いまだにしおりの示す意味が分からないへぼ作者ですがこれからもよろしくお願いします。
さて今回は瀬戸大橋跡地の合戦。タイトルの時点でか~な~りやばい予感がするが、後半の展開が原作と若干変わります。
今回の話で初めて1万字になってしまいました。次はできればもう少し短めに書きたいな。
それではどうぞ
The wheel of fate is turning
Rebel...1...Action!!
「テメェら、準備はいいな?」
『バッチリ!』
「よし、行くぞ!!」
ラグナ、刃、園子、銀は前線へ、須美は新しく手に入れたライフル「
一体は紫の身体と帯電させた尾を持つ牡羊座の怪魔「アリエス・バーテックス」。もう一体は水の中を移動しながらこちらに接近するクラゲのような魚座の海魔「ピスケス・バーテックス」。そして最後に奥に潜むのは獅子座の太陽「レオ・バーテックス」だ。
開始早々こちらに接近するピスケスを須美が狙い撃つ。そこを刃が出る。
「早速使わせてもらうぞ!」
「『オーバードライブ』!!!」
刃が術式を早速開放した。頭部を打ち上げられたピスケスが再び潜水しようとする。しかしその前に刃がユキアネサを地面に突き刺して敵を水ごと凍らせ、氷の檻に閉じ込めた。
「『
動きを封じられて何もできなくなったピスケスに対して、刃がさらに連撃を叩き込む。
「『
以前のものとは比べものにならない大火力にピスケスは怯む。しかし敵もやられてばかりではない。すぐさまアリエスが電撃を刃に放った。
「ジンジン、後ろに入って!!」
園子がすかさず刃を庇う。このままでは攻撃をマトモに食らってしまう。しかしそうならなかった。
「はあ〜良かった。ありがとうセバスチャン〜」
彼女の精霊である烏天狗が守ったからだ。これが神樹様によって与えられた新しい力の一つ。勇者たちをあらゆる攻撃から守ってくれる「精霊バリア」だ。
「ジンジン、大丈夫!?」
「ああ…『貴様』が心配する程のことにはなっていない」
「あれ?ジンジン?なんか口調が変わった気が…」
どこか好戦的な口調で返事する刃だが、敵は待ってはくれない。ピスケスが辛うじて氷で塞がれていない身体の穴からガスを噴出させた。
「なんだこれ!?ガス!?」
「これは…!!綾月君、刃君!!今すぐ逃げて!!」
「承知した!」
「どういうことだ!?」
「いいからラグナ!!アタシの斧から跳べ!!」
ラグナは須美の言葉を聞いて銀の斧を蹴ってジャンプし、刃も氷で身体を守る。直後にアリエスの放った電撃にガスが引火。広範囲の爆発が起こった。
「マジかよ、クソッ!!」
「本当…バリアがなかったら大変なことになってたな…」
あの無茶な回避はバリアがなければとても出来るものではない。なかったと思うと勇者たちはゾッとしていた。動けなくなったせいかガス噴出の固定砲台になることに徹したピスケスが再びガスを放出した。
「そうはさせるか!『デッドスパイク』!!」
だが今度はラグナが黒い衝撃波のようなものを飛ばしてピスケスの手前で爆発させた。それを見た須美の心に一抹の不安がよぎった。
(綾月君のあの技…まるであの『蛇』みたい…)
一瞬見えた技は何本もの鋭い牙を持つ『怪物』の頭のようだった。だが今はそんなことを考えている場合ではない。まだ敵が目の前にいるんだ。
「あのデカブツ…何で全く動かねーんだ」
「仲間と協力するタイプじゃないのかな?」
「どちらにせよ…やることは変わらん」
ラグナたちは訝しんでいた。何故かは知らないが、一番後ろで鎮座しているレオは全く動きを見せない。何もしないならばそれでも構わないが、以前のように機会を窺ってこちらの不意を突く可能性もある。
「!!あのエイ野郎!空中へ逃げやがった!」
「わっしー、お願い!」
「任せて!」
須美がライフルでアリエスを撃ち落とし、そこを銀がさらに跳躍して間合いを詰める。
「これでも喰らえぇぇ!!!」
懐に潜り込むことに成功するとそのまま銀は斧による連撃をお見舞いした。身体の至る所を切り刻まれ、アリエスも堪らずダウンする。だがそこで『奴』は動いた。
「あのデカイ屑が動き出したぞ!!」
「ここからが正念場ってか!」
ラグナたちはレオが動き出したことで警戒をさらに上げた。レオは自身が持つ門のようなものを開いた。太陽の表面のような中身から無数の蛆のようなものが火を帯びながらこちらに突っ込んできた。
