この一か月間、実生活の方でもかなり忙しくなったりしてまともにssを書くこと自体が困難になっていたのですが、ようやく時間を作ることが出来ました。今回はリハビリも込みで番外編を書くことにしましたが、本編は後々に書く予定です。
そしてついにゆゆゆの方では第3期が! おめでとうございます! 正直勇者の章があんなに綺麗に終わったのにどうやって話を伸ばすのかとちょっと心配はありますが、それでも勇者部の皆の日常がまた見れることを嬉しく思います。え? どうせ鬱展開あるって? おのれタカヒロ……
さて今回の話は夏イベで脳内加速をした回。色んなネタを仕込んでありますが、どうぞ。
夏祭りの準備のため、勇者部から何人かの者たちが讃州市の和服専門店で浴衣を借りに来ていた。東郷、雪花、杏、ひなた、中学生になった銀と園子に加え、椿姫と刃が部の皆が着る浴衣を選別していた。
「椿姫。沙耶にはこの紺色の浴衣が良いと思って選んでみたが、どう思う?」
「とても素敵です。あ、でも私はこの白を基調にしたものに青い羽根の模様が付いたものも良いと思います」
「なるほど……確かにこちらも良いデザインだな。せっかくだからこちらを選ぼうか」
「良いんですか?」
「何を言っているんだ。椿姫が選んだんだろう? 自分のセンスに自信を持て」
「あ、ありがとうございます! それに紺でしたらきっと刃兄様の方が……」
「僕がどうかしたのか?」
「い、いえなんでも!!」
小声で何かを呟いた椿姫は恥ずかしそうに刃から顔を背けた。その理由が分からず、首を傾げる刃に対して年上である少女たちは微笑ましい目で見守り、杏と園子は早速突風を吹かせていた。
「ビュオオオオオオウウウウウ!!! 流石だぜ、ジンジンにツバッキー!! ここでも自然な感じにイチャついてる~~!! メモが止められない、止まらな~~い!!」
「あぁぁぁ……!!! 刃さん、そこはもっとしっかり椿姫ちゃんの話を聞いてあげないと!! アレくらいしか距離がないんだったら聞こえているはずなのにぃ!!」
二人の様子を見ながら園子はやはり目を輝かせながら高速でメモ帳に筆を走らせ、杏は手に汗を握らせながらもどかしそうにしていた。心の中では恐らくもっと積極的にと叫んでいるだろう。
「いーや、あんずん! 鈍感系というのはね、必ずしも何の理由もなしということはないんよ~!」
「も、もしかして……本当は聞こえていたけど、もう一回聞きたいからワザとすっとぼけたとか!!」
「そうだったらジンジン、中々罪な男ですな~~!!」
何か文学少女(ガチ)二人が訳の分からない戯言を叫びながら森がっているようだったが、気にしたら負けだと考えた刃は一旦二人を認知の外に置くことにした。彼の代わりに二人を抑えたのは銀だった。
「こーら、二人とも。店の人に迷惑が掛かるからそこらへんにしてやれ」
『しょぼ~ん……』
急遽銀からストップを掛けられて二人は意気消沈した。それを見て東郷は刃にサムズアップを送る。園子を鎮圧したというサインである。
刃もまたそれにサムズアップを送り返す。了解したとのことだ。その様子を見てひなたと雪花は少し面白おかしそうに笑った。
「椿姫さんともそうですが、刃さんは東郷さんたちとも仲が良いですよね」
「小学生の頃から一緒に戦っていましたから」
「へー、意外と交流関係広いんだね。正直、刃ってあまり慣れ合いが好きなイメージがないから昔から淡々としているかと思ったよ」
「どっちかというとジンジンはちょっと引っ込み思案というか、初めて会った人に対しては堅いだけなんだよね~」
「そこは昔の須美とちょっと似てるよな。こっちはどっちかというと真面目過ぎただけだが」
「ぎ、銀。恥ずかしいから改めて言わなくても良いわよ」
そう言いながら東郷は神樹館にいた頃、鷲尾家にいた頃の思い出を思い出す。確かに辛いことも多かったが、あそこで勇者として戦っていたからこそ、初めて友達を作ることができた。こうして思い出すことが出来ただけでもとても嬉しいことだ。
「……ふふ」
「どうされましたか、杏さん?」
