夏凜ちゃんに若葉様、お誕生月おめでとうございます!若葉様は昨日誕生日でもありましたね。今回のスーパー銭湯ですが、皆さんは基本どうしていますか?私はお湯に浸かるよりサウナと岩盤風呂の方が好きです。
さて今回のお話ですが、察しの良い方は何の話題になるのかが分かってしまうかもしれませんね。それについての謎が明らかになって行きます。それではどうぞ!
The wheel of fate is turning…
祭りでの楽しい一時が終わり、勇者たちは次に起こり得る襲撃に備えて訓練に励んでいる。そんな日々が続いて、時は夏の暑さが少しずつ薄れてきた9月末頃。ラグナが気持ち良さそうに自分の寮室のベッドで寝ているところへレイチェルが起こしに来た。
「ラグナ、起きなさい」
「ンだよ、ウサギ……今何時だと思ってんだ」
「朝の3時よ」
「吸血鬼にとってはフィーバーする時間でも人間にとってはまだ寝る時間だ……悪ぃけど寝させてくれ。明日初っ端から座学があるのをテメェも知ってるだろうが。ただでさえ最近は朝起きられねぇのによ」
いつもの調子で悪態をついてやるが、彼女の毒舌が飛んでくる気配がない。怪しく思ったラグナは仕方ないと言いつつ、身体を起こして彼女に注意を向ける。それを察したのか、レイチェルも用を説明した。
「……少し言い返したいところではあるけれど余り時間がないの。良い、ラグナ。お父様が貴方と私にお話があるそうだから付いてきなさい」
クラヴィスからの話と聞いて流石にラグナの意識もはっきりしてくる。彼の吸血鬼が態々自分たちを名指しで呼び出すということは余程急な用事があるのだろう。
「……わーったよ。少し外で待ってろ」
レイチェルが外で待っている間、ラグナは他の者たちを起こさないように注意しながら準備を終える。出掛けようと部屋のドアを開けるとそこではいつもの黒いゴスロリを着た彼女が立っていた。
「待たせたな」
「ええ。それでは行くとしましょうか」
「夜なのに随分と急いでんな。そんなに急な用事なのか?」
「待っているのだから早く行くのは当然でしょう?まぁそうでなくとも、今回行く場所にも問題があるのだけれど」
「あぁ? 城で話すんじゃねぇのか?」
問題があるという言い方にラグナは疑問を覚える。クラヴィスとの話し合いであれば彼の居城であるアルカード城ですれば良いはずだ。それこそ昼間、学校が終わってからでも。これまでだって何度も行っているから今更急いで行く必要はない。
「……私も最初はそう思ってお父様にも聞いてみたけれど、どうもその場所でないとダメだそうよ。『あそこ』でないと分からないって」
「あそこって何処だよ」
ラグナが訝しげに眉を顰めるとレイチェルは複雑な表情を浮かべながらゆっくりとその場所の名前を言った。
「大社よ。それも現地の神官でも滅多に行けない場所で待っているらしいわ」
「……そりゃまた訳有り臭え場所を指定したな」
未来の時代でもラグナは大赦の要所へ行ったことは殆どない。子どもの頃に芹佳について行った時に興味本位で入ったゴールドタワーの裏口くらいだ。
それだって結界に阻まれて深くまでには入ることが出来ず、仕舞いには勝手に入ったことについて芹佳からかなり叱られている。それもあって基本的にラグナの中では大赦の施設はかなり厳重に守られている印象が強かった。
レイチェルも父の意図が掴めていないのか、手を顎の近くに添えながら真剣な顔付きで考え込む。彼女まで分からないならば本人に聞く他ない。
「……仕方ねぇ。まぁクラヴィス=アルカードのことだ。何か理由でもあるんだろ?」
「……そうね。分からないことを悩んでいても仕方がないわ。では、行きましょう」
彼女が指をパチンと鳴らすと二人は薔薇の花弁を撒き散らしながら黒いモヤを残して消失する。レイチェルが転移した証拠だ。一時の暗転の後、ラグナは周囲を確認した。
「……ウサギ。ここは本当に大社なのか?神社っつーかここ、森の中じゃねぇか」
「案ずるな。貴殿らは行先を間違ってはおらんよ」
木陰からヴァルケンハインに押されて車椅子に座しているクラヴィスが出現した。老紳士は一度ニコリと笑いながら会釈する。
「二人とも、よくぞ来てくださった」
「アンタの頼みなら来るしかねぇだろ」
「おい小僧、クラヴィス様に対してもう少しその乱暴な口を直せんか」
「ホホホ。良いではないか、ヴァルケンハイン。若くて元気のある証拠だ」
