蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。
お気に入り登録していただいた方、ありがとうございます!まだ拙いかもしれませんがこれからもよろしくお願いします。

さてギャグなのかそうでないか第五話の始まりです。

それではどうぞ



Rebel05.日常という名の混沌

「サヤ、いるか?」

「ようこそ兄さま!どうぞ上がって」

 

今日洛奈は妹の沙耶を会いに上里家へ出向いていた。上里家は乃木家に比べてそれほど大きなものではないもののかなり広い日本屋敷である。

 

それでも迷わないのは屋敷が庭園がそれほど広くないため割と簡単に家までたどり着けること、そして玄関でだいたい沙耶が自分で自分の客人を出向かいに来ることが多いからである。本人曰く、兄弟たちや園子に会うのが楽しみで仕方がないらしい。

 

「今日来てくれてありがとう。刃兄さまも待ってますよ」

「あいつ早えな、おい。それじゃあ急がねえと」

 

沙耶に案内されて洛奈は奥へと進んだ。そして部屋に入ったとき、当然のごとくこの男が襲来した。

 

「兄ぃぃぃさぁぁぁぁぁん!!!」

「フンっ!!」

「うごあッ!?」

 

飛び掛かってきた刃に回し蹴りをかます洛奈。その様子を沙耶は苦笑いしながら見ている。というのも沙耶の前でも刃はこのあり様なのでもう見慣れた光景になっていた。しかし今日はできれば控えてほしい理由があった。

 

「刃兄さまお願いですから今日はできれば抑えてください。園子ちゃんが友達を連れてくるんですよ」

「フン、安心しろ沙耶。このことは彼女たちも知っている。隠す必要はない」

「いやなにしてくれてるんですか?その説明のどこに安心する要素があったんですか?」

 

兄がすでに大切な一つ年上の親友の新しい友人の前で醜態を晒していた事実に沙耶はちょっと怒っていた。

 

「まったく、刃兄さまはいつになったらこの飛び掛かる癖を治すのですか…」

「そうはいっているが沙耶。お前も兄さんを待っている間に部屋をグルグル回っていたじゃないか」

「うっ…」

「しかも兄さんが呼び鈴に出たときに急いで玄関へ走っt「ぎゃああああ!!それ以上は言わないでぇぇぇ!!」」

 

どうやら沙耶も少なからず洛奈の訪問を楽しみにしていたようだ。

 

「お前が兄さんに会うのが楽しみであったように僕も兄さんに会うのが楽しみで仕方がなかったんだ。だからこの行動は至って自然なんだ」

「いや違いますよね。絶対しませんよね」

 

確かに自分も兄は大好きだが刃のような行動はとっていないと訴える沙耶。

 

「まあ、二人とも落ち着けよ。今日は初めて大勢で集まる日なんだ。多少はしゃいでもいいだろ?」

「兄さまがそういうなら…」

「分かったよ、兄さん」

 

そんな兄弟同士のやり取りしていると呼び鈴が鳴った。どうやら園子たちが到着したようだ。 

 

「あ、園子ちゃんが来たみたい。私向かいに行きますね」

「おう、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

「押忍、ラグナ、刃!遊びにきたぞー!」

「遊びにきたよ~、みんな~」

「お邪魔します、綾月君、刃君」

 

勇者たちが勢ぞろいで沙耶の部屋に入ってきた。沙耶はおそらく初めて会った銀や須美にまだ少し警戒しているからか園子の手を握りながら先頭で歩いている。

 

「お前たちも来たか」

「ああ来たぞ。今日は園子が紹介したいって言ってた娘に会ってみたかったし」

「貴女が上里沙耶さんね。初めまして、鷲尾須美です」

「アタシは三ノ輪銀。よろしくな」

「は、初めまして!上里沙耶です!」

 

若干声がうわずってしまったが沙耶は自己紹介を終えた。

 

「えっと…勇者の皆様、本日は来ていただき、ありがとうございますっ!」

「そんなに緊張しなくてもいいよ。気軽に銀て呼んで」

「私も須美と呼んでね」

「は、はい。私もできれば沙耶と呼んでくれると嬉しいです!」

「よかったね~サッちゃん」

「うん!!」

 

