蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

先日アンリミテッド帝様と戦いました。ボロ負けしました。どうなってんだあれ!!なんかよく分からないままボコボコにされちまったぞ!?

今回は宣言したあの行事でのカオス回。まとめきれずに今回は脅威の1万3千字越えになっちまった…当然のようにキャラ崩壊大量発生ですが、それでも気にしない方はどうぞ。


Rebel65.混沌、忘れてませんか?

かつてないほどの大侵攻。巫女たちが受けた神託によるとそれは今月の終わり頃に起こるという。今までよりも厳しい戦いが待っていることは間違いないだろう。

 

それでも彼女たちの瞳に絶望が映る様子はない。ここ最近では若葉も本調子を取り戻していき、友奈も帰ってきた。何より彼女たちが持ってきた情報は何も凶報だけではなかった。

 

「何? それは本当か、ひなた?」

「はい。四国の外にまだ生き残りの反応が確認されたそうです」

「マジか…つーことは俺が行ってない場所のことだよな…」

「ラグナがまだ旅していないところね…最後は諏訪にいたけど、それより先にある関東の県とか行ったのかしら?」

「ああ。東京っつーところまでは行ったぜ。山に囲まれた諏訪に比べたら、行きやすかったからな」

「東京か~、それはまた遠いね。じゃあ諏訪に着いたのは?」

「東京の連中を連れ帰って旅出た後だ」

「そうだったんですね…それでひなたさん。その生存反応とはどこから出ていたんですか?」

 

杏の疑問に水都が答えた。

 

「はい。大社にいた巫女の安芸さんによると、反応は『北海道』と『沖縄』にあるとのことです」

 

安芸と聞いてラグナは一瞬幼い頃から知っている眼鏡の女性を思い浮かぶ。どうやらこの頃から彼女の家は存在していたようだ。懐かしい名前を聞いて感傷に浸っていると、球子があることに気付いた。

 

「あれ?そういやラグナ。お前急にまた腕が動かなくなったみたいだけど、どうしたんだ?」

「た、球子さん…」

「確かにそうだな。今まで動かなかったのにひなたと水都がいなくなった後は右腕が動いていたな。何か関係があるのか?」

 

割と鋭い指摘をしてきた若葉がその話題を上げたときにひなたは慌ててしまったが、ラグナはそれを制止した。

 

「……皆が集まったからな。いい加減説明しなきゃならねえ」

「……良いんですか?」

「構わねえよ。寧ろ今言わなきゃならねえ」

 

そう決意したラグナは蒼の魔道書について説明した。当然バーテックスの身体で出来た腕のことを知った勇者たちはかなり動揺した。

 

「そ、その腕が…バーテックスだってのか!?」

「……ああ」

「確かに最初に会った時もその腕が危険に感じたけど…そういうことだったなんて…」

「まさか…それをずっと黙り込むつもりだったの?」

「そいつは無理だ。どのみちヒナタが俺と離れればバレるからな。中々言いだすタイミングがなかったってのはあったけどよ…」

「ひなたが離れれば?どういうことだ?」

 

若葉が自身の幼馴染がバーテックスの腕とどのような関係があるのかが分からなかった。ひなたの巫女適性が高いのは若葉も知っていたが、それでも彼女はバーテックスとは殆ど接触していない。

 

それに巫女が関係していると言われたら水都も関係しているはずなのだが、ラグナの話を聞いている限り関係はないようだ。

 

「ラグナさん。もしかしてひなたさんがいると腕が…」

「…そうだ。どうやらヒナタにはこいつを抑え込むことの出来る力があるみてえなんだよ。確信がついたのはつい最近だけどな」

「それを聞いている限り、巫女ってだけでは駄目そうね…それだったらみーちゃんと一緒にいた頃から動かなかっただろうし…」

「ウタノの言う通りだ。ヒナタの場合は恐らく単に巫女関係ってだけじゃねえ。多分だが…『秩序の力』も絡んでやがる」

「秩序の力?」

 

杏がその言葉に興味を示していると、レイチェルが解説した。

 

「世界を安定させる力。均衡を乱す存在に対する抗体。均衡を乱す存在とは今ならばバーテックスのことを指すでしょう。そこにいる男も例外ではないわ」

「そんなものがあったんですね…このことは大社も?」

「いいえ。知らないと思いますよ。ラグナさんも私も教えていませんから」

「ひなたも教えてないのか?」

「ええ。ラグナさんも話して欲しそうにはしていませんでしたから」

「確かに話したら大社側も大騒ぎですね。ラグナさんもただでは済まないかも…」

「…人体実験」

「そ、そんな恐ろしいことを言うなよ、千景~!」

 

