ゆゆゆいで範囲型のキャラが強いんだと教えてくれたのがうたのんでした。そして巫女の性能の違いを教えてくれたのは水都ちゃんでした(最初の巫女はひなた)
というわけで今回の話はそんな諏訪組の話!果たしてラグナが参加することでどうなるのでしょうか?それではどうぞ
The wheel of fate is turning...Rebel...1...Action!!!
「最近、この服も少しきつくなってきたな…」
2018年9月某日、鍬を片手にラグナは畑のど真ん中に立っていた。
友奈と別れてからラグナは様々な地域に立ち寄りながらレイチェルを探している。良く探していなかった中国地方から関東圏まで足を運んでいるが、やはり手掛かりは見つからない。
その代わり目につくのは何人もの人間。バーテックスから辛うじて逃れることが出来たものの、いつ見つかるか知らない恐怖にいた者たちだ。
特に大阪は酷かった。あそこでは人同士の争いが発生していて、正直に言って関わりたいとは思わなかった。
しかしその中で身体の弱った少女がいたので、結局彼は全員連れ出して無事に香川まで連れて行った。この時代に来ても勇者部にいた頃の性分は治らないらしい。
そしてそれを何度も繰り返した。レイチェルが居ないと分かった後、念のために人がいるかを確認し、いなければ次の目的地を決めて行く。もしいれば四国まで護衛するだけだ。
この時代に来てからラグナの魔道書はバーテックスに対して反応が顕著になった。元である神々の影響が少ない世界の名残から本来の時代ほどは動かないが、それでもバーテックスが来れば従来の動きを見せてくれる。
だからバーテックスがいつ来たのかも分かる。元々警戒心の強いラグナに対バーテックス用のレーダーまであるのだから比較的安全に人を香川まで連れて帰れるのだ。
食事の問題でゴネられることもあったが、その度にラグナが獣を狩ったり木の実を採取して調理したらなんとか納得してもらった。
そうしているうちに実に3年が経ち、彼も17歳になった。肉体はあの時代の頃にあった僅かなあどけなさが完全に消え去り、大人の身体が形成されていた。身長185cm、体重78kg。もう殆どかつての世界にいた頃のラグナになっていた。
そのせいか、長年着てきた赤コートも少しキツくなっていた。買い換えようか悩んだが、戦闘に支障はないし、巫女の実家の大事な物らしいので捨てるなんてとんでもない。その結果今の今までこの恰好のまま本州を回っていた。
「あら、ラグナ! 今日も来てくれたの? サンキューソーマッチ!!」
「お前、『ウタノ』か? この前の襲撃で傷を負って病院にいたんじゃねえのか?」
「ドーントウォーリー! ラグナが来てくれたおかげですぐヒール出来たわ! それにやっぱり自分で育ててきた野菜たちだもの。他の人に任せてばかりじゃあいられないわ!」
元気に笑顔を見せながらこちらに話しかけてくるのはこの長野地域にある『
初めは諏訪の人々を元気付けさせ、自活するために鍬を手にし始めたが、後に自分もドハマりして夢は農業王だと自信たっぷりに言うほどの農業好きになっていた。
そんな彼女が自分の畑を放置することなど有り得ないが、ラグナは溜息を吐きながら彼女に話しかけた。
「…はあ。こりゃあ『ミト』も心配が絶えねえわけだ…おいウタノ。ちょっと来い」
「ワッツ? どうしたの、ラグ……アウチ! なんで腕をいきなり掴むの!?」
「お前やっぱまだ傷治りきってねえじゃねえか! ったく、ここまで来ちまった以上仕方ねえからそこで座ってろ! 作業は俺がやるからなんか問題があったら指示して良いからよ!」
「オーケー…」
実は先週、諏訪に中規模の襲撃があり、その時に歌野も傷を負った。ちょうどその頃に立ち寄ったのがラグナである。
その後は定期通信だからと言って疲労の溜まった身体を引き摺って諏訪大社上社本宮へ行こうとしたのだから巫女の『
