長らくお待たせしました。シリアスに疲れて筆休めにギャルゲーをやるブレイブルー男子だったり、師匠の特訓に付き合う武闘派勇者たちとか書いたり、冠の雪原をプレイしているうちに一か月かかってしまいました。
でもラグナとか誰を攻略した方がいいんだろう。姫様ルートやってもいつも通りすぎて新鮮味もクロスオーバーの意味もないし。
それはさておき、今回のお話はタケミカヅチ本気モードの戦い。それではどうぞ。
The wheel of fate is turning…Rebel2…Action‼
樹海の真ん中で立ち上がる巨大な土煙の柱。その中にいる主に視線を送る。若葉たち。彼女たちは先ほど引き摺り込んだ敵であるタケミカヅチの様子を伺っていた。
先ほどまで友奈と歌野と共にバーテックスと壮絶な綱引きをしてやっとの思いで競り勝ったのだが、それによって自分も仲間二人も体力を大きく消耗させていた。特に右手の出血が酷く、力を入れるどころか指を動かすこともできそうにない。
「テメェら無事か!?」
「生きている……が、無事とは言い難いな。特に友奈が酷い」
「ううん。まだやれるよ」
「高嶋さん……」
血がかなり抜けていったせいか、親友の顔がいつもよりも蒼白い。これ以上戦わないでと千景は言いかけるが、友奈はその言葉を察したのか、首を振った。
「ここまで来たんだもん、今頑張らないときっと一生後悔するよ。皆で戦えば、きっと勝てる!」
「……分かったわ。でも約束して、絶対無理はしないって」
「うん!」
友奈が朗らかにそう返すと棗は歌野に巨人の居場所を聞く。
「それでアイツはどこにいるんだ?」
「あそこよ……姿は見えないけど、あの煙の中にいるわ」
集ってきた仲間たちも歌野の示す方向を見る。煙の中から二つの紅い光が真っすぐ自分たちの方を向くと二本の巨大な黒い腕がニュッと突き出て自分の肉体を起こす。
「あれだけやってまだピンピンしてんのか!? どんだけ体力オバケなんだよアイツ!!」
「ホントよね……あの元気を少しでも分けてほしいわ……」
笑いながら球子のコメントに同意する歌野だが、いつもの英語交じりの話し方でない辺り、かなり参っているようだった。
「でもここなら星屑は入ってこれねぇからあのバカみてぇな再生力も弱ってるだろうし、殻も壊したんだ。ここをどうにかすれば、四国を守れる」
「しかし、それでもあちら側の優位性が少し低くなっただけです。楽観するにはまだ早いです」
「分かった。皆、気を引き締めていくぞ!!」
『おー!!』
舞い上がる土埃の中から巨人はその巨体を現す。以前諏訪でラグナと戦った経験からなるべく接近せずに遠方から四国を打ち抜こうと立ち回っていたが、それも出来なくなってしまった以上、それに拘ることは枷でしかない。ならばひたすら暴れ尽くし、神樹を破壊し、人の心を屈服させる。最後の切り札を撃つためのエネルギーも出し惜しみはしない。
「グオォォォォォアァァァァァァ!!!!」
タケミカヅチは雷鳴のような叫びを四国中に轟かせる。腹までも震わせる怒号に少女たちは耳を押さえて姿勢を低くするしかなかった。しかし荒ぶる巨人はそれでは終わらなかった。よく見るとその口には赤白い光が収束されていくではないか。
「降りるぞ!!!」
攻撃を直感したラグナは叫ぶと同時に壁から飛び降りた。他の仲間たちもそれに付いて壁の上から飛び降りる。その数秒後、巨人の口から太い光線が発射された。光線はラグナたちが先ほどまでいた場所の右隣を過ぎると、そのまま巨人は首を左へと振る。
当然光線の射光も移動し、壁上から火のカーテンが引かれたかのような火柱が立った。ツクヨミユニットを使わねば防ぐことが出来なかったあの砲撃に比べれば火力は劣るが、当然勇者たちが食らえば火傷では済まない。そのままジュっと跡形もなく消滅させられる。
