蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

石紡ぎの章で女子同士でも子供が作れるっぽいことが示唆されたわけなのですが、一体どういうことなんだ……私にはさっぱり分からないぞ!!?

さて今回はタケミカヅチ、とうとう大暴れ!! ツクヨミユニットを展開したレイチェルだが、果たしてどんな戦いが起こるか。それではどうぞ。

The wheel of fate is turning…Rebel1…Action‼



Rebel104.死の杯は天より嗤う

「押さないでください! 慌てず押さず、かつ速やかにこちらへ!」

「大社のシェルターはこちらへ向かって真っすぐです! 気を付けてください!」

 

爆発音と閃光が四国中を駆け巡ていく中、地上にいる勇者たちは丸亀城から武装を回収した後に一度民衆の避難を促していた。広範囲での避難誘導を行うのに一度分散しているため、互いへのやり取りは端末を使って行っている。

 

若葉とひなたは丸亀市街で周りの人間を避難所へと誘導している。勇者服を着た彼女はいつでも戦闘に入る準備が出来ているといった様子だ。

 

「ふざけんなよ! お前らがとっととアレを倒せばいいだろうが!!」

「早くなんとかしろよ、勇者! 俺たちを守ってるんだろ!!」

「うあぁぁぁぁぁぁ!!! 俺はまだ死にたくねぇ!!!」

「私が何をしたというのよ!!? もういやぁぁぁぁ!!!」

「俺は大金持ちにならないまま人生を終えるわけには行かないんだぁぁぁ!!!」

「終わりだ……世界の終わりだぁ……皆みーんな一緒に死ぬんだぁ……ハハ……ヒャハハハハッ!!」

 

市民の絶望した様子に若葉たちも苦悶の表情を浮かべる。例えはっきりと見えることが出来なくても、(頭上)より突然発生した爆音や空に広がる方陣はかつての7月30日と同じ光景を彷彿させるものだった。そのせいで多くの人々がパニックになっていた。

 

「くっ……せめて敵が地上へ降りてくれば、私たちにも対処の仕様はあるんだが!!」

「ほかの巫女や職員の方も協力してくれているおかげでまだ何とかなっていますが、このままではいずれ……」

 

その時、街全体が揺れ動くほどの衝撃が襲った。人々は悲鳴を上げながら足をふらつかせる。若葉は海の方を見た。根によって形成された壁の隙間から水が入ってきていた。向こう側で津波か何かが壁と衝突したのだろう。

 

「今のは!!?」

『心配すんな! ウサギに弾かれたタケミカヅチの攻撃が他の場所に落ちただけだ!』

 

若葉とひなたの端末からラグナの声が聞こえてきた。タケミカヅチの砲撃と同時にツクヨミユニットが出現したのを少女たちも確認している。三輝神ユニットの一つであるツクヨミユニットの強固な護りは別名、『絶対防御(ぜったいぼうぎょ)』。例えアマテラスの干渉であろうと弾くことが出来る。

 

「強力な守りだな……だが、これまで使わなかったのはそれなりの代償があるからなのだろう?」

『アレは三輝神ユニットの一つだからな。むやみには見せられねぇ。それに使えば、アイツ自身もかなり力を消耗してしまう』

『なるほどね。そうなると早く戦線に向かえばいいんだけど……』

『それでしたら一度レイチェルちゃんと連絡を取ってみましょう。少しでも戦況が分かればこちらも作戦を立てやすいですし』

「それならば私が。少々お待ちくださいね」

 

杏の言うようにひなたがレイチェルと連絡を取ってみるとしばらくして彼女が出てきた。爆音に紛れてレイチェルの声が聞こえてくる。

 

『あら。皆、もう準備が出来たの?』

「はい。全員、戦闘準備はできていて、現在皆避難誘導を行っています」

『なるほど。では、抑えるのはここまでね。そろそろやられっぱなしなのにはうんざりしてきたところなの』

 

次の瞬間、端末から何かが炸裂したかのような甲高い破裂音が聞こえてきた。恐らくレイチェルが攻勢に出て雷を放ったのだろう。同じようにタケミカヅチが反撃してきたせいか、爆発音が再び聞こえる。同時に戦いに集中するため、レイチェルは一度通信を切った。

