色々忙しいことと中々展開を悩んだら前回の投稿から長くなった、すみません。
さて、いよいよラグナ君とサヤが激突!!今のサヤは帝の姿ですが戦闘能力はどれほどのものか?それではどうぞ
The wheel of fate is turning…Rebel 1 …Action!!!
樹海へと世界が変わっていく中、峡真に倒されてしまったラグナたちは伏していた。彼らは目の前に立ち塞がる巫女から視線を離せなかった。彼女の挙動を少しでも見逃がすことは死を意味する。それはその場にいた全員の見解だ。
少女の紅の瞳はこちらを虫けらを見ているかの様に捉える。そしてその小さな口から幼い女子の声が出た。
「…兄さま。そこにいるのは兄さまですか?」
「…サヤ!!」
その声は紛れもなくラグナの妹、沙耶のものだった。その声は穏やかで、しかし冷たさを含んだものだった。この姿はこちらの世界でもラグナは何度か見たことがある。この姿は神樹から神託を受けているとき、具体的に言うなら神樹を構成する神を身に宿らせているときである。
そしてその時の沙耶はこんな声を出したりはしない。そんな沙耶の様子をおかしく感じたラグナを余所に沙耶が他の勇者に目を向ける。一瞥されて不意に勇者たちも緊張し出した。次々と発生する急展開に心が参り始めている中で、意を決して風が彼女に話しかけた。
「貴女…一体…」
「…」
しかし沙耶は彼女たちに対して心底興味がないのか、すぐにラグナの方へと顔を戻した。そんな沙耶に負けじと突っかかってきたのは刃だった。
「おい沙耶!!兄さんに手を出すつもりなら貴様でも容赦はしないぞ!!!」
「…耳障りな声をあげるな、如月刃。余は駄々を捏ねる赤子の相手をしている暇などない」
そのときの沙耶の声はラグナのときとは違う、重々しくて威圧的なものだった。ラグナと刃の対応の差に少し引いてしまった勇者部諸君だった。同じ兄にも関わらず、何故ここまで対応が違うのか。そんな彼女たちに意も介さず沙耶は刃を煽る。
「そもそも先ほど其方は余に無様にも敗北し、地べたに這い蹲っていたではないか…それなのにまだ余に吠えるとは、滑稽なものだな。またその腰の鉄屑を振り回すか?」
「っく!!!」
「おいジン、どういうことだよ!!」
「その者はな、腰の得物が使い物になっておらぬ。抜こうにも抜くことが敵わぬのだ」
妖しく笑う沙耶が指摘した通り、刃のユキアネサは完全に使い物にならなくなっていた。これでは戦うことが難しくなってしまった。次に夏凜が会話に入ってきた。
「アンタ、何者なの?あの峡真って男とどういう」
「黙っているがいい、『ウジ虫』め。余は今、綾月洛奈と話しているのだ。邪魔をするでない」
「なっ!!?アンタねぇ!!」
「よせ、カリン。今のサヤは正気じゃねえ。押さえてくれ」
ラグナの言葉を聞いて夏凜も渋々下がる。一刻を争う今、本当ならば強引にでも沙耶を問い出したいところだったが彼女の本能が危険を、真正面から勝てる相手じゃないと警鈴を鳴らしていた。
「…テメェ。一体何モンだ…サヤでも『冥王』でも、それどころか神樹の野郎でもねーな。アイツにしちゃあ威圧感が少ねー」
『えっ!!!?』
「ククク…やはり分かるのだな。其方はこの娘のことを本当に良く理解しておる」
ラグナが神樹が沙耶にいないと発言したことに勇者たちは仰天する。それを沙耶は否定しない。思わず夏凜がラグナに事の説明を求めた。
「ちょっとどういうことよラグナ…神樹がいないって?」
