とうとう始まりました、乃木若葉の章withラグナ!!基本的に身体もメンタルも強い彼ですが、神世紀育ちに西暦が来て大丈夫かな?まあ、兄さんなら大丈夫でしょ。
それでは早くも一万字越えの長文をどうぞ
The wheel of fate is turning...
Rebel55.蒼い鳥に導かれて
あの不思議なラブレターを貰ってから五日後、ラグナは園子の一人暮らし先のマンションで勇者部の面々と共にいた。
なんでも実家から小説のネタになれそうなものがないかと園子が聞くと、両親が快く蔵に閉まってあった本を大量に送ってくれたのだ。しかし本の数があまりにもあったので園子は他の勇者部の皆に助けを求めたのだ。
しばらく荷物の整理を進めるとその中には他の本と比べても段違いにやつれたものが一冊あった。その書物の表紙にはこう書かれていた。
「『
「本の横には著者の名前が記されてるみたいよ…『
「乃木? ってことは園子のご先祖様か?」
「そっか~、私のご先祖様か~。そういえばレイチェンも良く話してたな~。私のご先祖様はとっても可愛い人だったーって」
「ウサギの言う『可愛い』から考えてそのワカバってやつは相当苦労しただろうな…」
暗黒微笑を浮かべながらその若葉なる人物を見下ろしているレイチェルを簡単に思い浮かんだラグナは苦笑いしつつそう言った。
しばらくして園子たちが作業を止めていることに気付いて様子を見に来た友奈たちも御記に興味を示した。なので早速それを読み進めようという話になった。
しかしそこには書かれた内容の殆どが黒く塗りつぶされた日記のようなものだった。辛うじて何個かの単語を読み取ることが出来るがそれでも文章の全容は分からない。
「うわあ…この頃から大赦は秘密主義だったのね…ここまでしなくても良いのに」
「フン。元よりあの組織に何かを期待する方が間違いなのさ三好。奴らのことだからこれぐらいのことはしてのけるだろう」
「しかもハザマの話がマジならコイツの検閲前のデータもあるらしいからな…それによればコイツには…『蒼』について書かれていたんだろうよ」
ラグナの言う通りである。峡真はこれに書かれた情報からヒントを得て魔道書を造ったのだ。だからある意味ラグナからすればそれは消されても仕方のないものである。何せ知られただけでも厄介なものだろうからだ。
「でも削られていない部分を頼りにして読むと分かったことがあるわ。今も昔も勇者は苦労していたってことよ」
風のコメントに対して他の者たちも同意するように頷く。その時だったのか、御記から古びた写真が抜け落ちた。友奈がそれを拾うとその顔を注視した。
そこに映っていたのは髪を後ろに束ねた真面目そうな少女だった。力強そうな瞳も相まって生前はさぞ凛々しかっただろうことが簡単に分かる。
「この人…私、会ったことがある気がする…」
「どういうことよ、友奈?」
「ラグナ君が私を助けた後、意識がしばらく戻ってこれなかったことがあったでしょ?その時にこの人がね、私の前に現れた気がするんだ…真っ暗な闇の中でその人に付いて行って、それからしばらくして東郷さんの声が聞こえたんだ」
「ということはこの人も友奈さんを助けたってということですね」
「そしてこの人たちの頑張りがあったから、私たちの世界が今存在している」
「私たちもご先祖様に負けないよう、頑張らないとね~」
「うん!!」
友奈が園子の言葉に賛同した後、勇者部は再び作業に戻った。その間ラグナは独り思考に落ちていた。彼の様子が変だと感じて心配になった友奈は彼に声を掛ける。
「ラグナ君、大丈夫? やっぱりあの手紙が気になるの?」
「いや、あの妙な手紙のこともあるが…俺が気になったのはあのワカバっつーやつだよ」
