最初にぐんちゃん、しずくちゃん、シズクちゃん、ジン=キサラギ、誕生月おめでとう!! しずシズたちは勿論、ぐんちゃんも花本ちゃんがゲーム本編に参戦するようになって周りが益々賑やかになりそうですね。真鈴ちゃんのことも当然忘れちゃいないぜ。
そしてブレイブルーから新たなゲームが登場しますね!! その名もブレイブルー・オルタナティブ・ダークウォー!! まさかのFG〇式ですが、新たな蒼の物語が楽しみですね!
さて今回のお話ですが、以前にあったギャルゲー回の後編です。意見を下さった方々、本当にありがとうございます。出来る限り参考にしたつもりですが、楽しんでいただけるなら幸いです。
初めに言いますが、3万文字越えと滅茶苦茶長いです。ネタとかいろいろ詰め込んだらこうなりました。シリアスの筆休めのつもりがどうしてこうなった……
それでは圧倒的カオス回をどうぞ。
「それじゃあゲーム再開だよ~」
「おー!」
「おー」
ここはラグナたちが神樹の中の世界に来てから暮らすようになった勇者たち用の宿舎。ラグナは園子たちと一緒に自分の寮室でゲームを再開しようとしていた。ゲーム画面を起動させるラグナは小さくぼやいた。
「とうとう俺もこのイカれたゲームをやるのか……」
イカれたゲームとは園子と九重が作った、勇者部のメンバーを攻略するギャルゲー。昨日はナオトと神楽がプレイしたのだが、結果は惨憺たるもので、とても自分ではクリアできるとは感じられなかった。そんな彼に園子が励ました。
「ラッくんならきっと大丈夫だよ~! 何だかんだ言ってこの中だと勇者のことを一番よく知ってるのってラッくんだし~」
「そいつは買い被りだと思うけどな……ま、やれるとこまでやるさ」
「そういやラグナは誰を攻略するんだ?」
神楽が根幹となる質問を言うと、ラグナは頭をクシャリと搔きながら気怠そうに返事した。
「……遊んでるうちに決めるよ。今まで通りにプレイしても上手く行くとは思えねぇからな」
「先ずはクリアを目指して、ってことか。その考え、嫌いじゃないぜ」
「じゃあそれではゲームの世界へレッツゴ~!」
園子がそう言うと同時にラグナはゲームを開始した。序盤の方は相変わらず他の二人と同じ展開で特に変わったことは起こらない。同じように友奈と東郷と出会い、同じように風から勇者部についての説明を受け、同じように部活に勤しみながら好感度を稼いでいた。違いはといえば
「結構散策もしてるよな」
「こういう寄り道すんのも学生の特権だろ?」
ラグナは部活への参加以外にも、街中を積極的に散策していたことである。河原や映画館、カラオケ屋といったこの類のゲームには定番のエリアだけでなく、かめやや丸亀城のように実際に存在する場所も揃っていた。
元の世界では色んな場所を歩き回っていたラグナにとってそういった場所を見て回ることが面白かったようで、彼は女子の攻略そっちのけで色んなエリアへ足を運んでいた。
「お、ラッキー。いいアイテムを手に入れたぜ」
「何々? 何が手に入ったんだ?」
公園で散策していた所で何かを手に入れたラグナ。気になった神楽たちも画面に顔を覗かせるとログにはこう表示されていた。
〈《綾月ラグナ》は《ダンボール》を手に入れた〉
『ゴミを拾っただけじゃねぇか!!!』
「馬鹿野郎!! ダンボール先輩を舐めんじゃねぇ!! ダンボール先輩はなぁ!! いざの時に即席の武器にも盾にも家にもなる万能素材なんだよ!!! それに拾えるってことは何かの時に役に立つかもしれねぇってことだろ!?」
「ねぇ大丈夫なのコイツ!? こんな貧乏くさい野郎に女の子が口説けんの!? 俺心配になってきたよ!?」
「まぁまぁ、このゲームを今遊んでるのはラッくんなんだからラッくんの好きにやらせてみようよ~」
ラグナのプレイに不安を感じ始めるナオトたちだったが、二人とも園子に諭されて大人しくなった。確かに今プレイしているのはラグナなのだから外野がとやかく文句を言うのはマナー違反だ。
「つーか、『
「こっちにしねぇと、呼び慣れてねぇ名前で延々と呼ばれそうだからな」
そんなこともありながらラグナは自由気ままにプレイを続けていく。適当に選んだ依頼を解決しながら色んなところに寄り道をしていく。その結果、学校では見れないイベントに多く遭遇することが出来た。
「今度はゲーセンに行ってみるか」
「アンタフラフラ歩き回りすぎだろ……好感度の方はどうなってんだ?」
「こんな感じだな……色んな奴に付いちゃあいるが、この程度なら友達くらいなモンだろ」
ラグナが開いた好感度の確認画面では勇者部の殆どの部員に好感度ゲージが付いていた。といっても殆ど始まったばかりということもあって、勇者たちの好感度はそれほど高くなかった。ゲージの数も一つか二つしか解放されていない者も多い。精々部活の仲間か友達としか認識されていないということだ。
「ゲームでも現実でも、ラッくんはあんまり変わらないね~」
「けど、こんな調子で無事にクリアなんかできるかぁ?」
「まだルート固定とやらまで一年以上あるんだろ? だったら気長にやってれば問題ねぇよ」
ラグナがそう言っている内に、画面はゲームセンターの中を映していた。そこで一人、パニックもののガンシューティングゲームに興じている少女がいた。黙々とハイスコアを伸ばしていく彼女は中学2年生。ゲーム内のラグナの先輩だ。
「あ、ちーちゃんだ~」
「アイツらしいといえばアイツらしいな。ところでユーナの奴は? こっちと同じで学校だと殆ど一緒にいただろ?」
「たかしーと一緒にここへ来るのは一年生のクリスマス以降なんだよ~」
「へぇ……」
園子の解説を聞いているうちに千景は最後のエネミーを打ち抜いてゲーム終了。彼女が叩き出したハイスコアは1stと書かれた欄に表示された。つまりこのゲームセンターで最高のハイスコアを千景が出したということだ。
〈名前の欄はC.Shadow……っと〉
「おお、カッコいいハンドルネームだな」
「現実でも使ってるっぽいぞ、このネーム」
「え、マジで?」
「前にゲームしてた時、アイツに聞いたんだ」
〈さて。もう遅いし、今日はこの辺にしようかしら……あ〉
ゲームを終えて帰ろうとすると千景は後ろで自分を見ていたラグナに気づいた。この千景はまだそれほど周りに心を開いていないのか、同じ部に所属しているにも拘わらず、明らかに彼を警戒している様子だった。
「うわぁ……ファーストエンカウントの第一印象、最悪っぽいぞ~……」
「そりゃあ至福の時間を過ごしているところへ部外者が乗り込んできたらね~」
「いきなりそう言われても困るぞ。俺だってここに来るのは初めてなんだ」
「でもあっちは待ってくれないみたいだぜ?」
〈……ここで何をしているの?〉
【何って、ゲームしに来たんだよ】←
【アンタの弱みを探してたのさ】
【先輩とお話がしたくて】
険しい顔の千景が質問すると同時に選択肢が出現した。ラグナは迷うことなくゲームをしに来たと選択する。しかし、千景はその返事をまだ信じられないのか、怪訝な目を向け続けていた。
〈……それなら良いけど〉
〈《郡千景》の《どうしてここに後輩が……何か変なことを企んでいないと良いけど……》ゲージが高まった〉
「ンな訳ねぇだろ。〈ゲーセンに来るのにゲームする以外何があんだよ〉」
「お前が言うんかい、そのセリフ」
「おお~。ラッくんノリノリだね~」
思わず口から出た突っ込みが画面内の自分の発言と被ったことで、図らずもラグナのボイスが疑似的に吹き込まれていた。
「何だったら台詞を全部読んでも良いんだよ~?」
「騒がしくなるだけだから断る」
「は~い」
モデルの本人が直接声を吹き込むのが嬉しかった園子はダメ元でラグナに音読を頼んでみたが、流石に騒がしくなるという理由でラグナはその案を却下した。その間、ゲーム内のラグナは千景に話しかけていた。
〈それ、やって良いか?〉
〈……良いわよ〉
〈ありがとな〉
ゲーム内のラグナは千景からベルヴェルクに似たコントローラを受け取ると画面は一度暗転した。次に表示されたのは十字が刻まれた透明な円と背景と思われる下水道だった。
どうやらここではミニゲームとしてプレイヤーは実際にハイスコアを出す必要があるようだ。操作はキーボードの十字キーとスペースキーを使った簡易なものだった。ルールを一通り読み込むと、ラグナはゲーム開始のためにスペースキーを押した。
「頑張ってね~ラッくん! ここで出した得点次第でちーちゃんの好感度も上がるかもだよ~?」
「よし! それじゃあ早速チカゲよりデケェハイスコアを出して」
〈あ お 蒼ァ ァッ!!!〉
「なんかアラクネがいっぱい出てきたぁぁぁぁッ!?」
なんと出てきたエネミーは一般的なゾンビではなく、ラグナが元の世界で遭遇した『アラクネ』だった。かつて見たものと同じように身体から昆虫の足や骨だけの腕をラグナへ伸ばし、プレイヤーを飲み込もうとしてきた。
しかもそれが一体だけではない。序盤から三体同時に襲い掛かってきたのである。まさかの初見殺しにラグナも苦戦する。
「うぐっ、この、このやろっ!」
「取り合えず何とかやってんな」
「それでも何回かミス食らってるけどな。あ、また噛まれた」
「おいぃぃぃぃぃぃ!!! どうなってんだ、このゲーム!? さっきから倒しても倒してもこいつら減るどころ増えてく一方だぞ!!? つーかなんか変なのもいるし!!?」
偶に顔が綺麗な作画になっている個体やゴールド、シルバーといった異なる体色を持った個体が出現する。これらの個体は基本的にプレイヤーから逃げていき、倒されると高得点になるのだ。
ただ通常個体を倒すだけでも手一杯のラグナではそもそもレア個体に構う余裕がなく、最後にはアラクネの大群に押し潰されてHPが尽きてしまった。
「結局最初のステージすらクリアできなかったな」
「うるせぇよ。そんなに言うならテメェらもやってみろ」
「あれ? でも郡が何か話しかけてきてるぞ?」
『え?』
