蒼の男は死神である   作:勝石

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お久しぶりです。勝石です。

前回のアンケートに答えていただき、ありがとうございます。次に長期間にかけて行うものを作るので参考にさせていただきます。

さて今回の話ですが友奈ちゃんクサナギ化からの救出!!それではどうぞ!!

The wheel of fate is turning...Rebel 1 ...Action!!!


Rebel46.神殺しの剣

窯から出現して早々に峡真を撃退した友奈は神樹を見つめていた。宙に浮かんでいる彼女の足元にはヤマザクラを彩った方陣が展開されており、紅い目からは普段の優しい眼差しが消えている。そんな彼女の変化に戸惑うラグナたちを余所に友奈は機械のような抑揚のない声で発令する。

 

「最重要破壊対象『神樹』を確認…破壊します」

「…レイチェル。ちょっとマズイことになっちまった」

『ええ、確認したわ…間に合わなかったのね…』

 

ラグナとレイチェルは苦虫を噛んだような表情で友奈の方を見る。朗らかな彼女が今や世界を滅ぼす剣と化していた。刃はユキアネサを手に取り、椿姫と東郷を庇う。友奈が次の行動に移った。

 

「『神輝(しんき)ムラクモ』起動」

「ム…ムラクモだとッ!!?」

 

その名を聞いて衝撃を覚えるラグナを余所に友奈がそれだけ言うと窯から巨大な剣が来襲してきた。剣には女神らしきものが彫られており、そこから光が放たれると友奈の姿は再び変化する。

 

現れた彼女は胴から腰や太ももまでの殆どが露出しており、通常時では右手のみにあった手甲は両腕について鋭い刃が出ている。胸元はヤマザクラのリボンで留められた布地で隠されている。両肩には牛の頭を思わせるようなパッドがあり、周りには蜘蛛の足にも見えるペタルが八つ浮遊していた。右目の横には桜の花びらが三枚あり、額にもヤマザクラが描かれている。

 

髪型がポニーからサイドテールに変わり、足も飛行ユニットに包まれた友奈は神樹へ一直線に向かった。かなりの飛行速度でラグナたちでは追いつけそうにない。

 

「ゆ、友奈ちゃんが…なんて破廉恥な恰好に…」

「言ってる場合か!!? レイチェル!! まさか『ムラクモユニット』までこの世界にあるのか!!?」

『アークエネミー、神輝ムラクモ自体は博士亡き後に大赦が設計図を基に一から作り出したものよ。でもあれは未完成だったはず…』

『…恐らく結城友奈という主が見つかったことでムラクモが自身で母様が隠しているであろう窯に侵入したのだろう。そしてその勇者と同調することで完成した。先ほどまで奴は窯の中にいたから不自然ではない』

「ココノエ…お前大丈夫か…」

 

先ほどの峡真が告げた事実で怒り狂っていた九重が通信に出てきた。まだ怒りの炎が見え隠れしていたが、今は幾分冷静になっていた。

 

『まあな…ラグナ、峡真はどうした?』

「…最後はユウナにぶっ飛ばされて樹海の底に落ちて行ったよ」

『おかしいわね…峡真が友奈さんを精錬したなら剣の持ち主は彼のはずではなくて? それなのに逆らえるなんて…』

「あの…何方か存じませんが今の友奈様を救う方法はないんですか?」

 

椿姫が二人に質問するが返事は返ってくることがなかった。嫌な予感がしたラグナは彼女らに返事を急かした。

 

「おい、ココノエ!! レイチェル!!」

『…残念だけど。ああなってしまった以上、もうあの娘を救う方法はないわ…』

「そんな…何か方法はないんですか!!?」

『…ない。今の奴は最早『讃州中学の結城友奈』ではない。『神殺しの剣クサナギ』だ。奴を放置すれば…神樹は破壊されるだろう。そうなれば…人類の滅亡、そして世界の終わりだ。だからお前たち…覚悟をしておけ』

 

東郷の言葉をバッサリ切った後に九重はどこか深刻な顔で四人に最悪の選択を突き付けた。

 

「…何の覚悟だ、九重」

『……結城友奈を『殺す』ことだ』

「何を…言ってるんですか…」

 