「そのちゃんのご先祖様が?」
「ああ。なんつーかよ…俺は。いや、『蒼の魔道書』が野郎を知っているようだった。野郎の写真を見たとき、俺の右腕から変な感じがしてよ」
「え!? 大丈夫なの!?」
「心配するほどじゃねえが、それだけあってな。もしかしたら何か関係してるんじゃとか考えちまったわけだ」
「う~ん…そうだ! 実はこの若葉さんもラグナ君のご先祖様だったりして!!」
「それはねえと思う…と言いてえところだが、俺自身もはっきり言えねえな。俺自身はこの世界での生みの親は気づいた頃にはいなかったし、どんな家にいたのかも知らねえ」
「そうなんだ…じゃあなんなんだろうね?」
友奈がうーんと考え込むとラグナは別のことを思い出した。
「そういやハザマが言ってたな…かつて西暦の勇者たちは黒き獣と戦ったって。コイツもその一人だったってことは蒼の魔道書が黒き獣だった頃にコイツに倒されたってことになる」
「じゃあ、魔道書は怯えていたってこと?」
「かもな…取り敢えず作業に戻ろうぜ」
「うん!!」
そうこうしていると日は沈み、あっという間に作業は終わった。勇者部はラグナのことが心配だったが、ラグナは心配らないと言って他の部員を帰らせた。刃は少し食い下がったが、ラグナがなんとか説得するとそれを聞いて下がった。
今ラグナは一人、大束町近くのゴールドタワーに向かっている。今日は芹佳が仕事で来ていたため、迎えに来ていたのだ。
その時だった。ゴールドタワー近くまでに来ると突然彼の前に蒼色の人型が出現したのだ。影のようになっていたが、その顔のシルエットを見たとき、ラグナの頭にある顔がよぎった。
「テメェ…『ノギ=ワカバ』か!!?」
早速現れた過去の英雄らしき存在にラグナはアラマサを抜いて構えるが、人影は何もしてこない。少し不審に思ったラグナは彼女にあることを確認した。
「……答えろ。あの手紙を出したのは…テメェか?」
彼の言葉にコクリと人影は頷く。この身体でどう書いたのかは知らないが、こいつは恐らく精霊の類だろう。ならば物理干渉も恐らく出来る。そう自己完結したラグナは次の質問に入った。
「何が目的だ? 俺に何の用がある?」
彼がそう聞くと人影は一度光り輝いて一羽の鴉に姿を変えた。鴉が一度鳴き声を上げるとゴールドタワーの裏口のような場所へ行き、その扉を
「ここは…巫女が任されてる社がある場所だよな…何度かここに連れてこられた時に入ったら結界に阻まれた後に怒られたっけ…それで? ここに入れってか?」
「カアッ」
「けどよ…こういう場所には鍵が掛かってるし、奥じゃあ巫女の血族じゃなきゃ入れねえらしいぞ。俺じゃあそもそも門前払いだ」
ラグナがそう言っても鴉がドアノブをあまりにもしつこく
「……テメェ、俺を入れたくて魔法でも使ってんじゃねえだろうな…」
「カアッ」
「はあ…まあ良いぜ。罠かどうかはテメェで確かめてやらぁ。それに途中で止められたら引き返しちゃあ良いだけだしよ」
彼は扉の先を進んでいく。今彼が入っている場所は母親である芹佳の家が管理しており、特定の人間でなければ入ることの出来ない場所だ。
その場所の名は『
そんなことを考えているうちにぐんぐん奥へ進むことが出来た。普段ならば結界が作動するはずなのにそれが今ない。おそらくこの精霊が原因なのだろう。
「…ここまで来ると、中のモンが俺を招き入れようとしてるみてえだな」
警戒心を高めて奥の社までに足を進めるラグナ。何が出てくるかは分からないが、来たら正面突破でどうにかするしかない。
そしてついに彼らは社の前までに着いた。御神体が仕舞ってあるであろう扉の隙間から光が漏れ出ていた。いい加減訳を知りたがっていたラグナは鴉に質問した。
