ときめきの章のDLC、実装はいつですか?難易度は多分全員ラスボスクラスだろうけど。パラメータ的な意味で。
今回の話は海水浴前の前日談。水着のお買い物へ行ったラグナたちはまたしても騒ぎに巻き込まれる。それではどうぞ。
時は7月の末へと移り、そろそろ八月になろうとしている頃にひなたが丸亀城の前で誰かを待っていた。今日は皆と買い物へ出かける日だ。
何気にこういったことは初めてだということもあってひなたも楽しみにしていた。しかし、少し気がかりなことがあった。
(それにしても珍しいですね。いつもならば約束の時間の十分前には来ている若葉ちゃんがまだ顔を見せないなんて)
生真面目を絵にかいたような性格の幼馴染の異変に疑問を持っていると後ろから件の人物の声が聞こえてきた。
「済まない、待たせてしまったな」
「いえいえ、私も今来たところ…」
ひなたの視線の先にいた若葉はジャージ姿に帽子を被っており、顔をサングラスとマスクで隠していた。傍から見れば不審者以外の何物でもないのだ。
「えっと…その恰好は一体…」
「変装だ!勇者とバレては問題になるからな!」
何ともズレたことを言う若葉にひなたは頭を押さえて天を仰いだ。そんな彼女に他の人物も話しかける。
「あれ?どうしたの、ヒナちゃん?」
「いいえ…なんでもありませ…」
そこにいた友奈は同じくジャージ姿で今度はプラスチックのお面を被っていた。これから買い物へ出かける姿とは思えない。こればかりにはひなたも膝を屈してしまった。
「お、友奈も変装とは分かっているな」
「若葉ちゃんもね!」
二人は盛り上がっているが、ひなたとしてはデートとも取れるこの買い物に変装した姿で行くのはあんまりである。
「おいテメェら。何なんだその恰好は」
「ああ、ラグナさん。聞いてください、皆さんが…」
その時、ひなたがラグナの姿を見て思わず閉口した。ここへ来たラグナの服装自体は至って普通だった。寧ろ普通過ぎた。何せいつもと同じ赤コートで変装も何もなかったから。
「そ、そのままの服装で来てしまって大丈夫だったんですか!?」
「あ?何か問題でもあったのか?」
「い、いえ。ここへ来るまで誰かに見られたらと考えたら少し心配になって」
彼は事情の知らない人間から黒き獣と関係を持っている可能性があるとして疑われている。それなのに普段と変わらない服装で街を闊歩していたらしい。後ろで帽子を被って顔を隠している千景とは大違いである。
「一応私もせめて別の服装にした方が良いんじゃないって言ったけど…」
「大社の連中も一緒だったし、人目はちゃんと避けたぞ」
「いや…そういう問題では…」
寧ろ問題はいつもの服装のまま、ここに来るまで街中を歩けたことである。少なくともひなたや千景には出来ない。
「…ラグナさんはきっと、賞金首だった頃からこんな感じだったんでしょうね…」
「あの頃は飯屋に行っても特に何も言われなかったぜ?」
「無防備すぎますよ!?もう少し警戒しないとだめですからね!」
「そんじゃあ、俺もワカバみてぇにマスクとグラサンを付けてジャージ着なきゃならねぇか」
「アレは少し度が過ぎるだけです!!」
「グハッ!?」
自分たちの変装が軒並みひなたから不評で若葉は少しショックだったりした。
「あ、そうだ!ラグナちょっと待って!」
そこへ友奈が一つ案を浮かんだようで急いで丸亀城の方へ行った。何だろうと待っていると数分して彼女が戻ってきた。
「ねぇラグナ、ちょっと作ってみたけどこれなら変装に使えるんじゃない?」
「これは…!!でかしたぞ、ユーナ!!ちょっとこいつを付けてみる!!」
それを見たラグナは友奈からブツを受け取るとそのまま頭に被った。黄土色の表面に覗き穴が二つ付いていて何とかブツを固定させるために下に紐が通っていた。申し訳程度に特撮ヒーローの顔が描かれていた。
そこに首を通すとラグナは位置を調整すると周りを見回った。そこで友奈の方へ向くと礼を述べた。