自分たちが所属している組織に対してあまりそういった疑いを持ちたくない勇者たちである。確かに神樹や勇者の力などについて様々な研究を行っているが、そこまで過激なことをしていないことを祈るばかりである。

 

各々の形でラグナの語ったことに対する思いを持つ中、友奈が彼にその真意を聞いてきた。

 

「ねえラグナ。どうしてこれを話したかったの? 腕がバーテックスだったなんてラグナからすればすごく話し辛いことだったはずなのに」

 

この世界で生きてきて、ラグナが感じたことの一つはバーテックスの認識の差だった。神世紀では確かに大赦など一部の人間には知られているが、大多数の人間は知らないのである。

 

また、彼の時代でのバーテックスとは壁の向こうからやってくる巨大な怪物で街の人々を直接殺したケースが殆ど無い。結果として神世紀ではバーテックスの被害というものはあまり知れ渡っているものではなかったのだ。

 

しかしこれに対して西暦では彼らは多くの人々を殺し、生き残った者にも大きな傷を負わせた。この時代の人間からすれば彼らは空から突然来襲し、全てを奪い去る悪魔なのだ。

 

そのため、この時代の勇者たちのバーテックスに対する認識は神世紀の皆のものよりも重いのだろう。だからいきなり明かすことをラグナは躊躇った。

 

「…この前使っちまった以上、そろそろ言わねえとダメだと思ってな。これからも使うと思うし、その時にお前らも説明無しっていうわけにもいかねえ…」

「同じバーテックスだから、敵を倒すことが出来る…ということね」

「でもそれってラグナは大丈夫なの? 身体に悪影響とかは…」

「…あるとは思うが、こいつを取ることを選択したのは俺自身だ。奴らと戦うのを決めたときからな」

「そっか……でもあんまり無理しちゃダメだよ」

「ああ」

「乃木さんはどうなの?」

 

千景に話を振られた若葉は一度考え込んだ。

 

「…確かに驚きはしたし、その腕が危険であることは間違いない」

「若葉ちゃん…」

「だがこれまでラグナは多くの人々を助けてきた。当然その中には私たちも含まれている。だから私は…彼を信じる」

 

若葉の言葉に他の勇者たちも頷く。自分たちからすれば目の前の男はバーテックスの腕を持つ敵ではなく、ともに戦ってきた仲間だ。

 

「お前ら…ありがとうな」

「気にするな。私たちだってお前のこれまでの行動を観測()ているつもりだから」

「それをこの前まで敵陣に突進していく貴女が言うとなんだかおかしく感じるわ…」

「うっ…そのことに関しては申し訳ない…」

 

バツの悪い顔をしている若葉だったが、先ほどの彼女の台詞を聞いてひなたは安心した。これまで若葉が持っていた以前のような危うさがかなり落ち着いている。

 

これならもう大丈夫だろう。話し合いの結果、ラグナの腕の詳細に関しては大社に報告しないことを決めたのであった。

 

 

そうして何日かが過ぎ、若葉が他の勇者たちと様々な形で交流を深めている内に遂に2月の中旬になった。今日友奈と千景は外に出かけていたが、気のせいか街の方がとても活気づいていた。

 

「今日は本当に人が多いね。何かイベントでもあるのかな?」

「高嶋さん。それは三日後の日付と関係しているからではないかしら?」

「三日後か~。確か…2月14日だったよね…あ、そうか!バレンタイン!もうそんな時期だったね! それにしてもこんなに人が集まるなんて。そろそろ私たちも買わないとね!!」

「そうね。私もそろそろ準備をしないと」

 

千景は多くの若い女性客を見ながらそう言った。今日は特に用事があったわけではないが、この集団を見てチョコの材料を早めに買うことを決めた。

 

「そういえば今年からはあの人もいるけど、高嶋さんはどんなチョコを渡す予定なの?」

「もちろん私も皆のために用意する予定だよ? ぐんちゃんも楽しみにしてね!!」

「あ、ありがとう。私も高嶋さんにふさわしいチョコを用意するわ…ん? あれって…」

 

千景の視線の先にあったのは小さな少女だった。人混みの中にいた彼女は見覚えのある黒いゴスロリに美しい金髪を普段はしないポニーテールに束ねていて、今丁度市販のチョコを買っていた。

 

「ふーん…あんなに小さな娘でもチョコを買うのね。近頃の小学生は進んでいるわ」

「そうだね~」

「高嶋さん? どうしたの、そんなにニヤケて。あの娘とは知り合いなの?」

「うん、ちょっとだけね。それよりぐんちゃん、あっちの方でチョコを買いに行こうよ」

「え? わ、分かったわ」

 