初めは少し緊張していたものの勇者たちと打ち解けあうことができた沙耶を見て洛奈と刃は嬉しそうに見る。

 

沙耶はこの神世紀以降最高、というより「異常」な巫女適正を持っていることが分かって以降、学校に行くことができなくなり、上里家で様々な資料を読んで巫女の勉強をしながら大赦本部で修行をしている。

 

「普通」の巫女は大赦の秘密主義政策の都合上大赦本部に置かれて生活している。しかし沙耶の場合はこうはいかない。これは沙耶は神霊と非常に交わりやすい体質と魂の持ち主で神樹を構成する神をその身に宿すことができるからである。

 

そのためダイレクトな神託が可能であり、かなり具体的な情報が得られるのだ。

 

しかも彼女は最近になってその体質を最大限に利用した「降霊術」を習得するようになり、様々な精霊をその身に宿すことで精霊の能力の取得と全体的な身体強化が可能になった。

 

そんな彼女が大赦にストライキや反乱を起こしてしまえば大赦は壊滅必至であるため、大赦上層部ですら彼女に対しては非常に慎重に接している。そもそも彼女には神樹の神々の内の何柱かを取り込んで神官数名を病院送りにした前科があるのだ。

 

「でもアタシたちが万全の状態で戦えるのは沙耶のおかげだよな。あそこまで具体的だとこっちも心構えができるってもんよ」

「そうね、敵の情報を収集することは戦いにおいて重要だわ。いつもありがとね、沙耶さん」

「そ、そんな!私なんて皆さんに比べたらまだまだですよ・・・」

「そんなに謙遜しなくてもいいだろ沙耶。お前のおかげで助かっているのは事実だ」

「刃兄さま・・・ありがとうございます」

 

普段は軽口を叩いてくる刃にも素直に賛辞を贈られて沙耶は少し照れ臭そうにする。その様子を洛奈と園子が微笑ましく思いながら見ていた。

 

「サッちゃん、嬉しそうだね~」

「ああ。自分の『力』が誰かの『助け』になっていることが感謝されることで実感したからな。嬉しくねえわけがねーよ」

 

「あの日」沙耶から直接彼女の願望(ゆめ)を聞いた洛奈からすると今目の前の光景はとても尊く感じていた。

 

「そういえばちょっと小腹がすいてきたな~。なんかお菓子とかある?」

「あ、私にお任せください!こう見えて私、『料理得意なんですよ』!」

 

この一言が聞こえなければ

 

「あら、沙耶ちゃん料理できるの?じゃあ私と一緒にやろうかしら?」

「いえ。皆さんはお客様ですので私が作りますよ」

「じゃあお願いしようかな」

「ありがとうございます!よ~し、張り切ってきたぞー!!」

 

そう言って沙耶は鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、本当にかわいい妹だな~ラグナ…ってラグナ!?」

「どうしたのそのっち!?顔を真っ青にしちゃって!?」

 

たっぷりと沙耶と触れ合ってご満悦な様子だった銀と須美だったが、洛奈たちに声を掛けようとした瞬間、二人の異変に気付いてしまった。洛奈は滝のような汗を流しながら全身が震えていた。園子はいつものほんわかした笑顔を浮かべていたが明らかに顔色が悪くなっている。

 

「やべえよ、完全に油断していたよ…」

「ミノさんその地雷は踏んじゃだめだよ~。消化器官全とっかえになりたいの~?」

「おい園子!それは言い過ぎだろ!そんなに沙耶ちゃんの料理を食べたくないのか?」

「いや、うん…あれを根性だけでどうにかなりそうなのミノさんくらいだと思うんよ~…」

「なんでそんな遠い目してるんだよっ!?いったいアタシこれから何を食べることになるんだよ!?」

「あ、刃君!窓から出ようとしちゃだめよ!」

「止めるな、鷲尾!!僕はまだこんなところで死ぬつもりはない!!!」

 

刃に至っては一人窓からの脱出を敢行しようとしていたところを須美に見つかり、捕まってしまった。もしドアの方から出たら沙耶にバレる可能性が高くなるため、外につながっている窓から抜け出して逃げようとしたのだ。

 

「離せ!!あんなものを食べたら三日は再起不能だぁぁぁ!!!!」

「そこまで言う必要ないでしょ、刃君。そもそも食材を使うわけだからそう滅多なことは起きな」

 

