みなさん、水族館イベが始まりましたね。ペンギンに懐かれるぐんちゃんやウェットスーツ姿のせっちゃんに見惚れましたか?
さて今回の話は友奈がラブレターを貰った回。いろんなものをつぎ込んでカオスになって一万字近くになった今回ですが、どうなったのでしょうか?それではどうぞ…
The wheel of fate is turning...
園子たちが学校に来てそれなりの時間が経ったある日。「それ」は突如勇者部を混沌の渦へと巻き込んでいった。それは友奈がいつも通り東郷と一緒に登校した時、自分の下駄箱の中に身に覚えのないものが入っていることに気づいたことで始まった。
「あれ? 私の下駄箱の中に手紙が入ってる。誰からなんだろう?」
「差出人が書かれていないなんて…もしかしたら『不幸の手紙』かも…」
「不幸の手紙って?」
「貰うと3日以内に同じ内容の手紙を知り合い10人に送らなければ不幸が起きるという西暦の頃に一時流行った手紙よ」
「え〜! そうだったら悲しいな…」
友奈が残念に思っている傍で東郷はその現象に既視感を覚えていると、園子と銀までやってきて友奈に手紙の中身を確認するように促した。手紙をしばらく読み進めていくうちに友奈の顔は朱色に染まっていく。そこから分かったのはこれが熱烈なラブレターであることだった。
「おおー! 園子、こいつはもしやラの付くあれじゃ!?」
「羅漢ぞ~?」
「違わい!! ラブレター!! 告白の手紙だよ!! 須美かお前は!?」
「わ、わわわ私どうすればいいのかな、これ…!?」
「お返事を書いた方が良いんじゃないかな~?」
園子がアドバイスをしてくれたものの、恋愛に対して疎い友奈は色んなことを考えすぎてしまっていて人の話を聞ける余裕はなかった。
そもそも自分には異性に好かれるような要素があるとは思えない。だからこのような手紙をもらうような理由が思いつかなかった。そこである答えに行き着いた。
「……これ、間違って私の下駄箱に入れられたのかな?」
「でもゆーゆの名前がバッチリ書いてあるよ~?」
「あう~……でもこういうの貰ったことないからどうすればいいか分からないよぅ…」
「取り敢えず…部活の時にみんなと話し合おうか…」
「そ、そうだね銀ちゃん!! 勇者部五箇条!! よく寝てよく相談!!」
「うわ~混ざってるよ~。よっぽど驚いたんだね~」
「横で真っ白になってる須美ほどじゃないけどな」
二人は口から魂が抜けだしそうになっている東郷の腕を抱えながら教室へ連れて行き、放課後になった後で四人は部室に集まった。何とか我を取り戻した東郷だったが、友奈と同様一日中落ち着かない様子だった。後輩にまさかの恋愛問題が舞い込んできたことに風は感嘆の声を漏らした。
「しかし驚いたわね…まさか友奈にラブレターが届くなんて」
「何を呑気に言っているんですか風先輩!!このままでは友奈ちゃんのありとあらゆる安寧がこの不埒な届け物で侵されてしまうんですよ!! 一刻も早くこの危機的状況を排除せねば!!!」
「東郷先輩が物凄い早口になってます…夏凜さんまでソワソワしていますし…」
「どうしたのよ夏凜? そこまで友奈がラブレターを貰ったことが気に喰わないわけ?」
「……べ、別に!! 友奈が誰からラブレターを貰おうと、プロポーズされようと!!!」
「いや、プロポーズまではされてないわよ…」
夏凜がそう言うと遅れてラグナが部屋に入ってきた。手には友奈とは違う藍色だが、形状は同じような封筒があった。開け口には封筒を閉めていたであろう桔梗の花を模したシールが付いていた。
「おいお前ら。ちょっと聞きてえことがあるけど良いか?」
「……まさかアンタも貰ったなんて言わないわよね?」
