蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

今月もひびのしおりイベントが来ましたね。今回の主役は芽吹のようですが、どのような展開になるのか楽しみですね。

さて今回の話は原作のわゆの最終決戦!原作ではたった二人で戦っていましたが、ここでは味方が大幅に増加したからきっと大丈夫…だよね?それではどうぞ。


Rebel95.花たちに降りかかる流星群

街を守るために木の根が覆うように広がる。四国を守る壁の向こうから敵が押し寄せてくる。八月の初旬に入って数日した後、バーテックスが襲来してきたのだ。

 

現れた敵は丸亀城の襲撃時よりも多く、完成体の数は6体。サイズはレオや黒き獣のものに比べれば小さいが、以前のスコーピオンとリブラバーテックスとほぼ同格だった。

 

「今までにない数だな…」

「でもこの前のでっかいのはいないね。もしかしたら黒き獣にやられちゃったのかも」

「ならどうにかなるかもしれないわ…」

 

完成体の数に対して勇者たちは8人。ラグナを含めれば9人だ。これならば分散して戦うことが出来る。

 

「どうする、杏。奴らはそろそろ来るぞ」

「そうですね…せめて敵の特徴が分かれば作戦も立てやすいのですが…」

 

唯一実戦で戦った経験があるラグナは完成体たちのいる方角を見据える。確認できる敵はキャンサー、ヴァルゴ、ピスケス、アリエス、アクエリアスにカプリコーンと、以前にもラグナと戦った相手だ。

 

「…厄介な連中がいるのは確かだな」

「見覚えがあるのもいるけど、どんな能力だっけ?」

「ああ。トンガリ野郎は分からねぇが、ピンクのモツ野郎は爆弾魔でカニ野郎は板で飛び道具を弾く。魚野郎は地面に潜って、羊野郎は電撃、そんであの水玉野郎はあのデカイ水玉で攻撃したり、レーザーみてぇに水を放射してきたはずだ」

「それならタマたちの精霊と相性がいいものと戦えばどうにかなるかもな!」

「そういや俺たちと一緒にやる前からテメェらも特訓したんだっけか」

 

ラグナの言う通り、彼と千景が丸亀城へ戻った後は他の勇者たちも混ざって精霊の訓練をやっていた。これまでのやり方のままで精霊を使用すれば肉体に穢れが溜まり、精神も不安定になるからだ。

 

完成体の群れは二手に分かれて、各々で神樹へと向かっていく。戦いの時は刻一刻と迫っていた。

 

「それで、戦う前のプランは?」

「では歌野さん、雪花さん、棗さん、千景さん、友奈さんは爆弾魔、カニ、魚をお願いします。水玉、トンガリ、羊は私、タマっち先輩、ラグナさん、若葉さんが打って出ます。通常個体の対処と完成体を倒した後は各自の判断で近くの味方と協力してください」

「承知した。では作戦も決まったところで準備を始めよう」

 

大方の配置を決めると若葉たちは意識を集中して自身の魂と神樹をリンクさせる。戦う意志を強く持ち、自分に強く惹かれる精霊の名を宣言する。呼び寄せると同時に姿も変化した。

 

「降りよ、大天狗!!!」

「来い、酒呑童子!!!」

「来なさい、玉藻前!!!」

「来いッ、輪入道!!!」

「来て、雪女郎!!!」

「カモン、覚!!!」

「来ちゃって、コシンプ!!!」

「来い、水虎!」

 

その光景はまるで魔道書やアークエネミーを起動させているラグナや刃のようだった。

 

「第666拘束機関開放!!次元干渉虚数方陣展開!!イデア機関接続!!!」

 

ラグナも意識を集中させて魔道書の開帳を始める。足元に方陣が展開されると同時にどす黒い瘴気が彼の方へと集まっていき、禍々しい黒い炎が腕から吹き上げる。やがて彼も最後のコードを告げた。

 

蒼の魔道書(ブレイブルー)、起動!!!」

 

掛け声とともにラグナの周りから蒼い閃光が放たれる。魔道書は無事に動いたようだ。全員が無事精霊を使う時の姿になったことを確認すると杏が周りに呼び掛けた。

 

