この度お気に入り登録が二桁になりこの場を借りて感謝を申し上げたいと思います。これからもよろしくお願いします。
さて今回で洛奈君がバーテックスと初エンカウントしますが、果たしてあの子を救うことができるのでしょうか?
それではどうぞ!
The Wheel of Fate is Turning...
「よし!何とかなりそうだな!」
「最初は『二体』同時に現れたときはどうなるかと思ったけどどうにかなりそうね」
「よ~し、どんどん攻めるよ~!」
「一気に決着をつける!」
須美達は『二体』の敵を相手に善戦していた。たくさんのプレートを持つ敵は銀と須美、大きな尾に針を持つ敵は園子と刃で対応している。
「『氷翔剣』!」
刃は氷の剣を飛ばしながら敵を攪乱する。実は衛士にも術式の得意不得意が存在し、その中で刃は氷の術式を得意とする。これによって自由に氷を生成して敵を凍らせたり、壁や剣を作って戦闘に使うことができるのだ。敵が彼に注意を向けていると
「そこっ!」
園子が槍を展開し、一気に突っ込んで相手を貫いた。二人の動きが読めず、敵は右往左往していた。
「おりゃおりゃっ!!」
「えいっ!!」
対する須美達も負けていない。銀がガンガン攻めていく中須美も敵が動かそうとするプレートの近辺を狙い撃つ。
このままならいける。全員がそう思っていたときだった。
「!!あれは!?」
「まずい!?」
「全員集まって!ジンジン、氷のバリアもお願い!」
「ああ!」
敵の後方が無数の矢が襲い掛かる。須美と銀、刃は盾を広げられる園子のもとへと集まり、刃も念入りに硬くした氷の檻を形成して横からの攻撃を防げるようにした。降ってきた矢は味方を巻きこんで土砂降りのように四人を射殺さんと容赦なく叩きこまれる。
「まさかもう一体が後ろに控えていたなんて…」
「クッ…屑風情がこざかしい真似を…!」
「『バーテックス』も学習しているってわけか」
『バーテックス』。これが彼女たち勇者とその直属の衛士である刃の敵である。生態系の『頂点』を意味する彼らが四国を攻める目的は神樹を破壊し、人類を滅ぼすためだ。すでに彼女たちは3体のバーテックスを倒しているが、徒党を組んで攻めてきたのはこれで初めてだった。
「何とか反撃に移らないと…って!?」
なんと尾を持つ敵、蠍座の異形であるスコーピオンバーテックスがその尾で勇者たちを薙ぎ払おうとしていた。ギリギリ斧を盾にして防いだ銀は何とか体勢を保てたがあとの三人は宙へ吹き飛ばされてしまった。それでも攻撃をやめないバーテックスは無防備の須美たちに襲い掛かる。
「つっ…調子に乗るな、屑どもが!!」
そう言って刃は咄嗟に須美と園子を庇うように受け身の体勢を取った。すると赤い方陣が刃の前に出現し、蠍座の尾がこれに触れた瞬間刃は自分が最近になってようやく身に着けたカウンター技のための術式を発動させる。
「『
瞬間刃は神速の剣戟で蠍座の尾を切り落とす。
「
切り離された尾は見事凍り漬けになり、塵となった。しかしそこを矢を射出する敵、射手座の怪物であるサジタリウスバーテックスが攻撃する。すかさず刃も氷の壁を張ってガードした。
「何度やろうと無駄だ!」
園子達は銀が受け止めた。今は目の前のこいつらを滅すればいい。刃は剣を収めて厄介なサジタリウスの方へと駆け出す。傷を凍らされて再生していないスコーピオンの尾が再び襲った。
「遅い!!」
だがそれを刃は紙一重に回避する。見えてきたサジタリウスはこちらに向けて渾身の一撃を撃ちこんだ。だが寸でに躱した刃が爆風を利用してジャンプし、空中から攻撃を放つ。
「『
放たれた氷の矢はサジタリウスの口を破壊し、口を氷漬けにして塞いだ。もうこれで攻撃はできまい。攻撃手段がないならもうこいつらは怖くない。
「これで後は貴様らを屠グオッ!?」
しかしそれは慢心だった。刃は『攻撃』ができるものに意識を向けてしまっていた。だから完全にもう一体のバーテックスの存在を失念していた。