「あぁ? どういうことだよ?」
「ら、ラグナ君もラブレターを!!?」
「ンだよユウナ。お前も手紙を貰ったのか? 道理でトウゴウが今日ぼーっとしてたわけだ」
「ら、ラグナ。アンタは随分と平然してるじゃない」
「…これでもどうすりゃあいいのか困ってんだぞ、カリン。そもそも俺は恋愛だぁの恋人だぁのがどんなもんかいまいちピンと来ねえんだよ」
「私もそんな感じで…自分が男の子に好かれるとか本当に考えたことがなくて…どうして私にラブレターなんて来たんだろう…何かの間違いだと思うんだけどなぁ…」
強弱はあれど、各々の形で恋愛沙汰に対して苦手意識を持っている二人は手紙をもらったことに少なからず困っていた。
「にしても意外ね。友奈が恋愛に対してここまでヘタレるとは思わなかったわ」
「まあそれだけ友奈が魅力的に映ったってことっすね」
「だって…私…東郷さんやそのちゃんみたいに綺麗じゃないし…樹ちゃんや沙耶ちゃんたちみたいに可愛いわけじゃないし…夏凜ちゃんや銀ちゃんみたいにカッコよくないし…それに風先輩やレイチェルさんたちみたいに大人っぽくないし…」
周りの仲間の方が自分よりも魅力的に見えると友奈がモジモジしながら言うとラグナがその言葉を軽く否定した。
「いや、お前はそこらの女子と比べても好かれる部類に入るだろ? 俺からすれば危なっかしいお人好しだがそれを含めても十分魅力的な方だと思うぞ?」
「そ、そうかなぁ~……」
「そうだよ。寧ろ何で俺に手紙なんざ来たのやら」
「あー…話している途中で悪いけどさ…ラグナ、後ろ」
「ンだよギン。何があるって……んだ」
ラグナが銀に促されるがままに後ろへ振り向くとそこにはゾンビのようにユラユラと近づいてくる刃が見えた。早くも斬り合いになると覚悟したが、刃は兄の想像の斜め上の行動に出た。彼がポケットから携帯を取り出すと誰かに電話を掛けたのだ。数コールほどした後に電話がつながると、刃は意外な人物の名前を口にした。
「沙耶。兄さん。ラブレター」
『すぐ行きます』
それだけ告げると電話が切られた。だがラグナは悟る。これから自分は修羅場に入るんだと。数分が過ぎた後、こちらへ爆走する擦り傷だらけの黒いリムジンが校庭に入ってきた。横の扉が蹴り開けられると紫の髪を束ねた沙耶が猛スピードで勇者部の部室へ駆けこんできた。
「あ~…これは不味いぞ…沙耶のやつ、完全に怒ってらぁ…」
「うわ~、アレ『帝モード』のサッちゃんだよ~…神樹様を憑依させてるんだよね、アレ」
「え、何? ラブレターを貰っただけでそこまでやるの? まさか沙耶って樹みたいなのは見た目だけで実は刃タイプだったの?」
風が狼狽えていると、扉がガラッと開けられた。そこからおよそ少女のものとしては異質すぎる威圧感を放つ沙耶がいた。普段来ている今の学校の制服ではなく、かつて対峙したときと同様の黒装束に身を包み、ヤサカニノ禍玉を内蔵している黄金の冠を着けている。
「あー、えーとサヤ? 今はシンジュと一緒か?」
「はい…ですが兄さま、今の身体の主導権は『沙耶』にあります。自分が混ざっていては楽しめぬだろうと神樹様が申し上げていましたので」
「こ、これが帝になったときの沙耶ちゃんなの…全然普段と違うのね…」
「しかしそのようなことなど些末なことです。それよりも兄さま、沙耶がここへ足を運んだ目的を理解出来ますよね?」
「…あー、正直分からねえよ。俺は手紙を貰っただけだぞ?」
ラグナが能天気に沙耶へ質問を送ると彼女は面食らったような表情を見せたが、その後にやれやれと言いたげな顔で告げた。
「全く…いつもは気を配れて頼りになるというのに、どうしてこういうことに兄さまは鈍感なのでしょうか?」
「おい! 誰が鈍感だ、誰が!!」