「いえ、特に。ただ、ラグナさんから聞いた刃さんはかなり苦労していたそうでしたが、今は楽しそうでよかったなと思って」
西暦組は刃のことをラグナの話でしか知らない。だが話を聞いていても彼自身が非常に苦労していたことは分かっていた。特に話を聞いてから密かに精霊について独自に調べていた杏は心配になっていたそうだ。
そしてこの世界での彼と出会った瞬間、ヤベェ奴として認定されたものの、何だかんだ悪い奴ではないこと、そして楽しくやっていることを知って安心した。
「でもこうして交友関係を考えると……刃さんって意外と千景さんが持っていたような恋愛シミュレーションゲームの主人公と似てますよね」
「ラグナやナオトはともかく、あの兄さん絶対殺すマンが?」
「物騒すぎるわ、そんなヒーロー」
雪花の一言に対して銀が静かに突っ込んだが、杏の一言の方が他の少女たちの興味を引き寄せた。
「だってよく考えてくださいよ、雪花さん。刃さんにはまず、守りたくなるような年下系幼馴染の椿姫ちゃんがいるんですよ?」
「確かにアレを見てしまうとそう思いますにゃあ」
「そこへ更に同年代のほんわか文系幼馴染の園子先生に加えて、学校の同級生では真面目な大和撫子の東郷さんと活発性と乙女心のギャップが魅力的な銀さん! 更に教官時代の教え子だったしっかり者の夏凜さん! これだけで数ルート分の脚本は書けるかと!」
「いや、アタシらも対象に入ってんの!? てかアタシの説明がギャップってどういうことだ!?」
確かに杏の述べた刃と自分たちの関係性は決して間違っていない。しかし、その言い方だとまるで自分たちはゲームのヒロインみたいではないか。刃は頼りになる仲間だとは思っているが、流石に気になる異性として意識したことがない。それは東郷と園子も同感のようだった。
「そうねぇ……あまりそういう風には意識したことないわ。あの頃は異性交遊の前に御役目と考えていたし、今の私には友奈ちゃんがいるから」
「大事な友達だけど、流石に私は自分とジンジンをカップリングして書くことはないかな~」
「アタシも須美と園子と一緒で気にしたことなかったかな。ズッ友なのは変わらないけどさ」
「この調子だと夏凜も同じような反応かねぇ?」
「うーん、まぁそうですよね。結構ありそうだと思いましたが、現実でそう簡単に起こったりはしませんか」
「仕方ありませんよ、杏さん。そもそも刃さんと恋仲になるには椿姫さんの前に先ず、ラグナさんの壁を越える必要がありますから」
「その壁、出来るんだったらラグナは全力で破壊していると思うけどな」
それが刃のブラコンっぷりのせいで凄まじく困難であるためにラグナは四苦八苦しているわけなのだが。銀が苦笑いしていると刃と椿姫が何着かの浴衣を持って合流してきた。
「おい、貴様ら。そんなところでいつまで油を売っているつもりだ」
「あ、ジンジン~。ちょうど良いところに来たね~」
「どういうことだ」
「さっきまで貴方の異性関係について話していたのよ。思えば意外と女性の知り合いが多いって」
「刃兄様の異性関係……」
何故か突然声が急に落ち込んだ椿姫の方へ刃はチラリと視線を向ける。どうやら彼女はその話を聞いてとんでもない誤解をしているようだった。気のせいか、全身からも黒いオーラが滲み出て服装が黒く染められていっているように見えてきた。
これ以上話を蒸し返しても何の得もないし、ブゥルルァ! と叫びそうな渋い声を発した帽子と共に椿姫も変な暴走をし兼ねない。そう判断した刃はさっさと結論だけを言って女性陣に浴衣を選ぶことを推し進めた。
「下らないな。そんなもの、貴様らとの繋がりくらいしかないのは貴様らが一番知っているだろう」
「やっぱりそうですか~」
中々フィクションみたいにはいかないかと杏は納得すると同時に椿姫の表情がちょっと明るくなったのを確認できた。とりあえず誤解が解けたようで良かった。
「そんなことよりも貴様らはいつになったら浴衣を選ぶんだ?」
「あ~。そういえば話に夢中になってたから、選ぶのをすっかり忘れてた~」