自分にぶっきらぼうな口調で話すラグナに小言をするヴァルケンハインにクラヴィスが宥めていると、ラグナは老紳士の様子が少し変わっていることに気付いた。
「なあ、爺さん。アンタ、少し痩せたか?」
「最近は食べる量も減ってしまったものでな。そうかもしれんな」
「かもしれねぇって大丈夫かよ? ウサギはどう思うんだ……」
レイチェルにも聞いてみようとしたが、彼女は俯いたままだった。気のせいか、少し顔が暗いようにも見えた。滅多に見たことがなかった表情にラグナも戸惑った。
「おい。ボーッとどうしたんだよ、レイチェル?」
「なんでもないわ。それでお父様、何故このような場所へ私たちを連れて来たのでしょうか?」
「それを知るためには、この奥へ行く必要があるのだよ。そこへは転移で行くことは出来ぬのでな」
「転移も出来ねぇとはまた益々ヤバそうだな。やっぱ大社関係か?」
「いや。もっと根本的なことだ。彼の存在を前にすれば、貴殿たちも理解出来よう」
「そうなのか?」
「応とも」
それならば仕方ない。そのために自分たちは来たのだから。ラグナたちはクラヴィスとヴァルケンハインの後ろに付いて森の奥地へと進んで行った。
「どうなってやがるんだ、ここの『場』は。ピリピリしてるなんてモンじゃねぇぞ」
「確かにそうね。全体的に重苦しい感覚というべきか、異界と言って差し支えないわ」
「異界っつーか……どっかで感じたことある気がすんな、この感覚」
この森からは通常の場所に比べて異質な気配を感じる。言うなればあの神社にとても近い感覚だ。ただし、あそこが人の心に安らぎを与える場所だったが、此方では何者も近づけさせない威圧感をひしひしと感じる。
月がそろそろ落ち、朝日もまだ出た兆しはない。見えるものも木々の影やレイチェルたちのシルエットくらいのものだ。音も殆どなく、遠くから巫女たちが普段滝行を行なっている水辺での音が聞こえてくる程度だ。
自分たちは今、静寂の闇の中。その上にこの異様な場。まるで黄泉の国へ向かっているみたいだ。本当に出てきたら笑い事ではない。何がとは言わないが。
それらが苦手なラグナは少し居心地を悪く感じているとクラヴィスは進みながら話し始めた。
「始まりはあの時、人類が『神』と邂逅した日だ」
「そいつはバーテックスがこっちへ来た日のことか?」
「それよりも前のことだよ。その後の悲劇のきっかけと言っても良い」
「前……」
7・30天災。あの日、バーテックスが来た2015の7月30日よりも前に人類は神と邂逅した。それはないだろう。結局マスターユニットとは接触出来なかったそうだから。
「始まりは偶然であった。『神々の
「神々の……故郷……」
「神ってそっちか」
レイチェルが父の話したその土地の名に聞き覚えがあったのか、思い出そうと歩きながら頭を働かせていた。対してラグナはレリウスと遭遇する前に読んだ研究者の日記を思い出していた。
アレに書いてあったのは何も実験に失敗したことだけじゃない。あそこに書いてあったのは『アレ』についても書いてあった。
「アレの発見によって、人類は境界の存在を
人類の選択に超常の存在である自分が過剰に干渉してしまっては、それは人類を操っていると言っても過言ではない。それは世界の理に大きく反発することだし、そもそもクラヴィスもそれは望んでいない。
だが結果として人類は境界、そしてその奥に座するマスターユニットへの接触を止めることはなく、最後には天の怒りに触れた人類にバーテックスが襲い掛かった。そして、今に至る。
「確かにそうだな……」
話を聞いている内にラグナは老紳士が何について話そうとしているのかを理解する。しかしそれが何故このような場であるのかが分からない。
「それで爺さん。アンタがアレについて話そうとしてんのは分かった。けどそれなら城で話しても良いだろ? ここで話したら不味いんじゃねぇのか?」
特に大社の神官に聞かれたらそれこそ色々と厄介だ。それはクラヴィスとて分かっている。その彼がラグナの疑問に答えた。
「実はというとな、『ここ』で私たちはアレを封印したのだよ」
これにはラグナだけでなく、レイチェルも驚いた。どうやら彼女も知らなかったようだ。ラグナも一瞬クラヴィスが何を言っているのかを理解出来なかった。ここ? つまり四国、それも香川にということなのか?