それは東郷にとっては取れるはずのない選択だった。自分が神樹の破壊を敢行したのは他でもない、部員たちと友奈を生き地獄から解放するためだ。だが九重が話していることは世界が危ないから友奈を排除しろということだ。当然そんなことを東郷が承認することなど出来ない。

 

「ふざけないでください!!! そんなこと、させると思っているんですか!!?」

『東郷さん。もちろん、貴女が反発するであろうことは知っているわ。でもそれをやらねばあの娘は神樹を、そして人間の生きる世界を壊すわ。貴女たちのいる勇者部も何もかも…全く正気ではない状態で、よ。それを本当にあの娘が望むと思うかしら』

 

レイチェルの言う通りではあった。今の友奈は全く正気ではない。だから確かに天の神にも刃を向けることがあっても、その後に神樹を破壊することに何の躊躇いも見せないだろう。

 

友奈は勇者部の仲間が大好きだ。そしてみんながいられる居場所である勇者部を大切に思っている。もし彼女が正気を取り戻した時に全てが無くなり、仲間も居場所も自分の手で破壊し尽くしていたら彼女はどうなるのかは想像に難くはなかった。他の者たちが思い悩む中、声を一番に上げたのはラグナだった。

 

「らしくねえな、ウサギ。諦めんのはテメェが一番嫌いなことの一つじゃねーのかよ?」

『ならどうするの、ラグナ?今のあの娘の魂は精錬による幾度の散華と御魂に直接触れている影響で…恐らく『境界』の奥底に眠っているわ。しかもその過程の中で境界に遺っている世界の絶望を見た。そんな彼女をどうやって助けるつもり?』

「…勇者部五箇条、なるべく諦めねぇ」

 

普段からこれとは縁のない者たちは彼の言葉の意味が分からなかった。しかし、東郷、刃、そしてレイチェルはそれだけで彼の意志を読み取った。ラグナはすぐに九重に向かって叫んだ。

 

「ココノエ!! ギンにつないで、すぐ他の連中にユウナの足止めを頼んでくれ!!」

『足止めをしたところでどうするつもりだ?』

「アイツの魂が境界にあるなら…引き戻しちゃあいいだけだ!! そうすりゃあ助けられる!!!」

『……レイチェル。こいつの頭蓋をこじ開けて大脳新皮質に電極を刺しても良いか?フワッとしたようなスローガンをいきなり聞かされ、しかも現実的でない方法に世界の命運を掛けろと抜かすこの大馬鹿者のせいで私の苛立ちは爆発寸前だ』

『……ラグナ。貴方は一体どうやってそれをするつもりなの?』

「言った通りのことだよ。ユウナも世界も捨てるつもりはねえ。そしてテルミが言ったことが本当ならば…それが出来る。二人とも、俺を信じろ」

 

そう言いつつラグナは右腕を上げた。覚悟を目に宿した彼を観測()て、レイチェルは言葉を告げた。

 

『……九重、銀に回線を回しなさい』

『はあッ!!? 正気か、レイチェル!!?』

『九重、いつの時も未来を切り開いたのは…勇者たちよ。だから、今は彼らにかけてみるのも悪くないのではなくて?』

『…それで世界が滅んだらどうするんだ?』

「滅ばねーよ、ココノエ…ぜってーにな」

『…分かった。だが失敗した場合、私も強行手段を取るぞ。だから…必ず成功させろ、ラグナ』

「任せとけ」

『彼女がその手段を取るときは私も止めるつもりはないから、友奈さんを救うなら救出を失敗出来ないわよ。それは理解しているわね、ラグナ』

「…ああ。そうならねーように頑張るよ」

 

レイチェルと九重が通信を切るとラグナはすぐに友奈の元へと急行した。その後を刃たちも追った。

 

✳︎

 

「分かった!!すぐに他のみんなにも知らせる!!」

「どうしたの、ミノさん!!!」

「園子、今友奈さんが神樹に向かってるみたいだ、神樹を破壊するために!!」

『なんだって!!?』

 

バーテックスの侵攻が大分治まった後、銀から知らされた報を聞いた犬吠埼姉妹とその他は驚愕する。どうも友奈が暴走してこちらに向かっていて、ラグナに彼女を止める策があるらしいので足止めしてくれとのことだ。しばらくすると高速でこちらに接近して来る友奈の姿を確認した。

 