「全く……ここへ来た理由はあくまで全員分の浴衣を確保するためだろう。僕たちで何人かは決められたが、結城などは鷲尾に任せた方が良いだろう」
パートナーの浴衣となれば彼女たちが選びたがるだろうと踏んだ刃は敢えて友奈や若葉たちの浴衣を選んでいない。彼に促されて東郷とひなたも我に返ったように慌て始めた。
「そうだわ、いけない!! 早く友奈ちゃんの浴衣を決めないと!!」
「そうですね……ですが、こんなに種類がありますとどれがいいか悩んでしまいます」
店内にある浴衣の色模様は多種多様で、どれも魅力的だ。若葉や結城のイメージ通りのものも良いと思うが、同時にイメージと違った別の色のものにも良さ気なものがある。数着だけとはいえ、よく刃たちはこの中から選ぶことが出来たものだと感心するばかりだ。
「わっしー、ひなタン。そういう時は脳内を極限まで加速させて体感時間を引き延ばせばいいんよ~」
「なるほど、流石そのっちね!」
長年の友である東郷は園子の言っていることをすぐさま理解できたが、ひなたはいまいちイメージが掴めなかった。
「それってどういうことですか、園子さん?」
「フッフッフー、知ってるひなタン? 人はね~、通常は脳の10%しか使うことが出来ないんだけど~、残りの90%を解放すればできちゃうんよ~!!」
「そんなことが……一体どうやって……」
「心配することはないわ、椿姫ちゃん」
同じく園子の言葉が理解できず、根が真面目であるためにじっくり考察しようとしている椿姫に対して、東郷は力強い言葉を送った。
「東郷先輩? もしかして方法を知っているんですか?」
「ええ、簡単よ。ズバリ」
そう言って東郷は両手を前に出して構えるとそれをグルグル回転させ始めた。
「α波が送られることで可能になるのよ」
「そうなんですか!!? ハッ、そうか……α波は人が最も安静しているときに出力される脳波だから、精神が安定した状態になった時こそそれぞれの脳部位が高度なネットワークを構築できるようになることで入ってきた情報の並列処理が出来るように……」
「ならないよ、椿姫。鷲尾も変なことを教えるな。信じ込んだらどうするつもりだ」
「変なことだなんてとんでもないわ。貴方も浴びてみたら分かるわよ」
そう言って東郷はα波を送る構えに入るが、刃は透かしたように笑いながら言い放った。
「ハッ、愚問だな。そんなものに頼らずとも僕は脳の機能を常に100%発揮することが出来るぞ」
「いや、流石にそれはないかと」
「日々常に兄さんについて考えながら生活しているからな」
「あ、うん。確かにそれだったら100%発揮しているかもね」
「それって私とそれほど変わらないじゃないかしら?」
「須美もサラッとアタシらの手の届かない次元へ行くんじゃない」
兄ないし親友への気持ちが色んな意味で重い二人にとって、脳活動領域10%より先の世界へリープすることはそう難しいことではないらしい。普通ならば耳を疑うようなことだが、不思議とこの二人ならば本当に出来兼ねない。そう思わせる凄みがあった。
「二人ともすごいね~。因みに二人はどんなことを考えてるの?」
「兄さんをどんな風に殺すのかと、今兄さんがどこで何をやっているのかに決まっているじゃないか!」
「友奈ちゃんが今どこで何をしているのかとそれに合わせた今後の予定に決まっているじゃない」
「あちゃ~、どっちも愛情の闇が底知れないわ~」
「因みに今の一瞬で兄さんが苦痛で歪んだ顔になるシチュエーションを10964通り思いついた!」
「何故そんなに誇らしげなんでしょうか……」
「くっ……私は友奈ちゃんが私の作った牡丹餅を食した時に出る笑顔を10503通り……足りないッ!!」
「もう十分破格だよ……」
刃は東郷に対して勝ち誇っているが、一応考え方が一般人である銀からすればどちらもどっこいどっこいである。これが同士でしか分かち得ない気持ちなのか。正直自身の理解の範疇を越えているため、銀はそこで考えるのを止めた。
「本当かな~、じゃあジンジン。どんなラッくんを想像したの?」
「じゃあとりあえず、3000人目の兄さんについてだが」