「……いや、ここに隠してもまた人間に見つかっちまうだろ?」
「ここは元々土地神と縁のある場所でな。人の身では近づけなかったのだよ。無論、封印の後は私が念には念をと結界を張ったのだがね」
「そうなの? ヴァルケンハイン?」
「はい。私も同行させていただきましたが、あの頃は岩肌が目立っておられていましたな。今ではかつての面影のない、緑に覆われていたものですから再びこの場所を見た時は大変驚きました」
もしかしたら神樹が出現した影響でこの山の環境も大きな影響を受けたのだろう。でなければ巫女や大社の人間たちはここへ来て神事を行うことが出来ない。
しかし、それはつまりこの場所が人の目に触れられるということだ。なのに放置してしまっても大丈夫だったのだろうか。そんなラグナの不安に老紳士は答えた。
「今でもアレが『人間の眼』では触れることは叶わぬ。今のアレはそうでない存在……『彼ら』に管理されているのでな」
「そうでない存在……それってまさか!」
人間とは異なる存在と聞いてラグナは嫌な予感を覚える。気づけば自然とラグナの右手に力が入っていた。魔道書を使っているのではない。寧ろ自身の長年の勘が危険を喧しいほどに知らせていた。
「クラヴィス様。間も無くお見えになります」
「そうか」
しかしそれについて詳しく追及する前に四人は石で出来た細い道が敷かれた空間に出ることが出来た。どうやらここが目的地だったようだ。
そこはこの深い森の中で小さく開かれた空間だった。神事のために少し整備されているのか、雑草は丁寧に抜かれ、道の両脇には石で出来た灯籠が並び、灯りは点いていない。
それ以外は本当に質素で、社や鳥居らしいものがない。道を囲むのに塀もない。とにかく人の手が加えられている部分は最小限に留めているように見えた。
それに対して多くの樹が塀の代わりに道の周囲を囲み、その枝は外界の光を遮断するようにどこまでも広がっている。まるで天然の神殿ようだ。
その中でも際立って目立ったのは道の先で彼らを待っているかのように鎮座している、ほのかな黄金の輝きを放つ、美しい大樹だった。それこそが四国を300年間守護し、勇者たちに力を与えた存在、『神樹』の現世での姿である。その姿を見てラグナは一つ感想を漏らした。
「……あの木だけ何か黄色くね?」
「せめて黄金と言いなさい。古服ではないのよ」
そんなことを言っているが、周辺から感じるピリピリとした空間から二人は確信する。ここに来るまで感じていた強烈な威圧感の正体はこの木にあったのだと。
「ここ一帯の場は、あの大樹によって保たれているようね」
「左様でございます、レイチェル様」
ヴァルケンハインがレイチェルにそう言った後、ラグナはクラヴィスに聞いてみた。
「爺さん、もう少し近づいても良いか?」
「それは寧ろ『彼ら』に聞いた方が良いのではないかね?」
「……神樹ならともかく、『アレ』に頭を下げるのかよ……」
そんな悪態を吐くと老紳士の言葉に賛同するように周りの木々が騒めき立つ。囲まれて多人数に見られている気分だ。
「……分かったよ。頭下げりゃ良いんだろ?」
このまま無視していたら急に巫女へ神託が飛ばされて、自分たちがここにいることがバレてしまうし、何よりここまで連れてきてくれたクラヴィスの顔に泥を塗る羽目になる。流石にそれは悪いと思ったラグナは嫌そうな顔をしながらも、一先ず敵意がないことを示すために大剣を道の横に刺し、小さく一礼してから神樹へと歩み出した。
先ほどに比べればマシにはなったが、近づけば近づくほど圧力が増していく。以前、ひなたや水都から神の前では人間は立っていることが出来ないと聞いたことがあるが、直接対峙すればそれが本当であることを実感する。
しかし、それでも膝をつくわけにはいかない。大樹の元へ辿り着くとラグナは苦い表情をする。