「皆さん。今のところ、神樹様との繋がりはどうですか?」

「今のところは前よりも弱くしているよ!!」

「精霊の力までは弱まっていないようだ…」

「でもその代わり、いつも気を張ってないといけないから精神の方がキッツいな~。前に比べたら汚染は抑えられているけどね」

 

今まで勇者たちは精霊を肉体に降霊させることで力を得ていたが、今度は精霊の力だけを借りれないかを皆で試していた。身体に入って来る情報量が単純で少なければ同じように身体への負担も小さくなるはずだからだ。

 

中でも各勇者の資質に応じて違う精霊を使うことが出来ることに疑問を持っていた杏はドライブ能力や術式に着目していた。それを上手く利用すれば今までよりも勇者たちは精霊の力をより安全かつ効率的に使えるようになれると考えた。事実、それに近いことをラグナは千景に教えていた。

 

そこで彼女は古書を読みながらより精霊の特徴や能力のイメージを掴んで、術式と同じやり方でその力を実際に使う訓練を提案したのだ。精霊の力を使う際はこれまでの神樹とのアクセスを弱めて入って来る情報を減らし、後はラグナやレイチェルのドライブと同様、自身の魂に宿っているであろう勇者の力で維持させるようにした。

 

後は自分が実際に力をイメージ通りに行使できるように練習した。いざ訓練を初めた頃は慣れなかったが、繰り返す度に勇者たちは効果を実感した。そして何とかこの日にまで物にすることが出来た。勿論それだけでなく、肉体への負担にも耐えられるように普段の体力訓練も欠かさず行っている。

 

「にしても姿が変わるのは精霊を下ろした時と変わんなかったな」

「どの精霊の力を使っているかが把握しやすいから寧ろ助かるわ」

 

やり方を変えても精霊の力を使う時、やはり勇者たちの姿は変化していた。初めはこれも変えようかと考えたが、こちらの方がイメージしやすい者も多かったので、そのままにした。

 

敵が侵攻していく内に神樹が侵蝕されていくのが見えてくる。若葉は先頭に立って声高く叫んだ。

 

「皆、この戦いが終われば大社は結界の強化を終わる!!通常個体は四国へ攻め込むことは無くなり、今まで以上に四国は安全になる!!何としてでもこいつらを倒し、全員無事のまま帰るぞ!!!」

『おーー!!!』

 

他の勇者たちの掛け声を聞いて若葉の胸も熱くなる。長い間戦ってきたが、改めて仲間たちの頼もしさを感じ取ることが出来た。

 

「さぁ…行くぞ!!!!」

 

必ず生きて戻ろうという約束を抱いて、勇者たちはそれぞれの敵の方へと駆け出していく。先に動いたのはピスケスだった。機動力に富んだ魚座の敵は早速地中に潜って猛スピードで神樹へ突撃した。

 

「あのお魚バーテックス、地中に潜っちゃったよ!!」

「不味いわね…あれでは出てこない限り、こっちから手が出せないわ」

 

どうにかして引き摺り出さなければ地上にいる勇者たちは攻撃することが出来ない。しかも追いかけようにも相手の素早さもあって簡単には行かなさそうだ。それに他のバーテックスの動向もある。

 

「…だったら掘り出すしかないね!!」

「友奈さん!!」

 

そう言って友奈は先行して相手のいる方へ飛び掛かり、勢いよく敵付近の地面を殴りつける。轟音と同時に地表は砕かれた。しかし、まだ敵の姿が見えない。

 

なら何度でもやるだけだ。そう意気込むと友奈は拳で地面を掘り進める。

 

やがて敵の姿は露わになる。それを見逃すことはなかった。

 

「今だ!!!」

 

ヒレらしきものを友奈は肥大化した手甲でつかみ取る。捕まったピスケスは逃げようと彼女を振り切ろうと力づくで進もうとする。それに対して友奈は引き摺られないよう、懸命に踏ん張る。

 

「ウギギギッ…!!!」

 

酒呑童子の力を使っている今、常人を逸脱した怪力も使える。簡単には離れることは出来ない。後ひと踏ん張りだ。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

足を踏み込み、腰に力を入れる。友奈は全力でヒレを引くとピスケスは地面から引き揚げられた。自分の方へ引き寄せられた敵を見ると友奈は握り拳を作る。その時、白い帯が視界の端から見えた。ヴァルゴの触手だ。

 