「おい! ここまで来てやったぞ! 説明しろ! テメェの目的はなんだ!?」
「カア…」
「……悪かったよ。だが話してくれなきゃあ、俺もどうすりゃあいいのか分かんねえだろうが」
急に鴉が申し訳なさそうに俯いてしまったので、ラグナも強めに出ようにも出られなくなった。確かにこっちは相手の目的が分からなくて焦りを覚え始めていたとはいえ、怒鳴ったのはやりすぎだったみたいだ。
鴉は身体を人型に戻すと、急にラグナの頭に声が響いた。
『無理して付いてきてもらって済まない。此処でなければ私は君と話すことが出来ないんだ』
「うあッ!!? なんだこれは!!? 頭に直接喋ってやがる!!」
一瞬驚いたラグナの反応を見て、女性は少し懐かしむように笑いながら話を進めた。
『初めまして、になるか。私の名は先ほど君が当てた通り、『乃木若葉』だ』
「マジかよ…」
先ほど写真で見た偉人が目の前にこうして話しかけてくることにラグナは驚きを覚えていると、若葉の方から話題を切り出した。
『君にとっては突然の出来事で申し訳ないが、今日君に来てもらったのは他でもない。ある時代に飛んでそこにいる者たちを助けて欲しいんだ』
「…大体話が見えてきたぞ。つまりなんだ? テメェらは違う時代に生きる俺の助けが必要だってことか?」
『…そうだ。というより君は来なければいけない』
「どういうことだよ?」
『詳しいことまでは説明できない。しかし、君がこちらの世界に来ることに大きな意味があるんだ』
不器用なりになんとか説明しようとする彼女の様子を見てラグナは考え込む。以前にレイチェルから聞いた話を考えると、西暦の時代の勇者たちの戦いは決して短いものではなかった。
もし自分がその時代に行けば、帰ってきたときにあちらで過ごしたと同じ長さの時間が過ぎている可能性がある。そうなれば沙耶や刃も死ぬほど心配するだろうし、勇者部の面々も同じだ。
「一応聞くが…どうしても俺が行かなきゃならねえのか?」
『……ああ』
「俺がそっちにいる間にこっちの時間はどうなる?」
『それならば心配はいらない。こちらから帰ってきたときの時間は行った時からそれほど経たないようにする』
「…最後にもう一つだ。そいつは命に関わることか?」
ラグナがそう口にすると若葉は少し黙り込んだが、その後に言葉を返した。
『……ああ。それどころか恐らく君のこれまでの戦いの中でもかなり厳しいものになる。それにあっちについても私は君を助けることが出来ない。『私』は『私自身』を
「…だろうな。それに黒き獣がいる以上、面倒なことにはなると思っていたぜ」
『……本当に何度も済まない。私が詳しく説明するわけにもいかないし、君には多大な迷惑をかけることは分かっている。だけど信じてくれ。私たちはお前…君の力が必要なんだ!』
何故若葉がこれほど自分に助けを求めるのかラグナには分からなかった。しかし一つだけ分かることがある。彼女の言う戦いが仮に黒き獣と関連したものならば自分も行った方が良いのは確かだろう。
『…ダメ、か?』
「俺が行かなきゃ、この世界にも悪影響が出るんだな?」
『そ、それは…』
「誤魔化しはいらねえよ。どうせそんなことを言ったら脅しになるとか考えてんだろ?ンなことは気にしなくて良いから本当のことを話せ」
『…ああ。此処で君が来ないと…この世界にとっても、君自身にとってもまずいことになる』
「そうか…」
ラグナは改めて若葉の顔をよく見る。確かに精霊になっている影響で顔の表情が分からないが、その身振りや口調からかなり固くて真面目なタイプであることが分かる。正に写真で抱いたイメージそのものだ。そんな人物が助けを求めているなら恐らくかなり困っていると考えて間違いないだろう。
