蒼の男は死神である   作:勝石

16 / 133
どうも勝石です。

この度通算3000UAを記録しました。ありがとうございます!
今回はエピローグにしてまたしても前半鬱回。作者テメエ結城友奈じゃなくてユウキ = テルミだろとか言われるかヒヤヒヤしてます。ギャグが恋しいです。

それではどうぞ


Rebel16.拭えぬ咎と刻まれた忌み名

ラグナが目を覚ますと病院のベッドの中にいた。窓から入ってくる日差しは暖かく、うららかな「春」の風が花の香りを乗せて鼻をくすぐる。

 

「うっ…ここは?それに随分とあったけーな…」

 

ラグナが気候の変化に疑問に感じながら窓の外を覗いた。そこに映っていたのは信じられない光景だった。

 

「なっ…どうなってやがるんだ!?」

 

外は満開の桜でいっぱいになっており、ちらほらと登校している学生の中には真新しい制服に身を包んだものもいた。たったの1日でここまで環境が変わることなんてあるだろうか。

 

(俺たちが戦ったのは『10月の終わり頃』だぞ!なんだこの、『春の新学期』見てえな光景は!!?)

 

状況がうまく掴めないラグナは思考を走らせる。もしやまたしても別の世界へ移動してしまったのか?もう既に一度してしまっているからありえるかもしれない。半信半疑のまま、ラグナは部屋の中にあるであろうカレンダーを探した。

 

「あった…神世紀『299年四月○✖︎日』…て、え!?」

 

なんということだ。神世紀という元号からおそらくここは今自分が十余年ばかり過ごしてきた世界だろう。だがもしこの暦が正しいなら、自分は半年近く昏睡状態だったということになる。

 

「なんだってそんな…あ」

 

そうだ。自分が壁の外へ出た後に突然蒼の魔道書が暴走して、それで…バーテックスたちを園子たち諸共攻撃していたんだ。

 

「…やっぱ夢じゃなかったんだな」

 

自分が園子と銀を傷つけたという現実がラグナに突き刺さる。どうしてあんなことになったのか、自分でも分かっている。ただそれでもわからないことがあった。

 

(確かに蒼の魔道書を使いすぎたかもしれねー。でも、それでもやっぱり変だ。これまでも力の吸収は以前より強かったわけじゃねー。増して使うようになってからまだ3、4ヶ月くらいだ)

 

ラグナはまだ考え込む。何故あれだけ樹海では問題なく使用できていた蒼の魔道書が急に暴れ出したのか。理由があるならそれはなんなのか。

 

(異変が出てきたのは壁の外に出てからだな…まさかあそこと何か関係あったのか?)

 

気になるのはそれだけではない。一度「黒き獣」として暴走していたラグナは元に戻ることはできなかったはずだ。それなのに自分は今人間としてここにいる。最終的には園子たちの頑張りのお陰だろうが、きっかけはやはりあのときの女の言葉だった。

 

(あの女…一体何者だったんだ?あの様子じゃ俺のことを知っているようだったが…俺はあんなやつ知らねー。それにあいつは「蒼」の力じゃねーとか抜かしてやがった)

 

それはつまりあの女性は「蒼」を知っている、ということでもある。そして同時にそれはこの世界にもまた、「蒼」が存在するということだ。

 

(また…「蒼」か)

 

もしこの世界にも「蒼」が存在するならあの外の世界の様子も納得がいく。あんな芸当をやってのけるほどの強大な力は「蒼」以外そうはないだろう。

 

(つくづく俺は…「アレ」と因縁があるらしいな)

 

そう思いつつベッドの中で寝そべるラグナに客人が訪ねてきた。1人はゴスロリを着た少女。もう1人はパーカーを着た猫だ。

 

