蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

今月はホワイトデーの口説き祭りと石紡ぎの章の時代劇シナリオ、そしてぐんたかの猫イベントと、面白いシナリオが多かったですね~。

というかホワイトデーは芽吹無双でびっくりした。流石防人組の主人公にして大女優だ。そして猫を通じたぐんちゃんとたかしーのやり取りが尊い。一枚絵の二人の微笑ましい表情も最高でした。

さて、今回ラグナ君が大社に乗り込む話。果たして彼の出した答えがどんなものだったのでしょうか。2.2万文字ですが、それではどうぞ。

追記:2021/3/28 3:17 何か所か描写に納得のできない部分や不足を感じた部分があったので、終盤の内容を多少修正しました。ご迷惑をおかけします。


Rebel111. 真紅の叛逆者(ブラッドエッジ)

「……漸くここまで来たか。時計は持ってねぇけど、クミコが言ってた会議とやらはまだ終わってねぇよな?」

 

若葉たちが病院で慌てている頃、ラグナは大社本庁にある施設の中へと侵入し、奥にある社殿へと向かっている最中だった。彼女たちが使用している会議室はここだとのことだ。

 

朝のチェックをしに来た看護師がいつまで経っても部屋から出ていってくれなかった時は焦ったが、何とかその眼を盗んで病院から抜け出し、人に捕まることなく大社の建物内に忍び込むことに成功した。しかし、そのせいで時間を食いすぎてしまい、烏丸の指定した時間に遅刻しそうになっていた。

 

建物内で人の姿が殆ど確認できなかった。大社の神官に見つかって騒ぎになっては困るからラグナとしても都合は良かったが、それでも警戒は落とさない。

 

(奥の方から人の気配がビンビン感じるな……ここからは気を引き締めねぇと)

 

辺りに注意しながら施設の奥へと進んでいく。自分はまだ病院にいることになっているはずだから誰かに見つかればすぐに取り押さえられてしまうだろう。そうなれば彼の計画は泡沫となる。そういう意味では知り合いに会うのもアウトだ。

 

しばらく探し回っていると、ドタドタとこちらへ走ってくる足音が聞こえてきた。ラグナが急いで身を隠して陰から覗くと、足音の主である数人の巫女たちが通りから走ってきた。

 

「早く行くぞ皆! じゃないと上里さんが危ない!」

「は、はい!」

 

ひなたが犠牲になるといった内容を話している辺り、巫女たちはどうやら奉火祭について知っているようだった。取り合えず先回りをした方が良いだろうと考えていると、巫女たちの後ろから聞き覚えのある声が彼女たちを呼び止めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ皆! もう一回人選を考え直そうよ!」

 

真鈴は叫びながら巫女たちを追いかけていた。それに付いてくるように水都や花本を含めた他の巫女たちもやってくる。鉢合わせするのも不味いからここから離れて先へ急がねばと考えていると、少女たちは言い争いを始めた。

 

「でも安芸さん、このままだと上里さんは絶対に生贄にされちゃうよ」

「アタシだってそんなの嫌だよ! だけど、このまま皆が犠牲になるのも違うじゃん! もう少し考えた方が良いよ!」

「そうよ。それに例えそんなことをしたって、天の神が赦してくれる保障はないわ。あまりにも早計よ」

「けど、大社がやると言ったら間違いなく奉火祭は執行されるぞ。それで後からどうするなんて言っても、もう取り返しがつかない」

 

少女たちの中でも比較的年長に見える巫女の言葉に美佳は否定できなかった。自分もまた大社がそうするだろうと考えていたからだ。それでも彼女たちを止めようと、水都が言った。

 

「でも……いくら立候補したからって、こんな……巽ちゃんなんてまだ小さいのに犠牲になるなんて……」

「良いんです、水都お姉様。私たちは身寄りがありませんから、悲しむ人が他の皆さんよりも少ないんです。それに、私は顔の知らない大勢の人々のために死んでもいいと思えるほど人間は出来ていませんが、ひなたお姉様や皆さんのためだと思えるなら奉火祭に臨む勇気が出てくるんです」

「でも……」

「水都お姉様たちは生きてください。勇者の皆様は、きっとお姉様方の力が必要ですから」

 

優しく微笑みながらそう言う巽に水都たちは何も言うことが出来なかった。自分よりも小さな子があまりにも悲しい理由で死を決断しようとしていることにどうしても理不尽を感じずにはいられなかった。

 

それは巫女たちが気になって結局陰から会話を聞き続けていた男も同じだった。

 

(……あークソ! ガキの癖になんてことを言ってんだよ!)

 

隠れていた場所からラグナが姿を現す。彼にはそれ以上小さな巫女の言い分を聞いてはいられなかった。当然ここに本来いないはずの彼の出現に水都たちは驚愕した。

 

「ラグナさん!? まだ入院してるはずじゃ!?」

「嘘!? こんなとこで何してんのよ、アンタ!?」

「……少し野暮用でな。それよりそこの、どっかで見たことある気がするチビ巫女」

「いや、呼称雑過ぎるでしょ……」

「えと……私のことでしょうか?」

 

まさかの指名でビクリとしながらも巽は返事する。いきなり声を上げた彼に少し怖がってしまった。それに気づくとラグナは一度深呼吸して気持ちを落ち着かせ、彼女の方に改めて話しかける。

 

「お前、まだガキなんだろ? いくら世界が終わるかもしれねぇからって、こんなとこで命を捨てようとしてんじゃねぇよ」

「で、ですが。このままではひなたお姉様は確実に犠牲になってしまいます……! そうなったら私……」

 

巽の話を聞いてラグナは歯噛みする。ひなたは秩序の力を有しており、その影響でラグナの腕は半年ほど前まで動かすことが出来なくなっていた。

 

今でこそ蒼の魔道書の力が強くなりすぎて彼女では押さえられなくなってしまったが、それでも勇者に倒され、力の弱った黒き獣の亡骸には影響を与えることが出来る。

 

この時代では神社のある地で封印されているが、アレがバーテックスである以上、長い時間を掛ければ再生する。自分の時代でもまだ浄化が行われていたから、恐らくこの時代でも定期的に行う必要があるのだろう。

 

だから万が一の保険としてそれを明かしても良いと以前に言ったことがあるが、彼女はラグナを大社に売らないためにそうしなかったようだ。でなければ、烏丸から聞いた話の時点で奉火祭の候補に彼女が上がるはずがない。

 

(危なくなったらバラして良いって言ったんだけどな……)

 

兎にも角にも、これで大社がひなたを奉火祭の生贄にさせようとしていることが決定的であることが証明された。自分が介入しない限り、だ。ラグナは巽の頭に手を乗せる。

 

「……そんなことにはならねぇよ。そうならないために俺は来たんだ」

 

彼の言葉を聞いて、巫女たちがザワザワし始める。美佳が彼にその詳細を聞いてきた。

 

「それはどういうことですか、先輩?」

「言葉の通りだよ、ヨシカ。こっちに来たのは戦いと奉火祭、『どっち』も止めるためだ。俺だって誰かが犠牲になるのは御免だからな」

 

彼の口から奉火祭が出てきて、美佳たちは彼が誰かから話を聞いてここへ来たのを察した。しかし、今はその出所なんて聞いている余裕はない。それより、どっちも止めることが出来るという言葉に気が向かった。

 

