蒼の男は死神である   作:勝石

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お久しぶりです、勝石です。

中々良い展開が思い浮かべず、スランプ気味でしたが、何とかできました。ゆゆゆいの方では念願の文化祭優勝があったり。おめでとう、勇者部の皆!

さて今回ですが、タケミカヅチ対勇者たち! ブレイブルー最強クラスの敵キャラに勇者たちはどう立ち向かうか。それではどうぞ。

The wheel of fate is turning…Rebel1…Action!


追記: 投稿した後に作品の後の展開やオチの付けどころなどを吟味した結果、2020年9時22日12:15で終盤の展開を大幅に削らせていただきました。楽しみに読んでくださった方々、申し訳ございません。御理解のほど、宜しくお願いします。


Rebel105.ハイランダーエアレイド

戦闘によって生じる爆発音。雷が落とされる度に轟く雷鳴。目の前にいる目障りな二人の少女に巨人は殺意を剥き出しにして咆哮を上げる。

 

「ゴァァァァァァァァッ!!!」

 

今、二人の少女、若葉とレイチェルは空中にいる巨人(ハイランダー)・タケミカヅチを前面と背後から囲んでいた。空中への退路を塞がれた巨人は空へ逃げることは出来ない。万が一片方を引き離しても、もう一方がすぐに攻撃の間合いに入ることが出来るので押さえつけられてしまう。しかし、巨人との攻防は苛烈を極めるものだった。

 

巨人は自身の前に方陣を展開して無数の金矢を放つ。矢の弾幕は大天狗を憑依させた若葉に迫ってきたが、それを彼女は自慢のスピードで潜り抜いた。被弾した海から大きな水柱が立った。

 

「くっ……!!」

 

その最中も若葉は攻め手を模索していた。先ほどは奇襲を仕掛けることで大きな手傷を負わせることに成功したが、正面から戦うことになってからタケミカヅチは執拗に自分へ攻撃してくるために近づくことが困難になった。

 

「バーデンバーデン・リリィ!!」

 

そんな彼女を攻撃し続けるタケミカヅチにレイチェルが極太の稲妻を落とす。それは巨人の肩にある砲台を射抜き、大きな爆発を生じさせた。しかし、狙いと違った場所に命中し、周囲の星屑を吸収して瞬く間に回復した。それを見て、レイチェルは思わず舌打ちをした。

 

それでもタケミカヅチは彼女の方へ振り返ることはない。アレの注意は完全に若葉に向かっており、今もしつこく彼女に攻撃していた。

 

天の神が怒った最大の理由。それは人間が境界へ手を伸ばし、神の力を手に入れようとしたことである。だから形は違えど、同じように神である神樹の力を宿し、あまつさえ自身に刃を突き刺した彼女に激昂しているのだ。

 

しかし、巨人は後ろを留守にしている理由はそれではない。そもそも先に自分へ痛恨の一撃を叩き込んだ相手はレイチェルだからそちらにももう少し注意を向けていてもおかしくない。

 

そうしない理由。それはレイチェルのすぐ近くを浮遊していた。

 

「また『これ』……本当に邪魔ね……!」

 

気づけば三つの機械めいた衛星がレイチェルを囲んでいた。衛星が一斉に発射されたタイミングでレイチェルがすぐさま転移魔法で回避し、雷を放つ。

 

衛星は爆発の後に煙と鉄くずをまき散らしながら落ちていったが、それを見てタケミカヅチは殻の横から同じものを放出した。周囲を探すように衛星が回転してレイチェルの姿が見えると即座に彼女を追いかけ始めた。

 

タケミカヅチは他の完全体バーテックスを取り込んだことで新しい能力を獲得した。その一つがこの衛星で、一度放つと決まった相手を追尾して攻撃してくる。タケミカヅチに比べれば小さくて脆いが、かなり機動力が高く、攻撃も速いために引き離すだけでもかなり大変だ。

 

勿論破壊することも可能だが、その時もタケミカヅチがまた造り出すだけで根本的な解決にはならない。そういうこともあって、レイチェルはこれの相手をしながら若葉の援護をせねばならなかった。

 

「……レイチェル!! 場所を交代だ!!」

「分かったわ!」

 

レイチェルにそう叫ぶと、若葉は水面から急上昇して巨人の上を取った。レイチェルも衛星を破壊した後にすぐ配置を交代する。

 

若葉が移動する間も巨人は無慈悲に矢を撃ち続ける。それでも高速で移動し続ける若葉を捉えることは出来ない。

 

そう悟ったからなのか、タケミカヅチも矢の射出を止めた。この状態になると巨人は口や肩からあの火炎の槍を攻撃し始める。だがそのための対策も取ってある。

 

「グゥオッ!!!?」

「アイビー・ブロッサム!」

 