「……テメェとはもう二度と縁がねぇと思いたかったが、やっぱり『この世界』でも出会っちまうんだな」
未だ威圧感を出す神樹に対してラグナは吐き捨てた。
「『スサノオユニット』……!!」
そう言うと突風と共に神樹から白い閃光がラグナに向けて放たれる。それは咄嗟にガードした彼の右腕へと吸い込まれるように入っていった。その時に一瞬、何かの姿を幻視した。神樹の内部、明かりが一切ない真っ黒な空間の中で一つの人形がポツンとあった。
それは長い銀髪を束ねた白い鎧武者だった。最も特徴的なのはやはり無紋の白い仮面。間違いなく、ラグナがかつてあの世界で散々見てきたスサノオユニットのオリジナルだった。
何とか足を崩すことなく体勢を保ったラグナだが、隠しきれない驚愕のせいで手が震えていた。詰まるところ、神樹はスサノオユニットを自身の中へ取り込んでいたのだ。
そういえば元の時代でも少し神樹についてレイチェルから聞かされことがある。元々神樹は多数の国津神が集合した存在で、自分たちでネットワークを構築し、それぞれが持つ力を使って四国を維持していると。
(クソッ!! それにしたって本物の神だけじゃなくて、ユニットの方もこいつの中なのかよ!?)
元々須佐之男という国津神自体が存在していて、それが神樹を構成している神の一柱であることは知っていた。だが、まさかユニットまであるとは思わなかった。
だがそう考えればこの世界の峡真が誕生した理由も合点がいった。神樹が四国を維持している間に生じてしまった神々の悪意やストレス。恐らくそれがスサノオユニットの中へ溜まっていき、限界が来るとやがて外の世界へと吐き出されるのだ。
そしてそこから出てきた悪意が人間の魂となり、四国で生を受けた後に何度も混乱に陥れていった。その一人が結城峡真である。そういう意味では本来の器であるスサノオユニットから出て行き、やがて人間の器を得たユウキ=テルミと類似する点が多い。
この世界の峡真がこれを知っていたかは分からないが、知らなかったことを祈るばかりだ。
ラグナはレイチェルたちの方へ戻る。そこにいた彼女たちもまたいつも以上に真剣な面持ちだった。これが大社に知られたらかなり不味いことになる。人類を守護してきた存在の中に人類に破滅への一歩を歩む原因があるからだ。
「……爺さん、何で神樹があんなモンを取り込んだのか知っているのか?」
いつになく真剣なラグナにクラヴィスは少し複雑そうにしながらも答えてくれた。
「あの日、天津神たちがバーテックスを率いて現実世界へ侵攻を開始する前、国津神たちは彼らと争い、抵抗虚しくも敗北した。しかし、彼らはそのまま黙って人間が滅ぼされるのを見ているだけではなかった」
敗北してなおも国津神たちは何とかして人類の滅びを回避したいと願った。しかし、理の外側に位置する神は現世で実体を持っていない。自身の存在を留めるには自分たちの依代となる躰が必要だった。
「その時に彼らの目に止まったのが、私が人間たちから引き取り、城で密かに隠し持っていたスサノオユニットだったのだ」
かつて天から追われ、国津神の王となった神と同じ名前を持つこれこそ、自分たちの依代として相応しい。そう考えた国津神たちはすぐにクラヴィスへ遣いを出し、スサノオユニットを譲って欲しいと頼み込んだのだ。
少し懸念事項はあったものの、同じく人間が天の神によって滅ぼされることを看過できなかったクラヴィスはその提案を呑んだ。そして7・30天災が起こる少し前に彼はヴァルケンハインと共にこの地へ赴き、四国へと集ってきた国津神たちにスサノオユニットを託したのだ。
そうして依代を得た国津神たちはバーテックスの襲撃が起こるとスサノオユニットを内側へ取り込むようにその周囲を樹木で覆い、やがて大樹として現世に顕現した。それが今、神樹と呼ばれたものの正体である。