「何だこの数は!?」
「クソッ!防ぎきれない!」
「無駄に数など増やすとは…!」
このままでは勇者たちはいずれ力尽きてしまう。特に危険なのはラグナと刃だ。この2人にはバリアがない。
ラグナはそもそも先刻のように烏天狗に叩かれたことから、精霊に嫌われている可能性がある。だからそもそも精霊が守ってくれる保証がない。
刃は武器に精霊を憑依させているような状態だが、それでも精霊が彼を守ってくれるわけではない。
そういう意味ではこの2人攻撃性能は高いものの、防御性能は勇者たちに比べれば低いのだ。特にラグナはドライブのソウルイーターによる回復能力はあっても自分を守る手段がほとんどないため、事実上の紙装甲である。
「クソがッ!!」
「ッチ!!」
「ラグナ!!刃!!」
「ラッくん!!ジンジン!!」
「綾月君!!刃君!!」
バーテックスもそれに気付き始めたようだ。その証拠にそれまでは全体を満遍なく攻撃していたのに、しばらくしたらラグナと刃を執拗に攻撃し始めた。しかもアリエスとピスケスが再び活動を始めようとしていた。
今はまだなんとか持ち堪えているが、いつかそれも限界が来る。勇者たちの頭にレイチェルの言葉が去来する。
『満開はできれば極力使うのは避けなさい。貴方たちはまだ『こんな』ところで『咲く』には…早いわ』
「…使おう、満開を」
「…うん。このままじゃ、2人が危ない」
「ええ…行くわよ!!」
『満開!!!』
使えば自分たちがどうなるのかはわからない。でも使わなければ2人がどうなるのかはわからない。それが彼女たちを決意させた。少女たちの叫びが木霊すると同時に眩い光に包まれ、光の中から一際大きな華が咲いた。
「テメェら…このバカ野郎…!!」
ラグナはそれを見て悔しさのあまりに悪態を吐く。レイチェルがわざわざ警告するということは間違いなくあの機能には何らかの秘密を抱えているということだ。だから出来る限り自分と刃で敵を倒そうとしたが…結局このザマだ。
三人の衣装は巫女や神官に近い『白装束』へと変わり、武装も全体的に大型化した。須美は複数の大砲を持つ巨大な飛行ユニット、園子は槍がオールになっている船、銀は何本かの斧が周りを旋回している4本の腕を持つユニットに乗っていた。
それに気付いたバーテックスたちが勇者の方へと向かう。はじめにアリエスが須美に電撃を放つが、やはりバリアで防がれた。
「お前たちの攻撃は…もう私たちには届かない!『護国弾・穿通』!!!』
今度は須美が大砲からエネルギーを収束させ、それでアリエスを撃ち抜いた。致命傷を負ったアリエスから七色の光の柱が登り、身体は砂になった。
「今度はこっちの番だよー!『愛煌槍刃』!!!」
次に行動に移ったのは園子だった。オールの槍を氷から脱出しようともがくピスケスの周りに展開。園子の動きに合わせて四方八方から串刺しにされた。今度は銀がレオと激突する。
「うおおおおお!!!喰らえ、必殺!!『闘魂星砕き』!!!」
銀の周りの斧が合体し、並みの大型バーテックスと同等の大きさまでに巨大化した。それを手に取ると銀は上段の構えをとり、斧で上から思いっきり切り裂いた。
しかし、レオだって黙ってやられるつもりはないのか、攻撃が命中する直前に後退。その後も後退を続けている。それでも大きく切られた跡があり、身体の一部が重みで千切れそうになっている。
「くっ!あと少しだったのに!!」
「でもこれであとはあいつだけ…っ」
「わっしー!?…ああっ!?」
あと少しで敵が倒せるところ、勇者たちが落下し始めた。突然の出来事にラグナと刃は混乱したが、そんなことを言っている場合ではない。2人はそれぞれ一番近い人物の元へと駆けつけた。
「オイ!ギン!ソノコ!スミ!どうした!?」
「これって…」
「兄さん!!大変だ!鷲尾の足が動いてない!!」
「んだと!!?」
「あれ…ラッくん。私…右眼が…」
「参ったな…右腕が全然動かないや…」
勇者たちが次々と身体の不調を訴え出していた。全員共通しているのは体の機能の麻痺、そして全員が「満開」を行なっていることだった。その時、ラグナはレイチェルの言葉の真意を知った。
(ウサギが咲くのに早すぎるっつってたが…まさそういうことなのか!?)