レイチェルが転移寸前に用意したエネルギーでできた蝙蝠、アイビー・ブロッサムは巨人の目を塞いだ。これを見て、若葉は敵に切りかかる。数多のバーテックスを切り捨ててきた生太刀の刃が巨人に襲い掛かる。

 

「くっ……やはり肉体がより頑強になっているのか!」

 

しかし、巨人の躰に傷は然程入らなかった。斬られた痕こそはあったが、それも以前のものよりも格段に浅いものだった。

 

これもまた、二人を苦戦させている要因だった。攻撃のチャンスがある度に若葉は巨人に斬撃を浴びせているが、大した傷を与えられずにいた。恐らく以前よりも肉体も強化されているのだろう。

 

ならば手数で勝負だと連撃を叩き込もうとする若葉だったが、巨人が腕を振るって彼女を追い払った。巨人は口を開ける。それを見て、若葉はすぐに射線から出るように少し高度を上げた。だが出てきたのは予想していたような炎の槍の砲撃ではない。

 

「黒い……球?」

 

出てきたのは三つの黒い光弾。今までに見せたことのない攻撃だった。巨人が一度叫ぶと、光弾は真っすぐ若葉へ向かっていった。

 

それでも槍の砲撃に比べれば火力は些か見劣るもので、矢による射撃のように素早く広範囲に発射されては来ない。言うなれば他の攻撃に対して脅威だとは感じにくかった。

 

「そんなものが通じるか!!」

 

速度を落とすことなく突進した若葉は一切避けることなく、刀を振り下ろした。光弾は成す術もなく両断され、そのまま彼女はタケミカヅチの方へ突き進む。

 

目の見えていない巨人は目に掛かったアイビー・ブロッサムを取ろうと必死に顔を掻き毟っていた。実に呑気なものだと少し感じつつも若葉はその懐へ潜り込もうとする。

 

「若葉、後ろ!!」

 

しかし、それで若葉にも隙が生じた。レイチェルの声が聞こえた直後に右肩から急に爆発が生じた。爆発の衝撃で思わず口から血を含んだ唾液が飛ぶ。状況が分からないまま後ろへ振り向くと、なんと先ほど自分が避けた光弾が自分を追いかけてくるではないか。

 

「これも奴が手に入れた新たな力か……!」

 

若葉は距離を取りながら言葉を漏らした。刀を残った左腕で振るい、最後の一弾を切り払うも右肩の激痛で顔を歪ませる。

 

一方、タケミカヅチは顔から漸くブロッサムを引き剥がすことが出来た。掻き毟られてボロボロになった顔もすぐさま修復されていく。

 

「くっ……!」

 

若葉は逃げようとするが、追い打ちを掛けるように自身の翼を一閃のレーザーが射抜く。衛星の一つがレイチェルから弱っている彼女の方へ目標を変えたようだ。バランスを崩した彼女は体勢を立て直そうとする。しかし、それを巨人は見逃さない。

 

巨人は矢の弾幕を撃つ。若葉も飛行で回避しようとしたが、それでも逃げ切ることが出来ない。今度こそ、殺される。

 

「全く、危なっかしい娘ね」

 

突然の声が聞こえるとレイチェルが若葉の前に出現してツクヨミユニットを展開する。派手な音と共に矢は弾かれていく。若葉は彼女に腕を掴まれて何とか落ちずに済んだ。

 

「済まない、助かった」

「気にしなくていいわよ、さっき助けてもらったのだから。それより、この状況はかなり厄介ね」

 

レイチェルの懸念に若葉も「ああ」と同意する。時間を稼いでいるといえば聞こえはいいが、それでもタケミカヅチが健在であるという事実は変わっていなかった。

 

上手く立ち回ることで壁への被害は何とか最小限に留めているが、それでも流れ弾で損傷を受けていることには変わらない。もし結界が強化されていなければもっと大変なことになっていた。

 

しかも回復したタケミカヅチにはまだ切り札が残されている。口から放たれるあの砲撃を今使われれば、それこそ四国は終わりだ。例え直撃は免れても、発射の余波だけでも壁は吹き飛ぶだろう。

 

勿論その間は無防備になるので、その隙に攻撃すれば良いのだが、今の巨人には自身を守る衛星と敵を追尾する光弾を使うことが出来る。そのせいでまともに近づくことすら難しい。

 

より頑強になった肉体と幅の広がった攻撃手段。これまでのどのバーテックスをも凌駕する力をこの巨人は持っていた。巨大な戦艦を相手に二機の爆撃機だけで挑んでいるような状態だった。

 

「……貴女。翼と腕を攻撃されたみたいだけど、まだやれそう?」

「取り敢えずはな……」

 