「……本当に出来るんですか? そんなことが?」

「上手く行けばな。急ごしらえの策だが、理屈は奉火祭のそれに似ている。そいつを、犠牲無しでやる」

「その話、私たちにも聞かせてもらおうか、ラグナ」

 

鋭い刀のような凛とした声が狭い廊下に響く。そのすぐ後、風と花弁と一緒に勇者たちとレイチェル=アルカードが現れた。転移魔法を始めて見て呆然としている巫女たちを他所にラグナはバツの悪い顔をしていた。

 

「何でテメェらがここにいるんだよ……」

「仲間がいきなり病院から失踪したんだぞ! すぐにでも探しに行くに決まっているだろう!」

 

一番最初に返事をした若葉様はカンカンだった。気のせいか、後ろからは大天狗の翼が見える。絶対に逃がさないという圧がひしひしと感じた。

 

「そうだぞ! 寧ろ何でってのはタマたちの台詞だ! お前、こんなところで何やってんだ!」

「ちょっと大社に野暮用が出来てな。俺個人の用事だったから、一人で来たんだよ」

「……なーんか怪しいな~」

「勘弁しろって……」

 

他の勇者たちも若葉の言葉に同意する。しかし、ラグナは仕方なさげに言い訳した後、ここへ彼女たちを連れてきたであろうレイチェルに話しかけてきた。

 

「つーかウサギ……テメェ、どうやって俺を探し当てたんだ。テメェにも俺がここに来んの、教えてなかったろ」

 

大社の提示している天の神への対策にレイチェルの力を利用するものがあると聞いて、ラグナは彼女に知らせないまま大社へ来ていた。レイチェルの焔のように輝くルビーの瞳は彼を真っすぐと見つめる。

 

「それが一人で勝手にこんな場所まで来たお馬鹿さんの台詞かしら? 貴方こそ、自分が置かれている状況をきちんと理解していて?」

「……十分分かってるよ。分かったうえで、俺は大社も天の神も止めるって決めたんだ」

 

呆れたようにレイチェルは溜息を吐いた。彼は思っていた以上に大変なことに首を突っ込んでいたようだ。

 

「全く……貴方が無鉄砲だとは常々思っていたけれど、ここまで来ると本当は破滅願望でも持っているのかと勘違いしそうだわ。まさか真正面から大社に乗り込むなんてね。この娘たちがここを指定したからすぐに来れて良かったものの、そうでなければ貴方は今頃大社に捕まっていたわよ」

「あんな連中に負けるかよ。俺をとっ捕まえたきゃ、ハクメン(お面野郎)カグラ(黒騎士)を連れてきやがれ」

「……まぁ、そんなことも今は些末なことよ。それよりラグナ。貴方、先ほど奉火祭と何かが似ていると言っていたように聞こえたけれど、一体どういうことかしら?」

「ん? ウサギ、テメェ、奉火祭のことを知らねぇのか?」

 

少し意外に感じたラグナだったが、レイチェルは、そんなわけないでしょと言いたげな雰囲気を出していた。

 

「ヴァルケンハインに調べさせていたから概要は知っているわ。寧ろ貴方が知っていることの方が驚きよ」

「何で俺に何も話さなかったんだよ?」

「施行されるかどうかは決まっていなかったうえに、こうして貴方がたかの外れた獣のように大社へ突撃するのが目に見えていたからよ。どうせ貴方も同じ理由で皆に知らせなかったのでしょう? 自分のことを棚に上げて私にそれを指摘するなんて、随分と生意気じゃない」

 

割と痛いところを指摘されたラグナだったが、レイチェルの言っていることに間違いはないので何も言い返せなかった。だが、奉火祭について何も知らされていない勇者たちは二人の会話についていけていなかった。

 

「あの、すみません。誰か、その奉火祭について説明してくれませんか……それで何故天の神を止めることが出来るのかが分からなくて……」

「……まぁしょうがないね。ここまで聞いちゃってたら、教えるしかないっか」

 

少し躊躇気味だったが、真鈴は杏たちにかくかくしかじかと奉火祭について簡単に説明した。勇者たちは当然ながら、その内容について納得するはずがなく、話が終わると一気に騒ぎが大きくなっていく。

 

「ひなたが……巫女たちが奴等に降伏するための生贄になるだと!!? ふざけるな!!」

「そうよ! いくら人類を守るためだからといって、みーちゃんたちを犠牲にするなんて!」

「そもそも女子を6人も生贄に差し出させるなんて……本当に悪趣味ね、神様というのは……」

 

少女たちの慌てる様子を見て、ラグナは苦々しい顔をしながら頭を搔く。レイチェルの言う通り、こういうことになるだろうから奉火祭のことを隠していたのだが、それもここまでのようだ。

 

「とにかくまずはヒナちゃんを助けに行こうよ! 皆で頼みに行けばどうにかなるかも!」

「ならば急いで神官たちに知らせに行かなければな……!」

「そうですね! その後に他の方法を見つけることが出来れば誰も犠牲にする必要なんてありませんし!」

 

このままでは彼女たちは大社へ向かい、何が何でも奉火祭を止めるだろう。しかし大社も邪魔した勇者たちをかつての園子のように現世との接触を極端に減らしたり、東郷たちの時以上に彼女たちの存在の隠蔽を行う可能性がある。

 

場合によっては、完全な記録の抹消もあり得る。そうならないように、彼女たちをここで止める必要がある。

 

「けど、巫女たちの話の感じだとまともに取り合ってもらえなさそうだよね……そこんところをどうにかしないと」

「とにかく殴り込みだ! 巫女たちを犠牲にする儀式なんてタマたちが止めて」

止めろ!!!!

 

話が拡がり始まる前にラグナが声を張り上げた。急な怒鳴り声に少女たちは竦む。静まり返った廊下でラグナは言う。

 

「ヒナタは俺が助けて、大社も天の神も俺が黙らせる! 余計なことをすんじゃねぇ!」

「だがラグナ、いくらお前でも一人ではどうしようもないぞ……!?」

「そうだよ! 流石に皆で反対すれば、いくら大社でも簡単にはその奉火祭だって出来ないでしょ?」

 

棗と友奈の反論に、ラグナは苦々しい顔をしながら訳を話した。

 

「……それで納得する組織ならな。正直、チカゲの件なんて絶対ウサギが出張ってきたから従っただけだと思うぜ。いくら勇者だからって、奉火祭の当事者じゃねぇ中学生のテメェらが反対しても言うことを聞いてくれるとは思えねぇ。もしかしたら、全てが終わるまでテメェらを無理やりどうこうする可能性だってある」

「……先輩の言っていることもあながち間違いではありませんね。確かにあの神官たちなら、皆さんにそういった処罰を与える可能性があります」

「どういうこと、花本さん……?」

 

まるで実体験のように話す美佳に千景が疑問を問いかけると、彼女はすぐに返事した。

 

「私は一度大社から脱走しようとしたことがあるんですが……その時に取り押さえられて一時的に他の巫女から隔離されていたんです」

「そういえば、そんなことあったよね。丁度郡ちゃんが親御さんのところへ帰して療養させようって話が出た時に神官と喧嘩した後って聞いたけど」

「この人も大概だけど……花本さん、貴女も無茶なことをするわね……」

「あの時は、郡先輩を助けたくて無我夢中でしたから……残念ながら失敗に終わってしまいましたが……」

 