それにあの世界でだが、自分は黒き獣とは戦ったことがある。そしてあれが六英雄たちと自分がやっとの思いで倒した怪物であることも知っている。何よりあの時も自分は時を超えているのだ。ならば自分が何をすべきか。
「…ったく。黒き獣まで俺に付いてこなくても良いだろうが、めんどくせえ」
『ラグナ?』
「良いぜ。行ってやるよ。俺が行ったくらいでどう変わるかなんざ知らねえけどよ。それにアイツらの日常が壊れる原因が黒き獣にあるなら…俺も猶更無関係じゃねえ」
『そうか…本当にありがとう…』
「礼なんざいらねえよ、俺が自分から行くってんだから。それに家の部は人のためになることを勇んでやる部だ。目の前でここまで言われたら引き下がれねえだろ?」
彼が頭を掻きながら少し恥ずかしそうに告げると、若葉は心なしかうれしそうに発言した。
『…『アイツ』の言う通りだったな。お前ならきっと来てくれると『アイツ』は信じていたよ』
「『アイツ』? 誰だそれは?」
『それはあっちに着けばそのうち分かる。では、行くぞ!』
「おう!!」
社の扉が開き、そこから露わになった中身から出る光が一層強くなった。ラグナにはすぐそれがどこへとつながっているのかがすぐ分かった。
「なるほどな、境界を越えるってことか!!」
『私の障壁で君を無事にあちら側へ送る! しっかり捕まってろ!!』
「言われるまでもねえ!!」
二人は境界に入ると、そのまま真っすぐ進んでいく。かつて西暦の勇者たちが激闘を繰り広げた世界へ。
*
「ッ痛……ここは?」
ラグナが気が付くと身体を起こして辺りを見渡した。先ほどの暗いタワー内とは打って違って、自分は今雑木林の中に寝込んでおり、後ろには大岩で塞がれた洞窟のようなものが見える。そして何よりも違うのは
「…あっつ! 殆ど真夏じゃねえか!!」
気温である。今彼は赤コートの下に冬物の服を着ているため、とにかく暑い。急いで上着を脱ごうとするが、その時に彼は別の異変に気付いた。
「おいマジかよ…『右腕が動かねえぞ』!! 右目も見えねえ!!」
つまり蒼の魔道書が機能していないということになる。これはあっちの世界でも体験はしていたが、まさかこちらでもそうなるとは思わなかった。
(おいおい…つまりこれから黒き獣と片腕で殺り合えってか? 無茶ぶりだろ…)
兎に角ここにいても仕方がない。情報を集めるためにラグナは街の方へ向かって、近くのコンビニに入った。そこからこの世界の事情を少しでも知るために適当な新聞を探して、その表紙を読んだ。
「ん~と…『2015年7月30日』、『島根県』松江市…シマネケン?」
聞き覚えのない都市にラグナは頭を捻る。自分の知る県は四国にある香川、愛媛、徳島、高知の四つだけだ。だから彼にとって他の県は馴染みのないものだったのだ。
「一応読み進めてみるか…近日では津波や台風、竜巻や地震が大量発生して天変地異の連続…こいつもバーテックスと関係があんのか?」
こんなことなら旧暦の日本に詳しい東郷の話をもっと聞くんだったと考えたが、今は手持ちの情報だけでどうにかするしかないようだ。ラグナは取り敢えず新聞を元の場所に戻した後、再び外に出て歩みを続けた。
しばらくして電車の線路を沿って歩いていると、彼の前に大きな鳥居のある神社が見えてきた。そして同時に今までに体感したことのない大きな揺れが彼を襲った。
「のわっ! まさか、こいつがあの新聞にあった天変地異か!?」
一度体勢を低くするとしばらくして揺れが収まった。しかし、異変はまだ終わらない。ラグナの頭上から流星のような白い物体が何体も神社を襲来した。
(この気配…奴らか!)
