蒼の男は死神である   作:勝石

43 / 133
どうも勝石です。

ゆゆゆいで追加された石紡ぎの章に出てきたアルフレッドの特徴からヴァルケンハイン、行けるんじゃね?と思うこの頃です。(主人の中の人のせい)

さてここから勇者たちが暴走しますが…うん。色々ヤバい。

それではどうぞ


Rebel34.秘密が明かされた時

「満開の後遺症を治せる可能性がある!?」

 

犬吠埼風が改めて屋上で友奈たちから乃木園子の話を聞いた。満開の後遺症が治らないこと、戦い続けた勇者の行く先。しかし同時に九重たちによって満開の後遺症で失った身体の機能をどうにか回復させられるよう、九重たちが動いていることも。

 

「はい!!これならみんなの身体も元に戻れるかもしれないんです!!」

 

友奈は元気に報告するが、東郷はまだやはりどこか不安そうだった。風はその話を聞いて彼女たちに質問した。

 

「その話、樹たちには?」

「まだ言ってねー。これから話すつもりだ。まあ、正直時間がまだかかる分、イツキはもう少し待たなきゃならねーかもしれねーが…」

 

風は悩んだ。確かに満開の後遺症を治せる手段が見つかったのは嬉しい。しかし、聞いた話ではその手段では樹の声まではまだ取り戻せないと言う。声を出す器官は非常に小さいため、小型化ができていないイデア機関を内蔵させられないからだ。

 

そもそも人間の声を機械で再現できると聞くとどうしても抑揚のないロボットのような声を想像してしまう。そう風は感じた。

 

夏凜はそもそも満開の秘密の時点で危ういだろう。刃が教えられないなら恐らく夏凜は何も聞かされずに勇者になったと考えられる。しかも大赦から直接選ばれたこともあって、うかつに満開の話をしてしまうと、自分の所属した組織に対して不安を覚える可能性も考えた。

 

長考の末、風は決断を下した。

 

「…まだあの娘たちには伝えないで。確実に何とかなる方法が見つかってから話すわ」

「そんな!?何でですか、風先輩!?」

「いい、友奈。その手段じゃあまだ助かると決まったわけじゃないわ。それに覚えてるでしょ?あれを作った九重博士はアタシたちを攫おうとしたやつよ」

「そ、それは…」

「…分かったよ」

「ラグナ君?」

 

風の話に若干納得していないと思いながらもラグナは彼女の提案を受け入れた。友奈はラグナにその訳を聞かずにはいられなかった。

 

「どうしてなの、ラグナ君!?せめて樹ちゃんにだけでも伝えれば」

「俺やお前みたいに直接ココノエに会ったやつはともかく、こいつらのココノエとの最初の出会いは赤鬼に追われていたときだ。大事な妹をそんな奴にホイホイと預ける訳ねーだろ?」

「…そうだったね。すみません風先輩、私…九重さんと実際に会ったら悪い人には見えなくて…」

「いいのよ友奈…ありがとう」

「でも俺も伝えた方が良いと思うぜ。それだけでもイツキは気が楽になるだろうし…カリンだって薄々気づき始めてるだろうよ」

「ええ…いろいろ落ち着いたらあの娘たちにも話すわ」

 

話が終わると同時に昼休み終了の呼び鈴が鳴り、4人はそれぞれの教室へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日が立ってからの犬吠埼家で風は樹と夕食をしていた。食事の席で風はここ数日間の出来事を思い出す。

 

最近の樹はあまり学校の友達と外へ遊びに行かなくなった。彼女が言うに友達の多くはカラオケが好きであるため、自分が一緒に出掛けたときに気を遣わせたくないと考えて自分から誘いを断るようになったらしい。

 

学校の授業の方でも支障が出ているらしく、声が出なくなったことで音楽の授業内容も変更させて調整している状態らしい。それを聞いて風の心が蝕まれていく。

 

先ほども樹にご飯の支度ができたことを知らせるために自分は彼女の部屋に入った。樹は返事がしたくてもできないのでこうするしかないのだ。

 

風は九重の話を思い出す。あの女はまだ完成はしていないものの、樹の声を取り戻す手段はある。しかし、以前に接触したときの態度を考えてしまうと、どうしても九重を信用することが出来なかった。

 

姉が考え事をしているのが気になったのか、樹はスケッチブックを少しテーブルに叩いて対話を取ろうとしていた。

 

[何か考え事?]

