まず、通算UA四万突破、そしてお気に入り200人になったことに対して心よりお礼を申し上げます。
最近投稿ペースが遅くなっていますが、入れたい要素が多すぎて中々決まらず…それでも気長に待ってくれるとありがたいです。
本日はホワイトデー、そしてツバキ=ヤヨイの誕生日!なのにホワイトデーの話じゃないのはどういうことか。
ゲームの方では結城ちゃんと静さんのバースデーイベント!相変わらず東郷さんが大暴走のようでほっこりしています。
さて、今回の話では最近電撃Gマガジンでも話題のあの娘たちが登場!それではどうぞ。
日が進んで行く毎に、気温はどんどん蒸し暑くなっていく。セミの鳴き声も目立ち始めてから本格的に夏が到来してきたことを丸亀市に住む人々は痛感する。
そんな猛暑が続く日々の中、歌野たち勇者に巫女たちはラグナたちが車で今生活している神社へ向かっていた。全員が談笑している中、一人だけ握りしめている紙を睨めっこしていた。
「この男が…今郡様と生活しているという人物…上里さんや安芸先輩は心を許しているみたいだけど…どうみても不良か犯罪者よね、これ…」
紙には一人の男が映っていた。白髪の赤コート、そして目に酷いクマと漢字の皿という字のように口を顰めた顔で如何にも悪人ですと言わんばかりの悪人面だった。
前々から大社でもこの男について賛否両論は出ていたが、少女はどちらかというと男を不審に思っている側だった。
別に大社の言うことが全て正しいとは思っていない。ただ自分の尊敬する千景の傍にこんな胡散臭い男がいることが不安だった。
「おい『
「え、もうそんなところまで来たんですか?」
運転手の『
「そういえば、美佳ってラグナと会ったことないんだっけ?」
「はい。私も上里さんたちからでしか聞いた話でしか彼のことを知りませんが…秋原様から見て彼はどのような方ですか?」
「アハハ。
「そうなん…そうなのね…」
笑いながらそういう雪花の言葉に美佳も倣って普段の自分の口調に直していく。
「そんで、ラグナがどんな人かって言われたらそうね…一言で言うなら何だかんだって感じかな?何だかんだ面倒見が良いし、何だかんだ仲間を大事に思う奴だし、要は何だかんだで良い奴だってことよ」
「何で褒める点に全て何だかんだが頭に付くのよ…」
「まあ、会えば分かるわ」
本当にそうだろうかと疑問に思う美佳を余所に棗と諏訪組がこれから会うラグナと千景に想像を馳せていた。
「だがラグナと千景に会うのは久しぶりだな。先週のひなたたちから聞いた話だと二人はかなり仲良くやっているようだったが、今は何をしているのだろうか?」
「案外フレンドシップの更に一歩先まで行ってたりしてね!」
「そ、それは流石に大袈裟だと思うよ…そもそもそんなことになってたら伊予島さんがもっと騒いでたと思うし」
歌野と水都の会話が耳に入った美佳は不安を覚える。元々千景は彼女が導いた勇者だ。そしてその時から千景に対して強い敬愛の念を持っていた。大社では千景のことを『私の勇者』と言って周りにその情を公言しているくらいだ。
だから千景暴走の報を聞いたら、いてもたってもいられなくなった。このまま千景の身に何かがあったら。千景と二度と逢えなくなるような事態になったらと想像した時は不安で眠れなかった。
普段は明るい真鈴も球子と杏が危機に遭ったことを知らされた時に血相を変えて二人との面会を頼み込んだ光景をよく覚えている。今思えば彼女も同じ気持ちだったのかもしれない。
だから処分こそあったにしろ、彼女が無事に助かったと聞いて涙を流した。だが、そこへ男と同棲していると聞いてまた新たな不安が出来てしまった。漸く許可をもらった今回の同行も事の真実を確かめるためだ。
(長い間会わなかったけど…郡様、私のことを覚えてくださっているのかしら?今はどんな生活をしているのかしら?まさかこの男に変なこととかされてないわよね?)