ユニットは神樹の中心に収まると、神樹は四国を囲むように根で作られた結界を張り、自身の力を受け入れることの出来る少女たちに力を授けた。その後は、ラグナたちの知っている通りだ。
「そんなことが……」
「それ以降、諏訪の土地神、北の国の山神、南の国の海神。そんな、多種多様な神々が神樹へと集まった。それもまた、スサノオユニットという強力な存在があったが故だ」
「……こいつがいなかったらどうなっていたんだ?」
「彼らの力を借りることは出来なかったのやも知れんな。事実、結界の修復、強化や黒き獣による汚染の浄化を早い段階で行うことが出来たのも、スサノオユニットという依代の存在が大きい。顕現し続けるために余分な力を回す必要もなく、多数の神との連携も可能になったのでな」
つまり、今のスサノオユニットは神樹にとってのコアユニットも同然ということになる。その事実にラグナは舌打ちをせざるを得なかった。
もしここでスサノオユニットを神樹から引き摺り出すことが出来れば事前に峡真の誕生を防ぐことも出来たかもしれない。しかし、それをやれば若葉たちの世界を危機に陥れることになる。それはどうしても出来なかった。
「……他の神官たちはこの事実に気づいてねぇよな?」
「神樹からの言葉を受け取ることが出来るのは巫女だけなのでな。そこまでは定かではない」
「……そうか」
といっても簡単な話、国津神たちが自分たちから事実を明かさない限り、スサノオユニットの存在は簡単に知られることはないだろう。神樹が人間に天の神が攻撃を仕掛けてきた原因を態々開示するメリットがない。それを一番調べていそうな峡真も知っている様子はなく、既に倒されている。
(他に気づきそうな奴と言ったら……強いていうならレリウス=クローバーか……)
あのマッドサイエンティストなら神樹や勇者を見てあっさり看破する可能性は高い。そして何より彼は自分の時代にもいるようだ。一番警戒するべきは奴か。ラグナが今後のことについて考えていると横からレイチェルが自分のコートの裾を引っ張っていた。
「何だよ、ウサギ?」
「……ラグナ、友奈の出身地が何処なのか、覚えているかしら?」
「あぁ? 急にどうしたんだよ?」
「良いから答えて」
「……分かったよ」
何故ここでレイチェルが友奈の出身を指摘してきたのかが分からないラグナはそのまま、何でもなさそうに答えた。
「奈良県の斑鳩って町だ」
それを聞いてクラヴィスとヴァルケンハインの方が驚愕していた。なんと奇遇な、しかし同時に運命としか言えぬなどと小声で話し合っているが、その言葉にラグナは困惑する。その彼にレイチェルはいつもの意味深な笑いとは違う、どこか確信めいた表情をしながら告げた。
「そう。その通りよ。でも同時にもう一つ呼び名があるでしょ?」
「そっちは確か、『神話の里』じゃなかったか?」
「……そのフレーズ、先ほどお父様がおっしゃっていた『神々の故郷』と似ていると思わないかしら?」
「なっ!!?」
改めて指摘されれば確かにそうだ。世間は狭いなんてもんじゃない。そう痛感させられた。しかしそれでも疑問があった。
「ちょ、ちょっと待ちやがれ、ウサギ! 俺は確かにユーナの故郷に行ったことはあるが、あそこからはスサノオユニットの気配なんか毛ほども感じなかったぞ!?」
「当たり前でしょう。アレが出土されたのは貴方が城へ来る数年か前の話だから。問題は友奈が子どもだった頃からアレがあそこにあったことよ」
「どういうことだよ? 証拠でもあるのか?」
「その説明に入る前にまず話すことがあるわ。ラグナ、貴方なら感じることが出来るでしょう? ここの場の異様さを。どこかと感覚が似ていると思わない?」
それであればラグナは答えることが出来る。ここに来てずっと感じていた違和感のようなもの。それは彼にとっても非常に馴染み深いものだった。
「……『窯』の近くかッ!!」