「え…いやぁ!今日の天気悪いよね…あと文化祭も近いし、そろそろ練習とかしないとね!」

 

風が努めて元気な様子を見せると、樹は少し残念そうな顔をしていた。

 

「え、どうしたの樹?もしかしてアタシの脚本に不備とかあった?」

 

風からの質問に樹はスケッチブックに返事を記した。

 

[私、声でないから台詞のある役出来ないね]

「…ごめん」

[だから舞台裏の仕事で頑張るね]

「…樹」

 

樹は笑顔でスケッチブックに書いた内容を見せた。でも風はできれば樹のそんな笑顔を見たくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日に風は友奈と一緒に東郷の家へ赴いた。大事な話があるとのことだ。三人が東郷の部屋に集合すると彼女はあるものを自身の机の上から取った。

 

「と、東郷さん!それって…」

「ええ、友奈ちゃん。自害用の…短刀よ」

「そ、そんなものをアタシたちに見せて何するつもりなのよ」

「今から私は自刃します。見ていてください」

 

二人が止めるより先に東郷は短刀の刃を思いっきり頸動脈のある方へと押し当てた。刃が彼女の首に届く直前、精霊は彼女を守った。彼女が早まったと感じた風は東郷を叱りつける。

 

「何考えてんのよアンタ!!もし精霊が止めなければ!!」

「止めますよ。絶対に」

 

東郷は重い口調のまま、事実を淡々と述べていく。

 

「私はこの数日間、10回以上自害を試みました。切腹、首つり、飛び降り、一酸化炭素中毒、服毒、焼身、入水、窒息、殴打、脱水症状…ありとあらゆる手を尽くしましたが…全て精霊に止められました」

 

その事実を言い終えた後、彼女の精霊である刑部狸は短刀を持ち去っていった。そして風は東郷が勇者システムを持っていないことに気付いた。東郷は話を続けた。

 

「勇者システムが起動しないよう電源が無くなるまで放置したり、手元に置かないようにしてから同じことを行いました。それでも彼らは私を守りました。命令されることもなく、勝手に」

「…何が言いたいの」

 

風の問いかけに対して東郷が返した返事は、残酷な真実だった。

 

「精霊は勇者の意志には従っていない。彼らは勇者を死なせずに戦わせ続けるための装置じゃないかって…」

「でも!!精霊が守ってくれるなら悪いことじゃないんじゃ…」

「そうね…それだけだったらまだよかった…でも友奈ちゃん、これで明らかになったことがあるの。私たちは…勇者はこの体のまま、決して『死ねない』。九重さんの話でも、細かい部位はいつ出来るかも分からないらしいわ…もしかしたら永遠にできない可能性もあるの」

 

東郷が告げる事実が風の心をザクザク突き刺さってくる。現実を受け入れたくない気持ちが彼女を追い詰める。

 

「そんなの…誰が証明できるの!?」

「もう乃木園子という前例がいるんです、風先輩。大赦だってこのシステムを知っていたはずです。そして私たちを…騙していた…」

「そ…んな…」

 

友奈はショックで何も言えず、風は床に膝をついて絶望に打ちひしがれていた。

 

「知らなかった…知らなかったの…人を守るため…身体を捧げて戦う…それが勇者…」

「風先輩…」

「アタシが…樹を勇者部に入れたせいで…!!」

 

自分が勇者部を作らなければ…友奈が、東郷が、樹が、夏凜が身体を犠牲にしながら戦う必要はなかったのかもしれない。そう思った。

 

「東郷さん、このことはラグナ君たちには!?」

「…言わなくても知っているはずよ。彼は乃木園子の友人だもの。それに…あの時の沙耶さんについての会話も考えれば…恐らく彼の妹さんはこのシステムに関わっている可能性が高いわ。だから今回の会合には呼ばなかったの」

「そんな…」

「そして如月君は精霊に頼るなと夏凜ちゃんに言ったことを覚えているかしら?あれもこの精霊や満開の危険性を知っていなければ言えない言葉よ」

「精霊に頼らせないことで満開ゲージを溜めにくくするってことなんだね…」

「そうね…満開ゲージは私たちがバーテックスを倒す時だけではなく、攻撃を精霊から守られた時にも溜まるから…もう一つ聞いてくれますか?」

 

二人はゆっくりと頷いた。正直、先ほどの話を聞いてもうこれ以上この話をしたくないと思っていたが、それでも手遅れになった後に聞くよりかはマシだった。東郷は二人の様子をみてから話を進めた。

