蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

蓮華さんと一緒に新しい巫女が登場するみたいですね。…本ssの番外編に出てくるナオトのギャルゲー主人公っぷりは加速するのか?

さて今回は病院での争いの後。それではどうぞ


Rebel63.進む道はどこだ

「『復讐』のためにしか戦っていない…か」

 

数日すると若葉たちは退院し、それぞれ寮の部屋へ戻ることが出来た。友奈はまだ途中経過で入院が続いているが、もうそろそろ退院しそうとのことだ。

 

しかし若葉はまだ答えを見つけられていない。入院した日から千景やラグナの言葉を思い返す度に今までの自分の在り方について考えてしまう。

 

あの日に多くの人々を殺し、自分たちの世界を奪い去ったバーテックスに報いを与える。それが彼女の戦う原動力だった。

 

殺された人々の怒りと悲しみを敵に返す。その一心で己を塗りつぶし、戦場に立ってきた。

 

(でも私は結局…仲間たちを危険に晒してしまった…)

 

もし復讐まで否定されてしまったら…自分は何のために戦えばいいのだろう。先の見えない暗闇の中に投じられた気分だ。

 

(ラグナが私を戦いから遠ざけるのは…やはり私と戦うのは危険だからなのだろうか…)

 

現在生太刀はひなたが預かっており、若葉も病み上がりという訳で鍛錬もしていない。しかしこのままでは例え身体が治っても同じ状態が続くだろう。

 

(しかし…何故彼は私に壁の方を見ることまで禁じたのだろうか?)

 

入院して以来、若葉はラグナの言いつけ通り瀬戸内海と壁を眺めることを自粛している。そのため、考えることばかりで殆ど何もしないまま時間が過ぎていくように感じた。

 

初めは彼の目的が復讐心を取り除くことだと思っていたが、それならバーテックス関連の授業にも関わらせないだろう。しかし彼はそうしなかった。

 

(…ダメだ。他の二つはまだ理解できるが…いくら考えてもそこだけは何なのかが分からない…)

 

悩みに悩んでも答えを見出せない若葉は隣の部屋にいるひなたの部屋へ向かった。そこでは彼女は何やら荷物をまとめているようだった。

 

「おや? どうしましたか、若葉ちゃん? こんな時間に来るなんて珍しいですね」

「少しな…うん? 何をしているんだ、ひなた?」

「明日、この寮を出るんですよ」

「なんだって!!?」

 

一番心細いときにひなたがいなくなると知って若葉は動揺する。これまでひなたは勇者に付き添う巫女という特殊な立場にあった。色々な考えが反芻する中、ひなたは小さく笑いながら言った。

 

「もう、動揺しすぎですよ。別にずっといなくなるわけじゃありませんし、水都さんも一緒ですから」

「そ、そうなのか?」

 

ひなたが言うに先日、大社は自分を本部の方へ一時的に戻るよう呼び掛けてきたらしい。なんでも重要な御役目があるらしいが、詳しいことまでは聞かされていない。

 

「そうか…取り敢えず帰っては来るのだな…」

「はい。ところで若葉ちゃんはどうしてここへ?」

「そ、それは…その…」

 

若葉がモジモジして恥ずかしそうにするが、ひなたは全てを察してベッドに腰をかける。膝を軽く叩いて若葉を呼び寄せるとそこに彼女は頭を乗せ、ひなたは彼女の耳掃除を始めた。

 

「やっぱりひなたの耳掃除は格別だな…」

「褒めすぎですよ?」

「そんなことはないさ」

「ふふ、ありがとうございます」

 

しばらく二人は他愛無い話を続け、耳掃除が終わるとひなたはそれを口にした。

 

「…若葉ちゃん。ここに来た理由は…病院での千景さんとラグナさんの言葉が原因ですね」

 

小さく頷いた後に若葉の口は開き始めた。

 

「…教えてくれ、ひなた…あの後もたくさん考えたが…私にはどうすれば良いのか……分からないんだ…」

 

小さく嗚咽と涙を零しながら若葉は話し出す。

 

