蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

余計な話は抜きで今回はエピローグ。ハザマとバーテックスとの戦いが終わった後の話。それではどうぞ


Rebel47.ずっと傍に

あの戦いが終わってから数日経ったある日、東郷美森が目を覚ますと自身の足に違和感を感じた。もしやと思ってベッドから足を下すと長い間棒のようだった両足に力が入る。そしてゆっくりと彼女は立ち上がった。

 

「私……足が…」

 

壁に身を寄り添えながら居間へ東郷が着くと立っている彼女を見てすぐに病院に連絡した。それを聞いた蘭苺(らいち)も飛び上がるほど喜んだそうだ。

 

同じようなことが犬吠埼姉妹の家でも起こっていた。風がいつものように二人の朝食を用意していた時だ。樹が小さくも姉の名前を呼んだのだ。あの時に戻ってくることがないと思っていた樹の声を聞いたことで、涙ぐみながらも嬉しさに風は妹を強く抱きしめた。

 

「治るんだ…アタシたち…治るんだ!!」

「うん……そう…だよ…お姉……ちゃん…」

 

刃の方にも園子や銀の供物が戻ったり、椿姫の視力も正常に回復したとの報が届いた。これには兄も喜びながら驚いていた。彼の話によれば本来なら十六夜による代償は戻ってこないらしいのだ。それでも園子は身体中が散華していたため、リハビリなどのためにもしばらく入院する必要があった。

 

そんな勇者たちの周囲が少し落ち着いてから刃、風、夏凜が浜辺に集まって情報を交換していた。

 

「あれから大赦から目立った連絡はなし。変身は…もうできないわね…」

「もう勇者システムもないものね。それに…捧げた供物も戻ってきている。神樹様が私たちを解放してくれたのかも」

「フン。詳細を調査したくとも今の大赦ではそんなことに構う時間などないだろうな。何せ本庁の三割が破壊されてしまったのだから」

 

あの戦いでクサナギとなった友奈は樹海の一部を破壊してしまっている。その時のフィードバックで大赦本庁で謎の爆発が発生してしまった。幸い死者は出なかったものの、本庁の施設の一部は全壊、周囲の物も半壊してしまったのだ。世間ではガス爆発だと説明されている。

 

「あれ…やっぱり友奈がやったのよね…でもあれは友奈一人のせいじゃ…」

「その点を心配する必要はない、犬吠埼。大赦は結城友奈を追求することなどできないさ」

「どういうことよ?」

「…園子と沙耶が上層部にやつに関わるなと『お願い』したらしい。沙耶に至っては一度ベルヴェルクのリミッターを外したそうだ」

「……それって脅迫じゃね?」

 

大赦のツートップである乃木家と上里家の令嬢二人に止められればいくら大赦でも友奈たちに干渉することが出来ない。仮に断っても、今度は神樹を降ろした沙耶と対面することになる。そんな彼女たちと敵対することは大赦としてもなるべく避けたいことだ。

 

「もう戦う必要がないのよね…」

「目的がなくなって不安?」

「……まさか!!」

「そっか…これで勇者部も卒業かしらね」

「何を言っている。壁の外がああである以上、あまりグズグズはしていられないぞ。人類の戦いは…まだ終わっていない。僕たちが大人になる頃に今の大赦を変えねば…『これから』現れるだろう勇者たちが苦しむことになる」

「それに、峡真のような奴がまた現れるかもしれない。大赦内部をどうにかする必要があるわ」

「そうね…これからが大変ね、夏凜。それに如月『少佐』」

「そういや今回の件で昇格したんだっけ?おめでと、少佐」

 

二人が刃に祝いの言葉を告げると刃がどこか恥ずかしそうに小さな声で呟いた。

 

「…刃でも構わん」

『え?』

「刃でも構わんと言った…何度も言わないぞ」

「ならそう呼ばせてもらうわ。おめでと、刃」

「…感謝する」

「階級で呼び慣れちゃってるし、私は少佐って呼ぶわ」

「それでも構わんぞ、三好」

「なんか嬉しいわね。こうして部員が絆を更に深めることが」

「当たり前でしょ? 勇者部は不滅なんだから!!」

「…ハハ、アンタに言われちゃうなんてね」

 