光線の反動か、巨人は口から黒煙が漏れる。それを見て少女たちもすぐに距離を詰めようと敵の方へ向かう。同時にタケミカヅチも少女たちを迎え撃とうと両腕を地面に付けてトカゲのように這ってきた。これまでの完成型の中でもレオに迫る巨体でありながら巨人の突撃するスピードは俊足と名高いジェミニに匹敵していた。
「カーネージシザー!!!」
「飛翔緋那汰!!!」
「『根性ぉぉぉぉ!!! 勇者ぁぁぁぁパーーーーンチ』!!!」
「『大・閃舞鋭刃』!!!」
「海桜双乱舞!!!」
最前線のラグナ、若葉、友奈、旋刃盤に乗った球子、棗が巨人と激突する。だが力勝負では巨人の方が強かった。一瞬止まったように見えたが、巨人は頭を突き上げるように振って五人を力任せに吹き飛ばした。先の戦いで唯一大ダメージを与えた友奈の拳も彼女自身が弱っているからか、それほど効いているようには見えなかった。
「今度は上から来るわ!!!」
「コンチクショー!!!」
ラグナたちを蹴散らした巨人は次に千景達に向かって腕を振り下ろす。それを受け止めようと雪花が巨槍を何本か召喚してそれを受け止めるが、それもあっさりと圧し折れてしまった。横へ跳んだことで直撃は辛うじて避けられたが、地に着いた剛腕は樹海の根を破壊し、辺りを更地に変える。周囲の勇者たちもあまりの衝撃に身体が宙に浮かされてしまった。
正に雷槌を振るう雷神そのものである。何とか戦局を変えねばと頭を必死に回転させる杏だが、巨人は彼女に目をつけると鉄拳を叩き込んだ。もしこの時に千景が彼女の方へ七人ミサキで作り出した自身の分身を蹴り飛ばしていなかったら直撃は免れなかっただろう。
それでも巨人の攻撃の勢いを完全に消せるわけではない。一緒に殴り飛ばされた分身が消滅する中、杏は樹海の根に叩きつけられる。頭から血を流してフラフラになりながらも懸命に起き上がろうとするが、巨人は無慈悲に止めを刺そうと口からレーザーを発射しようとする。
「それ以上あんずに手を出すなぁぁぁ!!!!」
その攻撃を球子が許さない。巨人の背後から旋刃盤に乗って戻ってきた彼女は突撃して巨人を杏から引き離そうとする。吹き飛ばされたときに多少傷を負っているが、妹分がやられた怒りに燃える彼女の闘志は尽きることを知らない。そんな彼女に呼応するように楯から樹海の一部すらも焼き尽くしかねないほどの爆炎が吹く。
「焔纏の巨刃・瞬旋!!!!」
灼熱の大車輪はタケミカヅチを押すが、巨人もやられっぱなしで終わるはずがなかった。どうにかして球子の方へ身体を向けるとなんと横から吹き出る炎に構うことなく旋刃盤を掴み取った。炎で手が爛れた部分もあるが、それでもタケミカヅチは旋刃盤を掴む力を一切緩めることはなく、やがて旋刃盤の回転も動きも止まってしまった。
「嘘だろ!!?」
「タマっち先輩……逃げッ……!!!」
武器を機能不全に追い込まれた球子は旋刃盤から降りようとするが、巨人はそれを逃がすまいと楯を振り回して彼女を吹っ飛ばす。宙を藻掻くことしか出来ない無抵抗の少女の視界に自分の武器が一瞬入ると、気づいた時にはタケミカヅチが旋刃盤で自分をテニスのスマッシュのように球子を杏のいる方へ叩きつけた。
「球子、杏!!!」
戦友が落下した方面から立ち昇る土煙に向かって若葉は友の名前を必死に呼ぶが、それも巨人の勝利の雄叫びに搔き消されるだけだった。明らかに無事で済むような攻撃ではなかった。
しかし、そんな心配をさせてくれる時間も巨人は一秒たりとも与えようとはしない。早速奪い取った武器を手に取ると、巨人はそれをハエ叩きのように使って今度は若葉を叩き落とした。