「あの時、千景に指摘されて…みんなの惨状を見て…ラグナの言葉の意味を身をもって知った…あんなことは…繰り返したくない…でも、私はこの生き方しか…分からないんだ…」

「若葉ちゃん…」

 

自分の前でしか見せない弱さを晒け出す若葉の頭をひなたは優しく撫でる。

 

「ひなた…私は…今まで間違っていたのだろうか…これからどうすれば良いのだろうか…」

 

若葉の様子を見てひなたは思い悩む。確かに自分は若葉の問題を解決させる手段を知っている。そしてそれを若葉に伝えればすぐに彼女は行動に移してこの状況を改善させることが出来るだろう。

 

(ですが…それは若葉ちゃんのためにはなりませんね…)

 

これは若葉自身が解決法に気づかなければ意味を成さない。あの人もそのためのヒントを出しているなら、それを簡単に種明かしするべきではない。そう考えたひなたは

 

「…それは若葉ちゃんが自分で解決して乗り越えるしかありません」

 

若葉を優しく、しかし突き放した。予想していなかった回答に動揺した若葉は思わず起き上がってしまった。

 

「そ、それはどういう…」

「今若葉ちゃんが直面している問題は、若葉ちゃん自身で解決しなければなりません」

 

例え自分が道筋を教えても、それは『若葉自身』の『選択(こたえ)』にはならないから。口から言葉が出そうになったが、何とか堪えた。

 

自分の返答を聞いて愕然とする若葉を見て、ひなたはいつもの調子に戻って彼女の涙を拭い取った。

 

「そんな顔をしないでください。泣き顔撮っちゃいますよ?」

「…好きにすれば良いだろう…」

 

若葉が拗ねているとひなたは取り出したスマホで彼女の写真を撮った。

 

「本当に撮った… 」

「しばらく若葉ちゃんとは離れ離れになってしまいますからね。これで若葉ちゃん成分を補充です」

「むぅ…ん? ひなた、生太刀は置いていくのか?」

 

若葉は部屋の隅に安置されている自身の愛刀へ視線を移す。数日は見ていなかったが、綺麗であるところからかなり良く手入れをされていることが分かる。

 

「はい。私が持っていても仕方がありませんし、丸亀城で盗みを働こうとする人間なんてそうはいません。それに若葉ちゃんだって約束を破るような人じゃないのは知っていますから」

「そうか……しかし、刀が手元にないのは本当に久しぶりでな。どうも気持ちが落ち着かない。まるであの日の出来事から眼を離せと言われているような…本当にこのままでいて大丈夫なのだろうか…」

 

若干不安そうにしている若葉を見て、少しだけひなたは嬉しそうにしながら若葉を抱きしめた。

 

「ひなた?」

「若葉ちゃんならきっと自分の力でこの試練を乗り越えられる…自身の答えを見つけられる。私はそう信じています」

 

 

翌日早朝、ひなたが大社からの使いを待っていると窓から何者かが城の広場に入って来るのを見えた。

 

(あれは…ラグナさんでしょうか?)

 

何故彼がこんな時間に外で出歩いていたのかが気になったひなたは荷物をまとめて外に出た。自分に近づいてくる彼女にラグナが気づく。

 

「よう、ヒナタじゃねえか。こんな時間からブラブラしてるなんて珍しいな」

「それはラグナさんもですよ。先ほど城門の方から来たということはどこかへ出かけていたんですか?」

「ああ。ちょっと市役所に頼みごとをしにな」

「市役所ですか?」

 

ラグナが言うに彼は少し前まで市役所の方へ赴いていたらしい。正直彼は交渉が出来る類の人間だとは思っていなかったため、ひなたは素直に驚いた。

 

「それはまた大変でしたね。いつアポを取ったんですか?」

「アポー? なんでリンゴなんざ取ってこなきゃいけねえんだ?」

「………連絡を取らないで行ったんですね…」

 

どうやら彼はアポイントメントを取らないまま、街の役所に突撃してきたらしい。いきなり現れた素性不明の人間の対応に追われた役員たちはさぞ大変だっただろう。ひなたが苦笑いしているとラグナの隣にレイチェルが転移してきた。