「『鮮血ヲ舐リシ凶刃』!!!」

 

だがそれも千景によってすぐさま斬り落とされた。斬られた箇所は生命力を吸い取られていて再生も遅くなっていた。それに対して千景の大鎌は赤黒い霊力に包まれ、力も増していた。

 

以前とは違い、意識の切り替えで玉藻前の生命力吸収の強弱を変えることが出来るようになった。普段は力を抑え込めるようにし、大鎌で相手を斬った時のみはラグナと戦った時と同様、相手の生命力を吸収するようにした。

 

斬られた場所は生命力を吸収されているため、バーテックスはその身体を再生させることが出来ない。一度斬られれた場所は二度と修復されない。千景の大鎌は今、不治の毒が塗られた刃とも言える。

 

しかも斬られれば千景本人の身体能力も霊力も増強されるのだから敵からすれば余計に質が悪い。今では取り込んだ生命力を上手く操作できるようになったのだから脅威だ。

 

「『勇者ぁぁぁぁばくれつぅぅぅぅパーーーーーーンチ』ッ!!!!」

 

親友が守ってくれたことに感謝しながら、友奈はピスケスに向かってフックを放つ。ここまで来ればもう邪魔するモノはいない。最大パワーで攻撃を叩きこむのみだ。

 

渾身の力を籠めた拳はバズーカのように撃たれ、ピスケスの装甲を粉微塵に破壊した。殴られた衝撃は敵を貫き、そのままピスケスの身体に大穴を開けた。

 

しかし、一体目が撃破されたからといって気を緩むわけには行かない。同族がもうダメだと判断したのか、触手を斬り落とされたヴァルゴはすかさず尾から大量の爆弾を撒き散らし、ピスケスに構うことなく友奈と千景に爆撃してきた。

 

「『アスパラッシュ!!!』」

 

そこへ鞭がしなり、爆弾を悉く叩き壊していく。衝撃を受けた爆弾は空中で爆発し、二人は思わず顔を腕で隠す。

 

「二人とも、大丈夫!!?」

「せっちゃん、歌野ちゃん!」

「何はともあれ、一体撃破…だけど、コイツを何とかしないとキリないや…」

 

何とか歌野と雪花が追いついたおかげで直撃を避けることが出来たが、ヴァルゴは依然として勇者たちの頭上で爆弾を降らしながら浮遊している。

 

『うわぁぁ!!!』

「くっ…しつこい!!」

 

歌野が鞭のリーチを利用して自分たちに降りかかる爆弾を払っている間、雪花が投げ槍を投擲してヴァルゴにダメージを与えようとする。

 

「嘘ッ!!?」

 

しかし、その射線上に板が出現し、カーンと景気のいい音と共にそのまま自分たちの方へ跳ね返ってきた。

 

「くっ!!」

 

それを千景が大鎌で間一髪弾いたが、状況が悪いことに変わりはなかった。ヴァルゴに続いてキャンサーも現れ、二体を守るように六枚のペタル状の板を展開する。

 

「あの板…かなり自由に動かせるみたいね…」

「しかも爆撃までしてくるなんて厄介この上ないよ」

 

近づこうにも爆弾の嵐で足止めされ、離れて攻撃しようにも相手はそれを弾いてしまう。守りの要であるキャンサーをどうにかすれば勝機が見えてくるが、そのためには懐に潜り込む必要がある。

 

キャンサーが勇者たちを妨害してくれることを知ったヴァルゴは神樹の方へと移動を開始する。勇者たちも追いかけようとするが、そうはさせないとばかりに板で進路を遮る。

 

「このままじゃ神樹様が!!」

 

友奈たちは焦る。神樹の元にバーテックスが辿り着けば大好きな人達が生きる世界が壊されてしまう。それだけはなんとしてでも止めなければならない。

 

だがこのとき、歌野は不敵に笑う。

 

「いえ…これはチャンスともいえるわ」

「お?何か思いついたって感じかにゃ?」

「まぁね…ちょっと聞いて」

 

ヴァルゴは全速力で神樹へと向かっているせいで爆弾の巻く量が少なっている。まだ動けるキャンサーを邪魔しないためだろう。だがそれは同時にこの六枚の板を攻略すればキャンサーを撃破出来る。

 