「何だ、3000人目の兄さんって」
「それは! いつも園子にメモされていい加減堪忍袋の緒が切れた兄さんが園子の部屋に侵入!! そこでダンボール箱一個分、自分とレイチェル=アルカードのやり取りについてびっしり書かれたメモを発見した時の兄さんだ!!」
「偉く具体的なんだけど!?」
銀の言い分も無理はない。何せ園子たちは実際にラグナの他の部員とのやり取りをほぼ毎日メモに書き記しているからだ。経緯が同じでなくとも、似たような出来事が過去にあったのかもしれない。それを裏付けるかのように園子もちょっと顔を引き攣らせていた。
それを図らずとも妄想だけでそれっぽいシチュエーションを発言した刃。案外彼も園子や杏に負け劣らず人間観察力と想像力が豊かなのかもしれない。今頃話題に上がっているラグナはくしゃみをしているだろう。
「そして!! 貯めこんでいたメモを全て回収して処分したは良いものの、結局園子が既にメモの内容をパソコンや何個ものUSBに保存してバックアップを取っていたことが発覚!! それが分かって苦悶の表情を浮かべながら膝を突いて絶叫しているのが975人目の兄さんさ!!!」
「まだ続きがあったんかい!?」
「しかもこの流れるようなコンボ……明らかに上級者ですね……」
「何の上級者なんですか、杏さん……」
「そのっち……貴女、もしかして……」
「あ、アハハハ~……」
兄について語りつくしている興奮で刃は気づかなかったが、彼の話を聞いていた園子は冷や汗を掻いていた。まさか刃が無意識でとはいえ、自分のメモの秘密についてかなり良いところまで掴んでいるとは想定していなかった。
園子は家から帰るとその日の内に記したメモの内容をネット上のサーバーにアップして保存している。そのおかげで万が一手記を失っても問題はない。
しかし、アレが特にクラッキングの出来る東郷にバレたら最後。データを一片も残すことなく抹消される可能性がある。帰ったらセキュリティの強化、そして小園子との会議だ。横で不審がる親友を他所に園子はそう決意するのであった。
「す、すごいね~、ジンジン。因みに今度の夏祭りでラッくんとどんな感じに見て回るのもイメージ出来てるの~?」
「当り前じゃないか、園子。そのおかげでこうして兄さんの浴衣を選ぶことが出来たんだぞ」
「そうだったんですね。因みにどんなデザインですか?」
「これだ」
そう言って刃が取り出した浴衣は意外にも紅い筆の跡のような模様が付いた白い甚平だった。正直勇者たちが考えていた彼のイメージカラーといえば黒や紅色だったため、少し驚いた。何より刃がまともな浴衣を選んできたことが驚きだった。
「ほほー、意外ですな~。私はてっきりもっとヤバい代物を持ってくると思ってたよ。死神だから死装束だーッとか」
「失礼なことを言うな、秋原雪花。僕が兄さんに死装束なんて着させるわけないだろう」
「そうだよね~。大好きなお兄ちゃんにそんなの送ったらあっちも困惑するだけだからね~」
「兄さんは僕が殺すと決まっているのに死装束を着ていては既に殺されたことになってしまうじゃないか。兄さんが僕に殺されるまでそんなものは着せられない」
「誰かーーー!! 誰か夏凜とラグナを!!! 完成型ツッコミ勇者のエースとツッコミ先生を呼んできてーーー!!! 私じゃもうこのボケの権化は手に負えないよーーーー!!!」
死装束に怒るのではなく、死装束がまだ早いと怒るのはどういうことなんだ。あまりにもエキセントリックな発言を然も当たり前のように放ち続ける刃に雪花はとうとうツッコミを放棄して白旗を上げてしまった。
「雪花……お前は一旦休め。後のことはアタシに任せときな」
「ごめん、銀……数少ないツッコミ組の主戦力として頼らせてもらうわ……」
「雪花さんの方も良い具合にボケ役の方へとシフトしていますね……」
疲れ切った雪花を店内の椅子に座らせた後、銀たちは刃が持ってきた浴衣を見る。こうしてみるとこのポップな浴衣が刃に選ばれたことに驚きを禁じ得ない。雪花の言う通りというわけではないが、他の少女たちも刃がもっとおかしなデザインをチョイスすると思っていたからだ。