 

「全く……貴方の単細胞っぷりには呆れるを通り越して称賛をあげたいくらいだわ」

「うっ……仕方ねえだろ…これで上手く行くと思ってたら行動に移してたんだよ…」

「あの、レイチェルちゃん? ラグナさんは何をお願いしてきたんですか?」

「このどうしようもない突進馬鹿は市役所に乗り込むと役員たちに何か困りごとはないかと聞いてきたのよ。どうもそれを引き受けて勇者たちと一緒にやるつもりだそうよ」

「どうしてそんなことを?」

「……ユーナが入院している間、アイツらがずっと落ち込んでんのは知ってるよな…」

 

二人は言葉を出すことなく頷いた。これまで勇者たちが衝突するときは決まって友奈が場を和ませてくれていた。そしてムードメーカーである彼女を失って以来、教室はどこか暗い雰囲気に包まれていた。

 

元々明るい歌野や球子のおかげでまだそれほど険悪というわけではないが、諍いの当事者である若葉と千景のテンションはガタ落ちである。

 

故にひなたは心配だった。このまま若葉を、そして勇者たちを置いて行っても良いものだろうか。若葉の前ではああ言ったものの、実際は残りたい気持ちの方も強かった。

 

「はい…このまま友奈さんが帰ってきたとしても、今の皆さんを見れば悲しむでしょう…」

「そうね…あの娘のことでしょうから、顔に出すことはないでしょうけど…心の中は穏やかではないでしょうね」

「…そこで、だ。どうせこんな状態で授業をやっても意味はねえ。だったら思い切ってみんなで外で何かすれば良いんじゃねえかと思ったんだ。部活動みたいによ」

「部活動…なるほど。確かに勇者たちには自由時間こそありましたが、そういったことはやる時間はありませんでした」

樹海(あっち)でばっかり連携が良くなってもまた今回のようなことが起こっちまったらダメだろ?こうして戦い以外のことで力を合わせれば例えこっちで気まずくなっても話し合える気がするんだ」

「確かに一理あるわ…」

 

ラグナは語りながら未来にいる勇者部との生活を思い返す。あそこでは皆若葉たちと同じように世界を守る御役目に就いていた。しかし同時に何気ない日常の中で誰かのためになることをやる勇者部の活動そのものが楽しかった。

 

これを西暦にいる彼女たちも体験すれば事態が好転するかもしれない。そう思い至ったラグナはすぐさま市役所に駆け込んだ。

 

もちろんアポも無しで来た男を入れてくれるはずがなく、門前払いを喰らって立ち往生していたが、彼を見かねたレイチェルが話を付けてくれたことで何とか話を聞いてもらうことに成功したのである。

 

「今度は行動する前に頭で考えて欲しいものね。あの時に貴方を見る役員たちの目を覚えているでしょう? 本来ならあそこで私たちが追い返されても文句は言えなかったわ」

「うぐっ……悪かったよ、次は気を付ける…」

「…別に私も貴方の案には賛成なのだったから良いけれど、何故そこで街中のごみ拾いをしなければならないのかしら?」

「そうですよね…彼女たちは世界を守る勇者なのに…」

 

いまいちラグナの意図が掴めないレイチェルとひなただったが、彼はすぐにその説明をした。

 

「確かにアイツらは『世界を守る勇者』だが、そうであると同時にガキ、『人間』だ。それに俺はよ。勇者ってのは別に敵を倒す連中のことだとは思わねえ」

「それでは…ラグナさんの思い描く勇者とはどのような方ですか?」

「別に世界を守るとかそんな大層な奴らじゃねえよ。ただそいつらは…小さなことでも誰かの力になろうと動く連中だ…少なくとも俺の知る勇者ってのはそういう奴らだ」

 

ラグナの答えを聞くと、ひなたはどこか嬉しそうに笑みを浮かべ始めた。

 