「はあ…察しの悪い兄さまですね。勇者部の皆さんならばともかく、何処ぞの馬の骨か知らない女が兄さまと恋人になるやもしれませんのに冷静になどいられますか。それだけでも沙耶が事象兵器の封を切り、神樹様を呼び出すに足り得るだけの理由になるでしょう?」
「そ、そこまでなの?」
「そこまでです」
「要はお兄ちゃんが取られたくないから巫女の力を使ってでも相手を追い返そうとしてるだけじゃない!!!」
つくづくラグナは弟妹に問題児を抱えているなと感じた風である。件の妹はと言うと兄に決断を求めているところだった。
「それで兄さま。どうなさるおつもりですか? 兄さまのことですから返事はするのでしょう?」
「まあ、折角送ってもらったところ悪ぃが断らせてもらうぜ」
「私も…やっぱり断るつもりだよ。知らない人とお付き合いなんて出来ないし…でも断ったら傷つけちゃうかなとか考えちゃうとどうすればいいのか分からなくて…」
「なら今日はゆーゆとラッくんのお付き合いの断り方をみんなで考えよ〜!」
園子が早速話題を切り出すと最初に意見を出してきたのは樹だった。得意の占いの結果から既に恋人がいることにすれば良いのではという案を出したのだ。風もその案には乗ったらしく更に話を進めた。
「それなら恋人がどんな人なのかも考えないといけないわね。問い詰めてくる可能性も万が一にあるでしょうし。それで友奈、ラグナ。アンタたちはどんな人が好みなのぉ~?お姉ちゃんに教えちゃいなさいよ~」
「ええっ!!?」
風がニヤニヤしながら二人に聞くとラグナが少しめんどくさそうな顔をしているのに対して友奈は動揺していた。彼女たちの返答を刃、沙耶、東郷、そして地味に夏凜も注目していた。返答に困っている二人に風がさりげなく言った。
「別に理想でもいいのよ。どんな人が良いのかなぁ~?」
「私は……そういうの良く分からないから…だから…その…一緒に居て楽しい人…がいいんだと…思います」
言葉を続ければ続けるほどどんどん顔を赤く染めていく友奈を見て風はイイ笑顔を浮かべた。
「赤くなっちゃって~、まあ可愛い~」
「うう~…なんかすごく恥ずかしい…」
「あんまり虐めないであげください…」
「ごめんごめん。見ていたらつい揶揄いたくなって。それでラグナ、アンタは?」
「俺か? そうだな…取り敢えず良いやつ、か?」
「アンタねえ…その女子に興味がないみたいな言い方…まさか実はソッチの趣味が…」
「兄さま…疲れが堪っているのですか? 悩みがあるなら沙耶が受け止めますよ…?」
「なんでそうなるんだよ!!!?」
「ビュウオオオオオウ!!!!!」
「そう意味じゃないだろうから落ち着けソノコ!!」
風の言葉でハッスルし出した園子以外の女性陣はラグナの微妙な返答に不満のようで白けた。沙耶に至っては割と本気で心配し始め、刃はちょっと喜び始めた。誤解を解こうとラグナは更に言った。
「だから!!! 本当に恋愛とかそういうのは良く分かんねえんだよ!! 女には…まあ興味ねえわけじゃねえけど…具体的にそういうのがどんな感じかピンと来ねえんだよ、俺は!!!」
「そっか~…ねえねえ、じゃあ聞くよ~。ラッくんが今一番心配な女の人は誰~?」
「なんだソノコ? 俺を試してんのか? ん~…」
園子の質問の意図が理解できないラグナは少し悩む。弟妹たちと勇者たちが意識を向けていると彼は答えを出した。
「そうだな…今は巫女だな。サヤはツバキと仲良くなってからすげえ元気になってるし、皆は何気なく生活できて一安心だが、巫女はまだ寝ていた影響で上手く動けねえんだわ。ココノエが作ってくれたあの介護ロボット…『ミネルヴァ』のおかげで大分助かってるが、それでも買い物とかの時は安心出来ねえ。巫女ならミネルヴァを巻き込んで迷子になりそうだからそのうち一緒に四国の秘境にでも行っちまいそうだし、そん時はどうすりゃあ良いんだ…」