色々と考え込む美佳の顔がバックミラー越しに見えたのか、烏丸はなんでもなさそうに言った。
「私の記憶ではあの男が色恋に興味があるようには見えなかった。勇者に手を出すようなことはないよ」
「烏丸先生はラグナさんと面識があるんですか?」
「ああ。もう四年近く前の話だが、高嶋と一緒に奈良から四国へ行く時に同行したよ。不愛想だが、先ほどの秋原が言うように悪い奴ではない。大社のことは嫌っていたようだがな」
「ラグナの大社嫌いはその頃からあったんだな」
知らなかった若き日のラグナの話に少女たちは笑う。一方その頃、噂の中心であるラグナと千景が何をしていたのかというと
「よし、これで洗濯物は全部干し終わったか?」
「そうね。朝から動きっぱなしだから、少し休憩してから午前の訓練をしましょう」
「ああ」
仲良く家事をしていた。力仕事は基本的にラグナがやっていたが、朝食を済ませた二人はその後、掃除と洗濯に手を掛け、ちょうどそれを終わらせたところだ。
「そろそろ少し精霊に近い訓練をやりてぇな」
「でも、勇者システムもないのにどうやってそんな訓練を?」
「…そうだな。まずは術式について説明しなきゃならねぇ」
術式とはラグナたちが使う技術で、勇者システムと同様、神樹や精霊の力を使って事象を引き起こし、攻撃することが出来る。
こちらは勇者システムとは違って一定の適性があれば誰にでも使用することができるため、汎用性には優れている。その代わり、防御も使用者の手に委ねられているため、勇者服や精霊で使用者を守る勇者システムに比べて戦闘時では危険を伴うのだ。
だが、これと千景たちの精霊には似た共通点がある。それは強い認識がなければ発動しないことにある。強いイメージがあることで勇者たちは精霊を喚び出すことが出来、ラグナたちも術式を用いて攻撃することが出来る。
『良いかラグナ。術式は認識だ。出来て当たり前だと思え、自分を疑うな!』
『無理に考えるな、感じるんだ!後は蒼の魔道書が勝手にやってくれる!』
昔の十兵衛との修行を思い返しながらラグナは千景に術式の簡単な説明を解説していると千景から一つ質問が上がった。
「あら?でも貴方は元々術式適性がないって以前言わなかったかしら?なのに何でそれが使えるの?」
「術式にはもう一つ発動させるために必要なものがあってな。そいつがねぇと使うことが出来ねぇ」
「…もしかして、その右腕と何か関係しているの?」
「ああ。こいつに限らず、術式を発動するには魔道書かアークエネミーのように術式を使った兵器が必要だ」
「それって、皆同じなの?」
「いや、俺の時代でもテメェらの精霊と同じように本人の性質に応じて使える術式が変わるんだ。だからその訓練が参考になるかと思ってな」
自分は蒼の魔道書を使った攻撃が多いが、刃はユキアネサを使った氷の術式を得意とし、ベルヴェルクが使える今の沙耶も弾丸のように術式を発動させることが出来る。それらの違いはやはり、術式を使用する本人が持つドライブと関係しているだろう。
「でも具体的にどうやって訓練するの?」
「これまではずっとテメェに戦いで武器を自由自在に使えるように訓練してきただろ?そいつは精霊でも、いや、精霊を使う時にこそ意味があるんだ」
術式を発動する際に大事な要素の一つに『認識』がある。簡単に言えば自分が術式の効果を強く認識さえすれば発現するといった具合だ。
「じゃあ、これまでの精霊についての資料は無駄だったの?」
「いや、寧ろそいつは重要なことだ。認識するのに一番効果的な方法はやっぱその精霊について知ることだろうしな」
考えてみればここに来てからも千景が精霊について勉強しているが、それをラグナが止めたことは一度もなかった。もし無駄だったらすでに止めさせているだろう。
「そうだったのね…じゃあどうやって術式を発動させているかを見せてくれないかしら?」
「ああ。ちょっと見てろ」
ラグナは愛刀を取って構える。それを横で千景は見守る。
「まずは力を集中させて術式を発動させる準備を整えるんだ」
「つまり術式に必要なエネルギーを集める必要があるということね」
「そういうことだ」
そういった後にラグナは大剣を逆手に持って地面から何かを掬い上げるように振る。地面に到達する直前に一度動きを止めた。
「術式を発動する前はどんな事象を引き起こすのかを強くイメージしなきゃならねぇ。ただ漠然としたものじゃねぇ。どんな動きをした時にどんな術式が発動するのかもきっちり頭に押さえてなきゃならねぇ」
「なるほどね…なんだかゲームみたいな気もしなくはないわ…」
千景が謎の親近感を覚えていると最後にラグナは術式を発動させるためにもう一度動きをやり直す。
「そして最後は『