「四国との連絡も、大切な私たちの『日常』なんです…だからそれを守りたいんです…『みーちゃん』も、お願い…」
そこまで言われて二人は引き下がった。当然通信が終わった後はすぐに彼女を病院に連れ込んだ。二人のおかげで傷は安静すればすぐ治りそうなものだとのことだ。
しばらくしてからラグナたちの元へ別の少女が走ってきた。少女は歌野を見ると足の速度を速め、彼女に会うと少し顔に怒りを浮かべながら彼女を叱っていた。
「『うたのん』!! 勝手に病院から抜け出しちゃダメってお医者さんに言われたでしょ!!? みんな心配してるんだから!!」
「そ、ソーリー、みーちゃん! でも畑の野菜たちの様子を見たかったし、身体は動けるから今日出ても問題ないでしょ?」
「問題大アリだよぅ…そもそも畑はラグナさんが見てくれるって言ったから心配しなくていいって言ったじゃない…」
ホントにもうと言いたげにしながらも水都は歌野を連れ戻そうとはしない。歌野がどれだけ自分の畑を大事に思っているのかを知っているからだ。
しばらくラグナが歌野の指示の元でどんどん畑を耕していき、水都は種を蒔いた。日が暮れる頃には流石に歌野も水都に付き添われながら病院へ帰り、ラグナは諏訪の人々が貸してくれた借家で床に着いた。
この諏訪に生きる人々はこれまで見てきた人間たちの中でもかなり好印象を持てる人間たちだった。確かに不自由で閉塞した場所だが、皆笑って暮らしている。これも歌野と水都のおかげなのだろうとラグナは感じた。
しかし同時に水都の話も思い出す。諏訪では四国と同様に結界が張られているが、それもこの3年でかなり縮小してしまったらしい。諏訪の土地神の神託によると四国の勇者たちや神々の準備さえ整えば事態は好転すると言ったが、水都とラグナから見ても歌野に限界が来始めていることは明らかだった。
何とかみんなを香川まで連れて帰るなりして助けられないものかと考えながらラグナは一度目を閉じた。
*
何日か経ってから歌野が退院した。あの無断外出の後も相変わらず畑に来ていたが、今度はきちんと外出許可を貰って水都と付き添う形で来ていた。そして退院した翌日、水都は二人を上社本宮に集めた。
「みーちゃん…神託が来たのね」
「うん……」
よく見ると水都の肩が細かく震えていることが分かる。悔しさで顔を歪ませながらゆっくりとそれを告げた。
「……土地神様が言ったんだ。明日…これまでにないくらい大規模な襲撃が起きるって…結界も破られて…諏訪も…みんなも…」
「なんだと!!!?」
彼女の言葉に最初に反応したのはラグナだった。いきなりそこまで危機的な状況になるとは思っていなかった彼は水都の両肩に思わず掴みかかる。
「だったらこんなところにいる場合じゃねえだろ!!? 早く他の連中を集めて逃げる準備をしねえと!!」
「や、やめてくださいラグナさん……い、痛い」
「あ……」
気付かない間に力を入れすぎてしまったようで水都も怯えているようだった。一度冷静に戻ったラグナは優しく彼女から手を放すと謝罪する。
「す、済まねえ…つい……」
「良いんです…寧ろそこまで思ってくれてありがとうございます」
水都はそう言っているだが、ラグナからすればこれはあまりにも理不尽で納得の出来るものではなかった。ここまで長い間二人は諏訪の人々の命と日常を守ってきた。その終わりがこれだなんてあって良いはずがない。
怒りのあまりに壁を殴りつける彼に歌野は言った。
「ラグナ。貴方は今日中にこの諏訪から脱出する準備を進めた後に出発して。貴方も強いのは分かるけど…巻き込むわけには行かないから…」
「ンなこと…出来ると思ってんのか!! このままじゃあテメェら殺されちまうんだぞ!!! 俺一人で逃げてどうすんだよ!!?」