友奈の笑顔の理由が分からないまま、二人はチョコを買うとそのまま丸亀城に戻って行った。少女たちが着実に準備していく中、その日はやってきた。その日の朝、ラグナが教室に入るとそこにはレイチェルがいた。

 

「よう、ウサギ。今日は一段と早起きだな」

「あら。今日は貴方にとって大事な日なのに大した余裕ね、ラグナ」

「……今日って何かあったのか?」

 

そう聞いてきたラグナは何かを誤魔化そうとしているようだった。これは面白いものを見つけたとレイチェルの眼が輝く。

 

「へえ~…ラグナ、貴方。さてはバレンタインチョコを貰ったことがないのね?」

「貰ったことぐらいあるわ!!」

「ふーん。誰から?」

「誰だぁ? …まあガキの頃に母さんと妹、後古い付き合いの奴からも一つ」

「あら。意外と貰ってたわね」

「うるせえよ。そもそも俺の女の知り合いがどうだなんてどうでもいいだろうが」

 

ラグナにとって親しくなった女性の知り合いとは戦うようになった後の知り合いばかりである。無論それ以前にも彼にあげた者たちはいる。沙耶や芹佳、そして一番古い付き合いである園子である。

 

芹佳は普通に美味しい手作りのものを作ってくれるし、園子も友達として市販のものを買っている。ここまではまともだが、問題は妹の沙耶のチョコだ。

 

これも愛情をたっぷり注ぎ込んだ手作りだが、悲しいことにそれはバーテックスを殺し得る破壊力を持っている。それを小学生のラグナは毎年食べていて、当然その度に死にかける。

 

それでも可愛い妹のチョコなので文句を言うことなくラグナは食べていた。これが他人だったら絶対贈り主に叩き返しているだろう。

 

なら同級生の間で貰うことはなかったのか。これも残念ながら彼がそこまで突出してモテるタイプではなかったため起こらなかった。それを言うなら刃の方がよっぽど貰っている。

 

讃州中学に入る前も一応学校には通っていたが、当時は蒼の魔道書関係で気の許さない人間とはあまり接しようとはしなかったし、他の者たちも彼を警戒していたのでチョコなど贈られるわけがなかった。

 

当然ここに来てからの三年間以上はずっと旅をしていたため、バレンタインとは縁などない。

 

「そう…貴方は長い間、辛い思いをしてきたのね…」

「いや。何で俺が悲しいバレンタインを過ごしてきたみてえな体で話してんだよ」

「まあ、安心なさい。今日は特別に私が直々に施しを与えてあげるわ。丁重に受け取りなさい」

「…それを聞いて全く安心出来ねえんだけど」

「あら失礼ね。私だって偶には贈り物くらい贈るわ」

 

そう言いながら彼女は手頃な箱を取り出した。見た目も至って普通のものだった。

 

「…意外と可愛らしいのを買ってきたんだな」

「何を言っているの? ヴァルケンハインに作らせてもらったに決まってるじゃない」

「何で爺さんに作らせんだよ…」

「私のお手製が欲しかったのかしら?」

「いらねえよ。テメェが作ったモンなんざ危なっかしくて食えるか」

「あら失礼ね。貴方の原始人のような料理と同じにしてもらっては困るわ」

「…まあいいや。取り敢えず礼は言うぜ。ありがとよ…お、ちっと甘ぇがこいつは美味えな」

 

なんだかんだ言いつつもラグナはレイチェルのチョコを食べた。上げてはいなかったが、一応未来の彼女からも市販のブラックチョコを貰っていて互いとも義理で済ませている。

 

ただ日頃から玩具のように扱われているものだから彼も彼女からの贈り物と聞くと警戒してしまうのだ。だから今回の贈り物がまともな物だったことに安心していた。

 

しかしその割と普通っぽい貰い物に喜んでいた分、すっかり油断したからなんだろう。丁度チョコを食べ終えたラグナの眉間に向かってレイチェルは素早く何かを叩きつけてきた。反応が遅れたラグナにそれが付いてしまった。

 

「ぐあっ!!? なんだこれは!?」

「フフフ…とても良く似合っているわ。ラグナ」

 

ラグナの眉間に付いていたのはハート型のレンズをした眼鏡だった。両端のテンプルもしっかりこめかみに食い込んでいるため、外すことも出来ない。

 

「ふざけんな! こいつをとっとと外しやがれ!!」

「まあ良いじゃない。そのモテメガネのフィット具合も中々のものでしょう?」

「も…モテメガネだと!!?」

 