最も時間が無いので、急ぐ必要はある。雪花と少しヒソヒソと話した後、歌野は千景の方へ呼びかけた。

 

「千景さん、貴女が吸収した力ってラグナみたいに飛ばすことは出来る!?」

「…出来ないことはないけど、それなら秋原さんの投げ槍の方が良いわよ。私のはそこまで速くないから」

「それで良いの!当てる必要はないから!」

「…そういうことね。なら任せて」

「私はどうすれば良いかな~!?」

「友奈さんは合図するからその時にプリーズ~!!」

「決まったようね…それじゃ…やるわ!!」

 

そうして千景は集中する。以前ラグナに教わったと同じように大鎌の刃に力を集める。それによって漏れ出てきた力はドロドロの血にも見える。

 

それを見たキャンサーは板を自分の周りで高速回転させている。どこから攻撃してきても対応できるようにするためだ。そして千景は大鎌を大きく振った。

 

「『暗闇ノ焔刃』!!!」

 

すると紅い三日月状の刃がキャンサーに向かって飛んでいった。それを見て敵も自身の周りから板を三つ展開する。それを見て歌野は指示を出した。

 

「今よ、やって!!」

「『宵闇ニ咲ケ棘花!!!』」

 

その瞬間、千景が放ったエネルギー波は彼岸花を象るように板の手前で爆散してそれを吹き飛ばした。それによってキャンサーの前方は見えなくなった。その隙を歌野は見逃さない。

 

「雪花さん!!今ならヒットするわ!!」

「了解!!『紅蓮巨神槍』!!!」

 

雪花もそれに応えて投げ槍を巨大化させ、全力で投げた。電柱ぐらいはありそうな太さの槍は真っすぐキャンサーの正面へ吸い込まれるように突き刺さった。たまらずキャンサーは奇妙な悲鳴をあげるが、それでも倒れるそぶりを見せない。

 

「流石にここまでしぶといと嫌になってくるよ。ま、今回はこれでいいんでしょ、歌野?」

「ええ…これでいいの。これがベストなのよ!友奈さん、フルパワーマックスでお願い!!」

「分かった!!」

 

そう言って友奈はキャンサーに突き刺さったままの槍に向かって走る。危機を直感したキャンサーは急いで友奈の方へ板を配置する。だが友奈は止まることはない。

 

「高嶋さん、右から来るわ!!」

「うん!!」

「今度は左よ!!」

「よっ!!」

 

千景の声に合わせて迫ってくるペタルを回避する。一切止まることなく、全速力でキャンサーの方へと疾走する。

 

槍の石突までに来ると友奈は跳躍して右の拳に力を籠める。千景が、雪花が、歌野が繋いだこの好機、絶対に手放すわけには行かない。

 

これが一人だったらもっと無茶な手段をとっていただろう。だがそうはならなかった。

 

(皆がいたから…ここまで来れたんだ…!!)

 

心から信頼することの出来る仲間が一緒だから、挫けない。何度苦境に立たされても、諦めない。他者の存在が友奈の心を熱くさせる。精霊の汚染による不安感も恐怖も焼き払われる。

 

「おおぉぉぉぉぉぉ!!!!『狙ってーーー!!勇者ぁぁぁぁぁぁぁパーーーーンチ』!!!!」

 

怒号を上げながら友奈は石突をありったけの力で殴った。その直前、千景は彼女の後ろから何かが見えた。

 

「桜の…方陣…?」

 

それはまるで魂から漏れ出た火花のように現れた。いつも朗らかで優しい友奈を象徴するように巨大な桜の方陣が出現したのだ。絶対に勝ち、皆を守るという強い願望(ねがい)が力となって具現したように見えた。

 

これまでも酒呑童子を使った時の友奈は強かったが、今の彼女は恐らくこれまでのどの時よりも強い。

 

それもそのはず。今彼女は『従来と同じ』ように神樹と繋がった状態だ。そこへ更に新しく自分の中にある勇者の力も活用したことで更に強化されたのだ。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

友奈のパンチで槍はキャンサーの躰を穿つ。正面に出来た風穴から全身にヒビが走ったキャンサーの躰が崩れていく。

 

しかし、槍は一切失速する気配を見せず、ぐんぐんと加速していった。そのままヴァルゴを後ろから襲い、前後をスッパリと真っ二つに断ち切った。

 

