蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

色々と忙しかったですがなんとかできました。

さて病院に搬送されてしまった洛奈君ですが遂に『アレ』と出会います。

それではどうぞ


Rebel08.魂の追憶

綾月芹佳は病院に駆けつけたのは洛奈が消失してから30分後だった。あの後レイチェルと一緒に『アレ』を無事確保した後、洛奈が重傷を負って病院に運ばれたとの連絡が安芸から来た。その後芹佳に病院の場所を聞いたレイチェルは

 

「ここは私だけでも大丈夫だから貴方はあの子の元へ行きなさい」

 

と言ってすぐに彼女を転移させて今に至っている。

 

洛奈が今いる手術室の前に辿り着くとそこでは手で顔を覆いながら泣き叫ぶ沙耶とそれを何も言わずに抱きしめる園子、自分たちの油断の所為で友達を守れなかった自責から顔を俯きながら拳を握りしめる須美と銀、その肩を掴んで抱き寄せる安芸、そして壁を叩きつける刃だった。

 

「兄さま!兄さまぁぁぁッ!」

「兄さんッ・・・!!」

 

最愛の兄の危篤状態という最悪の結果に刃も沙耶も心身ともにボロボロだった。そんな兄妹を見て勇者たちも自分たちがもっとしっかりすればと全身から悔しさが滲み出る。自分たちは人を守るために勇者にやっているはずだ。それがどうした。その守る人に助けられ、しかも敵の不意打ちを許してその人が生死を彷徨う状態になってしまったではないか。

 

「ごめん…ごめんな、沙耶…。アタシが、アタシが最後に気づけば…!」

「銀は悪くないわ!そんなことを言ったら私だって気を失って…不甲斐ないのは私よ!」

「私だって…サッちゃんと約束したのに…!絶対ラッくんを危険な目には合わせないって言ったのに!」

「みんな…」

 

洛奈の身の危険は全員神樹の神託によって知らされていた。だから全員はできる限りそうならないように取り計らっていた。できる限り人に会わず、家から出ないようにした。それでも、ダメだった。

 

「安芸ちゃん…ラグナの容態は?」

「…駆けつけたときは右腕が切断されていて…右の胸部や脇腹も酷い傷で…かなり危険な状態だったわ」

「そんな…!」

 

洛奈の傷は右腕の損失だけではなく、右上半身の深刻な裂傷にあった。安芸は芹佳に傷の具合を少しぼかしたがその実態は右の胸部と脇腹が抉り取られたかの様になっていたのだ。心臓には間一髪ダメージはなかったが、何個かの他の臓器が傷ついてしまった。かなり危険どころか助からない可能性が高かった。

 

しばらくすると手術中のランプが消え、扉から医師が出てきた。

 

「先生!ラグナは…!!」

 

芹佳は医師に聞いた。医師はただ頭を横に振った。

 

「最善は尽くしましたが…残念ながらこれ以上は我々の手には負えません…」

「そんな…ラグナ…!」

「そんな…兄さま…いやぁぁぁッ!!」

「兄さん…兄さん!」

 

あのときこうすれば、ああしなければと後悔が全員の心を支配し始める。すると鈴のような、しかし鋭い声が聞こえた

 

「貴方たち、何をしているの?」

『!?』

 

突如出現したレイチェルに全員が驚く。

 

「失礼ですが、貴方は?」

「私はレイチェル=アルカード。どうぞお見知り置きを、メガネが素敵な貴方」

「は、はあ…」

「芹佳、あの子は今どこに?」

「洛奈は今…」

「…そう」

「…貴様、何をしに来た」

 

刃が震えるような声でレイチェルに問いかける。瞳は警戒の炎に燃えていて、いまにもレイチェルに斬りかかりかねない顔だ。

 

「貴方の兄を救う手段を持ってきたのよ」

「どういうことだ…」

「これから話すから落ち着きなさいな」

 

それを聞いて刃はゆっくりと後退した。その後レイチェルは全員に顔を向ける。

 

「あの子を助ける方法がまだ一つだけあるわ…」

『本当ですかッ!?』

 

レイチェルの言葉に全員が反応する。

 

「ええ。けれど危険な賭けではあるし、それに…例え成功してもそれがあの子にとって幸せなことかは分からないわ。」

「ちょっと待ってください。それはどういうことですか?」

 

レイチェルの言葉に須美は疑問を投げかける。その言葉に対してレイチェルは答えた。

 

「どうやらあの子の魂はね、『アレ』と強く共鳴していたようなの」

「どういうことですか?」

「あの子は選ばれたの…『アレ』に…。この言葉をわかるでしょう、芹佳?」

 

その言葉を聞いて芹佳は理解した。

 