「ぎゃああああ!!!? どういうことだよ!!?」

「ちょっ!!? 友奈!!? 何よその恰好!!?」

「この人が…最高の勇者適性を持っている人なんだ…」

「え~と、あんまり関係ないと思うよ、サッちゃん…」

「と、とにかく止めるわよ!! 樹、お願い!!!」

 

流石にムラクモを身に付けた友奈の姿はうら若い乙女にとってかなり刺激の強いもので初めは面食らった彼女たちだが、風がすぐに切り替えて樹にワイヤーの展開を指示した。

 

彼女のワイヤーに捕まりはしたものの、友奈は樹に眼もくれずに爆走しようとする。その力に耐え切れずに樹は引き摺られそうになる。しかし、風が妹を抱きしめて連れていかれないようにする。

 

「うおおおおおおぉぉぉ!!!!」

「……ッ!!!」

「……ペタル展開」

 

周囲のペタルで樹のワイヤーを切り裂いていく友奈。しかし彼女の前に今度は園子が立ちふさがる。

 

「その状態で行かせるわけにはいかないよ~!!」

「敵性反応を感知…『シュタインズガンナー』」

 

園子の武装の多さを見た友奈は桜の花びらのような衛星を複数放出して迎え撃つ。二人は接触してすぐに戦闘を開始した。園子は精霊たちに衛星を任せ、友奈と激突した。精霊たちが衛星との打ち合いに奮闘している中、園子の槍と友奈の手甲とペタルがぶつかり合う。

 

「友奈さん。わっしー…東郷さんが一番大変だった時に一緒に居てくれて、支えてくれて…私たちはすごく感謝してるんよ…」

「…東郷さん?」

「覚えてるでしょ?大切な友達のこと」

「……」

 

東郷の名前を聞いた瞬間、友奈の表情が少し変わった。だがそれでも無機質な声から発せられる言葉を変わることなく繰り返される。

 

「対象より提示された情報を検索…検索…検索…東郷さん…東郷美森の生存認識拒否!」

「え!!? どうして!! わっしーはちゃんと生きてるよ!!」

「理解不能…対象の速やかな排除を敢行します!」

「友奈さん、落ち着いて!!」

「滅べ!」

 

機械のような光のない眼で園子を見る友奈は瞬間的に加速して園子の背後に回り、彼女をペタルで切り付ける。

 

「『イクタチ』!」

「ぐうぅッ!!」

 

咄嗟に烏天狗が戻ってガードはしたものの、それでも衝撃を殺しきれなかった。体勢を立て直そうとする園子にすかさず友奈は自身からレーザーを一斉照射する。放射されたレーザーは周囲のペタルに反射していき、園子に集中していく。精霊たちも間に合いそうにない。

 

「『ヤタノカガミ』!」

「乃木さん!!!」

「園子!!!」

「園子ちゃん!!!」

 

レーザーの雨を喰らった園子だったが煙が晴れると彼女は花びら状の槍で自身を守っていた。小学生時代の経験が活きてきたようだ。

 

「…こんなのまともに喰らったら危なかったな~」

「……『アメノハバキリ』!」

 

友奈の言葉一つで全ての衛星が園子の方へ迫る。だがその前に衛星たちは爆発を起こした。二人が周りを見るとそこには銃を構えた沙耶がいた。

 

「サッちゃん!!」

「援護は任せて!! 園子ちゃんは友奈さんを!!」

「うん!! じゃあいっくよ~!!」

「新たな対象を認識。事象兵器『ベルヴェルク』を確認。直ちに殲滅します」

 

沙耶が友奈が差し向けたペタルを着実に打ち落とし、園子は槍と精霊たちで友奈のペタルと応戦する。これ以上沙耶のことを看過することが出来なくなったのか、友奈は彼女の周りにペタルを包囲させる。

 

「『リボルバーブラスト』!!!」

 

しかし瞬く間にそれらはベルヴェルクで撃墜された。友奈も徐々に園子に押され始める。手甲がついたパンチや刃物のように鋭利になった足から繰り出されるキックも園子の防御の固さの前で悉く防がれ、殆ど隙を見せてこない。逆にこちらが攻撃すれば的確に槍で突いてくる。

 