三人は少し笑い合うが、その後に表情が暗くなる。

 

「あとは友奈だけか…」

「そうね…でもどうしてアイツだけ、目を覚まさないのよ…」

「やつの身体は窯による精錬で全身を散華させてしまっているようなものだからな…魂は兄さんのおかげで身体へ戻ったが、目覚めるかどうかは…本人次第だ…」

「そういえばあの後、窯はどうなったの?」

「大赦によって回収されたらしい。もうどこにあるかは、誰にも分からないだろうがな」

「そう…でもこのまま友奈だけ戻ってこないなんてこと…ないわよね?そんなの…嫌だな」

「アタシだって……あの娘がいなかったら…どうなっていたことか」

 

それだけ言いながら三人は夕日が沈んでいく様を見つめていた。

 

✳︎

 

また数日して、刃は椿姫と共にラグナの見舞いに来た。腕を失い、勇者の力もその身で受け取った彼は検査も兼ねて入院することになったのだ。部屋には既に沙耶の姿があった。

 

「兄さん、見舞いに来たよ」

「おう、良く来たな。ジン、ツバキ」

「こんにちは、ラグナさ…あ…」

「あ、刃兄さま。それと…あれ?貴女、どこかであったことあるような…」

 

椿姫が沙耶に会うと衝撃で固まってしまった。彼女のことが気になったのか、沙耶は彼女に近づいて行った。すると椿姫は嬉しそうに彼女の手を取って話しかけた。

 

「貴女、もしかして『のえる』!!? うわ~、懐かしい!!! もう一度会ってお話したいなあって思ってたけど、こんなところで会えるなんて!! 嗚呼神樹様、感謝致します!!」

「え、え!? その、のえるって?」

「そういやサヤ。あの時はノエルって名乗ってたからな。一度しか使わなかったから覚えてねえのも無理ねえか」

「…もしかして、のえるじゃないの?」

「違うよ椿姫。沙耶は紛れもなく、あの『緋色のえる』だ。ただ、あの時はちょっと事情があったからね。本当の名前が名乗れなかったんだ」

 

刃が椿姫にかくかくしかじかと事情を説明している内に彼女はみるみる顔を青くしていき、やがて沙耶の足元で平伏してしまった。

 

「申し訳ございませんでした、上里沙耶様!!!! 若輩者の私が恐れ多くも貴女様に気安く触れるなんてとんでもない無礼を!!!!」

「いやだから待って!!? 説明して!!? 貴女とはあった気がするし、名前も聞いた気がするんだけど私、どこで会ったのかが覚えてなくて…」

「2年前の花火大会の時だよ。覚えてねえか? あの時は刃と一緒にテメェと同い年くらいの女子が来ただろ? その時の女子が今テメェの目の前にいるツバキだ」

 

それを兄から指摘されて沙耶は漸く思い出したようだ。アレは彼女にとっても非常に思い出深い出来事だった。病弱だった自分が初めて大きな祭りに出かけ、そこで同年代の友人が出来たからだ。沙耶は椿姫の方まで寄ると、腰を下ろして話しかけた。

 

「そっか…そうだったんだ…貴女があの時の椿姫だったんだね。あの時一緒に祭りに回った…」

「思い出して…下さったんですか?」

「うん、久しぶりだね…でも出来れば敬語はやめて欲しいな…上里様って呼ばれると…すごく寂しく感じるんだ」

「…分かったわ。じゃあこれからはのえるって呼んでも良いかしら? 沙耶の方でもいいけど」

「ううん! 私、椿姫にならのえるって呼ばれても良いよ!!」

「ありがとう! それじゃあこれからもよろしくね、のえる!!」

「こちらこそよろしく、椿姫!!」

 

中一女子が固い握手を交わしている姿を見て、兄貴分二人は笑顔でそれを見ていた。

 

「良かったな、サヤ。また友達に会えて」

「椿姫も嬉しそうで良かったよ。もう一度会いたいってよく僕にも言ってたからね」

「…ジン。サヤたちの大赦での立場はどうなるんだ?」

「あの後、弥生家が大赦に文句に言ってきてね。子どもに武力行使込みの勇者捕縛命令を出すなど何事だってカンカンだったよ。十六夜を持ち出したことに気付いて調べたら分かったんだろうね。大赦も言い分を退けようとしたけど園子がどうにかしてくれて椿姫は第零師団から解任。別の部隊に配属される予定だってさ」