ナオトの言う通り、千景の声と一緒に彼女の言葉がテキストボックスに表示された。
〈まだまだね……〉
〈ははは……もうちょっと行けると思ったけどな。アンタはミスとかしなかったのか?〉
〈こんなの、ノーダメでクリアできるわよ〉
〈そうなのか? スゲーな。俺なんて敵を倒すだけでもやっとだったよ〉
「いやホント、よくあのトンデモ難易度であんなべらぼうなハイスコアが取れたな、ここのチカゲ。どう考えてもあのゲームバランスはおかしいだろ」
実際にプレイしたラグナだからこそ、このゲームでハイスコアを取ることが難しいことがよく分かる。多分初見殺し的な要素もかなりあるのだろうが、それを含めても敵のポップ率が異常すぎた。恐らく本物の千景でも手古摺るのではないだろうかと考えたほどだ。
〈……あの敵、顔面を撃てば一発で倒せるわよ〉
「〈それを先に言ってくれよ!!〉」
〈経験者だと思ったから……〉
〈初見プレイだったんだよ……〉
画面内のラグナがガックリと項垂れたせいか、画面が少し上下に動いた。彼の様子を見たせいか、千景が心配そうに彼に話しかけてきた。
〈……上達したいなら……コツ、教えてあげても良いわよ?〉
「おおっ? ここでまさかの先輩からのご指導イベントフラグが建ったぞ?」
「やったな、アンタ! コイツはチャンスだぞ!」
意外にも低スコアが好感度向上のフラグになっていたことに驚いたナオトはラグナに教えを乞うようにアドバイスする。しかし、意外にも当のラグナは断る選択肢を選んだ。
〈いや。せっかくで悪いけど俺、先ずは自分で練習してみるわ。それでも出来なかったらアンタに聞くよ〉
〈……分かったわ〉
〈ありがとな〉
「え~ッ!? もったいねぇよ。せっかく好感度を稼げるチャンスだったのに」
「さっきは分からなかったからクリアできなかっただけだからな。やり方さえ解ればクリアできる!」
「そんなに上手く行くかねぇ……」
そう言ってラグナは再びミニゲームに挑戦する。流石に敵の倒し方が分かっているだけあって、初見でプレイした時よりもスコアを伸ばすことが出来た。
しかし、最初の3ステージをクリアすることが出来てもそれ以降のステージはかなり難しく、どうしてもクリアすることができずにいた。
「だぁぁぁぁッ!? また死んだ!!」
「まだミニゲームやってるぞ……」
気づけばラグナは10回も同じミニゲームをプレイしていた。元々の負けず嫌いな性分が悪い方向に作用してしまい、すっかり没頭してしまっていた。これには流石にナオトも一言言いたくなってしまった。
「なぁ、アンタ。もうそろそろ本編を進めようぜ」
「……それもそうだな。次にやるのは暇が出来てからでも良いか」
クリアできないまま去るのは名残惜しいが、ここで時間を割いても仕方ないのも事実。次にリベンジすることを誓うラグナはミニゲームを終了させる選択肢をクリックした。すると、メニューの消えた画面の中でコントローラを持った千景の立ち絵が表示されていた。真剣な眼差しでゲーム画面を見つめたまま、千景はラグナに話しかけた。
〈どうしたんだ?〉
〈……あと一回、付き合うだけの時間ある?〉
〈まぁ、一応は〉
〈だったら協力プレイをしながら遊び方を教えてあげるわ。早くコントローラを構えて〉
〈どうしてそんなこと……〉
先ほど警戒されていた先輩が自分にゲームのやり方を教えてくれることに疑問に感じたラグナは千景に訳を聞くと、彼女は少し恥ずかしそうに顔を俯きながら言った。
〈……見ていられないから。私だって早くやりたいし〉
〈……ありがとうございます、先輩〉
〈良いわよ、別に〉
照れくさそうに千景がそう言うと、ミニゲームの画面が表示される。ここからは千景のアシスト付きでミニゲームをクリアする必要があるようだ。画面の端で次のログが表示された。
〈《郡千景》の《何だか放って置けなかったからつい話しかけたんだけど、迷惑に思ってないみたいで良かった……それにしても話しかけていなかったら、出来るまで自力でやるつもりだったのかしら? 何だか危なっかしい後輩ね》ゲージが高まった〉
「ゲージがもう一個開放されたぞ!!」
「すげぇじゃねぇか、ラグナ!! やっぱり現実でも仲が良いとこういうこともできるんだな!」
「いや、俺は別にそんなこと考えてなかったんだけど……」
千景が心を許した人間に対して優しいのはラグナも知っていたが、まさかここでゲージが開放されるとは思っていなかった。
(でも、チカゲにこうして後輩扱いされるのはちょっと新鮮だな……)
ゲーム内の千景と一緒にミニゲームのステージをサクサククリアしていきながらラグナは感慨深く思う。
この世界でのラグナはまだ2年生なので本来は千景や風の後輩だ。しかし、元の精神年齢と学校を一年ダブっていることもあって、勇者たちからはどうしても同年代か年上のお兄さんと話す感覚で接される。特に西暦組は未来の成長した自分と日頃会っていた分、その傾向が強いようだった。
それについては特に気にしていないが、同時にそのおかげでこういう千景の態度にラグナは少し新鮮味を感じた。
気づけば二人は最終ステージも難なくクリアしていた。流石現実の千景を模しただけあって、ゲームの彼女はノーミスである。ミニゲームを終了したラグナは彼女に礼を言った。
〈ありがとな。おかげでこのゲームのやり方が大分分かった気がするぜ〉
〈良いわよ。私も協力プレイするのは初めてだったけど楽しかったわ〉
どうやらあちら側も満足したようだ。千景の立ち絵は後ろ向きになる。彼女の背中に向かって、ゲーム内のラグナは呼びかけた。
〈待ってくれ!〉
〈何かしら?〉
〈アンタの名前は何なんだ? 勇者部で何度か見たことあるけど、名前までは知らなくて〉
〈……郡千景よ。タメ口は別に構わないけど、一応貴方の先輩だからアンタと呼ぶのは止めておきなさい〉
〈分かった。俺は綾月ラグナだ。これからよろしくな、千景〉
〈ええ、よろしく〉
〈《郡千景》の《誰かと協力プレイをするのは初めてだったけど、結構楽しかったわね。次に会ったら今度は私から誘おうかしら》ゲージが高まった〉
「いやぁ、こういう形の出逢いって良いもんですな~、園子嬢」
「やっぱり分かる~ムッキー? 君とは良い紅茶が飲めそうだよ~」
「テメェらが楽しそうで良かったよ……」
お互いの名前を知ると千景は画面から消えた。同じようにラグナも帰宅し、この日の彼の行動は終了した。その後もラグナは依頼と散策を繰り返して自由気ままにプレイした。そのおかげで色んな人物と交流することが出来るようになった。
〈ラグナさん。突然の頼みを聞いて下さってありがとうございます〉
〈気にするなよ。困ったときはお互い様だ〉
〈いえいえ、ラグナさんのおかげで助かりました。今日は若葉ちゃんも助っ人で忙しい様子でしたから一緒に買い物へ行けなくて〉
放課後イベントで遭遇したひなたと一緒に家へ帰っている場面。今日は食事のために買い物に行かなければならなかったひなただったが、一緒に行く予定だった若葉が急用で来れなくなってしまったそうだ。そこへ丁度ラグナが来たので、暇のついでに手伝ったのだ。ラグナが選択肢をクリックして先を進める。
〈そうかい。つーかお前、【いつも若葉たちの飯作ってんのか?】〉
〈夜は時々一緒に外食することはありますが、それ以外は殆どそうですね〉
〈そうなのか。俺も夜は作るけど、朝は起きられねぇから学校がある日は適当なモンをコンビニで買って済ましてるよ〉
〈それでしたら、明日お礼も兼ねて私がお弁当を作りましょうか? 身体を崩してしまっては沙耶ちゃんも悲しむでしょうから〉
〈良いのか? 手間がかかるだろ?〉
〈問題ありませんよ。量を増やすだけですから〉
〈じゃあ、甘えようかな〉
〈《上里ひなた》の《少し多めに買って良かったですね。ラグナさんは男の子ですからきっと沢山食べるでしょうし。フフフ……これは作り甲斐がありますねぇ♪》ゲージが高まった〉
「今度は上里嬢からのお弁当イベントに突入とはな……落と
「誰だよ、落と死神って。そんな称号聞いたことねぇよ」
「ソウルイーターで女子のハートを鷲掴みだぜ~」
「ソウルイーターはそういうドライブじゃねぇ。つーかそもそもヒナタにソウルイーターは効かねぇ」
キャイキャイ騒ぐ後ろに突っ込みを入れている間、ナオトは別のことに着目していた。
「そういや、ゲームの中だと上里と沙耶は同じ時間軸にいるから必然的に接点が出来るんだな」
「そだよ~。ついでにひなタンルートだと一番の壁はサッちゃん~」
「ワカバ以上にサヤがヤバいのか……」
園子の用意しているシナリオでの沙耶の立ち位置を聞いて、自分の妹のイメージはどうなっているんだと苦笑いするラグナ。
しかし、帝モードに変身した沙耶のことを考えてしまうと強く否定することはできなかった。そうでなくても、刃のそれに比べれば大人しい方ではあるものの、普段の沙耶も中々のブラコンだから園子の付けた設定は全くの出鱈目ではないことが分かる。
「サヤが壁になる理由って多分ヒナタじゃなくて、俺だよな……多分……」
「多分っつーか絶対そのパターンだろ」
もしラグナがこのままひなたルートに進んだとしよう。当然何らかの形で沙耶が登場することは間違いない。
その時に自分が間違った選択肢を選んだら。それで沙耶がひなたを攻撃して、そこへ激昂した若葉、下手したら園子ズまでもが乱入してとんでもない修羅場に発展――。
そんなことを考えたら嫌な汗が背中を伝った。周りの男たちも同じことを考えていたのか、ゴクリと喉を鳴らしていた。
「昼ドラも真っ青のドロドロサスペンス愛憎劇……」
「全年齢対象って何だっけ……?」
「……取り合えず、ヒナタのルートは上級者向けすぎるから今回はパスだな」
そうしている間にあっという間に一年が過ぎていき、やがてゲームは二年生パートに突入。入学前から自分を知っている勇者部部員とも本格的に依頼を受けられるようになった。そしてその中には当然、この人物も含まれている。少し前に名前が挙がっていたラグナの妹、沙耶である。