「対象の戦闘行動依然と変化無し。戦闘行動を続行します」

「こっちもまだ負けないよ。わっしーも、ラッくんも、ジンジンも貴女を救うことを諦めてないなら私たちが諦める訳には行かない!!!」

「…『オモイカネ』!!」

 

友奈が園子に光の弾を当てると園子と精霊たちの動きは止まってしまう。光を帯びたペタルは刃となって彼女に襲い掛かるが、そこを沙耶が割って入って打ち落としていった。

 

「『バレットレイン』!!!」

「ッ全弾被弾せず…対象の攻撃態勢より、迎撃に入ります!!」

「『トール』!!!」

「『アマノハバヤ』!!」

 

ベルヴェルクをすぐさまロケットランチャーに変形させて追撃した沙耶だったが、自分に命中する前に友奈は相手の凶弾に攻撃させて誘爆させた。爆発によって発生した煙からしばらくして白い光が見え始めると友奈の声が聞こえ始めた。

 

「カミヨナナヨ…神によりて創られし世界。全ては偽り!全ては虚像!! 終末は来たり!!!」

 

光が煙を吹き飛ばすと、そこから桜色の巨大な剣が現れた。それから目を離せない園子たちに向かって友奈は光に包まれていく剣を振り起こす。

 

「憎い…憎い…世界が憎い!!」

「友奈!!! もうやめなさい!!!」

「今…全ての破壊を!!! 『カミゴロシノツルギ』!!!!」

 

そして友奈は園子と沙耶がいる位置へ射出した。凶悪な破壊力を誇る剣は樹海の根に深く突き刺さり、辺り一帯を吹き飛ばす。神を殺すそれの前に当然精霊バリアなど紙装甲も同然。幸い直撃はしなかったものの、園子と沙耶はかなりのダメージを喰らってしまった。ボロボロの二人を見ても友奈は眉一つ動かさない。

 

「対象の戦闘レベルはD以下に低下。処理を実こ」

『とまれえぇぇぇぇ!!!!』

 

友奈が最悪の過ちを犯す前に風と銀が飛び掛かって阻止した。ペタルで二人の攻撃をいなして逆に追撃しようとするが、そのペタルも樹によって絡めとられて動けなくなった。手甲と自分の大剣が競り合いながら風は友奈に語り掛ける。

 

「友奈…アンタ、アタシがラグナを殺そうとしたとき、満開ゲージを分かっていながら止めてくれたわね…」

「…ッ新たな敵性対象確認。排除の最優先対象に移行します!」

「だから今度はアタシがアンタをなんとしてでも止める!! 部長として…先輩として!!!」

「…提示情報と検索結果、再び齟齬検出!! 東郷美森の生存認識拒否!!」

「落ち着くんだ、友奈さん!!! ここで世界を壊したら、本当に東郷さんと勇者部のみんながまとめて死ぬことになるんだぞ!!!」

「…ぅああああ!!! 歯ぁ食いしばれ、友奈ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

風は覚悟を決めて友奈の拳を弾くとすぐさま刃のない剣身の横薙ぎで友奈を叩きつけた。風のパワーで友奈は横へ飛び、樹海の根と激突した。動きを見せないため、どうやら止めることが出来た

 

「ごめん、友奈…しばらくおとなしく」

「苦しみと悲しみ、怒りしか抱けない…絶望をただ繰り返す…そんな世界、いらない」

 

ように見えた。残念だが彼女は健在。先ほどの剣も振りかざし、風たちを切り掛からんと構えている。

 

「我が名はクサナギ…全てを………根絶やしにする……刃!!!!」

 

友奈が手を振り下ろすと、剣が振り下ろされた。だが直撃の前に第三者が割り込んできた。

 

「そこかぁぁぁぁ!!!」

「夏凜!!!」

「滅ぼされてたまるか!!! 勇者を…『勇者部』を…なめるなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

満開した夏凜が剣を受け止める。しかしその一撃から伝わる衝撃は並大抵の物ではない。徐々に押され始めた。

 

「この気配が友奈なら目を覚ましなさい!! あの時、勇者部が私の居場所だって言ったアンタがみんなの居場所をぶち壊してどうすんのよ!!!?」

「破壊する…破壊…」

「友奈!! アンタ、すごいおせっかいで…能天気なところもあったけど…そんなところも含めてお人よしで真っすぐなところ、私は好きよ」

「……憎…い…世…界が…にく…い」

「だからお願い!! 自分を見失わないで止まって、友奈!!! アンタのその姿を見たら一番悲しむのは誰なのか、分かってるでしょ!!?」

 