「ソノコのやつ、そんなことまで出来るのかよ。最早『帝』顔負けだな」

「…その帝って呼ばれているのはアレを降ろした時の沙耶だけどね。沙耶はベルヴェルクで抑えられているだけでリミッターを外せばいつでも巫女としての力が発揮できるし、養子であっても上里家の人間だ。半神に近い今の園子共々大赦は逆らえないよ」

「とりあえず大丈夫そうで良かった…」

 

ラグナは一安心すると、刃は兄にあることについて聞いてきた。

 

「そういえば兄さん。『左腕』は大丈夫そうかい?」

「問題ねえよ。ココノエが作った義手だしな」

「ホント、どう見てもやっぱり本物の腕にしか見えないね…」

 

ラグナは消滅したはずの左腕を刃に見せた。あの時に腕を失ったラグナを見て勇者たちはかなり動揺していたが、当のラグナはというと

 

「もう一本腕はあるし。別に問題ねえだろ」

 

かなりあっけらかんとしていたこともあって周りは呆れながらも彼自身が平気そうなのを見て安堵した。

 

「全く…本当に境界に落ちていた友奈さんの魂を引き揚げてみせるなんて、貴方は本当に…馬鹿で愚かで命知らずで…どうしようもないほどのお人好しね、ラグナ」

 

レイチェルと九重が確認したところ、無事に友奈の魂は身体の中へと戻ることが出来たようだ。しかし今はまだ肉体がかなりボロボロのため、すぐには目覚めないらしい。復活するかは友奈次第だ。

 

「他のみんなはどうなんだ? 身体の調子は?」

「みんな少しづつ機能を取り戻していってるよ。鷲尾に関しては記憶も戻ってきているみたいだ」

「…神樹の野郎が…やってくれたのか?」

「どうだろうね。もしかしたら別の何かが助けてくれたかもしれないよ」

「なんだそりゃ?」

「…強い願望(おもい)に惹かれ、それに応えるもの、かな?」

「……『蒼』…か」

 

刃の言葉を聞いてラグナは考えこんだ。たしかに蒼であればあの場にいる全員の身体を造り直すことなど造作もないだろう。でもそれならいっそ世界そのものすら変えられる可能性があっただろうから恐らくこの案はないだろう。

 

(考えすぎ…だよな)

「兄さん?」

「ああ、わりー。ちょっと考え込んでてな。何だ?」

「峡真のその後がわかったよ」

「本当か!!?」

「ああ。あれから峡真は行方を眩ましていて、見つからないそうだよ。大赦でも死亡を確定しようとしているみたい」

「…どうだろうな。『あの』ハザマが簡単にくたばるとは思えねえ」

「同感だね。実際峡真の遺体はどこにも確認されていない。運良く逃げ延びたと考えるのが最適解だ」

「…次に来ようが負けねえよ。その時もぶっとばしてやらぁ」

 

拳を強く握ってラグナは強気に言う。そして気になっていた別の懸念事項について刃に聞いてきた。

 

「ジン、ユウナは?」

「今なら鷲尾と一緒に病院の庭にいるんじゃないかな?これから行くの?」

「一応、気になるしな」

 

✳︎

 

「『勇者は、傷ついても傷ついても、決して諦めませんでした。全ての人が諦めてしまったら、それこそこの世が闇に閉ざされてしまうからです』」

 

東郷は友奈の隣で文化祭で行う劇の台本を彼女に読み聞かせていた。目が虚の友奈の手には以前見舞いに来た樹が渡した押し花の栞が握られている。

 

彼女は友奈が入院してから毎日欠かさず見舞いに来ている。いつ友奈が目覚めても自分の存在を確認できるように。そして友奈の傍から少しでも長く一緒に居られるように。

 

友奈を見舞いに来ているのは彼女だけではない。他の勇者部の人間はもちろん、銀や通信を通して園子、椿姫や沙耶にレイチェルも彼女を訪ねている。ラグナも同じ病院であることもあって、良く見に来てくれている。

