写真たちなんですよ」

「三年…てことは俺がこっちに来る前のやつもあるのか?」

「ええ。せっかくですし、こちらを見てみましょう」

 

友奈が指摘したメモリーカードを端末に入れるとそこに映っていたのはまだ小さかった頃の丸亀組の集合写真だった。愛媛組や千景とはこちらに来てから初めて出会ったラグナにとって新鮮だった。

 

「あ、これってタマたちが香川に来たばかりの頃の奴だ!」

「あの頃の皆は小さかったわね」

「安芸さんに導かれて、少しした後の話ですからね。香川に来たのは」

 

愛媛から来た三人が懐かしそうに当時のことを振り返っていた。あの頃は右も左も分からず集められ、お互いのことをよく知らなかった。それが今では様々な人々や仲間と出会い、困難に立ち向かう中で強い絆で繋がるようになっていた。

 

「あの頃から友奈には助けられていたな。場の雰囲気がピリピリせずに和やかでいられたのは間違いなくお前のおかげだ」

「そんなことないよ~! あの時に若葉ちゃんたちが連れて行ってくれたうどんのお店が良かったからだよ~!」

 

当時の友奈が本場のうどんを食べたいと言ったのをきっかけに若葉とひなたが地元の手打ちうどんの名店へ連れてきたが、それが大変好評だった。

 

「流石本場って感じだった!」

「タマもあれにはぶっタマげたぞ!こう、頬っぺが落ちるみたいな!!」

「そりゃあここのうどんは四国一だしな」

「そういえば貴方も香川出身だったわね」

「ああ。ガキの頃から食ってるぜ」

「ねえ上里ちゃん、他のも見せてよ」

「ええ、少々お待ちを」

 

ひなたが次の写真を見せるとそこには球子に背負われた杏がいた。明かりがそれほどないところを見ると、どうやら夜に撮影したもののようだ。

 

「なんだ? アンズが外でタマコに付き合ってたら疲れちまったのか?」

「いえ、これは私が外で読書していたら眠っちゃって。気付いたらタマっち先輩が背負ってくれていたんです」

「アンちゃん行方不明事件だね」

 

この時は杏が帰って来ないために丸亀城が大騒ぎになっていて、当然ながら姉貴分の球子も心配で仕方がなかったそうだ。漸く球子が公園のベンチで寝ている杏を発見する頃には夕方になっていた。

 

「あの時は本当に心配したんだからな!!」

「うぅ…反省してます…」

「まあまあ土居ちゃん。無事に帰って来れたんだから良いじゃない」

 

愛媛組が平和なやり取りをしているうちに次の写真へと移った。次にあったのは飾りつけをしている友奈と千景だった。

 

「うん? こいつは…クリスマスの準備か?」

「そうだよ! この頃からぐんちゃんと仲良くなれたからよく覚えてるんだ!」

 

これはあの戦いの時に千景の記憶から観測()えた光景だ。つまりこの出来事は千景にとって非常に重要なものだったんだろう。

 

「もしかしてよ、ユーナ。この頃からチカゲと仲良くなったのか?」

「そうだね。前からお話しようとしてたけど、この時から一気に仲良くなったな~」

 

千景の家ではクリスマスなどという日は祝わない。だから彼女はサンタやクリスマスツリーなんていうものは当時知らなかった。

 

彼女がそう言うと友奈は皆にクリスマスパーティを開こうと提案したのだ。勿論準備には千景も参加し、共に作業していく内に千景の心は徐々に癒されていった。

 

「あの時から…私は高嶋さんにあだ名で呼ばれるようになったのよね」

「これからもずっとだよ!!」

 

そう明るく笑う友奈に千景も顔を綻ばせる。それを見てラグナは自分と千景が初めて出会った時のことを思い出していた。あの時は名前が知らず、友奈もそう呼んでいたから自分もついそう呼んだが、彼女に睨まれた。

 

この話を通じてあの名前はとても特別な意味を持っていたこと、そしてあのクリスマスの記憶がとても特別なものだったことをより理解することができた。

 

「…本当に良かったな、チカゲ」

 

そっと本人には聞こえないようにつぶやいた。言われてみれば彼女もひなたとは形は違えど、仲間たちとの思い出をとても大切にしてくれている。

 

あの卒業式で貰った手製の卒業証書も今はこちらの千景の部屋に額縁に入れられて飾られている。何でもレイチェルにこれを持ってくるときのことを相談した際に二つ返事で額縁を買ってくれたらしい。