再び地面を掬いあげるように切り上げながら技の名前を叫ぶと同時に、黒き獣の頭部に酷似した瘴気が地面から出現した。瘴気は飛ぶことなくその場で霧散した。
「ま、こんなとこだな。これが精霊でも出来るならある程度安全に戦えるかもしれねぇ。何せ必要な時にしか使う必要はねぇからな」
「…236+Pボタン…」
「ん?何だそれ?」
「い、いえ。何でもないわ」
まさかラグナの動きと説明を聞いて最初に思い浮かんだのが某有名格闘ゲームの波動コマンドだなんてとても言えない千景だった。
「だから技の名前を叫んでいたのね…それだと叫ばなかったら発動出来なくなるということかしら?」
「できなくはねぇが…威力はコードを言わねぇ時より弱くなるな。ちょっと見せるわ」
名前を言わずにもう一度デッドスパイクを放つと再び発動した。しかし先ほどよりも瘴気の量が少なく、すぐに消えてしまった。これではフェイントや牽制には使えども、実戦では使い物にならない。
「あれってちゃんと意味のある行動だったのね…」
「ついでに言うと名前を付けた方がイメージしやすいからな。テメェらもやってるからてっきり同じ理由だと思ったが」
「アレは…高嶋さんが率先してやっているだけで、後は何となく貴方の真似をしているだけだと思うわ」
「そうか?精霊の名前を叫ぶところとか殆ど魔道書を起動させるところとそう変わらねぇように見えるけどよ」
言われてみれば確かにその通りだ。勇者たちは精霊を喚び寄せる時に決まって名前を叫ぶ。そうしないと力が発現しないからだ。
「そうね…確かに精霊の名前を叫ばないと、特に乃木さんや高嶋さんみたいに精霊が二体以上使える人は大変だわ」
「テメェも一応その枠組みに入ってけどな…てそうだった。一番大事なことがあったじゃねぇか」
良いかチカゲ、とラグナは念を押すように言った。
「精霊の力…いや、違うな。もっと言うなら『勇者の力』を自分の『力』だと思うな」
「えっ…?」
一瞬ラグナの言っていることに千景は混乱した。千景にとって勇者であることは少なからず誇りであったこともあってすぐには受け入れにくい言葉だったのだ。勿論それはラグナも理解している。
「あー…何というかよ。こう、自分の『力』として『認識』しちゃダメなんだよ。こう、利用して『コントロールする』つもりで力を使わなきゃならねぇんだ」
「自分の力と思うんじゃなくて…力をコントロール…あぁ、だからあれだけ武器や格闘を自由に使いこなすことにこだわったの?」
「ぶっちゃけあの訓練で重要だったのはイメージした通りに身体を動かすことだったからな。勇者の力も精霊も同じようなモンだ。使われる側に回るな。逆に自分が手足を使うように扱う側になるんだ。そうすりゃ力に振り回されることもねぇだろ」
「なるほどね…理解したわ。それじゃもう時間もちょうどいいし、始めても良いんじゃないかしら?」
「分かった。少し待ってろ。準備してくる」
そう言ってラグナは立ち上がると千景の訓練用の木鎌を取らずに自分の訓練用の木剣のみを取り出す。
「どうしたの?もう貴方の武器はあるのに」
「ああ、それなんだが…本来の武器が帰ってくるまで今日からはこいつが訓練するときのテメェの得物だ。一応こいつにもテメェらの武器みてぇにエネルギーが入っているし、良い練習相手になると思ってな」
ラグナは大剣を千景の方に投げ渡すとそれを千景が受け止める。セラミックで出来た大剣は重量こそあるが、それでも以前の大鎌に比べれば少し軽い。
「それで、どうやってこれを鎌に変形させるの?」
「少し力を込めればすぐに出来るぜ」
そんなものなのだろうかと千景は取り敢えず集中する。イメージするのはいつも持っている大鎌。これまで何度も戦いで使用してきた武器だ。
するとカチッと景気の良い音が鳴ると、大剣の刃は柄を沿って上方向にずれていき、先端の歯車に先が着くと自分の方へ折れ曲がった。同時に刃のあごから鮮やかな紅色の閃光が出現し、鎌の刃へと形を変えた。
「お、一発で出来るなんてスゲーじゃねぇか」
「使っているところは良く見てたし、私も大鎌の武器だったから…それでも展開するのに少し手間取るとは思ったけど…」
瞬時に答えてくれた大鎌に千景は不思議な感覚を覚えながら、二人は訓練を始めるのに少し広い場所へと移動する。他人の物とはいえ、久しぶりに実際の武器を使った訓練だ。
「よし、今回も前回みてぇに戦闘訓練だ。今度は技も使いながらやってみろ!俺の方も術式を使う!」
「分かったわ。それじゃ、行くわよ!」
「掛かってこい!」
そこからは軽い戦闘だ。ラグナは武器が木剣である以上、千景の大鎌と真正面からぶつかり合うことは出来ない。だから術式を使ってパワー不足を補っている。千景に術式を用いた戦闘を見せることも出来るので結果オーライだ。