 

「レイチェルちゃん……やっぱりそういうところはラグナさんとそっくりですね」

「二人とも怒ったら意外と激情家だからな。道理で気が合うわけだ」

『それ、若葉さんが言ったらダメな気がします……」

『でも大丈夫かしら……たった一人だなんて……」

 

戦っている様子を聞いている千景が右腕にはめた腕輪に触れながら心配そうに端末を見ている。葬式にいた頃はつけていなかったが、ラグナから貰って以降はよく付けている。お守りのようなものだ。

 

『……今は俺たちのできることをやろう。まだ病院の方の避難も終わってねぇみてぇだし、あのウサギが簡単にくたばるわけがねぇ』

『そうだね! それにレイチェルちゃんだって、危なくなったらきっと知らせてくれるよ!』

『……分かったわ。二人がそう言うなら間違いなさそうね』

 

頼りになる友人を信じてラグナたちは避難活動を続けた。一方のレイチェルはというと、タケミカヅチを相手に一歩も引く様子を見せない。巨人が放った初撃をツクヨミで無力化すると、両者は激しい弾幕戦を繰り広げ始めた。

 

「バレル・ロータス!!」

 

周囲に出現させた太った蝙蝠のエネルギー弾、バレル・ロータスはレイチェルの発生する風に乗って一気に天高く向かっていく。それを見たタケミカヅチも猛烈な砲撃の嵐を放つ。槍のように迫ってくる火矢に飲まれた蝙蝠たちは跡形もなく燃え尽きた。

 

「いい加減大人しくして欲しいものね」

 

天で吠え続ける怪物に向かってレイチェルは嫌味をぶつける。かれこれ一時間近く戦っているが、お互い中々決定打を浴びせることが出来ない。ロータスさえ近づけることが出来れば、例え宇宙空間だろうと雷を敵の懐へ叩き込める。

 

しかし、その前段階であるロータスの接近が最大の難題である。タケミカヅチの火の槍を一撃でも喰らえばロータスは消滅する。故にあの熾烈な弾幕を一度も触れられることなく潜り抜く必要がある。

 

それを理解しているのか、タケミカヅチは邪悪に笑う。それがレイチェルの癇に障った。

 

「……なら、これはいかがかしら!!」

 

気合を入れ直したレイチェルは薔薇の方陣を展開すると、周囲の暴風は更に強くなっていった。それを見て警戒したタケミカヅチは両肩から再び火の矛を数本放出し始めた。

 

「風よ、踊れ!!」

 

相手の攻撃をツクヨミで防ぎながらレイチェルは一発分のロータスの下に方陣を展開する。その周囲を竜巻のように風を纏っていく。しかし、今はまだ攻勢に出ることはできない。この爆風の中でロータスを飛ばしても攻撃は当たらない。

 

一撃の火力では通じないと感じたタケミカヅチは次に手数で攻め始める。サジタリウスと同様に無数の矢を射出し、絶え間なくそれがレイチェルへ打ち込まれる。

 

だがそれを見て、レイチェルは笑いながら竜巻の力を開放させた。これまでの攻撃とは違って、今の攻撃は威力が低い。であれば強引に突破することが出来る。チャンスが来たのだ。

 

「ガーベラ・リュート!!!」

 

一気に吹き上がった竜巻は矢を吹き飛ばしながらタケミカヅチへと直進する。巨人は一度驚きはしたものの、攻撃を喰らわないようにすぐ自身に迫ってくる弾丸を焼き払おうと口から砲撃する。

 

直撃は免れたものの、ロータスの軌道は大きく逸れ、そのままタケミカヅチの横を過ぎ去っていった。巨人はより一層力を籠めて砲撃する。それによってツクヨミを展開したレイチェルも押され始める。

 

『ツクヨミユニット』の『防御』は確かに絶対だ。しかし、それも『レイチェル自身』の『体力』が尽きれば別の話だ。こうしてタケミカヅチの攻撃をこれ以上押さえていてはそのうち彼女は力尽きてしまう。それでも吸血鬼は獲物を捕まえた捕食者のように天にいる巨人を見据える。