 

ー あれは皆からもらった大切なものだから -

 

恥ずかしそうにそう言う彼女が印象的だった。写真の撮られた時系列が過ぎていくにつれて少女たちも成長していき、やがて被写体の人数も増える。歌野、水都、レイチェル、そしてラグナ。後に雪花と棗が加わり、賑やかになった。

 

「…こいつが一番新しい奴だな。でもこれ、ビデオか?」

「ああ、それは私が個人で録画したものです。これつい先日のインタビューのものですけど、ラグナさんたちは見てないんですか?」

「いや、今は出来る限りニュースとかは見てねぇから見てなかった。ずっと訓練してたし、チカゲも見たがらねえしな」

「そうだったんですね…」

 

千景が傷ついた原因の一つは彼女たちの事情を何も知らなかったとはいえ、人々の心無い言葉や悪意が大きな原因だった。ふとテレビを付けて、また勇者を侮辱するようなものが現れると考えると千景はあまりテレビを見ようとは思わなかった。

 

「ワカバ、記者連中の中で変なことを言った奴は?」

「…少しはいる。お前のことについて言及していた奴がいてな」

 

そう言われてラグナは難しい顔をした。自分は別に気にしないが、千景はそう思ったりはしないだろう。だがそれとは裏腹に千景が意志を示した。

 

「…大丈夫よ。見ましょう」

「良いのか?」

「ええ。いつまでも…怯えているわけには行かないから…」

「…分かりました。それでは再生しますね」

 

端末にある映像を再生するとそこには大勢の人間の前にいる若葉が映っていた。凄まじい数の人。大社の前で抗議していた群衆を思い出させる光景だ。

 

「大丈夫だよ、ぐんちゃん」

「高嶋さん…」

「傍にいるからね」

 

友奈に手を握られて千景の心も落ち着く。フラッシュがたかる中、若葉が話を始めた。

 

「本日は集まっていただき、誠に有難うございます。今月の末に7・30天災の悲劇から四年になります」

 

四年前の7月30日。それはバーテックス襲来の日と同時にラグナがこの時代に来た日でもある。思い返せばここに来てから随分と長い時が過ぎたものだ。

 

「人命、国土、そして自由に見上げることの出来る空。あの日、天よりバーテックスが私たちより多くのものを奪い去っていきました。強大な力を持つ人類の天敵に私たちは無力だった」

 

しかしその後、神より力を与えられた勇者たちの存在が確認され、人類は反撃を開始した。この時から大社と勇者たちは奮闘することになったのだ。

 

「そして今、私たちは苦境に立たされています。敵は更なる強化を遂げ、ついには黒い怪物としてその姿を現しました」

 

恐らく四国全土の人間は誰一人として黒き獣を忘れることはないだろう。その悍ましい声に身体から発せられた圧倒的な覇気はその姿を見た者の脳裏に焼き付いたはずだ。気のせいか、記者の一部にその存在を聞いて身震いした者もいた。

 

「壁を突破し、街を破壊した彼の天敵は打ち破られましたが、その暴虐による爪痕は未だ四国に残っています。しかし、私たちはまだ敗北していない!」

 

そう言った若葉の目は真っすぐ前を見据え、威風堂々とした面構えだった。

 

「我々は必ずや、奪われたものを取り戻すことが出来る!! かつての平穏な日常を!! 家族や友達と過ごす平和な時間を!! 今も壁の修復は進んでおり、大社もこの状況を打開するための対策を講じています!!」

 

人々、いや映像を見ているラグナたちも真剣な顔になっていく。友の言葉を逃すまいと集中していた。

 

「私も勇者としてこれからも戦い続けます!! ですが、それは特別なことでしょうか!? いいえ、私はそうは思わない!!」

 

語気に更に力を込める。止まることはなかった。

 

「何故ならば、私は知っています!!もしも我が子が敵に襲われれば、親は身を挺してそれを守ろうとすることを!!家の前で子どもが車に轢かれそうになれば、例え天空恐怖症候群で屋外へ出ることを拒む者も家から飛び出して助けようとすることを!!危険を承知で壁付近の警備を志願した自衛隊や警官の皆さんを!!」

 

カメラが全て自分に集中されても若葉は怯まない。言葉を続けた。

 

「私は知っています!! 四国の外に友人がいると知れば危険を顧みず外の世界へと足を運ぼうとする者を!! 強大な敵を前にしても、決して諦めなかった者の背中を!!」

 