「ヘルズファング!!!」
「乱れ裂き地獄花!!!」
瘴気で切り払うと千景もそれを大鎌の一撃で薙ぎ払う。その後も木剣に纏わせながら打ち合うことで上手くその攻撃を捌いていく。千景の方も技のキレが以前よりも良くなっているようだった。
そんな中で千景は不思議に思っていた。この武器を使って戦っていると、驚くことに全く不自由を感じない。まるで長い間失っていた手足が戻ってきたようだった。
(どうして…こんなに懐かしい感じがするんだろう…)
そんな疑問を感じたが、今は訓練中だ。気を抜くことは出来ない。飛び掛かって木剣を向けたラグナが突進してきた。
「ベリアルエッジ!!!」
「『焦熱地獄・紅蓮ノ業火』!!!」
紅の刃は何重にもなってラグナを襲い掛かるが、彼はそれを突破して千景に攻撃する。見事に体当たりを喰らった千景はラグナと共に地面に転がった。
「あいててて…」
「ちょっと、気を付けて。仮にも訓練だから中断するようなことをしたらダメでしょ」
「悪ぃ悪ぃ。つい熱くなっちまって。すぐ退くから」
「…仕方ないわね」
それだけ本気で付き合ってくれていると考えたら千景もそこまで悪い気はしなかった。
「おや、どうした千景。そんなところで寝ていたら熱いぞ?」
「ワーオ、ラグナったら大胆!」
他の外野に見られるまでは。声のする方向を見るとそこでは歌野たちが自分たちを眺めていた。改めて自分たちの状況を見て考える。
現在ラグナは千景を覆いかぶさるような形で四つん這いになっていた。そして自分と彼の顔の距離はそこそこ近い位置だった。そこから導き出される回答はただ一つ。
「…もしもし大社の方ですか?郡様がロリコンに襲われているのですが」
「待て待て!!!誤解だ!!何もやってねぇから!!」
「お願いだから待って!!これには深いわけがあるの!!」
真顔で大社に連絡しようとする美佳を急いで止めに行くラグナと千景だった。
「どうするの…怪しまれてるわよ、絶対」
「本当に済まん…」
気まずい沈黙の中、ラグナはゴミを見る目でこちらを見る美佳と仏頂面の烏丸と対面していた。勇者たちはというと四人の横で見守っていた。
「久しぶりだな、ラグナ。相変わらず派手にやっているようだが、まさか朝から騒動を起こすとはとんだトラブルメーカーだ」
「だから誤解だって言ってんだろ、クミコ!!俺たちは訓練していただけでアレは事故だ!!変なことなんてしてねぇよ!!」
「火災事故とはお熱いな」
「茶化すんじゃねぇよ!!!」
慌てた様子で弁解するラグナに対して烏丸は冷静なままだった。勿論ラグナが故意にそんなことをしたと彼女は思っていないが、反応を返してくるラグナが面白おかしかったので冗談のつもりでちょっと揶揄ってみた。
「安心しろ、そんなことは分かっている。実際、やましいことはないのだろう?ならばそこまで慌てる理由はない」
「そ、そうか…信じてくれるのか」
「ああ、『私は』信用しよう。だが、花本はそうとは限らないぞ」
「ハナモト?そっちの眼鏡の奴か?」
ラグナの言葉に反応して美佳は不機嫌ながらも丁寧に挨拶した。
「初めまして、ラグナ=ザ=ブラッドエッジさん。私は大社で巫女を務めている花本美佳と申します。貴方のお話は上里さんと安芸先輩から聞いています」
「別にラグナで良いぞ。下の方で呼ばれんのはなんか慣れねぇし」
「…そうですか」
依然としてラグナを不審な目で見る美佳。先ほどのアクシデントのせいで彼女のラグナに対する認識はヘンタイ=ノ=ロリコンエッジなのだろう。
「…あの、花本さん。そんなに警戒しなくても大丈夫よ。ワザとやった訳じゃないのは分かっているから」
「…そこまで言うのでしたら」
流石に千景に言われたら美佳もピリピリしたままでいるわけには行かない。一度警戒を緩めた。それでも疑いの目は晴れなかった。そんな彼女の代わりに千景が彼女を紹介した。
「花本さんは7・30天災の時に高知で私を導いた巫女で、普段は大社にいるわ」
「つまりマスズと一緒にいるのか」
「そういうことになるわね。勇者の力を目覚めさせたあの時は印象的だったし、珍しい名前だからよく覚えているわ」
自分のことを覚えていてくれたことに美佳は静かに歓喜していた。自分にとってもあれは大事な思い出だからそれが共有出来ているみたいに感じて嬉しかったのだ。
「そうだったのか…それで何で俺は変な目で見られてるんだ?」
「恐らくお前が大社内でも警戒されているからだろう。あの紙を見せたらどうだ、花本」
「はい。これなのですが」
烏丸に促されて美佳は自分が見ていた紙を出した。それを見て勇者たちは微妙な顔をした。写真でも撮れば良かったのにこれは酷い。同じようにそれを見てラグナはハァ~と大きな溜息を吐く。