申し訳ないと言っているかのように美佳は頭を下げる。この頃は自分が宮司の娘であることを利用して何とか千景の地元での彼女の扱いを少しでも改善するために、彼女の村へ行こうと脱走を図った。しかし神官に見つかったことでそれも出来なかったのだ。

 

「それじゃあ、やっぱり見つかったら」

「……はい。恐らく皆さんもそうなる可能性は高いと思います……」

 

天の神がいつアマテラスを連れて進撃するかも分からない今、大社には戦うための新しい対抗手段を編み出す時間もそれを考えるだけの余裕も残されていない。

 

だからこの会議で結論が出れば、今の自分と同じように大社は強引にでも速やかに計画を実行しようとするだろう。勇者たちが後から何を言おうと、それこそ力ずくで言うことを聞かせない限り、決定を覆すことはない。

 

しかし、それならば彼が一人で行っても意味があるように感じられない。納得が出来ない者たちは憤りのあまりに怒鳴る。

 

「ちょっと待て!! もしそうだというならばラグナ! 猶更お前が一人で行くのは危険ではないか!? そんなことをする必要なんて、どこにもないだろう!?」

「そうですよ、ラグナさん! このまま一人で行くということは、ラグナさんが全ての罪を一人で背負うということですよ!? なのにどうして……!!」

 

必死に説得しようとする若葉と杏にラグナは落ち着いた様子で、事情を何も知らない巫女たちに自身の正体をぼかしながら説明した。

 

「それは違うぜ、ワカバ、アンズ。『俺独りじゃなきゃダメなんだよ』。『この世界の住人』であるテメェらじゃあ天の神ならともかく、今の大社を止めることは出来ねぇ。けど、『居る筈のない者()』ならそれが出来る」

 

仮に大社が彼を攻撃したとしても、元々この時代には本来存在しない彼ならば大した影響を受けることなく彼らと敵対することが出来る。

 

その時に勇者たちが大社を攻撃する前に『独り』で大社に逆らって全てを解決すれば、彼女たちは余計な混乱を起こせない。大社も勇者を攻撃する必要もない。

 

しかし、当然ながらそれは勇者たちにはとても許容できないものだった。

 

「そうじゃない……そういうことじゃないよ……元々ここの人間かどうかとか……そんなの関係ないよ!!!」

 

何が何だか分からずに呆けている巫女たちと違い、強い口調でラグナの言い分を否定するのは友奈。彼女も若葉に続いて声を上げる。

 

「例え元が違う場所の人だったとしても、私たちにとってラグナは同じ場所で出会って、一緒に戦ってきた大切な友達なんだよ!! 生まれた場所が違うから犠牲にしても良いだなんて、そんなこと絶対にないんだよ!!」

 

友奈の熱く、真っすぐな言葉がラグナの心に打ち付けられる。それだけで彼女の言っていることが真実であることが伝わってくる。それでも成し遂げたいことのためにラグナはそれを振り払う。

 

「……悪ぃがユーナ、それでも今回は他の奴らを連れていくつもりはねぇよ。しつこく追いかけてくるようだったら、追い返すからな」

「でも……」

「でももヘチマもねぇよ。今回は絶対に付いて来るな、分かったな」

 

中々考えを変えてくれない彼に困り果てている友奈を見兼ねて、棗が代わりに問いだしてきた。

 

「……だったら何故お前なら大社が言うことを聞いてくれると思ったのか、納得のできる説明をしてくれ……大社がお前を警戒していることは知っているだろう? 私たち以上に話を聞いてもらえるとは思えないぞ」

「……別に何も策がねぇって訳じゃねぇよ。ちょいと大変だが、そいつが上手く行けば、誰も死ぬことなく戦いを終わらせられる」

「大社では思いつかない方法となると……やっぱり魔道書を使ったものなんですか……?」

「ああ、そうだ」

 

ラグナが杏の指摘を肯定するが、彼の秘策がどういう意味なのかが分からずにいる勇者も何人かいた。

 

「ちょっと待ちなさい、ラグナ。貴方の右アームは確か、周囲の生命力やソウルを取り込むものでしょう? それでどうして天の神が降参するの?」

「一人で戦う……というわけじゃないですよね。そうでしたら大社じゃなくて、壁の外に向かっているでしょうし」

 

うたみとが最もな疑問を持っている横でレイチェルは彼のやろうとしていることに気づいた。それはかつて千景を助けた時に取った手段の応用だった。

 

「……ソウルイーターで天の神へ赦しを乞う『人々の願望(祈り)』を喰うつもりね」

「ああ。それで後は右腕を通じて連中に願望を送り込めば終わりだ」

 

蒼の魔道書はソウルイーターの力で取り込んだ魂を使うことで、境界から蒼の力を引き出すことが出来る。なので、その本質は窯のそれに近い。これを利用することでラグナは取り込んだ相手の魂の欠片である『願望』を境界へと送り込むことが出来るのだ。

 

昨夜烏丸から高天原について聞いた時、ラグナはそれが境界だと直感した。アマテラスの召喚や境界の中にも見える炎の海がそれをより強く印象付けた。ならば、かつてと同じ方法で奉火祭を再現できると考えたのだ。

 

「で、ですがそれは安全なのでしょうか? 魂を食べられると聞くとやはり……」

「まぁ代償無しって訳じゃねぇよ。ソウルイーターを使う以上、やっぱり生命力はいくらか持ってかれる。瀕死の奴には出来ねぇ。それと、天の神への願望(祈り)ということは……多分バーテックスや天の神に関する記憶も全部消えると思う」

「生命力だけじゃなくて記憶まで消せるのか、それは……」

「聞けば聞くほど、とんでもない力ね……」

 

流石全ての根源である蒼の力を行使する魔道書というだけはあるということか。因みに話を聞いていた真鈴や美佳たち巫女は話し合っていた。

 

「原理はよく分かりませんが、兎にも角にもラグナ先輩と私たちなら皆を助けることが出来るってこと……よね?」

「そういうことだよね……記憶のことに関しては思うところはあるけど、誰も死なないなら寧ろ願ってもないことだし……それなら巫女の皆と一緒に神官たちに訴えれば……」

 

確かに記憶を消されるのは怖いが、自分たちが頑張れば、上手く行けば誰一人犠牲にすることなく戦いを終わらせることも出来る可能性がある。だがその言葉をレイチェルが否定した。

 

「どうかしらね。先ほどの話を聞いている限り、ラグナは巫女から願望(祈り)を取るつもりはないと思うわ」

 

もしそのつもりだったら、最初から独りで大社に殴り込むなんてせずに巫女を味方に付けるはずだ。そうレイチェルが言うと、ラグナはバツの悪い顔をした。

 

「……何でそんなことまで分かるんだよ、テメェは」

「貴方が分かりやすいからよ」

 

レイチェルの鋭い指摘にラグナは内心冷や汗を搔いていた。実際レイチェルの言う通り、ラグナは巫女の願望(祈り)を喰うつもりはない。

 

確かにひなた以外であれば恐らく巫女から願望(祈り)を奪うことは出来るが、勇者と同じく、大社のことを考えると、あまり巫女たちに頼りたくないのだ。

 

「それで、いったい誰から願望(祈り)を貰うつもりなの? 余程貴方に心を開いていない限り、自分の記憶を勝手に抹消されるリスクを負ってでも願望(祈り)を託す人間なんていないわよ?」

「そうでもねぇと思うぞ」

 