〈今日は一緒にお昼ご飯ですね、兄さま!〉
〈ああ。にしても、沙耶と同じ学校にまた通えるなんて思わなかったぞ。元気になって本当に良かったな〉
〈えへへ……私もそう思います〉
ゲーム内のラグナは一年生になった沙耶と一緒に昼休みの屋上で食事を取ろうとしていた。恐らく、ひなたが作ってくれているのだろう。
〈そういえば今回は沙耶が弁当を用意してくれるんだよな? 何だか悪いな〉
〈はい、兄さま! 今朝ひなた義姉さまと一緒に作ったんです〉
『あ……』
誰かが声を漏らしたのか。それとも全員何かを察して同じタイミングで呟いたのか。ともかくその時点で男たちの顔が引きつった。沙耶によると、以前ひなたがラグナに弁当を作ってあげたことが羨ましかったようで、それで今回の行動に出たらしい。
しかし、問題はこれが沙耶の料理であること。それは誰もが認める、勇者部最凶の化学兵器。瞬間的な破壊力だけならば満開や切り札のそれをも凌駕する危険物である。
「ここで沙耶の弁当イベントを引いたかぁ……まぁ、食わないの一択だよな」
「変なペナルティを貰う予感しかしないんだけど、多分食べない方を選択すると悪い方の好感度が上がるよな……」
「待て!! まだ分からねぇだろ!? コイツはゲームだし、今度はあのヒナタも手伝っているんだぞ! 少しはマシなモンが出来てるはずだ!」
そういってラグナは画面を進める。意気揚々と沙耶が取り出したのは普通の弁当だった。中身が何故か濃い紫色の瘴気に包まれていたが、それ以外は至って普通の弁当だった。因みにこの弁当を見たラグナは顔を両手で覆っていた。
「まーた錬金術を使ってるよ、この娘……」
「いくらひなた嬢でもサポート出来る範囲に限界があるんだよな……」
〈さぁ、兄さま、どうぞ!〉
気づけばゲーム内の沙耶は愛しい兄に弁当を差し出していた。ここでラグナは悩む。確かにナオトの言う通り、ここで食べるという選択肢を取れば、間違いなくゲームのラグナは無事では済まない。
しかし、同時に考える。ゲームとはいえ、妹が作ったものを無下にして良いものだろうか。考えた結果、ラグナは無心で食べるの選択肢をクリックした。
「おい待て!」
神楽たちは止めようとしたが、時はすでに遅し。ゲーム内のラグナが意気揚々と暗黒物質を口に含めると、画面に虹色の液体が放射状に広がるエフェクトが出た。同時にログには哀れな死神の悲鳴と思われる文字化けした台詞が表示された。
〈hシアウhフハンフヴォ尾所dhvい銀冷えfd美々h%rbbリ$フィbry3gfビcナ#ゲ7r9ヘ0jヴィ温煦委アb9©@h8¥f♨!!!?〉
〈あぁッ、兄さましっかり!!?〉
〈《綾月ラグナ》は1ヶ月間入院した〉
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
『うん、知ってた』
「まぁ、そうなるよね~」
案の定、ゲームのラグナの腹は死んでしまった。ここまで来ると沙耶の料理がデスディナーなのは一種の確定事象だとしか言えない。
ただし、恩賞はゼロではなかった。強大な試練に挑んだことで、沙耶の好感度を上げることに成功した。
〈《上里沙耶》の《うぅ、兄さまにお弁当を食べてもらって喜んでもらうつもりだったのにまさかこんなことになるなんて……本当にごめんなさい。今度は術式の勉強もしてきっと美味しいものを作りますからね!》ゲージが高まった〉
「おーーーーーいサヤ!? 何で料理に術式の勉強が必要なんだ!!? 何を仕込むつもりだ!!?」
「りょ、料理用の術式があるんじゃねぇのか? 知らねぇけど」
何はともあれ、腹が散華したラグナは病院で暫く回復する必要が出来てしまった。その間は無駄に月日が過ぎ去っていく。当然この間は好感度の上がるイベントは発生しなかった。
「腹痛で1カ月ダウンって、下手したら本物より殺意が高いんじゃなかろうか」
「こういう風に選択肢の中にはペナルティになるものもあるんだよね~」
「それでも死ぬよりかはマシだけどな……妹の弁当で死亡エンドとか笑えねぇぜ……」
「誰も弁当で人が病院送りになることについて突っ込まない辺り、皆慣れてるんだなぁ……」
静かにそう指摘するナオトだった。そんなトラブルに遭いつつも、ラグナは順調にゲームを進めていった。そして、遂に運命の夏休み明け前日が来た。
「さあて、明日からいよいよラッくんのお相手が決まるよ~」
「やけに楽しそうだなおい」
「まぁね~。ラッくんの場合は誰のルートに入るのか予測できないから」
「それは言えてるよな。お前、初めてなのに殆ど爆弾が出てこなかった気がするぞ。出てきたのはジンジンと沙耶ちゃんくらいだろ」
「そりゃ基本的に街をブラブラして、顔を合わせなくなった部員と組む依頼を優先しながらプレイしてたからな。しつこく一人に掛かりっきりだと爆弾が付くんだろ、確か?」
「確かにそうだけどよ。普通そんなひょいひょい躱せるものなのかねぇ?」
「そうじゃないとジンジンとサッちゃんの面倒なんて見れないからね~」
園子の指摘に神楽とナオトが納得した後、ラグナの夏休み最後の日が終了した。画面は一度暗転する。しかし、次に表示された画面は翌日の表記ではなかった。
「あれ? 部員のアイコンが6個出てきたぞ?」
「お、珍しいこともあるね~。じゃあ好感度が同じくらいの娘が何人もいたんだ~」
「候補の三分の一は弟妹だけどな」
「何人も候補がいると誰かから選ぶことになるのか?」
「副題は『
「ちょっとだけ見てみたかったな、ハーレムルート……」
冗談半分でそんなことを言う神楽にラグナは苦笑いしながら答える。
「おいおい正気かよ、カグラ。こいつら相手にハーレムなんかやったら、それこそ命がいくつあっても足りねぇぞ」
「わっしーとかメブは特に許さなさそうだもんね~。やったら吊るされるじゃ済まないんじゃない~? こう、ムッキーを女の子にするとか~」
「男子からすれば極刑モンだな……」
「おいおい、外が寒いのにあんまり身体が冷え込むような話をしないでくれよ……」
勇者部の中でもトップクラスに怖い東郷と元の世界にいた頃、響に並んで自分を御することの出来る優秀な部下の芽吹。その二人が自分を女の子にする。その光景を想像したとき、内股になった神楽は寒気と共に男にしか分からないであろう恐怖を覚えた。話題を変えようと、彼はラグナに話しかける。
「そ、そんなことよりラグナ! お前の好感度表はどうなってんだ?」
「こんな感じ」
神楽たちに促されたラグナはメニュー画面を開ける。好感度の総合値は全体的に少し高めで、マイナス評価もあるかもしれないが、開放されているゲージの数は殆どどの勇者も同じくらいだった。強いて言うなら元の世界ではそれほど親睦のなかった防人組や72年組が他より少しばかり少ないくらいか。
「というか讃州組と小学生組は分かっていたけど、意外と西暦組の好感度も高かったんだな」
「まぁ、アイツらはかなり早い時期からこっちに来てるからな。そこそこの付き合いなんだよ」
「それでも結構多いよな。候補も2人は西暦組じゃねぇか?」
「俺は差別なんてしたつもりはねぇぞ」
ラグナはきっぱりとそう意思表示した。そんな彼のプレイの軌跡ともいえる好感度表を見ながら、園子は少し真剣な目になった。
「どうかしたのか、ソノコ?」
「ラッくん。この先の攻略はかなり気を付けないとダメかもだよ?」
「勘弁してくれよ……ただでさえこのゲームは死ぬ可能性があるのに、これよりヤバい何かが待ってるのか?」
「まぁね。ハッピーエンドはラッくんの腕次第なのだよ」
「腕次第、ねぇ……」
いきなり怖いことを言う園子だが、ラグナはこういう時の彼女が冗談を言わないことを知っている。伊達に付き合いが長いわけではない。
昨日のプレイを見ていて分かったが、このゲームはルートを固定するまでシナリオを進めるだけでも大変だ。それをこれからはヒロインを攻略するのに集中しなければならないので、難易度も上がるだろう。そういう意味でも園子の言葉は正しい。ラグナは少し困った顔をしながらも答えた。
「……何とかやってみるよ。ここまで来てクリアできないってのも嫌だしな」
「それでこそラッくんだよ~! さあ、誰を選ぶのかな~?」
「……」
ラグナはパソコンの画面と睨めっこする。候補の6人に限らず、勇者部の部員たちは多少可笑しな欠点こそあれど、皆魅力的な女性だ。その中から一人を選ぶのはかなり難しい。
後単純に誰かに見られながら選ぶことが恥ずかしい。ある女子を選んで「ラグナって、こういう娘が好みなんだ~」とか言われたら精神的に死ぬ。
取り合えず、自分は男や妹と恋愛する趣味はないので刃と沙耶は真っ先に候補から除外した。それでもまだ候補は4人残っていた。うんうんと熟考した末にラグナは攻略するヒロインを決めた。
「……よし、決めた。チカゲにしよう」
「おお~、ちーちゃんか~」
「良いのか? この中だとかなり難しい方なんだろ?」
「良いよ、別に。そもそもこの中に簡単な奴なんていねぇんだ」
ラグナは千景を選択。難しいのは理解しているが、元のゲームの難易度を考えたらどれも同じようなものにしか感じられなかった。だったら、と個人的にイベントが一番印象に残っていた彼女のルートを選ぶことにした。
若干の不安を抱えたまま、ゲームは次の日へ進行する。学校最初の放課後、ゲーム内のラグナは部室へ急ぐ。園子が言うには部室に入った時に最初に会った女子が固定ルートのヒロインになるようで、ラグナのようにヒロインを事前に選択できるケースは珍しいそうだ。
「よし、じゃあ行くぞ」
「ちーちゃんルートへレッツゴー!」
「そこを強調すんな!」
次へ進むためにラグナがマウスの左キーを押す。白一色の画面がいつもの部室の背景絵を表示させると、ラグナが攻略すべきヒロインが表示された。
〈あら。貴方、今日は来るのが早いのね〉
〈夏休み明け最初の部活だからな〉