夏凜の必死の説得に友奈は頭を押さえながら苦しみ始めた。

 

「に…く…い…世界…が…自分が……憎い…」

『友奈(さん)!!!!』

「私の…私のせいで…!! みんな…苦しむ…!! 東郷…さん…も…死んだ…!!」

「だから違うんだってば!!」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! これ以上嘘を観測()せないで!! 私を惑わせないで!! 東郷さんの最期の願望(ねがい)を私が果たすんだ!!!!」

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

友奈が何かを振り払うかのように剣を力任せに振るって他の者たち諸共夏凜を薙ぎ払う。樹海も大変な具合に破壊され、彼女の前に立ちふさがれるものもいない。

 

「……全ての対象の危険レベル低下。至急神樹の破壊へ戻ります」

「やめて……友奈!!」

 

風の制止をまるで聞かず、友奈は神樹の方へ向かおうとした。だがその瞬間、彼女の前に巨大な氷柱が出現し、彼女の行く手を阻んだ。

 

「この冷たい感じ…まさか氷!!!?」

「といことは…来たのね!!!」

「ったく…おっそいんだよ!!待ちくたびれたって!!」

「ラッくん…ジンジン…わっしー!!!」

「兄さま方!!!」

 

誰が来たのかをその場の全員がいち早く察しているとペタルが光線の雨で全て破壊され、友奈には大鎌と刀を持った男子二人が迫った。

 

「ブラッドサイズ!!!」

「霧槍尖晶斬!!!」

「壊れて」

 

二人の一撃を剣でガードした友奈はあっさりと追い払うが、兄弟は無事に着地して彼女を見据える。その隣で椿姫に抱えられた東郷も追いつく。

 

「友奈ちゃん…もういいの。これ以上何も壊さなくても!」

「もうやめて!!! 東郷さんの声で…東郷さんの顔で…これ以上私に近づかないで!!!」

「そんな…違うわ友奈ちゃん!! 私は東郷美森よ!! ちゃんと生きているわ!!!」

「貴様…峡真に余程手痛く倒されてしまったんだな…あそこまで現実を拒むなんて思わなかったぞ…」

『あの状態では何が現実と虚構の判別なんてつかないわ。余程強い認識を与えない限り、ね』

「どちらにしても関係ねーよ。お前ら、他の連中にも作戦を伝えてくれ。その間にアイツは俺が相手する」

「綾月君……友奈ちゃんを…お願い!!」

「…兄さん。死ぬなよ」

「分かってるって。テメェらも心配性だな……さあやるぞ!!!」

 

ラグナがアラマサを抜き、友奈と対峙する。正直あの世界でのムラクモユニットと同等の戦闘能力を誇る今の友奈に対して若干恐怖心はある。なにせ未熟だった頃とはいえ、敗北を喫した相手だ。でも今回は初戦闘でも負けるわけには行かない。負ければ友奈を助けられないからだ。友奈も彼を視認する。

 

「ッ…対象、蒼の魔道書をしょ「ユウナ、この馬鹿が!!!!!」え!!!?」

 

一度も向けられることのなかったラグナの怒鳴り声を浴びて思わず友奈が怯む。対するラグナはアラマサを向けつつもまだ話を続ける。

 

「そんな訳のわかんねえもんになりやがって!!!! 神殺し? 御姿? ざけんな!!! テメェは他の何者でもねえ、『結城友奈(ユウキ=ユウナ)』だろうが!!!」

「…対象の精神波長・不明・不明・不明ッ!!」

「少しは自意識があるじゃねえか、全く大した奴だぜ!! 待ってろ!! 今すぐそのクソ下らねえ鎧をぶっ壊してテメェを助ける!!! 覚悟しとけ、この大馬鹿野郎!!!」

 

そう宣言したラグナはアラマサで切り掛かり、友奈は拳を構える。彼の剣の一撃を拳で着実に弾いてくる。だがラグナも止まらない。

 

「ガントレットハーデス!!!」

「『ツヌグイ』!!!」

 