彼女は巨人襲来から連戦に次ぐ連戦。いくら超人に片足を突っ込んでいると揶揄されるほどの身体能力を持っていようと、整体を施してもらって一時的に体力を回復させていようと、疲労とダメージで身体は限界に近い状態だった。その隙をタケミカヅチに突かれてしまった。
巨人は地面に叩きつけられて動けない若葉の翼を摘まみ上げると、巨人は彼女の身体を手で包むように掴む。四肢の動きを完全に塞がれ、頭だけを出した状態になっても彼女は何とか脱出しようとするが、力が失ってしまった今では脱出することが出来ない。そんな彼女を見て、巨人は彼女を掴んでいる手に力を加え始めた。
「グアァァァァァァァァッ!!!?」
「若葉ちゃん!!!」
メリメリと体中から嫌な音を鳴らしながら若葉は巨人の手の中で握り締められていく。口から血を吐き、苦しそうに声を上げる。このままでは絞め殺されてしまうのも時間の問題だ。
「野郎!!!」
握り潰されそうになる若葉を見て、ラグナたちは急いで救出に向かう。しかし、彼の接近に気づくと巨人はすかさず炎の槍を彼に撃ち込む。目の前で突然迫ってきた槍を避けることが出来なかった彼は咄嗟に大剣を盾にするが、爆炎に吹き飛ばされてしまった。
「貴方!!!!」
「うわ、こっちにも来た!!!!」
弾かれたラグナが千景たちのいる方へ吹き飛ぶと巨人は自身の両肩から火を纏った弾丸を射出して追撃する。打ち上げられて落下してくる無数の星は彼女たちの進路を爆撃し、辺り一面を火の海に変える。例え頑丈な装甲で守られていようと、敵から離れていようと、分身して攻撃から逃れようとしても関係ない。
『うあぁぁーーーッ!!!!』
足場が一気に不安定になり、周囲が熱と炎に包まれる中、勇者たちは苦戦を強いられる。爆風で吹き飛ばされ、壊れた木片が身体に叩きつけられ、息をしようとする度に炎の熱が喉を焦がしていく。何とか気持ちを奮い立たせて立ち向かっても悠々と少しずつ神樹へと近づいていく巨人はその剛腕を振るって自身の前に立ち塞がる者たちを蹴散らしていく。
「み……な……」
巨人の猛進が次第に勢いが収まると、友奈は震えながら体を起こして周りを見渡す。勇者たちは樹海のあちこちで倒れており、起きようにも既に体力が尽きたようで立ち上がる者がいない。長い間戦ってきたことで皆摩耗していた精神が折れかかっていた。
友奈の少し後ろには白い光に包まれた神樹が悠然と立っていた。どうやら爆風でその根元近くまで吹っ飛ばされたのだろう。タケミカヅチが迫ってくる中で仲間の頼りに期待出来ない今、神樹を守ることが出来るのは友奈だけだった。
(神樹様を……守らないと……皆が……ぁ……)
このまま攻撃されれば四国は滅茶苦茶になってしまう。もう一度立ち向かおうと一歩を踏み出そうとする友奈だったが、巨人に立ち向かおうとするその足は石のように重く、全く力が入ってこなかった。全身の裂傷も激しく、身体のあらゆる場所から出血していた。先の戦いで壊れてしまった手甲も砕け散り、ズタズタになった右腕はだらんと垂れるのみで痛みも触った感覚も感じ取れない。
(もう……どうでも良いや……)
遂に気力までも尽きた友奈は倒れ伏した。人が起き上がれなくなったところを確認した巨人は神樹へ目を向けると、満を持して口を開けた。そこから露になったガトリング砲にも見える砲口にエネルギーを集中させてレーザーの発射準備に入る。口元に広がる方陣は宇宙でレイチェルと打ち合っていたものよりも遥かに小さいものだったが、それでも神樹を吹き飛ばすには十分だった。
(神樹様が壊されたら……どうなるのかな……もう、こんな思いをしてまで戦わなくて良いのかな……?)