 

ロータスは今、タケミカヅチの背後を取った。彼女にとってロータスがタケミカヅチとの距離を詰めればそれで良かった。それだけで十分だった。おかげで自分が最も得意とする技を命中させることが出来る。

 

「ようやく尻尾を捕まえたわ、覚悟なさい!!!」

 

レイチェルも両手を天に翳す。攻撃を続ける巨人の後ろにいるロータスと同じように腕が紫電を纏う。パリパリと火花を散らすと彼女は手を振り下ろし、技の名を叫ぶ。

 

「『バーデン・バーデン・リリー』!!!」

 

瞬間、振り降ろされた審判の槌の如く、紫の雷がロータスから落とされた。それが殻から出て剥き出しになっている背中ごとタケミカヅチのコアを貫く。心臓に等しい部分を撃ち抜かれて、巨人は攻撃を止めて咳き込んだ。パラパラとその胸から赤い破片が落ちていき、自身もふらふらしながらゆっくりと降下していく。

 

「ねぇ、聞かせてもらえないかしら? 自分たちが頂点だと高々に吠え続け、凡俗だと蔑んだ相手から一撃を貰った感想は? 中々痺れるでしょう?」

 

まともな人間であればその場で凍り付きそうな視線を自分に向けてくるレイチェルに対して、巨人は口からも煙が立たせて唸るだけだった。その代わり、ガクガク震えながら下にいる彼女を殺意に満ちた眼で睨みつけた。少し息を上がらせるが、レイチェルは天を睨む。

 

「そんなに悔しいなら降りて来ても良いわよ? もっとも、ラグナから逃げるためにこんな場所から攻撃するような腰抜けに私もあの娘たちも負けはしないわ」

「グォォォォォォォッ!!!!!」

 

その言葉を理解したのか、タケミカヅチは雄たけびを上げた後に自分の殻の中へと閉じこもる。鋼の外骨格の中にいれば攻撃はできなくなるものの、安全を確保することは出来る。

 

さては逃げる気か。そう考えたレイチェルだったが、巨人は全く逆の行動に移った。何と自分に向かって真っすぐ直進してきたのである。

 

「体当たりで突破するつもりのようね!!」

 

剣の先端が突き刺さってくるように突進してくる巨人にレイチェルも応戦する。発生させた暴風で何とか相手の勢いを殺そうとするが、それも受け流されてそのままツクヨミユニットの方陣に突き刺さった。

 

「ッ……グッ……!!!」

 

レイチェルはタケミカヅチを抑えんと歯を食いしばりながら踏ん張る。こんな必死な顔を晒してはヴァルケンハインにはしたないと窘められてしまうだろうか。それでも自分は必死にならずにはいられなかった。

 

外の世界に出てから出来た、多くの友人たち。そんな彼女たちがこれから紡いでいく未来を観測()守っていきたい。それが今のレイチェルが持っている願望だった。

 

「このまま……通すわけには……!!」

 

レイチェルの顔に疲労の色が浮かぶ。ツクヨミユニットの長期使用とタケミカヅチとの激しい弾幕戦によって体力がごっそりと持っていかれてしまったのだ。

 

反撃に転じるために再びロータスを解き放ち、攻撃を仕掛ける。しかし、いくら雷を浴びせても殻は焦げた様子しか見せず、明確に効いている様子が見れない。

 

「……くっ!!」

 

出来るならもう少し皆の負担を減らしたかったが、どうやら自分が一人で戦えるのはここまでのようだ。申し訳ないと思いつつも彼女は端末を仲間たちにつなげ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイチェルが上空で戦っている頃、この世の地獄となっている地上では未だに混乱が収まる様子が無く、勇者たちもその対処のためにあちこちを駆け回っていた。

 

若葉たちは今も大社の職員たちと一緒にシェルターの近くで避難誘導を続けている。黒き獣が来た後も万が一に備えて大社はこの場所の改良を進めており、他の県にもこういった施設を設置した。だから一先ず人々の一時の安全を確保することが出来る。