「………さてと」
ラグナが立ちあがって部屋の端に置いてある自分の大剣を取ると玄関に向かった。
「大社を潰してくるか」
「待って!!ラグナ待って!!」
「気持ちは分かるけどそれやったら本当にバウンティになっちゃうわ!!」
「離せ!!こいつを描いた奴に一発文句を言わなきゃ気が済まねぇ!!」
「後でひなたにもこれを訂正してもらうようにお願いするから今は落ち着いてちょ!!」
「秋原さん…そういう問題じゃないと思います…」
暴れ出すラグナを雪花と歌野が必死に抑えてくれたおかげで何とか事なしを得たが、まだ不機嫌な様子を見せていた。
「ったく…誰だよ、こいつを描いたのは…人相が悪いのは認めるけどさ…大社の連中も俺がこんなブサイクに見えるのか?」
「まさかラグナ…『前』にもこんなことがあったのか?」
「…そうだ」
棗に答えたように元の世界でもラグナはこの絵を見たことがある。というのも自分の指名手配書と全く同じ絵だったのだ。
「写真なんてそれこそヒナタがいっぱい持ってるだろうが。気付いたら撮ってるからよ」
「お前一人の正面写真をか?いくら上里でもそれが撮れているとは思えないな」
「何でだよ?」
「お前が一人で撮られるのを嫌がるからだと聞いている」
「一回は撮られるべきだったってのかよ…」
烏丸にそう指摘されたラグナは頭の片隅で今度撮ってもらうように頼んでみるかと考えていると、千景が突然立ち上がった。
「どうした、チカゲ」
「もうお昼になるでしょうから、食べるものを用意しようと思っているわ。それに今日は私が当番だから」
「ああ、もうそんな時間か。分かった」
「それなら私は運んできた荷物を下ろしに行くよ。お前たちの騒動で置き忘れてしまったからな」
「では私たちも手伝いますよ。元々は私たちが持ってきた荷物ですし」
水都たちは烏丸と一緒に乗ってきた車から荷物を下ろしに部屋から出て行った。千景が台所で料理している背中を見ながら美佳がラグナに今度は千景との生活について追及してきた。
「ところでラグナさん。現在は郡様と生活しているようですが、一体どのような生活を送っているのでしょうか?」
「いやどんなっつても、大したことしてねぇぞ?一緒に飯食ったり、家事したり、ゲームしたり、そんで訓練しているだけだ」
特に何でもなさそうにラグナはそう言ったが、美佳からすればそれはとても羨ましいことだった。千景の傍にいて、その力になっているのだから。
「…そうですか。ではもう一つ聞いても良いですか?」
「何だ?」
「…郡様は今、幸せに暮らしていますか?」
美佳は小さく、一番気がかりだったことを聞いてきた。美佳は千景の家庭の事情を大社から随分と前に聞いたことがある。そして何より、彼女が最初に
バーテックス襲来のあの日に訳の分からない衝動に駆られて古びた社へ向かうと、そこで後に大鎌となった刃を手に抱えた少女がいた。その少女が千景だったのだ。
「そいつは本人に聞くしかねぇだろ…つーかそれをなんで俺に聞いたんだ?」
「…先日、郡様は精神が不安定になったために一般人を攻撃したと聞きました。それが原因で謹慎処分を受けたことも」
最初にそれを聞いた時、美佳は大社の対応に怒りを覚えた。何故それまで千景を虐げてきた者たちはお咎めなしで、それまで誹謗中傷を耐えてきた千景が罰せられなければならないのか。それに対してあまりにも納得出来なかった。
当然本人もきっと落ち込んでいるだろうと心配した。肝心のところで力になれないことを歯痒く思った。
「ですが…ここで生活している郡様は笑っていました。とても、幸せそうでした。それに貴方が関係しているだろうと考えて…お聞きしたかったんです」
「…もう一度言うが、俺は千景がここで暮らしていたから幸せになったかと聞かれたら、そうだとは言い切れねぇ。ここは丸亀城と比べたら少し不便だからな」
神社の生活は良くも悪くも刺激は少ない。来客は決まった日以外はいないし、自分たちも街に出ることは出来ない。この閉じこもった空間で二人で力を合わせて生活しなければならない。物資もある程度決まっているから、大きな贅沢も出来ない。
「けど…テメェの言う通り、アイツはここ最近よく笑うようになったよ。一時期は心配だったが、少しずつ活力を取り戻してきている」
「…そうなんですね」
「ああ。やっぱり仲間の皆とまた話が出来たことが大きいと思うぜ」
「貴方ではなくて?」
「俺だけじゃねぇよ。アイツの周りには色んな連中がいて、そいつらがアイツのことを想ってくれていたから、アイツはここまで元気を取り戻したんだ」
