蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

何だかゆゆゆ杯という言葉をよく見かけるようになったり、姫様が放置少女に出ている広告らしきものが見えたりメブのURが登場したり色んなことが起きていますね。

そして肝心のゆゆゆいのガチャですが…メブの初SSRをゲットしたぜ。え、そこはURだろって…?…マスターユニットに頼んでガチャ率に事象干渉してもらうしかないんです…

さて、今回の話は海から帰る途中での話。原作での高嶋ちゃんの話です。それではどうぞ。


Rebel94.告白、そして誓い

「海楽しかったねー!!」

 

陽が下がり、蒼かった海も美しい橙色へと変化していく中、勇者一同はそれぞれの場所へ帰る前に街を散歩していた。真鈴と美佳は迎えに来た烏丸と共に大社へ帰っている。

 

「そうだな。最後にバレーの決着を付けられなかったことは残念だったよ」

「最後は9対9の同点で割れちまったんだよな~!チクショウ、アレが決まってたらタマたちの勝ちだったのにー!!」

「いいや!私たちの方さ!!高さならあの時、私の方が勝っていた!!」

「いいや、タマたちだ!!ラグナと歌野にも協力してもらったスーパーロケットスパイクが決まったらゲームセットだったんだ!!」

 

試合が激化していくにつれてボールの耐久力が下がっていき、最後には若葉と球子が空中で同時にアタックを叩きこんだことで潰れたのである。

 

「うふふ。若葉ちゃんも楽しそうで良かったです」

「写真の方はどうだったかしら?」

「それは勿論のこと、皆さんのもバッチリと。予備のメモリーカードを用意しておいて本当に良かったです」

「いろんなことがありましたからね。バレーも海も…後スイカ割りも…」

「うっ…それを思い出させんじゃねぇ…」

「良いじゃない。これもひと夏の思い出というものよ」

 

自分の情けないところを見られて若干苦い顔をしてしまったラグナだが、これも込みで思い出だとレイチェルは穏やかに言う。最近では屋内で作業していたから今回の外出は良い気分転換になったようだ。

 

「…でもしばらくは警戒しなければならなくなるわね。上里さん、そろそろ敵の襲撃の時期が分かってきたんじゃないかしら?」

 

千景の指摘にひなたも少し心配そうな顔になる。

 

「…はい。神託によれば、次のバーテックスの襲撃は来週だそうです。その規模も…今までの中でも最大規模です」

「しかも完成体も複数出てきます。数の方は以前よりも多いかと…」

「それはまた大所帯だねぇ…敵さんも本気って訳ですか…」

「大社の方は何か対策を検討していると聞いているが、そこのところはどうなんだ?」

 

若葉の疑問に水都が答えてくれた。

 

「今は敵の侵攻をこれ以上させないよう、結界の強化に手を付けているそうです。ただ、儀式やら何やらの準備でもう少し時間が掛かるみたいなんです…」

「他には何かないのか?」

「あまり詳しくは分かりませんが…花本さんたちによりますともう一つ、準備を進めているそうです。それも上層部だけで話が進んでいるそうですが…」

「ひなたも知らないのか?」

「はい…烏丸先生や花本さんも同様のようです…」

「巫女であるヨシカたちはともかく、クミコまで聞いてねぇとなると…きな臭ぇな…」

 

ひなたの言葉を聞いてラグナはあまり良い顔をしなかった。元の時代の大赦と同じ予感を感じたのだ。あそこも過剰な秘密主義が原因で勇者たちに満開などの代償について説明をしなかった。

 

それによって仲間たちは苦しみ、それを峡真に利用された。彼が倒されたから良かったものの、もしそれが出来なかったらこの時代に来る前に自分たちは終わっていただろう。

 

「…ウサギはどうだ?」

「…何も。でも探りを入れた方が良いわね…」

「…かもな。ま、何があってもそん時は真正面からぶっ飛ばすだけだ」

「全く…貴方は本当に直進ばかりね。取り敢えずその対策というのを探っている間は目立った行動は控えなさい。でも…警戒を落とさないで」

「分かってるよ」

 

勇者や巫女たちはおろか、大人にすら言わない対策にラグナとレイチェルは警戒心を強めるのであった。

 

「ですが、朗報もありますよ。何と明後日には千景さんの謹慎処分が解かれるそうです。勇者システムと武装も戻ってくるそうですよ」

「本当か!?やったな、千景!」

「え、ええ。そうね。ありがとう」

 

若葉の祝福に千景も感謝の意を述べるが、若干歯切れも悪かった。それに気づいた球子が彼女に聞いて来た。

 

「どうしたんだ、千景?もしかして…嬉しくないのか?」

「ち、違うの!!そうじゃなくて…」

 

何のことか分からず、疑問符を浮かべる球子に千景がゆっくりと説明する。

 

「そういうのではなくて…その、私たちがいなくなった後、あそこはどうなるんだろうと思って…」

「でも丸亀城には帰って来れるぞ?」

「ええ。丸亀城に帰れる…皆のいるところに帰れる…それはすごく嬉しい。でも…あそこから離れた時に放置されたらと考えると…」

「心配になっちゃったんだね」

「…うん」

 

友奈の言葉に千景は頷く。確かにあそこにいた時は自由に出かけることは出来なかった。友達に会うことも制限されていた。無論勇者として戦うことも、力もない。

 

でもあそこにいた頃の日々は穏やかで、とても安らかで、そして心地いい時間だった。しかし、あそこは黒き獣が眠っている場所でもある。大社からすれば厄介な場所でしかなく、好き好んで近づく場所ではない。

 

そう考えるとあの土地も適当に扱われるかもしれない。千景はそれが嫌だった。

 

「実際のところ、どうなんだ、ひなた?」

「本来は大社の管轄に入るところだったんですが…レイチェルちゃんが上手く動いたので大丈夫ですよ」

「私は何もしていないわ。大社が黒き獣が眠っているあの地の管理を私に押し付けただけ。こちらからすれば何も問題がないから良いのだけれど」

「それなら安心だね!」

 