 

「若葉ちゃん!! 病院にいる天恐の人たちを連れてきたよ!!」

「でかしたぞ、皆!! 後はこの中へ連れて行ってくれ!!」

「ああ!!」

 

病院から来たであろう、無数の救急車を護衛しながらラグナたちは中へと急ぐ。頭上ではかなりの激闘を繰り広げていたようだが、こちらでは直接見ることは敵わない。

 

若葉は逃げ遅れたり、避難中に怪我した人がいないかを確かめるために周りを見渡す。すると子供たちを引き連れた中学生の三人組がいた。子供の一人が怪我しているのか、それをおぶっているようだった。

 

「そこの貴女たち、大丈夫ですか?」

「はい、それよりこの子たちが」

「なるほど……む、貴女たち、どこかで……」

 

三人組の顔を見て、若葉は思い出す。そこにいたのはかつてあの日の修学旅行で仲良くなったクラスメートたちだった。あの日以来、若葉は元の学校の知り合いとは会っていない。勇者としての鍛錬に忙しかったからだ。

 

「あれ、もしかして乃木さん!? 乃木さんだよね!」

「わぁ~、久しぶりだね!」

「本当だ! 夢だったりしないよね、これ!?」

「ま、待ってくれ! 私は本物だ!」

 

何がなんやらと若葉が混乱していたが、一旦冷静になろうと心を落ち着かせる。今彼女たちは子どもを連れている。少しでも手が必要だ。

 

「つ、積もる話もあるかもしれないが、今はその時ではない。子どもたちがどうしたんだって?」

「あ、うん。この子たち、どうも親とはぐれてしまったみたいで。泣いているところを連れてきたんだ」

「そうか……なら付いてきてくれ。避難所はこっちだ」

「若葉ちゃ~ん!」

 

後ろからひなたの声が聞こえてくる。自分を追いかけてきたのだろう。同じく久しぶりに会った同級生たちと短い挨拶を交わすと早速彼女の案内で大社の方へ向かう。

 

その時にちょうど端末から着信音が出る。画面を見て通信の主を見て二人は少し動揺する。レイチェルからだった。早速出ると彼女の声が凄まじい音と共に聞こえてきた。

 

「おい、レイチェルどうした!!?」

『悪いわね……思った以上に手古摺ってしまったわ』

「何があったんですか!?」

「まさか、奴が予想外の攻撃を!?」

『ある意味そうね。簡潔に言うと、敵は漸く玉座から降りて私に殴りかかってきたのよ』

 

端末越しでもツクヨミの障壁とタケミカヅチがぶつかり合う音が聞こえてくる。巨人の突撃を防いでいなかったら、そのまま隕石のように降りてきて樹海を根こそぎ破壊してそのまま四国を崩壊させていただろう。

 

『おいウサギ! もう十分だからそこから離脱して、俺たちに任せろ!!』

『……それも出来そうにないわ』

『何だよ……どうしたんだよ、レイチェル!! 全然お前らしくぞ!! いつもみたいに余裕だって、大したことないって言ってくれよ!!』

 

ラグナや球子の声にレイチェルは小さく笑うだけだった。だがそれだけでも彼女の友人たちは分かる。彼女は本当に追い詰められているのだ。

 

『そんな……ダメ……ダメよ!! 死んだりなんてしたら!!!』

 

千景の泣きそうな声が端末から聞こえてくる。彼女は病院へ行った際、因縁のある相手と図らずとも再開していた。それはかつて家を出て再び帰ってきたときには天恐となっていた実の母だった。

 

憔悴しきった母は不自然なほど肌白く、目も虚ろだった。まるで死人を前にしているようだった。ついさっきまで義父であるクラヴィスの葬式に出ていたせいで、余計それを意識してしまった。

 

クラヴィスは老衰で死んだ。実の母は天恐で廃人同然。実の父は最後に会ってからどこへ行ってしまったのかは知らない。そこへ今度はレイチェルがいなくなるかもしれない。しかもよりにもよってバーテックスに殺されるという最悪のシナリオ付きだ。

 