「ユーナ、ありがとな。こいつならバッチリだ」
「力になれたみたいで良かったよ!」
「しかしすぐ作ったにしては良く出来てんな、このダンボールマスク」
ダンボール製のマスクをラグナはいたく気に入ったようだが、千景は苦笑いを隠すことが出来ず、ひなたに至っては溜息が出てきた。彼の服装に対するセンスはどうやらかなり残念らしい。
「千景さんは…恐らく大丈夫だと思います。帽子だけですから」
「流石に必要以上の変装にはちょっと躊躇いがあったから…」
「そうですか…ですが問題はまだ残っています」
「そうね。せっかくだから高嶋さんたちとは普通に出かけたい…久しぶりの外なのにジャージとダンボールを着て一緒に出かけるのはちょっと…」
地味に千景の一言が心に来たラグナと友奈がショックのあまりに二人揃って四つん這いになっているとひなたが若葉を含めて三人に優しく語り掛けた。
「それでは皆さん、他の方たちが来ない内にお着替えです」
『…はい』
「にゃはははは!ノギーと友奈の話はちょっと驚いたけど、ラグナはやっぱり騒動を起こしちゃってますなぁ」
「イケると思ったんだよ、変装として」
「ごめんね、困らせちゃったみたいで」
「高嶋さんの気にすることはないわ…服を変えて来ない彼に問題があったから。だから帽子も勧めたのに」
結局ラグナの背丈に合う服をひなたたちは持っていなかったので、着替えずに出かけることになった。若葉と友奈が普段着に着替え終わっている頃には丸亀城にいる者たちが集まり、出発することになった。
「アハハ!ラグナったら、ひょっとしてあっちの方でもダンボールを全部キープしているのかしら?」
「余り物の保管とかに使うのに何枚かは取っておいているけど、彼に任せていると溜まってしまう一方だから私が必要に応じて廃棄しているわ」
「もう少し取っておきてぇんだよな…」
「そんなことしていたら家がゴミ屋敷になってしまうでしょ…皆との休日だから職質されて横やりを入れられたくないし…別にあそこが無くなって路上に迷ったりするわけじゃないんだからあんなに取っておく必要はないわ」
「その意見には同意するわ、千景」
共同生活のおかげで家事も自主的に行うようになった千景はすっかり逞しくなっていた。それを見てレイチェルもご満悦のようだった。
「それで、どうだったかしら?二人での生活は?」
「悪くないぜ。チカゲは色んなモンを覚えてきたし、こっちも術式の扱いを改めて復習できたしよ」
「そうね…私も、色んなことが出来るようになったし…大分落ち着いてきたと思うから…」
「あ~、何となく分かるよ~。あそこって、雰囲気がすごく優しい場所だもんね」
「それも神樹様と関係しているのでしょうか…」
そんなことを考えていると自分たちに気付く者たちと遭遇するようになる。意外にもラグナを見ても大して気にしていないようだった。寧ろ快く彼に挨拶したり、礼を言う者が殆どだった。
「それにしても意外と大丈夫だったわね。貴方を見てもそれほど他の人が動揺していないみたいよ」
「悪ぃことなんてしてねぇから堂々としたって良いんだよ。文句言いてぇ奴は勝手に言ってろっつー話だ」
「分かる。その意見、タマは大いに賛成だぞ。変に気にしすぎると色んなモンを見失うからな」
「…そうね。少し神経質になっていたわ」
自分の世間での評価をあまり気にしていない様子のラグナに千景は小さく笑う。その彼の言葉に杏が補足した。
「それもありますけど、この辺りは四年前から外から移ってきた人も多いんです。だからそれほどラグナさんのことを気にしていないみたいなんですよ」
「それだけでか?」
「はい。皆、ラグナさんに助けられた人達みたいなんです。私も偶に話を聞きますけど、当時からよくトラブルに巻き込まれていたようで」
「仕方ねぇだろ…あのまま放っとくのも気分悪ぃし」