「ウサギ…それに師匠か…」

「漸く目覚めたな、ラグナ」

「ああ…」

「まるでお化けにでもあったような最悪の面構えよ、ラグナ」

「うるせえ…実際まだあれが実は悪い夢だったんだと思いてーくらいだ…」

「…珍しいわね。貴方が私の前で弱音を吐くなんて。少し気味が悪いわ」

「知るかよ。俺の勝手だろうが」

 

2人がいつもの態度で接してくることに対してラグナは少しずついつもの調子を取り戻してきた。改めて彼は2人に事の顛末を聞いた。

 

「師匠…ウサギ…あの後。どうなった」

「…」

「頼む…俺は…俺がやらかしたことを知らなきゃならねー…たとえそれが最悪の結末だったとしても」

 

ラグナの話を聞いて表情に陰りを見せた2人のうち獣兵衛が口を開いた。

 

「…本当にいいんだな?」

「ああ」

「…お前さんたちが樹海に入ったことが確認されると大橋の方で巨大な爆発が発生した。そのあとの様子は…こいつを見ればわかる」

 

獣兵衛は一つのディスクをテレビのブルーレイプレイヤーに挿入してテレビを起動させた。その時に映ったのはおそらく当時のニュースだった。

 

『先日10月○✖︎日、午後▲時■分に大橋で巨大な爆発が発生し、死者2名、重傷者2名、他軽症の者数十人が巻き込まれる事件が起こりました。大赦の発表によりますと原因は建物の老朽化と何者かによる人為的な爆破だとのことです。現場の〇〇さんに変わります。〇〇さん!』

 

キャスターはそう言うと映像は戦いの場となった大橋の方へと変わった。その光景を見てラグナは、絶句した。

 

『はい!現場の〇〇です!今私は大橋の前にいます。見てください!大橋は大きく抉れてこちらの方へと仰け反っています!!橋の向かい側は最早確認できません!これが本当にこの世の光景だというのでしょうか!?』

 

その後も放送は続いた。それによると今も大橋は残っており、倒壊した部分の破片がまだ回収しきれてないらしい。橋の頂上部からは鉄骨などが重力に耐えきれずに落下することがあり、そのため今の大橋周辺は立ち入り禁止区域となっている。

 

(そんな…これじゃまるで)

 

あの世界で釜を潰し回ってた頃と同じじゃないか。ラグナが介入してしまったがために大橋の環境は大きく変わってしまった。

 

「…ありがとう。それと済まねえ…嫌なもん思い出させるようで…」

「…気にするな」

「…アイツらは。ジンたちはどうなったんだ?」

 

ラグナは次に刃、沙耶、そして勇者たちのその後を聞いてきた。特にあの戦いの最中で満開やオーバードライブには後遺症があることが発覚したため、ラグナはまだ会っていない刃たちのその後が心配だった。それに答えたのはレイチェルだった。

 

「…如月刃。貴方の弟さんはあの後鷲尾須美と倒れているところを保護されたあと、大赦が彼の功績を称えて自分たちが抱える衛士で構成された武装集団の第3師団に配属されて階級も与えられたわ。ちなみに大尉よ」

(…ここじゃあアイツは『大尉』なんだな)

「ただ、以前に比べてかなり好戦的で威圧的な性格になってる。原因はおそらく過度のオーバードライブによる精霊の悪影響だと、大赦は考えているわ」

「…」

「あれは西暦時代の精霊のシステムを術式に組み込んで一定時間だけ満開クラスのスペックを出せるようにした、謂わば『術式を介した切り札』よ。憑依しかしていないから体の一部を犠牲にはしないけど…体に精霊を一時的に憑依させているから精神汚染が起こったの。それでも西暦の頃に比べたらまだ安全には作られているけどね」

「…まるで西暦の頃を見てきたような言い方だな、ウサギ」

「事実、見てきたもの。だけどね、私からは手は出す事はできないわ」

「…こんな時でも『傍観者』を決め込むのかよ、ウサギ!!」

「…好きで『傍観者』の位置にいるのではないわ」

 

レイチェルがそう悔しそうに歯噛みしている様子を見て、ラグナの怒りは冷めていった。吸血鬼であり、千年以上生きているレイチェルは必要以上にこの世界に干渉しようとはしない。出てくるのはせいぜい退屈な時か本当に必要に迫られた時くらいのものだ。ただ彼女は外の光景を見て滅びを待つような選択を取るだろうか?