「初めは別のものにしようと思っていたが、椿姫がこれと似たようなものを勧めてきてな。実際兄さんと合っていたから他のものと検討した結果、これに決めたんだ」
「……椿姫さん、本当にありがとうございます」
「いえ。私はただ自分が良いかなと思ったものを刃兄様に勧めただけですから」
刃の返答にひなたは小さく椿姫に礼を言った。こればかりは椿姫に感謝するばかりである。正直これまでの刃の行動を考えるとその「別のデザイン」と聞いて不安しか感じられなかった。
「では次は私……と言いたいところだけど。そろそろ椿姫ちゃんに脳内加速を伝授しないといけないわね」
「よろしくお願いします!!」
「お、おお!! 須美が自重してくれたぞ!!」
「あら。別に語っても良いのよ、銀? 友奈ちゃんが感動のあまりに私の牡丹餅を口一杯に入れて、頬をリスのように膨らませているところがいかに可愛らしかったのかについて小一時間ほど」
「御免なさい、もうお腹一杯です」
流石にここで東郷まで語り始めたらキリがないので、銀は堪らず平伏した。名残惜しそうにしていたが、東郷は早速園子に指南をお願いした。
「それじゃあそのっち。お願いね」
「うん!! じゃあね~ツバッキー。先ずは~祭り会場を想像してみて~!」
「会場を……ですか」
そう聞いて、椿姫は目を閉じて唸り始める。彼女とて係などが終わって時間が出来たら祭りを見て回るつもりだ。もちろん沙耶や真琴といった友人たちと見て回ることも考えていたが、当然ながら想い人である刃と一緒に歩き回れることも強く望んでいる。
「それで、次はどうすれば良いでしょうか?」
「そうだね~。男女で祭りと言ったらやっぱり盆踊りは外せないよね~」
「それはまた何故?」
園子の台詞に対する椿姫の疑問に杏が解説した。
「実はね、椿姫ちゃん。盆踊りは昔の時代だと、若者同士が出会う数少ない場所だったんだよ」
「言うなれば夏の日差しのように熱い恋が、愛が育まれる場所なんよーー!!」
「恋が育まれる!!」
それを聞いた瞬間、椿姫の目付きが変わった。
「椿姫ちゃんは刃君とどんなことがしたいの?」
「それはもちろん、刃兄様と一緒にかき氷を食べて……」
「もっとよ、椿姫ちゃん!! こういう時は積極的に出ないと!!!」
「よろしければ盆踊りの時も御一緒して……!!」
「もっと弾けるような!! 長年蓄積されてきたツバッキーのPASSIONをバーンとスパークさせるんよ〜!!!」
「最後に花火も観てその時にそっと私が刃兄様の傍に寄り添って!!」
「まだよ!!! もっと脳細胞を活性させて!!! そこから先の数段階を登るために!!!」
「そのまま刃兄様が私に甘い言葉を掛けてくれて雰囲気も最高になって!!!」
「ビュオオオオオオウウウウ!!! 来てる、来てるよ〜、ツバッキー!!! 最大風速の追い風が~!!! さぁ、今こそ!! 限界突破まで脳を加速させて、脳内領域10%の境界を跳び越えた先の世界!! イチャラブへと繋がる運命石の扉を開けるんよ~~~~!!!!」
「跳んでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
園子と東郷に乗せられた椿姫の妄想が止まらなくなり、最早そこからは自分の願望をただ叫んでいる状態になってしまった。そんな彼女に向けて二人が激励と一緒にα波を送り続けるという奇妙な光景が刃たちの前で繰り広げられていた。
「うんうん。やっぱり恋する乙女って、いつ見ても良いな~」
「……椿姫は僕がここにいることを忘れているんじゃないのか?」
自分と椿姫を交互に見ながらニヤニヤしている杏に対して刃は溜息を洩らした。彼も割とそうしていることが多いから特に咎めるつもりはないが、流石に目の前で自分との妄想イチャラブについて語られたら恥ずかしいと感じてしまう。
「もしかしたらこれまで色々と我慢していたのかもしれませんね……」
「我慢……か……」