昔からだ。かつての世界でも復讐の旅に出ても困っている人間や家族に対しては非情になり切れないお人好し。そのまま放っておけば自分が苦労することないのについ助けてしまうのだ。
そんな話をしている内に一行はデパートの水着売り場に着いた。選り取り見取りの様々な水着が展示されていて、女子たちは目を輝かせていた。
「わぁ、色んなのが置いてあるね!」
「そうね…こういう場所は初めて来るけど、これだけ種類があると迷ってしまうわ」
「せっかくだし、ラグナが選んでやったらどうだ?」
「何で男の俺が選ぶんだよ…」
球子の提案にラグナは苦い顔をする。別に嫌だというわけではないが、男子である自分が選ぶのも何か違うと思った。
「こういうのは野郎の俺よりセンスのあるセッカとかチカゲと仲の良いユーナに任せた方が良いって。選んだ後に問題ねぇなら見るけどよ」
「ぐんちゃんはどうなの?」
「せっかくだから自分で選ぶわ。後で似合うか、皆に見て欲しいの…勿論、貴方も見て欲しいわ」
「…分かった。楽しみにしているぜ」
「じゃあ早速見に行こう!」
友奈に連れられて千景も売り場の奥へと進んで行くと他の者たちもそれにつられて各々の水着を買いに行った。その間、ラグナはレイチェルと一緒に待っていた。
「…で、どうなんだよウサギ。そっちの調子は」
「今のところは特に問題ないわ。最近漸く証拠が集まってきたところよ」
「そうか…で、行けそうか?」
「行けそうではなく、勝つのよ。やる以上は手を抜いたりしないわ」
いつもの涼しい顔で強くそう言う彼女にラグナは頼もしさを覚える。
「で、結局どうすんだ?千景をアルカード家に養子として迎え入れるのか?」
「そんな感じよ。名前を変える必要はないけれど、苗字はもしかしたら変わるかもしれないわ」
「つーことは、これからアイツはチカゲ=K=アルカードになるかもしれねぇのか…」
物凄く尊大な名前になったなというのがラグナの印象だった。名前の響きが下手したら乃木家よりも格上に聞こえてしまうのはどういうことだろう。しかしそれをレイチェルは訂正した。
「いいえ。私はあの娘の保護者にはなるけれど、彼女が日本語の苗字を自分で決めてもらった方が良いと思っているわ。これからの人生を考えたら西洋人の名前は色々と目立つでしょう?」
「…その外国の奴ってのはもういねぇのか?」
「…恐らく、ここにいるのはかろうじて日本にいた者たちだけよ。諸外国がどうなっているかは知らないわ。それも時の流れに沿って徐々にいなくなるでしょう」
「…それで日本人の苗字を使うってか。そう考えたら妥当かもな…」
何はともあれ、これで千景が大人になっても大丈夫だろう。レイチェルの保護下なら余程の敵でも来なければ安全はきちんと守られるだろう。
「つーかテメェは水着を選ばねぇのか?」
「あら、見たいの?」
「何でそうなるんだよ!?俺はただ、海に行くのにテメェだけないのもアレだと思っただけだ!」
「フフフ…そうね。それではせっかくだから選んで来ようかしら…そろそろ行きましょう。あの娘たち、まだ悩んでいるみたいよ」
レイチェルの言う通り、少女たちは自分たちの買う水着を決めるのに揉めているようだった。と言ってもその実態は一方が顔を真っ赤にしているのに対してもう一方の目が輝いていた。
「そろそろ決まってきたか?」
「ラグナさん」
ひなたは何かを期待した様子で彼の方へ振り向くが、彼の後ろへ若葉が回り込んで隠れた。普段は凛々しい彼女から考えられない行動だ。
「あ~…どうしたワカバ。随分と怯えてるみてぇだけど?」
「頼むラグナ!!後生だ!!何とかひなたを説得してくれ!!アレは流石に着られない!」
「もう、若葉ちゃんったら大袈裟なんですから。皆さんに若葉ちゃんの魅力を知らしめるにはこれが一番なんです!」
「へぇ、どんな水着だよ?」
「これですよ。ラグナさんはどう思いますか?」
そう目を輝かせながらひなたが取り出したのはビキニ。これにはラグナも困ってしまった。何というか、あまり軽々しく意見して良いものなのかが分からなかった。