実際他の仲間たち、特に友奈と会えることを千景は楽しみにしていた。そのおかげか、毎日の訓練や家事でもかなり頑張ってくれている。
「…私も、そうなることが出来たのでしょうか?」
「あぁ?どういうことだよ?」
「私は…郡様とはあの日の7月30日以降、一度も御会いしたことがなかったんです」
何かを話そうとしているようだったのでラグナは一度黙って話を聞く姿勢を取った。
「勿論いつでもというわけではありませんが、会おうと思えば安芸先輩のように会いに行くことは出来たんです。でも…私には出来なかった…」
「…何でだ?」
「私は…上里さんと乃木様の関係みたいに特別親しい間柄ではありません。郡様を導いた巫女、でもそれだけです。それ以外は…巫女として力も人間としての器も特に目立ったものではない…どうしようもなく凡庸な人間なんです」
美佳は三年前、勇者のお目付け役に立候補したことがある。だが結局任命されたのは同じく立候補したひなただった。その時に美佳は自分が凡庸な人間であるという事実を突きつけられた気分になった。
「だからでしょうか…それからは郡様に会いたいとは思えなくなってしまいました…もし郡様に会った時に、私のことなんて忘れていて…特別でも何でもない、記憶の片隅にも置かれないようなモブとしか認識されていない…そう思い知らされることが…怖かった…勇気が足りなかったんです…」
そう言い終えると美佳の表情は暗くなっていった。幸い料理に忙しい千景はこの会話を拾うことは出来なかった。もしそうなっていたら美佳は自分を許せなかっただろう。
「…ヨシカ」
その言葉を聞いてラグナは口を開けた。
「ダメな自分が見られるのが怖ぇからっていつまでも行動しなかったら誰かにとっての特別な存在だと認識されねぇのは仕方ねぇよ。それじゃあテメェのことを
「…だったら…どうすれば…良かったんですか?」
「決まってんだろ。取り敢えず話をして、偶にそいつが好きなことを一緒にやったり、飯食ったり…まあなんだ、普通の友達と同じように接すればいいんだよ」
「ですが…勇者様ですよ?私のような人とでは…」
ラグナは美佳の事情を知らない。だがそれでも彼女が千景のことを大事に思ってくれていることは理解した。
「…色んな勇者を見てきたやつとして一言言わせてもらうぜ、ヨシカ。勇者ってのは…別にとんでもねぇ人間離れした連中じゃねぇよ。嬉しいことがあったら心が温かくなって…辛いことがあったら心が冷たくなっていく…そんな、普通の人間だ」
その普通の人間の特別になるには、それだけ触れ合わなければならない。そりゃ衝突することもあるだろう。元は違う存在だから。だが、それを乗り越える度に絆は強くなる。
「それにこうしてアイツに逢いに来たんだ。勇気がねぇなんてことはねぇよ」
「違うんです…それは結局郡様のことが心配になっただけで…堂々と会いに来たわけじゃないんです…」
「良いじゃねぇか、それで。形はどうであれ、テメェがアイツを大事に思ってくれてんのは本当なんだろ?だったらそれで十分だ。それにインタビューの時にワカバも言ってたじゃねぇか。どんな人間にも勇気があるって。テメェはチカゲが大変な目に遭ってるって聞いたから態々ここまで来たんだろ?」
その言葉を美佳は否定しなかった。どうか無事でいて欲しいと勇者たちの戦いが始まった時から祈ってきたのだから。
「そいつも、ワカバの言う勇気って奴じゃねぇのか?」
「…そうだったら、とても素敵なことですね」
「そうなんだよ。細けぇことを考えすぎだってだけだ…まぁ、気持ちは分からなくもねぇけどよ…」
「え?」
「具体的には話せねぇが…俺もアイツらに自分のダメな部分を話すのが正直怖かったことがあったんだ」
自分の過去がバレて、それについて詳しく話さなければならなくなった時、ラグナは自分が仲間たちから拒絶されることを恐れた。
「でも、ユーナの言葉と、ある約束が俺を後押ししてくれてな。話したらかなり驚かれたりしたけど…最後には皆受け入れてくれたよ」
「…そうだったんですね」
「だからよ。そこまで気にしねぇで突っ込んでも何とかなるモンだと思うぜ。話すかどうかはテメェ次第ってだけでよ」
「それはただラグナさんが物事を細かく考えることが苦手なだけではないでしょうか?」
「それって要は俺が単純だって言いてぇだけじゃねぇか!!?」
「上里さんや安芸先輩の話とか聞くとそう感じますよ。でも…そうですね。私にはそれが足りなかったのかもしれません…」
「…そうかよ。ま、それなら良かったぜ」
何らかの答えを得たのか、美佳は一人笑うのであった。丁度話が終わった頃に千景も昼食の準備を終わらせて食べ物を運んできた。