須美が言い終える前に突然爆発音が屋敷に響いた。最初はその正体を理解できなかった須美と銀だが、洛奈、刃、そして園子の顔色がさらに悪くなっていくところを見てしまうとようやくなにが原因でこれだけ三人があれだけ狼狽し始めたのかが理解した。

 

「…マジで?」

「マジで」

 

 ……

 

事の重大さに気付いた二人は逃亡を計ろうとするがもう遅い。

 

「皆さん、お待たせしました。『カップケーキ』です、どうぞ!」

 

沙耶が持ってきた「それ」は全体的にモザイクが掛かった「カップケーキっぽいなにか」だった。

 

紫、茶色、深緑色、ショッキングピンク、ターコイズと様々な色がごちゃ混ぜになったようなハイカラな色合い、消毒液や塩素系漂白剤の鼻にキツイ匂い、そもそものフォルムがちょっと毬藻のような感じで…とにかく「食べ物」としてみるにはかなり無理がある代物だった。

 

「うおぉ…マジでロックなのが出てきたぞ…」

「いったいどう調理したらこうなるというの…?」

「だから僕はすぐ逃げたかったんだ…」

「うわぁ…俺なんか眩暈がしてきた…」

「う~ん、サッちゃんの料理(ポイズンクッキング)がいつもより磨きがかかっているよ~…」

 

いくら百戦錬磨の勇者でもこれには太刀打ちできないようである。正直今すぐに逃げ出したいが沙耶の純粋な目がこちらを期待の眼差しで見ている。勇者としてここは逃げるわけには行かない。

 

「…アタシが行くよ」

「!!?ちょっと銀、本気なの!?」

「見た目はどうであれ、一所懸命作ってくれたんだ!いただきまーす!!」

 

意を決して沙耶が作ったデスディナーを口にする銀。その様子を洛奈たちは固唾をのんで見守る。

 

「お、おいギン。大丈夫か?」

「銀?」

「…」

 

沈黙の中、銀は笑いながら振り返った。

 

「ラグナ…須美…」

「な、なに?」

「あとは…たの…んだ」

 

そういって銀は安らかな顔をしながら須美の胸の中へ眠るように倒れた。

 

『ぎ、ぎ――――――――んンンン!!!!』

「ミノさーーーーーーーん!!!!」

「なんてことだ…」

 

勇者の中でも一番タフな銀がたった一口でアストラルフィニッシュを決められた様子をみて戦慄する一同。普段は滅多には動揺しない刃ですら完全にビビッている。これを使えば「奴ら」も倒せるのでは?と須美が考えていると、

 

「あれ?三ノ輪さん大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だよ~。ミノさんは食べた後に眠くなったんだよ~」

「そ、そうですか?」

「そうだよ~」

 

突然倒れた銀を心配した沙耶を何とか誤魔化す園子。残った三人はケーキ(未確認物体X)を見つめる。

 

「ど、どうするのこれ?」

「どうするっつーか、食うしかねえだろ…」

「ふざけるなっ!僕は食べないぞ!!」

 

それぞれこの危険物をどうしようか考えていた三人だったが園子と沙耶の会話が耳に入ってきた。

 

「そういえば珍しいね~、サッちゃん。お菓子まで作ってくれるなんてほとんどなかったのに。今日はどうしたの?」

「うん。今日は初めてこんなに多くの人が遊びに来たからみんなとお茶しながら話がしたくて…それで頑張って作ってみたんだ」

「そっか~、ありがとね~」

 

そんな話が聞こえてきた。鋼の意志で食べないと言い張る刃はともかく、それを聞いた洛奈と須美の心が揺れた。しかも

 

「じゃあ私いただくね~」

「本当!?」

「うん。サッちゃんが私たちのために作ってくれたんだもん。残すわけにはいかないよ~」

 

もういろいろと腹を括った園子が食べる意志を示した。園子は銀とは違い、沙耶の料理の破壊力をよく知っている。知っているうえで言ったのだ。

 

「…クソっ!!だったら俺も食う!ソノコを一人逝かせられねえ!!」

「兄さま、私の気のせいか字が間違っている気がしますが…」

「そうね!そのっち、沙耶ちゃん!私も食べるわ!」

「クッ!!仕方がない!!」

「みんな…」

 