どうやら黒き獣がいるあの神社の処理に困っていた大社はレイチェルに丸投げしたようだ。だがそのおかげで無駄な争いをすることなく、あの土地を手に入れることが出来た。

 

それを聞いて千景とラグナは安心した。あそこは一か月弱とはいえ、生活の拠点だった場所。ラグナにとっては実家同然だ。それが知らない他人に踏み荒らされていると考えると嫌な感じがした。しかし、レイチェルなら問題はない。

 

「…ありがとう、アルカードさん」

「気にすることでもないわ。私が好きでやったことですもの」

「とにかくウサギが管理してんなら好きな時に行けるな、チカゲ」

「そうね。一応、最低限のものは置いて行った方が良いかしら?」

「冷蔵庫とか洗濯機は置く場所ねぇもんな。放置で良いか」

「丸亀城の寮にはベッドがあるから布団も持って行かなくても大丈夫そうね」

「取り敢えず明日は私物だけまとめて、後は残留だな」

「ふふ…そうね」

 

今後のことについてラグナと千景が話し合っている内に少女たちは丸亀市の商店街の方へと入っていく。そこでは花火が載ったポスターが街中に貼られていた。

 

「こいつは…『婆裟羅祭』のポスターか。もうそんな時期になるんだな」

「婆裟羅祭?それは何なのかしら?」

「この街で最も有名な祭りの一つだ。同時に花火大会もやるから毎年大勢の人で賑わっているぞ」

「そう言えば水都さんたちは初めての参加でしたね?」

「はい。私はこういう騒がしい場所が少し苦手ですけど、皆さんが一緒なら行きたいなって考えています」

 

商店街のポスターを見た少女たちが祭りの予定について話している光景を見て、ラグナは懐かしそうにポスターを見ている。思えば夏祭りなど何年ぶりだろうか。少なくとも自分が覚えている限りでは最後に行ったのは少年だった頃だ。

 

「ラグナは祭りに行ったことあるの?」

「コイツには多分ねぇな…つーか俺はそもそも祭り自体行くのは久しぶりだ」

「そうだったんだ。じゃあ思いっきり楽しまないとね!私は綿飴とかが楽しみだな~」

「俺は…そうだな。肉なら何でも良いや」

「それなら骨付き鳥が売られていたはずだ」

「お、そいつは期待しねぇとな!ここの奴はかなり美味ぇからな!」

 

骨付き鳥は丸亀市に留まらず、香川県民にとても愛された食べ物で当然ながらどの時代でもラグナは食べたことがある。あの味は病みつきになったものだ。その話題が出てきた時、球子が待ったをかけてきた。

 

「なるほど…なぁ若葉。一つ勝負と行こうじゃないか」

「…なるほど、やるつもりだな球子」

「どうしたのタマちゃん、若葉ちゃん?」

「骨付き鳥の話題ともなれば出てくる議題はひとーつ!!ズバリ、ラグナは『おや』と『ひな』!!どっちが好きだ!!」

「また大変な議論が…」

 

骨付き鳥と言っても全てが同じではない。焼く鶏の成長具合によって違いがあるのだ。具体的に比較的若い鶏をひな、親鶏を使った方を親と呼ぶ。

 

「球子さん、おやとひなについては若葉ちゃんと和解したと聞いたのですが」

「タマだって若葉のおかげでおやの良いところは分かった。だがそれと好きなものは別だ!そこで、ラグナ!どうなんだ!やっぱり柔らかくて食べやすいひなか!?」

「何を言う球子!前にも言ったが、骨付き鳥の真骨頂はおやにこそある!食べやすさでは確かにひなの方が一枚上手だが、抜群の歯応えと噛むほどに出てくる味の深さこそ素晴らしいのだ!」

「分かった!分かったから落ち着けっての!」

 

ラグナが熱く語る二人に少し気圧されていると、ひなたが二人を宥めてからもう一度聞いた。

 

「それではラグナさん。お答えください」

「それなら…まぁ…肉の量の多い方だな」

『え?』

 

何とも的外れな回答に若葉と球子が拍子抜けする。つまるところ、ラグナはそれほどおやかひなかについて頓着していないようだ。

 

「それを言われては何とも言えんな…」

「俺はガキの頃からどっちも食ってるしな。知り合いも決まったのを喰ってなかったし」

 

実際ラグナの知り合いたちも趣向はバラバラだった。病弱な沙耶や猫の獣人である十兵衛、育ての親である芹佳、そしてレイチェルは柔らかいひなを好んでいたが、ヴァルケンハインや安芸はおやの方を好んでいる様子だった。刃は元々肉が食べられないため、どちらも好んでいない。

 

「つっても俺はいつもその時の気分で決めてるからな。メニューの写真とか店の前にある見本を見てデカそうな奴を選んでたぜ」

「やっぱり男の人は質より量ということでしょうか?」

「…もしかして貴方、サバイバル生活ばかりしていたせいで味覚がバカになっているのではなくて?」

「そうじゃねぇ…と言いてぇけど、心当たりは少しある…」

 

レイチェルの指摘にラグナはバツの悪い顔をするしかなかった。その話に千景も何かを思い出したからか、苦笑いしていた。

 

「そういえば私が初めの頃に作っていた時も味付けがおかしくても普通に食べてたわね…」

「本当は美味しくなかったの?」

「食べられないものじゃないけど、味が苦かったり、塩っぽかったりしても平気で食べるの。指摘はしてくれたけど。それよりもたくさん食べるから出来るだけ多く作ったわ。寧ろそっちの方を喜んでたから」

「作ってくれたモンにケチ付けんのもなぁ…それに食えねぇモンでもなかったから捨てんのも勿体ねぇし」

 

要は食えるなら文句がないというスタンスである。こればかりは幼少期や旅に出ていた頃も関係している分、仕方のないことだ。

 