「…う、ウサギはどう思うんだ?」
「感想に困ったからと言って丸投げしないでちょうだい、ヘタレ。でも随分と大胆なデザインね」
「ですよね~!!!若葉ちゃんならきっとこれが似合うと思うんですよ!!」
「そうね。若葉はスレンダーだからこういった水着もとても似合うと思うわ。どうして拒むのかしら?」
「いくら何でも布面積が少なすぎるだろう!!?こんな破廉恥な物は着られない!!」
「は、破廉恥…か…?」
尋常じゃないローライズや上着を羽織っただけで上半身裸の巨漢を見てきたラグナからすればビキニはそれほど布面積が少ないようには見えないらしい。だが肝心の本人が嫌がっているなら流石に他の物を勧めた方が良いだろう。
「ンじゃあワカバならどんな奴を着てぇんだよ?」
「私はこれを選ぼうとしたが、ひなたが反対してな」
そう言って若葉は何の迷いもなくシニア用の水着を手に取った。なるほど、確かに布面積が多い。しかし、これでは学校の水着とそれほど変わらない。
「あ、あ~…何つーか…良いんじゃねぇのか?」
「微妙な反応!!?」
「いやだって…テメェこれ、学校の奴でも事足りちまうだろうが…」
「ではどういうものが良いと言うんだ…」
「…いつもと違う感じの奴…とか?」
「ちょっと、もう少し真面目に答えてあげなさい」
「つってもなぁ。俺に水着のアドバイスなんか出来ねぇよ」
「別に具体的でなくてもいいから、もう少し掘り下げたことを言いなさい」
「分かったよ…あのさ、ワカバ」
「ど、どうした?」
答えを待つ若葉にラグナが語り掛けた。
「まぁ、なんだ。俺を気遣って生地の多い奴を選ぼうとしてんなら気にすんな。別になんとも思わねぇからよ」
「それは男性が女性に掛ける言葉として問題があると思うのだけれど」
「うるせぇよ!!違うからな!!俺はただそういう目で見てねぇから本当に好きなのを選べって言いたかっただけだからな!!」
レイチェルの一言にラグナがすかさず突っ込むが若葉は指を突き合わせながら恥ずかしそうにモジモジしていた。
「いや、そういう意味ではなくてだな…その、私個人が思うにひなたの勧めた水着は布面積が少ないように感じたんだ」
「そうか?こういう水着って結構見るけどよ」
勇者部の方でも若葉と同じタイプの水着を着ていたのは樹だけで、後のメンバーは大体ひなたが勧めてくる水着に近いものばかりだった。
「いやいやいや!!?ビキニだぞ!!?中学生には早すぎる!!」
「そうなのか…それだったらヒナタ。テメェはどんな奴を着てくるつもりだ?そいつを勧めるってことは当然テメェも着てくんだろ?」
「そ、そうだ!!そこのところはどうなんだ、ひなた!!」
こうなったら逆に騒動の原因であるひなたに話題を振ろう。流石にこれなら何等かの突破口になるだろうと考えたが予想外の反応を返された。
「おやおや。お二人はそんなに私の水着姿に期待しているんですか?」
「そんなんじゃねぇよ!!!ワカバの参考にもなるから聞いたんだよ!!」
「私だけ変な水着を着せられてカメラの被写体になり続けるなんて嫌だからな!!」
「そ、そんな…全く期待していないなんて…ヨヨヨ…」
「あ~あ。な~かした、なーかした」
どうやら自分たちが怒鳴ってしまったためにひなたを泣かしてしまったらしい。流石にこれには二人とも申し訳なく思った。
「…済まない、ひなた。今のは悪かった。許してくれ」
「…別に期待してねぇとかそんなんじゃねぇよ。悪ぃ」
「でしたらこれを着てください、若葉ちゃん♪ラグナさんも協力してくださいね♪」
「何!?嘘泣きだと!?」
「ウサギ…テメェ、まさか知っててワザと!!」
「さあ、どうなのかしらねぇ」
『テメェ(お前)らぁ!!!』
『うふふふ♪』
一言言いたい若葉とラグナに対してひなたとレイチェルは笑うだけだった。そこへ歌野と水都がやってきた。