そう。四国にはいるのだ。ラグナの作戦のデメリットですらメリットとなりえ、かつ天の神への想いがある意味強い者たちが。

 

「ふーん? それは誰かしら?」

「――『天空恐怖症候群』患者たちだ」

「……なるほど。ただの考え無しというわけではなかったようね」

 

天空恐怖症候群。略して天恐。天より襲来したバーテックスたちへの恐怖によって起こる精神疾患。勇者や巫女たちの中には家族が患っている者たちもいるからよく知っている病名だ。

 

「……どうして天恐患者なのか教えてくれないかな、ラグナ君。理由によっては、私はそれに賛成することはできないよ」

「真鈴さん……」

 

少し前から天恐から回復している様子を見せるようになった弟がいる真鈴が警戒した様子でラグナにその理由を聞いてきた。彼女が何を考えているのかがすぐ分かったラグナは説明した。

 

「天恐って要はバーテックスと天の神に対する恐怖とか畏れで発症したものなんだろ? そいつは逆に言えば普通の人間よりも強く天の神を意識しているってことだ。だったら、巫女よりも強い願望(祈り)を持つかもしれねぇと思ってよ。そのせいでまともに生活が出来なくなったってんなら、俺が持っていった方が良いと思ったんだ」

「なるほどね。確かに貴方がそれを喰らえば、奉火祭のための願望(祈り)を確保するついでに、原因であるバーテックスや天の神に関する記憶が完全に消えるから天恐も段階に関係なく完治させることができる、ということね」

「そんなとこだ、ウサギ。あるべきものはあるべき場所へ、ってな」

 

つまり、天の神に赦しを乞うために行われる奉火祭を回避するために天の神が原因で現れた天恐を利用しようということである。そしてその過程で天恐もついで直す。しかし、それでも問題があった。

 

「――でもね、ラグナ。そうなると必然的に全員(すべて)願望(祈り)を喰う必要があるわよ。もしも食べ残しがあるようならば、若葉たちが大人になる頃には余計な問題が生まれるわ」

「元々俺は奴等が「分かった」というまで願望(祈り)を喰い続けるつもりだ。全てを喰う必要があるなら、それこそ上等だ」

 

やはりか、と言わんばかりにレイチェルが頭を手で押さえた。その仕草は彼女らしく優雅だが、心の中では普段の数倍はしたない罵詈雑言を吐いていた。

 

なんというかもう、あまりにも予想通りの解答が返ってくるので、注意しないとその内容が口から出そうになっていた。

 

「……なるほど。例え百人でも千人でも問題ないのは腹だけでなく、頭も空っぽだからというわけね……」

「ンだとテメェ。喧嘩売ってんのかよ」

「はっきり言うわよ、ラグナ。貴方のやろうとしていることは四国すべての命を掛け金にした、無謀な掛けよ。いくら貴方が蒼の魔道書を通じて人々の願望(祈り)を天の神へ送ったところで、応えてくれるのは彼ら次第なの。どれだけ願望(祈り)を送ったとしても、彼らが気に入らなければ先に崩壊するのは貴方よ」

「そんな……それじゃあ、本当に打つ手無しってこと?」

 

真鈴はやるせなさを感じた。例えいくら祈りを送り込んだとしても、あちらがそれに了承しなければ何の意味もない。つまり、明確にどれだけの願いを集めればいいのかも分からないということだ。

 

言うなれば、ラグナのやり方は自分と世界を掛けた博打だ。死人が0になる可能性はあるが、どれだけの願いを取り込んでいいかも分からない以上、際限なく送り込む必要があるかもしれない。なんだったらどれだけ足掻いて送ってもだめかもしれない。

 

「……ンなモン、やってみなきゃ分かんねぇだろ。そもそも奉火祭をやったら、確実に誰かが死ぬんだ。だったら最初にこっちを試してみた方が良いに決まってるだろ」

「本当に愚かね……ま、どうせそんなことを言うと思っていたけれど」

 

レイチェルは呆れた様子で小さくそう呟くのと同時に、話を聞いた勇者たちの顔は辛そうに歪む。それに気づいていないラグナは先へ急ごうとした。

 

「もういいか? 分かったらテメェらは先に帰っててくれ」

「ちょっと待って、ラグナ。まだ聞きたい話があるんだ」

「ぁン? 何だよセッカ? 出来るなら手短に頼むぜ、悪ぃけどこっちも時間がねぇんだ」

 

ラグナが何だかよく分からない様子でいると、雪花が彼に問い詰めてきた。

 

「ラグナさ。さっき言ったのって、貴方としてはあくまで『ソウルイーターを使われた人間』のデメリットだよね? 『ラグナ』の方はどうなるのさ?」

「まぁ多少は疲れるが、どうにかなるだろ。少なくても、黒き獣(アレ)になることはねぇよ」

 

ラグナの返事に「アハハ、カッコいいこと言うね~」と愛想笑いをした後に雪花は悲しそうな眼差しで少し凄むように言った。

 

「あのさ、ラグナ。流石にこの期に及んで隠し事とか止めてよね。私たち、もう『知っちゃってるんだ』」

「……何をだ?」

 

雪花の言葉を聞いて、ラグナは彼女たちの聞きたがっていることについて何となく察する。しかしそれについて話すことが出来ないと考えていると、若葉が吐き出すように叫んだ。

 

「まだ隠す気なのか! お前の身体は今大変なことになっているんだろう!?」

「何言ってんだ。身体の調子ならもうとっくに治ってるよ。ほら見ろ」

 

ぶっきらぼうな返答をしながら、元気な様子を見せるためにラグナは左腕をグルグルと振り回す。実際体力に問題があるわけではない。

 

しかし、少女たちが聞きたいのはそんなことではない。それはラグナとて分かっている。それでも更なる不安を生み出さないために身体のことを隠し続ける。そんな彼を見て、千景は真実を話すことを訴えてきた。

 

「お願いだから本当のことを言って……! 貴方の身体は……魔道書に侵蝕されているんでしょう!?」

「ッ!!?」

 

ラグナの眼が見開く。どうしてそのことを知っている。自分はまだ何も教えていないはずなのに。しかしその動揺によって、勇者たちは千景の指摘したことが真実であることを確信した。

 

「……いつから知ってたんだよ……まさか……」

「……ごめんなさい。皆でトランプをしようと、貴方を誘おうとしたときに……偶然、背中を見てしまって……」

「あの時か…まぁ気にすんな。いつかは、そうなるのは解っていた」

 

どこか達観した様子でそう言うラグナに千景は苛立ちを覚える。別に自分たちに身体のことを秘密にしていたことに怒っている訳ではない。それ以上に、彼の態度が腹立たしかった。

 

「……何よ、それ……何でそんな、どうでもよさそうに言うの!? その魔道書が貴方を喰い尽くしたらどうなるのか……分かっているでしょう!?」

「そうだよ、ラグナ! これ以上その魔道書を使ったらラグナの身体、もっと酷くなっちゃうんだよ!?」

 

千景と友奈はラグナに身体の危険を訴える。そんな彼女たちと違って事情を知らない巫女たちはただ困惑していた。

 

「あの、郡先輩、友奈さん、ごめんなさい……魔道書が侵蝕とは?」

 

巫女たちの気持ちを代弁するように出てきた美佳の最もな質問にレイチェルが答えた。

 

「……そこのお馬鹿さんの右腕は、彼の身体を蝕んでいるの。このまま魔道書を使い続ければ……『ラグナ』は『ラグナ』ではなくなるわ」

「それでは……やはり犠牲になるだけということですか……!?」

 