その名前を聞いてラグナは神世紀での旅館の出来事を思い出した。あの時は勇者たちもかなりぶっ飛んだ行動を展開していたが、恐らく今回もそうなるだろう。現にその力を知るレイチェルの笑顔が物凄く怖くなってきている。

 

「ちょっと待てよ!! これまさかあの行く先の女皆がおかしくなるやべえ眼鏡か!!?」

「おかしくなるだなんて大袈裟ね。それは家の倉庫に置いてあった…」

 

レイチェルが眼鏡について説明しようとしたが、ラグナの顔を見た時に言葉が続かなくなってしまった。ラグナも彼女の変化に気付いたようで、彼女に近づいた。

 

「おいウサギ、どうした? 急に黙り込んでよ」

「な、なんでもなくてよ。何故私が貴方のようなウジ虫相手に黙り込む必要があるのかしら?」

「いや、今そうなってたじゃねえか。それになんか口がさっきより悪くなっている気がするんだが」

「とにかく! その眼鏡はかけると文字通り異性が貴方にゾッコンラブ、モテモテになる眼鏡よ。今日はせっかくのバレンタインだもの。普段は女性運の乏しい貴方にとってまたとない贈り物でしょう?」

 

若干レイチェルが息切れを起こしたが、すぐに落ち着きを取り戻していった。だがラグナはその口から出た情報のせいでそれどころではなかった。

 

「冗談じゃねえ!! テメェ、こいつの過激性を理解してねえだろ!!?」

「貴方がそこまで狼狽えるなんて珍しいわね。これは面白いことになりそうだわ」

「クソッ、むかつく笑顔をしやがって!! 取り敢えずコイツを早く何とかしねえと!!」

 

そんなことを言っている内に教室の扉が吹き飛ばされてしまった。何事かとラグナは振り返ると、彼の元へ何人かの少女たちが駆け寄ってきた。

 

「ラグナはここか!!?」

「ラグナさん、いますか!!?」

「見つけたわ、ラグナ!!!」

「ラグナさん、お話があります!!!」

 

必死の形相でやってきたのは球子、杏、歌野、水都の四人だった。突然のことに驚いているラグナへまず球子が突撃した。

 

「ラグナ!! これ、タマの気持ちだ!! 受け取ってくれい!!」

「待てテメェら!! 一旦落ち着け…うん? タマコ、こいつは…」

 

球子が渡してきたのはクッションのようなものだった。何故か妙な二つの突起が付いていた。

 

「なんで顔がついてんだこれ?」

「これはな、タマを形どった饅頭クッションだ!!」

「はあっ!!? 何作ってんだテメェ!! つーかよく作れたな!!」

「大社に頼み込んだらやってくれた!!」

「何やってんだ、大社の連中!!?」

 

そんなところで経費を使うなとか、一瞬でよくこれを作れたなとか色々なことを考えていたが、すぐに球子を押しのけて杏が入ってきた。

 

「ラグナさん! タマっちは良いからこっちの方を先に受け取って下さい!!」

「あー!! 酷いぞあんずぅ!! しかも先輩付けてないし!!」

「アンズ!? 今度は…細長い布切れか?」

 

その布の横にはチャックが付いており、裏表には杏の絵が描かれている。表には勇者の衣装、裏は制服をはだけた彼女があった。

 

「ちょっと待て!! これなんだ!!?」

「私の抱き枕カバーです!! 表は着衣バージョンで、裏はその…アレです!!」

「自分で言って恥ずかしいモンを贈んじゃねえよ!!」

「あり? でもあんず、これ中身はどうするんだ? ラグナは抱き枕なんて持ってないぞ?」

「あ、忘れてた…仕方がありませんね。こうなったら使用時は私が中に入って」

「テメェ馬鹿かぁ!!!? 何をどうすればその考えに辿りつくんだ!!?」

 

これはマズイ。普段はひなたの次に落ち着いている杏ですらこのザマである以上、後の者たちが怖い。

 

「退いてくれ、あんず!! ラグナはタマのものだ!!」

「嫌だよ!! 私だってラグナさんのことを愛しているんだから!!」

「おーい、テメェら〜? まず話し合おうぜ?」

『無理!!!』

「さいですか…」

 

どうしたものかと考えていると今度は歌野が彼の腕を引っ張っていった。

 

「ラグナ…いや、ダーリン!! ちょっと連れていきたい場所があるんだけど、良いかしら!?」

「行かねえって、もうそろそろ授業だし…」

「え〜? ダーリンったら朝の授業はスリープしてしまうから良いじゃない? それに絶対喜ぶものだから!!」

 