ラグナは自身の、いやこの神社の周囲から感じ取った。いつもは樹海からしか感じないはずの、異形たちの気配だ。
思考に頭を委ねていると神社の方からたくさんの人間の叫び声が聞こえた。それに老若男女は関係ない。一刻も早く行かねば犠牲者が出てしまう。そう思うと彼の足は自然と走り出した。
「くそっ! 間に合ってくれよ!」
*
出雲大社にある神楽殿では3人の少女たちが身を震わせながら迫り来る死に抵抗出来ずにいた。もう目の前でバーテックスに大人が喰われる様を見てしまい、恐怖でまともに動くことも叶わない。
やがて一つの白い怪物が自分たちの方へと向かってくるのが見えた。歯らしきものには先ほど噛み砕いた大人たちの血がベッタリ付いている。
異形の名は『
「助けて……お母さん、お父さん!」
少女の中の一人が来るはずのない親に助けを乞う。絶望はすぐそこまで来ていた。星屑が大きな口を開けて自分たちに突進すると
「デッドスパイク!!!」
横から黒い何かに喰われて消滅した。何事かと驚く少女たちだったが、すぐに自分たちの前に大剣を背負った男が現れるのを見た。
「よし、なんとか出せたか…おい、そこのガキども! いい加減ここから離れやがれ! 巻き込まれんぞ!!」
「で、でも足が…!」
「くそッ! 仕方ねえ! そっから離れんなよ!!」
男、ラグナは大剣を星屑たちに構える。数こそ多いが、それでも先ほどの攻撃でやられるようならこいつらも大したことはない。何より
(皮肉だな…バーテックスどもが来たからか、同じバーテックスであるこの右腕も機能し始めやがった…)
だがこれなら真正面から戦える。守れる。ラグナが戦意を示していることに気づくと、星屑たちは一斉に彼の方へ飛び掛かった。
「でりゃっ!!」
黒の瘴気を纏った彼の剣に斬られた星屑は無残にも消滅する。しかし数が多いだけあって両者は拮抗していた。その時、新たな第三者が乱入してきた。
「おおおおあああ!!!」
別の少女が木片を手にして星屑の眉間に鋭い一撃をかました。しかしそれは敵には通用せず、逆に彼女の方が敵の触手の一撃で吹き飛ばされてしまった。
「かはっ!!」
「『乃木』さん!」
「ノギだぁ!? くそッ、いきなり会えたと思ったらこれかよ!」
知り合いのピンチにラグナは力を溜めて後ろの少女たちに注意を促した。
「テメェら! 俺が道を開けるからその隙に逃げろ!」
「でも乃木さんが!!」
「アイツなら俺がなんとかする! テメェらは逃げやがれ!」
「は、はい!」
「シード・オブ・タルタロス!!!」
少女たちがラグナの話を了承すると、彼は回転をかけながら大きく剣を振り払う。そこから発生した瘴気の波は星屑の群れを吹き飛ばし、それで出口までに星屑が見当たらなくなった。
「今だ! 行け!!」
「の、乃木さんをお願いします!」
「任せろ! ヘルズファング!!!」
少女たちが無事に逃げられたことを確認すると、若葉に群がる星屑に向かってラグナが突進する。突き出す拳に黒炎を纏わせ、瘴気で星屑を追い払った後に彼女の元を来た。
「おい、テメェ!! これはどういう…って」
「あ、貴方は、一体?」
ラグナが若葉を見たとき、彼は少し驚いた。自分が知る乃木若葉よりも少し若すぎるからだ。見た目からして恐らく小学生くらいだろう。
(これじゃあ、事情を知ってる訳ねえか…)
「あの、すみません! 私の友人やクラスメイトたちは!? まだこの中にいたはずです!」
「安心しろ。アイツらならもう外に出たはずだ。テメェも早く逃げろ」
「そうですか…ですが逃げようにも敵はそうさせるつもりはないようですね」
小さな若葉がそう指摘した通り、星屑たちはラグナと彼女を取り囲むように迫っていた。ラグナは若葉を抱えて脱出する決心をして彼女に問いかけようとしたが、また問題が発生した。
「うあっ!?」
「どうしました!?」
「まただ…また『腕が動かねえ』!! どうなってやがる!?」
「そんな!?」
再び右腕が麻痺してしまったラグナは思わず剣を取り落とし、それを星屑が触手で彼から遠ざかるように投げ捨てた。星屑はその後にジリジリと近づいてくる。その口は獲物を追い詰めたハンターのようにニタリと笑っているようだった。
それをラグナは睨み返しながら若葉を庇う形で対峙する。最悪でも彼女を外へ投げ出すことも考えていたが、中々敵の包囲陣から穴を見つけることが出来ない。早くも万事休すである。
目の前で戦う男が困っているのに自分が何もできない現実に若葉は悔しさで歯噛みしていると別の声が聞こえた。顔を声の方に向けるとそこには長年共に過ごした幼馴染の姿があった。
「若葉ちゃん! そこに手を伸ばしてください! そこにあるはずです!」
「なっ!? テメェは誰だ!? そこにいたら危ねえぞ!!」
「『ひなた』!? それにそこって…」
若葉がもう一人の少女、『
その刀を手に取った瞬間、若葉の全身に力が漲り始めた。全身の血が逆流するような感覚だ。手にした刀も先ほどまで錆びてみすぼらしかった状態から、徐々に本来の瑞々しく美しい刀身へと変化する。
「この刀は…」
「それは祭壇に秘されていた古の神器。美しく比類なき殺傷力を持つ冥府に由来する一本の刀」
『
「これなら…やれる!! 奴らを倒せる!! そこの人、これを!!」
若葉がラグナに奪われた大剣を投げ返すと、彼はそれを受け取る。中には何体かの星屑がいたが彼らの前では敵ではなかった。しかし、ラグナの方でおかしなことが起こっていた。
(剣の時のアラマサの攻撃が効いてねえ…だったら!!)