「…サヤは巫女の中でも特に神と交じりやすい身体だったらしくてな。それで神樹の中の神様ってやつを直接身体に憑かせることが出来るんだ」
「そ、そんなことが出来る人間がいたなんて…知らなかったわ」
「…」
ラグナが勇者たちと話しているのを見て眉がわずかに動いた沙耶は頭上に手を翳し、彼女たちに向けて黒い火球を放った。それを見てラグナは立ち上がって火球にデッドスパイクをぶつけて防ぐ。
「やめやがれ!!テメェの相手は俺だ!!」
「余は其方との語らいの場を整えようとしただけだぞ。寧ろ感謝をして欲しいものだ」
「誰がンなことテメェに頼んだよ!!余計なことをしてんじゃねぇ!!」
「ならばそこの小娘どもを押さえるのだな…さもなくば其奴らの方が先に黄泉へ往くことになるぞ」
「ンなこと…させるかッ!」
少女から発せられる言葉に慈悲も容赦もない。そして沙耶の目も一切情けを見せることはない。ラグナは大剣を取って構えるが、剣先は震えていた。先ほどの連戦のダメージがまだ回復していないため、体もフラフラだ。
「どうした?随分と息が上がっているようだぞ?そのような身体で余と戦うなど、片腹痛いわ。そこまでこの娘に殺しをやらせたくないのか?」
「当たり前だ。サヤには誰も殺させねー。それでもアイツの身体ン中で居座るってんなら掛かってきやがれ!!そっから叩き出してやらぁ!!」
「そうか…ならば、往くぞ」
そう言って沙耶の身体から装束が外れる。露わになったのは巫女服を着た非常に華奢な肉体だった。頭につけている冠が光出すと角のような装置が現れ、彼女の後ろに三つのビットが金色の輪を形成しながら展開された。沙耶の後ろから照らされる後光によって彼女の身体は陰に覆われる。しかしこちらを逃がさんと見つめる紅い瞳は見えた。
「さあ『兄様』…
「黙りやがれ!!!その顔で…その声で…胸糞わりー台詞吐くんじゃねー!!!」
「クハハ!何を言っておる?これから始まるのは正にそうなのであろう?」
「サヤ…今度こそお前を、俺がぜってー助けてやる!!!」
「ハハハ、助けるも何ももうこの娘の魂はこの身体の何処にも存在してなどいない。其方がどれほど足掻こうと…何も取り戻すことなど出来ぬ!」
「そいつが本当かどうかは…やってみるまで分かんねーだろうが!!」
「フフフ…ならばやって見せよ、兄様!!」
沙耶が凶悪な笑顔を浮かべながらラグナに掌底を放つ。ラグナはそんな彼女の攻撃をアラマサで受け止める。
「受けてみよ、灯雷の矛」
「ぐおっ!…ッらあ!!」
何とか沙耶を振り払うラグナだったがすぐに顔面に沙耶のキックが飛んできた。蹴り上げられてしまったラグナに沙耶は方陣を敷いて浮遊しながら接近し、髑髏をかたどった瘴気を発しながら追撃した。
「『
「ぐはっ!」
「アハハ!もっと楽しませよ、兄様!」
沙耶が笑いながらラグナを叩きのめしていく。しかしそこへ刃も参戦した。ユキアネサを使うことはできないが、ドライブで何とか兄を補助する。
「凍てつけ!!」
「ん!」
見事に命中してしまい、沙耶の身体は氷漬けになってしまった。ラグナのことしか見えていない沙耶にとってこれは完全な不意打ちだったようだ。
「やったか!!?」
夏凜の指摘に樹がジト目で見ていると突然氷が吹き飛ばされ、中から黒い炎に身を包んだ沙耶が刃を絶対零度の視線で睨みながら出現した。それを見て刃は舌を打つ。
「まさかあの状態から抜け出せるとはな…」
「其方の氷など取るに足らぬものだ。控えよ」
「だったらこれはどう!!」
「むっ!!」