「ええ。伊勢で見た、あそこよ」
元々国津神たちは天の神と同様、理の外にいた存在だ。だからその力である精霊もまた理の外、則ち境界由来のものとも言える。それによって、精霊の力を勇者たちが使う度に身体や精神にダメージが起こっていた。ある意味、精霊に関する杏の説は正しかったのだ。
「そういやユーナが言ってたよな。昔から神社に通っていて、大社や俺とチカゲがいた神社が出す空気に対してもそれほど違和感を感じなかったってよ。まさか、あれも」
「恐らく、スサノオユニットがまだあの町の地底に存在していた当時にここと似たような場が存在していたのだと思うわ。流石に境界の影響力は少ないとは思うけれど、完全に無視は出来ないと思うわよ」
本来境界に存在していたはずのスサノオユニットが長い時間の流れを通じて、いつからか現世に出てくると、地底から場を展開してしまった。そしてそこは後に神聖な土地として崇められ、神社が建つようになったのだろう。地下で眠っている黒き獣の上に建っているあの神社と同じだ。
「なるほどな……つーかテメェ、よくアレだけでここまで推測出来るな。いつンなことを調べたんだ?」
「少しひなたから話を聞いたのよ」
実は友奈が自身の過去について話した夜、レイチェルはひなたとその場にいた若葉と一緒に友奈の話についてどう感じたのかについて議論していた。
ひなたが言うに、穢れや神秘といった通常の人間では観測出来ないものでもそれらに満ちた場所の空気に触れる、つまりは同じ空間に存在することで人の身と接触し、蓄積していくことがあるそうだ。そして一度触れ合ったものは離れた後も互いに影響し合うと言う。
そういった現象を大社の神官によると『感染呪術』と呼ぶらしい。巫女の教養としてそれを教えられていたひなたは友奈の幼少期を聞いてそれを思い出したそうだ。レイチェルも場などの言葉の違いこそあったが、理屈自体は大体ひなたと同意見だった。
たが結局、その日はどんなに考えても何故黒き獣や神樹のような圧倒的な存在がいないにも拘らず、一人の少女を勇者として戦えるほどの影響の強い場が展開されていたのかを三人でも分からなかった。
しかし、今回の父の話でその疑問は解決した。スサノオユニットであれば場を造り出せるほどの神威を持っていてもおかしくはない。そして長い間その場の中で時間を過ごした友奈はそれだけスサノオユニットが発生させた場の影響を受けていたのだ。彼女が勇者たちの中でも最も高い適性を持っていたのもこれが原因だろう。
「爺さん。アンタが言ってた研究者たちの発掘調査って、小っちぇ神社の近くがあったりしなかったのか?」
「……彼らが発掘調査を行なっていた場所には多くの神社があった。もしかすると、友奈殿が過ごしていた神社も近くにあったのやもしれぬ」
どうやら事実で間違いないらしい。そうなると『友奈』とスサノオユニットの縁はこの代から始まっていたということになる。ここまで来たら、実は『ライフリンク』で繋がっていたと言われても大して驚かない自信すらある。
「実際、そう考えると大型バーテックスや黒き獣に対しても早い段階から打点を与えられたことも納得出来るわね。スサノオユニットは『破壊』を司る存在……しかも友奈の手甲に宿る霊力は天津神への呪いと呼ばれている『天ノ逆手』……天の神からすれば、これほど恐ろしい敵はいないわ」
「分かりやすく自分たちを殺るための力だもんな……」
しかし呪いや破壊と、どれも友奈のイメージとかけ離れた力ばかりである。普段の朗らかで優しい彼女からは信じられないものだ。それともそんな彼女だからこそ、国津神はそういった凶悪な力を託せたのか。
それもあるかもと話し合っているとヴァルケンハインは少し咳き込んで自分たちをクラヴィスの方へ注目するように仕向けた。自分たちの話に夢中になってすっかり二人の存在を忘れてしまったようだ。