彼が彼で無くなる。それがどういう意味かはよく分からなかったが、美佳には心当たりがあった。5月に現実世界の四国を襲った、巨大な黒い化け物。大社の方でも全容こそ分からずとも、その腕があの怪物と酷似したものだというのは分かっていた。

 

もし彼がアレになれば、それは勇者たちにとって最悪の敵になる。そうでなくても、大社がこの事実を知れば、ラグナをどうするか分からない。しかし、当の本人であるラグナは冷静だった。

 

「ンなモン、全力で使い続けた場合だろ? 願望(祈り)を喰う時はそこまで力は出さねぇよ。それにこれでも器には自信があるから、まだどうにかなると思う」

「器に自信って……こんな時にそんな冗談を言っている場合じゃないですよ!?」

 

友奈に続く形で杏も彼が魔道書を使うことを反対するが、ラグナは首を振った。

 

「そういう意味じゃねぇよ。前にも言ったよな、俺には元々ドライブはないって。そいつはつまり、俺には『そういうモン』への耐性がそれだけ他の奴よりも強いんだよ。だから、俺は蒼の魔道書を使うことが出来るのかもな」

「だからって……このままいくなんて、絶対間違ってます!!」

「それでもやるって決めたんだ……悪ぃが、話はここまでだ。とにかく、これ以上俺に関わるな。帰れ」

 

勇者たちはまだ話がある様子だったが、ラグナは無理やり話を切り上げ、勇者たちから背を向ける。ひなたや神官たちがいるであろう会議室はこの先を進んだ場所にある。足を一歩踏み出して奥へと進もうとする。

 

しかし、そんな彼を危険地帯へ向かわせないように引き留めるものがいた。不意に左腕から自分を強く掴む何かを感じた。後ろへ振り向くことなく、ラグナは突き放すようにその人物を咎めた。

 

「何のつもりだ、チカゲ。放せよ」

「……このまま行かせると思っているの? こうなったら……無理やりにでも止めてやる……」

「その割には武器も持ってねぇようだけどな……悪いけどこれ以上テメェらと遊んでる暇はねぇんだ。放せ」

「そう思うなら貴方も、私を力ずくで引き離せばいいじゃない……貴方の言う通り、今の私には武器も勇者システムもないから、別に難しいことではないはずよ……」

 

勇者システムを起動させるための端末を今、勇者たちは持っていない。病院から脱走する際にGPS経由で居場所を突き止められたら不味いと判断した皆は置いていくことにしたのだ。同時に言えば、今は勇者システムを使うことが出来ない。

 

なので千景の言う通り、ラグナの力であれば勇者システムを起動させていない彼女を強引に引き剥がすことは簡単だ。その言葉に対してラグナは千景の方へ振り向いて怒鳴り返した。

 

「テメェなぁ! さっきから時間がねぇっつってるだろうが! いい加減俺の腕を放しやがれ!!」

 

焦りから徐々に口調が荒くなっていくラグナに対しても、千景は負けじと強く反発する。

 

「貴方こそ、いい加減にしなさい!! 一人で勝手に何もかも背負い込んで、それで潰れてしまうくらいなら、まだ全員で訴えに行った方が良いに決まっているでしょう……!!」

「だからそんな生易しいことが通用するような連中じゃねぇから帰れって言ってんだろうが!!! 何度も同じことを言わせんじゃねぇ、このば「馬鹿は貴方の方よ!!!!」

 

少女のあまりの気迫に、ラグナも返そうとする言葉を引っ込めてしまう。理性という枷が外れた千景は、容赦なく感情の赴くままに怒鳴り散らした。

 

「皆がアレだけ言っているのに、まだ分からないの!? 貴方のやろうとしていることは、間違っているのよ……!! そんな自分勝手な自己犠牲をしたって、誰も納得なんてしない……!! そんな救いなんて……私たちはいらない!!!」

 

千景の叫ぶ様子を勇者たちの誰も止めない。自分たちの言いたいこともまた、彼女の言う通りだからだ。

 

彼女たちだってラグナがここへ一人で来た理由が何なのかを何となく話や態度から理解出来ている。しかしこのまま彼を行かせては、彼は大社からどんな仕打ちをされるかは分からない。

 

ただでさえ大社から危険視されているのに、一人で反逆なんてしたら排除される可能性だってあるのだ。そうなれば、四国全土は彼の敵となり、彼の居場所は無くなる。

 

ラグナもそんな彼女たちの言いたいことが正しいこともよく分かっている。分かっているが、今回は相手が勇者を保護している組織である以上、彼女たちを一緒に連れて行くことなんて出来ない。1人でどうにかするしかないのだ。

 

何も言い返さず沈黙を続ける彼を見て、まだ考えを改めないと感じたのだろう。千景は絞り出すように言った。

 

「いくら皆を守るためだからって……助けられる可能性があるからって……こんなことを繰り返し続けていたら……貴方はいつか壊れてしまう……皆から嫌われながら、蔑まれながら死んでしまうわ……」

 

周り全ての人間が敵ということがどれだけ苦しいものかを、千景は勇者の中の誰よりもよく知っている。あの村で生きていた頃、周りの誰もが千景を蔑み、嫌い、疎み、そして傷つけてきた。

 

それで彼女は深い闇の中へ心を沈め、どんどんと氷のように冷え込んでいくようになった。彼女の心を蝕んだ、悲しい思い出だ。それはソウルイーターを経由して彼女の過去の一端に触れたラグナにも痛いほど伝わった。

 

「皆のために頑張ったのに、最期がそんな結末だなんて、そんなの……あんまりでしょう……!! なのに何でいつもこんな……自分を傷つける道を選んでしまうの……!? 私たちは、私たちを何度も助けてくれた貴方が……『ラグナ君』が一人で傷つきながら、皆から後ろ指を指される姿なんて、見たくないのよ……!!」

 

感情が昂った千景はラグナの名前を口にする。しかし、この際は恥ずかしいという気持ちなんてもうどうでもよかった。これが誰に向けた言葉なのかを、本人にしっかりと認識してもらうためにも、名前を言わないとダメだと思った。

 

「だから……お願いだから……一人で行かないで……もっと……自分のことを、大事にして……」

 

彼女の声がかすれていくのと同時に塩味の小雨がラグナの赤いコートに染み込んでいく。今の千景の言葉は間違いなく、今まで彼と共に過ごしてきた勇者や巫女たちの総意だった。

 

「…………テメェらの気持ちは、よく分かったよ」

 

友達を大事に想う勇者たちが自分の選択を受け入れられないのはラグナにも分かっている。

 

でも。だからこそ、ラグナはこの『選択肢(みち)』を取ったのだ。

 

「――けど、それでも、ダメだ。その願望(ねがい)は聞いてやれねぇ」

「……何で、よ……どうしてそんなに意気地になっているのよ……!?」

 

彼がここ一番の時に意志を曲げないのは今に始まった話ではない。黒き獣が進行するときの時間稼ぎをすると決めた時もそうだった。協力する若葉が離脱する条件を提示するまで自分ひとりで黒き獣を足止めすると言って聞かなかった。

 

一度やると決めたら。約束を交わせば。彼は誰が何と言おうと諦めることなくそれを果たそうとする。そんなことは彼女だけでなく、他の勇者たちもとうに分かっていたことだ。それでも、聞かずにはいられなかった。