「そうね…ラグナ、貴方にフェーバーがあるんだけど、いいかしら?」
「ふぇ、ふぇいばー?なんだそれは?」
「頼み事のことよ」
そう言いながら歌野は一つの箱を彼に渡した。中身を確認するとそこには一つの鍬と種が入った袋、そして手紙があった。
「それを四国にいる私の友達に届けて欲しいの。その人も勇者で、これから…たくさんの困難が待っていると思う。だからお願いしたいの」
「ウタノ……くそッ…」
まだ心に特大の重りを抱えながらも歌野から箱を手に取ろうとしたラグナだったが、その前に水都が普段出さない大きな声で歌野に聞く
「……うたのんは! …うたのんはどうしてそんなにいつも通りなの…あんな話を聞いて…怖くないの!!? ラグナさんはもういないから良いけど…私たちは明日…もう!!!」
「ミト……」
水都の悲痛な叫びを聞くと歌野は彼女の方を見ながら言った。いつもの明るい笑顔もどこか不自然にも見える。
「怖いよ。本当はすごく怖い」
「だったら!!」
「でも、怖くても…何もできないのは絶対に嫌。怯えて何もできなくて…目の前で人が死んでいくのは、もっと怖いから…」
その時の歌野の表情をラグナは見逃さなかった。その時に映ったのはいつもポジティブでみんなを引っ張っていく勇者ではなく、少し観察すれば無理をしていることが分かるほど死に恐怖する少女だったのだ。それは水都も同様に見えたようだ。
歌野はすぐにいつもの笑顔に表情を戻すと、ラグナに箱を押し付けて彼を外へ押し出した。
「ほ~ら! 早くしないとトゥーレイト、なんてことになるわよ! ラグナもハリーハリー!!」
「おい、ウタノ! 待てテメェ!! ウタノ!!」
彼もまだ何か言いたいことがあるようだったが、これ以上ここに彼をいさせてはならない。彼は優しい。出会ったばかりの自分たちと諏訪の人々のことを本気で憂いている。その理不尽に強い怒りを感じているのも分かる。
この御役目に就いてから基本的に歌野と水都は二人で過ごすことが多かった。だから久し振りに自分たち以外のほぼ同年代の人間と交流することはとても楽しかった。
「うたのん…初めて私がラグナさんと会ったとき、すごく怖がっていたの、覚えているよね?」
「もちろんよ。みーちゃんはあまり男の人と話すのは見たことないけど、苦手だったとか?」
水都は基本的に自己主張をしない、とても内気な少女だ。だからフレンドリーな歌野とは違ってラグナに慣れるまで少し時間が掛かった。
そう踏んでいた歌野だったが、水都は首を横に振った。
「半分は合っているけど……それだけじゃないんだ…ラグナさんの右腕だけど…あれからすごく恐ろしいものを感じたの…バーテックスに似ているけど…でも何かが違う…そんな気が…」
「そんなことがあったのね…」
「でも…うたのんが私とあの人が会話できるように話を振ると実はあっちも私に気遣ってそこまで話掛けないようにしていたことも分かって……まあ、良い人なんだなって思えた」
「そういえばラグナの方もみーちゃんが自分に怯えているけどどうすれば良いと聞かれたわね」
「気にしてたんだ…」
正直腕のことだけでなく、かなり強面で口調も乱暴な傾向にあったことも原因ではある。しかし、今は友達だ。
「うたのん…確かうたのんの『
「オフコース!私が育てた野菜でみんながハッピーになる。そのために農業王になるのよ!それがどうしたの?」
「私もね、『
「リアリー!? どんなの!!」
「私ね、宅配便になりたいんだ。そしてうたのんの育てた野菜を世界中に届けるの」
泣きそうになるけど涙は堪える。同じく不安であろう歌野が泣かないのだから自分だって泣くわけにはいかない。
歌野はどこか嬉しそうにしながら水都にその夢について彼女を褒めた。
「マーベラスよ、みーちゃん! 本当に素敵なドリームだわ!!」
「うん……そうだね」
「だったらそれを叶えなくちゃね!!」