「おい、どうしたんだよ?」

「いえ。ただ、ラグナさんがここにいてくれるなら安心だと思っただけです」

「俺が?」

「はい。皆さんのためにここまで行動できる方を信頼できないはずがありません」

「そこまで買いかぶってもらっても困るぞ…まだ何かを出来たわけじゃねえし」

「心配はいりませんよ。今ラグナさんが先ほど提案した部活動はきっと彼女たちにとっても実りの多いものになると思います。もっと自信を持つべきです!」

 

笑いかけながらラグナを励ますひなた。何故かそういわれるとこっちもその気になってきた。

 

「それもそうだな…ありがとよ」

「いえ。私もラグナさんには若葉ちゃんのことで色々助かってもらっていますので」

「やはり…貴女は気づいていたのね、ひなた。あの娘の危うさに」

「はい…しかしこればかりは若葉ちゃん自身で解決しなければ意味がありません。幸いにも少しずつラグナさんの行動の意味に気づき始めていますから後はそれを受け入れて、その上で何を見出すか、です」

「それを聞いて安心したぜ」

 

ラグナが胸を撫で下ろしていると、ひなたは一度真面目な表情になる。

 

「…ラグナさん。一つ聞いてもよろしいですか?」

「俺が答えられる範囲なら構わねえぞ」

「ありがとうございます…」

 

ひなたが一呼吸入れた後に「それ」について聞いてきた。

 

「ラグナさん…貴方は…若葉ちゃんと同じ道を進んだことがありますね?」

「………ああ。ある」

 

それを指摘されて少し困った顔を浮かべながらも最終的にラグナは正直に答えた。ひなたは動揺することなく、寧ろ疑問が解消できて少しすっきりしたようにも見えた。

 

「…やはりそうだったんですね。若葉ちゃんへのアドバイスがどれも現実味のあるものばかりだとは感じていましたが…」

「…そういや、いつ気づいたんだよ?」

「この前の温泉旅行でです。若葉ちゃんもあの時のラグナさんの言葉にかなり影響を受けていたようなので」

「そこからか…」

 

頭を掻きながらそういうラグナに続けてひなたは聞いてきた。

 

「そしてラグナさんは…その復讐心を克服して今ここにいるんですね」

「克服した…とは言えねえな。少なくとも俺は…その原因であるアイツのことを死んだ今でも許せねえ…だがあの時、俺は確かにそれ以上の意味のある答えを見つけることが出来たよ」

「若葉ちゃんもそうなってくれると良いですが…」

「なれるよ、アイツは。寧ろ俺よりもよっぽど早く見つけられる。アイツの周りには仲間がたくさんいるし、聞く耳自体はある。俺とは違ってな」

「ラグナさんとは違って、ですか?それはどういうことでしょう?」

「…俺は答えを見つける前、復讐の道を歩んでた頃は本当にそれしか考えられなかったんだ。絶対にそいつをブッ倒すって決めていたから。だから……そいつが仕切っていた連中を片っ端から潰しまわっていた」

 

ひなたはその話を聞いて何も言うことが出来なかった。つまり彼は自分たちと出会う前に相当大変な人生を歩んでいたということになる。代わりに口を開けたのはレイチェルだった。

 

「…何故そんなことをしたのか、教えても問題ないかしら?」

「…あまり詳しくは話せねえが…そいつには色んなモンを奪われてな。それでだ」

「…そう。悪かったわね、辛いことを思い出させるようで」

「気にすんなよ、俺が自分から答えたわけだし。ウサギが素直に謝ってきたら調子狂うじゃねえか」

「……本当、どうしようもないお人好しね」

「へいへい」

 

いつもの調子に二人が戻ってくると、ラグナも話を続けた。

 

「その道で俺は色んな奴を傷つけてきた。周りにいてくれた奴らにも…心配ばかりかけていた。そんなことをしている内に色んな連中を敵に回した。あの時にアイツらが現れなきゃ、俺は前へ進むことが出来なかったのかもな」

 

事実、ノエルやセリカたちとの出会いはあの世界で大人になってからのラグナにとって大きな転機だった。全ての始まりだったともいえる。

 