〈でも良かったわ。丁度貴方に会いたかったから〉
〈俺に? 何で?〉
〈貴方に頼みたいことがあるの〉
千景の頼みとは料理を教えてもらうことである。今度の土曜に高嶋が初めて千景の部屋に泊まりに来るのだが、料理が出来ない彼女は誰かに教わることを決意したそうだ。その時に白羽の矢が立ったのはラグナだったらしい。
そこは風とかひなたじゃないのとか細かい突っ込みを言いそうになったが、ゲームだからと流すことにした。こうしないと主人公のいる意味がないのも現実だ。断る理由もないので、ラグナは承諾する選択肢をクリックした。
〈【良いぜ】、どこまで力になれるかは分からねぇけどな〉
〈ううん。知っている人がいるというだけでも頼もしいわ〉
〈けど意外だったな。千景って、結構色々なことが出来るイメージがあったからさ〉
ゲームのラグナがそう言うと、千景の目が陰に隠れる。そのせいで表情が読めないが、声音はどこか自虐的に聞こえた。
〈……そんなことはないわ。私は貴方が思うほどすごい人間じゃない。この程度じゃ、ダメなのよ……〉
【千景は十分すごい人間だ】
【そんなこと言ったら俺もかなりダメな奴だぞ?】
【出来るまで俺が付き合ってやるよ】
それはどこか必死な様子に見えた。出現した選択肢と千景の返答から、神楽たちは何やら考察し始めていた。
「ここでまさかのシリアス路線ですか」
「この調子じゃあバッドエンドもシリアス寄りだろうな」
「その通り~。こっから少しずつシリアスのギアが上がるよ~」
「さてラグナはどの選択肢を選ぶんだ?」
「いや、どれって言われてもな……」
書いてある選択肢はどれも意図は同じものだ。同じ結果が待っている可能性は高い。それでも言い回しが違うということは何等かの違いがあるのだろう。国防ルートじゃあるまいし。
色々と悩みながらもラグナは最後に一番上の選択肢をクリックした。
〈俺は【千景は十分すごい人間だ】と思うぜ〉
〈そんなこと……〉
〈あるんだよ。お前は自分を過小評価しすぎだ。お前が何でそこまで頑張るかは分からねぇが……お前が努力している姿を
実直にそう語るゲーム内のラグナ。それに対して千景は彼の方へ向く。
〈……貴方も?〉
どこか祈るように出てきた彼女の質問に対して選択肢が出現する。【当たり前だ】か【それはその……】の二つだった。当然、ラグナは前者を選んだ。
〈【当たり前だ】。今回もしっかりと、この『眼』で
〈あ、ありがとう……〉
〈《郡千景》の《いきなり声をあげて少し驚いたけど、多分私のことを心配してくれていたのよね……我ながら少し情けないけど、ちょっと嬉しかった》ゲージが高まった〉
顔を淡く紅潮させる千景の画像と一緒に好感度ゲージが表示された。可愛い表情の千景を見れて観客の三人は喜びのリアクションを示すが、プレイヤーのラグナは頭を押さえていた。
「……俺、なんかすげぇ恥ずかしくなってきた……」
「そ~? ラッくん、偶~にこういうことを言ってるよ~?」
「ンなわけねぇだろ!?」
ゲームの中で、しかも声が出ていないとは言え、ここまでカッコよさげな台詞を言っている自分を見ていると何だか背中がむず痒く感じるラグナだった。
「……まぁゲームのコイツも喜んでるみたいだから良いや。ミニゲームの借りもあるし、こっちも最後まで用事に付き合うよ」
「やっぱ何だかんだ言ってお前もお人好しだよな」
「だから頼りにされるんだよ~」
「うるせぇ、とっとと進めんぞ」
神楽と園子のコメントを一蹴して、ラグナはゲームの進行を再開する。料理の指導をするために千景の部屋を数日間通い、彼女に料理のいろはを教えた。その過程でどんどん千景の好感度が上がっていった。
〈どうしよう……塩を入れ過ぎてしまったわ〉
〈お、良い臭いがするじゃねぇか。一口食わせてくれよ〉
〈え、ちょっと〉
〈そうだな……ちょっと塩味が強い気がするけど前よりは良くなってるな。次はもう少し減らしてみてくれ〉
〈そ、そう。分かったわ〉
〈《郡千景》の《怒られるのかと思ったけど、すごく親身になって教えてくれる。これからは……もう少し頼りにしても、良いのよね……》ゲージが高まった〉
「ああ、構わねぇ!! 好きなだけ頼りにしてくれ!! 寧ろウェルカムだ!!」
「だから黙れっつってんだろ、カグラ!! 部屋の中だぞ!!」
「そんな!? ちーちゃんがラッくんを頼りにしちゃダメなの!?」
「……好きにしたら良いだろ、ったく……」
「本当、何だかんだ甘いよな、アンタ」
耳から火が出そうな気分だが、そんなことを言っていたらこのゲームはクリアできない。口の中が甘酸っぱくなるような錯覚に襲われながらもラグナはゲームを続行する。ゲーム内の二人の特訓から数日経ち、約束のXデー。千景の作ったうどんを一口食べた高嶋友奈が歓声を上げながら喜んだ。
因みにこの時、ラグナはまた街をブラブラと歩いていた。せっかく友達二人の時間を邪魔するのもどうかと思って今日は千景の家に行くを遠慮した。翌日になって千景から部室で御礼をしてきた。
〈昨日、高嶋さんがすごく喜んでくれたわ。ありがとう〉
〈気にすんな。俺も暇を持て余してたしな〉
〈……また、家に来ても良いわよ。もてなすから〉
〈じゃあそん時は前もって連絡するわ〉
〈分かったわ〉
〈《郡千景》の《今まで男の子を家に誘ったことなんて一度もないけど、その時はどうもてなせば良いのかしら……取り合えず、今度新しいゲームを買いに行こう》ゲージが高まった〉
「おおおお!! これで、まさかのお家デートイベントかぁ!!?」
「頼むから一回黙ってくれ、デケェ声で実況するな」
色々と黄色い声が飛び交う結果になったが、兎にも角にも、千景の友奈に御馳走を作る計画は成功した。
「この調子ならプラスモードになるのも時間の問題だな」
「十分イチャコラしてただろうが。アレでもまだ違うのか?」
「まだプラスモードになったってどこにも書いてないし、これからだろ。ま、この類のギャルゲーなら今のよりデレデレしてくるんじゃねぇか?」
「俺はもう胃もたれを起こしそうだよ……」
そんなことを言っていると、刃から爆弾が生じているのが見えた。
「あり? ジンジンに爆弾が?」
「爆弾の発生確率がここからナーフされるけど、付くときは付くからね~。気を付けないと~」
思えば千景に掛かりっきりだったから、嫉妬したのかもしれない。ラグナは一つため息を吐いた。
「仕方ねぇ奴だな……取り合えず、明日はジンと一日付き合うか。爆発オチは勘弁だしな」
爆破オチを回避するためにゲーム内のラグナはすぐに刃に連絡を取って明日の依頼を一緒にやろうと誘った。当然舞い上がった刃は二つ返事で承諾し、翌日に二人は同じ依頼を受けた。
その後もゲームを進めていったが、ラグナのプレイは相変わらず前半と変わらない内容だった。
「もっと積極的に千景ちゃんをデートとかに誘えよ、ラグナ!! このままじゃあプラスモードになれねぇぞ!!」
「そこまでしつこく誘う必要あるのか? 部活でも結構一緒の依頼を受けるようになったし、偶にゲーセンに行って一緒に協力プレイしたりもしてるぞ? チカゲだって自分の用事くらいあるから、俺がベタベタし過ぎても迷惑なだけだろ?」
「これゲームだから!! 何だったら365日お前がくっついてたってこの千景ちゃんは一切文句言わねぇから!!! 寧ろデレまくりだから!! 恋愛と家族愛を一緒にしてねぇか、テメェ!?」
「ンなことねぇよ。俺だってそれくらいの違いは分かるっつーの」
「そのくせ接してる態度が完全に沙耶ちゃんとかと一緒だろうが!!」
「あ、アハハハ~……」
神楽とラグナのやり取りを見て、園子は苦笑いせずにはいられなかった。確かに神楽の言う通り、ラグナの攻略スタイルはどちらかというと妹の沙耶や母親である芹佳に対するそれに近いものだった。
元々恋愛経験や知識が乏しいというのもあるが、そもそもラグナ自身は恋愛にあまり興味がない。大事なものは大切にするし、守ろうとするが、『そういったこと』を相手に求めたりはしない。少なくとも園子は彼が自分から『女性』を求めたという話を聞いたことがない。
そのせいなのか、彼は恋愛感情に対しては鈍感だ。前の世界では自分に対して好意を持った者たちがどいつもこいつもクセが強くて主張が激しい奴等ばかりだったことも拍車に掛けているのかもしれない。
「……これじゃあジンジンやサッちゃんが今後落ち着いても、ラッくんが将来恋愛で苦労するのは変わらないだろうな~」
「あ? 何か言ったか、ソノコ?」
「何でもな~い」
「そうか。それならよ、ちょっとこいつを見てくれないか?」
「どうかしたの~?」
「さっきからチカゲの様子が変なんだよ」
「え、どれどれ~?」
園子が画面を覗くとそこにはラグナに勉強を教えている千景が表示されていた。見たところ、立ち絵に変化はない。特におかしい点はなかった。
〈今日は受験勉強を手伝ってくれてありがとう〉
〈言っちゃあれだが、俺は後輩だから勉強の役には立たないと思うぞ〉
〈人に教えると、自分も身に付くのよ〉
〈そうなのか。知らなかったぜ〉
「普通に勉強してるだけみたいだけど~?」
「多分、この後だと思うんだ」
少ししてからラグナが帰る時間になった。玄関まで行くと画面内の千景は名残惜しそうにしながらもラグナに別れを告げた。
〈それじゃ、また明日部室で〉
〈おう。お休み〉
〈ええ……とても、楽しみにしているわ〉
「結構心を開いてきたね~。何だかんだ言って、結構デートとか行ってたんだ~」
「それがそうでもねぇんだよな」
「どゆこと~?」
「俺、確かにチカゲの家へ行くようになった。出来る限り同じ依頼を受けるようになった。けど後はいつもの通りにプレイしてるから好感度の上がりも割と緩やかなはずなんだよ」
「それなのに、ちーちゃんはこんなにデレデレなの~?」
「ああ。いくら好感度が上がったっつってもおかしいなと思ってよ」
「言われてみれば、積極的にデートに誘って好感度を荒稼ぎしてるわけじゃねぇのに、好感度がすげぇ高いよな」