確かに歌野の言う通り、朝に座学があると基本的にラグナは爆睡してしまっている。だが同時に気になることがあった。

 

「…なあ。出来れば幻聴であって欲しかったから突っ込まなかったけど…そのダーリンってのは?」

「あら、知らないの? 英語ではね、ラブしている人のことをダーリンと呼ぶのよ?」

「…誰が…ダーリン?」

「貴方よ!!」

「マジかよ…」

 

ズバっと言い切られてしまい、これは参ったとラグナも天を仰ぐ。この様子では歌野もおかしな品物を用意しているに違いない。

 

「はあ…念のために聞くが何を贈るつもりなんだ?」

「無論、畑よ!!」

「…ああ、なるほど。畑の作物か。それならまだ分かるな。ありがとよ」

「いいえ!! 私が言ったのはファーム!! 土地の方の畑よ!!」

「予想以上にヤベー代物だった!!?」

 

中学生では凡そ不可能な買い物をやっている彼女にラグナは戦慄していた。だが彼の悪夢は終わらない。歌野に連れていかれそうになった彼を後ろから誰かが引き止めた。

 

「うたのん…ラグナさんは渡さないよ…」

「みーちゃん!? まさかみーちゃんも!?」

「うん…私だってラグナさんのことが好きなんだ…」

「テメェもやられたのか、ミト!!?」

 

後ろから自分を引き寄せる水都からは黒いオーラのようなものが出ていて、近くでそれを見たラグナの背筋に悪寒が走った。

 

「ねえ、ラグナさぁん。私、うたのんや他の皆みたいなすごいプレゼントはあげられないけど、代わりに何でもしてあげるよ…?」

「いや、そんなことしなくて良いから!! つーか笑顔が怖い!! サヤと同じ感じに怖い!!」

「え…や、やめてくださいよラグナさん! 私の笑顔を見てドキドキするなんて…」

「そんなこと言ってねえ!! そして照れるんじゃねえ!!」

「もう…そんなに照れなくても良いのに…」

「だから俺じゃねえって!! チクショウ! こいつら全然こっちの話を聞いてくれねえぞ!!」

「ちょっとみーちゃん!! ラグナは私と一緒にキャベツ畑へハネムーンに出かけるのよ!!」

 

言い争う歌野と水都はラグナを自分の方へと引き寄せようとしている。そこへ更に球子と杏が加わり、ラグナは八つ裂きにされそうになっていた。

 

「いでででで!!! 捥げる捥げる!! 色んなとこ捥げる!!」

「離せお前ら!!」

「タマっちこそ離して!!」

「離しなさいよ!!」

「離してよ、皆!!」

「あらあら…これは大変なことになったわね」

 

色んな方向から揉みくちゃにされているラグナを見て、レイチェルは愉悦に満ちた笑顔で鑑賞していた。いつもの暗黒微笑も数段光っていて心底楽しそうだ。

 

「テメェ、ウサギ!! 高みの見物をしながら笑ってねえでこいつらを止めろ!!」

「仕方がないわね…ねえ貴女たち。そんなにラグナのことが好きなの?」

『好きだ(です)!!!』

「そう…それは困ったわね…」

「な、なんでだ?」

 

球子の疑問にレイチェルが悪い笑みを浮かべながらそれを言い放った。

 

「だってラグナは私にゾッコンですもの」

『はあああああ!!!?』

 

これには勇者たちだけでなく、ラグナも驚愕のあまりにおかしな声を上げてしまった。動揺する他の者たちを余所にレイチェルはラグナの手元を指さした。

 

「ほら、そこにある私のチョコを真っ先に食べているでしょう?それが何よりの証拠よ」

「テメェ、ウサギぃ!! これを見越してアレを渡しやがったなぁ!!」

「さあ、どうかしらね? それよりラグナ。ここで言って差し上げなさい。貴方は私の忠実なる僕であると」

「言うわけねえだろ!! 後でぶっとばしてやるから覚悟しやがれ!!」

「ちょっとラグナさん!! 今のはどういうことですか!!? 説明してください!!」

「まさか私たちに黙って愛人を作ってたなんて…お仕置きが必要でしょうか…」

「ちょっ、やめ」

 

ラグナは抵抗しようとするが、更なる勢力が押し寄せてきた。そこにいたのは千景、若葉、ひなたの三人だった。

 