精霊の力で形成されている羽はまだ修復しておらず、生身に該当する右肩はズキズキと痛い。飛ぶにしても高速飛行はまだ難しいだろう。となると回復するまではレイチェルが抱えることになるわけだ。

 

さながら米俵を担ぎながらの鬼ごっこ。一度でも捕まればこの世界から永久退場のゲームオーバー。しかも自分は長期戦と度重なる大技の仕様で生じた反動でスタミナが風前の灯火。これには流石のレイチェルでも笑えない状況だった。

 

しかし、その時。巨人は攻撃の手を止めた。そのことにレイチェルたちは疑問を覚えていると、その答えは突如飛来してきた。

 

「さっきからギャーギャー喧しいんだよ!!! 近所迷惑考えろ、この化け物野郎!!!」

 

それは雄叫びを上げながらタケミカヅチに目掛けてベリアルエッジを放つラグナだった。既に蒼の魔道書を発動させていて、全身から燃え盛るような黒い瘴気を放ち、大剣も紅く光っていた。狙いは巨人が最も怯むであろう眼球への攻撃。そのまま頭の一部でも欠損させれば上々だ。

 

無論、大人しく攻撃されるわけにはいかないタケミカヅチも進化の末に硬くなった鉄拳で殴り掛かる。一瞬のぶつかり合いで弾き落されてしまったラグナはあっさりと海面へと落下した。

 

「ラグナ!!!」

 

珍しく声を上げるレイチェル。しかし、落ちていく雑魚に気を掛けることなく、巨人は二人に向かって砲撃しようと口を開ける。対して衛星と光弾が空中では抵抗することの出来ない彼を襲いかかった。

 

そんな状況でラグナは慌てない。大剣を逆手に持って何かを待つように構えを取る。瞬間、彼の後ろから何本もの水の柱が出現した。

 

西洋の船を襲った大蛇を思わせる水柱がタケミカヅチを襲う。水流に耐えることが出来ない衛星は一瞬でスクラップと化した。水柱に囲まれた巨人は動くことが出来ない。

 

対してラグナはその内の一つを足場にして巨人のコアに向かう。水柱の昇るスピードに合わせて彼は一気に切り上げる。

 

「インフェルノディバイダー!!!」

 

一撃を決めようと切り込んできたラグナ。巨人は弱点であるコアを攻撃されないように自身の殻の中へと逃げようとする。

 

「逃がすかよ!! ナツメ!!」

「ああ!!」

 

空中にいるラグナに向かって真下にあった水柱は勢いを上げて彼を押し上げる。その中にいたのは海神に選ばれた勇者、古波蔵棗。切り札を使ってここまで泳いできた彼女は海神の力を借りてこの水柱たちを造りだしていた。

 

「『大海乱舞』!!!」

 

海中で棗が振るうヌンチャクに合わせて、水柱は間欠泉に吹き上げられるように勢いを増す。それによって、飛ばされたラグナは完全にタケミカヅチの殻が閉まり切る前に中へ突入することに成功した。数秒して殻の中からけたたましい雄叫びが響き渡る。どうやらあの狭い中で戦っているようだ。

 

「おーい、若葉にレイチェル~!! 無事か~!!」

「その声、球子か!」

「皆も一緒だよ~!」

 

切り札によって巨大化した旋刃盤に乗って、少女たちが若葉とレイチェルの下へやってくる。皆切り札を発動させて精霊を降ろしていた。

 

「棗さん! そのまま二人をこちらへ連れてきてください!」

「ああ」

 

棗が若葉とレイチェルを乗せて旋刃盤へと向かう。漸く三人が足場に着くとレイチェルは疲れのあまり、息を少し荒くしていた。それでも平静を保とうと膝を地に着けない辺り、流石は筋金入りの淑女か。生きている彼女を見て千景は安心したように声を漏らした。

 

「良かった……生きていてくれて……」

「ええ、今回は若葉に助けられたわ」

「本当に心配したんだからな! こいつめこいつめぇ~!」

 

レイチェルに球子は思わず肩を組んで彼女の頭をワシャワシャとなで回す。彼女なりに心配していたことが痛いほど伝わってきた。それを察したレイチェルは彼女から少し顔を逸らしながら照れくさそうに呟いた。

 

「……その点は悪かったわ。心配させてごめんなさい」

「ウェッ!? そ、そうか。分かれば良いんだよ、分かれば!」

 

これには球子だけでなく、他の皆もおおっ、と声を出した。

 

「見ましたか、皆さん! レイチェルちゃんの貴重なデレですよ!!」

「確かにいつもと違ってちょっと素直になってる!」

「ツンデレのデレ期が来たのかにゃあ?」

「貴女たちねぇ……」

 

何はともあれ、友が無事だったことは勇者たちとしても嬉しいことだった。その救出の功労者である若葉は棗や歌野に身体の様子を診てもらっていた。

 