躰を破壊されたことでヴァルゴの下半身の器官内の爆弾も爆発し、それによって連鎖的に他の爆弾も誘爆していく。やがて塵一つ残すことなくヴァルゴは消滅した。

 

「はぁ…はぁ…ふぅ…」

「高嶋さん!!」

 

敵の撃退を確認すると、友奈はその場で座り込んだ。千景たちは慌ててその場に駆けつける。友奈の切り札は解除され、普段の勇者服へと戻っていた。右腕は腫れあがっているようだったが、それ以外の外傷はなさそうだった。

 

「高嶋さん、大丈夫?さっきの攻撃…今までと比べ物にならない力だったけど…」

「よく分からないけど…さっき殴ろうとした時は皆の声でうおーっ!!てなってたら身体の力がバーン!!って強くなって気づいたらドカーン!!ってなってた」

「ごめん…よく分かんないや…」

「なるほどね。分かったわ」

「そういうことだったのね」

「何で二人は分かるの!?」

「要はソウルがバーニングしたら強くなったってことでしょ?」

「そう!!そんな感じだよ!!」

「あの人もこういうのは考えるな、感じろって言ってたし」

「やっぱ分かんない!!」

 

良く分からないが、これで三体の敵は撃破された。後は若葉たちのいる方へ行けばいい。しかし友奈はぐったりしていて動くのもやっとのようだった。

 

「ごめん…ちょっとあっちには行けないかも…」

「まさか、何か後遺症が!?」

「そうなのか分からないけど…あれやったせいか、ものすごく力が抜けちゃって…ちょっと戦うのは難しいかも」

「…さっきのスーパーな攻撃もあるし、腕の方も腫れてるの見て折れてるかもしれないものね。無理させられないわ」

「仕方ない、ここは一旦別れましょ。私ならそう簡単に接近されないし、ここで残るわ」

「じゃあ私と白鳥さんは乃木さんとあの人たちのいる場所へ先に向かうわ」

 

そうと決めたらすぐに向かわねば。千景たちがラグナたちの方へ行こうとすると友奈が声を掛けた。

 

「二人とも、頑張って!」

『ええ』

 

その言葉だけでも心強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ラグナたちもバーテックス相手に奮闘していた。宙を浮きながら電撃を放ってくるアリエスは飛行能力を持つ若葉が相手にしていた。

 

「飛翔緋那汰!!!」

 

背中にある翼を自分のものとして認識しろ。出来て当たり前だと思え。今これは自分の一部なのだから。どうやって動くか、どのタイミングで刀を下ろすか、感じろ。

 

その一念のまま黒い羽をはためかせながら若葉はアリエスを斬りつける。高速で移動しながら繰り出される長刀の斬撃でアリエスはバラバラにされたが、若葉は警戒を解かない。

 

「奴め、分裂するのか」

 

かつてこの類の敵と戦ったことがある。今では久しい丸亀城の戦いだ。あの時は球子が分裂した四体を同時に倒したことで勝利したが、今度もそうだろう。

 

若葉に斬られたことでアリエスは五体に分裂している。確かに黒き獣と戦った時に比べれば肉体への負担は減っているが、意識と神経を常にフルに使わねばならないのは正直辛いところではある。

 

「若葉さん!!敵の中に一つだけ囲まれているものがいます!!」

 

杏の指摘を聞いて若葉も目を凝らす。確かに一体だけ、他の四体に守られるように位置している敵がいた。恐らくあれのことだ。

 

今度は侵入口を探してみる。失敗したり、無暗に攻撃しても相手に警戒されて泥試合になる。それゆえ一撃で仕留めること望ましい。

 

「唯一緋那汰!!!」

 

狙いを定めると若葉は隼の如く、敵の一群に突貫する。敵は気づくことも出来ないまま、彼女とすれ違い様に両断された。あの一体がアリエスの親玉だったのだろう。それが倒されると他の四体も砂となって崩れ去っていく。だが安心する暇はない。

 

「若葉ぁぁぁ!!後ろだぁぁぁ!!!」

 

敵を倒した直後に球子の声が響いたが、逃げる前にアクエリアスが放った水玉に囚われてしまった。水中にいては自慢の黒翼も使い物にならない。寧ろ邪魔になって余計に身動きが取れなくなっていた。