今度は夏凜が刃の陰から飛び出て沙耶に神速の突きを繰り出した。沙耶も自身に迫る剣をビットで挟んで彼女を投げ飛ばす。しかし夏凜も負けじと剣を投げる。沙耶はすぐさまビットを自身のもとへ戻し、高速回転させて飛んできた剣を弾いた。
「くっ!やっぱり一筋縄にはいかないわね!」
「面倒な…去ね」
「ガントレットハーデス!!!」
しかし沙耶が動く前にラグナが殴り掛かってきた。彼の攻撃を沙耶はいなし、回し蹴りを喰らわせるが、それをラグナも大剣で止める。
「でりゃっ!!!」
「ハッ!!」
ラグナの大剣と沙耶のビットがぶつかり合う。黒い瘴気を纏う大剣で力任せに攻撃するラグナに対して下級精霊とビットで沙耶は応戦する。接戦の中、ラグナは剣を切り上げる。
「インフェルノディバイダー!!!」
「ぐぅッ!!」
「まだだ!!!」
「くっ!!」
「これでとどめだ、カーネージシザー!!!」
巻き上げられた沙耶にすかさず踵落としで地面に叩きつけ、着地と同時に大技であるカーネージシザーを発動させてラグナが突貫した。対する沙耶も立つが、すぐそこまでラグナは迫った。
「いい加減目を覚ましやがれ、サヤ!!!」
「おのれぇぇぇ!!!……と、言うとでも思うたか?」
「何!!?」
「………『
沙耶は全く焦ることなく何かを呟いた後、ラグナの大剣が自分にヒットする前に彼の胸を一撫でし、そのまま彼の斬撃を躱す。その瞬間、世界の時間が全て停止した。完全なる静寂の中、沙耶は一人ラグナにありったけの攻撃を加える。蹴りと掌底、更にビットをぶつける。追撃に火球を放つと最後に炎の中からラグナを蹴り出した。
「『
「げはッ!!」
「クハハ…心が躍るな、兄様!!」
「兄さん!!!」
『ラグナ!!!』
ラグナは何度も吹き飛ばされ、その度に沙耶は先回りして蹴り飛ばす。最後にはラグナを高速で浮遊しながら引きずってダメ押しのキックをかました。ボロボロにされたラグナは根にめり込み、落下した。
「さあ…そろそろ戯れの時間も終わりだ、綾月洛奈…」
「まだ…だ…まだ…終わってねーぞ!!」
「物欲しそうな眼をしおって…そこまでにしてこの娘が欲しいか?」
自分を見下ろすかのように沙耶はラグナを挑発する。ラグナはというと、沙耶の強さに少し疑問を持っていた。沙耶は神樹を憑依させれば確かに強い。しかし今目の前の沙耶はそのようには感じない。
「クソッ!!サヤの野郎、どういうこった!?いくら術式が使えるからって神樹の野郎がいねーのにここまで強くなってたのかよ!?」
「フフフ…何を言っている、綾月洛奈?余の力の源等、其方ならば大方予想がつくのであろう?」
「意味わかんねーよ!!『魔法』でも使ってんのか!!?」
「そんなものがこの世界に存在せぬ。余の力とは、そこの小娘たちも持っているものだ。最も…その数は其奴らの比ではないがな」
沙耶の言葉を聞いてラグナは理解した。沙耶が憑かせることができるのは何も神樹だけではない。彼女にはそれを応用した降霊術も使うことができる。事実、これまでの多くの勇者の精霊たちは沙耶が現世へと呼び寄せたものたちばかりだ。
「おいおい…それってつまりなんだ…サヤの身体に何体も精霊が憑依しているってか!!?」
「クハハ…その通りだ!当然、この身体に宿っている全員を使役できるぞ?」
「クソがッ!!」
「これで理解したであろう、綾月洛奈?其方に万に一つの勝機など存在せぬ。無駄な足掻きを続けたところでどうにもならぬぞ…フフフ」