「そんな…だってラグナは力なんてなにも!?」

「『今はない』わ。でも既にその『可能性』はあったのよ。余程あの子の魂が魅力的だったのでしょうね、『アレ』にとって」

「では『その何か』の近くにいたから神樹様は…」

「間違えてしまったのでしょうね。もう既に戦える状態にあると思ったのかしら?そうだというならあまりにも軽率ね」

安芸の指摘をレイチェルは肯定した。そんな中話についていけていない小学生組から銀が追求する。

 

「なあ、レイチェル?さん。『アレ』って…そもそもなんなんだ?『それ』を使えばラグナの命は助けられるけど幸せじゃないかもってどういうことなんだ?」

「…そうね、ちょうど浄化は終わったから見せるだけなら良いでしょう。芹佳、いいかしら?」

「うん、いいよ」

 

そういうとレイチェルは掌の上に『蒼い炎に包まれた黒い渦状の塊』を出現させた。渦状というよりは何かを中心に膨大な量の黒い瘴気が渦巻いているという方が正しいだろう。出てきたそれは神樹の出す神々しさよりも禍々しい覇気を放っており、近くにいる者は見ているだけで不気味に感じていた。

 

「レイチェルさん、これは?」

「…これは、『蒼の魔導書(あおのまどうしょ)』。またの名称は『ブレイブルー』。この世界に残っている数少ない魔道書の中でも最強の代物よ」

「魔道書?でも本じゃないんだね。それになんだかとっても『危険な感じ』がするんよ」

「そうね。これが非常に危険な物なのは知っているわ。事実私が綾月家へ足を運ぶのはこれの監視が理由の一つだもの。場合によっては浄化も行うわ」

「これがどうして綾月君を救う可能性を持っているのですか?」

「これは常に周りの生命力や魂の力を吸収する能力を持っていて、それで使用者の傷を癒やすことができるの。だから今ならまだ間に合うかも知れない」

「それならすぐ兄さまに!!」

 

沙耶がレイチェルの話に飛びつこうとすると園子に制された。

 

「落ち着いてサッちゃん。レイチェルさんは『常に』周りの、と言ったんだよ」

「それがどうしたの!?目の前に兄さまを助けられる手段があるのに!」

「つまりね。ずっと周りから生命力を奪い続けながら生きるということは周りの人をずっと少しずつ傷つけないといけないってことなんよ」

「その子の言う通りよ。こんなものをつければ貴方のお兄さんはもうまともな生活には戻れないわ。それに貴方たちを守る神樹があの子を樹海に引き入れた理由もまたこれなのよ」

「それはどういうことだ?」

「言ったでしょう。周りの生命力や力を吸収すると。これは人間や動植物に限る話ではないわ。神にも通ずるものよ。当然『バーテックス』も、ね」

 

それを聞いて小学生たちは悟る。勇者や衛士の数は必ずしも多いわけではない。まして今回は敗北寸前だった。ならばさらなる戦力を投入するのは必然。そして…

 

「兄さんが『それ』を手にすれば、間違いなく戦いに巻き込まれる…そういうことだな」

「そうよ、『小さな英雄さん』」

「ふざけるなッ!そんなものどちらをとっても何もいいことないじゃないか!!」

「そうね。けどこれが私の用意できる唯一の解決策よ。それに…」

 

レイチェルは洛奈がいる手術室に顔を向ける。

 

「それを決めるのはラグナ本人よ」

 

そう言ってレイチェルは病室の中へ向かった。

 

「芹佳。貴女にも一応確認は取るけれど宜しいかしら?」

「出来るなら…戦いへ行くような道へ行って欲しくはありません」

 

でも、と言いながら芹佳は顔を上げる。

 

「もしあの子がそれでも生きることを望むなら私はあの子の選択を拒まないわ。お願い、レイチェルさん。ラグナを助けて」

「分かったわ。なら貴女は少し下がってて。魔道書がうまく機能しなくなる可能性があるわ」

 

芹佳の言葉を聞いてレイチェルは意識のない洛奈と対面する。彼女が洛奈の心臓の辺りに手をかざすと、

 

「少し痺れるわよ」

 

電流を流した。急な電気ショックのせいか、洛奈は息を吹き返し、少しだけ意識を取り戻した。

 

「こ…こ…」

「病院よ。このままでは死ぬわ」

「な……で…め…が」

「そんなことはいいわ。それより綾月洛奈」

 

レイチェルは洛奈の瞳をまっすぐ見つめる。

 

「生き延びたい?」

 

それを聞いて洛奈の眼がより強くこちらを睨む。意識も少し回復してきたように見えた。

 

「………ああ」

「例えそれが孤独に生きなければならないかも知れなくても?」

「……ああ」

「戦いの中へその身を投じることになっても?」

「…ああ」

「…例えその先が『茨の道』であっても?」

「ああ!」

「分かったわ」

 