 

「…ウサギ。まさかお前。もう力がないのか?」

「有っても行けないわ。ねえラグナ?前に言ったことがあるわよね?この四国に一度大規模なテロ行為が行われた事があると」

 

ラグナは少し思い返していた。あれは確かレイチェルに始めて自分の素性を明かしたときだ。レイチェルは言葉を続けた。

 

「その時に祀られた対象の一部に…私も含まれているわ」

「なっ!?」

「だからその信奉者たちの望み通り、目の前に現れてやったわ。特大の雷と捕縛用の縄をお土産に持ってきてね。その後は…上里家に頼んで私の記録を抹消してもらって…以来は綾月家以外の人間の前には現れていない。貴方と会うまではね」

 

ラグナはこちらの世界のレイチェルの経験を聞いて驚いていた。以前の世界ではそんなことなんて一度もなかったはずだからだ。

 

「…なあ、ウサギ。もしかしてお前、それで大赦から目の敵にされていたりするのか?」

「…今は昔ほど目の敵にはされていないけれど…そうね。少なくとも仲は良くはないわね」

 

多くの人間が神樹様を信仰する今の四国では吸血鬼で一度神樹に対抗する存在として祀られたレイチェルは悪鬼羅刹の類として見られる可能性がある。大赦のような信仰の深い組織からすれば彼女は人類にとっての敵にも見えるだろう。

 

「そもそも私、個人としても『今の』あの集団は好きではないの。段々秘密主義になっていって、『あの娘達』の思いを歪めている今の彼らをね。だからなのか、情報交換などここしばらくしたことがないわ」

「…そうか」

「それに私は…樹海には入れないわ。少し込み入った事情があるから」

 

レイチェルの現状についての話が終わるとラグナはもう1人の妹について聞いた。

 

「…サヤは今どうしているんだ?」

「あの戦いの後は…大赦から外に出なくなったわ。風の噂では精霊の研究と勇者たちの供物を取り戻す方法を探しているそうよ」

「そうか…その勇者たちは?」

 

そこからは獣兵衛が説明を引き継いだ。

 

「勇者の嬢ちゃんたちだが…あっちも悲惨だよ…」

「師匠、あいつらの満開ってのはやっぱり…」

「ああ…あれには代償がある。『散華』と呼ばれているらしい」

「散華…華が散るってか…クソがッ!!」

「…後になって九重にも連絡したが、アイツは研究から離れられない以上、代わりに説明して欲しいと大赦には伝えていたらしい。おそらく大赦の連中が事実を伏せていたのだろう」

「…なんだと」

「今九重は大赦から離脱して今別の場所で独自の研究を行なっているらしい。場所を知られたくないから教えなかったがな」

 

勇者システムの現開発者である九重の様子を聞いた後、ラグナは本題へ移った。

 

「…続けるぞ。アイツらはどうなった?」

「…園子ちゃんは何度も満開を繰り返したせいで体の器官の多くが停止してしまっている。日常生活を営むことも困難だろう…」

「ッ…」

 

あの時、園子は何度もラグナへ突撃しながら自分の名前を叫んでいた記憶がある。まだ最初の1人なのに、ラグナの気分が悪くなっていく。

 

「須美ちゃんは…記憶を失っているらしい。少なくとも聞いた話ではここ2、3年のことは覚えていないとのことだ。おそらくお前たちのことも…」

「…く」

 

須美にはあの時、最後に会ったかどうかは記憶が曖昧だった。しかし彼女がこれまでの思い出を失ってしまったと聞くとラグナは他人ごとには思えなかった。

 