「生憎俺は昔から頭わりーからな。ンなことを聞いたくらいじゃアイツを諦めるつもりは毛頭ねー!!」
「クハハ、無駄だということが分からぬと申すか…ならば其方に『死』をくれてやろう…広がれ、『ヤサカニノ
そういって沙耶はビットの名を呼ぶと、ビットが展開された。そして次に沙耶は何体かの精霊を呼び出し始めた。
「出でよ…『
「おいおい…出しちまった割りにゃあ随分と少ねーじゃねーか。これならトウゴウと変わらねぇな!」
「そう早まるな、本番はここからだ…来たれ、『
ラグナからすればこの姿の沙耶がどれだけ強力な精霊を呼んだとしてもタケミカヅチの勝ることはないだろうと考えていた。しかしその見積はすぐに覆る。沙耶が最後の精霊を呼んだ途端、彼女の身体や足元から大量の髑髏や怨霊のような精霊が出現した。その数、実に数百体は確実にいるだろう。これには流石のラグナも開いた口が塞がらなかった。
「いやそれはねぇだろ!!?」
「ほう、其方でもこの数を相手にするのは骨が折れるか…どうやら早くも無へと回帰する時が来たようだぞ…綾月洛奈」
「タケミカヅチが出ねーと思ったら、今度は数の暴力か!!クソッ!!負けてたまるか!!」
「亡者たちよ、往け。『
沙耶が他の四体を身体に戻してから命令を下すと何十匹もの精霊がラグナに押し寄せてきた。ラグナはアラマサをすぐに大鎌に変えて何とか切り払っていく。しかしこれではいつ体力が尽きるか分からない。
そんなときに刃が夏凜の剣の内の一振りで沙耶に切り掛かる。それを沙耶は高速で避け、キックで反撃してきた。だが刃も赤い方陣を展開、キックが命中した途端にそのまま沙耶に切り掛かる。その一撃は見事にクリーンヒットした。
「虚空刃雪風!!!」
「くぅッ!!」
「どうした!貴様にとって僕は取るに足らないのではないのか!!」
「図に乗るな、小童風情が!!」
すぐに沙耶は刃に黄泉軍の何体かを突撃させるが、刃も回避した。次に沙耶の後ろから夏凜も切り掛かる。
「おりゃーーー!!!」
「ぐっ…何故小娘どもが…あれは!!」
沙耶が周りをよく見ると自身の周囲に細いワイヤーが周りに広がっていた。樹が彼女の周りに展開し、それを刃と夏凜がワイヤーを利用して縦横無尽に飛びながら高速で切り付けている。残った黄泉軍は樹を攻撃しようとするが、樹の武器の攻撃範囲の広さのおかげで次々と殲滅されていく。
「小賢しい真似を!!」
「ユキアネサが封じられた程度で僕たちに勝ったつもりでいるな!!」
「ラグナにしか目がいかなかった分、アンタは私たちに気を配らなかった!!だから樹もアンタに気付かれることなくワイヤーを張れた!!やっちゃって樹!!」
「…『
ワイヤーの隙間から夏凜たちが脱出すると樹が沙耶を瞬時に締め上げる。そこを沙耶は沙耶は肋骨のような障壁を張り、ワイヤーそのものから身体を守る。しかしワイヤーはギリギリ鳴り、かなりきつそうだ。
「さあ、アンタの負けよ!そのラグナと大尉の妹を解放しなさい!!」
「よもやそれで勝った心算でいるのか?もしそうならば、其方らは本当に哀れな者だ」
樹のワイヤーに絡まれても尚、沙耶は笑っていた。この状況に置かれてもまだ余力があるかのようだ。そこで何かに気付いたのか、慌てた様子の樹は急にワイヤーの力を強めた。
「おい、どうした!?犬吠埼樹!!」
「ほう…其処な小娘は気づいたようだな…だがもう遅い、『
沙耶はまずその世界で自分を締める縄を吹き飛ばす。自由になった沙耶へ刃が突貫したが、沙耶は禍玉を飛ばして刃を包囲させた。
「『
「くっ…邪魔だ!」