 

「実は一つだけ…私たちを勇者システムから引き離すことのできる存在がいると思うんです」

「本当に!!?」

「ただ…極めて危険な手段である上に本人の了承もなしにはできません…」

「…東郷さん、それってまさか」

「…そうよ、友奈ちゃん。蒼の魔道書のことよ」

 

東郷が発した単語に友奈と風は戦慄する。それもそうだ。カギを握っているといわれたのは自分たちが常にともに戦ってきた戦友が持つ力だ。東郷はその訳について話し始めた。

 

「満開システムは元々綾月君の右腕の力を参考に設計されたものだそうです。あれは逆に周りから力を奪い取って自身のものにするみたいですが」

「そ、そのラグナ君の腕がどうかしたの、東郷さん?」

「綾月君は以前、魔道書の力は勇者にも作用するといったわ。つまり…『勇者の力』を奪うことができるという事よ」

「…力を奪われた勇者はどうなるのよ」

「…一番いい結果としては…勇者の力がなくなることで戦うことのできない私たちは樹海へ行かず、精霊に守られることもなくなることです。それで御役目からは解放されます。精霊は彼のことをひどく嫌っていましたから、あれは彼らにとって害であることは明白です」

「牛鬼は…あんまり気にしなかったみたいだけどね」

「…ですがもちろんリスクは存在します。一つはあれが勇者の力だけではなく、生命力まで吸収してしまうこと。もう一つは彼自身が私たちの意見を承諾してくれないこと。そして最後は…暴走の危険性」

「…どれも起こりそうだからあんまり現実的な話じゃないわね」

「そうですね…それに何よりこれは綾月君に私たちを傷つけさせることと同義です。できれば…この手段は使いたくはありません」

「…ラグナ君、もしそんなことをしたらきっとすごく悲しむと思うんだ…毎日如月君とああやっているけど、絶対に大怪我はさせないし、いつも本気だけど手加減をしているというか…自分から人を傷つけようとはしないよね」

「…ごめんなさい。この案はなかったことにしてください」

「ええ…」

 

暗い雰囲気の中、彼女たちは解散した。家へ向かう風の足取りは一歩を踏み出す度に重くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風が家に着くと家の電話が鳴っていることに気づき、電話に出た。

 

「もしもし、犬吠埼ですが…」

「犬吠埼樹さんのご家族の方ですか?」

 

掛けてきた相手は知らない女生だった。電話の向こうの彼女に風は用件を聞いた。

 

「はい…うちの樹に何か用件が?」

「私は伊予乃ミュージカルの藤原と申します。樹さんがボーカリストオーディションの一次審査通過にご連絡差し上げるために今回、お電話を掛けさせていただきました」

 

樹がオーディションを受けていたことを知らない風はそれを聞いて凍りついた。

 

「…いつ頃に応募したんですか?」

「3ヶ月ほど前です。樹さんから届いたオーディション用のデータもあります」

 

その時期はあのスタークラスター戦の少し前の時期だったはずだ。風は思わず瑠奈たちと初めて会ったあの日に家へ帰ってきてからの樹の言葉を思い出した。

 

− 私、やりたいことが出来たんだ −

 

「樹…樹ッ!!」

 

電話を手放して樹の部屋へ直行した風だったが、そこには樹はいなかった。風は彼女の机の上を見た。そこには樹なりに自身の声を良くしようという努力が残っていた。

 

(あの娘…本気で…)

 

風が少し下の方を見てみるとそこには樹が書いたであろう声が戻った後にやりたいことリストが記されていた。

 

[勇者部のみんなとワイワイ話す]

「樹…」

[クラスの友達とおしゃべりする]

「樹ッ…!」

[うたう!!!]