「もう。あんなの着て行ったら、笑われちゃうよ」
「え~、カッコイイと思ったのに~」
「歌野さん水都さん?どうかされましたか?」
「うたのんがですね、こんなのを買おうとしたんですよ!」
水都が見せた水着は何世代か前にありそうな非常にクラシカルな物だった。歌野自身はいたく気に入っているようだが、他の少女たちは苦笑いしていた。
「これは…私でも最近の流行りではないことが分かるな」
「テメェが買おうとした奴もこれとそう変わんねぇ気もするが…」
「やはり私に流行り物は向かないのだろうか…」
「結局どっちなんだよ!?そこまで気にすんだったらヒナタの勧めた奴を大人しく着りゃ良いじゃねぇか!!?」
まさかの飛び火を喰らってしまった若葉にラグナも悶絶のあまり、投げやりなアドバイスを送るが、やはり若葉はビキニを着ることに抵抗を覚えているようだ。
「し、しかし…やはり布面積が…」
「そこまで気にすんだったらウェットスーツはどうだ!!あれなら大丈夫だぞ!!顔しか肌出さねぇからな!!」
「なるほど…それならば潜水にも泳ぎにも支障がない…機能性においても完璧だ!!」
「それは女子中学生としてあんまりですよ、若葉ちゃん!!?」
「そもそも若葉。例え素肌を隠したところで見ている輩は見ているのだから、布面積がどうこうなどは考えたところで無駄よ」
「ええ~!!?」
レイチェルの言葉に若葉は衝撃を覚える。しかしその意見に割って入ってきた雪花が同意した。
「そうだね~。ノギーはちょっとウブなだけでこういうのはもう皆着ているもんだよ?」
「う~…」
「…ああもう、仕方ねぇな!!そんなに悩んでんだったら一回試しに着てみりゃ良いじゃねぇか!!自分が着てぇ奴を選ぶのはその後でも出来るだろ!!」
「そうです!もっと言ってくださいラグナさん!!タマっち先輩のためにも!!」
「は?」
後ろを振り向くとフリルの多い水着を持った杏に抑えられながらもじたばたしている球子の姿があった。大慌ての球子に対して杏は中々に楽しそう顔をしていた。
「どうして水着売り場が誘拐現場になりかけてんだよ…」
「違うんです!これはタマっち先輩がセパレートでも短パンのとかばっかり選んでくるからなんですよ!」
「いや。泳ぎやすいのは良いだろ、別に」
「そんなことばっかりやるから男の子みたいな恰好だって言われちゃうんです!ですからせめて今回は可愛い水着を着させてあげたいんです!!」
「タマコは嫌がってるみてぇだが」
「は~な~せ~!!そんなフリフリの奴を着るくらいなら裸で泳いでやる~!!」
物凄い勢いで球子は抵抗している。彼女からすれば杏の勧める女の子らしい可愛いデザインの水着は自分に合わないと考えているのだ。
「…せめて中間みてぇな奴はねぇのか?」
「今回のテーマはあくまで女の子らしい感じなので中間のような物は逆に地味になってしまうんですよ」
「あぁ…済まねぇ、俺にはさっぱり分からねぇ…」
女子の趣味趣向はラグナには些か難しいようだった。
「それに、ラグナさんも見てみたいでしょう?タマっち先輩の可愛い水着!!」
「…ぶっちゃけ本人が楽しけりゃ水着がどうこうはそんなに気にしねぇけど」
「そうだぞ、あんず!!海へ行くのは楽しまなきゃ意味がないんだ!!だからタマはあんな水着を着なくても問題ない!!」
「え~、せっかくの機会なのに~」
「でも、見るのは私たちだけじゃなくて一応他にも人のいるビーチだから、もっと可愛いのだったりかっこいいのを着た方がいいかも…」
「だったら海でよく泳いでる棗さんに聞こうよ」
「私がどうかしたのか?」
雪花の言葉に呼応するかのように棗が商品の吊るされている場所の陰から出現した。丁度いいところへと言わんばかりに雪花はすぐに彼女に話しかけた。
「ああ、棗さん。まだノギーとタマちゃんが水着を決めてないみたいなんですけど、普段から海で泳いでいる棗さんの意見も聞きたくて。どんな水着を着てくる予定なんですか?」