ラグナがそう言って周りを見渡すと園子ですら苦笑いを浮かべていた。おかしいことは何も言ってないはずなのにこの空気はなんだと疑問に思っていると、樹が複雑な表情でその理由を教えた。
「ラグナ先輩……あの質問は『今好きな異性のタイプ』についての心理テストなんです。つまりそれによると先輩は…その…お母さんが好きってことに…」
「で、でも! 私は家族思いな人って素敵だなぁと思うよ! うん!!」
「アンタ…もしかしてマザコ」
「それも違えぇぇぇ!!!」
周りの疑念をラグナは強く否定する。彼は別に女に興味がないわけでも、ましてホモでもマザコンでもシスコンでもない。ただ単に家族や仲間への優先順位が恋愛感情よりも高すぎるのである。
その後、話題を変えんと園子が少し似た案で偽の恋人を用意してはという案を出した。だがそれに夏凜が疑問を提示する。
「で、でも友奈とラグナにそんな都合よく手を貸してくれる異性の友達っているの? 勇者部のみんなは顔割れているから面倒なことに為りかねないでしょうし」
「ラッくんならレイチェンをお姫様抱っことか一緒にお茶とかしてる写真を撮れば問題ないと思うけど〜」
「レイチェルさんは授業参観の時に来ているから恐らく分かる人には分かってしまうわ、そのっち」
「それならタオさんはどうでしょうか? あの人なら気軽に受けてくれると思いますけど」
「アイツなら美味いメシ奢ったらやるとか言ってきそうだけど、なんかそういう問題じゃねえ気がすんな…」
そもそもタオと写真を撮っても果たして恋人に見えるかと問われたら何か違う気がすると感じたラグナはその案を却下した。友奈ならば萬駆が良いのではと銀が言いかけたが、東郷が興奮し始めたので止む無く取り下げた。
次に案を出してきたのはその東郷だった。その案とは相手の方に働きかけるものだった。
「事は単純です。私が友奈ちゃんの代わりに断れば良いのです。なので今から行って参ります!」
「待て、鷲尾」
「なんで止めるの刃君? 貴方ならば分かってくれると思ったのに」
「おお、ナイスよ刃! ようやくアンタもまともになったのね!」
刃が東郷を呼び止めたことに風は感動を覚えた。対して刃は鞄に手を入れるとそこから麻酔弾とスモークグレネードを取り出したのであった。
「これを分けてやるから一緒にこのふざけた怪文書の差出人を見つけ出して抹s…尋問するぞ。相手が二人ならこちらも二人である必要がある。くれぐれもバレるようなドジを踏むなよ。何、心配はするな。グレネードの中の煙幕はユキアネサで作った液体窒素のものだし、弾に関しては貴様ならばそう外しはしまい」
「なるほど…なら私も持っている予備の潜入用の偽装服と集音器を貸してあげるわ。私は見つけ次第、対象の頭を狙撃するから貴方はすぐに現場から確保するのよ」
「了解だ。すぐに配置に着くぞ」
「ちょっとーーー!!! 断るどころか二人とも何物騒なこと企んでんのよぉぉぉ!!!?」
「夏凜、後で胃薬を買ってやるからな…」
「お姉ちゃんも必要だと思います、銀さん」
結局刃はいつも通りで、しかも最近になって益々ぶっ飛んだ方向へ行動するようになった東郷と組むという胃痛事案を計画していることに風は頭を抱えた。違う、私がして欲しかったのはそうじゃない、と。
ラグナと友奈が二人を止めたことで事なきを得たが、未だに解決案が出てこない。夏凜は手紙で返事を返せば良いと提案したが関係のない誰かに見つかるリスクからお蔵入りになり、風に至ってはミュージカル風に断ると訳がわからないものだった。