「だが後ろは貰ったわ!!」
「そう来ることなど分かっている。咲き誇れ、『
「うあッ!?」
後ろの夏凜もすぐに戻って高速回転して来た禍玉に攻撃され、後ずさる。そしてとうとう黄泉軍を捌き切ったラグナが大鎌を構えながらこちらへ向かってくる。刃も氷の弾丸で沙耶に突進してきた。
「そこまでにしやがれ!!ブラッドサイズ!!!」
「貴様をここで終わらせる、霧槍突晶撃!!!」
「フフフ、待っていたぞ、兄様方…『
沙耶は禍玉を自身の足元で囲むように展開、回転させるとそこから怨霊が溢れるほど出現し、二人を空中へ巻き上げる。他の黄泉軍も合流して出来た黒い旋風に捕らわれた二人に沙耶は首根っこを掴む。その時に二人が見た沙耶の顔はお世辞にも齢十二の少女のものとは言えないものだった。
「其方ら、なんて顔をしておる?」
((それ、こっちが聞きてーーー!!!))
「これからが宴ぞ!!!!」
怨霊たちが兄弟から離れて各々で集まると頭部が髑髏の蛇が八体出現した。沙耶は兄二人を鷲掴みにして急降下する。それを蛇たちが追いかける。最後に地面に到達すると凄まじい爆発と莫大な量の瘴気を発生しながら、辺りを破壊しつくした。
吹き飛ばされた勇者たちが見たのは樹海の根の様々な場所が破壊しつくされた痕だった。
刃に興味を失せたのか、沙耶はグロッキーになった刃を投げ捨ててラグナに身体を委ねるようにのしかかり、愛しものを見るかのように彼の顔を手で包む。最早抵抗する力のないラグナは何もできなかった。
「嗚呼、兄様…これで漸く…兄様は沙耶のものですね…世界など放っておいて…二人で…ずっと…」
「ふざ…けんな…!!テメェが…サヤの口調で…話してんじゃ…ねー!!」
「…本当に模倣だと思うか?」
「何…言ってやがる…!?」
「其方はこの娘に会えてはおらぬのだろう?それなのにどうして余の言葉が虚言だと申す?」
「当たり前だ…アイツは…こんなことは…しねー!!」
「これだけ自分を否定する世界にいてなお、か?」
それを言われて、ラグナは答えられなかった。自分が知る沙耶なら他者に攻撃することはもちろん、このような強引なことをする人間ではない。しかし、沙耶はここ最近園子にすら顔を合わせずに部屋に籠っていたと言う。だから今の沙耶が今の世界をどう思っているのかは本人しか知らない。
「此奴も哀れな者よ。誰かの力とやらになるために努力した先に待っていたのは絶望だったからな」
「絶望…だと?」
「左様。友人の身体は見るに堪えぬ姿に変わり果て、助けようにも一向に現状を打破できる手が見つからず、少しでも勇者の手助けになれるならと与えた精霊も御役目に縛る呪いだと小娘どもに罵られ、そして最期は愛しい愛しい兄様に来るはずのない助けを求めながら峡真に心を完膚無きにまで破壊された。これを哀れと呼ばずして何と言う?」
「そんな…」
沙耶がそういうとそれまでの重々しい声から普通の少女のものに変えてラグナに語り掛けてきた。
「兄さま…もう…終わりにしましょう…」
「サ…ヤ…?」
「沙耶は…こんな世界いらない!!こんな世界嫌い!!大嫌い!!!こんな世界なんて壊れちゃえばいいんだ!!」
「テメェ…!!」
「園子ちゃんも助けられなくて…気づけばみんな、私が悪いって!!沙耶のせいだからみんな辛い目に遭ってるんだって!!」
「違う…!!」
「兄さまが傍にいなくても…大赦の人たちに兄さまと会えなくさせられても…沙耶は頑張りましたよ…精霊を呼ぶのも、お勉強も…たくさん…」
「やめ…ろ!」