「そうだったな…バーテックスを丸焼きにしてたなんて言ってたもんな…」

「もうタンパク質なら何でもいけるんじゃない?」

「そこまで悪食じゃねぇよ!!俺にも食ったら洒落にならねぇモンはある!!」

「ほう~。それは興味ありますな~。例えばどんなもの?」

「…妹の料理だ」

「それが食べられないの?」

「毒物は流石にな」

「料理が何故毒物!?」

 

突然理解しがたい単語に雪花は戸惑うが、ラグナが思いつく限りではこれこそ食べられないものの代表格だろう。寧ろこれを一口でも食べて立っていられるならばその人物は紛うなき勇者である。

 

大抵のゲテモノでも、「アレよりはマシ」という思考に至ってしまうのだ。そのため、沙耶の料理は毒物と認識されている。またの名は

 

「デスディナー…というわけね」

「知ってたのか?」

「貴方が前に言ってたじゃない。一口食べると視界がどうこうって」

「あー…もしかして丸亀の戦いの時か?」

「その頃だと思うけど…違ったかしら?」

「多分そうだろ」

 

何はともあれ、ラグナの好みそうなものは婆裟羅祭でも得られるようだ。

 

「それに皆さん。祭りと言えばもう一つ、忘れてはならないものがありますよ」

『忘れてはならないもの?』

「浴衣ですよ!!夏で祭りといえばこれです!!というわけで皆さん、浴衣を買いに行きましょう!!」

「今からか!!?まだ祭りまで先があるのに買いに行く必要はないだろう!?」

「いいえ、試着に時間は必要ですから!!じっくり選べなくなりますから!!」

「テメェの場合はじっくり写真を撮りてぇの間違いだろ!!」

「はい!!」

「悪びれもしねぇどころか清々しいまでに満面の笑みだよ!!」

 

ひなたはスマホのカメラを構えながらにじり寄る。だが日が大分落ちている今、そんな時間もないだろう。

 

かといってこのままただ引き下がってもひなたは納得しないだろう。色々考えた末に、ラグナは提案を出してきた。

 

「…仕方ねぇな。次の戦いが終わったら付き合ってやるよ。テメェらはどうする?」

「それなら私も異存はない。他の皆もそうだろう」

 

若葉に同意するように他の少女たちも頷いた。それを聞いたひなたは嬉しそうにしていた。

 

「ではその時にたくさん撮らせてくださいね」

「馬鹿言ってんじゃねぇ。テメェも着替えんだよ。まさか自分だけ普段着で行くつもりか?」

「そうよ。似合うでしょうに勿体ない」

 

レイチェルにも強く勧められた。勿論自分も浴衣を着て祭りへ行くつもりだが、自分まで混ざっては若葉たちの様々な浴衣姿を撮影できなくなる。

 

「出来るなら皆さんを撮影したいのですが…」

「せっかくだからテメェも混ざれよ。俺が撮ってやる」

「ラグナさんがですか?」

「まぁな」

「あら、写真なんて撮ったことあるの?」

「ねぇけど、画面に収まるようにして撮ればいいんだろ?何とかなる」

「ふふ、それではお願いします。ラグナさんの写真、楽しみにしていますね。」

「…初めてだから、出来についちゃ大目に見てくれよな」

 

結果として着せ替えショーは免れなくなったが、鼻歌を歌いながら先へ進むひなたを見たらそれもどうでもよくなった。それもあって自分たちに向かって掛けてきているらしい声に気付くのに遅れた。

 

「あ、勇者様!こんばんは」

 

通行人の一人が勇者たちに話しかけてきた。若葉たちは声のする方向へ振り向くとそこには二人の姉妹がいた。一人は中学生にしては少し小さく、もう一人は大学生だろう。

 

「こんばんは。今日はどうされましたか?」

「いえ、見かけましたので挨拶だけでもと思って。皆さまはどこかお出かけに?」

「皆で海へ行ったんです。休暇ということで」

「そうだったんですね」

 

何だか青春している若者を見て女性はほっこりした目で見ていると、少女たちの間にいるラグナを見て妹らしき少女の様子が一気に変わった。

 

「…あっ!!!」

「あ?何だよ、俺がどうかしたのか?」

「どうしたのって、あっ!!!?貴方は!!!」

「しまった!!まさかラグナを良く思わない人だったのか!!?」

 

女性の変容に勇者たちも動揺するが、不思議なことに二人からは敵意を感じない。妹が久方ぶりの友人に会ったかのように興奮気味でラグナに話しかけてきた。

 

「あの、兄ちゃん…もしかして、うち等を駅から助けてくれた赤コートの兄ちゃんとちゃう?」

「駅…それにその妙な喋り方……!!!テメェら、まさかあの時の姉妹か!!!」

 

予想外の知り合いがここで住んでいたことにラグナは驚愕する。同時に一種の安堵を覚えていた。どうやら二人は今も元気に暮らしていたようだ。

 

「テメェら…ここに住んでいたのか!知らなかったぜ!」

「いえ。今は浪人街で暮らしていて、今日は外食をするのに出かけていただけです。まさかこんなところで会えるとは思いませんでした」

「こっちの台詞だっての。にしてもガキ、テメェもデカくなったな。最初は分からなかったぜ」

「うち、5年生になったからもう子どもやないよ?」

「へいへい、そうですか」

 

そうは言っているが、少女に受け答えする彼はどこか穏やかだった。状況が上手く掴めず、置いてけぼりを喰らった若葉たちが質問をしてきた。

 

「あの…貴女はラグナのことを知っているんですか?」

「はい…実は私たち、四年ほど前に大阪駅の地下から彼に連れられて四国へ辿り着いたんです」

「大阪駅の地下…確かあの遠征の時、大阪駅には行ったけど地下までは見なかったよね」

「そうね。あの人がもう助けていたそうだからすぐに離れたから…あまり良い思い出がなかったとも言ってたし」

「…そうですね。あそこにいた頃は本当に頭がおかしくなるかと思いましたから」

「あ…すみません」

 

当時のことを思い出させたと感じた千景は女性に謝ったが、彼女は気にした様子もなく、逆に彼女を労わった。

 