「後は沙耶と銀ね…お兄さんが大好きな沙耶としてはやはり止めたいでしょ…」
「いえ…沙耶は寧ろ相手方が誰なのかについて興味があります。不遜で兄さまのことを利用しようものならば強硬策を取らせてもらいますが、そうでないならば兄さまに決定を一任しましょう」
「そこは線引きしてんのね…妹の方が常識を持っていて助かったわ。でもどうやって決めんのよ」
「こうやってです」
そう言うと沙耶は2体の精霊を呼び寄せた。精霊たちはいずれも透明な姿をしており、顔には何もない。お化けみたいなその見た目に腰を抜かしそうになった風とラグナだが、なんとか持ちこたえて沙耶の説明を聞いた。
「この精霊は人間の思念を受け取ってそれを基に姿を形成するものです。当然思念が強ければ強いほどその姿も明確になります。これで沙耶よりも鮮明で魅力的な兄さまを映し出せたなら沙耶はその女の人が兄さまと逢引することを認めましょう」
「ダメだわ。やっぱり沙耶も少佐に近いものを持ってたみたい」
「あ、あの沙耶さ~ん。それは流石に恥ずかしいと思いますが~…」
「ならばその程度の女だったということです、風さん」
「ヤダわこの娘…断固として譲るつもりないじゃない」
「当然です。特に兄さまは気づけばいつも危ない目に遭っているのですから、しっかりした人か兄さまの傍に最後までいられる人が一緒でなければ沙耶は納得しません」
「素晴らしい心構えだわ沙耶ちゃん。妹さんがここまでしっかりしていれば綾月君も将来は安心ね」
あの時の戦いと同様の目付きで沙耶が冷たく言い切ると刃が彼女に噛み付いてきた。
「ほう…つまり沙耶。お前は自分が兄さんのことを一番強く思っている。そう言いたいのだな」
「そうです。例え刃兄さまでも沙耶の足元に及びません。そこまで疑うのでしたら試してみますか?」
「ほざけ!! すぐにその澄まし顔を粉々に砕いてやる!!!」
「なら、対決なら実況も必要だな!! ではぁぁぁ、ラグナランクィィィングゥクォォォンテェェェスッ!!! 実況はこの私、ミノ・ワーギンどぅぇぇす!!!」
「そして解説はこの私、国防美森と」
「ノギソ・ノ-コで~す」
「なんか変な役まで出てきた!!?」
とうとう元神樹館組までテンションがおかしくなってしまった。強気に言う刃は唸りだすとしばらくして精霊が光り輝く。同時に刃は叫ぶ。
「如月刃ランキング、第3位!!!」
光が晴れると精霊がいた位置にラグナがいた。いつもの剣を持ち、こちらを強く睨みつけてくる様はまるで本人のようだ。再現度の高さに驚いていた勇者たちだがラグナは刃が出した自分の姿が何なのかに気付いた。
「ちょっ、これ! いつもテメェと斬り合ってる時の俺じゃねえか!!」
「そうだよ兄さん! これはね、全力で僕と殺し合うときの兄さんだよ!!」
「あ~…また大変なものを出しちゃって…」
「僕を睨みながら見つめてくる眼、皴の寄せた顔、汗に濡れた肌…ああ、何もかもが最高だよぉ、兄さぁん」
「おお~、ジンジンその台詞中々打点高いよ~」
「私たちの国のトップってこんなのしかいないのかしら……」
「さあどうだ、沙耶!!!」
刃は勝ち誇った顔をしながら沙耶を煽ってきた。しかし沙耶は動揺することなく逆に彼を嘲笑した。
「稚拙な思念ですね…」
「なッ!!!?」
「おっとぉぉぉ!! 刃選手のランキングに対して沙耶選手微動だにせずぅぅ!!!」
「刃兄さま…刃兄さまの兄さまに対する思いには目を見張るものだと思っていましたが、結局は下等で底の浅いものだったようですね」
「浅い……か…確かに兄さんは昔から考えが浅い…行動もいつも行き当たりばったりで死にかけているからね」
「今の浅いは刃先輩のことだと思いますが…」