「……うん!」
明日、自分たちは居ないかもしれない。それでもなお向けられる歌野の笑顔に水都は頷いた。
*
そして翌日の朝、神託から知らせられたバーテックスの襲撃する時間の30分前になった。ラグナの荷物は既に彼のいた部屋にはない。
もしまだ彼がいたらどうしようと考えた歌野たちだったが、結界の外で戦闘音がないところを見てどうやら彼は上手く脱出したようだ。
すっかり静かになった町を見ながら歌野たちは勇者と巫女の衣装を着ながらその時を待っていた。
「うたのん…もうそろそろ来る…」
「そうね〜…」
二人が上社本宮から辺りを見渡していると一人の人影が現れた。
「やっぱここにいやがったのか…」
「ら、ラグナ!?」
「ど、どうしてここに!?もう旅立ったんじゃ!?」
「あんな別れ方して旅立てるかってんだよ」
何ともなさそうにラグナは言葉にするが、彼がここにいるとは思わなかった二人は大慌てになった。
「貴方、自分が何をしているのか分かっているの!?ここにいたら…貴方も!!」
「分かってんのかって聞きてえのはこっちの方だ、このバカが!!!」
初めてであろうラグナの怒鳴り声を浴びる二人だが、その後に彼は言葉を続ける。
「勝手に人に大事なモン押し付けやがって!! テメェらが死んだら俺とアイツらは、少なくとも四国にいるっつー友達はどんだけ悲しむと思ってんだ!!?」
「で、でも」
「でもじゃねえ!!! テメェらが死んだら…テメェの言う日常は無くなるんだよ!! バーテックスがいること以上に、テメェらが居なくなることの方が問題なんだよ!!!」
そしてラグナは水都の方へ振り向くと少し大きめの鞄を手渡した。中には飯盒や地図といったものが選り取り見取りにあった。
水都が地図を広げてみるとそこには細かく、たくさんの線や記号が記されていた。鞄の中にあるノートには様々な動植物の情報が書かれており、処理や調理法、生息環境や特徴までびっしり書いてある。
恐らくこれは全てこの三年間、ラグナがメモし続けた情報だろう。他にも水を保管するための水筒や火起こし用のライターなどもある。
ここでこんなものを渡してくれる意図が分からない二人にラグナは話した。
「そもそもよ、あんな顔をしたテメェらを放っぽいて行くなんざ出来る訳ねえだろ。怖えなら逃げたって良いんだよ。テメェらはこれまで二人だったんだ。今回ぐらいは誰かに頼ったって構わねえだろ?」
「でも、これだけ貰っておいて言うのもアレですが…たとえ逃げてもバーテックスたちはみんなを追いかけて来ます…そうなったら…」
水都の懸念通りだ。諏訪から全員逃すには最低でもこれから起こる襲撃を押さえる必要がある。しかしバーテックスは勇者にしか倒せないし、今回の襲撃は通常よりも桁の違う勢力が来る。
例えラグナと歌野の二人でこれを向かい打っても勝ち目はない。分散すれば確実に残った方は死ぬだろう。しかしラグナは折れなかった。
「…ミト。悪ぃな、昨日あの後ちょっと居座っていたからテメェらがあそこでどんな話をしていたのかを知ってんだわ」
「え!?」
「テメェの『
「どういう……」
「ウタノと皆を…四国まで無事に連れて行ってくれ。その鞄と中身、あと他の物資の収集は前払い金の代わりってことにしてくれや。俺、今金ねえし」
「な、何を…言っているんですか?」
彼の言葉を理解しまいとしている水都にラグナは言った。
「奴らは、俺が食い止める。3時間は絶対に持たせて見せるから、その隙にテメェらは皆を連れて出来る限りここから離れろ。何、ヤバくなったら俺も逃げるさ」
『!!!!』
言葉を失い掛けた。この男はどこか危ういところがあるとは思っていたが、まさかここまでやるとは思っていなかった。
「ジョークもいい加減にして! それじゃあ貴方のやろうとしていることは私たちと変わらないじゃない!!」
