体育祭での二人三脚イベントを見て、友奈と蓮華さんは喧嘩から自然に惚気ていくスタイルが微笑ましかったです。
さて、今回のお話でも祭りのラグナサイド!こちらではどんなことが起きるのでしょうか?それではどうぞ。
若葉達と別れたラグナたちは雪花と棗と一緒に祭りを見回っていた。様々な光が夜を彩り、人々の笑い声が空気を満たしていた。
リンゴ飴を舐めながらレイチェルは出店を見渡している。鮮やかな赤色に惹かれて買ってみたが、これが中々に美味で満足だった。
対してラグナは紙に包んだ骨付き鳥を食べており、どちらの種類も食べていた。やはりそれほど違いに頓着せず美味しそうに食べている。
「そろそろ北海道の連中がいる出店に着くんじゃねぇか?」
「確かにこの辺りだと聞いていたけれど。どうなのかしら、雪花?」
「パンフレットによるこの辺みたいだよ。アレがそうじゃない?」
雪花が指さした方向にはフードを被った猫たちがいた。恐らくヴァルケンハインに鍛えられた獣人たちなのだろう。
「…意外だな。あの見た目なら結構目立つはずなのに誰も指摘してねぇ」
「そういえば、貴方がここで彼らを見るのは初めてなのね」
「獣人自体はあるけどな。けど千景の村とかアイツが言っていたニュースの連中を考えると、危ねぇんじゃねぇか?」
あちらの世界でも亜人等に対する差別は存在していたが、この時代でも他者を排斥する者たちがいることを知っているラグナとしては獣人たちがここにいることに少し心配だった。だが、それも棗が否定した。
「それなら心配はいらない。確かに見た目で彼らを不審に思っている市民もいるが、好意的に思っている者たちも多いんだ」
「マジかよ。つーかそんなに獣人って一般社会で知られてんのか?」
「必ずしも広く認知されているわけではないけれど、彼らの仕事を知っている者からは好意的に見られているわ」
「なるほどな。それでその仕事ってのは何だ?」
「どうもあの人たち、大社に雇われているみたいなんだよ」
黒き獣が壁を破壊した後も勇者たちは戦い続けていたが、六月の度重なる連戦が彼女たちに負担を掛けていた。それによって千景の暴走などのトラブルが起こってしまった。
そんな時に一部の獣人たちが大社へ赴いて自分たちも海上保安隊と一緒に壁や橋の警護に雇ってもらえないかと尋ねてきたのだ。
丁度そこにヴァルケンハインがいたこともあって、大社はその要求を承諾し、結果としてその獣人たちはここ二か月間、壁の警護を務めていたのである。星屑数体程度であれば卓越した身体能力で追い払えるので、一緒に仕事している自衛官からも頼りにされているそうだ。
「元々が集落を守るために力を欲しがっていたこともあって、良い人たちが多かったよ」
「そりゃそうだろ。爺さんのシゴキを耐え抜いた連中だからな」
ラグナも讃州中学に通う前にはヴァルケンハインと偶に訓練したことがあるので、彼の厳しさはそれなりに知っている。
何故か大体家事仕事を手伝わされていたことが多かったが、ちゃんとしなければ厳しく咎められていたので、当時訓練を受けていた獣人たちがかなりの修羅場をくぐり抜けたであろうことを察した。
(もしかして師匠がやっている仕事もこれなのか?)