樹が小さく突っ込んだがそんなことを構わず刃は続けた。
「だがそこが良いんだ、兄さんは!!」
「刃選手、すかさずだがそれが良いと返す!! ここまで嬉しくない『良い』はこれまであっただろうか!!?」
「そもそもその良さってどういうものなのよ…」
「なんだ三好。そんなことも分からないのか」
「クハハ、即座に説明も出来ない良さなんて沙耶の足元にも及びません。それでは風さん。唸ってください」
「いや何でアタシがそんなことを…」
「沙耶の身体では声量が足りません。ですので風さんにお願いしたいのです」
「この精霊一々唸らねえと力を発揮できねえのかよ!?」
「えぇ…でもそんな女子力の欠けるようなこと…」
「協力してくれれば溺れるほどのうどん玉を進呈しても構いませんよ?」
「うおおおおおおお!!!」
「お姉ちゃん、うどんのためにそこまでしなくてもぉ!!?」
うどんのためならば致し方無し。風は大きく唸り声をあげると同じように精霊が光る。
「帝ランキング第3位」
沙耶がそう宣言すると、精霊はその形を右手を翳したラグナへと姿を変えた。しかしそれよりも目を見張るのはラグナの体格である。
今の中学生のものよりも更に背が伸び、今よりも少しがっしりしていた。簡単に言うならばあの世界での大人だった頃のラグナそのままだ。これにはラグナだけでなくこの姿を同じく知っている友奈も驚いた。
「こ、これって……」
「沙耶は直接見たことはありませんが、この催しをやるならば是非これをと神樹様が熱望なさっていたので選ばせていただきました」
「これは驚き!! まさかの神樹様からのリクエストだったぁぁ!!!」
「通りで少し大人だったんだ~。神様なら未来の姿も分かるもんね~」
(いや、多分シンジュは俺の正体を知っているだろうからこれを出しただけだよな)
(でもどうして神樹様がラグナ君の姿をカッコイイと思うんだろう…?)
「どうしたの、友奈ちゃん、綾月君?」
『な、なんでもない(よ)!!』
「それより、これは何をしているラグナよ?」
夏凜の問いに対して横で荒振り始めた刃が声高に正解を言った。
「兄さんの…うなじぃぃぃぃぃ!!!」
『はあ!!?』
「しかもこれは!!
「そんな細かい設定まで分かるの!!?」
「何を言っているの夏凜ちゃん。これが友奈ちゃんだったら私も同じことが出来るわ」
「アンタも同族かい!!!?」
さらっと問題発言をする東郷はさておき、刃はその後苦しみ始めた。
「ば…バカな…なんだこの良さは!!? 僕の知らない良さがあったというのか!!?」
「なんで少佐はラグナのうなじだけでこんな散華寸前になってんのよ…」
「それは当然よ。自分の知らないその人の良さが目の前に現れているんですもの。私だったら悔しさと歓喜で身体がボロボロになるわ」
「違うのよ三好夏凜…私がおかしいんじゃない…私は正常…」
「夏凜ーー!!アンタまで堕ちたら収拾が付かなくなるから戻ってきてぇぇぇ!!!」
何かをぶつぶつ言い始めた夏凜を余所に沙耶が涼し気に言う。
「どうですか、刃兄さま? もう負けを認めていかがでしょうか? 沙耶はまだ第3位を出しただけですよ…ウフフフ」
「ま、まだだ。ちょっと予想の斜め上の第3位だったが、それもここまでだ!! はぁぁぁぁッ!!!」
ギリギリのところで踏ん張った刃が次の順位へ移動した。
「如月刃ランキング第2位!!!」
掛け声と同時に現れたのは寝ているラグナだった。
「滅多に熟睡しない兄さんのノンレム睡眠さ!!」
「普通の寝顔来たぁぁぁ!! これに対してどう思いますか、樹さん!!」
「普通に怖いです!!」
「普通に怖いが出たぁ!! これは手厳しい!!」
「しかしこれは良く分かりましたね~。長年ともにいた兄弟だからこそ分かるのでしょうか~?」