洛奈と須美まで食べると言い出したことでとうとう刃も折れ、なんだかんだ全員がケーキを食べることになった。四人は同時に食いつく。

 

「マジで行くぞ!!!いっせーのっ!!」

 

そして同時に暗転する視界の中、彼らは悟った。沙耶の料理は兵器だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っつう。ん、ここは確か」

 

気絶した五人のうち、一番最初に意識を取り戻したのは洛奈だった。他の者たちは呻いたり、うなされたりしながらまだ横になっていると阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

「相変わらずの破壊力だぜ、全く…味見してねえだろ」

「まあ、してはおらんな。だがよかったではないか。『其方』の妹君が作ってくれたのだろう?」

「…………え?」

 

不意に聞こえた声の方へ振り向く。そこにいたのは洛奈が一度見ているものだった。長い紫の髪。赤い瞳から出る絶対零度の視線。明らかに少女とは思えない威圧感。忘れもしない。「あいつ」だ。

 

「てめえは…!!」

「物欲しそうな目をしおって…貴様も弟のことが言えないのではないか、『兄様』。」

 

「沙耶」は悪戯っぽく笑う。

 

「何故ここに来やがった!ここで『てめえ』が神託を告げても大赦本部にいなきゃ意味ねえだろ!!」

「相も変わらず不敬だぞ、『綾月洛奈』。いや、『異邦の魂を持つ者』よ」

「!!?てめえそれどういう!」

「この世界を維持している余が其方の異端性に気付かぬと思うたか、戯けめ。自分でも自覚しているであろう。『まるで自分で体験してきたかのような夢や自分に覚えのないはずの光景や記憶』を見たり、覚えていたりすることを」

「!!!」

 

流石は神というべきかバレていた。それよりも洛奈が周りを見る。まさか今の話を聞かれたのではないか。

 

「案ずるな。今余と其方の周りには遮音結界を張っておる。万が一にも盗み聞きはできぬ」

「……なにが目的だ?まさか俺を『ここ』から追い出すか?」

「余にはその権限はない故な。それはできぬ。そもそも余は其方のことは嫌いではないぞ?」

「じゃあなんだ!?」

 

洛奈は「沙耶」に怒鳴り散らす。「沙耶」は一度目を閉じた後に「それ」を告げた。

 

「余がここに来たの『神託』のためではない。其方へ『警告』をしに来た」

「俺に?『てめえ』が?」

「そうだ。こころして聞くがよい」

 

「警告」という「沙耶」はその内容を告げる。

 

「『今から十日後、其方は『かつての死に際』を味わうであろう。そのときに其方が生き延びる道を選べば…其方は『其方のすべて』を取り戻すことと代償に元の日常へ戻れなくなる』ぞ」

「…」

 

かつての死と其方のすべて。それはどういうことなのか今の洛奈には心当たりが少しあった。体が震えていることが分かる。

 

「確かに伝えたぞ。其方に何かあれば『この娘』も何をしでかすか分からぬ故、気をつけよ」

「て、てめえ!具体性どこ行ったよ!」

「具体的に教えたら其方は首を確実に突っ込むからに決まっておろう。余としても其方が危険に遭わないことを願うぞ。『あの世界』へ其方ら人間を誘うのは余だけではないからな」

 

ではな、「兄様」。そう告げたあと、「神樹」は沙耶から離れていき、沙耶も元の姿に戻って、倒れこんだ。

 

「サヤ!!」

 

そんな沙耶を洛奈が駆け込んで受け止めた。

 

「……んぅ?兄さま、どうしました?」

「あ、ああ…なんでもねえ…」

「?変な兄さま…」

 

神の憑依による疲れかそのまま沙耶は眠ってしまった。しかし神樹が残した言葉はいつまでも洛奈の頭に残っていた。




いかがだったでしょうか?

ギャグは書くといったがシリアスは書かないとはいっていない。

沙耶もといノエル=ヴァーミリオンの料理はギャグシナリオとはいえあのハクメンにすらダメージを与えるもの。さすがの勇者たちもこれにはバーテックスよりも苦戦するのではなかろうか?


不穏な警告を受け取った洛奈君ですが、次回彼の運命の環は本格的に廻りだす。

それでは
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