ラグナが拳を友奈に当てる前に彼女はペタルで自身の上下に展開して、バリアを形成した。バリアに弾かれたラグナは後退し、彼女に語り掛ける。

 

「絶望だぁ? 嘘を観測()せるなだぁ? 馬鹿野郎が!! 一人で勝手に世界の全てを知ったつもりでいるんじゃねえ!! 絶望なんて…してんじゃねえぞ!!! 勇者部五箇条を忘れたのか!!」

「…勇者…部…五箇…条…」

「そうだ!! 悩んだら相談だろうが!!! それにな…テメェが観測()た『真実』の中には絶望だけじゃねえ…他にもいろんなあったけえもんも、あったんじゃねえのか!!!? 勇者部で過ごしたあの時間も、嘘だったてのかよ!!?」

「…勇者部」

「思い出せ、ユウナ!!! テメェが、トウゴウが、フウが、イツキが、俺が、カリンが、ジンがいたあの空間は少なくても…そう簡単に捨てたもんじゃねえだろ!!?」

「東郷さん…風先輩…樹ちゃん…ラグナ君…夏凜ちゃん…如月君…」

「トウゴウが本当にハザマに殺されたって思ってんのか!!? じゃあさっきテメェの前で泣きそうなツラしながらテメェに呼びかける『アイツ』は『誰』なんだよ!!? 一番お前を忘れることを…そしてお前に忘れ去られることを怖がった『泣き虫野郎』は『誰』なんだよ!!!!」

 

ラグナが言葉を一切止めることなく友奈に話しかけた。そして彼の言葉を聞いて友奈も再び苦しそうにし始める。しかし頭を押さえる指の隙間から涙ぐみながらも自分とラグナを見守る少女の姿をその眼で観測()る。

 

「と…ご…さん」

「聞こえねえぞ!!!!」

「とうごう…さん!」

「まだだ、もっと腹から声出せ!! 『アイツ』は、『誰』だ!!!」

「『東郷…さん』!!!!」

「友奈ちゃん!!!」

 

友奈の様子が少しづつかつてに近い状態に戻りつつあったが、それでもまだ足りてない。目の光は戻ったり、戻らなかったりを繰り返しており、存在も精神も非常に不安定な状態になっているのだ。

 

「ごめん…ごめんね、東郷さん!! 私が気づかないばっかりに!!! 守れなかったばっかりに!!!」

「そんな!! 友奈ちゃんが謝ることなんて…私が弱かったのが問題よ!!!」

「でも!! 私の存在は!! 東郷さんのこれからを狂わせてしまう!! 私のせいで、東郷さんが辛い思いをしてしまう!!! そんなの嫌だよ!!!」

「友奈ちゃん…」

「…ユウナ。俺がお前らと初めて会ったときのこと、覚えてるか?」

「え…?」

 

ラグナが突然神妙な口調で話しかけたことに友奈は驚く。ラグナは構わず続けた。

 

「あの頃は死神って大赦に呼ばれて…他の人間はあまり俺に話しかけようとはしなくてよ…ジンたちにも会えねえから話し相手は師匠やレイチェルとオッサンくらいだったんだわ」

「…うん。観測()たよ。あの怖い場所で」

「そうか…そしてバーテックスと戦って、讃州中学に来て…それからの日々は…本当に楽しかった。他の同年代と一緒に過ごすなんざ本当に久しぶりでな。あそこは…まあ、なんだ。落ち着けたっつーか、心が休まる場所だったよ」

「ラグナ君…」

「蒼の魔道書のことを話した時も、お前が一番最初に俺を信用したよな? あのとき、嬉しかったぜ」

「それは…だって、ラグナ君が悪い人に見えなかったから」

「それだけじゃねーぜ? ハザマのことで不安になった時も励ましてくれたよな? 結果は今みてえな状況かも知れねえが、それでもあの時のお前の大丈夫だって言おうとする気持ちはちゃんと伝わってたぜ。これでもテメェが誰かを狂わせたってのか?」

「そうよ、友奈ちゃん!!! 私も、いつだって友奈ちゃんがいたから毎日楽しく生きて来れたのよ!!! あの頃知らない土地で記憶が途切れて不安だった私を元気づけたのはほかでもない、友奈ちゃんよ!!! これまで頑張れたのも友奈ちゃんがいたからなの!!! それなのに、こんなことをして…本当にごめんね…」