 

「何度も言っただろ。今回の件は、勇者にも巫女にも背負わせられねぇ……俺でなきゃ出来ねぇことなんだよ。これからこの世界の『未来』を造っていくテメェらに、これから俺がやることに付き合ってもらう訳にはいかねぇんだよ……それに、例えこの先にテメェの言う結末が待っていたとしても……俺も『あの時』みたいに何もできないまま、後悔することしか出来ねぇのは、もう御免だ……」

 

あの時とはいつのことか。その正体が何なのか、千景にはすぐに見当が付いた。それは玉藻前の能力を経由して覗いた彼の記憶にあった出来事の数々だ。

 

彼は卑劣な誰かから大事なものを全て奪われたことがある。彼は大事にしていたものを全て自分の手で壊してしまったことがある。その時の後悔は今も彼の心に深く烙き付けられている。

 

その過去を今ここで繰り返さないために、彼は『一人』で『全て』を止めようとしている。大切だったもの全てを自分から切り離してでも。

 

「……でも……そんなことをすれば、ラグナ君……貴方はまた『大切なもの』を、失うのよ……もうここには、いられなくなるのよ……その覚悟は、出来ているの……?」

 

未だに意志を曲げないラグナに、その先は辛いだけだと言うように千景が聞くと、先よりも穏やかな声でラグナは否定した。

 

「……チカゲ、それは違う。このまま何もしなければ、俺は間違いなく、ここにある『大切なもの』をどれか失っちまうんだよ……そしてその中に、その価値が分からない馬鹿共にくれてやれるものなんてねぇ。そんなことをするくらいなら、俺は抗う方を選ぶ。俺の『大切なもの』を犠牲にすることでしか『世界』を守れないなら、俺は『全て』を『敵』に回してでも、『全て』を救う『可能性』を『造る』」

 

それを聞いて、誰も何も言い返すことが出来なかった。何があっても絶対に成し遂げるという意志を痛感せずにはいられなかった。

 

彼の話を聞いて、美佳は不意に『トロッコ問題』という有名な倫理学の思考実験を思い出した。

 

走行中に故障した一台のトロッコが線路上を走っていて、その前に分かれ道と進路の分岐を切り替えるためのレバーがある。

 

このまま何もしなければ、トロッコは作業中の従業員5人を轢き殺してしまうが、自分がすぐに分岐を切り替えればこの5人を助けることが出来る。しかし、もう一つの道の先にも従業員が1人いて、切り替えればその人が轢き殺されてしまう。

 

この時に自分がどうするのかについて問うのがこの問題だが、彼の選択はそのどちらでもない。例えるならば、彼のやろうとしていることは世界(トロッコ)の走る運命(線路)を破壊して、新しい可能性(分岐)を造る荒業だ。

 

それはとても難しいことなのかもしれない。しかし、それを彼は本気でやろうとしているのだ。

 

「だから、頼む……手を放してくれ」

 

あくまで千景から自分を放すようにラグナは頼む。彼女は未だに彼を離さないが、それも腕から辛うじて赤コートの袖を掴む程度になっていた。

 

彼の持つ後悔への恐怖はとても理解できる。しかし、やはり彼を行かせたくない。

 

惨めな思いをしたあの日に戻らないために行動しようとする彼の気持ちは、痛いほど分かる。自分だってそのために戦っていた時期があったから。

 

それでも、彼の頑張りを知らない他人に彼が傷つけられて欲しくない。この手を放してしまったら、勇者たちを守ってきた友達が悪者になってしまう。

 

背反する想いがぶつかり合うせいで、彼女にはどうすれば良いのかが分からなかった。でも、どれだけ彼を止める方法を考えても、一度守ると決めたこの男の諦める光景が、全く観測()えなかった。

 

「……命知らず……頑固……馬鹿……本当に、勝手すぎるわよ……」

 

震える声で呟くと、一度コートの袖を強く握りしめた後に千景の手から力が抜けていき、やがて彼女の手は滑り落ちるように力無くラグナの腕から離れた。彼女の言葉に、ラグナは返事をしなかった。返事する資格なんて、彼にはなかった。

 

千景が友奈の方へ引き返すと同時にラグナも自分の行くべき道へと振り向いた。ここに来てから時間がかなり経ってしまった。もう会議は終わっているかもしれない。

 

その時に奉火祭の執行が決まっていれば、次にそれを止めるチャンスは執行当日しかない。そんな情報が得られる可能性が限りなく低いことを考えると、今しか大社は止められないのだ。

 

「……じゃあ、俺はもう行くぜ。テメェらも神官どもに見つかってめんどくせぇことになる前に、早く病院に戻って大人しくしてろよ」

「ラグナ、お前……」

「ラグナさん……」

 

それだけ言うと、ラグナはその場を後にした。どうやって彼を引き留められるかが分からずにいる他の勇者と巫女たちはその背中を見守ることしか出来なかった。

 

奥へ奥へと重い足取りで突き進んでいく。明かりが少し暗くなった廊下で1人、懺悔するように零した。

 

「……済まねぇな」

 

当然人気のない廊下に彼の声に返事する者なんていなかった。代わりに腰元に差してある大剣の刃にあるひび割れから血のように紅い光が仄かに揺らめき出た。

 

 

大社の奥にある社殿を重苦しい空気が支配している。神官たちによる今後の対応についての話し合いが今終わろうとしていた。

 

といっても、話し合いの内容は殆ど奉火祭についてだったので、それは事実上、奉火祭をやるかどうかを決定するための話し合いだった。

 

そんな大人たちの中で浮きだつように、巫女である上里ひなたがいる。凡そ少女とは思えない貫禄を放つも温和な彼女だが、今日の彼女は人形のように表情が感情が読み取れない。普段の彼女を知っている人間でさえも今の彼女に不気味さを覚えるだろう。

 

話し合いが進んでいくにつれて、一人の神官が彼らの勢力の中でも一番大きい派閥のトップである老神官に耳打ちする。こちらからはよく聞こえないが、老神官の返事だけが聞こえてきた。

 

「そうか……ではすぐに捜索の方をお願い致します。こちらも会議が終わり次第、合流いたします」

 

捜索とは何のことだろうか。もしかして若葉たちに何かあったのだろうか。それを考えていると胸の内がざわついた。

 

しかし、先ほど酷な判断を下すことになる自分は彼女たちを探しに行くことは出来ない。老神官が彼女に最後の確認を取る。

 

「それでは上里様。最後に確認致しますが、犠牲となる巫女を上里様、安芸様、花本様、藤森様を筆頭に奉火祭を行う方向でよろしいでしょうか?」

 

自分に注目する神官たちに向けてひなたは事務的に返事する。

 

「他の皆様方に関しては、彼女たちの意志を尊重していただきますが……はい。私は犠牲になることを受け入れます」

 

そう彼女が言うと、神官たちは皆ひなたに向けて頭を下げた。友達を犠牲にするくらいなら自分を犠牲にする。特に若葉に危険が及ぶ可能性があるならば、何が何でも彼女を守る選択肢を取る。それがひなたの選択だった。

 

ひなたはこの数日間、奉火祭について考えた。ラグナを調べる案を採用すれば、大社は彼に想像もつかないほど酷いことをするだろう。レイチェルにいつまでも守ってもらう案を採用して強引に迫れば、千景から家族を奪うことになる。当然若葉たちが戦い続ける案なんて論外だ。