一度悪いことを考え始めると、底無しの沼に引き摺り込まれるように人の頭はネガティブな考えに支配される。それは超常の力を持つ勇者といえど変わらない。いや、彼女たちだからこそ余計に囚われるのだろう。
(本当に馬鹿みたいだったな……勇者なんて辛くて……苦しくて……良いことなんて何もないのに……こんな必死になって……)
勇者として戦うことになった四年ほどの時間。神の力を手にしようとした身勝手な大人たちのエゴのために生きてきた世界を突然訳の分からない化け物に壊されて、死ぬかもしれない恐怖や自分が自分でなくなるような恐怖に遭って、大社の人間や心無い人々に理不尽な要求や
(ぐんちゃん……ラグナ……若葉ちゃん……ヒナちゃん……タマちゃん……アンちゃん……歌野ちゃん……水都ちゃん……レイチェルちゃん……せっちゃん……棗さん……何で私、こんな痛い思いをしてまで……勇者として戦ってきたのかな……分からなくなってきちゃったよ……)
このまま諦めてしまおう。いっそ楽になろう。視界が薄れていくにつれて、友奈の意識は暗い闇の中へと落ちていき、やがて目を閉じようとした。
「……まだ……だッ!!!」
その直前に、友奈の眼は微かな蒼い光を感じ取った。光の方へ顔を起こすと目の前にはいつもよりも数段ボロボロになった赤コートを羽織り、刀身がひび割れた大剣を根に突き刺しながらも、瞳にメラメラと衰えることのない紅と碧の炎を迸らせるラグナがいた。
(ラグ……ナ……?)
何してるの? 疑問を覚える彼女だが、すぐにタケミカヅチの姿が目に入る。巨人もラグナを見ているのか、レーザーの発射口を彼に向けていた。
(逃げて……早く……!!!)
枯れ果てた声でその背中に逃げるように呼びかけるが、その声が届いていないのか、彼は横へ退くどころか振り向きもしない。その事実に友奈は泣きそうになった。
(嫌だよ……また友達が死ぬようなことになるなんて……そんなの嫌だよ!!!)
男の背中を見て友奈の頭にこれまで何度も死にかけるような目に遭ってきた彼の姿がフラッシュバックする。特にスコーピオンとの戦いで貫かれて倒れた彼はトラウマものだった。あの光景はほかの勇者たち同様、友奈に少なからず死の恐怖を改めて実感させるものだった。
だがそれ以上にあの時は大事な友達と友達と過ごす日常を失ってしまう恐怖の方が上回った。だからあの時、皆を守るために初めて酒呑童子を使った。
あの時は力を振るうこともできたし、彼も結果的に生きていた。しかし、今回はどうだ。否、そんな奇跡は起こらない。またあの光景を
(お願いだから……逃げて……!!!!)
そう懇願する友奈に対してラグナは敵である巨人を睨みつける。気づけば目の前には若葉を掴んだままの巨人がいて、後ろには神樹とボロボロの友奈がいた。他の仲間たちも見当たらない。
しかし、彼はまだ諦めていなかった。諦めるわけには、いかなかった。ここで敗北することはただ若葉たち、
そもそもがおかしい話なのだ。確かにマスターユニットの力を求めた人々は裁かれても反論することは出来ないだろう。人間の醜さを見て人に嫌気を差したと言われたら理解できなくもない。それはこの時代に来てラグナも実感した。
しかし、それはこの世界で生きている者たちを全て滅ぼす理由にはならない。未来を一方的に奪う理由にはならない。
しかし、それ以上に。何よりも。
「俺の大事なモンを……勝手にぶっ壊そうとしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! このデカブツ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
彼は自分の大事なものを奪われることが大嫌いだ。自分の大切なものが理不尽に壊されることが我慢できないのだ。それをやろうとする者は誰だろうと、仮に神だったとしても赦したりはしない。例え世界が違っていようと、時代が違っていようとそれは変わらない。