「私はこのままだぞ?」
「もう持っているってことですか?」
「この服のまま、海で泳ぐ。いつもそうしているからな」
「水着どこ行った!!?」
まさかの着衣水泳という回答に全員が突っ込まざるを得なかった。ある意味棗にしかこれは出来ないので、話は振り出しに戻った。
「どうしますか、ひなたさん?」
「こうなっては仕方ありませんね…勇者の皆さんに恥をかかせるなどもってのほか…実力行使以外ありませんね!」
「や、やめろ~!!タマを連れてどこへ行くつもりだ!!?」
「安心して、タマっち先輩…とびっきりに可愛くしてあげるからね…」
「あんずの目が色々と危ない気がする!!てひなたもタマの腕を脇に抱えるな!!あ、でもこれはこれで」
「連れて行きましょうか、杏さん」
「はい!!」
「待て待て悪かった!!悪かったからフリフリを着せるのだけはやめてくれ~ぃ!!」
一瞬でも腕の感触を楽しもうとした自身の一言により、球子の連行は決定された。黒い笑顔のひなたと実に楽しそうな杏にドナドナされていく。これにはラグナも見守るしかなかった。
「…取り敢えず、俺も早いとこ自分の水着を見つけねぇとな」
「そうだね…でないとタマちゃんの二の舞にゃ…」
「こ、こうなっては挑戦するしかないか…ひなたも喜ぶだろうしな…だが、はしたないのでは…」
球子の惨状を見てラグナや雪花などは苦笑いし、若葉はひなたが手渡された水着と睨めっこする。それに対して棗と歌野は平然としていた。
「そこまで深刻に考え込むほどか?」
「自分の好きのように決めれば良いのではなくて?着るのは自分ですもの」
「そうよね。私はみーちゃんがチョイスした物なら問題ないし」
「そ、そう?それだったらこれとかどうかな?」
「まぁ!良いじゃない、これ!早速買いに行きましょ!!」
「ちょ、ちょっと待って!他のも見てみようよ!」
最高の相棒が見つけてくれた水着を手に歌野は再びレジの方へと駆け出していき、それを水都が追いかけていく。少しばかり早い印象もあるが、あの決断力には見習うべきところはある。
「皆~~、こっち来て~~」
そろそろ自分の水着を探すべきかと考えていると店の方から友奈の声が聞こえてきた。大方千景と彼女の水着選びが終わったのだろう。
二人のいる試着室の前までに来るとそこでは水着に着替えた友奈がいた。その隣には同じく、着替えた千景。友奈は活発そうなパンツタイプのビキニで、千景はパレオを付けていた。
「お~~、二人とも可愛いじゃん!」
「とても良く似合っているぞ」
「えへへ、ありがとう二人とも!」
「贈られて当然の賛辞よ。こんなにも素敵ですもの」
女子たちが感想を述べる中でラグナは一人目を反らしながら黙り込んでいた。その様子の彼にレイチェルは彼の脇に肘を打ち込んだ。
「鼻の下が伸びているわよ、ラグナ」
「の、伸びてねぇよ!?何勝手なこと言ってんだよ!?」
「分かりやすく動揺しているわね。そんなに興奮していたらそう見られても仕方がないでしょう」
「興奮しちまってんのはテメェが怒らせてるせいだろうが!!」
「なら目を合わせてちゃんと褒めてあげなさい。そんな言い方では伝わらないわよ」
「つってもよ…」
身近な人物とはいえ、見た目を褒めることには慣れていない。可愛いとかオシャレだといった言葉を使うのは何だかこそばゆい。
「ねぇ、ラグナ!私の水着、どうかな?」
「あぁ?そう…だな。結構様になってるぜ。元気な感じとか」
「ありがとう!じゃあ、ぐんちゃんは?」
「え?そ、そりゃあ…」
友奈の言葉を聞いてラグナは千景の方へ目が移った。千景は恥ずかしそうにしながらもいチラチラ彼の方を見ている。自分の返事を待っているみたいだ。
「…ね、ねえ」
「どうした?」
「…出来ることなら…貴方の口から直接感想を聞きたいわ…」
それを聞いて少し言葉に悩んでから、ラグナは言った。
「…悪くねぇぞ。似合ってるぜ」