ひなたの言葉を聞いて刃は戦友二人に煽てられてどんどん桃色の妄想を垂れ流す幼馴染を見る。思えば大橋での戦いが終わってからの二年間、自分はずっと彼女をほったらかしにしてきたのだ。きっとそれで寂しい思いもたくさんしてきたのだろう。
「それにほら、お前ってさ? 普段が兄さん最優先ってイメージが強いから遠慮したのかもな。お前ら兄妹だって再開するまでは二年ぐらい顔を合わせてなかったし」
「別に兄さんを殺すことが優先というのは間違っていない」
「そこは少し否定して欲しかったなぁ、お姉さん」
「だが」
苦笑いしている銀に対して刃ははっきりと言い返した。
「祭りを一緒に見て回ることが椿姫の望みだというなら話は別だ」
「つまり誘っていたら一緒に行くってこと?」
「アイツにはゴールドタワーで出会った仲間たちがいる。だから彼女たちと一緒に行くのだと思っていたのだ」
実際去年や子どもの頃はそうしていたらしいから今年がそうでも特に驚かなかった。だがこうして彼女の想いを聞いた以上、そういうわけには行かない。
「そうだな。今年は僕の方から誘うか。僕も椿姫と一緒にいることは嫌いじゃないからな」
「くぅ~! いつの間にか青春しちゃって、この色男! で、式はいつだ?」
「おい三ノ輪、貴様。ここ数年間、園子と話すことが増えたからといってそっちの関心も強くなったのか?」
「いやいや、アタシも女だから恋愛話は大好物だっつーの」
それに将来の夢を叶えるためにもやはり身近な男女のお付き合いの話とか聞きたいし。偶に父親であるテイガーに自分の母親との馴れ初めについて聞いたりしているが、本人は恥ずかしがって話さないし。因みに九重とはまだ会う前だったから恐らく彼女も知らないそうだ。
「まぁ、アタシからすれば刃はまだまだって感じだけどな」
「何だと? 僕が失言したとでも言うのか」
「いえ、別に発言自体は悪くありませんでしたが……出来ればそこは『椿姫ちゃんと一緒にいるのが好きだから』くらいには言って欲しかったですね」
「杏は分かってるな~。そこなんだよ、アタシが足りないと思ったの。何というか、クール過ぎてロックさが足りないんだッ!!」
うんうんと頷く杏と銀の言い分に刃は目を回した。彼は自分なりに好感を表明していたつもりだったのだが、どうも二人からすれば気持ちが足りなかったらしい。
ひなたや先ほどまでダウンしていた雪花も珍しく勢いで負けそうになる刃を興味深そうに見守った。ひなたは割と杏たちの意見とは同意見だったので特に横やりを入れる理由がなかったし、雪花は普通に面白かったので敢えて放置することにした。
「そこまで言う必要があるのか?」
「ありますよ! どんな人だって、好きな人から直接好意を伝えられたらきっと喜びます!!」
「そもそもお前、いつもラグナにあんだけ大好きっぷりをアピールしてるのに今更椿姫で恥ずかしがるのか~?」
「……僕にだって色々とあるんだ」
椿姫にラグナと同じように好きだと表現する。これが実は刃からすればとんでもなく難しいことだった。第一、ラグナにあんな言動が取れるのは自分の兄で自身のあらゆる面を既に知っている人間だからだ。はっきり言って遠慮する必要性なんてもうない。
だがこれが椿姫となるとどうしてもブレーキが掛かってしまう。確かに刃と椿姫は幼馴染だが、刃は基本的に椿姫に対しては頼りになる年上として接している。その影響もあってか、椿姫は彼を兄様として慕ってくれている。
逆に言えば彼自身は兄さん関連以外だと椿姫の前ではかなりカッコつけており、本人もそれに関しては何となく自覚している。実際彼は自分が弱音を吐いている姿を周囲に晒すことが大嫌いだ。
ましてや椿姫にそれを見られるなんて考えたくもない。ただでさえ大橋の戦い直後で荒れている間は散々みっともないところを見せてきたのに、彼女に泣きついたり甘えたりするなんて絶対に御免だ。そうしている自分の姿を少しイメージしてみたが、無性にその自分を殺したくなった。
「良いですか、刃さん。椿姫ちゃんだってもう大人になろうとしているんです。いつまでもずっと刃兄様の後ろで守られてばっかり、なんているつもりはないと思いますよ」