 

「『勇者は自分が挫けないことがみんなを励ますのだと信じていました』」

 

あの日から風の目は完治し、夏凜も体調が万全に戻った。まだ園子は散華した箇所が多かった分治りが遅いが、それもすぐに終わるだろう。

 

銀も腕と足が治ったが、せっかく九重が作ってくれたこともあってイデア機関を取り出さなくても良いと言った。九重はあまり顔には出さなかったが、それを聞いて耳は勢い良く動いていた。

 

「『そんな勇者を馬鹿にする者もいましたが、勇者は笑っていました。戦いなど意味がないことだと言う者もいましたが、それでも勇者はへこたれませんでした。』」

 

劇での友奈の役はまだ残っている。東郷が自分から残すように希望したからだ。自分たちの身体や自分の記憶が治ったのならきっと友奈も帰ってくる。それを聞いた他の部員たちもそれを承諾し、それ以来こうして東郷は来るたびに台本を友奈に読み聞かせている。再び目覚めると信じて。

 

「『皆が次々と魔王に屈し、気がつけば……勇者は独りぼっちでした。勇者が独りぼっちであることは誰も知りませんでした』」

 

しかし、未だに友奈の身体が回復する気配を見せない。どれだけ話しかけたりしても返事は返ってこない。あの輝くような笑顔を見せてくれない。

 

「『独りぼっちになっても…勇者は…諦めませんでした…諦めない限り…希望が終わることはないから……」

 

見舞いに来ても人形のように横になる友奈を見る度に、東郷の胸に痛みが走る。あの後、みんなの間で今回の騒動では誰も悪くなかったということで決着が着いた。それでもやはり友奈の様子を見ていると東郷は罪悪感と後悔に苛まれる。

 

もし自分がこんなことをしなければ友奈はあそこまで絶望することは無かったのではないか。ラグナの逆精錬は実は失敗していて友奈の身体にいなかったらどうしよう。もしいてもこのまま永遠に帰ってこなかったら。

 

それを考えてしまうと今まで不安を押しとどめていた心のダムが決壊した。

 

「『何を失っても……』それでも私は……大切な友達を……失いたくないッ…!」

 

もう我慢なんて出来なかった。顔も涙と鼻水でグシャグシャになり、声も色んなもののせいで詰まってしまっている。それでも悲しみを吐かずにはいられなかった。

 

「嫌だ…嫌だよ…!! こんな結末!! まだ色んなことを話したいよ!! もっと色んなものを一緒に観測()ていたいよ!! ずっと…貴女の傍に…居たいよぉ!!!」

 

台本に顔を埋めながら東郷の慟哭は続いた。冷たい秋の風も彼女の身も心も冷たくしようとする。それによる寒さのせいなのか、幻聴が聞こえたようだ。

 

「と……ご…さん」

 

微かで弱い、しかし決して忘れるはずのない声が東郷の横から聞こえた。彼女が声の方へ顔を向けると、彼女の眼には心から待っていた瞬間が映っていた。

 

「一緒に……いるよ…ずっと」

「ゆ……」

「……感じたよ。みんなの存在…東郷さんの存在を」

「友奈ちゃん!!!」

 

東郷は友奈の手を取る。それまでの不安が友奈の復活と同時に吹き飛んでいく。悔恨の代わりに流れる涙は喜びによるものだ。

 

「おかえり…友奈ちゃん!!」

「ただいま…東郷さん!」

 

少しして再開を喜び合う二人の元にラグナたちもやってくる。目覚めたばかりの友奈を見て沙耶と椿姫は泣き出し、刃は安堵故か笑みをこぼし、ラグナも嬉しそうに話しかけた。

 

「ユウナ…本当に良く戻ってくれた。頑張ったな」

「うん! みんなのおかげで…私は帰ってこれたよ」

「それだけじゃねえよ。お前は…自分に、『世界』に勝ったんだ。紛れもねえお前自身の力でな」

「そう言うと…ちょっと照れちゃうな…」

「でも綾月君が友奈ちゃんを引き戻してくれたのよね? 本当に…ありがとう」

「気にすんな。俺は勇者部の仲間を助けただけだっての」

「ありがとう、ラグナ『さん』!!」

「ん、さん? いきなりどうしたユウナ? 今更さん付けなんてらしくねえぞ?」

「え?…あ、ごめん!ありがとうラグナ君!」

 