そうして彼女は『それ』を出す。それを見て洛奈は眼の色を変えた。恐怖ゆえではない、別の理由だ。『それ』はどこか憎たらしく、しかし懐かしくも感じるものだった。

 

「行くわよ。精々飲み込まれないよう正気を保つことね」

 

次の瞬間、レイチェルは『それ』を洛奈の右腕のあった場所に押し付けた。黒い塊は塞がった傷をこじ開けて中に侵入し、根をはるように体の中に広がっていく。外に残った部分は大暴れしながらも徐々に腕の形を形成していった。

 

「ああアァァァァアアァぁああ!!!!」

『ラグナ!!』

『綾月君!!』

「ラッくん!!」

「兄さん!!」

「兄さま!!」

 

体を侵食される痛みから洛奈は絶叫する。家族や仲間はそんな彼を見て思わず名前を叫ぶ。その中ただ一人、レイチェルは彼を力強い眼で見つめて小さく呟く。

 

「さあ…もう一度立ち上がりなさい、ラグナ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

現在肉体面では凄まじい激痛に耐えている洛奈だが、精神面では逆に穏やかな状態だった。いま彼が見ているのは記憶。自身の魂の記憶である。それまではどこか朧げではっきりと見えたケースが少なかった記憶はここに来てより鮮明になり、より実感を持て、そしてより強く感情をそれに持つようになった。

 

「ここは…『西暦』にあったと言われている『教会』か?いや、ただそれだけじゃねー…」

 

そうだ。ここは俺たち兄弟が師匠に助けられてから巫女…いや、あの世界では『シスター』と生活するようになった教会だ。この生活がいつまでも続ければ他に言うことはなかった。その記憶を見た後、洛奈の意識はさらに深い蒼の中へ沈んでいく

 

「どんどん体が落ちていく…深い…深い底へ…」

 

しばらくしていると複数の気泡が浮かび上がってきた。よく見るとそれら泡にしては大きく、透明ではない。泡の中には映像があり、それぞれには様々な出来事が映っていた。いや、それだけではない。

 

「なんだこれ…声も聞こえるぞ…」

「兄さん!」

「兄さま!」

『ラグナ!』

『死神!』

〈黒き者よ〉

「ラグナ君!」

「ラグナさん!」

「蒼の男!」

「ラ〜グナちゃ〜ん!」

「小僧!」

「いい人〜」

「お前さん!」

「あ のお こ」

「ラグナ=ザ=ロリコンエッジ!「ちょっと待て。なんか変なのが聞こえたぞ!」」

 

『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』

 

色んな声が聞こえる。聞くと懐かしい声。聞くと腹立たしくなる声。信頼を寄せてくれる声。自分に対して憎しみをぶつける声。

 

「…ああ、そうだ。本当にいろんなことがあったんだ…」

 

辛いことがたくさんあった。拭えぬ後悔もあった。でも

 

「それだけじゃねー…大事なモンもたくさんあった…」

 

洛奈の意識が更に奥へ行く。最後に映ったのは白い空間の中に孤立する巨大な門の前で自分と女形だった。

 

「ああ…そうだ。俺はあの後、みんなの可能性を…蒼に還したのか」

 

そしてその後にも何かが見えた。それは洛奈の記憶にはないものだった。だがどうしてか洛奈はそれを見ると嬉しさが込み上げてきた。

 

「ノエルが『あの』教会でシスターをしながら『あいつら』と暮らしていて…ジンがカグラたちと一緒に世界を引っ張っていて…」

 

その後も様々な人々の、『あの世界』で生きている光景が見える。自分にはこの光景を見たことがないのに。

 

「魔道書が『境界』を通じて…この光景を見せているってか?」

 

自分という存在が消えた「あの世界」の後を見れて洛奈は少し安心した。あの世界に可能性が戻った。世界は前へ進み出した。それが知れてよかった。が、そこで疑問を持った。

 

「にしても俺はあのまま存在が消えてしまうんじゃねーのか?ならなぜ俺は『この世界』に…」

 

疑念が晴れぬまま突然洛奈の体に衝撃が襲った。体がどんどん浮かび上がる。すると光が見えてきた。意識が、戻りつつあるのだ。

 

「…いいぜ。今はんなこと考えても仕方ねえ」

 

洛奈、いや『ラグナ』は光の方へと『右手』を伸ばす。

 

「『今』は『あいつら』のところへ帰るんだ!」

 




いかがだったでしょうか?

書いているうちに自分は鬱内容は書いていていい気分がしないことがよくわかりました。鬱展開の上手い書き手さんが改めてすごいと思いました。

次回洛奈、いやもう記憶のほとんどが戻っているからラグナと書きます、が目を覚まします

それではまた
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