大量のプレートを持つ蟹座の敵、キャンサーバーテックスが刃をプレートで叩き落とす。そこをスコーピオンが尾で追撃し、吹き飛ばす。
「ク…ソッ…!!」
「刃!だいじょっ…!!」
少女たちの方へと吹き飛んだ刃の無事を確かめに来た銀は絶句した。刃の体のあちこちにひどい痣や切り傷が何個も出来ており、荒い息を立てていた。口から血も吐いていて脂汗もひどい。おそらく何個か骨を折ったのだろう。それでもまだ闘志は衰えないのだから凄まじい。
須美と園子もまだ意識を回復していない。こんなところを襲われれば全滅は免れないだろう。銀は急いで三人を安全な場所へと非難させた。
「今の人影、まさかギンか!?」
洛奈は爆発のある方角へ向かっていると人影の中に見慣れた姿が写ったため、全速力で走っていた。生身でもそれなりに身体能力の高い洛奈はそこへたどり着くのにそれほどかからなかった。
ようやくそこへたどり着くとボロボロの須美と園子、そして瀕死の刃を抱えてこちらへ滑ってくる銀がみえた。
「おいギン!大丈夫か!?」
「ら、ラグナ!!?」
洛奈の姿を見て銀は驚愕した。本来この樹海は勇者やそれに匹敵する存在のみが入ってバーテックスと戦うための場所だ。
だから洛奈はここには来れないはずである。確かに洛奈は普通の人間に比べれば圧倒的に強い。しかしそれはあくまで『人間』にしてはの話である。人類を滅ぼそうとするバーテックスと戦うにはあまりにも脆弱すぎる。
洛奈にここにいるわけを問いだそうとする前に洛奈が激戦を繰り広げてボロボロになった弟に気付いた。
「おいジン!!しっかりしろ!俺の声が聞こえるか!?」
「は…はは。兄さんの声が…聞こえてきた…ってなぜ兄さんが?」
「お前、血を吐いてんじゃねーか!待ってろ今すぐ病院に!」
「ラグナ、それが…できないんだ…」
「何言ってやがる!?このままじゃジンが死んじまうんだぞ!」
「分かってる。でも…」
銀は今も大橋を渡っている三体のバーテックスに目を向ける。
「あいつらをどうにかしないと…元の世界には戻れないんだ。当然、病院も」
「…そうか」
洛奈はそういって、
「つまり…あいつらを倒せば、刃たちを助けられるんだな」
「そうだ…だから…ここはアタシがひと「俺も行く」りで…え?」
銀は洛奈の言葉を一瞬疑った。今目の前にいるこいつは何の躊躇いもなく『逃げる』ではなく『戦う』といったのだ。
「あのなラグナ!これは遊びじゃない!命懸けの戦いなんだぞ!アンタに何かあればそれこそ刃や沙耶ちゃんが!」
「それはてめえも同じだろギン。ここでてめえに何かあったら、弟二人ってのはどうなるんだ?」
「そ、それは…」
「そもそもてめえ、自分の足元を見ろ。震えてんじゃねーか」
「うっ…」
「ジン、ソノコ、スミの三人をここまでにしたやつらをその手負いで戦ったら・・・」
死ぬぞ。はっきりと洛奈はそう銀に告げた。
「人を守るのが勇者なのかもしれねえけどよ、別に勇者を助けちゃいけねえわけじゃねーだろ」
「だけど…」
「兄さん行くなッ!」
「ジン…」
「兄さんが行ったら…死んでしまう!僕がッ…!」
兄を戦わせまいと刃は瀕死の体に鞭を打って立ち上がろうとする。銀たちも沙耶の神託は聞いている。当然洛奈に危険が迫っていることも。もし神託が「この状況」を指したものだったら、洛奈は無事では済まないだろう。洛奈だって忘れているわけがない。
「ダメだジン。自分で一番わかってんだろ、その体じゃ無理だ」
「それでもッ!」
「良いからここは俺に任せとけ。行くぞギン!時間がねえ!」
「いやアンタ武器は!?」
「お前の一個貸せ!」
「そんなんでいいの!?」
「ああもうガタガタうるせえ!それ借りるぞ!」
「あ、おいラグナ!」
「まて…」
今は目の前の連中をぶっ潰す。それだけが思考を支配しているまま、洛奈は銀の斧の一本を奪い去ってそのまま敵のもとへ向かっていき、それを後ろから銀が追った。