何かおかしく感じたラグナだったが、彼の端末が鳴ったことで気がそっちに回った。電話の主は驚くことに安芸だった。彼女からの話を聞いている内にラグナが興奮していくのを周りが分かった。

 

「分かった! すぐに行く!!」

「どうしたんだい、兄さん?」

「ジン、サヤ!! すぐに大橋市の方へ行くぞ!!」

「どうされましたか、兄さま?」

「どうしたもこうしたもねえ!! 母さんが目を覚ましたんだ!!」

『えーー!!?』

 

✳︎

 

ラグナたちがすぐに外出許可を取った後、同じく報せを聞いたレイチェルの転移で大橋の病院に向かった。目覚めたばかりの友奈を連れ出すことを病院側は難しい顔をしたが、友奈が頼み込んだおかげでなんとか許しが出た。安芸は用事があると言って既に去っている。

 

今彼らは芹佳の病室の前にいる。ラグナは緊張していた。母の部屋へは当時の立場もあってそうちょくちょくは来れなかった。だが勇者部に入った後でも来れる時は来ていた。

 

「兄さん、緊張してる?」

「してねえよ!なんで俺が緊張しなきゃいけねえんだ!?」

「でもガタガタ震えているわよ?」

「こ、これは武者震いだウサギ!!」

「何と戦うつもりなの、貴方は…」

 

そんなことをやっているうちに先にコミュ力の高い友奈がドアをノックした。ドアの向こうから声が聞こえると彼らは部屋の中へと入る。そこには女性のような大型ロボットに世話される女性がこちらに顔を向けて手を振っているのが見えた。

 

「巫女…か…?」

「嗚呼、獣兵衛さんや九重ちゃんから聞いた通りだわ。本当に大きくなったね、ラグナ、刃、沙耶」

「か、母さん…」

「お母さん!!」

 

刃は珍しく声を震わせ、沙耶は芹佳の元へ飛びついてまた泣き出した。その様子を見たレイチェルは安堵し、彼女と殆ど面識のない他の三人もつられて涙が流れた。

 

「お母さん、良かった!! よがっだよ"ー!!! ゔわぁーん!!」

「あらあら、沙耶。そんなに泣かないで。せっかくの美人さんが台無しよ?」

「うわぁーん!!!」

「母さん、目が覚めて本当に良かった…!」

「ありがとう、刃。貴方の方も、たくさん頑張ったわね。活躍はたくさん聞いているわ」

「…そこまで活躍してた訳じゃないよ。でも、ありがとう」

「本当に良く帰ってきてくれたわ芹佳。おかえりなさい」

「ただいま、レイチェルさん。私が眠っている間にラグナを守ってくれてありがとう」

「良いのよ。私と貴女の仲だもの。それにこの男を放っておいたら何をするか分からないわ」

「もう。ラグナは猛獣じゃありませんよ?」

「それもそうね。彼は人間だったわ。紛れもなく、ね」

「巫女…なんだな。本当に…夢とか幻覚じゃねえんだよな?」

「そんなことないわ。ほら、ラグナ。手を出して」

 

彼が恐る恐ると左手を出すと芹佳はそれを握りしめた。満開の後遺症を補うための機能を元に造られた限りなく生身に近い義手だが、それでも人間特有の温かさは再現できていない。それを顔に近づけて芹佳は言った。

 

「…色んな話を聞いたわ。私がここに来てからのこと。ラグナがまた戦うようになってからのこと。そして今回のこと」

「そうか…」

「本当に、良く頑張ったね。大変で、辛いこともたくさんあったでしょうに…」

「良いんだよ…それでも俺がやりたかったことなんだ」

「うん。きっとそうだろうと思っていた。ラグナが戦うのはいつだって…そういう理由だから」

「すまねえ、心配を掛けちまったか?」

「心配は当然するわ。でも、こうして無事に帰ってきてくれた…それで、成せたの?やりたかったことを」

「…ああ」

 