だから何度でも『世界』に反逆する。何度もバーテックスにその牙を向ける。収まることを知らない怒りが彼を奮い立たせる。
「おおおぉぉぉぉぉ!!!」
正面からタケミカヅチと対峙したラグナは右腕を構えて力を集中させる。全身に纏う黒い瘴気は一層に燃え盛り、紅く輝く右目から何本もの紅い筋が右腕へと伝うように浮かび上がる。やがて全身から瘴気を解き放ってあたりの炎を吹き飛ばすと同時に方陣が彼の後ろから顕現する。
「方陣
怒号と共にラグナはアンリミテッド状態初のオーバードライブを発動させる。その光は巨人の眼に留まる。一年前、両者は諏訪で一度戦った。その時はラグナの敗北で終わったが、今回のモノは以前よりも数段強い力を感じる。砲撃さえ成功すれば勝てるだろうが、自分が倒される可能性も十分ある。
身体を覆う瘴気がより濃くなったラグナは巨人の方へ突進する。巨人も迎撃するために旋刃盤を投げつけてきた。それをラグナが叩き伏せると、紅く光る大剣を振り抜いて旋刃盤を瘴気の波に乗せて弾き返した。
「カーネー
しかし、巨人もラグナに返された旋刃盤を裏拳で弾き落として樹海に向かって鉄拳を打ち込む。この敵でも侵蝕が進むからなのか、灰白色になっていく根はいとも簡単に粉砕され、球子と同様に身動きが制限される空中へとラグナを打ち上げようとする。
「うお
黒き獣の咆哮を思い起こさせるエコーの入った声で絶叫するラグナは根から跳ぶや、すぐに武器を大剣から大鎌に変形させ、紅の刃を展開する。神樹やタケミカヅチの力を取り込んでどんどん膨れ上がる大鎌の刃はこれまでとは比べ物にならない、凶悪な獣の牙となって巨人を襲う。
「
獣が叩き込む最大火力の攻撃から巨人は若葉を掴んだ手で振り払おうとする。紅黒い閃光が樹海を走り、爆風は神樹を大きく揺らして両者を吹き飛ばす。巨人がを振るった自分の手に視線を移す。肩より下が完全に切断されていて、欠けた腕は樹海に転がっていた。
「
「グルオォォォォォォアァァァァ!!!!」
後方へ転がるラグナは大鎌を大剣に戻してその刃を根に突き刺す。吹き飛ばされた勢いがまだ残っている身体を彼は強引に止めて起き上がらせ、再び巨人に突撃して反撃に出る。その進路を鉄拳と衝撃波と火球で妨害しながら着々とエネルギーを貯めていくタケミカヅチ。両者はおおよそ人間では出せないような声量の絶叫を上げながら刃と拳を交え続けていた。
その様子に顔を起こした勇者たち、特に後ろで二者の戦いを見ている友奈は圧倒されていた。何度も敵へと向かうラグナの背中。その姿は傷だらけで今にも消し飛んでしまいそうだったけど、同時に決して消えない強さに満ち溢れていた。
あの時、彼の叫びが友奈の耳に響いて仕方なかった。蒼い火花を振り撒きながら立つ背中が眼に深く焼き付いた。まるで彼自身の魂の炎みたいに美しく、圧倒的な敵を前にして絶望の闇に落ちそうになった自分の心を篝火のように引き戻した。
「そうだね……そうだったね、ラグナ……」
友奈が小さくそう零すと、再び巨人に弾かれたラグナは息を上げながら大剣を握る姿が見えた。彼の周りの瘴気がさっきよりも弱まっていた。オーバードライブが時間切れになったようだ。
「チッ……クソがッ!!」
それを好機と踏んだ巨人は早速チャージし終えたエネルギーを解放しようと砲口を彼とその後ろに神樹へと向ける。その光景を見て、友奈の頭に再びあの疑問が過ぎる。
何故戦うのか
「そんなの……『勇者』だからだよ!!! 理由なんて、それで十分だ!!!!!」
大好きな人たちがいて、その人たちが生きている世界があって、そんな世界で過ごす日常が誰よりも好きで愛しい。十四年しか生きていない自分だが、その時間の中で出会った人たちは友奈にとってかけがえのないものだった。
だから、それを守るために戦う。二度と壊されないように拳を振るう。打ちのめされても、倒されても立ち上がり続ける。何度も、何度も。
声を上げて自身に発破をかけると友奈は再び傷だらけの身体に力を加えて起き上がる。体中が痛くてしょうがないし、意識もはっきりしないけど、さっきに比べたらまだ動ける。