「心配すんな。いざの時の切り札はある。それにな」
ラグナは歌野に何かを突き返す。昨日彼女が一方的に押し付けた箱だ。
「渡したいモンがあんならテメェで渡してこい。別れの言葉を言いてえなら消える前にせめてそいつに面ぐらい見せてやれ。それが友達ってやつだろ?」
「ラグナさん、それでは解決には!!」
「あーそれとな、こいつ」
ラグナが箱の蓋を取ると鍬がもう一本入っているのが分かった。それはここに来てからラグナがいつも振るっていたものだ。そして彼は言った。
「持っていてくれ。『後で取りに行くから』」
『え…』
「そいつを取りに行くために俺は必ず四国へ戻る。それまでは絶対に死なねえ。テメェらが死んだりしたら黄泉ってやつから引きずり出してでも取りに行くからな」
「ラグ、ナ…!!」
「ラグナさん!!」
「ボサッとしてんじゃねえ!! とっとと行きやがれ!! 今なら、まだ間に合う!! 諏訪の連中も、守谷山の麓で物資と一緒に待ってら!!」
「皆が…!」
「テメェら、本当に慕われてんだな…アイツらもテメェらと一緒なら大丈夫だって言ってたぜ。ウタノならそう簡単に負けねえだろうし、そもそもミトなら安全な道を見つけられるはずだ。どうにかなる!」
「それでは土地神様はどうなるんですか!? 土地神様がいなくなったら私たちは!!」
「居座ってねえで良い加減四国へ引っ越ししろとでも言ってやれ!! そのための3時間だ!!」
「ゴッドに対してバイオレンス過ぎるわよ、ラグナ!?」
「うるせえ!! カミサマってやつの都合で自分の仲間を諦めてたまるか!!」
その時点で二人はラグナを説得して逃げ出させることは不可能だとようやく気付いた。諦めが悪いでは済まない。ここまで来ると最早農作物にしつこく食いつくアブラムシみたいだ。
「……本当に、本当に無事に帰ってくるのね?」
「ああ、約束する。俺は必ず四国に戻ってくる」
歌野は彼の目をじっくりと見る。生きる意志に溢れたその力強い瞳は何かを信じさせてくれるに足るものだった。
「……分かったわ」
「うたのん……本当に…良いの?」
「ファイトしてもラグナが言うことを変えそうにないもの。だから…その言葉を信じるわ」
「任せろ」
「ラグナさん……私、やってみせます! 必ずうたのんを、諏訪の皆を四国まで届けてみせます!!」
「ああ! 頼んだぜ、ミト!!」
そう言って別れを惜しみつつも二人は諏訪大社の御神体を運んで諏訪の大人たちの元へ行き、すぐに旅立った。諏訪の神も彼女たちの選択を受け入れたのか、力を貸してくれているようだ。
対してラグナは一人、無数のバーテックスを相手に蒼の力を振るう。鎌と大剣を使い分けながらどんどんバーテックスを屠っていく。
これだけなら歌野も出来たが、ラグナはそれだけでは止まらない。ソウルイーターのおかげで彼は自身の傷を癒しながら大量の敵を相手に戦える。
ある程度傷が増えればすぐに星屑相手にドライブを使い、安全になれば大技で薙ぎ払う。これを繰り返すことで実に目標の時間まで後20分というところまで粘っていられた。
彼が頭上に目をやると、バーテックスの大群が空を埋め尽くすように彼を見下ろす。その光景を見て、彼は乾いた笑いを出した。
「成る程な、こりゃあ天恐なんてモンも出てくる訳だ」
だがここで負ける訳には行かない。ラグナは右腕を押さえると一気に力を開放しながら叫んだ。
「方陣展開!!!」
オーバードライブを発動し、彼の身体から禍々しい黒のオーラが滲み出る。右目からは赤黒い炎が漏れ出た。
それを見て星屑たちは一挙にしてラグナの元へ突進する。夥しい数の敵が来る様はまるで死をもたらす天の川のようだ。
だがそれにラグナも負けていない。大量の瘴気を自身の腕に纏わせると巨大な腕が出現。そのまま押し寄せてくる星屑たちを喰らい尽くさんと迫った。