「でも…もう嫌だ…沙耶は世界なんてどうなったって構わない!!沙耶はただ…兄さまの傍にいられれば…それだけで…良かったの…」
ラグナはとうとう立ち上がる力を失った。これが本当に沙耶の言葉なら、自分はまたしても『サヤ』を救うことが出来なかった。やるせなさでどんどん力が無くなり、意識も遠くなってきた。やがてラグナの目は閉じてしまい、それを見て沙耶は残忍な笑顔を浮かべていた。
気づけばラグナは木の下で日向ぼっこしていた。場所は自分たちがこの世界で芹佳の神社の近くの林で、ここに住み始めた頃の記憶だ。顔を少し横にやると、そこには沙耶がいた。
「なんだよ、サヤ?今日は具合が良いのか?」
沙耶は何も答えない。ただ自分の方を見てほほ笑んでいた。
「おいどうしたんだよ?またジンのやつと喧嘩でもしたのか?」
「……いで」
「あ?わりぃ、聞こえねぇわ。なんかな、すっげー疲れたんだ。どうしようもなく、な」
日差しで微睡んでいたラグナに沙耶は何度も語り掛ける。
「諦めないで、兄さま」
「サヤ?」
「沙耶は信じています。兄さまが必ず助けてくれるって。『あの時』のように」
「俺が?」
「はい。それ以外にも何度も」
「…ンなことねーよ」
妹の前だからなのか、ラグナはつい弱音を吐いてしまう。
「俺は何も助けられてねーよ…母さんもああなって…アイツらもバラバラになって…今の仲間もハザマの野郎に攫われて…中には俺のせいで大事なもんを失って…お前のことも…」
「…」
「俺は…ほんとに…ダメなアニキだったよ…済まねえな、サヤ…」
「…何を言い出すと思ったらそんなことですか?」
「え…?」
沙耶は小さく笑いながらもラグナに語り掛けた。
「沙耶は、私は兄さまがいたからあのとき、止まることが出来た。兄さまがいたから、あのときから私は前に進もうと思えた。園子ちゃんも銀さんも須美さんも、あの時に兄さまが助けたから無事だったんですよ」
「あのとき、テメェめっちゃ泣いてたじゃねーか」
「当たり前です。気づいたら兄さまが死にかけているのですから」
「おう…」
「ですが、兄さまだったから助けられたんですよ…それは私と会えなくなった後もたくさんの人にも当てはまるはずです」
「…サヤ」
沙耶の言葉に少しずつではるが、ラグナの身体に力が戻り始めた。優しい笑顔を絶やすことなく、沙耶は続けた。
「それに今、兄さまにはいるんでしょう?沙耶以外にも助けないといけない人が」
「…ああ。そうだ。あいつらは、大切な仲間だ。でもな」
「はい?」
ラグナの瞳に力が徐々に戻る。寝そべっていた地面に手を付ける。
「そいつはテメェを助けねーってことにゃならねー。必ず…テメェも止めて、そして助けて見せる!!…あの時に約束したしな」
「はい、そうですね。巫女の力に目覚めたあの日でした」
「ああ。だから待ってろ。少し荒っぽくなるが…あんな奴、引っ剥がしてテメェを助け出す!!」
「はい…いつだって私は手を伸ばしてますよ」
「だったらそいつをつかみ取らねーとな!!!そして…ハザマの野郎も倒す!!まだ世界を壊させねー!!」
「……う、うおおおおおおお!!!!」
「な、なんだと!?」
ラグナが目を覚ますと早速沙耶を振り切って、腹にヤクザキックをかます。堪らず沙耶も後退し、先ほど様子が明らかに違うラグナに沙耶、そして勇者たちも驚く。
「其方、何があった。もう貴様に立ち上がる力などなかったはずだ!」
「…昔交わした約束を、思い出しただけだ!」