「いえ、勇者の皆様には本当に感謝しています。こうして人並みに生活できるのは紛れもなく、勇者様が守ってくださるおかげですから」

「…怖くないんですか?また、あの獣みたいのが現れたりしたらって…私たちが守り切れなかったせいで死んだりしたらって…」

 

つい気になったことを彼女に聞いた。これまで千景は自分たちを悪く言う者たちの言葉を多く観測()てきた。しかし、彼女は今までの者たちとは違う気がした。それで、聞きたくなった。

 

女性は少し悩んだが、心の中で何かに納得したのか、笑顔で一度頷いてから返事した。

 

「…正直に言いますと…今でも怖いです」

「…そう…ですか…」

「ですが…同時に信じられるんです。今まであの怪物たちから私たちを守ってきたのは、勇者様たちですから」

「信じ…られる…」

 

その言葉は聞いて千景の、いや、勇者たちの心に染み渡った。自分たちを純粋に信頼してくれることが素直に嬉しかった。

 

「…強いんですね」

「そんなことはないと思いますが…もし感じたのでしたら、それは彼に出会ったおかげだと思います」

「俺と?」

 

意外そうな顔をするラグナの反応を女性は肯定する。

 

「あの頃も妹は倒れていたこともありまして、いつバーテックスに遭遇するかが不安で仕方がなかったこともありました。このまま助からなかったら…死んでしまったら…妹を失ってしまったらって…正直どこか諦めていました」

「お姉さん…」

「それでも、彼は最後まで私たちを守ってくれました。私たちよりもよっぽど若いのにバーテックスが現れては真っ先に倒しに行ったり、食料を採ってくれたり、妹のように弱った人たちに構ったり、何から何まで本当にお世話になりました。その背中を見てか、大人たちも何人か協力的になって…そのおかげで何とか四国に辿り着けたんです」

「顔が赤いわよ、ラグナ」

「うるせぇ!!」

 

女性の言葉にラグナも流石に照れ臭くなって後ろへ向いたのに対してレイチェルはクスクス笑う。もし目の前に穴があったら飛び込みそうなほど彼は恥ずかしかった。

 

「四国に着いた後、妹は入院して元気になりました。色々落ち着いてから御礼を言おうかと思ったのですが、周りは彼が壁の外へ向かったと聞きましたので…」

「言いそびれた…ということですか」

「はい…そしたら四年後に彼が怪物だったなんて噂が聞こえてきてきたのでどうなったのかが心配でしたが、お元気そうで本当に良かったです」

「それに勇者様もガツンと言うてくれたからな。アレはスカッとしたで」

 

少女ははっきりとそう言った。彼女なりにあの噂に感じるものがあったようだ。彼女は改まってラグナにお礼を言った。

 

「ラグナの兄ちゃん。あの時、私たちを助けてくれて、ありがと。うちらを兄ちゃんが助けてくれたから…うちは生きてる。今も姉ちゃんと一緒に笑っていられる。ホンマに…ありがとう」

「…礼なんざいらねえよ。元気でいてくれたなら、それでいい。姉ちゃん、大事にしろよ」

「うん!!」

 

子どもの真っすぐな気持ちに少し擽ったい気分になったラグナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、少し雑談してから少女たちは姉妹と別れた。気付けば陽は水平線スレスレまでに沈み始め、辺りも暗くなってきた。

 

今彼女たちは丸亀街道を沿って歩いている。このままいけばやがて丸亀城への道とあの神社へと繋がる道とで分かれ道になるだろう。

 

「そういえば若葉さん。この道の先にあるのは金比羅宮ですよね」

「ああ。香川でも指折りに有名な神社で、江戸時代から多くの参拝者はこの丸亀街道を通って金比羅宮へと向かうんだ」

「ンな場所があったのか…」

「ラグナさんは行ったことがないんですか?」

「俺は元々神社で暮らしていたからな。初詣とかもあそこでやっていた」

 

それに関しては事実で、芹佳が昏睡状態になる前までは決まって神社で年越しをしていた。初詣だってそこで済ませていた。

 

「それなりに参拝者も来てたんですか?」

「いいや、逆に殆ど誰も来ねぇよ。稀に客が来ても大抵巫女の知り合いだけだ」

「そうなの?」

「巫女がガキだった頃は知らねぇが、俺がいた頃は客といえば大体そんな奴らだ。稀にそうじゃねぇ奴らとも顔を突き合わせることになるんだがな」

「何だか不思議ですね。神社で出会いをするなんて」

「ガキの頃だけだし、引き籠りだった覚えはねぇよ。ただ、あそこで出会った奴には記憶に残りやすい連中が多かったってなだけだ」

「思い出がたくさんあるということね」

 

実際、あの神社でラグナは弟妹たちと芹佳と共に暮らし、安芸、十兵衛、レイチェルと出会い、その地下にある蒼の魔道書のおかげで命を繋ぎ留められている。

 

同時に大赦に対して初めて明確に敵意を抱いた場所でもある。色んな因縁が集まった場所ともいえる。

 

「神社か~…そういえば私も子供の頃、よく神社で遊んでいたな~」

「もしかして、斑鳩でのあそこか?」

「うん。あそこ、自然がいっぱいで伸び伸びと遊ぶのに最適なんだ」

「すっげー分かる。とにかく色んなモンがあるから外で遊ぶのに困らねぇんだよな」

 

ラグナとて初めから訓練ばかりだったわけではない。遊ぶときは弟妹たちと仲良くかくれんぼや缶蹴りをしたものだ。特に刃とは途中で勝負に熱くなって喧嘩することもあったが、今思えばいい思い出である。

 

「でもそうか…あの神社、テメェと馴染みのある場所だったんだな…」

「そうだね…私はあそこで手甲を手に入れて、勇者として戦うようになったんだ」

 

友奈は懐かしそうに過去のことを振り返っていた。こうして自分の過去について詳しく話したのは初めてかもしれない。それは他の仲間たちも同じように感じていた。

 