「良いんじゃないのか? 思った以上に好感度が付いてたってだけだろ?」
「そうなのか……?」
男たちが悩んでいたため、園子が小さく「まさかね~」と声を漏らすのを聞き取ることが出来なかった。彼女はこのゲームのシナリオ担当だから千景のこの現象が何なのかに心当たりがあった。そしてもし予想した状態の通りに千景がなっているならば、ラグナはかなり厄介な状況に追い込まれていることになる。
「……取り合えず次の放課後イベントを見てから判断するよ~」
「え? 俺なんかやっちまったのか?」
「それを確かめるためにもゲームを進めてみてよ~」
「お、おう……」
若干焦っている園子を不審に思いながらもラグナは次の日へ進む。その時の放課後、校門の前で自分に話しかけてきたのは若葉だった。
〈済まないラグナ。今日はまだ時間は残っているか?〉
〈何か困ってるのか?〉
〈ああ。今度の剣道の全国大会で私は助っ人として出ることになったんだ〉
〈お、すげぇじゃねぇか。それが何か問題なのか?〉
〈全国の強豪を考えたら私もまだまだ実力不足だと思ってな。もう少し鍛錬を続けたいんだが、ちょっと付き合ってくれないか?〉
「若葉の特訓の協力か……」
「困ってるみてぇだし、時間もあるから協力するか」
そういってラグナは【分かった】の選択肢をクリックした。それと同時に園子はあっちゃー、と言いながら頭に手を当てた。
「おい、どうしたんだよソノコ」
「ラッくん、ここ見てみて。ここ」
「え……て、げぇっ!!?」
園子が指さした場所を見てみる。背景にある木の後ろ。そこにいたのはラグナの攻略しなければならない人物、千景だった。あまりにも小さく表示されていたから全く気づけなかった。
「これって、隠れてるんだよな? 何のために?」
「一人はもうその理由を直感的に察したみたいだぞ?」
「いや~……これは多分経験則から答えを出したと思うよ~」
園子が苦笑しながらラグナの方を見ている。当の本人はというと、この世の終わりを見てしまった預言者のような顔で独りごとを延々と零していた。
「やべぇ……やべぇよ……嫌な意味ですげぇ見覚えがあるぞ、あの『感じ』……」
くっきりとした立ち絵ではなく、溶け込むように彼女は背景の一部に組み込まれていた。しかし、それでもあの千景がどういう状態なのかがすぐ分かった。
〈ありがとう。では、体育館へ行こうか〉
「待て、行くな俺!!! 今行ったらソードサマナーでぶっ刺されるぞ!!!」
「郡にそんな能力はなかっただろ」
〈よし分かった〉
「俺のバカヤローーーーーー!!!!」
「どっちに対してだろうな」
「多分両方にかな~……」
何も知らないゲーム内のラグナが呑気に若葉の後を付いていくのに対して、現実のラグナは酷く狼狽していた。残念ながらセーブもしていない上にプレイ回数は皆平等に一回なのでやり直しは出来ない。ゲーム内で平和な特訓CGが流れていくのに対して、プレイしているこちらは戦々恐々としていた。
「で、ラグナ……結局何があったんだよ?」
「……済まねぇ。俺もクリア出来るか分からなくなってきた」
「な、何で諦めてんだよ!? まだ何も起こってねぇだろ!?」
「ううん……残念だけど、クリアが出来ない可能性は十分にあるんだよ」
「そんな、どういうことだ!?」
「その答えは、次のシーンで分かるから」
神妙な面持ちの園子の言うように画面の方を見ると、千景の部屋が映っていた。真っ暗な部屋の中、身体に毛布を被せた千景がベッドの上に座っている。ゲーム機の画面を見るその眼は妖しい光を宿していた。
〈……そうよ……彼は私だけのものじゃない……別にそういう友達がいても不思議じゃない……勇者部だって美人な娘はいっぱいいるから彼の好みに合う女子がいてもおかしいことじゃない〉
自分にそう言い聞かせるように呟くが、集中している様子がない。ボタンを押す力がいつもよりも強いのか、カチカチ、と乱暴な音がパソコンのスピーカーから出てくる。
〈だから私がどう思ったって仕方ない……仕方ない……仕方ない……仕方ない……仕方ない……仕方ない……〉
ブツブツと聞こえてくる千景の声にラグナたちの全身が震え上がる。明らかに千景の様子がおかしくなっていた。
〈…………仕方ない―――――――――――――なんてあるはずが、ないッ!!!〉
急な絶叫にプレイヤーのラグナだけでなく、観客の神楽たちまでもが思わずビクリと飛び上がる。何かが砕ける音と入れ替わるようにボタンを押す音が消えた。
〈どうして、どうして貴方は誰に対してもそんなに優しいの!!? どうしてもっと私の傍に居てくれないの!!! 頑張るから……私、もっと頑張るから……!! だから、お願いだから……私から、離れて行かないで……!!〉
「あわ、あわわわわ……」
「……マジか」
フゥフゥと荒い息を立てながら壊したゲーム機を見下ろす画面内の千景。すると絶望に染まった顔が黒い笑顔に変化する。何かを閃いたようだ。
大鎌の刃のように吊り上がった口。こちらの心臓を貫く獣のような眼光。先ほどの陰鬱したものと打って変わって明るい声で千景は嗤う。
〈そうよ……他の娘たちを近づかせなければいいのよ……そうすれば、誰にも彼を奪われる心配もない……誰にも彼は渡さない……絶対に渡さないわ……クククク……アハハハハハ……アハハハハハハハハッ!!!〉
闇の中で独り高笑いするその姿は、かつてラグナが死闘を演じた素体の少女を彷彿させる。ムラクモなんて付いていないし、見た目も全然違うが、雰囲気は本当によく似ていた。
誰もが呆然としている中、ログに好感度らしきものの変動を示す書き込みが表示された。閉口したまま全員でそれを見る。そこには赤い文字でこう表示されていた。
〈《郡千景》の《ラグナくんだいすきいかないでラグナくんラグナくんラグナくんいかないでラグナくんいかないでラグナくんラグナくんラグナくんだいすきだいすきラグナくんいかないでいかないでラグナくんあのオンナコロスいかないでラグナくんラグナくんいかないでいかないでだいすきだいすきラグナくんラグナくんどうしていかないでどうしてあのオンナコロスだいすきいかないでラグナくんラグナくんどうしてどうしてだいすきだいすきラグナくんラグナくんだいすきあのオンナコロスラグナくんラグナくんラグナくんあのオンナコロスラグナくんいかないでどうしてラグナくんラグナくんどうしてラグナくんどうしてラグナくんだいすきラグナくんあのオンナコロスだいすきラグナくんだいすきラグナくんあのオンナコロスラグナくんいかないであのオンナコロスいかないでラグナくんラグナくんどうしてどうしてだいすきラグナくんラグナくんいかないでラグナくんあのオンナコロスだいすきラグナくんラグナくんあのオンナコロスラグナくんいかないでいかないであのオンナコロスだいすきだいすきラグナくんだいすきだいすきラグナくんラグナくんだいすきラグナくんあのオンナコロスラグナくんラグナくんあのオンナコロスラグナくんだいすきだいすきどうしてラグナくんどうしてどうしてラグナくんラグナくんどうしてどうしてラグナくんいかないでどうしてラグナくんだいすきラグナくんどうしてだいすきあのオンナコロスラグナくんだいすき》ゲージがMAXになった〉
それを見て、一同の顔はみるみるうちに青ざめていく。数刻ほど誰も口を開けることが出来なかった。シナリオとその時の演出を設定した本人である園子ですら引いていた。それほど、画面の中の千景は怖かった。
身体の体温が奪われていく感覚に襲われながらもラグナは再び恍惚としている千景のCGを見る。ゾクリとした感覚が背筋を走った。どう考えてもこれは血生臭いエンドへまっしぐら。悲しみに向かって彼は爆走していた。
漸くラグナが口を開くと、恐怖やら怒りやらいろんなものを詰め込んだ罵倒をここにいない猫耳眼鏡の制作者に飛ばした。
「なんてことしてくれてんだ、あのマッドサイエンティストぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!! ゲームのジャンルが恋愛からホラーに変わっちまってるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
絶叫するラグナだが、それでも目の前の現実は変わらない。誰がどう見ても、ゲームの千景は闇堕ちしていた。目を逸らしながら園子はしどろもどろに言う。
「……正直、誰を選んだとしてもこうなる予感は何となくしてたんだよね。ラッくんはお人好しのヤンデレホイホイさんだから」
「俺はヤンデレホイホイなんかじゃねぇ!!!!」
「いや、でもほら。現実でもゲームでも二人ほどホイホイしてんじゃん……?」
「カグラ! それまさか
「それ以外誰もいねぇと思うけど……」
もう何を言ったところでラグナがヤンデレに好かれやすいというレッテルが取り消されることはなさそうだ。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。ラグナは未だに恍惚のポーズを取り続ける千景を指さしながら急いで園子に聞いてきた。
「そうだソノコ!! これはどういうことなんだよ!? 爆弾が付いてねぇのに何でチカゲはあんなガンギマリな笑顔になってるんだよ!?」
「そのためにもラッくん、まずメニュー画面を開けて」
「今好感度を見るのか!? 確かにさっき妙なゲージが開放されたが……」
ラグナがメニュー画面を開いて千景の好感度を確認する。やはりラグナの知っているように爆弾は付いていなかった。
その代わりというべきか、数ある好感度ゲージの中で一つ、ドクドクと脈動する漆黒のハートが見えた。
「何か一個だけ爆弾よりもヤバそうなゲージがあるんだけど!? 何これ!? いつの間にこんなモンが!!?」
「それは固定ルートに入った時に出来る新しいゲージなんだよ。その名も、『ニューゲージ』」
「ニューゲージって……」