「済みませんお父様、ヴァルケンハイン。つい話し込んでしまいました」
「ハハハ。気にするな、レイチェルよ。二人が楽しそうに話しているようだったのでな。つい話しを続けるタイミングを逃してしまった。何だったらもっと話を続けても良いのだぞ?」
「時間もあまり無いのでしょう? お父様の話が優先です。ヴァルケンハインも、話を止めてくれてありがとう」
「いえいえ。お気になさらないで下さい、姫様」
「では、話が着いたところでもう少しこの老いぼれの話に耳を傾けてはくれまいか?」
どうしたのだろうかと疑問に思いつつもラグナはそれを承諾する。レイチェルも頷いて続きを話すように促した。
「確かにスサノオユニットや他の神々のおかげで神樹の結界は以前とは比べ物にならぬほど強力になった。しかし、それとて永久ではない。どれだけの時を要するかまでは分からぬが、長い時間が過ぎていけば、それだけ神樹にも悪影響が出るだろう」
「……ああ」
それは神世紀の勇者たちと共に長い間バーテックスと戦ってきたラグナが一番よく理解していることだった。
「そうでなくとも、長い時の中でこの事実を知り、スサノオユニットを悪用する人間が現れる可能性もある。故にその時、四国を守れる者が必要なのだ。もしその何者かがこの事実に気づいた時にも先手が取れるように」
「だから俺たちをここへ連れてきたのか?」
「レイチェルはきっとこれからの未来、四国を見守ってくれることになるだろう。ならばどこにアレがあるのかを伝えることも必要だ」
「ンじゃあ俺は? 俺は腕がバーテックスなだけのただの人間だぜ?」
「貴殿はアレの危険性を十分に理解しているから無闇に吹聴することはないだろう。それに貴殿は、『蒼の守護者』になる可能性を秘めている。その関係でも知っている方が良いと思ったのだよ」
蒼の守護者。あの世界でもかつて自分がなり得ると言われたもの。あちらでは蒼の門を守る番人のことを示していたが、こちらでは恐らく文字通り、蒼を守る者のことかもしれない。
「……『世界の破壊者』だとは思わねぇのか?」
「これまで数多くの『
それを言われて悪い気をしなかったラグナは少し照れ臭そうにしていたが、疑問がまだ解決していなかった彼はすぐに平常心に戻った。
「そこまで言ってくれるのはありがたいけどよ。何で今俺たちにこれを伝えるんだ? それならもっと落ち着いた時期でも良かったと思うが」
それが引っかかった。元々クラヴィスがかなりの高齢であることは知っていたが、だからといってそれは戦いがまだ終わっていない今、自分たちに知らせた理由が分からない。これが色々落ち着いた後であればもっと話し込みやすかっただろう。
その時、ラグナはここへ来る前にレイチェルが見せた悲しそうな表情を思い出す。そこから何となく察してしまった彼は恐る恐るクラヴィスに真相を聞くと、老紳士の代わりにヴァルケンハインが静かに告げた。
「……そういうことだ。クラヴィス様にはあまり時間が残されておられないのだ」
「そう……なのか……」
きっと前から診ていたであろうヴァルケンハインの顔も悔しそうだった。やるせなさに思わずくそっ、とラグナが一言漏らすとクラヴィスが彼を制した。
「良いのだよ、ラグナ殿。ヴァルケンハインはよくやってくれた。今日まで生きることができたのは彼のおかげだ」
「……私めなどには勿体無い御言葉です、クラヴィス様」
ヴァルケンハインは主の言葉を噛みしめながら頭を下げる。その様子にラグナは黙って見ているしかなかった。老紳士は一度、娘であるレイチェルに向かって告げた。
「ということで聞いての通りだ、レイチェル。私はそれほど長くは生きられぬだろう。だから今、お前には正式な当主としてアルカード家を継いでもらいたい。これからの世界、任せても良いか?」