「そして銀ちゃん。あの娘たちの中ではおそらく最も軽症だ…それでも右腕と左足が麻痺している。勇者の力も、失っているらしい」

「…!!」

 

ラグナの脳裏にあの時の光景がフラッシュバックする。自分が獣になった時に銀は自分の攻撃を真正面から受け止めた後に勇者システムが解除されてしまった。勇者の力を失ったのはその時だろう。

 

「くうッ…うう…!!!」

 

ラグナは両拳を握りしめながらうめき声をあげる。吐き気がしてくることも感じる。なんて謝罪すればいいだろうか?言葉なんて浮かばない。

 

「…アイツらには…会えないのか?」

「…無理よ。これから話す貴方の境遇上ね」

「…どういうことか説明してくれ」

 

ラグナに説明を要求されたレイチェルは彼にそれを話した。

 

「ラグナ、貴方は先ほどの戦いで意志の有無はともかく、勇者たちに攻撃した。それは自覚しているわね?」

「…ああ」

「でも同時に貴方はあの時、数体ものバーテックスを相手にしても、健闘するどころか半数以上を返り討ちにしてしまった。そんな強力な戦力を大赦が野放しにすると思う?」

「…まあ、危なっかしくて敵わねーが、利用したくはなるわな」

「そうでしょう?…だから彼らを貴方に第一級危険人物としてマークし、監視をつけることにしたの」

「…そうだろうな」

「そして今の貴方を大赦は…『死神』と呼んでいるわ。上層部の一部は別の名前で呼んでいるそうだけど」

「『死神』か…つーかなんで上層部は俺を別の名前で呼ぶんだよ?」

「彼らの言い分では貴方は『無垢なる少女を穢した血濡れの刃』だから別の名前で呼んでいるわよ…『あれ』の本来の意味を無視してね…」

「…おい、マジかよ…ここでも『その名前』かよ…」

『ラグナ?』

 

心配するレイチェルと獣兵衛を他所にラグナは思わず苦笑いしていた。どんな名前なのかを察したからだ。

 

「それじゃこれから監視さんが家が隣に居座るってのか?」

「いえ、貴方は私の『城』で暮らすことになるわ。放浪している十兵衛では監視には向かないからとのことよ」

「はあ、何言ってんだ?お前が監視なら巫女は受け入れてくれるだろ?なんか問題あるのか?」

 

ラグナの言葉を聞いて2人は黙り込んでしまった。なぜそんなことをしているのかが理解できないラグナに獣兵衛が声を低くしながら言った。

 

「いいか、ラグナ…芹佳は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナは獣兵衛とレイチェルに連れられてとある部屋の前で立っていた。中に入ると1人の女性がベッドに寝ていた。腕には点滴が刺されており、心電図が付けられている。酸素マスクが無いため、呼吸は正常であることがわかる。2人の話によるとこの半年間、目覚める気配がなく、今も眠り続けているらしい。

 

ラグナは左手で女性の手を握った。手は温かく、熱を感じた。その熱がラグナの手へと移る。目頭が熱くなる。左目の視界も霞始める。

 

「…そういや、俺。アンタのこと、一度も『母親』として呼ばなかったな…」

 

ラグナが震える声で彼女に語りかける。それを見て後ろの2人は思わず顔を背ける。

 

「アンタには…サヤとジンのことで…世話になったのに…俺、アンタには迷惑かけてばっかだったな…」

 

よく叱られたっけ、などと思い返すラグナ。女性は何も言わない。

 

「…なあ、頼むよ。なんとか言ってくれよ…巫女…いや、『母さん』ッ…!!」

 

巫女、芹佳はそんなラグナの叫びに答えず、無言のまま眠っている。レイチェルの話によるとあの戦いの際、芹佳は大赦関係の仕事で近くにいたらしい。その時に爆発に巻き込まれてしまったとのことだ。その時に子供を庇ったらしく、芹佳が意識不明になるのに対して子供は無事だったとのことだ。

 

「クソッ…クソォォォォォォォォォ!!!」

 

声を枯らしながら叫ぶラグナの慟哭は部屋中に響き渡った。あの時、もし芹佳がいなかったら、自分はあの時そもそも自我を取り戻すチャンスを得られただろうか?あの声を聞けるだけの理性を取り戻せただろうか?