「……確かに椿姫は勤勉だから、もっと力を付けていくだろうな」
「でしょう? だから椿姫ちゃんにも悩みを言ったり、頼りにしても良いんですよ。普段お兄さんや園子先生たちにもそうしているように」
この世界に来たおかげか、椿姫はかなり十六夜を使いこなすことが出来るようになった。元の世界でもこれだけ戦えるなら間違いなく戦力として数えられるだろう。
もういつまでも守られるだけの妹分ではない。杏にそう言われて納得した刃は顔を背けつつも肯定の意思を示した。
「……気が向いたらな」
「良かったです」
「それにしても随分と知ったような口で言うじゃないか、貴様。まさか覗いていたのか?」
「いいえ。ただ、その気持ちは私も分かりますから」
杏にも姉貴分である球子がいる。勇者になったばかりの頃はいつも彼女に助けられてきたが、そんな球子だからこそ今度は自分が彼女の力になりたいと考えるようになった。そういった点でも椿姫の気持ちが理解することが出来たのだ。
「そうか」
「それと、祭りの時は刃さんが椿姫ちゃんをリードしてあげればもっと打ち明けられると思いますよ! ファイトです!」
「言われずとも僕は失敗などするわけがないだろう。そんなに心配だというなら例の如く、園子と一緒に陰から見ていればいいさ」
「あり? 刃って意外とメモ擁護派?」
「逆に聞くが、止めたところで貴様は園子たちが止まると思うか?」
「……無理かな。園子だし」
「そういうことだ」
それこそあらゆる手で自分たちの一歩二歩先の手を使ってくるだろう。そんなことは小学生の頃から知っている。つまるところは長年の付き合いによる慣れというところか。
「皆~、お待たせ~」
その時に園子たちが刃たちの方へやってきた。
「あ、園子先生。もう終わりました?」
「うん、バッチリ! ツバッキー、中々良い筋していたよ~」
「ハァ……ハァ……」
「かなり消耗しているようだが、大丈夫なのか?」
「何度も何度も刃君との逢瀬を脳内で繰り返していたんだもの。負荷大きくても仕方ないわ」
「どんだけ妄想してたんだよ」
「椿姫ちゃん、良かったらこっちで一息ついて良いよ」
「ありがとうございます……」
ゼェゼェと肩で息している椿姫に雪花が先ほど自分が座っていた椅子を譲ると少女たちが集まった。
「それでどうでしたか、椿姫さん? 園子さんたち直伝の脳内加速は?」
「大変参考になりました……」
「そのようだな」
「じ、刃兄様! わ、私!」
勢いそのまま、椿姫は刃に祭りへ行くことを誘おうとしたが、刃が彼女を止めた。
「待て、椿姫。その前に僕から話があるんだ」
「お話ですか?」
「ああ。今度の祭りだが……良ければ僕と一緒に、祭りを見て回らないか?」
「ほ、本当ですか!? 二人で!?」
「椿姫がそう希望するならそれで良いよ」
「や、や、やったーーーー!!!!」
歓喜の雄たけびを上げる椿姫。彼女は思考加速によってデートの試行を何度も繰り返したことで、ついに自分が望んだ結末へと至ることが出来た。どちらかというとあちらが自分に声を掛けたというのに近いが、結局刃と祭りを見て回れるからこの際は良しとしよう。
「あれれ~? ジンジンが自分からお誘いをするなんて珍しいね~。何かあったの~?」
「少し、伊予島杏から参考になる話を聞いただけだ」
ちょっと気恥ずかしそうな顔をしていたが、事実だからなのか、刃は割と素直な返事は返した。園子はそれを見て嬉しそうに笑った。
「そっか~。あんずん、ありがとね~」
「いえ。私は特別なことは何も」
「それより、そろそろ時間に余裕が無くなってきたのだが……そろそろ浴衣は決められたのか?」
『あ』
その後、少女たちは脳内加速を駆使して素早く浴衣を選ぶことが出来た。そして数日後の祭りでは仲良さそうに祭りを見て回る椿姫と刃とそれを尾行する園子ズの姿があったそうだ。
やはり離れていた時期が長かったからか、書き上げるまで時間が掛かってしまいました。それでも喜んでくれれば幸いです。
そして次回は本編です。皆さんの感想と評価をお待ちしております。それではまた。