「どうだ、傷の具合は? 右肩の方がかなり痛むが」

「取り敢えず骨が折れた感じはないけど、右肩が脱臼してるみたいね」

「そうか」

「そうか、じゃないでしょ? そこ以外にもたくさん怪我しているじゃない」

 

若葉は一人で納得するが、歌野には寧ろ彼女の身体に目が向いていた。長い間弾丸の雨に晒されながら戦ってきたことで付いた無数の切り傷が痛々しい。勇者たち全員が認める強者である彼女のボロボロの様子は戦いの激しさを物語っていた。

 

「それなら若葉、私に任せてくれ。骨の位置を戻してみる」

「そうか。そういえば棗さんは整体が得意だった……」

 

そこまで来て若葉はかつて棗に施された整体を思い出す。かつて自分がラグナと球子と一緒に骨抜きにされたあの整体。その時の姿を敵の前にいるここで晒してしまうことに抵抗を覚えた。

 

しかし、当の棗は至って真面目な様子で勧めてくるし、体調を整えてから巨人を迎撃した方が良いのも事実。しかも効果がどれほど高いのかも身をもって体験したことから、どれだけ凄いものなのかも知っている。時間の取れない中、若葉の決断は早かった。

 

「あら? どうかしたの、若葉? 顔がブルーになっているわよ?」

「……いや、何でもない。棗さん、すぐに頼めるか」

「了解した。それでは歌野、他の皆にはよろしく」

「ラジャー! こっちは任せて!」

 

そう言って歌野は他の少女たちと合流する。気のせいか、後ろの方から小さな悲鳴が聞こえたような気がするが、きっと治療の一環なのだろう。敢えて振り向かないことにした。

 

少女たちは自分たちの用いられる手段で周りの衛星や光弾を撃ち落としていた。近距離戦を主体としている友奈と千景も一目連や七人ミサキで離れた相手と応戦していた。

 

その時、巨人の殻が開く。そこから大剣を握ったラグナが射出され、追いかけるように巨人は飛び出てくる。彼も負けじと大剣を大鎌に変形させて横薙ぎ一閃。顔面に派手な爆発を起こした巨人は後ろへ下がった。旋刃盤の上を転がるラグナはすぐ起き上がって大鎌を大剣に戻して構えた。

 

「貴方、大丈夫!?」

「まぁな。傷なら大したことねぇよ」

 

元気そうなラグナの様子を見て千景は胸をなでおろす。この作戦の一番手は言うなればタケミカヅチと直接戦う役だ。以前戦ったことがあるとはいえ、この役が彼にとって危険であることは変わらない。だから無事に帰ってくるか気がかりだったが、こうして再び姿を見せてくれたことを嬉しく思った。

 

「それにしても……アレがタケミカヅチ……見た目だけだと、バーテックスというより黒き獣みたいだわ」

「……そうだな。その認識で間違っちゃいねぇ」

 

その言葉に対してラグナは巨人に目を向けたまま、同意する。事実、巨人は大雑把に説明すると『制御可能な黒き獣』とも言える。この世界の住人から見ても巨人の黒い躰はバーテックスよりも黒き獣を連想しても仕方がない。

 

「つーかあの野郎……さっきから傷の治りがやけに早いが、理由は分かるか?」

「アレをどうにかして壁の内側、結界の中へ引き込まないと勝ち目がないわ」

 

ラグナの疑問に後ろのレイチェルが答える。

 

「そいつはどういうことだ、ウサギ? 多分こっちでやっちまった方が被害は少ない気がするぞ?」

「それは逆効果よ。このままだと再生し続けていつまで経っても倒せないそうよ」

「……なるほどな。話が見えてきたぜ」

 

現在の結界であれば星屑や中途半端な進化体であれば侵入することが出来ない。だからタケミカヅチの再生能力も並みのバーテックスと同じになる。それならば皆の攻撃も届くようになるはずだ。

 

「ありがとよ、ウサギ。後のことは俺たちに任せて下がってろ」

「見くびられたものね……まだやれるわよ……」

 

そうは言うが実際のところ、レイチェルはかなり辛そうにしていた。流石に何度もツクヨミユニットを使ってきた弊害で彼女自身にも限界が見え始めたようだ。

 

「……レイチェル。アイツは俺たちが必ず倒す。だから、頼む」

 

いつもだったら文句の一つでも言うところだが、真剣な表情でそう言うラグナを見て、レイチェルは何も言い返せなかった。それに自分に残されている力を考えれば、確かにこれ以上ここにいても足手まといにしかならないだろう。

 

「……気を付けて」

「ああ」

 

それだけ言うとレイチェルは転移魔法で去っていく。これで戦いの場に残ったのは勇者たち、そしてラグナだけになった。

 