フラフラしながら立ち上がると彼女は敵を見据える。巨人は今にも神樹を破壊しようと攻撃を放つ寸前だった。ラグナもオーバードライブを発動する構えに入っているが、彼はもう長い戦いのせいで消耗している。一人で巨人の攻撃を止めたらそれこそ死ぬだろう。
「でも『二人』なら!!!!」
友奈は残されている左の手甲を見る。少しひびが入っているが、全力の攻撃を放てば一瞬で砕け散るだろう。それでも、敵は倒して皆を守れる可能性がある。友奈はそう信じることにした。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
巨人がレーザーを放つ直前、友奈もラグナのいる方へ跳躍する。突然の彼女の登場に彼も驚いたが、友奈は彼の横を通り過ぎると力強い眼差しで彼を見る。
「ラグナ、一緒にやろう!!!!」
「……遅れんじゃねぇぞ!!!!」
二人が揃った瞬間、巨人は口から渾身のレーザーを撃つ。対してラグナは再びオーバードライブを発動させて腕が巨大な獣の腕に変化させる。その周りを無数の牙を生やした黒き獣の姿をした瘴気が出現する。友奈も左の拳を握りしめ、最後の力を振り絞ってパンチを撃った。
「闇に喰
「勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁパぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁンチッ!!!!!!!」
パンチを放つと同時に友奈の背後から桜の紋章が描かれた方陣が展開された。彼女が前の戦いで偶然会得した、あの特殊な切り札だ。初めてそれを見たラグナはそれに驚愕しているようだったが、すぐに目の前の敵に意識を向ける。
前にレイチェルからドライブとは魂の力の具現だと話した。勇者の精霊の適性の違いのようにそれぞれの所有者特有のものだ。
そして隣のラグナのオーバードライブを見て、友奈は考える。あの時の切り札もそれに近いものではなかったのだろうかと。答え合わせ無しのぶっつけ本番だったが、どうやら上手くいったようだ。
初めて発動したあのときも、友奈は絶対に味方を守るという『強い意志』を持っていた。恐らくそれが発動条件。だからさっきまでの友奈では発動できなかっただろう。
しかし、今の彼女はそうではない。絶対にやってのけるという意志があった。故にこうして立っている。
『おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』
巨人と壮絶な撃ち合いを展開する二人の足元はひび割れ、二人とも押し潰されそうになる。それに気づいたのか、仲間たちも二人の方へ向かおうとする。決着を早めにつけたかった巨人は更に力を込めて二人を力で押し潰そうとする。
「負
「皆を……守るんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
それでも二人は諦めない。限界を超えた力で巨人の攻撃を押しとどめる。やがて両者の攻撃のぶつかり合いは巨大な火球を生じさせ、耐えきれずに爆発した。樹海は爆炎と閃光に包まれ、爆風は神樹を大きく揺らしながら全てを吹き飛ばしていった。
「やった……の……?」
巨人とラグナたちの激突から少し経って、最初に意識を取り戻したのは千景だった。気づけば樹海の至る所で火の粉が燃え移ったように小さな火がそこら中から立っていた。辺りを一度見渡してみる。黒い巨人は倒れ伏しており、他の仲間たちもまだ気が付いていないようだ。
「そうだ……高嶋さんとあの人はどこに……」
二人の安否が気がかりな千景は神樹付近の方へ向く。凄まじい激突を繰り広げられていたそこでは樹海の表面を深く抉り取ったような巨大な穴が出来ていた。対して神樹には傷一つついていなかった。あの攻撃を二人で防ぎ切ったのだ。
とにかく探さないと。そんなことを考えていると
「グオオォォォォォォォォォ!!!!!」