「クハハ…何があったかと思えば何とも下らぬ!そのような貧弱な縁でなにができよう!?」
「こんなことができるよ~」
「頭上注意だぞー」
「なっ!!?」
突如沙耶に向かって大量の槍と電子状の斧が雨のように降ってきた。ラグナたちが頭上を見るとそこには烏天狗を筆頭に十五匹の精霊を率いて浮かんでいる園子と機械で出来た勇者服を纏って浮遊している銀が見下ろしていた。
「やっほ~、ラッくん、みんな~。乃木さん家の園子だよ~」
「オッス、アタシは三ノ輪銀!大丈夫かラグナ、刃?」
「て、テメェら!!?なんでここにいやがるんだ!!?」
「二人を助けるために決まってんだろ!」
『全く…無茶なことを』
「ごめん、九重さん。でも今回は行かせてくれ」
「おい園子、三ノ輪!!貴様らが出張るということはどういうことか分かっているのか!!」
「確かに大赦の人たちの言うことを聞いて友達と戦うのは嫌だけど~」
園子が穏やかな口調のまま、沙耶の方へと視線を移した。その時の園子の迫力はかなりのもので、沙耶が思わず後ずさってしまった。
「私の友達を傷つけた人には…お仕置きしないといけないからね~…出てきたんだぜ~。取り敢えず、私の大切な友達の身体から出て行ってもらおうかな~?」
「ああ、こりゃあ園子のやつ。相当キレてるぞ。まあ、アタシもダチも家族も良いようにされて黙っていられないんでね、ちょっと覚悟してもらおうか!!」
「テメェら…」
ラグナたちが呆けていると二人は男子二人の近くに降り立った。園子はすぐに刃に指示を飛ばした。
「ジンジン、ここは私たちに任せて壁に向かって。あっちには多分、わっしーとツバッキーがいる」
「何!!?鷲尾はともかく、何故椿姫が…まさか第零師団か!!?」
「そうかは分からないけど先に行ってくれ、刃!お前の力が必要なのはあっちだ!」
「…なら先に行くぞ。すぐに追いついてこい」
「あいよ!」
「うん!!」
「兄さん…」
「分かってる。任せろジン、そっちは頼んだぞ。すぐにそっちに行く」
「…待っているよ」
そう言って刃は壁の方へと急行した。夏凜も集った三人に話しかけてきた。
「じゃあ私も壁に向かうわ。友奈も、東郷も心配だから。入って来るバーテックスに関しては風がまだ難しいけど、樹は…大丈夫そうね」
夏凜のそんな指摘に樹がサムズアップを返す。ここは自分に任せろと云わんばかりの頼もしい姿だ。新たな勇者の出現に沙耶は構える。
「有象無象が何匹集まろうと余の敵ではない。今ここで其方らは一人残らずここで朽ち果てるであろう」
「…行くぞ、サヤ!!!」
ラグナは右腕を翳す。峡真がいない今、魔導書がうなりを上げながら瘴気を集めていく。周りで地響きが起こる中、ラグナは決意を胸に蒼の魔道書を起動させる。
「第666拘束機関解放!次元干渉虚数方陣展開!!」
「其方、正気か?蒼の魔道書を使えばこの娘もただでは済まぬぞ」
「そうはならねーよ…だから見ていやがれ…これが、『蒼』の力だ!!!!」
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とうとう園子と銀、参戦!!なんか少しだけでも絶望の空気が薄くなってきた気がする。しかしまだハザマがいる以上油断はできないからどうなるのかな?
ちなみにサヤは最初、酒呑童子とか大嶽丸とかを使う予定だったけど、酒呑童子はたかしーの精霊だし、なんかイザナミのイメージと違うしで結局こうなった。まあ、火雷大神を従わせられなかったけどね。
それでは次回は沙耶戦決着!!それではまた