他の者たちもどうすればいいのかが分からず、空を仰いで黙り込むしかなかった。あそこまで勇者たち全員で行くには球子の切り札を使わなければならないが、それでもスピードがどうしても足りず、レイチェルの元へは間に合わない。

 

「ねぇ、ゆうしゃさま……」

「ん、どうした?」

「みんな、しんじゃうの?」

 

級友が助けた少年の一人が不安そうに若葉の勇者服を摘まむ。親がどこに居るかも分からず、空では正体不明の爆発音が轟いていれば不安になるのも無理はない。このまま何もできないのか。少年の問いに答えられず、若葉はただ空を見上げた。

 

「若葉ちゃん」

 

その時、後ろからひなたの声が聞こえてきた。自分が何を考えているのかを全て悟ったようだ。優しく笑いながら彼女は若葉に語り掛ける。

 

「皆さんは私が責任をもって同行します。若葉ちゃんは心の思うままに行動してください」

「……ありがとう、ひなた」

 

ひなたの言葉を聞いて決意は固まった若葉は少年の頭に手を置く。

 

「少年、さっきの話だが」

「うん……」

「死なないさ。誰もな」

「ほんと?」

「ああ。私たちがいるからな」

 

そう言って若葉は端末を通じて空の向こうにいるレイチェルへと呼びかける。

 

「レイチェル。今いるのはどのあたりだ? 人がいられる場所か?」

『……丸亀上空の雲海の中で持ちこたえているわ』

 

砲撃が通らないと判断したタケミカヅチは力業でツクヨミをレイチェルごと押し込み、彼女が力尽きた瞬間、そのまま落下して神樹を吹き飛ばすつもりだった。それによって彼女たちはじりじりと四国へと押されていったが、おかげで人のいられる場所へ降りることが出来た。

 

「よし、1分だ」

『『え?』』

「1分だ、レイチェル。その時間だけ、何が何でも奴を抑えてくれ。その間に私が何とかしよう!!」

『いけるのね、若葉。スカイハイまで!』

「無論だ。そっちは問題ないな、レイチェル?」

 

若葉の突然の宣言に少女たちは驚愕するが、同時に迷い無くそう言い切った彼女を頼もしく感じた。

 

『……ふふ、そうね。その間はアルカード家の名に懸けて、ここは死守するわ。だからそれまでには『助けて頂戴』、お願い』

「勿論だ。そして千景!」

『ど、どうしたの?』

 

若葉は次に千景に呼びかける。

 

「心配するな。お前の『家族』は、必ず私が守ってやる!!!」

『……頼んだわよ、乃木さん!!』

 

すすり声も混じっていたが、千景の声がはっきりと聞こえてきた。ラグナからも後を託すように彼女への言葉があった。

 

『……俺の方からも頼んだぜ、ワカバ。アイツを助けてやってくれ』

「任せておけ、これでもリーダーだからな。それに」

 

そう言って若葉はクラスメートたちの方を見る。思えばあの時も自分が来る前から突然現れた彼がクラスメートたちを守ってくれた。それに千景の時も動けない自分に代わって彼女を助けに行ってくれた。友達を失わずにいられたのは彼のおかげだとも言える。

 

「何事にも報いを。それが乃木の生き様だ」

『……そいつは安心だぜ。ンじゃ、こっちのことは任せろ、リーダー!!』

「ああ。皆のことも、頼りにしているぞ」

 

奇しくも今は立場こそ逆ではあるものの、似た状況だ。だったら今度は自分が守る番だ。

 

「ではひなた、こっちのことは任せた!!」

「はい、ご武運を!!」

 

生太刀を携え、若葉はレイチェルのいる方へ駆け出していく。その背中に向かって、クラスメートたちは叫んだ。

 

「乃木さん!! あの時に私たちのこと、今まで家族のこと、この四国を守ってくれてありがとう!!」

「例えどんなに離れていても、私たちは友達だよ!!」

「信じているから!! 頑張って!!」

「……ああ!!!」

 

級友たちの声が若葉の背中を空へと押していく。身体がこれ以上にないほど軽くなっていくのを感じる。

 