ラグナはすぐに大剣を大鎌に変形させて星屑に切り掛かると敵は斬殺されていった。こちらの時はどうやら攻撃が通じるようだ。
「若葉ちゃん!そこの方!早く外へ!あの変なのが殿の外へと溢れ始めました!!」
「なんだって!?」
「まだいんのかよ!?ワカバつたな!早く行くぞ!」
「はい!」
三人が急いで外へ出ると、そこでは先ほどの星屑たちが集合しながら徐々に姿形を変化させていた。『ムカデのような長い体形のもの』、『矢のようなものを発生させたもの』、『角のように硬質化して隆起したもの』。
それぞれには異なった特色があったが、共通してこちらよりも巨大な体躯をしていて、人間に対して攻撃の意志がある。中でもラグナは矢を持った敵を見て舌打ちする。
「チッ…コイツを見ていると何故かヤなモンを思い出しやがる!」
「しかしこれだけ大きな相手とどうやって戦えば…」
若葉が頭を悩ませた。これだけの大きさの敵とどう戦えというのだ。自分はまだ小学生。確かに幼い頃から居合を嗜んでいるが、それでも本物の命のやり取りなどこの日が初めてだ。
しかしそんなときに向こう側から聞こえるひなたの声が聞こえた。周りには何人か逃れることが出来た人間がいる。自分のクラスメイトたちもだ。
「若葉ちゃん! こっちです! こっちに来てください!!」
「しかし今行ったらこいつらも!!」
若葉の懸念通りではある。今ここで離れてしまったら敵も自分たちを追いかけてくるだろう。そこへラグナが彼女に耳打ちした。
「おい。ここは俺が引き受けるから、テメェはアイツらと一緒に逃げろ」
「な、
若葉がラグナの言葉を信じられないと言わんばかりに驚く。
「無茶だ! あまりにも危険過ぎる!! 私たちが仮に助かっても貴方が死んでしまうぞ!!」
「テメェの守るべきモンを見誤んじゃねえ!!!」
「うッ!!」
いきなり大声で叫んだラグナに若葉が驚くが、彼はその後も続けた。
「今テメェの力が必要なのは…俺じゃねえ!! アイツらだ!! 一匹も通さねえからさっさと行け!!」
「でも!!」
「若葉ちゃん! そこの方!! 早く来ないと!!」
「ほら!! アイツはテメェの友達だろ!!? 待たせてんじゃねえよ!!」
「だから、貴方はどうなるんだ!!?」
「心配すんな!! これでもしぶとさには自信がある!! それに嫌でもまた会うことになるだろうよ!! だから行け!!」
「……済まない!!」
歯を食いしばりながらも若葉は後のことをラグナに任せてひなたと合流した。遠ざかっていく人だかりを見てバーテックスたちは追おうとしたが、その前にラグナが立ちふさがる。
「……たく。どういうわけか、ようやくコイツも機嫌が直ってきたみてえだな。遅えんだよ!」
そう言って彼は右腕を翳し、彼のコードを詠みはじめる。遠くから逃げていく若葉とひなたにもその声と光が認識できた。それは命を落とすやもしれないと考える人間の声ではなかった。
「第666拘束機関開放! 次元干渉虚数方陣展開!! イデア機関接続!!」
先ほどの若葉とは違う悍ましい力が彼へと集まっていく。最後に彼は蒼い光を放ちながら叫んだ。
「『
その後の光景は彼女たちもよく覚えている。なにせたった一人であの怪物たち相手にラグナは互角以上の戦いを見せたのだから。二人は真っすぐ前を見つめながら星屑の来れない林の奥へと進んでいった。
*
何とか周りの敵を全て屠ったラグナは再び街の方へ行った。先刻まで普通にあったものが今ではバーテックスによって破壊され、変わり果てた姿になっていた。
「ウサギの野郎からも話は聞いていたが…実際に見ると…酷えな…」
レイチェルの話によるとバーテックスは天の神と呼ばれる存在によって地上に送られ、人類を滅亡の危機に陥れたらしいが、目の前に広がっていた光景はもうそんなものではない。建物は瓦礫の山と化し、炎が舞い、あらゆる場所であの白い怪物がいる。