目頭が熱くなるのを感じながらラグナは友奈と東郷の方を見る。

 

「守れたよ。俺の大事なもんを。仲間を。居場所を。色んなやつに助けられながらだけどな」

「良かった…そちらにいるのは新しい友達かしら?」

「あ、はい!! ラグナ…君と同じ、讃州中学勇者部の結城友奈です!!」

「同じく東郷美森です」

「弥生椿姫です。残念ながら讃州中学所属ではありません」

「そうなんだね。私は綾月芹佳。ラグナたちの母です。よろしくね」

「あら? でもさっき綾月君は巫女って呼んだような…」

「ラグナは引き取られてから長い間そう呼んでいる分、他の呼び方に慣れないみたい。私も気に入っているから特に問題ないわ」

 

芹佳がそういうと、車椅子に座っている友奈がラグナのあることを暴露した。

 

「あれ? でもさっき私たちといた時は母さんって呼んでたよ?」

「なっ、ユウナ!!? テメェ、いきなり何言ってんだ!!?」

「あら? そうだったの?」

「ファイトだよ、ラグナ君!! きっとお母さんもラグナ君にお母さんって呼ばれたいんだよ!!」

「いや、だからってなんで今なんだ!!?」

「せっかく家族にまた会ったのに役職みたいな呼ばれ方をしたら、私は寂しいな。お母さんはああ言ってくれているけどきっと面と向かって呼んでほしいと思うよ?」

 

そこまで言われてラグナは心の中で白旗を振った。たしかに友奈の言う通りだ。今まで自分は芹佳のことをあの世界に倣って巫女と呼んでいたが、彼女のことはきちんと母親として認識している。

 

あの時もそう呼ばなかったことに後悔したこともあった。だから少し顔を赤くしながらもゆっくりとラグナは口を開けた。

 

「か…」

「…なーに?」

「母…さん…また…こうして話せて…嬉しい…」

「…うん。私も嬉しいよ、ラグナ」

「…ガアァァァ!!」

「うわっ!? 兄さまが恥ずかしさのあまりに荒ぶり出した!!」

「兄さん、落ち着くんだ! ……あ、なんか良い匂い。クンカクンカ」

「インフェルノディバイダー!!!」

「兄さーーー……」

「刃兄様ーーー!!?」

 

兄を押さえようとしたら突然匂いを嗅ぎ出した刃を窓から吹き飛ばすラグナ。暴れ出す彼を宥めようとする沙耶と友奈。刃の安否を確認せんと外へ駆け出す椿姫と東郷。そんなカオスが入り混じった空間を芹佳とレイチェルは遠目で微笑みながら見ていた。友奈の眼が『蒼色』に一瞬染まるのを気付かずに。

 

因みに刃は特に怪我は無かった。流石ラグナの弟、身体は頑丈だ。




これにて結城友奈の章は閉幕です。いやーなんやかんやでハッピーエンドに終われて良かったですね。

これからの予定ですが、次回からは6から10話ほど園子たち介入後とか文化祭の日常回にさせていただきます。シリアスに疲れたんだ、せっかくの日常を楽しませてもらう。ただし、全くシリアスなしではない。

その間に、またしてもアンケート。今回はこの何話ほどの幕間の期間中と長めにやります。その次の章は大きく二つです。一つはラグナがタイムスリップして西暦組に会う乃木若葉の章。こちらではブレイブルー のキャラは殆ど出てきません。六英雄も出ません。彼女たちはまさにこの世界の六英雄みたいなものですから。その代わり、ネタや設定が多目に用意されています。

もう一つはツバキやサヤ、楠芽吹が中心の楠芽吹の章。こちらではブレイブルー キャラが多く登場。特に統制機構組が満を辞して登場。外の世界での彼女たちの奮闘を見たい方はこちら。

どちらももちろん書く予定ですが先に見たい方を打ち込んでいただければ幸いです。作者も少し周りが忙しくなるので次回はすぐには出せませんが、待っていただければありがたいです。

最後にここまでたくさんのご愛読と評価、しおり、お気に入り登録、そして感想をしていただきありがとうございます。これからも蒼の男は死神であるをよろしくお願いします。それではまた
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