 

故にひなたが取れる選択は結局、奉火祭を受け入れる他はなかった。犠牲の6人も、自分が対象に入ることで5人に減らすことが出来ると考えた彼女は犠牲になることを受け入れた。

 

もし自分が死んだと知れば、若葉たちはきっと失意に落ちるだろう。そうならないように、他の巫女たちやレイチェルに協力してもらって、自分の死を隠蔽してもらおう。愛想を尽かしたなどと言ってわざと若葉と喧嘩し、自分と顔を合わせない理由を作ろう。

 

とにかくあらゆる手法を用いて出来るだけ長く、真実を知った時の若葉たちのショックが少しでも軽いものになれるように努力しよう。例え僅かな時間であったとしても、出来ることはあるはずだと、ひなたは考えた。

 

(……結局、間に合わなかったか……)

 

その様子を烏丸はただ見ることしか出来ない。大社に所属する人間である以上、彼女は目立って巫女を助けることは出来ない。しかし、彼女だってこのまま巫女たちが殺されていくのを黙ってみていることなんてしたくはなかった。

 

彼女は神官だが、普段は大社にいる巫女たちの勉強を見ている教諭の仕事をしていた。未来の世界で例えるならば、園子たち神樹館組のお目付け役だった安芸と同じような立場だ。

 

当然面倒を見てきた身としては教え子たちは助けたい。大社の神官になる前は文化人類学の研究者として将来が期待された大学院生だった彼女は奉火祭について本格的に大社が話し合うようになると、何とか犠牲を回避できないかを調べた。

 

しかし、どれだけ調べても誰かの犠牲を回避できる手段は見つからなかった。最早子どもを犠牲にすることも仕方がないのかと考えた時、彼女はラグナが持つ未知の力を思い出した。

 

彼にはこの状況を変える可能性を持つ未知の力も、事実を知ったうえでどうするかを選択する権利を持っている。もし彼が腕の力を調べさせてくれるなら、最悪戦いが延びる可能性があるとしても、子どもたちを犠牲から守ることが出来るかもしれない。

 

そう考えて彼と会うことになったが、力を教えることについては断られてしまった。途中から非情に徹して、一度だけ脅しに近い迫り方をしたが、それでも彼は屈しなかった。

 

正直、この時点ではもう諦めていた。大人として、もう仕方がないことなんだと割り切るしかないと。しかし、その時に予想のしていなかった答えが返ってきた。

 

何でも彼には誰も犠牲にしない、大社とは別の手段があると言った。態度から大社と協力する気がないことは見え見えだったから、恐らく彼は大社に逆らってでも実行するだろう。

 

当然そんな都合のいい話があるなんて信じていなかった。自分だって見つけられなかったのだから。しかし、彼女は結局子供たちが犠牲にならないという可能性を捨てられなかった。会議の場所と時間を教えたのもそれが理由だ。

 

そうして僅かばかりの期待を抱きながらもいつもの事務的な心の仮面を被って会議に出席した。もうそろそろそれも終わる。どうやらこの期待も、ただの願望(ゆめ)に終わってしまったようだ。神官の一人が最後のまとめに入る。

 

「承知致しました。では後日、選別を行った巫女たちに連絡した後に奉火祭を実行しましょう。各自、準備を早急に推し進めるように」

 

言葉を言い終える前に。突如会議室の扉が派手に吹き飛んだ。木っ端微塵に砕かれたそれは宙に浮き、神官の頭や床に散らばった。

 

「な、なんだ今のは!?」

「まさか、とうとう天の神が襲撃してきたのか!?」

 

本格的に攻めてきたことを危惧して神官たちが慌て始めるのに対して、本来扉があった場所から乱入者の正体が現れた。

 

「……ぇ……!?」

 

その姿を見て、それまで人形のように動じていなかったひなたの瞳孔が目いっぱいに開いた。立っていたのは紅いコートを着た白髪の男。これまで何度も勇者たちを守ってきた男だ。

 

「ラグナ……さん……!!?」

 

いつもよりも顔のしわが増えているように見えるラグナは一瞬戸惑っている自分の方を見た後、一度息を吐いてから神官たちに目を向ける。その周りに若葉たちはいない。彼は今、一人だ。

 

「その話、ちょっと待ちやがれ」

 

ひなたの知るものより少し低いトーンで、ラグナは神官たちにそう告げた。その声に会議室にいた誰もが悪寒を感じた。訳が分からないと言いたそうに神官の一人が彼に所在の理由を聞いてきた。

 

「き、貴様! ここで何をしている!?」

「扉の立て付けが悪くてな。入れなかったからちょっと強引な方法で入ったんだ」

「扉を吹き飛ばしているではないか!」

「仕方ねぇだろ。その方が早いし、こっちだって急いでたんだ」

 

神経質になっている神官たちを前にして、彼は冗句を飛ばす余裕を見せる。しかし、その眼はバーテックスを相手にしているときと同じ敵意を宿していた。

 

「いや、今はそんなことはどうでもよい! それより何故貴様がここにいるのだ!!?」

「暇つぶしがてらに散歩してた時に偶然怪しい神官を見かけてな。ちょっとシメてやったら聞いたんだよ。テメェらが巫女を犠牲にするとかなんとかな」

 

当然これは嘘なのだが、生まれつきの悪人面や普段大社から警戒されていることもあって神官たちはあっさりと信じ込んだ。いったい誰が機密を漏らしたんだとお互いに聞き合っていると、ラグナは話を切り出した。

 

「つーか今はンなことなんてそれこそどうでも良いことなんだよ。それよりその話、マジなんだな」

「……そうだ。しかし、それも仕方のないことなのだ。天の神は人類を抹消する準備を完了させた。このまま勇者様方に戦ってもらうにしても、報告では彼らはこれまでのバーテックスすべての力に加え、未知の力を使うらしい。今の人類では、勝てないのだ」

 

沈痛な声でそういう老神官をラグナは攻めなかった。別に彼はそっちを怒っているわけではない。問題はその後の対応なのだ。自分の友人を犠牲にすることを許容なんて出来ないし、それを押し付ける彼らのやり方が気に喰わないのだ。

 

「我々の話はここまでだ。今度は貴様から聞かせてもらうぞ。奉火祭が気に喰わないという以上、もしやその右腕の秘密について教えるために来たのか?」

 

別の神官が彼を警戒して睨みながら聞いてきた。それに対しても涼しい顔をしながらラグナはきっぱりと断った。

 

「悪いが、そんな気はねぇよ。テメェらに教えるものなんて何もねぇ」

「ならば我々の邪魔をしないように、ここで大人しくしてもらう。事態を変える『力』がないならば、貴様にはもう、何も『守る』ことも『救う』ことも出来ない」

 

神官の一人がそう言うと同時に他の神官たちの何人かが彼を取り押さえようと立ち上がる。他の者たちも、彼から視線を外したりはしない。

 

(何故……ここに来てしまったんですか……!?)