「でも…ワカバにはそんな道を行かせるわけにはいかねえ。この前で良く分かったよ。アイツは…復讐に走るには優しすぎる。仲間が傷ついて、動揺して、悲しむような良い奴を絶対あの道に進ませちゃあならねえ」

「ラグナ…貴方…若葉をかつての自分に重ねて見えたのね…」

「…ああ、半分そうだよ。だがそれでもワカバは俺とは違う。アイツはこれまでに多くのモンを守ってきた。そして今回の被害はまだ取り返しがつくんだ。後はアイツが自分を見つめなおせば…きっと答えは見つかる」

「戦う意味を改めて考える、ということですね」

「ああ。案外復讐の中に答えがあったりするからな。あれだって良く口にしてる報いってやつだろ?」

「あれは若葉ちゃんのおばあ様がよく教えていた、乃木家に伝わる戒めです。『何事にも報いを』、と」

「ワカバはそのばあさんのことがかなり好きなんだな」

「はい。憧れだそうです」

 

若葉についての話がひとしきりしてからラグナはひなたに問いかけてきた。

 

「そういやヒナタ。結局お前はどうしてこんな朝早くにいるんだ?」

「私はこれから大社の本部に向かう必要があって、その使いを待っていたところへラグナさんを偶然見つけたんです。水都さんも私と一緒に行く予定ですよ」

「………そうか。気を付けて行けよ」

 

大社の名前を聞いてラグナの顔は若干渋いものに変わった。ひなたと水都の大社行きをどう感じていたのかは明白である。

 

「…友奈さんからも聞いていましたが、ラグナさんは大社のことが本当に嫌いなんですね…」

「……別に嫌いじゃあねえよ。気に食わねえ時があるだけだ」

「人はそれを嫌いというんです」

「…本当に二人は大丈夫なの?」

「もう。レイチェルちゃんまで心配なんですか? 大丈夫ですよ。きっと帰ってきます」

「…ヒナタ。後レイチェル。テメェらだけには今伝えておく。他の連中にも後で伝えておくが、出来れば来るべき時まではあまり大社に言いふらさないでくれ」

「なんでしょう?」

「何かしら?」

 

ひなたたちがキョトンとしていると、ラグナからその真実は伝えられた。

 

「ヒナタ…テメェには多分…俺の右腕を抑え込む力があると思うんだ」

「へ?」

「そういえば市役所に赴いていた時も旅行も二人の時は動いていたわね。私はてっきり神樹で形成された場のせいかと思ったけれど」

「それでは…私が原因でラグナさんは…」

「別にお前のせいって訳じゃねえよ。これは俺の問題だし、以前も似たようなことがあったからそこまで生活に苦労している訳じゃねえ。寧ろテメェが居なかったらここの問題はもっと大変なものになってたぞ。ワカバなんて分かりやすい」

「あ、ありがとうございます」

「それで? その腕は何なのかしら? 見たところ、魔道書のようだけれど」

「ウサギ、テメェ魔道書については知ってるのか?」

「お父様からも聞いているわ。大方その腕が魔道書になっていて、それで今まで戦うことが出来たのでしょう」

「…ああ。でもこいつにはもう一つ正体がある」

「…大体見えてきたわ。ひなた。念のために聞くけれど、貴方が四国へ戻ったときにバーテックスとは遭遇したのかしら?」

 

ひなたはあの時の記憶を必死に思い出した後に答えた。

 

「いえ、殆ど遭遇することはありませんでしたね。稀に遭っても若葉ちゃんが簡単に倒しました」

「…ほぼ確定ね。ラグナ。その魔道書、元は『バーテックス』でしょう?」

「……流石ウサギだな。その通りだ」

 

ラグナはレイチェルの言葉を否定しなかった。まさかの事態にひなたも驚愕するが、その後にラグナは彼女に言いつけた。

 