穏やかにそう言う父はまるで死期を悟った仙人のようだった。レイチェルはラグナを呼びに行く前、既に本人とヴァルケンハインから父の身体の事情を聞いていた。
肉親を失うことは彼女にとっても辛いことだ。それでも激しく取り乱すことはない。伊達に何百年も生きているわけではないし、父の思いを理解していたからだ。
「ええ、お任せ下さい」
「うむ。では明日にアルカード城にあるもの、特にお前のものをこちらへ持ってこなければな。恐らく私が居なくなれば、あの城は安全とは言えなくなるかもしれんからな」
「そういうことでしたら、一時的にこちらの城へ移しましょう。住居自体は後で決めます」
「分かった。そしてヴァルケンハイン 」
「レイチェル様のことでしたら」
「そうか。では頼んだぞ 」
「承知致しました」
長年の付き合いのおかげか、少ない言葉を交わすだけで意図は十分伝わった。それだけ言うとクラヴィスは次はにコートの青年の方へ話し掛ける。
「さてラグナ殿。貴殿はこの世界に来て、成すべきことを見つけることが出来たかね?」
「……成すべきことは、正直まだ分からねぇな。俺はアイツらと一緒にバーテックスや黒き獣と戦って四国を守ってきた。俺にしか止められねぇ奴の悪事を止めることも出来た。けど、それだけなら俺一人である必要はなかったとも感じるんだ」
それこそ、単純に戦力という点であれば自分一人である必要はなかったはずだ。なのに実際は自分一人でこの時代へ来てしまった。
「けどまぁ……成したいことは出来たぜ」
「それは何かね?」
「アイツらが生きる、この世界を守りたい。そのための力になりたいんだ」
勿論、未来で生きている仲間や家族を守るために、この世界で負ける訳にはいかない。だが同時にそれを抜きにしても、ラグナはこの時代で生きる仲間たちの世界を守りたいと考えるようになった。
時代はおろか、世界すらも違うことを知ってもなお、自分を仲間として受け入れてくれた者たち。彼女たちの戦いが終わっていないのにこのまま帰るだなんて考えられない。そんなことをしたら、自分は最早勇者部の一員ではない。
「帰るのとかは……その後でも大丈夫だろ。心配事は何個かあるが、あっちにいるアイツらも簡単にやられるようなヤワじゃねぇしな」
少なくともこっちでの用事をやり切るまで帰るつもりはない。彼の出した選択に対して、クラヴィスは納得したような笑みを返した。
「そうか……ならば必ずそれを成し遂げなさい」
「へっ、言われるまでもねぇよ」
ところでクラヴィス。ラグナは老紳士に一つ質問してきた。
「俺が自分のを教えたついでに聞きてぇってのもあるけどよ。アンタも『
「『
「……それがアンタの『
「ハハハ、それならば安心だ。しかしだ、ラグナ殿」
クラヴィスはラグナに温かくも厳しい眼差しを向けて忠告した。
「あまり『無理』をし過ぎてはいかんよ」
「……ああ」
「ラグナ?」
「何でもねぇよ、ウサギ。心配すんな。オラ、もうすぐ朝だぜ」
ラグナの言うように、瀬戸内海にある壁から朝日の光が出始めていた。一同は森から去って山道を下っていき、場の影響が少ない場所まで辿り着くと転移魔法でクラヴィスとヴァルケンハインはアルカード城へ戻った。
ラグナはレイチェルに父親の側にいなくて大丈夫なのかと聞いたが、彼女は、こちらでも準備をしないと行けないことはあるから、と言って、彼と共に丸亀城の寮へ帰った。
という訳でスサノオユニットin神樹様という話でした。正直に言いますと最後の方はもっとダイジェストで先に進もうかなとも思ったのですが、何か雑っぽくなっちゃう気がしたので日常を後1話だけ挟むことにしました。今回はブレイブルー組だけでしたしね。
さて次回ですが、レイチェルの引っ越し中の出来事。あんまり強く言うべきことではないかもしれませんが、皆さんの感想や評価をお待ちしております。それではまた。