「簡単なものしかないけど、最近暑くなってきているから素麺を作ったわ。たくさん作ったから遠慮なく食べて」
「あ、ありがとうございます。郡…先輩」
「先輩?」
「も、申し訳ございません…安芸先輩と同学年だと聞いていましたので…」
美佳が緊張で自分の言葉をまとめられないところへラグナが一言添えた。
「テメェと友達になりてぇってさ」
「友達?」
「ああ。そいつ、テメェの話を大社で聞いていた頃からテメェのことが心配だったみてぇでな。テメェの助けになりてぇって言ってたんだ」
「そうだったのね…」
それを聞いて千景は美佳の隣に腰掛けて彼女に話しかけてきた。
「えっと…花本さん」
「は、はい!!」
「ありがとう…こんな私を心配してくれて…でも私…貴女が思うような素晴らしい人間じゃない…多分もう知っていると思うけど…一度過ちを犯したわ」
「郡…先輩…」
「けど…それでも…私の友達に…なってくれる?」
千景は心細そうに言うが、美佳の心はもう決まっていた。勇気を出すなら今しかない。
「…はい!!こちらこそ…よろしくお願いします!!」
「ありがとう…」
千景と美佳が仲良さそうに話しているのを見て、ラグナも安心したように笑う。そこへ歌野たちが部屋に戻ってきた。
「ウィアバック、エブリワーン!!!ミータクロースが新鮮な野菜をお届けよ!!!」
「う、うたのん。それ、時期外れだよぅ」
「お届け?あぁ、そういやミトの夢って宅急便だっけか」
「はい、そうなんです。考えてみれば去年に一度聞いていたんでしたね」
「ああ」
諏訪で一度別れた時のことを思い出す。どうやら歌野の畑から採れた野菜を態々ここへ届けるために車で来たようだ。
「そうか。これ、全部ウタノが作った野菜か」
「いえ、全部ではありません。実は諏訪のおじいちゃんおばあちゃんたちも少し分けてくれたんです。ラグナさんたちの現状を聞いたら是非分けてあげて欲しいって」
「そうだったのか…そういや、爺さんたちは今どうしてんだ?前に会った時は大社が用意した場所で暮らしてたみてぇだけどよ」
「実はね、諏訪の皆が暮らしているのはここから出たところにある街なのよ」
「何、どういうことだよ?あそこって前から人は住んでただろ?」
それについて歌野たちは説明した。あの後、黒き獣によって汚染された土地の浄化は確かに終わった。
しかし、そこへ戻らない者たちもいた。かの怪物が侵攻した場所で暮らすなんて恐ろしすぎるとのことだ。
「そんな時に一部の人間がそこへ移り住んできて、それが諏訪の皆や元々壁の外で暮らしてきた人たちなのよ」
「街の様子を見てきたが、すごく活気づいていたぞ。あれなら生活でも問題なさそうだ」
「…良かったのか?もう直っちゃいるが、あそこは一度黒き獣に汚染された土地だぞ?」
そんなラグナの疑問に水都が嬉しそうに返した。
「私も心配だったんですけど、皆が勇者の皆が四国を守っているから問題ないって。それよりラグナさんたちが今大変な思いをしているなら遠慮なく頼ってくれって」
「沖縄の皆も大変な時こそ、人は助け合うべきだと言っていたな。神樹様による浄化は終わっているが、街の復興自体は完全には終わっていない。色んな人たちが力を合わせているようだ」
「今は『
「そんな人たちがいたのね…全く知らなかったわ」
初めて聞いたらしい美佳の話から推測するに、そう言ったことまでは大社でも把握しきれていないようだ。
「何はともあれ、アイツらが元気そうにしてんなら良かった」
土地に住む人が変わったことで街は変化し、新たな時代へと変遷していく。果たして自分の時代ではどのような影響が出てくるのか、予想がつかないものだ。
「千景さんの謹慎が解けたら皆で遊びに行きましょう!!」
「…そうだな。街の方がどうなってんのも気になるし、いつかは見に行きてぇ」
「でも…変な目で見られないかしら…良くも悪くも…勇者は有名になったから…」
千景の心配は最もだ。確かに以前に比べれば勇者に対する批判も収まったが、それでも批判的に見ている人間がいる可能性がある。まして行く場所はかつて黒き獣から守れなかった場所だ。元々の住人で攻撃的な人間もいるのかもしれない。
「そいつは他の皆に任せりゃ問題ねぇよ。何回か行ってんなら怪しい場所もある程度目星がついてんだろ、ウタノ?」
「ええ!最近は若葉たちも偶に街の方へ出かけているみたいだから、私たちと一緒ならノープロブレムよ!!」
「そう…それなら大丈夫そうね」
「まぁ、気楽に考えれば良いんじゃない?流石にすぐ連れて行く予定はないしさ」
「それならばまずは海へ行った方が良い。母なる海に包まればきっと千景の心は癒されるはずだ」
「いや、それは棗さんが海に入りたいだけじゃ…」
雪花が苦笑いをしたが、それに喰いついたのは意外にもラグナだった。