「で、連中はなんなんだよ?」
「あれは『バーテックス』。神樹様を破壊しようとしているやつらだ」
「『あいつ』、妙な連中に好かれてたんだな」
「いや違うから」
洛奈と銀はそれぞれの得物である斧をバーテックスに向けて構える。刃たちの安全と敵の侵攻具合を考えるとこれ以上通すわけには行かない。幸い刃によって凍り漬けされた箇所はまだ再生していない
「…アタシはあの赤いやつをやる」
「じゃあ俺はあの青い野郎から片付ける」
「ああ…ラグナ」
「なんだ?」
「死ぬなよ…」
「…そっちもな」
そういって二人は同時にそれぞれの敵へ突撃した。
「行くぞ化け物ども!人間様をなめるなよ!」
「行くぞ、この害虫野郎がっ!!」
『うおおおおおおおお!!!」
銀はキャンサーに斧の連撃を浴びせていく。このときばかりは銀は洛奈に会えてよかったと感じた。確かに銀の武器は本来二本の斧であるため、基本的には両方を使用して訓練している。
それでも何とか戦えているのは洛奈のような大振りな得物を実際に使う人間が近くにいたからだ。あの合宿の後時々十兵衛の招待で洛奈の訓練の様子を勇者たちは見たりすることができたため、彼女たち、特に前衛である銀はその戦い方を参考にすることができた。
「倒れろぉぉぉおぉ!!!」
銀は一切攻撃の手を止めない。もしこのときにサジタリウスがまともに攻撃できる状態だったら銀は後ろから狙い撃ちされただろう。だがそうはならない。なぜなら。
「うおおおりゃぁぁぁ!!!」
洛奈が後ろでひたすらサジタリウスに攻撃を加えていたからだ。人間の身ではあるもののさすがは十兵衛の弟子、常人離れの身体能力と「夢」から時々見える戦闘の記憶のおかげで勇者とも引けを取っていない。
一度スコーピオンの攻撃を受け流して宙を舞うと洛奈は剣を振りかざし、一気に落下しながらサジタリウスの横面を力任せに縦一直線で切り伏せた。
「『ナイトメアエッジ』!!」
サジタリウスはたまらず地に落とされる。横に大きな切り傷ができてもはや立つこともできないだろう。パートナーの奮闘に応えるべく、銀も斧に力を込める。
「へへッ…見たかよバーテックス…あいつの底力。いつも上から見ているお前らがただの人間に叩き落とされたぞ」
銀は笑いながら足を踏み込んでキャンサーに跳びついた。
「今度はお前の番だ!!」
そう言って銀は斧のフルスイングでキャンサーを思いっきりスコーピオンの方へとかっ飛ばした。二体のバーテックスは激突し、橋の横と衝突した。二体のバーテックスが集まるという千載一遇のチャンスに洛奈と銀が喰らいつく。
「化け物には分からないだろ、アタシたちのこの力を!」
「守るもんを背負った俺たちの意地を!!」
二人は敵をメッタ切りにしながらそれぞれの家族の顔を思い返す。大橋の先を過ぎたところには自分たちの家族が自分たちの無事を待っている。命の危機と隣り合わせの自分たちを心の底から心配しているものたちがいる。そのためにも負けられない。
「これが人間様の!!!」
「可能性と!!!」
「根性と!!!」
最後に二人は全身全霊の一撃を決める。
『魂の力だぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
雄叫びを上げる二人によって切られたバーテックスは体がボロボロになっていた。しばらくすると樹海が明るくなっていき、花びらが落ちてきた。神樹が敵を追い出す際に起きる鎮花の儀だ。つまり
「勝った…のか?」
「ああ…アタシたちの勝ちだ、ラグナ!」
最大の危機を乗り越えて糸が切れた人形のように膝をつく洛奈に銀が喜びのあまり抱き着いてきた。
「おわっ!?てめ、離れろ!苦しい!」
「あ~ごめんごめん。安心したらつい」
「ついじゃねーよ、ったく」
「ぎーーーん、いるーー!?」
「ミノさーーん、返事してーー!」
「お、園子たちが気が付いたみたいだな」
「だな」