その時、ラグナはふと師匠である獣兵衛を思い出す。彼が仕事で四国中を回っていることは知っていたが、流石に詳しい内容までは知らなかった。もしこの仕事が未来でも続いていたら彼はこれをやっている可能性がある。
確かに未来の壁はかなりの危険地帯だからそれこそ勇者や獣人でもない限り、民間人に知られることなく直接見守るのは難しいだろう。流石に外までには出ていないと思うが。
「おや~、勇者様もこちらへいらっしゃったんですね」
「こんばんは、皆さん。繁盛してます?」
「どちらかというと好機の目で見る者が多いですが、そこそこです」
雪花たちに気付いた一人の老婆が彼女たちに挨拶を交わす。人間でここにいたのは彼女だけで周りを見ても他にいるのは獣人やカカ族らしき者たちだけだった。
「他に人間はいねぇのか?」
「ここにいない者でしたら、今は祭りを見回っていますよ。人間も、獣人もね」
「なるほどね。ところでここではどんなことをやっているの?」
「皆が作った彫り物を売っております。色んなものがありますが、見てみますかい?」
「そうね。せっかくだから見て行きましょう」
老婆に促されてラグナたちも出店の方を見てみる。熊や雀の置き物が多くあり、どれも赴きがあるものだった。
「すごいな。こいつら、全部手作りなのか?」
「ええ。どれも皆の自信作じゃよ」
「そうなのか…あ?何だこれ?」
そんな中でラグナの目を引き付けたのはとりわけ奇妙な姿をした木像だった。見た目は少なくとも日本にありそうなものではなかった。
「あらま、まーた若い連中の誰かが混ぜ込んだねぇ」
「…あのさ、婆さん。こいつはいったい何だ?」
奇抜なそれについてラグナが聞くと老婆は困った様子で言った。
「若いのが言うにアステカ像だそうじゃ。どうも若いのの間で流行っていたようでしたが、私にはさっぱり分からんもので」
「そんな情報聞いたことねぇけど!?何だったらアステカ像自体初めて見るんだけど!!」
「それはそうじゃろ。若い獣人たちが目を輝かせて作っているらしいのですが、何が良いのやら…」
「何言ってるニャスか、婆ちゃん!!このヘンテコなデザインが良いニャスよ?」
「アタシのセンスには合ってないってんだよ」
やれやれと溜息を吐く老婆に対して、カカ族の一人がすかさず突っ込みをしてきた。彼に他の獣人たちも同調する様子を見せた。
「そうだぜ!このやたらエイリアンみたいな感じのデザインが一周回って未来を先取っていて良いじゃないか!!」
「何言ってんだいアンタら。未来を先取るどころかこんなもの、先時代のオーパーツじゃないの。アタシも若い頃にこういうの見たことあるよ」
「ニャに!?婆ちゃん、本物のアステカ見たことあるニャス!?」
「東京の百均で売ってたよ」
「東京、すげー(すごいニャス)!!」
「ンなわけあるか!!え、それともマジなのか!?」
「マジじゃ」
「マジか!!」
当然本当にアステカが売られていたわけではないのだろうが、どうも老婆の記憶ではこれに似たものが存在したらしい。本物のアステカ像ってこんな感じだったっけと疑問を覚えながら雪花は老婆たちに労いの言葉を掛けた。
「な、なんというか…大人気ですにゃ…アステカ像…」
「一時の騒ぎだと思いますがね…申し訳ございません、勇者様」
「ああ、気にしないで。北海道の皆が元気そうで良かったですよ」
何か久しぶりに会ったら故郷の人間たちが二足歩行の猫になったり、妙なものにハマったりしていたけど、楽しそうにしている彼らの様子を本当に久しぶりに見た気がした雪花は老婆に笑顔を返した。レイチェルはというと他の品物を見ていた。
「ところで他にどんなものがあるのかしら?」
「こういうものもありますよ。アステカスタンド、アステカ学習帳、アステカッター…」
「全部アステカじゃねぇか!!」
獣人たちからの謎のアステカ推しにラグナもつい声をあげる。余程彼らの間でアステカは一大ブームを築いていたらしい。
「全く。一々騒ぐものではないわよ、ラグナ。それだけではないことを彼女が教えてくれたでしょう。叫んでいないで探してみなさい」
「テメェは本当にペースがぶれねぇな…他にあんのは…うん?」
取り敢えず他のものも見て回るとラグナの目にまたあるものが留まった。別にアステカ関係ではない。しかし、ラグナとも獣人とも関係があるものに見えた。