その話題が出た時、記者の中にはそれを聞いて真剣味が増した者もいた。彼の背中は若葉から見て大きなものだった。ある意味、それを見ていく内に戦う理由が見えたともいえる。思えば最初から色んなことを教えられたものだ。

 

「忘れないでください!! 仲間を救う勇気を!! 敵に立ち向かう勇気を!! 悲しみを受け入れる勇気を!! 痛みを忘れない勇気を!! 戦い続ける勇気を!! 前へ進む勇気を!!四国に生きる皆さん一人ひとりはその勇気を持つ勇者です!! 人の心に勇気があれば、我々は決して彼の敵に負けることはない!!!」

 

その言葉に籠った力に会場全体が震える。人々が注目する中で若葉は刀を抜き放った。

 

「何度でも言いましょう!! 私たちは断じて檻の中で飼われ、食われるだけの家畜ではない!! 自らの力で未来を切り開く『可能性(ちから)』を持った『希望』なのです!! だから抗い続けましょう!! 侵略者から全てを奪い返す未来のために!!!」

 

そこからは光の嵐だ。誰もが若葉に注目し、その姿を写そうと懸命だった。そんな中で一人の記者が質問をした。

 

「質問よろしいですか?」

「何でしょうか?」

 

若葉が刀を鞘に納めてからそれに答えると記者が話を始めた。

 

「先月の黒い怪物の件ですが、当時では怪物の身体から人間が出現したと聞いています。話を聞けば彼は天からの敵と同じ存在で、大社はそれを保護しているそうですが、それについてはどうお考えですか?」

 

その質問の内容に千景は苦虫を噛んだような顔をし、ラグナは目を回していた。まだそんな頓珍漢なことを信じている奴がいたのかと呆れていたのだ。

 

その質問に対して若葉は目の色を一瞬怒りで変わった。だがすぐに平静に戻って答えた。

 

「そうですね…それでは私の意見を話す前にある話をしましょう」

 

全員が注目する中、ゆっくりと若葉は皆の前で話を始めた。

 

「私は小学生の時に島根でバーテックスと遭遇し、その後は無事にこの四国へ当時の民と共に帰還することが出来ました。そしてその後、私たち勇者は三年間、敵の襲撃に備えてきました」

 

ですが、と若葉は話を切り換える。

 

「その間も多くの人々が四国へ辿り着くことが出来ました。その多くは一人の男に救助されてここへ辿り着くことが出来たそうです」

 

何となく彼女が何を言おうとしているのかをラグナが察すると、若葉はその後も言葉を続けた。

 

「その彼は今も、私たちと共に敵と戦っています。彼は神樹様から力を賜ったわけではありません。未知の力を秘めています。ですが、それでも私は言います。怪物に立ち向かった彼もまた、勇者なのだと」

 

決して軽い意味では言っていない。それは彼女と共に戦ってきた仲間たちが一番良く分かっていることだ。

 

「彼は決して自分から表舞台に立つことはしないでしょう。そんなことを彼は望みませんから。ですが、これ以上私の友人を、『戦友』を愚弄する声が上がるというのであれば、私が言います。彼がその『力』を『使った』のはいつも誰かを守るためだった!! 大切なものを奪われないため、理不尽に抗うためだった!! それが勇者でなくてなんと呼ぶ!!?」

 

記者は言い返そうとするが、そこに立っていた若葉から放たれた覇気に当てられて黙り込んだ。他の誰にも有無を言わせない、強い覚悟の秘めた目だった。

 

「例え全ての者たちが認めなくとも、例え全ての者たちが否定しようとも、何度でも私たちは言います。彼は…『ブラッドエッジ』は私たちの友であり、私たちと同じ勇者だ!!!」

 

生太刀を地面に突き付けて強く言い切った。迷いなどどこにもなかった。とても齢15の少女とは思えないほど凛とした立ち振る舞いだった。

 

「私の話は以上です。質問はよろしいでしょうか?」

「はい…」

 

記者はそれ以上何も言わずに下がった。そして動画はそこで終了した。どうやらここまでだったようだ。

 

「…ったく。危ねぇことしやがるぜ、テメェはよ」

 

先に口を開いたのはラグナだった。嬉しくはあったが、正直あそこで自分を庇う必要はなかったと考えていた。そんなことをすれば若葉たちに余計な危害が降りかかるかもしれないからだ。

 