頭を掻き毟りながらもラグナは短い言葉で告げたが、それで満足だったのか、千景はそれを聞いて顔を少し朱色に染めながら小さく礼を言った。
「ありがとう…」
「おう…」
「もうちょっと気の利いた言葉はなかったの?」
「これ以上って結局なんて言えば良かったってんだッ!!?」
レイチェルの指摘にラグナは頭を抱えるしかなかった。しかし、周りの空気はとても和やかだった。その時、少し離れた試着室から悲鳴が聞こえてきた。
「ほらほら球子さん。観念してこれを着ちゃってくださいね」
「やめてくれーー!!せめて、優しくしてくれーーーー!!!」
「キャーーー!!タマっち先輩可愛いよ~~~!!本当に幼女って感じで良いよ~~~!!」
「アーーーーーーーッ!!!?」
球子の懇願も空しく、ひなたと杏によってもみくちゃにされた。暫くすると抵抗する声も収まっていき、やがて自分たちを呼び声が聞こえてきた。
カーテンが開くとそこには普段とは違う、フリル付きのセパレートを着た球子がいた。横にいるひなたと杏は楽しそうだが球子は顔を真っ赤にして照れていた。
「う~~~、タマは何か大事なモノを失った気がする…」
「そんなに言うほど悪くねぇと思うぞ」
「そうね。可憐じゃないの、球子」
「確かに可愛いな、球子」
「ええ。可愛いわよ、土居さん」
「可愛いね、タマちゃん!」
「可愛いぞ、球子」
「お前ら絶対ワザと言ってるだろーー!!?」
仲間たちの可愛いコールに球子がムキになって反論するが、それと同時に顔色の赤がどんどん濃くなっていった。耳の穴から湯気が機関車の如く湧いているようにも見えた。
「あら、球子さんも試着してたのね」
「アハハ…すごいことになってますね…」
「テメェらはもう買うのを済ませたのかよ?」
「いえ。次はみーちゃんのを私が選ぼうと思って」
「え?私は良いよ。海に入る予定はないし」
それを聞いて球子の目の色が変わる。
「な~~~~に~~~!!?そんなことが許されてタマるか~~~!!!」
「え!!?え!!?」
水都が抵抗する前に球子は杏たちが持っていた水着の一部を取って水都を試着室の一つへと連れ込んでいった。
「ヒャーーー!!?何!!?何なの!!?」
「お前もタマと同じように、恥ずかしい水着を着れば良いんだ!!!」
「待って待って!!そこ触っちゃダメーーー!!?」
「お、おいタマコやめろ!!?」
「い、いったい何が起こっているというの!?」
「もしかしたら…水都さんは今、少し刺激的な恰好になっているかもしれないわね」
「み、みーちゃんの刺激的な恰好…ちょっと見てみたいかも…」
「フフフ。下心を隠しきれてないわよ、歌野。何を想像してしまったのかしら?」
「な、何も想像してないわよ!!みーちゃん、今助けに行くからね!!」
歌野は率先して試着室のカーテンに手を掛けて開けるとそこでは水着衣装に着替えさせられた水都がいた。歌野に気付くと水都は恥ずかしそうに自分の水着姿を隠していた。
「だ、ダメー!!来ないでうたのん!!見ないで~!!」
「み、みーちゃん…可愛い…可愛いわ!!それを買おうよ!!」
「そ、そう?だったらそうしようかな…」
熱心に歌野が勧めてくるので水都も満更でもなさそうだった。
「良かったですね、水都さん」
「何余所見してるんだあんず!!お前も着替えろーッ!!!」
「え!?いや、ちょっと、待ってアァァァレェェェェェェ!!!?」
「あ、アンちゃんまで連れ去られてしまったよ~!?」
「テメェら騒ぎすぎだーー!!」
結局杏も連れ去られてしまって水着ショーになってしまったが、その後も全員無事に自分の水着を選んでデパートを後にした。海水浴へ行く明日が楽しみだ。
皆さんはギャルゲーとか恋愛系のゲームと言われたら何を最初に思い浮かびますか?筆者は主に鍵系です。
次回は海編の後編!そろそろ原作の八月に入り始める頃ですが日常はもう少しだけ続きます。それではまた。