「そのまんまの名前のゲージだな……」
「俺には別の意味合いを持っているようにしか聞こえねぇんだけど……逢ったことねぇはずだよな、『アイツ』と」
ゲージの名称からすごく聞き覚えのある名前を聞いてラグナの額から汗が滴り落ちた。園子は頷きながら説明を続ける。
「このゲージはMAXになるまでプレイヤーには分からない仕様なんだよ。そして気づいた時には、もうすべてが後の祭りになってるんだ。こうなったら最後。症状は様々だけど、最終的には主人公がヒロインに殺されちゃうんだよ……」
「どんな鬼畜仕様だ!! テメェら本当にこのゲームをクリアさせる気あんのか!?」
「ちゃんとあるよ~。これになるのは各ルート毎にヒロイン一人だけだし、いきなりのノーヒントというわけじゃないもん」
「そういえばデートとかあんまりしなかったのにどんどん好感度が上がっていったな……」
「このゲージが蓄積されていくと、女の子の方もどんどんデレデレになるんだよ。このゲージも好感度の一種だからね」
「名前の文面からは好意っつーか殺意しか伝わって来ねぇんだけど!!?」
「他者を排除してまで傍に置きたいほど好きってことだろ……こう、究極の、いや
「そんなムラクモみたいな愛は勘弁してくれ!!! もっと切れ味と重量を落とせ!!」
どうもこのゲージが原因で千景がおかしくなってしまったようだ。その時、ナオトがあることに気づく。
「ひょっとしてこれも攻略難易度と関係があるのか? キャラ毎に上がり具合が違うとか」
「そうだよ。前に攻略しにくいキャラとしやすいキャラがいるって言ってたでしょう? アレはキャラ毎にニューゲージの上昇補正が違うからなんだよ」
「ちょっと待て!! まさか全員にこのゲージが設定されてるのか!!?」
「うん。そしてその中で上がりやすいのがサッちゃんとかちーちゃんで、一番上がりやすいのはわっしーなんだ。気を付けていないとあっという間にこの状態になって、バッドエンドへ一直線なんだよ」
「バッドエンドっつーか抹殺エンドだろ、それ!!?」
「そうとも言う~」
「クソぅ……!」
このままではゲージに書かれていた『あのオンナ』とやらが何等かの報復を受ける可能性が高い。まぁ場面の前後を考える限り、誰のことなのかは大体察しが付くが。
しかし、それと同じくらい気になることがある。これを商品として出す以上、気にしなければならないことだ。
「念のために聞くが、他の奴はどうなってんだ?」
「じゃあ、先ずはひなタンの場合から」
「もうこの時点でヤバい予感しかしない……」
園子によると、ひなたの場合は普通に家で料理している風景から始まるそうだ。うどんつゆを作っているひなたは鍋の中をお玉で掻き混ぜているらしい。
しかし、部屋には香ばしいうどんつゆの匂いもつゆに熱が通った時に発生する湯気も立たない。沙耶と若葉の三人のいる部屋には金属の擦れる音しか聞こえてこない。
不審に思った若葉は彼女に主人公のことについて聞く。それに対して空虚な返事だけを返すひなた。その態度に業を煮やした若葉が彼女にラグナについて言及し始める。
そこから画面は若葉の視線と同じものになる。画面越しのプレイヤーにひなたは開ききった瞳孔で凝視しながらこう言い放つそうだ。
〈ラグナさんが幸せなら、私はそれでいいんです――〉
ひなたが去った後、若葉は鍋の中身を確認するが、そこにはうどんのつゆなど一滴も存在しない。空っぽの鍋の中にあったのは、先ほど自分の幼馴染が虚空を掻き混ぜるのに使い、今は空しく鍋の縁に沿って一回転するお玉だけだった。このシナリオを聞いて、神楽たちはまたしても寒気を感じた。
「怖ぇ……ひなた様超怖ぇ……」
「始まりからこれなのに結末なんて想像したくねぇ~……」
「ところで頭を抱えてどうしたの、ラッくん?」
「済まねぇ……何故か急に精神的なダメージが……」
何でかは分からないが、とても想像しやすい光景にラグナは堪らず頭を抱えた。これと同じということはないだろうが、似たようなことがこれから千景を通して起こるのだろう。数分前の自分をバインダーでぶん殴りたい。神楽は他の娘たちについて聞く。
「じゃ、じゃあ椿姫の時はどうなるんだ?」
「十六夜が黒化するよ」
「えっと……サヤは?」
「帝モードになって主人公を拉致監禁しちゃう」
「……めっちゃ怖ぇけど一応聞くわ。東郷」
「世界が滅ぶ」
「流石ラスボス!!」
「一人だけスケールがデカすぎる!!」
結局のところ、この状態に陥ると禄なことがないということだけはよく分かった。しかし、それでもまだ根本的な原因を聞けていない。何故このゲージがここまで上がったのかについてだ。
ラグナはこれまでのゲームプレイを振り替えながら原因を探る。これも好感度ゲージの一種だということは、何らかの理由で増減するということだ。ならばそのトリガーとなる行動があるはずだ。その時、普段の刃や沙耶の行動から答えを導き出した。
「まさか……俺が他の奴らの頼み事を聞いていたから、か?」
「そういや放課後イベントとかで色んな娘たちの相談とか受けてたよな。何だかんだほっとけなくて」
「ま、そういうことになるかな。ニューゲージの上昇は『攻略対象が持つ上昇補正』、『攻略対象の好感度』、そして『攻略対象以外の娘と接した時の相手の好感度』によって決まるんよ」
「そんでラグナは色んな奴からの好感度も高いから……」
「ニューゲージに溜まる好感度はぐんぐん上がっていくね~」
「完全に前半と真逆のシステムじゃねぇか……」
「そういう問題だけじゃないんだけどね~」
「どういうことだよ」
園子の言わんとしていることをラグナはよく理解できなかったようで、思わず彼女に質問した。園子はそんな迷える子羊に啓示を与える。
「いい、ラッくん。貴方の行動はお兄さんや仲間としては間違っていないけど、女の子に対する行動としては不正解なんだよ~」
「マジかよ……それならどういうところで?」
「女の子はね、好きな人が自分にベタベタしてくる方が喜ぶんだよ~。お話をしたり~、一緒に出歩いたり~、相手を揶揄ったり~、何もなくてもただ一緒にいるだけでもすごく幸せな気持ちになるんだよ~?」
「一個だけ、出来れば遠慮してほしい事案があったような気がする……」
「そういう時はラッくんの方から言えば大丈夫だよ。逆にイチャイチャしないで離れすぎていると、女の子は不安になっちゃうんだよ~」
「そういうモンなのか……」
「そういうものなんだよ~」
詰まるところ自分があまり千景に構ってやれなかったからこうなってしまったということだ。だったら自分がどうにかするのが筋というものだ。数回掻き毟りながら仕方ねぇ、と呟くと、ラグナは大きく深呼吸してからもう一度園子に向いた。
「……ならソノコ、ついでにもう一つ教えてくれ。どうすればニューゲージの影響を消すことができるんだ?」
「普通ならヒロインと一緒に過ごしている内に下がっていくんだけど、一度MAXになったらもう解除できないよ。『本来』なら、ね」
「てことは、どうにかできる『方法』はあるんだな?」
「一度だけ使える逆転の一手がね。でもクリアするのはすごく難しくて、失敗したら勿論死亡エンドへ直行。仮に成功してもニューゲージはまたMAXになる可能性があるし、なったときは本当にどうしようもなくなっちゃうよ?」
「そうなのか……」
「だからもう一度聞くよ、ラッくん。本当に、ちーちゃんのために、その一回きりの切り札をここで使っていいんだね?」
真剣な顔で自分を見つめる園子に、ラグナは覚悟の籠った強い視線を返す。
「構わねぇよ。俺はアイツを助けたい」
「殺されるかもしれないよ?」
「けどそれしか方法がねぇんだろ? 元々今回の件はアイツを放置しちまった俺が悪いわけだし、多少のリスクがあろうとやってやるさ。それでアイツを助けられるならな」
彼の決意の固さを見て、園子はどこか安堵したようにフッ、と笑った。
「ラッくんの覚悟、しっかり受け取ったよ。そういうことなら私も協力するよ」
「ああ、頼りにしてるぜ。ソノコ」
「とにかく、決戦の明日へいざ進行~!!」
「おう!」
意を決してラグナたちはゲームを進める。学校のイベントを進めながら園子は解説する。
「切り札を発動させる条件……それは、ヒロインと
「何かヒロインと戦うことが然も当たり前のように話が進んでいる気がするが……まぁいい。要するに正面からアイツとぶつかれば良いんだな。やってやろうじゃねぇか!」
「でも気を付けてね。負けたらそのままバッドエンド行きだから」
「ンなモン、負けなきゃ良いんだよ。喧嘩なんて怪我は付き物だ」
「おい待て待てお前ら。盛り上がってるとこ悪いけど、戦うにしてもどうやって戦うんだよ? まさか素手でやり合うのか?」
「昨日ワカバと訓練した時に使った竹刀ならあるぞ」
「ギャルゲーでさらっと武器を調達するな」
何はともあれ、これで準備が完了した。ラグナは園子のアドバイスに従い、ゲーム内の千景を探すために学校中を巡っていく。
やがて体育館裏に着くと、そこに彼女の姿があった。手に勇者としての武器と同じデザインの草刈鎌を持ち、血走った眼で若葉を睨む千景の姿が。それはとても中学生女子のしていい顔ではなかった。
「こ、これ……本当に説得できるのか?」
「面倒くせぇことになるのは百も承知なんだ。やるしかねぇよ」
覚悟を決めて、ラグナはゲーム内の千景に近づくための選択肢をクリックする。若葉を物陰から襲い掛かろうと待ち伏せしている千景の前にラグナが立ち塞がった。
〈止めろ千景! それ以上は取り返しのつかなくなる!〉
〈どきなさい! これじゃ乃木さんを殺せないわ!〉
〈何でアイツを殺そうとするんだよ!?〉
〈あの賤しい烏が貴方を取ろうとするのが赦せないのよ!!! だから……邪魔しないで!!〉
〈えっ!?〉
慌てふためくゲーム内のラグナだが、現実世界の彼らは臨戦態勢だ。憎悪に満ちた千景の前に、運命の選択肢が表示される。ラグナは迷うことなく、自分の進むべき道を選択する。