普通の花が咲いた後、どうなるのか。答えは決まっている。『散る』のだ。永遠に咲く花などこの世界には存在しない。いたとしてもその花は生きていないものだけだ。
それと同じことが彼女たちの身体にも起きていた。彼女たちは神の力をその身に宿す代わりに自らの身体を捧げたのだ。自分たちを…助けるために…
「クソがっ…!!!」
漸く言葉の意味を理解したラグナは床に拳を叩きつける。それを嘲笑うかのように、レオがダメ押しと言わんばかりの大量の敵の放つ。ラグナはすぐさま刃に向かって叫ぶ。
「おいジン!!あとは俺たちでなんとかするぞ!!」
「ああ!!オーバードライブ!!!」
再び刃もオーバードライブを発動する。周囲が猛吹雪のようになり、接近してきた敵からもどんどん火が消えて最後に凍りつく。敵の方もキリがないと判断したのか、一度攻撃の手を止めた。
「攻撃を止めた…?」
「待って兄さん!!アレ!!!」
「んなっ!?」
レオは熱を収束させていて、巨大な火球を作り出していた。こんなものをマトモに食らったら勇者はもちろん、樹海もタダでは済まない。ラグナの顔にも焦りが見え始めた。火球を放つと同時に刃も大技を放つ。
「氷翼月鳴!!!」
両者の一撃は衝突し、凄まじい爆風と熱が発生した。ラグナと刃も後ろは吹き飛ばされ、身体にも疲れが出始めていた。今の一撃で刃のオーバードライブも解除されてしまった。ラグナたちはレオたちの方を見ると…
「嘘…だろ…」
「そんな…」
「大橋が…」
「消えた…いや」
「奴の攻撃で…吹き飛ばされたのか!!」
そう。大橋を形成する部分の樹海が消え去ったのだ。樹海は現実世界とも密接しているため、当然ながらこの出来事は現実世界でも起こっている。とうとう大きな被害が出てしまった。
それなのにレオはまだまだ元気なのか、すぐさま攻撃方法を切り替えて敵の放出を再び始めた。それを見て勇者たちは再び「それ」を使おうとする。
「そのっち!銀!まだ行ける!?」
「やめろ、テメェら!!」
「いつだって行ける!!」
「うん、行くよ!!」
「止せ!!!」
『満開!!!』
ラグナたちの制止を振り切って再び少女たちは「咲く」。
「ミノさん!!あれに向かって突っ込んで!!」
「あいよ!!」
「わっしーは私と一緒にミノさんの援護!!ラッくんとジンジンはミノさんのユニットに乗って!!」
「…おう!!」「ああ!!」
銀は正面から敵に突っ込み、敵はそれを数で進路を妨害する。銀の周囲の敵を須美が砲撃で撃ち落とし、前面は園子が盾を作って守る。レオは再びあの巨大な火球を放った。
「『護国弾・穿通』!!!」
そこを須美が渾身の砲撃で相殺する。だが今の一撃で須美はエネルギーを使い果たしたのか、飛行ユニットがゆっくりと落下する。
「皆、…お願い…あいつを倒して…!!」
『任せろ(て)!!!』
意識が薄れていく彼女に彼らがそう答えると、レオは再び火球を形成しようとしていた。そのとき、銀の頭に電流が走った。
「刃!!!アンタを投げるから何でもいい!あいつを止めろ!!」
「御託は良い、早くやれ!!」
「どっせーーーーーい!!!」
ユニットに乗っていた刃を銀は思いっきりレオの方へ投げつけた。そのまま突貫するのはバーテックスとて誤算だったが、所詮は氷を使う程度で殺すことが可能な衛士。火球ができれば蒸発させられるだろう。そう腹を括っていたかのようにレオはエネルギーの収束を止めない。
だが彼らは忘れていた。刃にも切り札とも呼べる大技があることを。
「オーバードライブ!!!」
再びオーバードライブを発動させた刃は剣を抜き、そのままレオにユキアネサを突き刺した。すると瞬時にレオは凍り付き始め、どんどん氷も広がった。レオの体が全体的に凍り付くと刃は剣を収めた。
「煉獄氷夜ッ…!」
レオは氷の監獄の中に閉じ込められて身動きが取れなくなり、超低温によって火球も作れない状況になった。だが当の刃はオーバードライブの過剰な使用と戦闘の疲労からか、最後の力を振り絞って飛びのいた後にそのまま落下した。
「あとは…頼んだ!!」
「うん!!決めるよラッくん!!!ミノさん!!!」
『おう!!!』
まず攻撃したのは銀だった。
「もういっちょ喰らえ!!闘魂星砕き!!!」