「ラグナ! レイチェルちゃんは!?」

「さっき帰った。もう大丈夫だろうよ」

「そっか……良かったぁ……」

 

さてと、少女たちは改めて巨人と向き合う。情報によれば自分たちは巨人を結界内へ誘き寄せる必要があるそうだが、問題はどうやって入れるかだ。遠距離攻撃が出来ることを考えると巨人が自分から入ってくるとは考えられない。

 

ならば力づくで入れるほかないが、それが出来そうなのは友奈の酒呑童子くらいだろう。もしくは球子の旋刃盤で押し込むか。何はともあれ、敵の砲撃と衛星を止めない限り、こちらから積極的に攻めることは出来ない。

 

「皆で後ろから押し込むのはどうかな?」

「でもそれだと逃げられた時に誰も追いかけられないよん?」

「それなら問題ない。私が抑える」

 

どうしようかと少女たちが悩んでいるところへ若葉が戻ってきた。

 

「若葉ちゃん! 身体はもう……大丈夫なの?」

 

友奈が一瞬言葉を詰まらせて困惑するのも無理はないだろう。棗の整体のおかげか、若葉はレイチェルに抱えられていた時よりも遥かに元気そうだった。彼女の様子を見てラグナと杏、球子は何となく何が起こったのかを察したが、この状態を知らない千景は誰かに質問せずにはいられなかった。

 

「……ねぇ。私の気のせいかしら? 乃木さん、さっきどころか今朝よりも元気そうなんだけど」

「脱臼した肩を元に戻しただけだ。ついでに色々と治しておいた」

「いや、色々と治り過ぎぃ!!」

 

若葉の治療を務めた棗に対して雪花は思わずツッコンだ。流石に切り傷は止血のみしか出来なかったが、今の若葉はそんな傷も全く痛ましく感じないほど生気に溢れていた。だってなんか金色の後光が見えるし。めっちゃ翼を羽ばたかせてるし。なんだったら目もピッカーンと煌めいているし。

 

「……ヒナタ似かと思ってたが、そのツラだとやっぱアイツの先祖だって感じるな……」

「ん? 何か言ったか?」

「いや何でも。元気そうで何よりだぜ」

 

300年後の子孫によく似た顔つきになっている若葉を見て懐かしさを覚えるラグナ。しかし、これで若葉も戦線に戻ることが出来る。敵が飛行している以上、こちらにも自由に飛べる味方がいるというだけでもかなり心強い。

 

「それでは海から私、上空から若葉が攻めて、後は各自攻撃というところか?」

「そうですね。では行動開始です!」

「おっしゃー、テメェら! あの化け物野郎をぶっ飛ばすぞ!!」

 

おおっ、と少女たちは鬨の声を上げながら敵の方へ突撃する。大部分が中学生で編成された部隊とは思えない気迫に周囲のバーテックスは怯む。

 

前衛として飛び出すラグナ、千景、友奈は棗の作り出した水柱に乗って巨人へと接近し、若葉は再び飛翔する。球子が操作する旋刃盤の上から雪花は槍を放ち、杏は氷の矢を撃ち、歌野は鞭を振るう。

 

しかし、巨人は負けじと叫び声を返すと、炎の槍を両肩から発射し、動きを制限させようと出現した水柱は一瞬で蒸発させた。夥しい量の蒸気が勇者たちの視界を奪い、そこから衛星が攻撃を仕掛けてきた。

 

「これじゃ何も見えないよ!!」

「大丈夫です!」

 

声がすると辺りの空気は一気に冷え込み、猛烈な吹雪へと変貌する。巻き込まれた衛星は次々と爆発していき、光弾も掻き消され、周囲の星屑も水柱も海面も、そして壁の根さえも凍り付いていく。

 

だが巨人は冷気に脅かされることなく、次の攻撃へと転じていく。この嵐の中を勇者たちも動けないだろうと考えた敵は腕を大きく振るおうとする。

 

しかし、ピクリともそれは動かない。驚愕する巨人に対してその犯人であろう杏は静かに告げた。

 

「『ノスタルジア』」

 

吹雪が晴れると巨人の両腕は凍り付いた水柱に閉じ込められ、身動きの取れない状態になっていた。巨人は吠えるとすぐに衛星を出そうとするが、それも出てこない。出口が氷で塞がれているからだ。

 

ダメージを入れても回復されてしまうこの状況において、後衛である自分たちの役目は相手の動きを封じ、前衛の活路を見出すことだ。水分が空気中に満ちている今こそ、自分の精霊の力の使いどころだと判断した杏は咄嗟に発動させたのだ。

 