 

その中には当然、ひなたもいる。今の彼女には彼を庇うことは出来ない。彼は他の人間であれば知らないであろうこの場に来てしまった。こうなれば例えどれだけ庇ったとしても、神官(大人)たちはひなた(子ども)の言うことなんて聞かない。どんな仕打ちを受けるかもわからず、助けることも出来ない。

 

今の彼女は心の中で祈ることしか出来ない。もういいから早くここから逃げて、と。友達が危ない目に遭うくらいなら自分は犠牲になることを受け入れるから、と。

 

しかし、ラグナは逃げる素振りを見せない。代わりに彼は囲まれた中でいつもの不愛想な顔つきのまま、啖呵を切って見せた。

 

「守れねぇ? 救えねぇ? 勝手なこと抜かしてんじゃねぇよ。俺がここへ来たのは、テメェらのやろうとしてることを止めて、アイツらも世界も救うためだ」

「その方法とは?」

 

神官たちの喧騒の中から烏丸がそう聞くとラグナは右腕を翳し出して言った。

 

「こいつを使って、俺が四国の……『全て』の『願望(祈り)』を喰って、天でデカい面をぶら下げてやがるあの鏡野郎に送れば……奴を大人しくすることが出来る! アイツらの戦いも終わって、世界も救うことが出来る!! 誰一人、死なせること無くな!!」

「……」

 

何とも荒唐無稽な話だろう。そう烏丸は思った。しかしその眼がどこまでも本気だということも彼女には伝わっていた。彼の強い意志はどこか可能性を感じさせるものだった。

 

「そんな馬鹿な!!? そんなことが出来る筈がないだろう!! 貴様の言っていることは確証のない妄想だ!!」

 

しかし、いきなりの暴露に他の神官たちはまだ疑いの目を向けていた。いくら未知の力を使うからといって、そんな『奇跡』みたいなことが出来るなんて到底信じられるものではなかった。そんな彼らの言い分にラグナは返す。

 

「じゃあ、テメェらの奉火祭が成功するかなんて誰が保証してんだよ? 天の神が大丈夫だとでも言ったのか? それとも神樹か? 悪いが、神様の御告げや神話のまま事なんて馬鹿げた理由のために、ヒナタたちを渡すつもりはねぇぞ!!」

「ラグナさん……これ以上はもう……!」

 

激しい言い合いを神官たちと繰り広げるラグナ。これ以上は不味いと思ってひなたもその場を収めようとする。その時に、神官の一人が言った。

 

「やはり貴様は何もわかっていない! 古来より神は人の心を疑い、試すもの! 服従すると決めたなら、我々は全力で服従の意思を示さなければならない! そのためには、少なくとも上里様の犠牲は必要だ! そうでなければ」

「おいテメェ」

「何だ、ってひぃ!?」

 

犠牲が必要、と力説していた神官は怯えた声を漏らしながら黙り込む。神官の台詞の続きを聞きたくなかったラグナが獣の牙のように鋭い眼光で彼を射抜いていた。大剣に手を掛けていて、これ以上話を続けていたら力尽くで止めるつもりなのが目に見えた。

 

「……それ以上、その下水みてぇな臭いをした口から胸糞悪ぃことを抜かしてみろ……ぶっ飛ばすぞ……!!! テメェらがこうして平和に生きていられるのは、世界(テメェら)が押し付けてきた願望(祈り)をアイツらが……巫女と勇者たちがずっと背負ってきたからだって忘れんじゃねぇ、この馬鹿が……!!!」

 

神官の言葉はラグナの逆鱗に触れるものだった。自分の仲間をまるで使い捨ての道具のように言うその物言いを、心底赦せなかった。

 

巫女と勇者(アイツら)は、何も感じねぇ空虚な『人形』でも、使い捨ての『道具』でも、都合の良い『生贄』でもねぇ!!! テメェらの勝手で、俺の『仲間』の価値を決めてんじゃねぇぞ!!!」

 

怒りのままにラグナは叫ぶ。彼にとっての『大切なもの』。それはこの世界に来てから出会った懐かしい家族と新しい仲間達だった。

 

この世界に来てから、初めて学校へ通うようになった。勉強は正直かったるかったが、仲間たちと過ごす平和な日常はあの世界では味わうことの出来なかったもので新鮮だった。異世界の別人とはいえ、自分の弟妹が友達と遊んで、楽しそうにしている様子が間近に見れた。

 

その時に過ごした思い出はどれも、一面広がる花畑のように色鮮やかで、星のような煌めきを放っていた。正直な話、それらは前の世界のラグナから見れば、文字通り『願望(ゆめ)』のような叶わないものだった。

 

「だ、だが! 天の神は人類が完全に屈服したかを試す時に必ずや我々に服従の証を求めてくる! だから我々は手を出し惜しみなどしていられない! 貴様のように代償も払わず神に服従を示そうなどと嘯く者の言葉を聞いてなどいられないのだ!」

 

反論する神官の一人に、他の神官たちも頷く。どうやら天の神と大社は何が何でも生贄を求めてるようだ。それを聞いてラグナは舌打ちするが、それでも諦める様子は見えなかった。

 

「……要は空の上で踏ん反り返ってるアイツらを認めさせりゃ良いんだろ? 上等だ、やってやろうじゃねぇか。テメェらにアイツらも世界もどっちも守ることが出来ねぇなら……俺がそれをやってやる……!」

 

世界を取り戻すために、そして友達を守るために、今しなければならないこと。それをラグナは分かっていた。

 

部屋にいる全ての人間が、いや、『全て』が青年に眼を集中させている。神官たちの中には般若のような形相で彼を睨んでいる者もいた。怒り、恐怖、憎悪。そんなものが籠もった視線の集中砲火を喰らう。

 

最もそんなものにラグナは怯んだりしない。寧ろ不敵に連中を睨み返してやった。

 

「全ての『願望(祈り)』を、俺が喰い殺す……! 例えそれが、『神の願望(祈り)』であってもだ! その時に俺の邪魔をするならまだしも、アイツらに少しでも妙な真似をしてみろ……例え天の神が赦そうと、神樹が赦そうと、俺は絶対にテメェらを赦さねぇからな!!」

 

それは世界への宣戦布告という反逆の狼煙であると同時に、世界を守護(まも)る誓いだった。それを聞いて、神官たちは恐怖と怒りで声を震わながらラグナを罵る。

 

「この……『鬼』め!!!! 『化け物』め!!!!」

「『鬼』?『化け物』? ハッ、そんな『雑魚』と一緒にしてんじゃねぇよ」

 

この時の彼が世界により観測されたことで、これより300年先のラグナが生きてきた事象は『確立事象』となった。多くの勇者が死を回避した事象。勇者以外に戦う者がいる事象。これより先に生まれた可能性はこの事象が確立したからである。

 

それが生まれたのは彼が仲間たちを巻き込まないために独りで来たことにある。1人だけだから、全ての『悪』が『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』へと収束していった。故にこの事象は確立した。

 

「覚えておけ……『大社』、『神樹』、そして『天の神』」

 

世界を管理する全ての者たちの眼が注目する中、彼は後に300年後の未来まで残る叛逆者の称号である自身の名前を告げた。

 

「俺は全ての……『全世界の敵』――」

 

世界の破壊者にして蒼の男――

 

「――『死神』『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』だ」




……のわゆを書いていたはずなのに、勇者の章みたいになってしまった……まぁ、勇者の章は峡真(ハザマ)&レリウスがいるから大分展開が変わると思うので被りはしないと思います。

右腕は万物を焼き尽くす炎を内包した窯。焚き上げるのは赦しを乞う天への祈り。そしてそれを燃やすのは死神です。

次回ですが、置いて行かれた勇者たちのターンです。どうしても用事が出来てしまうので、次の更新まで時間が空きますが、ご理解をいただければ幸いです。それではまた。
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