「降りよ、大天狗!!!!」

 

爆発と雷の音すらをもかき消す咆哮を上げながら、若葉は切り札を発動させる。宙に跳ぶと同時に勇者服と髪を後ろで束ねているリボンがは変化していく。背中から黒い羽根を撒きながら天狗の翼を広げて、若葉はジェット機の如く、空へと向かった。

 

「さぁ、行きましょう。直にここも戦いの場になります」

「上里さんは大丈夫なの? 心配だったりは……」

「……本心を言うなら、行ってほしくありません」

 

ひなたは空へと向かった若葉の背中を見守りながらそう言った。正直に言うと、まだ不安でいっぱいだ。高所での戦いは樹海とは違った危険がある。空気は薄いから息も苦しくなるし、一度でも切り札が解除されてしまえばそのまま地面へ真っ逆さまだ。

 

まして敵は諏訪を滅ぼし、レイチェルすらも苦戦させる強敵だ。多少のサポートはあるかもしれないが、それでも若葉はほぼ一人で破壊の限りを尽くすあの巨人と戦わなければならない。それで若葉が死んだところを想像するだけでも恐ろしい。

 

「ですが、私の育てた若葉ちゃんです。きっと成し遂げてくれる、そう信じているんです」

 

だから彼女は若葉を行かせた。乃木若葉は勇者であり、自身の一番の親友なのだから。友達がピンチなのに何もしないなんて出来ないことを知っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。任された以上、まだ倒れるわけにはいかないわね」

 

展開されているツクヨミユニットに受け止められているタケミカヅチを見ながらレイチェルは若葉との通信を切る。タケミカヅチへの攻撃が殆ど聞いていない以上、直接攻撃しても意味がない。

 

しかし、それでもどこかしらかに弱点が存在するはず。レイチェルは一見すれば人工衛星にも見えるその殻を改めて注意深く観察した。滑らかな形状は空気の抵抗を減らしてスピードを増やせるようにしたのだろう。しかし、それも向かってくるものであって、別の方向からでは受け流せない。

 

「テンペスト・ダリア!!!」

 

力の押し合いが無理ならば今度は横からの攻撃だ。自身に向かって直進する巨人に対して横から暴風を吹かせる。

 

雲の中ではこれから降ってくるであろう雨が雹として存在している。大きさによってはソフトボール大のものもあり、普通の人間がまともに当たれば死ぬこともある。それらがレイチェルの引き起こす風で加速し、散弾銃のようにタケミカヅチの殻に叩きつけられていく。

 

「バーデン・バーデン・リリィ!!!」

 

更にディストーションドライブのバーゲンセールといわんばかりにもう一発リリィを直撃させる。渾身の一撃をもらった表面は焦げ跡と同時に少し溶けていた。

 

レイチェルが散々暴れまわったせいか、雲の中は徐々に不安定になっていく。稲妻が周囲から轟き、それは何度もタケミカヅチに命中する。

 

しかしタケミカヅチも行動が早かった。一度その場で止まって再びその姿を現すと、怒号と共にその体を大きく回転させて雲を吹き飛ばした。

 

それと同時にレイチェルはツクヨミユニットを解除させる。とうとう体力に限界が来たのだ。それを見てタケミカヅチはすぐに矢を放とうと自身の前方に方陣を展開する。しかし、レイチェルは笑っていた。

 

「1分で来るとは信じていたけれど……本当にぴったりで来るなんて凄いわね」

 

そう言うと同時にタケミカヅチの横から若葉がその顎に向かって一直線に迫ってきた。先ほどのレイチェルや自分の砲撃とは比べ物にならないスピードで襲来する若葉に巨人は気づくことが出来ず、巨大化した刀による若葉の突きは巨人の顎に貫通した。

 

「おぉぉおおぉぉぉ!!!!」

 

横からの全力の攻撃で巨人は成す術無く若葉に運ばれていく。これだけの力を出せるのは天狗の羽が火を噴かせてロケットのように若葉を加速させているからだ。タケミカヅチをを突き刺したまま、どんどん下降して四国の外へと運び出そうとした。

 