 

東郷がそういうと、友奈はますます苦しみだす。魂が必死に自分の身体へ戻ろうとしているのだろう。自意識が戻り始めているのはその証拠だろう。

 

しかし、いくら彼女でも自力で境界から戻るのは至難の業だ。しかも今の彼女の身体はクサナギとして、ムラクモがあって初めて機能しているような状態だ。今の身体では人の魂を受け付かないだろう。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁ!!!!」

「友奈ちゃん!!!!」

「アイツは必死に抗っているんだ!! 救うチャンスは今しかねえ!! テメェら、準備はいいな!!!」

『おう!!!!!』

「なら行くぜ!!ユウナ、ちと痛えかも知れねえが我慢しろ!!!今『そこ』から引き揚げてやる!!!」

 

そう言ってラグナは迷わず友奈に飛びついて彼女の頭を右腕で鷲掴みにした。そしてほかの勇者たちに呼びかけた。

 

「今だ!!テメェら、『俺に』封印の儀をやれ!!!」

『は、はぁぁぁぁ!!!?』

 

とんでもないことを注文してきた彼に勇者たちは思わず仰天した。だが反論を聞く前にラグナはすぐに理由を説明した。

 

「いいか!!蒼の魔道書(ブレイブルー)は元は御魂、つまり擬似的な窯にもなれるはずだ!!!それに取り込まれても消えねえ勇者の力をユウナの魂が迷わねえための道標にして一気に引き揚げる!!魔道書のコントロールはイデア機関を使えばどうにかなる!!!」

「どういうこと!!?」

「あの時、ユウナはハザマを攻撃したのを覚えてるよな!!? テメェが精錬完了の直前に封印の儀を行ったことでアイツの認識がどうであれ、アレでお前の存在を観測出来た!! だから無意識でもハザマよりテメェの願望(ねがい)を優先したし、テメェの話題でどんどん正気を取り戻していったんだ!! 観測者が存在すれば対象も存在できる!! その逆も同じだから、そいつを利用する!!」

「良く分からないけど、それに掛けるしかないわね!! 言った以上は成功させなさいよ!!」

「ありがとな、フウ!! 号令はテメェに任せた!!!」

「じゃあアンタたち、封印の儀開始!!!」

 

風の号令で勇者部全員と園子がラグナを取り囲み、彼に封印の儀を開始した。ラグナからすればある意味勇者の力は猛毒のようなもの。だがそれでも正常でいられる理由があった。勇者システムの技術も組み込まれたイデア機関のおかげだ。

 

「ギン!!! テメェの魂、ここで使わせてもらうぜ!!!」

「遠慮すんな!!! やっちまえ!!!」

「イデア機関接続…『反転』!!!!」

 

眩い光がラグナの腕付近から発生し、友奈から何かを吸い上げるように働いていた。彼らの下には普段の数字が印されたものではなく、蒼の魔道書を示す方陣が展開されている。魔道書を通じて再び嫌なものを見たのだろうか、友奈は恐怖で眼を閉じようとする。だがラグナはそれをさせない。

 

「逃げんじゃねえ!!! 運命は…テメェの、その手で切り開くもんなんだ、ユウナ!!!!」

「う…う…うおおおおおぉぉぉ!!!!」

 

彼の言葉を聞いて友奈も自分に負けまいと叫ぶ。すると額の桜は砕け散り、同時に勇者でない彼が勇者の力を大量に取り込んだ代償か、ラグナの左腕は消滅した。だが彼はそんなことを気にせず、気絶して倒れこんだ友奈を抱きとめて無事を確認するのであった。




…なんで傍から見ているとラグナと友奈のこのやり取りが娘を叱るお父さんに見えたんだ?ジンとサヤのお兄ちゃんだからか?

ムラクモ装着時の友奈ちゃんのデザインは以前の東郷さんとは違い、μのものを基にしています。本人の部分は勇者の章2話の魂っぽい友奈ちゃんに肌色を塗ったといえば分かりやすいかと。

とまあ、作者のどうでもいい妄言は置いといて、次回で多分ゆゆゆ編完結…すると思います。何とか逆精錬をしたけどこっちの世界ではどうなるのかな?それではまた
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