銀が氷ごとレオを両断する。中心に溝ができてそこから空気が入るため、レオも最後の悪あがきに敵を出そうとする。だがその前に一人の男が大鎌で溝の中へ突入した。
「『ブラックオンスロート』!!!」
大鎌を振るうラグナは初めの重い一撃のあと、そのまま二度三度とレオを内部から切り裂いていく。
「『ブラックザガム』!!!」
ラグナが大鎌を振り上げると蒼の魔道書の力が増大していく。ドライブのソウルイーターによってレオの力が猛烈な勢いで奪われていく。周囲から見えるラグナの姿はまさに黒く変質した「獣」だった。
「『ナイトメアレイジ!!!』」
大鎌、いやソウルイーターによって収束された力を全て乗せて、ラグナはとどめの一撃をレオに加えた。
「…『ディストラクション』!!!」
味方を呼び出すための門が木っ端微塵に破壊されてしまったことで人海戦術を使えなくなったレオは氷の檻から叩きだされた。そこへ園子が最後のダメ押しとばかりに船で突進してきた。
「『破蕾槍刃』…ここから…出て行ってぇぇぇぇ!!!」
園子の船は白く輝きだすと、一羽の巨大な鳥に変化して敵を壁の外へと押し出した。そのまま両者は壁の奥深くで激突し、轟音とともに巨大な爆発が発生した。
「やったか!?」
「さあね…あれだけの攻撃を喰らっても平気なら奴さん、相当な化け物だよ」
ラグナと銀は倒れた刃を救出しに来ていた。バーテックスが撃破されたかどうかは分からないが後ろで待っている須美の様子が心配だ。銀は先ほどの満開でどうやら左足が完全に使い物にならなくなったため、ラグナが提案を出した。
「その足じゃ危険だし、俺が行ってくるぜ。ギンはジンを連れてスミと合流してくれ」
「分かった。そっちも気をつけろよ」
「何…あれ…」
園子の前には奇妙な模様の入った四角錐が浮かんでいた。先ほど体当たりを喰らわせたバーテックスはどこにもおらず、代わりにこれが出現した。こちらを攻撃してくる様子はないが、なぜかこれからは不気味な雰囲気を感じた。
「おい、ソノコ!無事かっ!!」
「あ、ラッくん。大丈夫だよ~」
「おい。なんか顔色悪ぃぞ?…まさかさっきの満開で!?」
「…大丈夫だよ~」
ラグナの心配に園子が何でもないと返す。二人が合流するや否や四角錐は二人から離れるように浮遊していった。
「待ちやがれ…!」
「逃がさないんだから…!」
四角錐を追って壁の外へ出たラグナと園子が見たものは
「………え?」
「なんだよ…これ」
火の海と化した世界だった。そこではバーテックスが無尽蔵に湧き出ていて、以前自分たちが倒した大型の敵も新しく作られていた。地表もまるで太陽の表面のように灼熱に覆われていて、コロナのような渦も立ち上っていた。
「そんな…」
(ウサギの野郎…あれでも優しめの表現だったってか…!!!)
レイチェルは外の世界が炎の結界で覆われていたと言っていたが、目の前の光景はラグナの知る限りのどの結界よりも大規模なものだった。今目の前のこの世界は文字通り神のために存在していた。そういわれても否定できなかった。だが…悪夢はこれで終わりではなかった。
「どういう…!!!」
「どうした、ソノコ!?」
「心臓…動いてない…」
「なんだとっ!!?」
先ほど園子が満開で失ったもの。それは心臓だった。そんなものを失えば普通の人間はたちまち死んでしまう。それなのに園子は生きていた。その事実から園子は最悪の真実にたどり着いた。
「…そういうことか」
勇者の中でも一際頭の回転の速い園子は悟る。満開によって自分たちがどうなっていたかを。そしてその結末も。レイチェルはおそらく自分たちが戦いへ赴く直前にそのことに気付いたのだろう。そして…あのわずかな瞬間で出来る限りの注意を残した。
(それでも…まだよかったかな)
最後に彼女が与えた警告のおかげである程度使う前に覚悟を決めることができた。大切な友達を守るために力を使うことができた。だが、運命は無慈悲だった。
「おい…どういうこt…ガアッ!!?」
「ラッくん!?どうしたの!?」
「ソノ…コ!!離れ…ろ!!!」
突然右腕を押さえつけるラグナが苦しみだした。よく見ると右腕から黒い炎が立ち始め、今までにない量の瘴気をまき散らしていた。ラグナの横顔も黒い瘴気が包みはじめ、獰猛な目つきの獣に見える。腕も不自然に暴れており、「何か」を吸収し続けているようにも見えた。
(一体どうして…あれは!!?)