「俺はまだ大社という組織が信用出来ねえ。だからこいつのことも散々はぐらかしてきた。こんなことがバレたら何をされるか分からねえからな」

「だったら…レイチェルちゃんはまだしも、何故私にそんな大事なことを?」

「…テメェは信頼できるのと、あの組織のことだ。テメェの力に気付いたら何をしでかすか分からねえ…だから万が一、なんかきな臭えことを言われたら…実験を手伝わされたり、ワカバたちとこれからも離されるようなことを言われたら…こいつを暴露してもらっても構わねえ」

「はい!!? ラグナさん、それはどういうことか分かっているんですか!!?」

「…分かってるよ。きっと大社は勇者を仕向けてでも俺を始末しようとするだろうさ。だがな、ぶっちゃけ俺を殺したくらいじゃあこいつは消えねえんだよ」

「魔道書としてそれが確立している以上、消滅させるのは至難の業よ。それこそ秩序の力を使ったとしても抑制が良いところね」

「もしかしたら…ヒナタにはあるのかもな」

 

かつて暗黒対戦前に知り合った少女のことを思い出しながらそう呟くラグナである。色々なことにひなたはまだ事態に追いつけないでいた。

 

「何故…そんなものを持つようになったんですか?」

「…俺はバーテックスに襲われた時に腕を失ったんだよ。その時に神社へ転がり込んだらそこで死にかけのバーテックスと融合したんだ」

 

我ながら酷い作り話だが、まさか未来にあった事実をそのまま伝えるわけにはいかないので少しあの世界での魔道書との出会いを混ぜながら話した。

 

「話は分かりました…ですがそれで何故それが私にとって有益になるのでしょうか?」

「蒼の魔道書が消えない以上、誰かがこいつをみる必要がある。当然普通の奴はダメだ。こいつはバーテックスにすら効果があるから。でも…テメェは殆どリスクを冒すことなくこいつの傍にいられる。そんな人間は四国中を探しても今はテメェだけなんだ」

 

そこまで聞いてひなたはラグナの言葉を理解することが出来た。真剣な顔の彼を見ながら彼女は微笑んだ。

 

「…ラグナさん。心配してくれて本当にありがとうございます」

「ん? 何言ってんだ? 俺はまだ話を終わらせてねえぞ?」

「貴方は大社に対して並々ならない不信感を持っていることは良く分かりましたし、それに皆さんのことをとても大事に思ってくれていることも良く分かりました。つまり、私に手を出したら自分は大社と敵対すると言いたいのでしょう?」

 

それを指摘されてラグナは何も言い返さずに頷いた。

 

「大丈夫ですよ。それこそ水都さんも来ますし、あそこには親しい方もいるんです。ですが、やはりこちらでの心配事があっては私もあちらでの御役目を果たすのに時間が掛かってしまうかもしれません。ですので私のお願いを聞いてくれますか?」

「お願い?」

「はい。私は若葉ちゃんのことはもちろんですが…それに負けないほどここにいる皆さんの笑顔が好きなんです。ですから…私が帰ってくるまで私の大切な物を守って欲しいんです。お願いできますか?」

 

ひなたの頼みに対してラグナは不敵な笑顔を浮かべた。

 

「ああ。任せとけ。お前が帰ってくるまで、ここは俺が守る」

「ありがとうございます。これで思い残すことなく大社へ行けますね。すぐに帰ってきますから待っていて下さい」

「おう」

 

ひなたは次にレイチェルの方へ向いた。

 

「レイチェルちゃん。ラグナさんたちをお願いしますね。先ほどで分かったのですが、彼も若葉ちゃんと同じく一人で無理をしてしまうようですから」

「任せなさい。この男の手綱はしっかり持つつもりよ」

「俺は馬かよ!!?」

「あら、自覚はあったのね。ついでに鹿でもあるわ」

「違えよ!!」

 

そんなやり取りをやっている内に農作業で早めに起きていた歌野と水都も彼女たちと合流し、大社の使者もやってきた。

 

ハンカチを振りながら子供を見送る親かと聞きたいほどオイオイ泣く歌野と一緒に去っていく二人をラグナたちは見送った。




九重の部屋(ひなた回)がやりてぇ…でも今回は9000文字なのでやめた。

次回は若葉が街を見回る回です。それではまた
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