「こいつは…まさか…」
「どうかしたの、ラグナ?」
「いや、この箱みてぇの…どっかで見たことが…」
ラグナが見つけたものは全体に『奇妙な模様が彫られた箱』の置き物だった。模様の線は『緋色』に塗装されており、どこか不思議な見た目だった。
「あーこれかい?これは木で出来たルービックキューブなんじゃよ」
「ルービックキューブ?」
「ええ。こうして模様を全て合うように回すんじゃ」
そう言って老婆は器用に箱の一部を動かしながら模様を合わせていく。あっという間に箱は元の姿へと戻っていき、やがて全ての模様がつながった。
「これで完成。どうじゃ?かなりの傑作だと思うんじゃが…おや?どうしたんだい、兄ちゃん?」
完成体を見て、ラグナは少なからず動揺する。よく見れば彼の異変に気付いたレイチェルも驚いた様子でそれを見ていた。神妙な目つきになりながらもラグナはそれについて老婆に小声で聞いてきた。
「…婆さん。こいつをどこで見た?」
「…さては兄ちゃんにお嬢ちゃん。これが何なのか、分かるのかい?」
「…まぁな…」
「…私もお父様からでしか聞いたことがないけれど…これはアレではないのよね?」
警戒しながらもレイチェルとラグナは老婆にだけ聞いてみる。二人の様子が普通でないことに気付いた彼女は他の者たちに聞こえないようにひっそりと話した。
「…取り敢えずこれはアンタたちの考えるようなシロモノじゃないよ。済まないね」
「良いんだよ、ンなことは。けど…もしこいつに似た『剣』があったら…絶対に他の奴に見られないようにしてくれ。場合によっちゃ面倒なことになる」
それを聞いて老婆も観念したように肩をすくめると、笑いながらラグナに言った。
「分かったよ。兄ちゃんたちも真剣そうだものね。幸い、アレの価値を知っているのは私だけさ。安心しなさい」
「済まねぇな、婆さん」
「ではそのルービックキューブ、私が購入しても良いかしら?モデルはどうであれ、良く出来ているから」
「ええ、勿論」
レイチェルが代金を払うと、老婆はキューブを紙袋に入れてその後にビニール袋に入れた後に渡した。それを受け取るとレイチェルは他の勇者たちに向いた。
「皆、そろそろ路地の方へ出て踊りを見に行きましょう。この時間ならもうダンスのグループが近くに来ている時間よ」
「分かった。んじゃ早速行きましょ。棗さんは」
「これ一個いくらだ?」
「棗さん!?」
先へ行こうと声をかけようとした時、棗はなんとアステカ像を丁度購入しているところだった。
「ナツメ、それ買うのかよ!?」
「ああ。中々に良いと思ってな。帰ったら部屋に飾ろうと考えている」
「因みに購入する決め手は?」
「海を感じた」
「アレは山の文明だよ!?」
趣味で遺跡探検をしている雪花はそう注意が、どうも棗はすっかりアステカが気に入ったようで、買う気満々である。言われてみれば獣人たちが彫ったアステカ像は南の島にある石像に似た見た目ではあるから、海を感じても仕方がないかもしれない。こじつけであることは否めないが。
「毎度ありがとうございますニャ!」
「他の人にも宣伝してくれるとありがたいです!」
「これは良い物だからきっと皆が買ってくれるさ」
「そ、そうだな…」
「一部の層では人気を得るでしょうね…」
何とも言えないまま、勇者たちはダンス大会を見に行くためにその場を後にした。
路地の方では音楽が通り全体を通じており、多くの人々の活気で空気は激しい熱気に覆われていた。何とか群衆の隙間を縫ってラグナたちはダンスが見える場所までに来れた。
「こういうのは初めて見るが、良いモンだな」
「ああ。沖縄にいた頃を思い出すよ」
「海要素はないんじゃない?」
「いや。沖縄の方でもこういう祭りでは皆で音楽に合わせて踊っていたんだ」
「そうだったのね」
棗は懐かしそうに故郷での思い出を話し始めた。
「この頃の季節になると海への感謝を伝えるために老若男女、皆で輪になって深夜まで踊っていたんだ」
「踊りで感謝を伝えるのか?」
「古い時代から舞や祭りといったものは神に感謝や願いを捧げる意味合いがあるのよ。雨ごいや豊作を願うものなんて有名でしょうね。他には…鎮魂の意味もあるかしら?」
「へぇ…そんなモンなのか」