聞きたくなかった悍ましい雄叫びが聞こえてきた。千景の顔は一気に強張る。嘘であってほしいと願いながらも声の方へ顔を向けるとそこには片腕を切り落とされ、下顎の半分を吹き飛び、胸に付いているコアの一部が欠けながらもしぶとく生き残っている巨人がいた。あの爆発で自分もかなりのダメージを受けてしまったが、それでもまだ、殺すには至らなかったようだ。
「そんな……アレだけやって……まだ立ち上がれるなんて……!!!」
タケミカヅチがまだ戦えるのに、二人の姿がない。仲間も立ち上がれそうになく、自分も満身創痍。受け入れがたい現実に打ちのめされて悲鳴を漏らす千景を嘲笑うように巨人は勝利の雄叫びをあげる。
足に力を入れて立ち上がるが、それでも千景は戦闘続行なんてとてもできる状態ではない。玉藻前を憑依させているが、身体中の傷の治りが格段に遅くなってきた。彼女自身の体力も限界に近くなってきたからだ。
「……貴方だけは……ここで殺す!!」
それでも死を振りまく巨人に抱く恐怖を飲み込んで千景は巨人を睨み、神樹、そして友達と生きてきた世界を守ろうと武器を手に取る。
タケミカヅチは独りとなった少女を見つけるや開幕早々、彼女に向かって再度流星群を撃つ。巨大な火球の雨が千景の周囲を火の海に変える。
「ッあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
身体中の筋肉が悲鳴を上げる中、千景はありったけの力を足に込めて炎から飛び出る。あちこちに燃え移った火が千景の肌と髪を焦がしていく。
「こんなの……あの頃に比べれば……!!!!」
子供の頃は故意で足に火傷を負わされたことがあった。あの時は独りで、力もなくて、どうしようもなくて、そのせいで千景はいつも心の中で泣いていた。今の状況もあの時と同じだ。一つだけ違うとすれば、千景には生きるのを諦められない理由が出来たことだ。
最初の友達にして親友である友奈をはじめに、若葉たち勇者やひなたたち巫女、新しい家族であり、友人のレイチェル。そしていつも自分たちの前に立って守ってきたラグナ。千景は彼らとの繋がりを失いたくはなかった。
それにまだ死んだと決まったわけじゃない。二人はきっと生きているはず。そう約束してくれたんだから。だから二人を見つけるまでは死ねない。
「天界ノ毒炉鎌ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
猛スピードで巨人の弱点である胸のコアへ千景は突撃する。ラグナに負け劣らない、禍々しいオーラを大鎌の刃に纏わせて巨人に切りかかる。
だが巨人は千景が火から飛び出ると同時に大顎を樹海に付けて、地面を思いっきり掬い上げる。瓦礫と木片を含んだ巨大な砂の壁が千景の動きを完全に差し押さえ、攻撃が中断されてしまった。
そこへ巨人の腕が砂嵐の中に入ってそれを薙ぎ払う。巻き込まれた千景はあっけなく吹き飛ばされ、樹海に叩きつけられるのだった。
「がッ……あぁッ……!!!」
数カ所を強く打った千景は激痛で悶える。確実にどこかが折れただろう。足がピクピク痙攣して額から脂汗が出て、もう立ち上がることは不可能だった。
起き上がってこない自分に興味を失せたのか、巨人はそのまま神樹へ向かって直進した。千景はそれを見つめるしかなかった。それが悔しくて仕方がない。
「なんで……何で立てないの!? 高嶋さんとあの人が……あんなに頑張って守ったのに……どうして!!!」
お願いだから誰かアレを止めてくれ。目から涙を零しながら巨人の方へ手を伸ばす千景の願いに反して、巨人は神樹にたどり着き、その拳を振り下ろそうとしていた。
タケミカヅチ=サン、大暴れ。これ勝っても四国大丈夫かな?我ながら不安に思う。
さて次回からは遂にタケミカヅチと決着!! 勇者たちは果たして勝てるのか? たかしーとラグナはどうなったのか? それでは皆さん次回でお会いしましょう。皆さんの感想や評価をお待ちしております。それではまた。