「樹ー!!」

 

これを見て風は眩暈を感じた。罪悪感でいっぱいになった腹はキリキリ痛み出し、吐き気もし始めた。樹を探しに行こうと玄関へ向かおうとする風だったが、その時にあるものが彼女の目に付いた。

 

「これって…樹のパソコン…開けっ放しになって…」

 

そういえばオーディション用のデータを送ったと電話から聞いていたんだった。恐る恐ると風がその音声データを再生させると、そこからは実に3ヶ月近く聞いてこなかった妹の声が出てきた。

 

『えっと…ボーカリストオーディションに応募しました、犬吠埼樹です』

 

久しぶりに聞こえた樹の声に風の目から涙が浮かんだ。

 

『私には大好きなお姉ちゃんがいます。お姉ちゃんはしっかり者で、強くて…いつもみんなの前に立って歩いていける人です。反対に私はいつも臆病で弱くて…いつもお姉ちゃんの後ろに隠れていました』

 

違う。自分はそんなに誇れるような姉じゃない。自分は樹を身体を代償にしてしまう戦いに引き込んでしまった…ダメな姉だ。

 

『でも…本当は私、お姉ちゃんの隣を歩いていけるようになりたかった。だからお姉ちゃんの後ろじゃなくて、自分の力で歩くために私自身の願望(ゆめ)を…私自身の生き方を持ちたい。そのために歌手を目指しています』

 

妹が妹なりに考えて、自立しようとしているのを見て、余計に勇者部に彼女を連れてきた自分の所業が心にのしかかる。

 

『実は最近までは人前で歌うことが苦手だったんですけど…お姉ちゃんが入れてくれた勇者部のみんなが私に勇気をくれました。歌を歌うことが…大好きになりました!』

「う…あ…ああ…」

『それでは勇者部のみんなとお姉ちゃんへの感謝の気持ちを込めて…歌います!』

 

樹の歌が流れてくるのと同時に風は泣き崩れた。勇者システムの話などで参っていたが、もう限界だった。

 

歌を歌うことが好きになった。その言葉が余計に全身を殴りつけているように風は感じた。声を失った彼女は、その大好きが今できない。九重もまだ…イデア機関を完成させられていない。樹の願望(ゆめ)を…守れない。

 

「アタシは…アタシは!!樹から!!願望(ゆめ)を奪ってしまったんだ…!!!」

 

泣き叫んでいる中、風の端末に一本の電話がかかった。涙に溢れた目で画面を見ると知らない番号だった。一度無視した風だが、その後も掛かってくるので電話に出て相手に怒鳴りつけた。

 

「誰ですか!!すいませんが番号を間違えてますよ!!」

「あー、そんなに怒鳴らないで下さい。私ですよ、峡真です」

 

掛けてきた相手は予想外なことに峡真だった。今は大赦や自分に対する怒りでいっぱいの風は彼との通話を切ろうとする。

 

「大赦に所属している貴方から聞く話なんてありません!!切りますよ!!」

「貴女の妹さんの声を取り戻せる、といってもですか?」

 

それを聞いて、風は電話を切るスイッチを押そうとする手を止めてしまった。峡真は彼女に構わず、その詳細について話し出した。

 

「私も大赦の方で聞きましたよ。友奈さん、東郷さん、貴女、そして樹さん。皆さんは身体の一部の機能を無くしてしまったそうですね…誠に遺憾です」

「どの顔を下げて今更!!」

「ですが調べるうちに分かったんですよ。貴女たちの供物を取り戻す方法が」

「…それは本当ですか?」

「ええ、ある意味最も確実な方法です」

 

それを聞いて峡真の話に風は耳を貸し始めた。

 

「風さん、これは大赦の中でもごく限られた人間にしか知られていない情報ですが…貴女たちの力になることは間違いないでしょう」

「…その方法は?」

「蒼の魔道書を手に入れることです」

「蒼の魔道書?」

 

風はその話を聞いた時に東郷の話を思い出した。ラグナの力ならば、勇者の力を奪い取ることができると。しかしリスクも高い上にラグナに罪の意識を与えてしまうから却下したとも。

 

「…ラグナの腕で私たちの力を奪うという話ならお断りしま「そんなことを誰が言ったんですか?」え?」

 

峡真が蒼の魔道書を使うように勧めた理由は東郷の話とは違うらしい。彼は神妙な声で続けた。

 

「あれを使って『蒼』の力を使えばいいんです。そうすれば貴女たちを救うことは可能でしょう」

「『蒼』の力?」

「『蒼』とはこの世界における全ての事象とつながる、ありとあらゆるものの根源です。その力には、あらゆる『可能性』を『可能』にすることができると言われています」

「つまり樹の声は!!」

「ええ、それどころか全員めでたく平和な生活へと戻れるでしょうね」

 

峡真の言葉が風を地獄から引っ張りあげる。それなら奪う必要もなければ、傷つける必要もない。

 