レイチェルの解説のおかげでまた知らない知識を得たラグナである。神に願いをというフレーズはどこか腑に落ちない気がするものの、こういう形で皆が楽しめるならそれも悪い気がしない。
「まぁ、本来は色んな神事を通じた後に巫女が舞を捧げるのだけれど」
「あ?ンじゃあヒナタは本来、運営側にいなきゃ不味いのか?」
「それなら大丈夫でしょう。恐らく大社にいる巫女たちでどうにかなっているわ」
それはとどのつまり、美佳や真鈴たちがいるのだろう。祭りが終わった後に声を掛けるのも悪くない。ラグナがそう考えているとレイチェルが棗の方へ再び話題を戻した。
「棗もよく踊っていたの?」
「ああ。それはもう子どもの頃から。今でも偶に沖縄の音楽を聴いていて、それで身体を動かしているんだ」
「だからあんなに戦闘でも流れるような動きが出来るんだね」
「そうかもしれないな」
棗がそう言っていると会場の向こう側で楽しい雰囲気とは相反する喧噪が聞こえてきた。気になった少女たちはそこへ向かうとそこでは同年代の少女が大人たちに囲まれながら電話をしていた。
「うん…うん…そっか…分かった…ううん、大丈夫。お大事にね」
「やっぱり、ダメそうか?」
「はい…どうしよう…もう出るって言っちゃったのに…今更取り消すなんて…」
「どうかしたのか?」
「へ…え、棗様!?」
棗に後ろから声を掛けられた少女が彼女の方へ向くと同時に驚愕する。他の大人たちも同じようだった。
「ナツメ、こいつは知り合いか?」
「ああ。沖縄での友人だ」
「えっと…棗様?この人たちは?」
「彼らは今一緒に戦っている仲間たちだ。それより困っているようだが、何かあったのか?」
棗の質問に対して少女は少し遠慮した様子だった。彼女にとって棗は確かに友人だが、今の彼女は四国を守る勇者だ。こんなことで困らせるわけには行かないと思ったのだろう。
「だ、大丈夫ですよ!こっちで何とかなるから!」
熟考した末にやんわりと断ったが、そこへラグナが更に切り込んできた。
「悪ぃがそんな風には見えねぇぞ。何か困ってんだったら言ってくれ。出来ることなら協力するぜ」
「で、でも悪いですよ。皆様にご迷惑を掛けてしまっては」
「あ?そいつは何故だ?」
「皆さんは勇者様でしょう?日頃からこの四国を守ってくださっているのに私たちのせいで貴重な時間を使わせては面目ありませんよ」
ラグナの疑問に横にいた大人がそう答えた。確かに今日、自分たちは日頃の戦いでの疲れを癒すためにもこの祭りを見回っている最中だ。いうなればオフの日だ。
「…何言ってんだよ。困ってんのに放っておくのも気分悪ぃだろ」
だが生まれつきのお人好しと勇者部での経験もあって何だかんだ放っておけないラグナだった。彼らが自分たちを思って断ってくれているのは分かるが、黙って見なかったことには出来ない。それは他の少女たちも同感だった。
「そういうことです。本当に迷惑だったらこれ以上は何も言いませんけど、お困りでしたら力になりますよ」
雪花の言葉を聞いて沖縄の人々はしばし考え込んだが、やがて棗の同級生である少女は訳を話し始めた。
「分かりました。実は私たち、この祭りでダンスを踊るんですけど、一緒に踊ることになったメンバーたちの何人かが急に体調を崩して来れなくなってしまって…」
「それで人数不足になったところへ私たちが来たというところかしら?」
「はい…しかももうすぐ出番だから今更変えてもらうことも出来なくて…代役も頼めそうな人がいなくて困ってたんです」
「なるほどにゃ~…」
少女の事情を聞いてラグナたちは少し考え込んだ。雪花やレイチェルはあまり踊りを経験していない上に基本的に目立つことはあまり好きではない。
ラグナは学校関係で一度や二度くらいやったことがあるが、元々彼はあまり音楽方面には明るくない。それもあり、ダンスに関してもあまり得意ではない。
しかし、少女たちが困っているのは本当で時間もなさそうだ。選択を迷っている時間はない。そう考えている時に棗が沈黙を割った。
「分かった。私に任せてくれ」
『え!?』
「本当、棗様?内容はエイサーをもっと激しくしたやつでしかも殆どぶっつけ本番ですよ?」
「心配ないさ。それに先ほどのラグナの受け売りとまでは言わないが、困っているなら助けになりたい。友人なら猶更だ」