そのとき、園子は見えた。ラグナの右腕の方へと炎が吸い込まれていく様子を。いや、それだけではない。大量の力が蒼の魔道書へと集まる。それも「際限なく」である。腕に集まる力の量に耐え切れず、ラグナは膝をつく。自分でもそれなりに注意していたが、まさか壁の外に出ただけでこうなるとは思っていなかった。
もがき苦しむ彼の姿が見えたのか、完成したばかりの大型バーテックスが彼のもとへ集まっていき、小さな蛆のような「星屑」も押し寄せてきた。
「グッ……あああぁぁぁぁぁ!!!!!」
ラグナの腕が巨大な獣のそれになって星屑たちを容赦なく薙ぎ払った。黒い瘴気に飲まれた星屑も例外なく彼のエネルギーとして吸収されていった。
「グルルルル……」
バーテックスたちも慎重になる。目の前のそれはもはや人間ではなく、神に等しい怪物だ。ラグナは獣のような低い唸り声をあげている。体中から漏れ出ている瘴気はとどめるところを知らない。神樹の力を吸い取っているためか彼が居座っている位置の輝きが落ちていた。
「ごめんねラッくん!!ちょっと荒っぽいことするよ!!」
これ以上彼をここにいさせるわけには行かない。園子はラグナの襟首を掴み、抵抗する彼を無理やり神樹の中へ連れ戻した。
「ここは…どこなの…?」
須美が意識を取り戻すと樹海の中で一人佇んでいた。いつの間にか勇者システムが解除されており、神樹館の制服に戻っていた。混乱している様子の須美に最初に気付いたのが銀だった。
「おーい、須美!!大丈夫かー!!」
「…あ」
「う…うん。ここは?」
「おッ、刃!気が付いたか?」
「まあな。それよりも兄さんたちは?」
「ラグナは園子と一緒に敵さんにとどめを刺しに行ったよ。もうそろそろ帰ってくるはずだけど」
「そうか…」
「あの…」
「ん?どうしたんだよ須美?ポカンとした顔して」
銀は何気なく須美にそう問いかけると、須美の返答で心にフェイタルカウンターを喰らった気分になった。
「『貴女たち』は…だれですか…?」
『……え?』
自分たちにまるで初対面の人間と会話しているかのように話す須美に二人は驚きを隠せない。この状況で須美がふざけているようにも見えない。つまり『本当に』覚えていないという可能性がある。
「嘘だろ…記憶まで取られるのか」
「クソっ!!!」
お互いボロボロの中でさらに仲間の記憶喪失に心を打ちのめされているところを悪夢がさらに襲来する。
「ミノさん!!わっしー!!ジンジン!!大変だよー!!」
「園子!!ごめん!!悪いけどこっちも大へ…っておい!!大丈夫かラグナ!?」
「鷲尾に次いで…兄さんまで」
ラグナの異常を見て二人は戦慄する。須美に至っては恐怖すら覚えている。ラグナの体の異常は壁の外にいたときに比べたら少し治まっていたが、それでも獣のような唸り声と溢れんばかりに出てくる瘴気は健在だった。焦る彼らを余所に壁の外で出来上がったバーテックスたちが次々と壁を越えてこちらにやってきた。
「おい!?あれって今まで倒してきたやつらじゃ!!?」
「まだ生きていたのか!!」
「…ううん。違うんだ。もっと…よくないことが起きていたんだよ」
園子の言葉に二人は言葉を失った。敵が実は生きていたよりもよくないことって何だというんだ。そんなことを考えていると先に動いたのはラグナだった。
「グッ……グオオオおおオオアあああああァァぁァ■■■■■■■■!!!!!!!」
左手に剣が変形した大鎌を携え、禍々しく巨大化した右手を形成したラグナは完全に理性を失ったのか。十二体のバーテックスに突撃し、縦横無尽に駆けながら彼らを樹海諸共薙ぎ倒していた。当然ながら残り少ない大橋の一部は無残にも削れていく。
「ミノさん…私行くよ。ラッくんを止めなくちゃ」
「…そういうと思ったよ。そういうことならこの三ノ輪さん家の銀さんも付き合うぜ」
「ミノさん…ありがとう」
「気にすんなって。アタシは借りを返すだけだし」
銀の意志を聞いた後、園子は刃に主として命令を下した。