 

「俺はッ…なんてことをッ…!!」

 

いつ目覚めるかがわからない芹佳を見て、ラグナは苦痛と後悔に打ちのめされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイチェル…師匠…」

「何かしら?」

「何だ?」

「俺を鍛えてくれ」

 

芹佳との面会を終え、退院の準備を進めるために自分の部屋へ戻ったラグナは2人に自身を鍛えることを頼んだ。獣兵衛に頼むのは当然剣術のため。レイチェルは『この世界』の蒼の魔道書を知り、使いこなすためである。自分が知る限り最も剣に優れている人物は十兵衛だし、一番『この世界』の蒼の魔道書について知っていると考えたからだ。

 

「…いいぞ。でも学校に通うのも難しくなるかもしれん。今のお前は本来なら中学2年だが…本格的に修行するなら学校も休む必要もあるやもしれん」

「ダメよ、獣兵衛。そんなことをしてはこのお馬鹿さんの馬鹿具合は益々酷くなるわ。学校は中学1年をやり直させて少人数の教室に入れるよう、大赦に掛け合うつもりよ」

「おいウサギ…こいつが人に対して危険なのは知ってんだろ?」

「だからこそよ。それを制御させるまたと無い機会だわ。失敗した時がわかりやすいものね。それに」

 

レイチェルが真剣な表情を浮かべながらラグナに言った。

 

「人は他人と関わらないとあっという間に腐ってしまうものよ。私は他人を恐れるヘタレを我が『城』へ招くつもりはないわ」

「ほとんど城から出ねーテメエがそれを言うか…わかったよ。行きゃいいんだろ?」

 

若干不満はあるものの納得したラグナはレイチェルが言ったことを承諾した。

 

「つーかなんで留年だ?別に中学2年でもいいじゃねーか?」

「貴方、半年も勉強してもいないのに進んだ中学2年の授業内容が理解できて?」

「…へいへい」

「それでは出発しましょうか?転移するわよ」

 

そう言って彼らは病院から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「着いたわよ」

「ここか…ってあれ?」

 

ラグナたちは無事に目的地へたどり着いた。ただ、ラグナは疑問に思っていた。なぜなら目の前の『城』は自分の知るレイチェルの住処では無い。少なくてもこんな『天守閣のある日本の城』では無い。

 

「おいウサギ、転移の座標をミスってんぞ。ここ、『アルカード城』じゃねーじゃねーか」

「それはそうよ。アルカード城は壁の外にあるんですもの」

「じゃあここって…」

「おい、ラグナ。いくらお前でも香川県民なら『ここ』がどこなのかを知らないはずないだろ?」

「当たり前だろ!だってここ…」

 

ラグナは自分が知るその場所の名前を思わず叫んだ。

 

「『丸亀城』じゃねーか!!!」

「ああ。どうもアルカード嬢はここに住んでいるらしくてな。一般客が入れない場所で普段暮らしているらしい」

「いや、何で師匠はそれを知ってんだよ」

「それは私と度々お会いしているからではないでしょうか?」

「うお!?脅かすなっ…て、アンタ!『ヴァルケンハイン』のじーさん!!」

 

ラグナの後ろから年老いた執事が現れた。背がラグナよりも高く、とても丁寧そうな顔つきの老成した男だった。

 