「オォォォオォォアァッァッァァアァァッ!!!!?」

 

口の中の砲口を破壊されたタケミカヅチは絶叫しながら若葉を叩き落そうと腕を振り払ったが、若葉は突き刺さったままの刀を切り下ろし、巨人の下顎を両断した後に翼を広げた。巨人の腕を振った際に生じた風に乗った彼女はそのまま攻撃を回避した。

 

「そんな攻撃が当たるか!!!」

 

直後に若葉はタケミカヅチの顔面に袈裟切りを一太刀浴びせる。今度は目を潰された巨人は悲鳴を上げながら周囲に方陣を展開する。射出された高速の矢は四方八方に飛び散り、目障りな鴉を射殺さんと放たれる。それでも若葉の猛攻は一切止むことを知らない。

 

「これが、貴様らが罪なき人々を苦しめてきたことへの報いだ!!!」

 

自由に飛行できるアドバンテージを最大限に生かして、若葉は様々な角度から高速の斬撃を繰り出していく。頭で考える暇がないため、直観で避けられる矢は回避しつつ、躱せないものは刀で弾く。そのたびに矢が顔や脇腹を掠って血が流れ出ようとも一々構ったりしない。そう回避行動を繰り返しながら弾幕の隙間を縫いて一気に突撃して攻撃を仕掛けた。

 

それを繰り返すことによってタケミカヅチはとうとう壁外付近の海まで追い詰められ、身体からは肉片が少しずつ、ポロポロと取れていった。それが面白くないのか、巨人は叫びながら身体を回転させた。突然暴れた敵に若葉は一度退却する。

 

それを見て巨人は肩から火の矛を発射した。これはしまったと回避する間もなかった若葉だが、そこへレイチェルがバーデン・バーデン・リリィを落として彼女を守った。

 

「無事だったか、レイチェル!?」

「おかげさまでね。正直、ギリギリだったわ」

「こっちもだ。感謝する」

 

実際、疲れというものとは無縁といっても良い印象のあったレイチェルが激しく肩を動かしながら息を上がらせていた。すんでのところで間に合ったようだ。

 

「しかし、本当に無茶な娘ね。どうにかするとは思っていたけれど、あんなスピードで激突するとは思わなかったわよ。全速力で自分からダンプカーに向かって走るようなものじゃない」

「ああでもしなければ奴も攻撃を続行する可能性があったのでな。頭も胃もちょっと気持ち悪いが、それ以外は問題ない」

「問題大有りな気もするけれど、今は良いわ。寧ろここまでタケミカヅチを一人で相手してきただけでも賞賛されるべきよ」

 

さてと。二人は天に向かって吠えた後、自分たちを睨む破壊者へと目を向けた。巨人は特に自身の顎を切り落とし、ボロボロにした若葉に対して殺意を滾らせる。貴様は殺す。もし巨人に会話が出来ればそう言った旨の呪詛を口からまき散らしていただろう。

 

「貴女は本当に色んな人から好かれているわね。ほら、あちらの殿方から熱い視線を向けられているわ」

「残念だが、熱い視線なら既にひなたで間に合っているんだ。そもそもバーテックスと逢引だなど御免だ」

「全く持って同感ね……それと、皆には連絡したわよ。地上近くまで来れたってね」

「そうか、ならここが踏ん張りどころだな」

 

若葉が巨人を追い詰めている間にレイチェルが他の勇者たちに壁の方へ集合するように呼び掛けていた。ここさえ抑えれば仲間たちも来て、全戦力でこの怪物と戦うことが出来るようになる。勝機が見えてきた。

 

「あら、アレは……」

「見たことない完成型一匹に大量の星屑……援軍か」

 

タケミカヅチの咆哮に呼ばれて星屑の大群を引き連れた牛の頭のような完成型バーテックス、タウラス・バーテックスが本土の向こうからやってきた。結界の中では樹海化が起きる分、そこから出てきた若葉たちは恰好の獲物だろう。

 

タケミカヅチはグルルと気色の悪い笑いを零した後、その腕を天高く伸ばしていった。それを見て二人は戦闘に備えて身構える。しかし、タケミカヅチの目的は攻撃することではなかった。