「そういえば、丸亀市に来る前の友奈さんの話はあまり聞いたことがありませんね」

「友奈は聞き上手だからついこちらの話をしてしまうんだよな」

「そうね…周りにいつも気を配ってくれて、とても話をしやすいからいつも助けられているわ」

「気遣い屋さんですからね。そこもまた、友奈さんの美点です」

「アハハ。ありがとう、皆…」

 

仲間たちから贈られる偽りのない言葉に友奈は小さく笑う。

 

「でもね…」

 

しかし、その後に自嘲するような切ない顔をした。

 

「本当はそんなに褒められたものじゃないんだ…」

『え?』

「昔から皆に気を掛けてくれているとか気遣い屋だねとか…そういうこと、よく言われるけど…違うんだ。私は…ただ、嫌なんだ。気まずくなったり、言い争ったりするのが…」

 

夕日が後ろから差してくる中で友奈は寂しそうに語った。色んな表情をした彼女を見てきたつもりだが、こんな顔を見るのは初めてだ。

 

「だから、相手の話を聞くばっかりで…自分の話が出来ない…自分を…出せないんだ…もし変なこと言って…それで友達と険悪になったり、辛い思いをさせたりするのが…辛いから」

 

尚友奈は自身の想いを語る。

 

「でも…今まで、色んな敵と戦って…皆が危ない目に遭ったりしていく中で…思い出したんだ。そういえば私、自分のことについて殆ど話したことなかったなって…もし自分のことを話す前に誰かが居なくなって、それで二度と会えなくなったら…そう考えると、なんだか悲しくなって…」

 

だからそうなる前に自分のことを皆に知って欲しかった。そう友奈は締めくくった。それを聞いて少女たちは顔を合わせて笑うと、代表に千景が言い出した。

 

「分かったわ。私も…ううん、私たちも高嶋さんが昔どんな生活をしていて、どんな人だったのか、聞きたい」

「ありがとう…」

 

親友の後押しに友奈は嬉しそうに笑う。

 

「そ、それじゃあ始めるね。どうしよう、こういうのって久しぶりだからちょっと緊張するな~」

「落ち着け友奈。海の中にいる時と同じだ。自分のペースで、ゆっくり話せばそれでいい」

「ありがとう、棗さん!」

 

全員が注目している中、友奈は自分について話し始めた。

 

「私は勇者、高嶋友奈。奈良県出身で一月十一日生まれのA型。趣味は武道と…後美味しいものを食べることかな?」

 

友奈から仲間たちは目を反らさず、真剣に聞く。

 

「私の育った町は『神話の里』と呼ばれていて、小さい頃はさっき話してたみたいに家の近くの神社で過ごすことが多かったんだ。境内の中で遊んだり、後時々ボランティアで掃除を手伝ったりとかしてたかな」

「そこって、そんなに大きい神社だったの?」

「ううん。全然そんなことないよ。寧ろ、今のぐんちゃんたちの神社と同じくらいじゃないかな。雰囲気もちょっと似ていてね。子どもの頃はいつもそっちで遊んでたの」

「あそこと同じだとしたら、遊んで時間を過ごすのに最適ね」

 

実際に神社で生活してからかなり精神的に落ち着いてきた千景には友奈の言わんとしていることがよく理解できた。

 

「なぁユーナ、俺も神社の森とか裏庭で過ごしてたことがあったけど、テメェは何をして遊んでたんだ?」

「いろんなことをしてたな~。木登りでしょ?探検でしょ?後かくれんぼとか!境内の中って、隠れるのに良い場所とか不思議な場所とかがたくさんあるんだよ!」

「そこに、入っちゃいけねぇところに足を踏み入れて叱られるもセットだな」

「うんうん、分かる!私も偶にそれやって神主さんに怒られたっけ」

 

友奈の幼少の思い出の話を聞いて、ラグナは少年だった頃に神社で過ごしていた日々を思い出す。あの頃は弟妹たちとよく神社にある森や敷地で遊んだりしていたこともあって、友奈の話に親近感を覚えていた。

 

「友奈さんもラグナさんも神社っ子だったんですね」

「そういうことになるかな。私からすれば神社とか神主さんってすごく身近なもので、だから初めの頃から大社の雰囲気とかが受け入れられたのかも」

 

友奈の言うことに他の勇者たちは感心する。自分たちは初めの頃、どこか馴染みがないため、窮屈に感じていたのだ。

 

「それに今よりもっとやんちゃな子だったのね。少し意外だったわ」

「やんちゃか…うん、確かにちょっとだけそうだったかも」

「高嶋さんのやんちゃなら可愛いものよ」

「えへへ…ありがとう、ぐんちゃん」

 

千景の言葉に少しはにかんだが、その後に友奈は少し真剣味のある顔になった。

 

「でもね、それだけなんだ。私はタマちゃんや棗さんみたいに山や海での楽しみ方が詳しいわけじゃないし…アンちゃんみたいに頭が良かったわけじゃない…ぐんちゃんみたいなすごい特技があるわけじゃないし…せっちゃんみたいに服のコーディネートが得意じゃない…歌野ちゃんみたいなすごい夢があったわけじゃないし…若葉ちゃんみたいに昔から武術をやっていて強かったわけでもない…本当に、どこにでもいる…すっごく普通の人だった」

「…」

「だから勇者になった時、思ったんだ。『どうして私なんだろう?』って。選ばれたと知った時は驚いたし、戦うのも怖かった。でも…」

 

一度口を止めてから、友奈はそれを吐露した。

 

「家族とか友達が危険な目に遭ったり、いなくなったりする方がもっと怖かった。大切な人たちを失うことが怖かった。私、本当はね…どうしようもなく、怖いから戦っているんだ…臆病なんだよ…」

「友奈さん…」

「だから…『勇者』って言葉に憧れるのかも…」

 

それが高嶋友奈の心の声だった。今まででも彼女は自分からそういった不安を見せたことは、千景があの村へ帰ったと聞いたあの時だけだった。それまでは一度も、あの黒き獣と直面しても不安を漏らしたりはしなかった。それを今、全部漸く吐き出されたのだ。