「あらあら、ラグナさん。なんだか大変なことに巻き込まれていますね」

「ヒナタか!! よし!! 秩序の力を持っている可能性のあるヒナタならこいつの影響も受けねえはず!!」

「何がよしなのかは良く分かりませんが、お困りのようですね…皆さん。そろそろラグナさんを離してあげてくださいな」

 

そう言ってひなたはラグナを四人から引き離した。疲労困憊の彼はひなたに礼を述べた。

 

「マジで助かったぜ、ヒナタ…本当にどうなるかと思ったよ…」

「良いんですよ、ラグナさんには毎回皆さんのことで助けられていますから。あ、これバレンタインの品物です。どうぞ」

「お、おう。ありがとな…取り敢えず普通っぽいな」

 

漸く普通のチョコを貰ったみたいで一安心するラグナだったが、そこへ若葉がすかさず手刀で叩き落とした。

 

「あらあら若葉ちゃん。もしかして嫉妬ですか?」

「おい!? いきなりどうしたんだ、ワカバ!?」

「…ひなた。例え他の者たちを騙せても私の眼は誤魔化せないぞ。そのチョコ、お前が昨日用意していた物とは違うじゃないか!!」

 

若葉の指摘を受けても尚、ひなたは微笑んでいた。だがその笑みからは得体の知れない恐怖を感じた。

 

「…フフフ、流石は私の育てた若葉ちゃんですね♪ ええ、そうです。このチョコには少量で大人の男性を撃沈させる睡眠薬が含まれています。ラグナさんも例外ではありません」

「な、なん…だと…!!? 一体何のために!!?」

「それはもちろん…眠った後に膝枕して、起きたときに耳掃除。そこから食事を作ったりして朝から晩までお世話をしてあげたいと思いまして…はああ、想像しただけでも胸が熱くなりますねぇ♪」

 

どうやらモテメガネの前では秩序の力も無力らしい。そもそも刃にもあったのに影響を受けていたからそれを考慮すべきだった。

 

「ヤベーよ、この娘!! 下手したらウサギよりおっかねえぞ!!! このままじゃあ俺はダメ人間になっちまう!!」

「ひ、卑怯だぞひなた!!」

「若葉ちゃん。愛とは時に強引な手段を使ってでも勝ち取らなければならない時も、あるんですよ?」

「そうか…なら私は私のやり方でやらせてもらう」

 

余裕の笑みを浮かべるひなたに対して、若葉は顔を少し赤くしながらラグナに面と向かって一度せき込んで声を整えた。

 

「…ラグナ」

「な、なんだよ」

「あまり女性らしくない私だが、私とて女の端くれ!! 愛する男に想いを伝えるなら小細工など不要!! 私はお前が好きだ!! 一生私の傍にいてもらう!!!」

「…真っすぐこっちを見ながらチョコを突き付けている分、断り辛えけど済まん。それは出来ねえ」

「全くお前は奥ゆかしいな。遠慮することはないんだぞ?」

「ダメだ…やっぱりワカバの方も狂ってやがる!」

「フフフ…どうやらラグナさんを勝ち取るには若葉ちゃんとぶつかり合うしかなさそうですね?」

「ふっ…もちろん受けて立つとも。来るが良い、ひなた。耳かきなど捨ててかかってこい」

「それは敗北者の口上よ。若葉」

 

レイチェルが横から茶々を入れてくるが、二人には聞こえていないようだった。前門の(若葉)に後門の(ひなた)。二人の間に挟まれているラグナは困り果てていた。

 

「どうすりゃ良いんだ…もう収集が付かねえぞ…」

「だったら私のチョコを受け取ってもらえないかしら?」

「ん、チカg」

 

彼に横から声を掛けてきたの千景だった。素早くラグナを掻っ攫い、急いで他の者たちから離すと彼を壁際に押し付けた。

 

「いきなりなんだ!!?」

「さっきの様子を見ていたら貴方は逃げ出すだろうから…確実に受け取ってもらうためにこうして拘束してもらったわ」

「拘束ってなんだよ!!? そこまでやる必要ねえだろ!?」

「さあ……受け取りなさい」

 

そう言いながら千景が渡したチョコは全体的に紅かった。木苺のソースが満遍なくかかっているからかなり気合を入れて作ったことが良く分かるが、色合いと見た目のせいで別の物に見えてしまった。

 

「おい…これ本当に食って大丈夫なのか?」

「当然でしょ…それは心臓をモチーフに作られた『ブラッディ・ハート・チョコ』だもの。愛情はたっぷり…注ぎ込んでいるわ…」

「こっちもこっちでとんでもねえモンぶち込んできたぞぉ!!?」

「あら。良く出来てるじゃない」

「呑気に感想を垂らしてんじゃねえよ、ウサギ!! クソッ、こうなったら脱出「逃がさない」うおっ!?」

 