「…ジンジン。わっしーのことをお願いね」
「ふざけるな、貴様!!僕も行くにッ…グッ!!」
「頼む刃。今の須美の様子を見たらわかるだろ?こんな状態でほったらかせないよ」
「…貴様らはどうなるんだ?」
「私たちは『死なない』から大丈夫だよ。絶対に。だから、待ってて」
「…帰ってこなければ承知しないからな」
「でも…!」
「大丈夫」
怪物のもとへ向かおうとする二人を須美が止めようとする。それを園子が優しくなだめながら告げた。
「あとは私たちが何とかする」
そう言いながら園子は須美が手に持っていたリボンを彼女の手首に結わえた。
「私は乃木園子。貴女は鷲尾須美。この娘は三ノ輪銀。その子は如月刃。そして…あそこにいるのは綾月洛奈」
「アタシらは何があっても友達だ。ズッ友、ってやつさ」
少し後ろの様子を見るとラグナの様子に変化が現れた。それまで一切止まる様子を見せなかった彼がなぜか苦しみだしたのだ。今なら、彼を止められる。だが相手は単騎で実にバーテックスの内、7体をすでに倒してしまっている。危険には変わりないだろう。
「ああ…じゃあ行ってきますか!!」
「うん!」
(そう…何度『死んでも』いい。だって…絶対に『死ねない』から)
(アタシたちは…『生かされている』のだから)
そう言って園子と銀はラグナの方へと向かう。黒い怪物と化した友人を助けるため、彼女たちは再び神の力をその身に宿す。
『満開!!!』
眩い光を放つ二人が閃光となってラグナのもとへ向かうと、膨大な光が発生し、それに飲み込まれた須美と刃は再び意識を手放した。
(ここは…?)
暗闇に囲まれながらラグナは朦朧とする意識の中、自分の現状を探った。
(そうだ…俺は壁の外に出て…そこで世界が火の海になってて…ソノコの心臓が動いてないと聞いて…それで)
記憶を探っていると闇の外の様子が見えた。そこでは少なからずバーテックスを蹴散らしながら自分の方へ向かってくる園子と銀がいた。
(待て…来るな!!)
何とか攻撃しまいと自身を抑えようとするラグナだがそれでも獣は彼女たちをバーテックス共々薙いでいく。そのとき、園子を庇って自分の攻撃を正面から受け止めた銀の変身が解除してしまった場面が見えた。またしても彼女は何かを失ってしまった。しかも今度は
(俺のせいで…チクショー…!)
自分がふがいないせいで、誰かの何かが失われた。またしても自分は「奪ってしまったのだ」。
(なんで…こう上手くいかねんだろうな)
自分の無力にラグナは思わず落胆した。たとえどこの世界にいっても、自分はだれかのものを奪い、壊すことになる運命にあるのだろうか。罪悪感がラグナの心をむしばみ始めた。
そんな時だった。見覚えのない人影が現れた。髪の長い女性で、見た目からにして今のラグナより少し年上に見えた。意識が消えそうになる中、その人影の口は開かず、その声は直接ラグナの頭に流れ込んできた。
ー 諦めないで ー
聞いたことのない女の声だった。言葉の意図をいまいち掴めないラグナが混乱していると人影は続ける。
ー 貴方には…どんな時でも可能性を実現させる「力」がある。それは「蒼」のものではない…あなた自身の力 -
ー 立ち上がりなさい。貴方には愛する者たちが待っているでしょう? -
「…うッ…グッ…!!」
その声を聞いたことで再びラグナの体に活力が戻り始める。自分はまだここで飲まれるわけには行かない。その思いが頭を支配する。すると徐々に外の音も聞こえる。バーテックスの倒される音。園子の声。銀の声。様々な音が聞こえた。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!」
彼女たちのいる光を目指してラグナが闇から這い出ると、視界が真っ白になった。
いかがだったでしょうか?
今回はかなりの難産でした。鬱シナリオを書くのって難しい…というかハートをゴリゴリ持っていかれるなあ。
次回はエピローグ。ラグナたちの戦いの結末は?
それでは