 

巨人は近くまでやってきたタウラスの角を掴み取ると、真っ二つに引き裂き、バーテックスの躰を顎のない口の中へと無理やり詰め込み始めた。周りの星屑たちもタケミカヅチに近づくと一瞬で煮干しのようにしわくちゃになり、やがて踏まれた枯れ葉のように砕け散った。あまりの光景に若葉は開いた口が塞がらなかった。

 

「な!!? 奴ら、共食いをするのか!?」

「……アレを結界内に引き入れるしかもう勝ち目はないみたいね」

「どういうことだ?」

「見ればわかるわ」

 

レイチェルに促されて若葉が巨人の方を見ると、巨人の顎はみるみる再生していき、先ほどレイチェルが穿ったコアも修復していった。自身の殻も変化していき、横に穴が数本出現する。そこから十字の光が刻み込まれた衛星が生成された。

 

「アレは、他のバーテックスを自身に取り込んでどんどん自分の力として活用することが出来るのよ。星屑もエネルギーを回復させるための餌でしかないわ」

「つまりここでいくら戦っても、他の仲間たちがいる限り」

「そう、傷を治してしまう。それどころか完成型ともなれば、能力の向上も出来るみたい。あの殻も恐らく、他の完成体を喰って得たものでしょう。それが無数のものが集まる黒い月の正体……いいえ、汚らわしい、『死の杯』と呼ぶべきかもしれないわね」

「死の杯……か。とりあえず碌でもないことは良く分かった」

 

となるとまともに戦える場所はやはり樹海の中しかない。被害はどれほどのものになるかは分からないが、宇宙にまた逃げられればそれこそ手の打ちようがなくなってしまう。

 

「何はどうあれ、アレを今ここで樹海へ引き込まなければ、人類は滅びるんだな」

「ええ。やはりプレッシャーが重いかしら?」

「まぁな……皆が来るとは分かっていても直接対峙すると伝わって来るんだ……この敵は今までの者たちとは桁が違うとな」

「……当然よ。アレは国譲りの際に天津神が地上へ派遣した伝達者と同じ名前を持っているのだから」

「諏訪の土地神を倒したとも言っていたな。なるほど、納得した。だが、今回は違う!! 奴らからラグナが生きているであろう未来を、私たちの未来を守るために我々は勝つ!!!」

「ふっ……ひなたが何故貴女のことを気に入っているのか、何となく分かったわ。背中は任せておきなさい」

 

そう啖呵を切って若葉は生太刀を握りなおした。レイチェルも残り少ない魔力を放つ構えに入る。西洋の幻想種と呼ばれた吸血鬼の娘と天をも焼き払う東洋の魔王を宿した少女が二人、手を組んで戦いに臨む。

 

対して傷を癒したタケミカヅチは狂暴な目付きをしながら二人を凝視した。矛の先を思わせる細長い殻から上半身を出している姿は古の時代、布津御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)を地面に突き刺し、その上で胡坐をかいて国譲りを迫ったかつての建御雷を思わせる風貌だった。

 

もしラグナがこの世界に来なければ、若葉とレイチェルはこうして共に戦うことはなかったのかもしれない。それぞれ違った運命を辿ったのかもしれない。しかし、二人の、いや、少女たちの運命はこうして交叉した。一度交わった以上、もう避けることは出来ない。

 

「来るぞ!!」

「ええ!!」

「グァァァァァァァ!!!!」

 

両者の激突と同時に世界は再び廻る。希望(未来)を守るため、天への反逆戦は第二回戦(ラウンド2)へと入った。




というわけで前半は姫様、後半は若葉様の独壇場となった空中戦回でした。大国主の刀を持った若葉ちゃんがタケミカヅチをボコることになってしまいました。

因みに終盤のタケミカヅチのパワーアップですが、要は帝様が居なくても帝様がしてくれた補助技も出来るようになったという感じです。やったね、タケちゃん! ペット扱いされなくなるよ!

次回は第二ラウンド!! 他の勇者たちも合流します!! それではまた。

Can't escape from fate…Fight‼
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