「僕ほどの『ラグナー』にもなれば、兄さんが熟睡しているか否かなんて手に取るようにわかる!!」
「いやなんだよ、ラグナーって!!?」
「そうね、瞼が4回ピクピク動くと友奈ちゃんが起き始めるんだと分かるのと同じだわ」
「もう突っ込むのも嫌になってきた…もうここまできたら東郷は『ユウナー』よ」
「あら、いいわねそれ」
「お願いだから否定してよ…」
「もう…東郷さんったら…」
少し困った顔をしたが、そこまで東郷に好かれているなら悪い気がしない友奈。沙耶も少し感心しているようだった。
「なるほど…流石はラグナー第一人者の刃兄さまです」
「サヤまで言い慣れてる!!?」
「ですが勝ち誇るのは次のランキングを見てからにして欲しいものですね。風さん」
「はぁ…仕方ないわね…はぁぁぁぁッ!!!」
「帝ランキング第2位」
次に沙耶の側の精霊は床に寝そべっていて気持ちよさそうなラグナだった。
「おや、これはどういうことだ!!? こちらのラグナも寝ているようですが!!!」
「兄さんの…えくぼぉぉぉぉ!!!」
「えくぼ!!? どこにそんなのがあんのよ!!?」
「分かりませんか、夏凜さん。よく見てください。この、口角の2.8ミリ先の部分にある小さなくぼみです。これが兄さまのえくぼなのです」
「通称『ラグボ』だ!!」
「そんなの分かって堪るか!!!」
夏凜が絶叫すると刃が心底悔しそうにしていた。
「くっ…!! まさかラグボを2位に持ってくるなんて…しかし良い!! 良すぎる!!」
「フフフ、頭では否定したくても魂の底では共鳴して仕方がないようですね…いいですか、刃兄さま。これこそが真の良さです。理解出来ましたか?」
「…ああ。悔しいが、おかげで眼が覚めたよ。そう…良いものは良い!!!」
「判ればいいのです」
そう言って二人の兄妹は固い握手を交わした。二人があまりにも晴れ晴れとした顔をしているものだから誤魔化されそうだが、これでは根本的な解決にならない。ラグナが二人の対決を中断させると最後の案は銀に委ねられた。
「アタシなら部活に専念したいって言って断るかな? これなら満更嘘でもないしさ」
「確かに本当のことだし、一番気まずくない…かな…?」
「俺もそう言うか。つーかもうどんな断り方でも他よりはマシな気がしてきたぜ…」
最終的に銀の案が採用される形でその場は解散になった。翌日、友奈はみんなに本当のことを言って断ることを伝え、その日の午後に相手と対面した。手紙の主は女子で、彼女と気が合った友奈はその場で彼女と友人になった。対するラグナはというと実は放課後にはどこにも出かけていない。
実は彼が貰ったラブレターらしき手紙にはおかしな内容も含まれていた。指定時間は夕方だが場所については明記されておらず、友奈のように出してすぐ翌日に会うものでもない。はっきりと五日後に、自分から見つけて会いに来ると書かれているのだ。
そういうものもあって、ラグナはこの手紙の主に断ることをすでに決めていた。明らかに怪しすぎるのだ。
「昨日はドタバタしてた分、今日皆にそう伝えたら案の定心配し出したよな…それもそうか。『日曜』に告る奴なんていんのかって話だよ」
自分の部屋のベッドで寝ようとしている彼を見つめる『蒼い鴉』に気付かぬまま、ラグナは目を瞑って就寝した。
ラグナにラブレターを渡そうものなら差出人の命はないだろうなー。
というわけでラブレターと一緒に弟妹二人の凄まじい兄さん談義回になりました。そして最後に登場したのはもしや…
それでは次回ですが…読者の皆さんの投票の結果、乃木若葉の章が決まりました。西暦の彼女たちとの蒼の物語がどうなるのかお楽しみください。
それではまた