何とか逃亡を計ろうとするラグナだが、妖艶な笑顔をしながらこちらの首筋に手をやる千景からは逃げられない。慌てふためく彼を見て、彼女は悪戯っぽく笑う。

 

「そんなに興奮しなくても良いでしょう?それは出来る限り貴方に合わせて作ったわ…ブラッドエッジ(あなた)ならこの鮮血のような紅色をきっと気に入ると思うの…」

「どうしてその洒落になんねえモンスターを気に入ると思ったんだ!!? 嫌に決まってんだろ!!?」

「そう…なら私の心臓と思っても構わないわ」

「そういう問題じゃねえ!! ンなモン、食えるわけねえだろうが!! この馬鹿が!!! …あっ」

「ひ、酷いわ…そこまで言わなくても」

「あ…その、なんだ。わ、悪かt」

「フフフ…冗談よ。そんなに慌てるなんて、意外と可愛らしいわね」

「本当に何があったんだ、テメェ!!?」

 

普段よりもかなりきつい言葉を使ってしまったはずなのに全く通用している様子を見せない千景。モテメガネのおかげでどうやらメンタルが色んな意味で強靭になったようだ。その騒ぎを聞いて他の者たちも集まってきた。

 

「千景!! 何ラグナを一人占めにしてるんだ!!」

「ラグナさんから離れてください!!」

「ラグナは私の物よ!!」

「しかしこのまま口で喧嘩しても解決の糸口は一向に見つかりませんね」

「だったら…もうここで決めるしかありません……誰がラグナさんに相応しいのか…」

「力で決めるというわけか…面白い!! その勝負、乗った!!」

「良いわね…その方が白黒ついて分かりやすい!!」

 

そのまま少女たちは全員取っ組み合いをし始めた。そこに巫女も勇者も関係なく、ドッタンバッタンの大騒ぎである。何とか脱出したラグナはレイチェルの元へ転がり込んだ。

 

「決戦の前に死ぬかと思った…」

「フフフ…知らなかったわ。貴方って玩具にするとこんなに楽しいのね」

「ウサギ…テメェ覚えてろよ…それよりこいつを解除するには本当に怒らせる以外ねえのか…」

「私は聞いたことがないわね」

「じゃあ何でアイツら怒らねえんだよ…さっきのチカゲなんて俺、怒られるどころか普段のアイツだったら鎌を取り出すような台詞を言ったんだぞ…」

「貴方は本当に乙女心を理解してないわね。恋する乙女とはその男が好きである限り無敵なの。例えどんなにひどい言葉を浴びせられてもそれをラブ変換してしまうのよ」

「どういうことだよ、それ…」

「例えば先ほどの千景に言った『そんなもの食べられるか、この馬鹿』は『可愛いお前の心臓を傷つけるなんて出来るわけないだろ、ハニー』に変換されるわ」

「うあ~…女怖え~…通りでテメェには口喧嘩で勝てねえわけだ…俺の言うこと全部軽くあしらうし」

「そうね……うん?」

 

女性の恐ろしさを改めて思い知らされたラグナの台詞を聞いて、レイチェルが考え込んだ。そんな中で再び誰かが教室へ入ってきた。最後の勇者(ラスボス)、高嶋友奈である。

 

「皆おはよ~。今日は皆にプレゼ…あれ!?どうしたの、皆!!?」

「ゆ、ユーナ!!?」

 

入ってみれば教室がバトルロワイヤルの会場と化していることに驚愕する友奈。他の者たちは気づいていないようだが、彼女に気付いたラグナはすぐに離れようとする。

 

「えっと…ら、ラグナ…だよね?」

「止せユーナ!! 今は近寄るんじゃねえ!! 変になっちまうぞ!!」

「ちょ、ちょっと待って! どうしたのいきなり? 何か怖いことでもあったの?」

『ん?』

 

友奈の見せる反応が今までの勇者たちとは異なることにラグナたちが気づいた。異常行動もなく、変な贈り物もない。いつもの高嶋友奈だ。

 

「おいユーナ。お前、なんともねえのか?」

「なんともって…あ、ラグナ! 『その眼鏡、似合ってるよ』! いつもよりカッコよくなってたからびっくりしたよ~」

「友奈…貴女、この眼鏡を認識することが出来ているの?」

「え? 眼鏡ってこのハート型のレンズの付いた眼鏡だよね? 何かおかしいのかな?」

「おいウサギ…どういうことだ?今までにないパターンだぞ?」

 