 

「待っていろ若葉!今助けに行くぞ!」

 

それを見て棗が助けに向かったがその直前に地響きが生じて身動きが取れなくなっていた。周りを見渡すとラグナが一つのシルエットを見つけた。

 

「あのトンガリ野郎…あんな能力を持っていやがったのか!!?」

 

そこではカプリコ―ン・バーテックスが地面に着地して地面に振動波を送っていた。

 

実はバーテックスの中でもラグナはこのタイプとは殆ど戦ったことがない。未来では須美たちが激闘を繰り広げ、勇者部と共にこの敵と遭遇した時も夏凜があっという間に倒したため、こうして面と向かって戦うのは初めてである。

 

しかし、そんなことは実際の戦いでは言い訳にならない。その程度で止まったりしてはならない。

 

「デッドスパイク!!!」

「プチットファデット!!!」

 

ラグナの大剣から飛び出した瘴気と杏の放った氷の矢は一直線にカプリコ―ンへと向かう。攻撃されたことに反応したカプリコ―ンは宙へと跳躍して距離を取った。だが地面から離れたことで地震は収まった。

 

「仕方ねぇ!!俺はトンガリ野郎をどうにかする!!その間にテメェらはワカバを何とかしてくれ!!」

「分かりました!!タマっち先輩!!」

「おう!!旋刃盤なら準備は出来てるぞ!!棗もこっちだ!!」

「おう!!」

 

そういってラグナは他の勇者たちに若葉を任せて単独でカプリコ―ンと対峙する。しかし問題がある。この敵が降りてこない限り、自分は攻撃に転じることは出来ない。

 

カプリコ―ンは自身の持つ四つの角を合体させると、それを高速で回転させてドリルのように突っ込ませてきた。ラグナも咄嗟に大剣でそれを受け止めたが、あまりの重さに動けなくなっていた。

 

「ぐおぉぉぉぉ!!」

「ラグナさん!!」

『ラグナ!!』

「こっちに構うなぁぁぁ!!!」

 

押し潰されそうだが、これで相手も動くことが出来ない。その意を汲んだ三人は若葉の方へ向かっていった。

 

「うわっ!!本当に泡を吐いてきた!!」

 

だがアクエリアスも接近を許しはしてくれない。旋刃盤の姿を確認すると頭頂から泡を吐いてきた。

 

「いや、これなら問題ない」

「棗さん!?」

「心配するな、二人とも。すぐに若葉を助けてくる」

 

そう言って棗は旋刃盤から勢いよくアクエリアスの水泡へ飛び込む。これには若葉たちも驚くしかなかった。しかしアクエリアスから吐かれた泡が顔に直撃した。

 

(これなら大丈夫だな)

 

だがそんなことに慌てる必要はない。逆に顔だけでも水の中に入ったおかげでより落ち着くことが出来た。後は他の泡を躱すだけだ。

 

そうして若葉のいるアクエリアスの水玉の中に侵入することが出来た。自分が危険を冒してここに来たことに慌てる若葉を尻目に棗は彼女を外へ出してから得物のヌンチャクを振るう。

 

(『天水乱流撃』!!!)

 

棗のヌンチャクが振るわれると水玉から荒波が立ち、水流はアクエリアスの表面を削り取る。やがてアクエリアスはバランスを崩して倒れた。

 

「『大海乱舞』!!!」

 

水泡に入ったまま、棗は思いっきり正拳突きを放つと拳圧が水に乗って削った表面にめり込んで、敵の表皮を貫いた。攻撃と同時に水泡は破裂し、棗は脱出することが出来た。

 

「今だ、若葉!!!」

「任せろ!!!」

 

若葉は低空飛行しながらトップスピードでアクエリアスに迫る。翼からは炎が吹き出て更に加速させていく。

 

「『神刀一閃』!!!」

 

若葉は弾丸のようにアクエリアスの傷へ突入し、そのまま敵を貫通した。そのまま敵は爆散し、崩れ去っていった。アクエリアスも撃破だ。

 

「やるじゃねぇか、ナツメにワカバ!!なら俺も!!」

 

それを見て未だカプリコ―ンの攻撃を受け止めているラグナは右腕に力を集中させる。このままでは愛刀がボロボロになってしまうが、ラグナだってまだ策を残していた。

 