「…いや、そいつは良いかも知れねぇぞ。いきなり街へ行くより、ビーチにでも行って気の知れた友達とはしゃいだ方が良いだろ」
「ラグナもそう言ってくれるのか」
棗は嬉しそうに笑う。ここ最近は苛烈な戦いの連続だったために海へ行く機会も中々恵まれなかったので、今度海へ行けるかもしれないと分かってワクワクしているのだ。
しかしここで千景は大きな問題に気づいた。自分は海で遊んだことなんて一度もない、だからいわゆる学校用の水着はあっても、外出用の水着は持っていない。
そしてもう一つは普段目立つことはないものの、自分の身体には過去の虐めによる傷がある。以前の旅館はタオルがあったのでまだ隠せたし、何より女性だけだったのでまだ良かったが、今度は男性であるラグナもいる。
(傷のついた身体を見られたら…気を害してしまうかしら…)
彼が気持ち悪がることは絶対にない。それはここ最近の同居生活のおかげで分かっている。寧ろ彼は村人のことを思い出して連中に怒りを覚える可能性がある。自分のせいでせっかくの楽しい海水浴が台無しになると考えたら千景は海へ行くことに気が引けた。
彼女が奥ゆかしそうにモジモジしていると、ラグナがそれに気づいた。
「ん、どうしたチカゲ?」
「え、ええ。その、私、水着が…」
「持ってねぇのか?」
「うん…そうなの。もしかして貴方も?」
「学校から貰った奴があるし、俺が買う理由もねぇだろ」
「そこは流石に新しいのを買おうよ、ラグナ。皆で海水浴しに行くのに流石に学校指定ので来るのは悲しすぎるって」
「お、おう」
何故だか分からないが、どうやら自分も新しい水着を買う必要があるらしい。
「…まぁ、学校の奴で行っても仕方ねぇか。それで、何処へ買いに行くつもりだよ?」
「…烏丸先生」
それを聞いて美佳が烏丸の方を懇願するように見つめる。その意味を理解した彼女は頷いた。
「そうだな。郡の精神状態はかなり安定してきたようだし、大社にもお前たちの謹慎を一時的に解除してもらうように申請しよう。外に出るのに慣れも必要だろうしな」
「助かるぜ、クミコ」
「気にするな。それとアルカード嬢も疲れているようだからな、あの娘の休暇も兼ねてだ」
「ウサギの奴、そっちで上手くやってんのか?」
「ああ。もう粗方の『用事』は終わらせたはずだ。後は『本番』に挑むだけだ」
「アルカードさんは殆ど様子を見に来ていないけど、何をしているのかしら?」
「大事な用だって言ってたぜ。けど何をしてんのかは知らねぇんだよな」
どこまで事が進んでいるのかは知らないが、きっと大事なところまで来ているのだろう。
その後も食べながら買い物の予定についてどんどん話が弾んできた。場所や日時、ついでにどんな水着を選ぶ予定か、特に女子の方で盛り上がった。そんな中でラグナは素麺を啜った時に小さく声を漏らした。
「この汁…」
「どうかしたんですか?」
「いや…何か懐かしい味がしてさ。前にみ…母さんが作ったモンに似てる気がすんだ」
確かにラグナは自分でうどんが作れる。ただ、どうしても芹佳の作り出した味を完全に再現することは出来なかった。限りなく近いものは作れてもどうしても最後のところで引っ掛かりを覚えていた。
「これですか?恐らく鰹を使った麺つゆだと思いますよ。私も郡先輩も高知が出身ですから、県の名産を使った汁を選んだのかもしれません」
「鰹…か…」
今度はこれを使って天玉を作るかと計画していると、花本がラグナに話しかけてきた。
「『ラグナ先輩』」
「ん、どうした?」
「今日は話を聞いて下さって、本当にありがとうございました。少しずつですが…私も勇者の皆さんに歩み寄れるよう、頑張ります」
「そうか…応援してるぜ」
食後に千景とゲームの対戦をしようと彼女を誘う美佳を見て、ラグナもそっとエールを送るのであった。
結論としてどの時代でも何だかんだ先生は何だかんだ先生だった。
因みに分かりやすく例えると、コードありの術式の扱いはテクニカルタイプ。コード無しはスタイリッシュタイプの操作と同じ感覚です。きちんとイメージ(コマンド)をしないと威力が下がります。
原作ブレイブルーとは若干設定の違いはありますが、一応あちらのものも込みで一纏めにしているという設定です。
次回ですが、ゆゆゆいのホワイトデー回(バレンタインやったのにこっちをやらないわけには行かない)か買い物回をやる予定です。
実は最初、海じゃなくてブレイブルーAM5話の混浴回をやろうかなと思ったのですが、よく考えたら夏といったら海で、棗の海関係の話もしていないなと思いまして。後は熱い要望もあったので急遽こちらへシフトチェンジしました。
それではまた、お会いしましょう。