 

周りは友奈の告白になんと答えれば良いのかが分からなかった。そんな中でラグナが少し前に出て声を掛けた。

 

「…ユーナ。テメェは自分の言う臆病な自分って奴は嫌いか?」

「…嫌いというのとはちょっと違うかな…でも…もっと勇気があったらなって思っちゃうんだ」

「そうか…」

 

それを聞いてラグナは自分の意見を言った。

 

「…そういう意味なら俺は…臆病者で良いと思う」

「…何で?」

「臆病だから…大事なモンを守ろうと必死になるし、スゲー大切にするだろ?そいつを失いたくねぇから。失ったらどれだけ辛いのかが分かるから」

 

これまでの自分を思い返しながらラグナは語り続ける。

 

「だから…怖くても、辛くても、戦ってきたんだろ?今まで強ぇバーテックスが現れようと…あの黒き獣が相手だった時も…」

 

それを言われて友奈は静かに肯定した。

 

「…そういう奴こそ、『勇者』っていうんじゃねぇのか?」

「…あ」

「そりゃあ確かにテメェはバーテックスたちを『倒す力』を手に入れることが出来た。けどな、力があるからって誰かを『守る』ことが出来る訳じゃねぇ」

 

あちらの世界にいたテルミにアズラエル、こちらの世界では峡真と暴走してしまった自分。どれも力は強大だったが、強力無比な力を振りかざし、多くの者を傷つけてきた。守るために力を使うことがなかったのだ。

 

しかし、それを『勇気』とは呼ばない。

 

「それに対してテメェはどうだ。失いたくなかったから、怖くても精一杯頑張って、皆で何度もアイツらに立ち向かってきたじゃねぇか。そして…これまで色んなモンを守ってきたじゃねぇか。あの姉妹だって、ここで暮らしていけてんのは間違いなくテメェらが精一杯頑張ってきたおかげなんだぜ?」

 

その言葉に友奈だけでなく、他の勇者たちも肯定されているように感じた。そして同時にラグナが思う『勇者』というものがどういうものかが分かってきた気がした。

 

「『強い』から勇者なんじゃねぇ、『怖い物がない』から勇者でもねぇ。まして『特別』だから勇者でもねぇ。弱くても、怖くても、普通でも、『大切なモンのために困難に立ち向かって、誰かのために勇んで何かが出来る奴』を『勇者』っていうんだ…テメェらのようにな」

「ラグナ…」

「それに、もし怖かったり、自分だけじゃどうしようもねぇと思ったら、抱え込まねぇで誰かに頼ったり、助けてもらえば良いんだ」

「…ラグナも、そうだったの?」

 

その友奈の問いを聞いて、ラグナは空を見上げながら色んな顔を思い返す。もう夜の暗さが目立ち始め、星の光がポツポツと見え始めた。

 

「…ああ、そうだ。それどころか一人で何とかなったことなんて数えるくらいしかねぇ。今も助けられっぱなしだ。だがアイツらの、そしてテメェらのおかげで俺は『ここ』にいる。こうして、テメェらとこの話が出来る」

 

元の世界にいた仲間たち、未来の世界で出会った現在の勇者部の面々、そしてこの時代で共に戦ってきた仲間たち。色んな人間と出会い、助けられてきた。

 

「確かに喧嘩したり、争ったりもしたぜ。けどよ、そいつのことをもっと知るには本気でぶつかり合うことも必要だったりすると思う。そして、その思いが伝われば…絆はより強くなる」

「…出来るかな、私に…私が言ったことで…その人と気まずくなったり、傷つけたりしないかな…?」

「はじめは…まぁ傷つくかもな。自分が間違ってるって感じるようなことを言われんのは誰だって嫌だろ。けど、テメェがそいつのことを本気で考えたうえでそう言ったんだったら…きっと伝わるさ。友達ってのはそういうモンじゃねぇか」

「迷惑を掛けるかもしれないよ?」

「俺たちははっきり言ってくれたら助かるし、もしユーナに何か言いてぇことがあったら聞きたいぜ。そうだろ、テメェら?」

 

ラグナがそう言うと友奈は周りを見渡す。周りも笑いながらその言葉に賛同していた。

 

「高嶋さん、貴女は自分のことを褒められたことじゃないって言っていたけど…私にとって、貴女が気に掛けてくれたことが本当に救いだったの。だから…今度は私たちが高嶋さんの助けになりたい」

「そういうことだ、友奈。これからどんなことでも良い。遠慮なく話してくれ」

「心配すんなって!お前のやんちゃなんて、タマたちが受け止めてやるさ!!」

「確かに議論をしたり、喧嘩することもあるかもしれません…それでも、私たちが友達だということは変わりませんよ」

「もし何か不安や悩みがありましたら、私たちに頼ってください。それで少しでも友奈さんの不安が取り除かれるなら嬉しいです」

「皆…ありがとう!!」

 

仲間たちの温かい言葉に友奈は少し涙ぐみながらいつもの明るい笑顔に戻った。少女たちが彼女の方へ集まる中、その様子をラグナとレイチェルは見守った。

 

「もしかしたら、これまででも色んな不安を溜め込んでいたのかもしれないわね」

「…周りに心配かけねぇように我慢しちまうタイプだしな。アイツが弱音を言うところなんて滅多に聞かねぇからよ」

「一番大変だった黒き獣襲来の時も、周りの方が大変な状況だったから余計にそうだったのかもしれないわね…私も、最初に気づけたのは千景があの村に行ったと聞いたときだもの」

「でも良いんだよ。これでユーナも気づいたはずだ。今のアイツもまた立派な勇者で、周りもアイツの本音を受け止められるんだってな」

「そうね。元々卑下する必要はどこにもないもの。彼女が場を和ませてくれるから、こうして皆は笑っていられる。それは彼女の言う、『普通の人間』には決して真似できないわ」