「おかえりなさいませ、『お嬢様』」

「ありがとう、ヴァルケンハイン。いきなりで悪いけれどそこの男と十兵衛の荷物を客室に運ぶのをお願いできないかしら?」

「と仰いますと、彼がお嬢様が度々話す少年ということですか?」

「ええ、芹佳の息子。ラグナよ」

「おいウサギ。いいのかよ。じーさんにはそっちで紹介してしまってよ」

「いいのよ。彼は信頼できるんですもの」

「自分にはもったいないお言葉です、お嬢様」

「では、ヴァルケンハイン。俺も手伝おう」

「心配いりませんぞ、獣兵衛殿」

「いや、レイチェル嬢はどうやら俺がいては話せないことがあるようだからな」

「…心得ました。ではお願いします」

「ああ」

 

そう言ってヴァルケンハインと獣兵衛ははラグナを置いて荷物を運んでいった。

 

「しかし驚いたな。まさかウサギが丸亀城に住んでいたなんて…」

「それでもここをかなり気に入っているわよ。前の城には負けるけれど」

「そうかい」

 

そう聞いてラグナは改めてレイチェルの方へ向く。

 

「…で、本題は?」

「…ラグナ。これから貴方は大赦から『死神』と呼ばれることが多くなると思うわ」

「ああ、そうだな」

「場合によっては『あの名前』で呼ばれるかもしれないわよ」

「いいよ別に。俺からすれば本名みてーなもんだし」

「…あれが本当の名前だったってこと?」

「ん?あれって?」

「なんでもないわ。それで、ラグナ。貴方はいいの?これから先、誰も貴方に感謝することはないわよ。理解も恐らく、されないでしょう」

 

レイチェルにそう聞かれてラグナは大橋のある方角へ顔を向けた。不幸中の幸いか、芹佳は命までは落とさなかった。半年昏睡状態に陥っていた自分が再び目覚めたなら、きっと、芹佳も帰ってくる。

 

刃と沙耶もきっと、自分の成すべきことを果たそうと必死に生きている。ならやることは一つだけ。戦うことしかできない自分にできることは一つだけだ。

 

「いいんだよ。なにせこれからも俺は『ラグナ』だ。そして同時に『綾月洛奈』でもある。だから…俺はこれからも俺の大事なもののために戦いてー。そのためにももっと強くならなきゃならねー」

「…そう」

「でももう一つ…俺自身の存在を証明するものがある」

「何かしら?」

「ウサギ。俺、お前に『あっち』での名前を教えたか?」

「…いえ。聞いたことがないわ」

「そうか…なら言うよ。多分その大赦上層部が呼ぶ名前と同じだしな」

 

ラグナはまっすぐ前を見据えながら言う。

 

「俺は…死神…『ラグナ = ザ = ブラッドエッジ』だ」

「…」

「これ以上…アイツらに好き勝手はさせねー。母さんが…ジンが…サヤが…ソノコが…スミが…ギンが…生きるこの世界を壊させなんざしねー」

 

ラグナはそう力強く語るとレイチェルは少し笑った。なにか面白い事でもあったのかと問いかけるラグナに対してなんでもないと彼女は答える。

 

「そういやウサギ、もう一つ聞きてーことがある」

「なに?」

「…この世界にも…『蒼』はあるのか?」

「…あるわ。確実にね」

「…そうか」

「さ、戻りましょう。ヴァルケンハインたちが食事の用意をしているはずよ」

 

そう言われてレイチェルと共に丸亀城に入っていくラグナであった。




いかがだったでしょうか?
これにより鷲尾須美の章は完結です。次からは結城友奈の章へと移ります。新たなる出会いがラグナにどう影響を与えるのか。楽しみにしてくれると幸いです。

因みに園子の満開の回数は少し減少しています。今回は銀ちゃんと刃もいたので。

因みに試しでアンケートを出したいと思います。完全な使い方の実験で特に意味のないものなので気軽に答えてくれれば幸いです。人によっては答えたがらないものかもなのでそういった方はこれを無視していただけると有難いです。

それではまた

誰が一番ヒロインっぽかった?

  • 上里沙耶(サヤ)
  • 三ノ輪銀
  • 鷲尾須美
  • 乃木園子
  • レイチェル = アルカード
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。