「そんなことを言わないであげて、ラグナ。若葉ちゃんが言わなくても、あの言葉はここにいる皆の意志だから」

「ユーナ…」

「歌野たちだって同じことを言ってたに決まってるぞ!ラグナじゃなくて千景が悪く言われても変わったりするもんか!!」

「土居さん…」

 

仲間たちからのその声を聞いてラグナも千景も嬉しくなる。実は以前の千景の暴走は現場にいた者たちですら覚えていない。

 

精霊による擬似的なソウルイーターによって何が起こったのかが分からずに急に気絶したり、記憶の一部も疎らになって当時の出来事を覚えていなかったりと様々だった。

 

「…そうだな」

 

友奈の言葉に納得してラグナは若葉に呼びかける。

 

「…ありがとな、ワカバ。あの言葉、スゲー嬉しかったぜ」

「私は別におかしなことなど言っていないさ。それに助けられたのはお互い様だ」

「ハッ、言ってくれるぜ」

 

そう言って二人はハイタッチした。そこへ友奈が提案を出してきた。

 

「そうだ!せっかくだし、ここで写真撮ろうよ!安芸ちゃんも混ぜてね!」

「良いね、高嶋ちゃん!それ乗った!!」

「では撮りますよ~!はい、チー」

『ズーーー!!』

 

 

結局、その後も勇者たちは夕飯までに居座り、流石にこれ以上いたら大社に呼び出しを喰らうということで夕食後に帰ることにした。

 

今千景はひなたと共に食後の皿洗いをしている。満腹になった他の者たちは雑談したり、ゲームしたりと色々なことをしていた。

 

「手伝っていただいてありがとうございます、千景さん」

「ううん。今日は当番だし、私も自分からやりたいって言ったから」

 

現在、ラグナと千景は家での家事を当番制にしている。このおかげで初めは下手だった千景もメキメキと生活力を上げてきた。

 

「友奈さんも千景さんの作った肉ぶっかけうどん、喜んでいましたね~」

「ええ。努力が報われたと思った瞬間だったわ」

 

この夜の食事もひなたと千景が作っていて、その時に振る舞ったのが友奈の好きな肉ぶっかけうどんだった。うどんを食した友奈は飛ぶ上がるほど味を絶賛したものだ。

 

その時に千景に抱き着いたりしていたが、彼女が幸せな顔でニヤケていたのは他の者たちのみが知るところにあった。無論友奈は気づいていない。

 

「…上里さん」

「はい?」

 

意を決して千景はひなたに話しかける。あの日、自分の手を取ろうとしてくれた彼女を自分は傷つけてしまった。彼女は別段気にした様子を見せていないが、あの日に見えた顔は悲しそうにしていた。

 

冷静になった今だから分かる。彼女は純粋に自分の助けになりたかったのだ。なのに自分は酷いことをしてしまった。あの時にラグナに叱られたのは当然のことだった。だから今、その過ちと向き合う。

 

「あの時…貴女の気持ちを考えずに酷い言葉を浴びせて…ごめんなさい…」

 

暫くひなたは沈黙していたが、その後に口を開けた。

 

「いいえ。寧ろ、私の方こそ…あの時、千景さんの力になれなくてごめんなさい…」

「そんな…貴女は何も悪くないわ…」

 

徐々に千景の声は弱々しくなっていったが、ひなたは千景の方へ向いて優しく微笑んでいた。

 

「ほら千景さん。そんなに悲しい顔をしないでもっと笑ってください。こうして千景さんは皆さんの元へ帰ってきたんですから、私はもっと貴女が笑っているところが見たいんです。それは友奈さんやラグナさんも同じですよ?」

「…そうね。ありがとう、上里さん」

 

漸く仲直りの出来た二人は皿洗いを再び始める。しかし今度は先ほどよりも明るい声が聞こえてきた。

 

「うちの若葉ちゃんが可愛くて仕方ないんですよ~」

「高嶋さんも、可憐でいつ見ても癒されるの」




決めるべき時に決めてくれる女、それが乃木若葉。ただし、偶にポンコツ。だがそれが良い。

それにしてもラグナの女性関係の全貌を知ったら、自称鍛えられた読書家であるあんずんはどう反応するだろうか?ニューの話とかボイスで聞いたらヤバいだろうし。あ、セリカは間違いなくビュオオオウウウ案件だね。

それでは次回ですが、多分ゆゆゆい回のアンケートの結果を書くと思います。本編はもう少しだけ謹慎中の話をします。にしてものわゆは多分まだまだ続きますな~。それではまた。

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