魔道書に集まる瘴気の量を更に増やす。普通に考えれば非常に危険な行動だが、今はこれでよかった。

 

千景との訓練を通じてラグナも魔道書の制御や力を再確認するだけでなく、自分もまたそれを更に使いこなすことが出来るようになった。故に新しい技術を身に付けた。

 

「『ブレイクバースト』!!!」

 

自身の右腕に集まった瘴気を瞬間的に開放すると敵を衝撃波で吹き飛ばすことが出来た。これで漸くカプリコ―ンと真正面から戦うことが出来る。

 

「よし、これでっておわっ!!?」

 

だが、その考えは甘いものだったようだ。敵に攻撃しようとするとラグナに向かって金色の矢が降り注いだ。危険を感じたラグナはすぐに樹木の陰に隠れながら逃げるが、中々相手も攻撃の手を緩めてくれない。

 

「新手か!!」

「あれです!!あの敵がラグナさんを狙っているんです!!」

 

若葉たちが指さされた方向を見ると、そこでは大口を開けてラグナに矢を放ち続ける別の大型バーテックスがいた。その姿を見て、ラグナは瞳に嫌悪と怒りの炎を宿らせながら悪態を吐く。

 

「クソッ…!!!」

 

その青いバーテックスの名はサジタリウス・バーテックス。遠距離に特化した敵であり、この世界で生きていたラグナの右腕を奪い去った、バーテックスの中でも特に因縁の深い相手でもある。

 

まさかの仇敵の出現にラグナの警戒心も最大までに高まる。この敵は間合いに入らなければ攻撃することがそもそも出来ない。しかし、二種類の矢を使いこなすこの敵に近づくこと自体が至難の業だった。それこそ若葉のような優れた機動力でもなければ。

 

そんなことにお構いなく、サジタリウスは自分の方を攻撃してくる。ラグナはわざとカプリコ―ンのいる方へ走って陰になろうとするが、肝心のカプリコ―ンは空へと逃げて行った。

 

これでもうラグナに逃げ道はない。それが分かったサジタリウスは遠慮なく彼に向かって矢を放つ。ラグナは直撃を避けるために右へ左へ逃げるしかない。それを仲間たちが放っておくはずがない。

 

「それ以上はやらせない!!!」

 

若葉はラグナに攻撃を集中してくるサジタリウスへトップスピードで飛んでいくが、それも途中から飛んできた火炎弾によって遮られた。

 

「なん…だとっ…!!?」

「おいおい…このタイミングで来るなんてこっちはタマったもんじゃないぞ!!」

「超大型が…来ちゃったんだ…」

 

そこにいたのはこれまでの敵とは格の違いを見せるように佇む、バーテックスの中でも最強クラスの敵、レオ・バーテックスだった。黒き獣に倒されたとばかりに思っていたが、どうやらあの戦いの後もしぶとく生き残っていたようだ。

 

ラグナの頭の片隅で悪い思い出がフラッシュバックする。レオは以前、他のバーテックスと合体してより強力な個体になったことがある。そうでなくとも必ずと言っていいほど何等か悲劇を起こすジンクスがあった。

 

一度目はあの日の大橋の合戦だった。あれによって自分はたくさんの大切なものを手放す必要があった。

 

二度目は讃州中学の時。あの時は初めて勇者部の面々が満開を使用した戦いだった。

 

三度目は三か月ほど前。忘れるはずもない。戦っている途中で黒き獣が出現した時だ。

 

そして今。横に自身を殺しかけたサジタリウスを従えて自分の前に現れた。激戦は免れないのが明らかだった。

 

「…けど、今回は違う…あんなこと、二度と繰り返させねぇ…!!」

 

右手を握る力は自然と強くなる。魔道書も唸り声を上げるように纏っている瘴気を濃くなる。過去の宿業に挑む、その時が来た。




何とか乗り越えたと思ったらボスクラス二体来ちゃいましたね…

裏話として、ラグナが苦手なバーテックスは構想時点でサジタリウスだと決めていました。理由は割とシンプルでニューと戦法が似ているから(ソードサマナーと射撃が)。

さて次回ですが、戦いの後半戦!!レオ、サジタリウス、カプリコ―ンの三体を相手にどう戦うのか?それではまた。
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