とてもこの世の光景とは思えなかった。今でもしっかり動く右手で拳を作りながらラグナは悪態を吐いた。
「ふざけんじゃねえ…神だからってこんなことが許されてたまるか!!」
自分がどうしてここに来る必要があったのかは分からない。頼みの乃木若葉も若すぎてとても情報を持っているとは思えない。ラグナは必死に考えている内にある答えに行き着いた。
「そうだ……ウサギ!! そのウサギがいるじゃねえか!!」
レイチェルはこの時代のことを自分に説明してくれた張本人だ。そして何より不死の吸血鬼でもある。だったら彼女に会うことはこの時代を把握する最大の手がかりになるだろう。
「でも今のウサギは四国にいるのか?今は炎の海になってねえならあのアルカード城にいるよな?」
そうなると彼女を見つけるには、彼女が自分から赴きそうな、あの退屈嫌いの吸血鬼の興味を引きそうな地域に向かう必要がある。
ラグナは別のコンビニから地図帳や観光雑誌を拝借して日本で彼女が行きそうな場所を探した。その時、ある場所に目が留まった。
「『奈良県生駒郡…斑鳩町』…イカルガ!!?」
宝くじの一等を当たった気分だ。連邦ではないが、その地域の名前は偶然にもかつての世界と同様の地名を持っていた。
少し奈良の観光雑誌を読み漁るとその町付近では有名な神社や寺が存在していることが分かった。
「もしかしたら…ここにウサギが来るかも知れねえ!!」
取り敢えず目的地は決まった。後は行くだけだ。レイチェルのことだからバーテックスなど簡単に捻り潰せるだろうし、もしいなかったら次の場所へ行くか四国へ戻ればいい。
「それに例えウサギがいなくても、もしかしたら『アレ』があるかもな。一応見に行って損はねえだろ」
バーテックスに発見されにくいであろう森や山へ戻りながら奈良へ向かうラグナだった。
色々詰め込んだ結果こうなった。一話だし、まあいいよね?
というわけで早くも西暦で戦いをおっぱじめたラグナ君。突然腕が動かなくなったり、情報が殆どないまま連れてこられたりと大変ですが、どうにかなると信じよう。
因みにこれが筆者ののわゆ組に対する個人的なイメージのブレイブルーのbgmです。ただの妄想ですので生暖かい目で見てくださると幸いです。
乃木若葉:Rebellion II(ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。ハクメンと悩んだけど彼女の怒りとかよく口にする報いとかを考えるとこっちの方が良いと思ったから)
郡千景:Awakening The Chaos(ν-13。ドンピシャ過ぎた。特に原作後半の彼女と)
高嶋友奈:Bullet Dance II(ノエル=ヴァーミリオン。セリカもありだと思ったけど高嶋ちゃんならもうちょっと激しい感じでも良いかなと思ったから。今でも悩んでる)
土居球子:烈風(シシガミ=バング。輪入道とかタマっち先輩のイケイケな感じが合っていたから)
伊予島杏:Lust Sin II(ジン=キサラギ。はっきり言おう、ユキアネサ繋がり)
上里ひなた:Queen of Rose II(レイチェル=アルカード。若葉ちゃんを揶揄った時のドSっぷりがお似合いすぎた)
次回ラグナ、奈良へ行こう。それではまた
どれがいい?
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ビバークだ!!!登頂マウンテンだー!!!
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本編を進めろ、少尉…