棗の力強い言葉でそう言った。それを聞いて少女は感極まって彼女に抱き着いてきた。
「ありがとぉぉぉぉなっちぃぃぃぃ!!」
「気にするな。こういう時に行動してこそ勇者だからな」
「それでも本当に助かるよ~~~!!ありがと~~~!!」
思わず素に戻って渾名で呼んでいるが、それだけ嬉しかったのだろう。そんな彼女の様子を見て、他の三人も協力することにした。
「まぁ、困ってるなら引き受けなきゃね。どこまでいけるか分からないけど、精一杯やるよ」
「そうね…それにこういうことは初めてやるから興味があるわ。ラグナ、貴方はどうするの?」
皆既月食の満月を彷彿させるレイチェルの鮮やかな紅い瞳はラグナの顔を同意を求めるように見つめてくる。ラグナは一つ溜息を吐いてやれやれと小さく呟いた後、覚悟を決めた様子で言った。
「ああ分かったよ!放置出来ねぇのも本当だし、言い出しっぺだ!!俺も協力してやるよ!!」
「ありがとうございます!!では時間までもう少しだけ時間があるので、衣装に着替えてから振り付けの映像を見て練習してください!」
「分かったぜ!」
成せば大抵なんとかなる。それを胸にラグナは取り組みに励むのであった。
「そろそろ祭りのダンス部門も終わりが近づいてきたな」
「皆さん上手でしたね~」
「高嶋さんはどのダンスが良かったの?」
「私はさっきのが一番良かったな~」
いよいよ時間も遅くなってきた頃、諏訪の出店で一時の休息を過ごしていた若葉たちは路地の方で行われているダンスを見ていた。
「ねえみーちゃん。次の演目は何なの?」
「次は沖縄が出し物をするみたいだよ。エイサーだって」
「沖縄ですか…棗さんなら詳しいんでしょうけど、どこにいるんだろう?」
「そのうち、ひょっこり会えるんじゃないか?」
球子の言葉に他の少女たちが同意する。恐らく棗はこの会場のどこかにいるのだろう。ならその時に合流すれば問題ない。
「皆さん、合流出来たようですな」
「クラヴィスさんにヴァルケンハインさん」
「皆さんも祭りを楽しめましたか?」
「ほっほっほ。勿論だとも。久しぶりに下界に降りたが、今回は楽しい思い出が出来ましたぞ」
一度別れたクラヴィスたちも彼女たちと合流することが出来た。機会も出来たのだから千景は彼に話しかけてきた。
「えっと…こんばんは、クラヴィスさん」
「こんばんは。貴殿が千景殿かな?レイチェルがいつも世話になっているな」
「い、いえ。寧ろ私の方が助けられてばかりで…」
「ほっほっほ。気にすることはない。あの娘も貴殿らと関わるようになってからは本当に楽しそうなのだ」
以前の西洋人形かと思ってしまうほど静かだった娘が久しぶりに会ったら生き生きとしている様子を見れて、クラヴィスはとても嬉しそうだった。
「その…私は貴方を何と呼んだ方が良いのかしら?」
「そんなに固くなる必要はないぞ。気軽にクラヴィスで良い」
緊張で少しモジモジしている千景にクラヴィスは気さくに話しかける。気の良い老紳士から醸し出る不思議な雰囲気のおかげで幾分話しやすくしてくれた。
「祭りの方は楽しんで居るかね?」
「ええ…友達と色んな出店を見て回ったリ、美味しいものを食べて回ったりしました」
「なるほど。それがそうなのかね?」
クラヴィスが千景の持っているマシュマロの串を指さす。何個かのマシュマロが一本の木串に刺さっていて、何個か食べられた後だった。
「店の方がふわふわ枕のマシュラモと呼んでいました。マシュマロではないかと思ったんですけど…看板にもそう書いてあったので恐らくそういう名前で出されているんだと思います」
「それはまた面白い名前の出し物ですな。もしや友奈殿が食しているのもそれかね?」
クラヴィスが言うように菓子袋のようなものを抱えた友奈は千景のものと同じマシュマロらしきものをほおばっていた。しかし、千景のような串は持っていない。
「はい。高嶋さんとは一つ交換したんです。私は甘いものですが、彼女のものは塩っぱいものです」
「それが手の肉の板ですかな?」
「はい。ビーフジャーキーです」
どうやら友奈と千景は買ったものを交換しあったらしい。嬉しそうにそう話す千景を見てクラヴィスも楽しそうに笑っていた。
「く、クラヴィス様!」
そうしているとヴァルケンハインが珍しく慌てた様子でクラヴィスに話しかけてきた。