〈【それは出来ねぇ】。悪ぃが、お前を止めさせてもらう〉
〈……仕方がない。だったら、貴方には少し眠ってもらうわ。大丈夫、目覚めるころには全て終わっているから〉
ゲーム内の千景の台詞と一緒に画面は一度暗転する。次に表示されたのは、何かの説明画面だった。それはラグナにも見覚えのある画面だった。
「これは……ゲーセンにあったミニゲームか!!」
「覚えててくれたんだね、ラッくん。ならやり方も大丈夫そう?」
「大体な。他になんか注意する必要があるか? 武器が銃から剣に変わってるけどよ」
「攻撃はミニゲームのものより格段早いし、相手も前の敵より耐久度が高くてこっちの攻撃を回避することもあるの。その代わり、相手は7人だけで攻撃を受けたら一度後退するよ。後はミニゲームと同じで一回でもちーちゃんの攻撃を食らったり、頭を攻撃したりしたらアウトだよ」
「分かったけど……チカゲは一人しかいねぇのに何で7人も敵がいるんだ……?」
「愛の力で分身したんよ~」
「愛は何でも出来るための免罪符じゃねぇよ……」
「愛って、結局何なんだろうな……」
「躊躇わねぇことじゃね?」
「出来れば少しは躊躇ってほしいな、俺は」
色々と騒がしいが、それでもこれまで共にこのゲームをプレイしてきた仲間たちの存在がラグナを後押ししてくれる。心の準備を済ませるとラグナは集中するためにゆっくりと息を吐いてからスペースキーに指を置いた。
「ラッくん。ここからが本番だよ。気を引き締めてね」
「頑張れよ、ラグナ! 千景ちゃんを救えるのはお前だけだ!」
「ここまで来たら後はクリアするしかねぇ!! しっかりしろよ!!」
「言われなくても
スペースキーを押すと闇に喰われたヒロインを救うための戦いが始まった。ゲーム内のラグナに猛スピードで飛び掛かる七人の千景。2人や3人同時は当たり前。場合によっては4人同時に攻撃することもあった。
それでもラグナはこの七人と互角に応戦する。前までは『ゲーム』だったから多少楽しみながらやっていたが、今の彼は『戦う』ための頭に切り替わっていた。普段よりも直感が獣のように鋭敏になり、反射速度も上昇している。
「すげぇ集中力だ……こっちに全く気をまわしちゃいねぇ」
「おら! この!」
偶に混ぜられる回避行動に警戒しつつ、相手の動きを見定める。素早く十字キーを押して照準を動かし、攻撃範囲に千景の鎌や手足が入った時とすかさずスペースキーを押して攻撃する。
しかし、やはりコンピュータ本体の入力速度の方が早いせいでラグナでも反応しきれない攻撃が来る。一度に2人の千景を蹴散らしたラグナだが、残っていた一人が攻撃態勢に入っていた。
「ヤバい!! もう間に合わねぇぞ!!」
「ラッくん危ない!!」
「まだだ!!」
一瞬だけ表示される鎌の一閃。それに照準を合わせてラグナはスペースキーを叩く。すると攻撃してきた千景は後退し、ゲームは何事もなかったかのように続行したままでいた。
「あの攻撃、弾き返すこともできるのか!」
「こいつは便利なことを覚えたぜ!」
新しい突破口を見出したラグナは不敵に笑う。そんな彼に挑戦するように7人の千景が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「来るよ!!」
「任せろ!!」
怒涛の勢いで攻撃してきた7人にラグナは向かい撃つ。4人を攻撃する前に撃退し、残る3人の攻撃は先に見つけた攻略法で突破する。
「よっしゃ!! これはいける!! クリアできるぞ!」
「うおおりゃぁ!!」
やがて体力が尽きたのか、分身が一つ二つと消滅していく。長い戦いが続くにつれて、残る千景は3人になった。千景たちは決死の突撃を仕掛けてきた。
「おらぁ!!」
攻撃を仕掛けてくる千景たちを打ち払おうとするラグナ。6人や7人の同時攻撃に慣れてきた彼にとって3人の攻撃は大した脅威ではない。1人の千景を消滅させた後にもう1人を迎撃する。
しかし慣れによる慢心が隙を作ってしまった。攻撃する直前にカーソルに捕捉されていた千景は突然後退による回避行動に移ってしまったのだ。
「何!?」
異変に気付いたラグナだったが、既にスペースキーを押してしまっていた。そのせいでゲーム内のラグナの攻撃は空振りに終わってしまった。
「ここで超反応のバックステップによるフェイントだと!!?」
「ということは、本命はもう一人の方!!」
「チッ!! クソがッ!!」
しかし、攻撃を外した時のラグは命中した時のものよりも長い。慌ててカーソルを移動させたラグナだったが、当然間に合わなかった。食い込むように下ろされる鎌の刃。同時にザシュッ、と景気のいい音が鳴った。とうとうゲームのラグナに攻撃が命中してしまった。
『ラグナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
「ラッくんが死んじゃったぁぁぁぁ!!!」
絶望の悲鳴がラグナの部屋に響く。結局誰もこのゲームをクリアできないのか。しかし声を張り上げる観客に反して、プレイヤーであるラグナの方は平然としていた。
「おいおい、何勘違いしてんだよテメェら。まだ勝負は終わってねぇぞ」
「え、何で!? あの音はどう聞いても致命傷だったのに!?」
「そうだな。確かに『コイツ』がなかったら危なかったよ。おら、画面を見てみろ」
ラグナの言う通りに園子たちが画面を覗くと、そこには予想していなかった言葉が記されていた。
〈《ダンボール》が《綾月ラグナ》の身代わりとなった!〉
〈《ダンボール》は《郡千景》の攻撃を受けて消えてしまった……〉
『ダンボール先輩ぃぃぃぃぃぃ!!!!?』
「ダンボさんがラッくんを護ってくれたんだね!!」
「そういうこった!! おら、こいつで終ぇだ!!」
最後は残った二人を撃退して、イベントクリア。ニューゲージの消滅も確認することが出来た。
「やったやった~!! ラッくんがちーちゃん救出イベントをクリアしたよ~!!」
『ぃよおおおっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
「まだ安心はできねぇ! 先公どもに見つかる前にゲームの俺にチカゲを家へ運ばせねぇと!」
実際、パソコンのスピーカーからざわざわと人の声らしき音が立ち始めた。ゲーム内のラグナは急いで気絶している千景を彼女の家へおぶっていった。しばらくベッドに寝かせているとゲーム内の千景が目を覚ました。
〈――――あ……〉
〈やっと目を覚ましたな〉
〈……私、確か……〉
〈……放課後のアレは俺が何とか誤魔化す。丁度切られたダンボールがあるしな。解体作業をしてましたってゴリ押しておっさんたちを黙らせるわ〉
〈そんな嘘、通用するわけ……〉
〈切ったのそれしかねぇから満更嘘でもねぇだろ〉
〈……ごめんなさい。私……みんなに迷惑を〉
〈迷惑被ったのは俺だけだよ。ま、エライ目に遭ったのは確かだけどな〉
〈……そう、よね〉
〈けど――〉
パソコンの前でラグナたちが静かに見守っている中、寝ているゲーム内の千景の頬を、ラグナは触れながら言った。
〈ヤバくなる前に間に合って良かった。俺ならともかく、他の奴を傷つけちまったら、それこそもっと面倒なことになってたからな〉
〈……〉
〈それより、どうしてあんなことしたんだよ?〉
〈……聞いてくれる?〉
画面が一度縦に揺れると千景は懺悔するように零し始めた。
〈私、親と仲が悪いの……今こうして一人暮らしなのも大赦の援助があるからで、彼これ親とは数年顔を合わせてないわ〉
〈……そう、なのか〉
〈最後に別れた時、親に言われたわ……私は要らない子だって。いなくなって精々したって……〉
〈……今も親のこと、嫌いなのか?〉
〈もう気にしてないわよ、あんな親のこと。でも、怖いの……私のことが大好きだった人がまた私の前からいきなり居なくなることが……また、捨てられるって……愛されなくなるって……〉
〈だからもっと頑張って努力すれば、皆が自分から離れていかない、と思ったわけだ〉
〈……それが私という人間よ……臆病で、卑怯で、弱いの……失望したでしょう……〉
悲しそうな声で千景がそういうと、選択肢が出現する。それを見て、ラグナたちはお互いの顔を合わせると小さく頷く。全員の気持ちは一緒だった。選んだ選択肢に従って、ゲーム内のラグナの台詞が表示された。
〈……【どうしてそんなことをしなきゃなんねぇんだよ?】〉
〈だって……私は貴方を傷つけた……乃木さんを傷つけようとした……皆のいる場所に、私はいるべきじゃない〉
〈そんなことある訳ねぇだろ。高嶋も、若葉も、勇者部の皆はきっと心配する〉
〈でも……〉
〈それに、例えお前にダメな部分が千個あったとしても、俺たちはお前のことを、その、嫌いになんかならねぇよ〉
暫くの沈黙がパソコン内外で発生する。やがてゲームのラグナの台詞を聞いた千景は質問をした。
〈……貴方は?〉
〈だから、俺たちは〉
〈『貴方』はどうなの? 『皆』じゃなくて、『ラグナ君』の気持ちはどうなの?〉
千景は自分を包む布団から手を出して傍に座る少年の裾をそっと摘まむ。期待するような、しかし同時に恐れるような目で自分を見てくる。一瞬自分の名前を呼ばれた気恥ずかしさで目を逸らしそうになったラグナだが、このままではゲームを進められない。恥に耐えて選択肢をクリックした。
〈……言われるまでもねぇよ。俺は、【チカゲを嫌いになんか絶対にならねぇ】。例え傍にいなくても、お前の眼が届く景色から俺は絶対に居なくならねぇし、俺の眼からお前が消えていなくなることは絶対にねぇ。約束する〉
それを聞いたゲーム内の千景の顔はやっと綻んだ。欲しかった答えを聞くことが出来たようだ。
〈ええ、貴方の言葉を信じるわ……〉
〈……とにかく今は寝とけ。俺はちょっと粥を作ってくる。ンで、それを食って元気になったら、イネスにでも行こうか〉
〈それはまた何で……?〉