囚われてしまったタケミカヅチは急いで脱出しようとするが、氷柱はガッチリと両腕を固めていて逃げることを許さない。攻撃するならば今しかない。

 

「今ならいけます!!」

「行くよ、酒呑童子!!!」

 

動けなくなった巨人を見て、友奈は精霊を酒呑童子に切り替えながら突貫する。最強の鬼の力を宿らせたことで異様に肥大化した手甲を握りしめ、力をため込むように体の方へ引き締める。

 

彼女の手甲に宿る霊力、天ノ逆手は天の神にとって強力な呪詛であり、あらゆるバーテックスにとっても有害なものだ。特に天津神であるタケミカヅチには効果抜群だろう。

 

そんな彼女の鉄拳に対して危険を察知したのか、巨人は絶叫しながら身体を左へ大きく捻った。力づくで脱出を試みているのだろうか、ミシミシと嫌な音を立てている。

 

何かを仕掛ける前に決着を付けようと友奈の勢いは止まることを知らない。パンチの射程距離までにタケミカヅチとの距離を詰めることができた。後はありったけの力でぶちのめすだけだ。

 

そう思っていた。しかし、現実は非情だった。タケミカヅチは最後に勢いづけてその大柄を捩じると左肩から下が千切れた。拘束から逃れた巨人はそのまま左腕を捕らえている柱を回りこむように移動する。代わりに友奈と激突するのはレイチェルの雷や若葉の太刀をも弾いて見せた鉄壁の殻である。その様はビルを破壊するクレーン車の鉄球にも見えるだろう。

 

「勇者ぁぁぁぁ……ばくれつパーーーーーーーンチ!!!」

 

それでも友奈は止まるどころか、全力全開の真っ向勝負を仕掛けた。バズーカ砲のように撃ち込まれた渾身の右ストレートは巨人の殻と激突し、その衝撃で壁はおろか、海すらも大きく揺れた。

 

あまりの威力に巨人の殻の表面はクレーターを作りながら大きく変形し、巨人は壁の方へ叩きつけられるように吹き飛ばされた。拘束が解かれていなかった右肘から下も引き千切れ、手が無くなった状態になった。対する友奈も上空に吹き飛ばされたが、何とか彼女を空にいた若葉が受け止めた。

 

「高嶋さん、大丈夫!?」

「とりあえずは何とか~!」

 

前線から聞こえる千景の心配に友奈は笑って言葉を返すが、それに対して彼女の右腕はかなり悲惨なことになっていた。手甲は全体がひび割れていると酷く損傷しており、指を護る部分もプレス機で圧迫されたような状態なっていた。隙間やひびから絶え間なく出血しているところを見る限り、右の拳は文字通り潰されてしまったようだ。

 

「友奈……お前、その腕……」

「今はだめだよ、若葉ちゃん。それよりアイツが!」

 

友奈の言う通り、巨人の下へ多くの星屑が集まっていく。手数と攻撃範囲に優れる七人ミサキを降ろした千景を中心に何とか数を減らしているが、それでもどんどん巨人へと取り込まれていき、その両腕は次第に修復されていく。

 

しかし、友奈に殴られた殻は開閉口が破壊されたまま、一向に治る気配を見せない。彼女の拳に宿る呪いがそれを阻害しているからだ。これでタケミカヅチは殻に引き籠って防御することは出来なくなった。無論高速飛行も出来ない。逃げることはもうできない。結界の中へ引き込むなら今しかない。

 

その言葉に納得した若葉は了承の言葉を口にしようとする。しかしその直前、旋刃盤に乗っていた歌野の声が聞こえた。

 

「球子さん! すぐアイツから離れて!」

「え、お、おうよ!?」

 

その真意が良く分からない中、球子は旋刃盤を巨人から離れるように移動させようとしたが、巨人の行動の方が早かった。残っている右腕で壁を突き飛ばすように叩くと、そのまま旋刃盤に向かってショルダータックルしてきた。

 

向かってくる巨人に対して一人で戦う時期が長かった歌野や雪花は何とか反応して鞭と槍で攻撃することが出来た。そのおかげで少し巨人のスピードが遅くなり、辛うじて逃れることに成功した。

 

歌野の精霊である覚は相手の行動を先読みすることが出来る。だから基本的に不意打ちや待ち伏せは通用しない。それでも直前まで行動が分からなかったのは、恐らく敵がその場であの動きを思いついて即実行したのだろう。野生動物のそれを彷彿させるように、直感に従って行動したのかもしれない。どちらにせよ、少しでも攻撃が遅れていたら大惨事になっていただろう。

 

しかし、巨人は少女たちを逃がしてはくれない。即座に方向転換すると復活した両手で旋刃盤を掴み取ろうと手を伸ばした。移動速度が落ちたとはいえ、それでも旋刃盤くらいになら追いつくことは可能。逃げ回る球子たちと距離を詰めていく。