「闇に…喰われろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ほぼ全ての星屑を飲み込んだ腕はラグナにみるみる力を還元していった。これによって殆どの傷は治りきり、バーテックス側からすれば仕切り直しだ。
「そう簡単に勝てるなんて思ってんじゃねえぞ、この『害虫野郎』が!!!」
天を睨みながらそう言い放つ彼を見てか、バーテックスたちは撤退し始めた。
*
「やった…バーテックスたちが離れていっているみたいだよ、うたのん!」
「ホント!? じゃあラグナも無事なのね!!」
「神託によるとそうみたい!」
ラグナの無事を聞いて歌野と水都は心の底から安堵した。今は大分山から離れているが、まだバーテックスの危険はあり得る。しかし仲間の無事を知れただけでも気分は晴れていた。
諏訪の者たちも互いに助け合いながら歩を進めている。本音を言うなら歌野も水都も彼が合流するまで待ちたいところだが、そんなことをしても怒られるだろうから先に行くことを決めた。
しばらくすると水都に新たな神託が降りてきた。もしやラグナ関係かと思っていた歌野だが、神託の後に水都は今にも泣きそうな顔をしながら体を抱きしめていた。
「そんな…そんな!!!」
「みーちゃん!!? どうしたの!!?」
「うたのん!! 早くここから離れないとダメ!! このままだと皆『いなくなる』!!!」
「え!? まさかバーテックスが!!?」
「違う…違うの!! 皆…諏訪の人もうたのんも私も、ラグナさんも…皆、『一瞬で』!!!」
「どういうこと!?説明して、みーちゃん!!?」
ここまで取り乱す自分を初めて見る歌野に水都は口を震わせながら信託の内容を告げた。
「く、黒い……黒い何かが……来る!!」
*
ラグナの奮闘もあってバーテックスの進行もかなり収まった。流石にここまでやればもう大丈夫だろう。
そう思っていた。ラグナが丁度撤退の準備に入ろうとすると、突然右腕が激しく疼き始めた。何かに強く反応しているようだった。
「ぐおっ!!? なんだ、蒼の魔道書が…何かと共鳴してやがる!?」
まさか黒き獣か?そう思っていると突如自身の前、バーテックスが後退していた山の方からそれは姿を現した。
通常、バーテックスの殆どは白い。白は全てを無に染め上げるのだから。しかし目の前の『それ』は真っ黒だった。赤い両目はこちらを捉えて逃がさない。
何よりもその形は今までのバーテックスとは全く違うものだった。他のバーテックスは神世紀のものも含め、基本的には見た目はかなり奇抜だ。
しかしこれは違う。殆どヒト型だ。這い蹲りながらこちらへ近づくそれを見てラグナの顔に焦りが出始めた。
「マジ……かよ……!!?」
口から瘴気を漏らしながら新たなバーテックスはグルルと唸り声を出す。
かつて国譲りの時、諏訪の地を治める武神『
目の前のそれは敵であった神と同じ名を持つ怪物だ。かつてあの世界でラグナも対峙し、『イブキド』を崩壊させ、そして初めて黒き獣を撃退することの出来た、大魔導士ナインが最初に造った事象兵器。
アークエネミー、『
のわゆが国譲りをモチーフにした物語である以上、敵としてこいつが出ないわけにはいかなかった。そして出るならこのタイミングしかないと思った。
というわけで今回の話で白鳥歌野と藤森水都登場!なんでか歌野はラグナとかレイチェル辺りの必殺技を輝いた目でなにそれなにそれって聞いてきそう。シード・オブ・タルタロスとか。水都ちゃんはノエルとかと仲良くなりそう、割と性格が似ているところあるから。
そして、うん。ブレイブルーの中でも最凶の敵キャラ。最初のアークエネミーにして帝様のペット。ハイランダー・タケミカヅチ降臨。本作では黒き獣同様、バーテックスですがその強さは原作とそう変わらないと思います。大丈夫かな、若葉たち…
次回はラグナ単騎対ハイランダー!!それではまた