「それならすぐラグナに出来るか聞かないと!」

「残念ですけどそれはあくまで『持ち主』がそれを強く望まなければ起こり得ませんよ」

「し、心配ないですよ!ラグナなら」

「そんな保証はどこにあるんですか?仲間とはいえ他人に近い人間の妹と自身。どっちが大事か、明白でしょう?」

「じゃあどうすれば!!?」

「決まってるじゃないですか」

 

峡真はそう区切ると

 

「殺して奪えばいいんですよ。蒼の魔道書を」

「………え?」

 

悪魔の一言を残した。一瞬電話の相手が何を言っているのかが理解出来ない風は彼に聞き返した。

 

「えっと…結城さん?」

「彼を殺して奪えば簡単に蒼の魔道書は手に入ります。幸い貴女は勇者ですので、戦うことも出来るでしょう…それに貴女にはそれをやる『資格』がある」

「し、『資格』って…」

「おや、これも知らされていなかったんですか?全く、上の連中は本当に秘密が大好きですねー」

 

いいですか、風さん。峡真はその時、風の心を完膚なきにまで叩きのめす一言を告げた。

 

「ラグナ君…いいえ。『死神』は、大橋を破壊した張本人ですよ」

「……は?」

「そしてそれはどういうことか…貴女も分かりますよね?何故なら、貴女たちのご両親は大橋の崩壊で亡くなったのですから」

 

大橋を破壊した張本人がラグナ。それは大赦が説明した親が『バーテックス』に殺されたという事実と矛盾する。

 

「う…嘘だ」

「何故です?」

「だって、それは、つまり…」

「大赦とグルだったんでしょうねー。彼のご弟妹は2人とも大赦の中でも地位の高い人間です。情報操作もお手の物でしょう」

「あ…」

「悔しいですよねー。親を奪い、自分たち姉妹が過酷な戦いに参加する要因を作りながらも平然と自分たちに接している。何と図太いことか」

「い…あ…」

「しかも彼は一度暴走して世界を破壊し尽くす怪物…大赦では『黒き獣』と呼んでいましたっけ?それになって貴女の家族を奪っているのですよ?そんな人間に…『蒼』を持たせたらどうなるのか…答えは決まっているでしょう?」

 

頭の中がめちゃくちゃになって何が正しいのかが分からずに混乱する風に峡真はとどめを刺す。

 

「貴女の妹さんは…更に多くのものを失うでしょうねー」

「あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

それを聞いて、風の中の何かが壊れた。涙を流し、絶叫しながら勇者に変身して、大赦のある方角へと向かった。事実を問い詰めるために。

 

そんな彼女を峡真は遠くのマンション屋上にて覗いていた。

 

「あれ、風さん?あらら、切れちゃいましたか。それにしても…」

 

峡真は怒り狂う風を見ると顔を俯きながら身体を震わせていた。顔からは涙も落ちている。しばらくしてから峡真が顔を上げると

 

「なんと哀れで滑稽でしょうかーー!!最後に聞こえたケダモノのような叫び声なんて傑作ですよ、犬吠埼風さん!!!ヒャーッハッハッハッハ!!!」

 

聞くにも耳障りな笑い声を上げながら頭を手で押さえていた。

 

そう。この男は勇者たちを助けようなどという考えは一分も存在しない。邪魔者を排除をするため、そして計画のために情報を流したのだ。

 

「しかし、まさかあれでラグナ君を倒せると本気で考えているんですかねー!?たかが戦って4ヶ月弱のクズが死神に敵うわけないでしょう!?あーもう、考えただけでお腹が笑いすぎで痛くなりそうです!!」

 

ひとしきり腹を抱えて爆笑し終えた峡真はそのあと、風が目指す大赦本庁へと目を移した。

 

「まあ、どうせ返り討ちでしょうが犬吠埼さんには頑張ってもらいましょうかねー。『蒼』についての記述は上里家の書物の中を探しても僅かなものばかりでしたから私も全容までは知りません。しかし、蒼の魔道書があるラグナ君に邪魔されて計画を台無しにされては困りますから」

 

峡真はそう言いながら大赦本庁近くの病院を獲物を狙う蛇のように見つめていた。

 

「次は貴女ですよー、どう料理して差し上げましょうかー?」




ハザマ大尉、ステイ。いやホント、マジで。

ただでさえ後半がえぐい勇者であるシリーズなのにハザマ大尉がそこへ爆薬をポイ投げしてくるもんですから筆者もハラハラしてます。

次回は風先輩の暴走か東郷さんサイド。それではまた

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。