「テメェも俺も、どっちかっつーと我の強い方だもんな。ユーナみてぇなことは正直出来る気がしねぇや」

「失礼ね。貴方とは違って私もそれなりに周りに合わせることくらい出来るわよ」

「嘘つくんじゃねぇよ。どこまでも奔放だろうが、テメェは。まだ俺の方が空気読める」

「あら。風や雲の動きくらい、もっと簡単じゃないの」

「そっちの空気じゃねぇよ」

「何かもうアンタたちは喧嘩してる方が安心するよ」

 

またしても下らない口喧嘩をしているラグナとレイチェルを見て、雪花は苦笑いした。それを見て、ひなたはニコニコしながら友奈に入れ知恵をした。

 

「良いですか、友奈さん。あの二人を見ていれば喧嘩をしても大丈夫なのが良く分かりますよ。ほら、これまで何度も口喧嘩していますが、一度も絶交していないでしょう?」

「そうなんだよね!私もラグナとレイチェルちゃんの関係がすごく羨ましいな~って思ってたんだよ!」

「ラグナと私の関係がそんなに羨ましいの?」

「うん!!だって喧嘩をしても二人は大体一緒だし、時々以心伝心?みたいな感じで息ぴったりだし、本当に仲が良くて良いな~って。何より言いたいことを言い合えるって感じで素敵だな~と思ってたんだ」

 

あちら側の世界もあるとはいえ、ラグナはレイチェルとかなり長い付き合いだ。それもあって大体どんな人物なのかは知っている分、喧嘩することもあっても気楽に話せるのは本当だ。

 

同様にレイチェルもこの一年近く共に過ごして彼が信頼できる人間だと判断することが出来た。何より遠慮無しで自分とぶつかってくる数少ない人間であることもあって、話していてそれほど苦に感じないのだ。

 

「まぁそうね…この男と話していて退屈することはまずないわ」

「へいへい…ま、こっちもコイツには色々と助けられたのは本当だしな」

「なるほどな。これが喧嘩することほど仲が良いというものか」

『違う』

「あっ、息ぴったり」

「否定する言葉も同じだぞ」

「普段はあれだからいざの時は本当に驚かされるわ。息を合わせた時は本当に頼もしいから…」

「二人はベストマーッチ!!なんだよ、ぐんちゃん!」

『ナイナイ』

「今度もタイミングがベストマッチだわ…」

 

実際二人によって大社から庇われた千景の言うことに現場に居合わせた歌野たちは同意したが、当の本人たちは手を横に振って否定した。

 

その後も散歩しながら友奈は仲間たちに自分について話し続けた。彼女の幼少期の出来事や地元がどのような場所だったかについて楽しそうにしていた。恐らく、自分について話したことが彼女にいい影響が起きたのかもしれない。

 

「こんなに自分のことについて話したの初めてかも」

「そうですね。腹を割って話したおかげで、私もとてもスッキリしました」

「何だか高嶋さんのことがもっと知ることが出来たようで嬉しかったわ」

「ああ。俺もユーナの話はスゲー面白かったぜ。神社暮らしだった俺でも知らねぇこととかいっぱいあって」

 

自分の知らない話に対してラグナが何気なく言った感想を千景が拾うと、あることを思い出した。

 

「でもそう考えると、貴方とは生い立ちが正反対に聞こえるわね。正直、逆なのではと考えるくらいに」

「お、おい!?それ言っちまうのか、チカゲ!?」

 

突然千景から自分へ話の矛先が変わってしまったことにラグナは動揺するが、時はすでに遅く、他の少女たちは勿論、友奈自身も興味津々のようだった。

 

「お、千景!何かラグナの昔話とか知っているのか!?」

「それって何気にすっごく貴重な話じゃん!」

「ねぇねぇ教えて!!それもすっごく興味あるよ!!」

 

友奈の目からは純粋な好奇心が見て取れた。同じように神社の近くで暮らしてきた身として聞きたいのだろう。

 

「分かった分かった。話すから取り敢えず落ち着け」

「ありがとう!それで、ラグナはどんなことして過ごしてたの?やっぱりかくれんぼとか?」

 

当時のことを思い返しながらラグナはゆっくりと話し始めた。

 

「そうだな…勿論そういうことはしてたが、俺はどっちかっつーと昼寝ばっかしてたな」

「境内で昼寝出来るの?」

「まぁな。俺んとこには森があって、そこじゃあ良い具合に陽射しが差し込んでくる場所があんだよ。そこの草むらで寝るとすっげー気持ち良いんだ」

「確かに丸亀城でも外で寝ているところを見かけることはありましたけど、それも昔からだったんですね」

「まぁな」

「森で日向ぼっこか~…私のところはしめ縄が飾ってあって入っちゃダメだったからあんまりしたことなかったかも。今度やってみようかな」

「まぁ寝てる時間の長さは気を付けねぇと行けねぇけどな。それで家事を手伝うのを忘れちまって巫女にドヤされちまったこともあったぜ」

 

疲れた後の昼寝は実際、当時のラグナの活力となっていた。この時代でも同じ場所で昼寝していたら、久しぶりに深い眠りに落ちたものだ。その時、起きた頃には夕方になっていて、かつての芹佳と同じように心配で探しに来た千景にちょっと叱られたのは内緒の話である。

 

「ナハハハハ!!!友奈がやんちゃでラグナはのんびり屋だったってか!!」

「のんびりというより、呑気なのよ。ラグナは」

「俺が呑気なんじゃねぇ。あそこで験しに昼寝してみりゃ分かるが、マジで目を覚ますのが大変なんだよ。あそこで寝てると」

「本当にその場所が好きなんだね」

「そういうこった」

 

そんな話をしている内に一同はラグナたちのいる神社へと続く道の前まで来た。ここでラグナと千景とはお別れだ。

 

「次に会うのは明後日か」

「そんときは手伝い、頼んだぜ」

「それではお二人さん、またね」

 

ラグナたちが別れようとする。その前に友奈が皆を呼び止めた。

 

「ねぇ皆。せっかくだから手を結んで輪を作ろうよ。これからの戦いの約束みたいなことをしてね」

「良いですね。やりましょう」

 