 

その手に向けて歌野は巨人の動きを牽制しようと鞭による鋭い打撃を加える。激しくしなる鞭は縦横無尽に軌道を変え、タケミカヅチを近づけさせない。

 

だが、巨人もただ見ているだけではなかった。次に歌野の鞭が手に命中すると、それを掴み取ってみせた。これには歌野はもちろん、他の勇者たちも嫌な予感を感じた。巨人は掴んだ鞭を力の限り引っ張って、歌野を旋刃盤から引きずり下ろした。あわれ歌野は本州のある対岸へと投げ飛ばされてしまった。

 

「歌野ちゃんが!!」

「不味い!!!」

「まだまだぁ!!」

 

鞭を手放されたことで自由になった歌野はタケミカヅチに再び攻撃を向ける。巨人は攻撃を手で払ってそれを防ごうとするが、歌野の目的は攻撃とは別のものだった。鞭はタケミカヅチの殻にある突起に巻き付いて、離れられなくなったのだ。先ほどとは反対に、今度は歌野の方から巨人を捕まえたのだ。

 

「……貴方と私が力比べで戦うなんて、これもフェイトなのかしらね。でも負けないわ!!」

 

そんな歌野の独り言に耳を貸すことなく、巨人は後ろに引っ付いている虫を振り切ろうと右へ左へ移動しながら宙を藻掻く。そんな巨体に揺すられることで発生する遠心力で振り切られそうになっても歌野は懸命に鞭を握り続ける。

 

傍から見れば暴れ牛に引きずり回されるカウガールのそれだが、手を離せば助かる見込みはない。そのまま海面と濃厚なキスをかまして昇天するか、陸地へと吹っ飛んで大地の肥料になるかの二択である。歌野の鞭は今文字通り、彼女の命綱となっていた。

 

しぶとく付いてくる彼女を見て、タケミカヅチは急降下した後に海面スレスレの低空飛行を開始する。海面に叩きつけられた後に歌野は引きずられていく。目に入ってくる海水が痛くてたまらない。それでも鞭を手放すことはない。

 

「負ける……もんですか!!!」

 

一瞬身体が海面から宙に浮かび上がると同時に歌野は身体を翻してその足を海面につけた。水上スキーの如く引っ張られるのは苦しいが、それでも体中が水面に叩きつけられるよりはマシだ。

 

さてこれからどうすれば良いのかを考えねばならない。海からの棗の奇襲や杏たちの援護射撃を受けても、タケミカヅチは一向に止まる気配を見せない。巨人が向かっている方向へ歌野は目を向けた。

 

タケミカヅチは壁のある方へ向かっていた。その考えは歌野でなくても理解できる。大方壁際ギリギリまで接近してから、巨人は壁間際で急上昇し、同時に慣性に従って歌野を壁に叩きつけるつもりなのだろう。杏が柱で自分を拘束するのに凍らせた地面の方へ向かっている分、ヤル気の高さが伺える。

 

氷の地面であれば踏ん張りは効かず、ワザと手放して水中へ逃げるのも出来ない。というよりもう手遅れである。すぐそこまで凍った海面が迫っていた。一度ジャンプして辛くも表面に着地する。滑ったまま真っすぐ壁へと向かっていった。

 

それでも歌野は離さない。巨人の方へ注意を向けて余計な一撃を喰らわないように注意するが、それ以外は特には何もしない。そうしているうちにあっという間に壁際まで来た。

 

ここだといわんばかりのタイミングでタケミカヅチが壁を伝って急上昇する。やはり予想していた通りだったようだ。しかし分かっていても元の体格や身体の構造が違いすぎて、分かっていても止められない。正にゴリ押しの極みだ。

 

それでも歌野は慌てることはなかった。何故なのか。その答えは彼女の背後からやってきた。

 

「無事か、歌野!!」

「待ってたわ、若葉!!」

 

歌野が壁とクラッシュしてしまう直前に彼女を地面から掻っ攫っていく黒い影。それは友奈を壁の上に一度避難させて猛スピードで戻ってきた若葉である。歌野の腰に手を回して抱えながら、彼女もまた垂直上昇した。

 

「若葉! アイツを追い越しちゃって! そのまま結界の中へ引っ張り込むわ!!」

「承知した!」

 

若葉は更に加速してタケミカヅチの腹の下を通っていく。追い越された巨人はすぐに砲撃を始めようとする。

 

そこで巨人は狙いを定めるためにスピードを落としてしまった。その隙は二人の少女にとって千載一遇のチャンスだった。

 

『今だぁぁぁ!!!』

 