「どうしたのかね、ヴァルケンハイン?」
「あちらの方をご覧ください!レイチェル様が!」
「レイチェルに何かあったのか!?」
「あ~!!あれは~!!」
「ほ~…あれは…」
ヴァルケンハインの声に他の勇者たちも彼の指摘する方向へ向いた。その時の光景に彼女たちは目を丸くし、物腰の柔らかいクラヴィスもこれには思わず声を漏らした。
通りでは法被のようにも見える打掛を纏い、頭に鉢巻を巻いて太鼓とバチを手に持った集団が集まっており、その中で見覚えのある四人組がいた。
衣装と一緒にいつもの赤コートを腰に巻いたラグナ。先ほどの浴衣を脱いで髪を鉢巻で結って動きやすいポニーテールに纏めたレイチェル。そして同じように衣装に着替えた雪花と棗がいた。
「あらあら。これはどういうことなのでしょうか?」
「あの人たち、何であんなことを?」
「よく分からないが、恰好が他の人たちと同じだということは一緒に踊る…んだと思う…」
「本当にレイチェルちゃんの言う通り、ラグナさんはいつも変なことに巻き込まれていますね…」
「四国を大いに盛り上げるにも程があるぞ、お前ら…」
苦笑いする杏や球子たちの指摘と合わせるように会場のスピーカーから団体の名前が発表され、音楽も掛かった。そうすると少年少女たちは音楽に合わせて太鼓を叩き、掛け声を叫ぶと同時に身体を動かす。
「棗さん、上手ですよ~!」
「せっちゃんもレイチェルちゃんも上手いな~。こっそり練習していたのかな?」
「そんなことはないと思いますよ。皆さんがそんなことをしている様子はありませんでしたから」
「え、じゃああれ殆ど練習無しでやってるの?」
「…そうね。一人だけ明らかに動きが硬い人がいるんだもの」
千景の言う通り、エイサーを踊っている一団の中で一人だけ、動きが堅苦しく、仰々しい動きをした人物がいた。言うまでもない、ラグナである。
「…確かに一人だけ動きがおかしいな」
「なんか…ふざけてるのか、真面目にやっているのかが分からないぞ…」
「手や身体のムーブが大きいせいで全体のバランスが余計に悪く感じるわね…」
「しかも動きのキレが何故か良いから粗が更に目立ってしまってるかも…」
「…まぁ、彼のことだからふざけてやっているわけではないでしょうね」
実際ラグナは必死の形相をしながら元の運動能力で何とか動きを再現していたが、それでも周りに付いて行くだけでやっとだった。無駄に動きがキレッキレであることも相まって妙にシュールな踊りになっていた。
「彼、大丈夫なのかしら?」
「ラグナならきっと大丈夫だよ、ぐんちゃん」
「…それもそうね。私もちょっと心配しすぎなのかも。ありがとう、高嶋さん」
「えへへ、どういたしまして!」
慣れないことに悪戦苦闘している彼を見て千景は少し心配になったが、彼のことだからきっとなんだかんだで大丈夫だろうと友奈は励ます。そんな彼女たちを見て出店の老人が彼女たちに声を掛けた。
「歌野ちゃんに水都ちゃん。こっちは問題ないから頑張っている友達のところへ行っておいで」
「お爺ちゃんたちは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃよ。若いの同士で楽しめるこの限られた時間、今のうちにいっぱい楽しんできなさい」
「ありがとうございます!んじゃあ皆、行きましょう!」
「あ、おい!待ってくれ、歌野!」
歌野が向こうの方へ駆けていくのを見て若葉たちも急いで路地の方へ向かっていく。その様子を大人勢は優しく見守っていた。
「いやー、若いの同士が青春している姿はいつ見ても良いものですな~」
「同感ですな、ご主人。ところで私もそれをもらえないかね?」
「私めもお願いできますかな?」
「お二人にですな。少々お待ちを」
二人の注文を受けて老人は焼きそばを用意し始める。香ばしいソースと焼かれた野菜の匂いが煙に乗って辺りに広がる。嗅いでいるだけでその味を想像させてくれる。
「良い香りですな」
「とはいっても家の食卓の味ですがね」
「確かこちらで使われている野菜は全て自家栽培でしたな。これだけ風味を出してくるところを見ますと、良く育てられているでしょうな」
「それを言ってくれるなんてありがたいですな。実はこれも、あの娘たちのおかげなんですよ」