そう決まると少女たちは若葉、ひなた、水都、歌野、棗、杏、球子、雪花、友奈、千景、ラグナ、レイチェルの順で手を握って輪を作った。

 

「それじゃあ約束だよ。必ず皆でここに帰ってくるって。誰一人死んだりしないって」

 

誰もがその言葉と同じ思いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「荷物はまとまったの?」

「ああ。いつでも出られるぜ。テメェは?」

「今終わったわ」

 

そして約束を交わした次の夜、千景とラグナは夕食を終えた後に寝る準備をした後に丸亀城へ戻る際の荷物をまとめた。

 

「どうしたの、空なんて見て?」

「いや、せっかくだから最後に見ておきてぇなって」

 

先に準備を終わらせていたラグナは縁側に座りながら夏の星空を見上げている。ここで見る空は子どもの頃に見たものとよく似ている気がする。未来では神樹によって結界が張られていたから空も偽物かと思ったが、案外これを基に映し出したのかもしれない。

 

明日になれば二人は仲間たちが迎えに来て、一緒に丸亀城へと戻ることになる。それは同時に共にこの神社で過ごす最後の夜であるということでもあった。勿論ここに来ることはあるだろうが、ここで暮らすことはしばらくないだろう。

 

「…隣、良いかしら?」

「別に構わねぇぞ」

 

それを聞いて千景はラグナの左側に腰を掛けて一緒に満月が美しく輝く夜空を見た。森の方では闇の中でセミの鳴き声がジジジと鳴り響き、蛾や他の昆虫も窓から漏れてくる明かりへと集まってくる。

 

「…こうして月夜を見ると、あの夜を思い出すわ」

「あの夜?」

「ええ。寂れた社にあった大鎌の刃を見つけた日。私に勇者の力が覚醒した日」

 

7.30天災当時の高知はちょうど今と同じような夏の夜で、千景は家出するために地元からそこそこ離れた場所にある神社にいた。

 

その時に社は地震で崩れ、中から柄の無くなった刃物を見つけたのだ。それがどうしても見放せなかった千景は刃物を手に取ると力が沸き上がったのである。

 

刃を見た千景が感じたものは悲しみ。刃も社も長い間手入れもされず、放置されていた。村の者たちからもあまり認知されていなかったのだろう。

 

自分と同じ、ずっと独りだったのだ。そう感じた千景はそのまま刃を捨てることが出来ず、持ち帰り、後に大社にされた。美佳と出会ったのもこの頃である。

 

「そして長い時間が過ぎて…高嶋さんたちに出会って…貴方にも出会って…今ここにいる」

「運命の日、てことか」

「ええ。あの日から私の周りが劇的に変化したのは事実だもの」

 

感慨深そうに話す千景に影響されてか、ラグナは月を見て子どもの頃、どちらの世界でも刃が満月の夜に怯えていたことを思い出す。結局何故だったのかは最後まで分からなかったが、その度に仕方がないから添い寝してやったものだ。

 

「…今日は本当に月も星も綺麗だな」

「…そうね。いつまでも見られそうなくらい、美しいわ」

 

千景はラグナの方を見る。思えばこの共同生活を通して彼から色んなことを学んだ。そのことはとても感謝している。

 

一緒に暮らしていくにつれて、千景はラグナに対する心境に変化が起きていた。初めは話でしか聞いたことのない、不思議な男。途中では何だかんだ頼りになる仲間。しかし同時に勇者を傷つける可能性のある危険な存在。

 

それでも仲間として彼を信頼した。彼が勇者たちと共に過ごした時間は嘘ではないのだから。そして最終的に彼は怒りで暴走した自分を真正面から対峙して助けてくれた。

 

そして今日まで共に生活してきた。勿論仲間として大切に思っている。しかしそれだけではなかった。

 

(もう少しだけ…こうしていたい…)

 

しばらく夜空を一緒に見ている内に時間も遅くなっていく。そろそろ寝床に戻った方が良いだろう。

 

「…そろそろ中へ戻るか。チカゲ、も」

「スゥ…」

「うお!?」

 

肩から急に重みを感じて驚いたラグナが千景の方へ振り向くと彼女は既に意識を手放しており、ラグナの左肩に寄り掛かってきた。突然感じた女性特有の柔らかさにラグナも困惑する。

 

「お、おい。寝ちまったのか?」

「スゥ…」

「…準備に疲れちまったってとこ…か…どっちにしても起こすわけにもいかねぇな」

 

それにしてもこうして間近で見てみると本当に気持ちよさそうだ。風呂から出たばかりの彼女から出るシャンプーのいい匂いが鼻腔を擽ってくる。寝間着の首から見える鎖骨の曲線も妖艶で、寝息も静かながらも耳に入って来る。

 

「…何考えてんだよ、俺は。馬鹿か」

 

あまり慣れない状況だが、だからといって暴走するようなことはしない。こうして寝ているのは恐らく、自分であれば何もしてこないと考えているからだろう。寧ろそこまで信頼してくれていると考えるとこっちも悪い気がしない。

 

「…仕方ねぇな」

 

しばらくそっとしておこうか考えたが、起きる様子がないことを悟るとラグナはそれだけ言って千景を姫様抱っこし、彼女の寝室へ千景を運んでいった。彼女を起こさないか、少し不安だったが、何事もなく部屋の布団に下ろすことが出来た。

 

「そういや、サヤたちもこうして寝かしつけてたっけ」

 

昔のことをまた思い出したラグナは小さく笑い、その後部屋から出る前に寝ている千景へ一言告げた。

 

「また明日な、チカゲ」

 

そう言って彼は自分の部屋へと去っていった。




のわゆ後編に入ってから展開を色々悩んでしまうな~。バッドエンドは嫌だから色々考えてしまうといいうのもあるけど、色んなことがやりたくなると字数と掛かる時間が爆発的に増える。

さて次回ですが、とうとう原作の最終決戦です。6体…ではなく結果的に7体の完成体が勇者たちに襲い掛かる。それではまた。
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