〈床にあったゲーム機。お前、アレを壊しちまったんだろ? 修理を頼みに行くか、新しいのを買うかはお前次第だが、明日一日は最後まで一緒にいてやるよ〉
そう表示された後にドアが開閉する音が聞こえた。ゲームのラグナが調理場に向かったのだろう。彼がいなくなったのを確認すると、画面に映る千景は笑いながら呟いた。
〈……ありがとう、ラグナ君〉
〈《郡千景》の《これからも貴方の隣で同じ景色を
〈《郡千景》の《プラスモード》が解放された〉
「うおぉぉぉ!! とうとう解禁されたぞ、おい!!!」
「やったじゃねぇか、白髪野郎!!! 大金星だー……ってどうしたんだ?」
「ありゃ~。ラッくん、俯いちゃってる~」
「ッぁぁぁぁ……」
拍手喝采を浴びているラグナは組まれた両手の上に頭を乗せて悶絶していた。自分の名前を持った主人公が(ログ上で)飛ばす恥ずかしい台詞の数々と描写に彼は再起不能になっていた。ゲームで人を殺せるなんて知らなかった、と後に本人は語る。
「ほらほらラッくん~、そろそろプラスモードを堪能したら~?」
「……その前にソノコ、ニューゲージ関連は全部カットな。アレはやり過ぎだ」
「まぁそうだよね~。頑張ってくれたココちゃんに悪いけど、私もちょっとハッスルしすぎちゃったよ~。反省反省~」
「分かったなら良いよ……それで、これでニューゲージは消えたのか?」
「ラッくんが救出に成功したからニューゲージは普通の好感度ゲージに変わったんだよ。難関イベントをクリアしたサービスってことでゲージMAXのまま好感度になってるんだ」
「そういうことか、分かった……さて、今度はこれか」
もうお腹いっぱいですといわんばかりに唸りながらラグナはピカピカと点滅する『プラスモード』のアイコンを見る。これを押せば、今以上にヒロインとイチャコラすることになる。正直今プレイしたら胃潰瘍と精神的過負荷でリアル入院は必至だ。
しかし、少し前に園子が女の子を放っておいてはいけないと言ったのに、いきなりここで中断なんて出来ない。砂糖の海に喰われる予感をしながらも彼はアイコンをクリックしてプラスモードを始めた。
「さて、何が出てくんのかねぇ……」
「それは見てからのお楽しみだよ~」
「見せてもらおうか……プラスモードのデレってヤツをよ」
「デレる相手、アンタじゃないけどな」
パソコンの周囲が騒いでいる間に画面では千景のアップが表示される。ブラウス姿の彼女がベッドから起き上がっていた。
画面の横には設定用のスペースがあって、そこに表示されている湯気の立ったお椀のようなアイコンをクリックした。するとマウスのカーソルは粥を掬ったスプーンに変化した。
「ま、まさかこれは……」
「そのまさかだね~」
お粥と体調を崩した女の子の組み合わせが意味するところ。それは看病イベントだ。現実では幼い頃に腐るほど沙耶を相手にやってきたが、バーチャルとはいえ、家族以外の女子にこんなことをするのは初めてだ。
そんなラグナの緊張を知ってか知らずか、画面内の千景は頬を紅潮させながら言う。
〈ちょっと恥ずかしいけど……あーん〉
食べやすくなるために髪をかき上げ、彼女は目を瞑り、小さな口を開ける。完全に粥を受け入れる態勢に入っていた。おお、と部屋の中でどよめきが起こる。
「これ、一応プログラムなんだよな? 動きとか仕草が超滑らかで自然だ……」
「そりゃ当然だよ~!! このゲームの容量の7割以上はこのモードに使われているからね!!」
「ラグナ早くしろ!! 彼女を待たせんな!!」
「テメェら食い入り過ぎだろ!! そんなに騒いでたら集中できねぇよ!!」
「お構いなく~♪」
「構うわ!!」
恥ずかしさでつい怒鳴るラグナだが、このままゲームの千景を放っておくことが出来ない彼は看病を始めた。マウスを使ってスプーンを千景の口元まで移動させる。ある程度近い場所まで来ると千景はスプーンに息を吹きかけてからお粥を食べた。
「これ、まだ熱かったんだな。ったく、もっと冷ましてから出せよ、ゲームの俺」
「こういうイベントって大体息を吹きかける奴あるよな?」
「フーフーするならマイク使うけどどうする~?」
「その後、絶対会話しろとか言い出すだろうが、テメェらは! そこまではやらねぇぞ!」
「え~、千景ちゃんが可哀想じゃねぇかよ!」
「本人にもやったことねぇのに何で今ここでやる必要があんだよ!」
顔を赤くさせながら神楽たちに反論するラグナだが、パソコンの方から千景の声が聞こえてきた。
〈ちょっと熱いけど……とても美味しいわ。ありがとう〉
「……」
「ほーら見ろ、やっぱり熱かったんじゃねぇか」
「だったらテメェは出来んのかよ?」
苦虫を嚙み潰したような顔をするラグナに対して神楽は挑戦的な笑みを浮かべながら言い切った。
「ああ、出来るね。美少女の看護とかもうそれただのご褒美じゃねぇか。なぁ園子嬢、俺がやるからマイクを設定してくれねぇか? ラグナは出来ないって言うからさ」
自分を見下ろすように視線を送りながらわざとらしくそう言う神楽。その顔を見て、ラグナのこめかみがヒクヒクと動く。自分を挑発しているのは目に見えているが、それでも神楽の言葉にムカムカしてきたのも事実だった。
「誰がいつ出来ねぇって言ったんだよ」
「だっていつまで経ってグチグチ言ってばっかでやらねぇじゃん。それって要は出来ねぇってことだろ?」
「ンなわけねぇだろ、この馬鹿が。これくらい楽勝だってんだ。ソノコ、マイクを寄越しやがれ!!」
「アイアイサー!! うふふ~、ラッくんならきっとやってくれると思ってたよ~」
「調子いいことばっか言いやがって、チクショウ……」
「あーあ、乗せられちまったよ」
「ああ言えばアイツは何だかんだやってくれるだろうからな。一芝居打たせてもらったぜ」
元気になり始めた園子と何やら内緒話している神楽のことを一旦保留して、ラグナは手渡されたマイクに息を吹き入れた。
画面に映っている粥入りスプーンから立つ湯気は吹き込まれるラグナの息に合わせて揺れる。冷ました粥を千景に食べさせると彼女の周囲にハートのエフェクトが発生し、彼女も優しい微笑みを返してくれた。
〈今度はとても食べやすくなったわ。ありがとう〉
「ほら、ラッくん! 早く返事してあげて!」
「分かったから一々騒ぐんじゃねぇ!!」
暴走する手前の幼馴染を何とか抑えたラグナは再びマイクを取る。ゲームから繰り広げられる攻撃の数々によってラグナの精神はバーテックスと戦っていた時よりもボロボロになっていた。
認めよう。このゲームはヤバい。色んな意味でヤバい。前世を含めても人生でここまで疲れたことなんて一度もなかった。
しかし、会話をここで切っても不自然だ。頭の中から何とか適切な言葉を見つけると、ラグナは一度咳払いしてからゲーム内の千景に語り掛ける。
「……そ、それを聞けて、よ、良かったよ。とにかく、その、ゆっくり体力を回復させろ」
〈そうね。早く治して貴方と一緒に買い物に行きたいから〉
「焦る必要は、ねぇよ。逆に酷くなっても困るしな。俺はまだ、こ、ここにいるから……安心して、寝ろ……」
緊張やら何やらでフラフラになっているラグナに対してゲーム内の千景は実に穏やかな様子だった。ふふふっ、と笑うと彼女は言った。
〈分かったわ……それじゃあ、お休み、ラグナ君〉
そう言って画面の中の彼女は瞼を閉じ、スゥスゥと可愛らしい寝息がスピーカーから流れ始めた。しばらくしてプラスモードは終了した。その後、画面は暗転し、通常のモードに戻った。同時に園子たち一同は歓喜の雄叫びを上げた。
「ビュオオオオオオオオオウウウウ!!!! これこれ、これだよ~~~!!! 私はこれを
「なぁ園子嬢!! このゲームいくらだ!? 言い値で買うぜ!! 今すぐにな!!」
「俺、まだ小遣いに余裕とかあるかな?」
男子たちの間では概ねプラスモードは大好評だった。聞く話によるとシチュエーションの違いによって実行できるコマンドにも違いがあるらしいので、神楽たちの胸は更に熱くなった。
「本当にありがとね、ラッくん~。おかげで開発に一歩前進だよ~」
「そうだな。何だかんだ言ってクリアは目の前まで来てるしな。見直したぜ、ラグナ」
「てかさっきからだんまり決め込んでるけどどうしたんだ? いつもだったらしている突っ込みが来ねぇぞ?」
何やらおかしいと感じると、ナオトはラグナの横顔を覗く。そこから見えたのは、安らかな様子で目を閉じているラグナの顔だった。頭は力なくだらりと垂れ、両脇から腕がプラプラと揺れていた。
「こ、こいつ……燃え尽きている……!!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ、ラッくんしっかりぃぃぃぃぃ!!!!?」
*
その後、あまりにも園子たちが騒ぎまくったため、若葉たちにギャルゲーの存在がバレてしまった。当然ラグナがプレイ続行不可能になったため、誰もクリアすることはなかった。
ゲームは部長の風の判断の下、販売禁止となり、関係者だった園子ズは若葉からキツイお仕置き(小園子もバリバリ協力してたのでアウト)を喰らった。九重はというと、中銀からお菓子とマタタビの全没収と一週間の禁止令を言い渡された。
しかし、部員の中にも少しやってみたいと希望した者たちもいたため、開発されたゲームサンプルはその後も九重博士の研究室で密かにプレイされていた。「何故兄さんルートがないんだ」などの意味不明なクレームもあったが。
因みにラグナはというと、途中から刺激に対して脳が耐え切れなくなって気絶しただけだったので、特に大事にはならなかった。しかし、暫くラグナは千景の顔をまともに見ることが出来なかった。
仮にモテメガネファイナル(花結い時空バージョン)をやったら、このレベルの長さになるんだろうな……キャラの大半は女の子だから。
次回は本編を出す予定です。未だに色々と考えたり、周囲が忙しくなっているところですが、気長に待ってくれるとありがたいです。それではまた。