「あの娘たち…というのは歌野殿と水都殿ですかな?」
「ええ。私は元々特別農業に詳しかったのですが、歌野ちゃんたちがね」
老人が言うに自分はあの7月30日、既に生きることを諦めてしまっていたらしい。いや、自分だけではない。二人の少女にこれからの安全を守られなければならないと痛感した住民たちの多くは生きる気力を失った。
そんな中でも歌野はバーテックスと戦いながらも一人でも鍬を持ち、大地を耕し、畑の作物を育てていった。そんな彼女を巫女であった水都も隣で見ていて、大変な時も彼女の傍にいた。
「そして時が過ぎていく内に周りの大人たちも少しずつ協力するようになり、その後は皆で農業するようになったんですよ」
老人の話を聞いて二人は興味深そうに聞いていた。
「あの二人は諏訪の皆様にとって大切な存在なのですな」
「ええ。なので不謹慎かもしれませんが…彼にもとても感謝しているんです」
そう言いながら老人は今も必死に踊っているラグナへ目を移す。その理由にクラヴィスたちも思い当たる節はあった。
「…諏訪が落ちたあの日ですな」
「…ええ。彼が諏訪へ来たのはあの怪物が出現した数日前で、その時は歌野ちゃんが大怪我を負ったときでした。そこへ彼が助けに入った後もしばらく諏訪に滞在していたんです。そして怪物が来る前日、彼は集落全体に逃走出来るように呼び掛け回ったんです。度重なる襲撃のせいで結界が縮小したことに感謝したのは恐らく初めてでしたね」
そうして諏訪中の住民が守谷山の麓で待っていると、鍬の入った箱を抱えた二人が駆けてくるのが見えて、二人の言葉を聞いて諏訪から脱出することが出来た。
後はクラヴィスたちの知る通り、ラグナはタケミカヅチと戦い、そして敗北したところをレイチェルに間一髪で救出された。
「つまり、彼のおかげで貴方たちは無事にこちらまで逃げ切れたのですな」
「それだけではありませんとも。あの時、もし歌野ちゃんたちが残って戦っていたとしても…二人は死んでいたでしょう」
「…そうですか」
「だからあの娘たちを逃がしてくれた彼に…私たちの『希望』を守ってくれた彼に感謝してもしきれないのです。あの後も大変な騒ぎに巻き込まれていたようですが、彼が無事に生活しているようで安心しました」
そう言った老人はラグナに優しい視線を移す。それに対してクラヴィスは彼の話を聞いてあることを連想した。
「希望を守った…ですか。まるで勇者のようですな」
「…いや。それだけではないのかもしれんよ、ヴァルケンハイン」
「と、言いますと?」
「…彼は、『蒼の守護者』である可能性があるのやもしれん」
「蒼の守護者…」
その意味をヴァルケンハインも知っている。万物の根源である蒼。それに至る道への『門』を守る番人。それが蒼の守護者である。
「あの小僧が…ですか?」
「まだ可能性の範囲内ではある…だが…もしかしたら、な」
「左様ですか」
二人の紳士が演目のクライマックスを迎える彼を
「…ヴァルケンハイン。私は彼とレイチェルに『アレ』について話そうと考えている」
「…よろしいのですか?『アレ』は人間の目に触れられないようにとクラヴィス様が直々に封印したはず。彼に教えてしまってはかえって危険かもしれませんぞ?」
「それは心配するに及ばんだろう。以前の彼の話を聞いている限り、『アレ』の危険度は理解している。それに『アレ』は未来で生きている彼とその時代の命とも無関係ではない。何より、私もそう長くないだろうからな」
主人の言葉を聞いて、ヴァルケンハインは納得した。
「…了解いたしました。それがクラヴィス様の選択であれば私もそれに従いましょう」
「感謝する」
それだけ言うと二人は仲間たちに囲まれているラグナたちを見守る。急にも関わらず演目をやり切った彼らに沖縄の者たちは深く感謝を述べている様子が見えた。
四人を周りの少女たちも労う。先ほどの熱気の余韻に浸っている群衆の中からラグナの顔をハンカチで拭く千景を睨む二つの目に気付くことなく。
というわけで前回に引き続き、ネタのオンパレードな日常回になりました。楽しい日常がいつまでも続くと良いですね~。
さて次回ですが、祭りも終わりに近づき、ゆっくりとシリアスパートへと移行を開始します。個人的にのわゆ編、最後の日常パートだと考えています。それではまた。