これまで多くの勇者たちをおかしくさせてきたモテメガネの魔力は友奈に対して効果がなかった。

 

「なるほど…どうやら友奈はモテメガネの魔力に負け劣らないほど貴方のことが好きみたいね」

「そう……なのか?」

「私はラグナのこと、大好きだよ?」

「お、おう。そんなことを家族以外に言われたことねえからなんかむず痒いな…」

「あはは。でももちろん私はぐんちゃんも大好きだし、若葉ちゃんもヒナちゃんもアンちゃんもタマちゃん、それに歌野ちゃんも水都ちゃんもレイチェルちゃんもみーんな大好きだよ!」

「これはまた…大した娘ね」

「なんつーかユーナらしいな…ん?」

 

合点がいったところでラグナが後ろへ振り返ると、嫉妬で紅蓮の炎を上げる少女たちがそこにいた。それまでとは違って凄まじい怒りを感じ取れる。

 

「うふふふ…ラグナさん、先ほどから随分と楽しそうですね…」

「全くもって浮気性な男だな…私がその曲がった根性を叩き直してやろう…」

「まさか貴方をこの鎌で刈り取る日が来るなんて思わなかったわ…」

「お、おいウサギ!? 女は好きな奴に何を言われても平気じゃなかったのか!?」

「もう。違うよラグナ。女の子だって好きな人には怒る時だってあるんだよ?」

「特にその相手の気持ちが自分ではない誰かに向かっていると分かった時はね」

「嘘だろぉ!!!?」

「ラグナを成敗するんだぁ!!!」

『おおーーー!!』

「うわぁぁぁぁぁ!!!?」

 

いつの間にか勇者の衣装に着替えたりした少女たちは一気に飛び掛かってきた。辛くもラグナは逃げることが出来たが、それでも追跡は終わらない。そのまま午前中の授業は出来なくなってしまった。

 

他の者たちがいなくなった教室で取り残された二人はラグナの逃亡を見届ける。

 

「それにしても恐ろしい力だったわね、あの眼鏡…まさかこの私がよりにもよってあの貧乏性を少しでも魅力的に見えたなんて」

「私もだよ~。あの眼鏡を掛けたラグナの前だとドキドキしちゃって…変じゃなかったかな?」

「あらそう? あまり変化しているようには見えなかったけれど?」

「ラグナは何だか疲れているように見えたから、あんまり騒がしくしない方が良いかなって」

「そう…」

 

モテメガネの魔力下にあったのに細かい気遣いの出来る友奈のすごさにレイチェルは感心していると、友奈がニコニコしながら話しかけてきた。

 

「ねえレイチェルちゃん。もうチョコをラグナに渡したの?」

「あそこにあるわ。一応受け取ってくれたわよ」

「おお、ホントだ!ちゃんと全部食べてくれてる! 昨日頑張って作った甲斐があったね!!」

「ッ!!? どうしてそれを!!?」

「ごめんね。私、この前ぐんちゃんと一緒に街で材料を買いに行ったんだけど、その時に偶然レイチェルちゃんを見かけてね。気になってあの後何度か見てたんだ」

「うっ…」

 

友奈の言う通り、レイチェルがラグナにあげたのは自身の手作りのチョコである。当然ヴァルケンハインの助けなどない。純然たる姫様製である。不意を突かれて思わず彼女は顔を背けてしまった。

 

「まさか見られてたなんて思わなかったわ…」

「あの時のレイチェルちゃんは楽しそうだったなぁ」

「…はあ。まあ、でもこれからは市販物で済ませるわ」

「ご、ごめんね!揶揄うつもりはなかったんだけど…」

「いいえ。貴女に非はないわ。ただ…」

 

窓から逃げ回る彼を眺めながら吸血鬼は薄い笑みを浮かべていた。

 

「お馬鹿さんが簡単に貰えるほど私からの贈り物は安くないの。次はあの男が私の前で跪いて泣きながら求めるまで渡さないわ」

「良かった~。いつものレイチェルちゃんだね~」

「さて。もうそろそろお仕置きも終わったようだからラグナを回収しに行きましょう、友奈」

「はーい」

 

その後、ボロボロのラグナは無事に回収され、翌日に友奈と昨日の記憶を失くした他の勇者たちから真っ当なチョコをもらった。歌野の土地の件などは大社が何とかフォローし、モテメガネはクラヴィスの方で回収された。

 

因みに杏と球子は自分の新たな持ち物を見て悶絶していた。




ゆゆゆシリーズのバレンタインがまともに終わる訳がないのだ。

次回は丸亀城の戦い!!それではまた
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