二人は同時に叫ぶと若葉の翼は紅蓮の炎を吹かせながら限界まで加速した。突然大きな力で引っ張られた巨人はひっくり返ってしまい、二人によって宙づりのまま、壁の上まで引きずられていく。頭を壁にぶつけてしまったことで砲撃も中断されてしまった。

 

勿論その間も歌野は決して鞭を離したりはしない。タケミカヅチとのロデオで身体はとうに限界だが、ここで手放せばこのチャンスを逃すことになる。二人は壁の頂上まで来ると結界内へ引き込もうとする。

 

「っぐ!!?」

「な、止まっただと!?」

 

壁の中へ入ろうとする直前、二人は後ろへと引き留められてしまった。理由が分からない二人に友奈が呼びかけた。

 

「二人とも~! アイツ、壁にしがみついてる!!」

「な、何だって!!?」

 

友奈の言う通り、思い通りにさせまいと巨人は壁を構成する根を掴んで抵抗していた。弱点である胸のコアを晒してしまっているが、その時も方陣を展開して矢の弾幕をばら撒いて、助けに入ろうとする他の勇者たちを近づかせない。

 

若葉も何とか加速しようとするが、これ以上は出来ない。悔しさに顔を歪ませると歌野は一つ提案してきた。

 

「若葉、少し無茶なお願いを聞いてくれない?」

「何だ?」

「グラウンドに降りて。このまま奴とタグ・オブ・ウォーに持ち込む!!」

「……分かった! 済まないが、友奈も少し手伝ってくれ!」

「うん!」

 

若葉は壁の上に降りると、今にも切れてしまいそうな鞭を介して、壮絶な綱引きが行われていた。地面に着いたことで歌野も踏ん張ることが出来るようになり、それに加勢して若葉と友奈も一緒に引っ張る。

 

それでも上に向かって飛行していた時よりも力が些か減ってしまったのは事実で、巨人もそれに気づくと這うように壁の下へ自身の身体を引っ張っていく。相撲でタケミナカタを倒した伝説を持つ巨人の力を以てしても下へ引きずり下ろされないのは左腕しか使えないとはいえ、力自慢の酒呑童子を持つ友奈がいてくれたことが大きいだろう。

 

両者が拮抗し、巨人が次の一歩を進めようとする中、歌野は小さく呟いた。

 

「……最後の最後まで油断できないわね。流石諏訪の神様のライバルだわ。でもね」

 

鞭を握る歌野の力が強まる。

 

「私は!!! 諏訪の皆と、そしてみーちゃんと一緒に!!! 貴方がデストロイした諏訪を復興して!!! そして将来農業王としてこの名を全国に轟かせる女!!! こんなところで、負けるわけには行かない!!!」

 

自分の護るべき故郷は最後、こいつによって更地に変えられた。それでも、かつてあの日、バーテックスが初めて諏訪を襲った時と同じように、皆でまた種を植えて、土を耕して、作物を育てば、きっと諏訪は再興出来る。歌野はそう信じている。

 

その未来のためにも、この敵を、かつて諏訪の武神を破った神から勝利を手繰り寄せなければならない。歌野は気合の咆哮を上げた。

 

「スーパー農業王ハイパァァァァマーーーーーーーーーーックス!!!!!!」

 

そう絶叫しながらしぶとく土の中から出てこようとしない大根を引っ張り上げるように、歌野は全体重を後ろに乗せて、鞭を自分の方へ引き寄せる。新しく進んだ場所の根を掴む直前に不意を突かれた巨人は力負けしてそのまま上へと引き寄せられた。

 

『おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

確かな手ごたえを感じると歌野たちは一層に鞭を自分たちの方へ引き寄せる。抵抗の余地も与えない早業でタケミカヅチは引き上げていく。最後にタケミカヅチはその巨体を露にすると歌野たちは余っている力を振り絞って巨人を結界内へ投げ入れた。

 

その瞬間、空に浮かび上がる雲の動きは停止し、あらゆる音が消失した。世界は白い花びらを巻き散らし、少女たちの視界も見慣れた樹木の世界へと変わっていく。決戦の場は勇者のホームグラウンド、樹海へと移っていった。




「私、思ったことがあるんだけど」
「ンだよ」
「こうすれば、もっと精霊の力を強く出来るんじゃないかな?」
「ふーん。ちょっとやってみてくれよ」
「じゃあいっくよー! 酒呑童子!! in天ノ逆手!!! オーバーそ「それ他所のヤツだから止めなさい!!!」

シリアスを書いている途中だとついギャグネタが頭を支配してしまうんですよね。なのにシリアスが思い浮かばない……発散せねば……それとアニメシャーマンキング、20年ぶりに蘇っておめでとうございます。

次回ですが、まだまだタケミカヅチが暴れます。果たしてラグナたちは無事にこの戦いを切り抜けることが出来るだろうか。それではまた。
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