園子と須美が刃を担ぎながらこっちに近づいていた。銀が二人を呼ぶと二人は急いでそっちの方へと向かった。
「ミノさんだいじょ、ってラッくん!?どうしてここに!?」
「さあな。気づいたらここにいた」
「いやそれよりも綾月君がここにいるということは…」
「ああ、アタシと一緒にバーテックスと戦ったぞ。まさかあんなに強いとは思わなかったけど」
「嘘…あの三体を二人で…?」
「スゴイよラッくん、ミノさん!」
「あ、ああ」
「それよりも早く刃君を病院へ連れて行かないと」
「この…ていどッ…たいしたことないッ」
「喋るなジン。おいソノコ、これいつになったら戻るんだよ」
「もうそろそろだと思うよ」
「じゃあそろそろここから離れるぞ」
五人は敵から離れるため大橋の向こうにある四国へと戻っていった。もうここには用はない。もう敵は倒したのだから。
だから気づかなかった。後ろから自分たちを未だに狙うものの存在を。最初に気付いたのは洛奈だった。
「ギンあぶねえ!!」
「え」
洛奈はそのとき傍にいた銀を突き飛ばした。
「おい何す」
そのあと彼女は言葉を終わらせることができなかった。そこには洛奈はいなかったから。代わりに大きな矢が通り過ぎて行った。そのあとスローモーションで「何か」が落ちてきた。「それ」は右上半身が思いっきり持っていかれたせいか腹や脇の肉が抉れ、血がどんどん出始めていた。
「んだ…よ?」
「ラッ…くん?」
「…綾月君?」
何が起こったのかが分からないまま茫然とする勇者たちが矢の過ぎた方向を見ると少し離れた場所に血を吹き出す一本の肌色い物体が見えた。
『う、腕…?』
一瞬の出来事。その物体を見た後、数秒前までの空気を完全に破壊した原因に目を向けた。そこでは横に倒れながらも刃の氷によって口が塞がれたはずのサジタリウスが小さな穴を作ってこっちに向いている様だった。
よく見ると氷の端々にヒビが入っている。どうやら洛奈が地面に叩き落としたことが原因で氷が脆くなってしまったようだ。その顔はしてやったりと嘲笑っているように見えた。
「ら、ラグナぁぁぁぁ!!!」
「綾月君!!しっかりして!!綾月君!!」
「ラッくん!!死んじゃだめだよ!!!」
腕を失って大量の血を失っていく洛奈に必死に声を掛ける勇者たち。そんな中一人だけ別の行動に移ったものがいた。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!良くも兄ぃぃさんをぉぉぉぉ!!!!!」
兄の腕を凍らせた応急処置を行ったあと、怒りに駆られてサジタリウスに刃は弾丸のように迫った。抜き放たれたユキアネサからは強烈な冷気を帯びている。
「ジンジン、戻ってきて!もう鎮花の儀に入っているんだよ!」
「コイツだけは逃がさん!!!」
骨折や傷の痛みが理性とともに消し飛んだ刃はサジタリウスの近くにユキアネサを刺しこみ、一瞬で凍らせた。次第に周辺の冷気が強くなり、やがて大橋全体を包み込む。
「永遠の眠りにつけ…」
刃はまだ剣を抜かない。サジタリウスを閉じ込めた氷が徐々に大きくなっていき、周辺の樹海もどんどん凍っていく。時間が経つにつれてとうとうサジタリウスは巨大な氷塊へと変貌していった。完全に凍り付いたサジタリウスを見た後刃は剣を抜いて鞘に収めた。
「
その後氷塊は中のサジタリウスごとバラバラに砕け、消滅した。しかし勇者たちと刃の心は今の大橋同様冷たくなっていた。幽鬼のように勇者たちのもとへ戻る刃はふらついた足で近づき、兄の体にしがみついて慟哭を上げた。
「兄ぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
いかがだったでしょうか?
洛奈が不意打ちされたことでこの小説初のアストラルフィニッシュを刃が決めました。サジタリウスには少しやりすぎたかもしれないけどまあうん・・・済まん。
次回で死の淵にいる洛奈ですが…どうなるのでしょうか?
それではまた