蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

前回の話で初めて一度に6個もの感想を貰うことが出来ました。皆さんの感想が励みになっていることもあり、書いてくれた方、ありがとうございます!!

さて、今回の話。レリウス=クローバー、大暴れ。後一つ、注意書きですが…今回の話でとあるキャラに関して少し胸糞悪い描写が登場します。そう言った描写が苦手な方は読むことをあまり勧めません…

それでも覚悟は出来ているという方、一万文字越えですがどうぞ

The wheel of fate is turning…Rebel…1…Action!!!


Rebel70.狂気の人形師

ラグナが過去へ飛ぶほんの少し前、高知の某村でレリウスと新しく黄色のローブを着た峡真は話し合っていた。二人は邪悪な笑みを浮かべながら今後のことを話し合っていた。

 

「ところでテルミ。何故勇者は神樹に選ばれたと思う?」

「いや、だから俺様は峡真だっての」

 

レリウスに突然問われ、峡真も一度考え込んだが、答えを出した。

 

「無垢な少女だから、としか言えねーなぁ。そういうのしか選ばねえ分、神樹ってのはとんでもねーロリコンなんだろうよぉ~」

「なるほど…では何故無垢な少女にのみ、神樹は力を貸す?もし敵である天の神を打倒したいのであれば、兵力は多いことに越したことはないだろう?」

「それだけそういった魂が少なかったからじゃねーのかぁ? 俺様が言うのもなんだがぁ、邪な考えのある奴が力を持っても大変なことになるんじゃーん?」

「だが、貴様の話によれば勇者は怒りで暴走しただろう。精神が不安定なものに力を与える方が余程の愚策だとは思うが」

「そりゃあそうだろうよ。でも実際のところは俺様でも分かんねー。まあ、無垢ってのは言うなれば馬鹿正直つーことでもあるからよ。こっちからすれば扱うのも切り時もやり易いんだわ。そいつを言うならレリウス、テメーのところの素体とかいう連中はどうだったんだよぉ?そいつらもある意味、神に選ばれた存在って奴じゃねえかぁ?」

 

峡真の言葉をレリウスは否定した。

 

「残念ながら根本として違うものだ。素体は本来『魂』のない人造物だ。それに対して勇者は、魂を持った生身の人間であり、境界に入り、マスターユニットと接触するため…お前たちにとって分かりやすく言えば神樹に選ばれるために造られたわけではない。非常に不安定で、不完全な存在だ。なのに少女たちは神樹に選ばれた…そして神樹の力を手にした」

「つまりなんだぁ? テメーが言いたいのは、雑草連中の言う無垢以外にも神樹にはガキどもを選択する理由があった、てかぁ?」

 

峡真の推測にレリウスは笑みを返す。

 

「そうだ。単に無垢だからと言って、戦いに向いていると言わないだろう。ならば勇者たちの魂には神をも惹きつけ、肉体にはその力を許容出来る何かがあるということだ。そしてその中で最も神樹の力と適合することが出来たものが」

「結城友奈ってわけだ」

 

そう言いながら峡真はかつての肉体で結城友奈に殴られた場所をさする。今ではレリウスによって新たな躰を手に入れており、特に痛む場所はないが、峡真からすればそれなりに印象深い一撃だったのだろう。

 

「貴様から聞いた結城友奈の様子は私の求める『孤高の魂』とは相反する在り方だ。だがそんな彼女が最も神に魅入られた少女になった。以前私が作り上げた素体の中でもとりわけ失敗作であったはずの『No.(ナンバー) 12(トゥエルブ)』も、果てには蒼の継承者へと覚醒したと同じようにな。つまり彼女とその周りを観察、調査すれば自然と『勇者』という存在についてより深く理解することが出来る。果てには」

 

一度言葉を区切るとレリウスは心底愉しそうな笑みをこぼしながら言った。

 

「『完全なる人形(ひと)の創造』、そしてそこから新たな世界を構築し得る神を造る手がかりを見出せるのやもしれん」

「ヒャーッハハハハ!!! ハーッ、腹痛え!!! 何回そいつを聞いてもぶっ飛んでやがんなぁ!!! 自分は神ですってか!!」

「何…私は別にそこまで傲慢ではない。ただ、神樹や天の神によって造られた、この『閉ざされた世界』を再構築しようと言っているだけだ。それに何もおかしいことではない。元より、『被創造物の神』も存在する」

「この前言ってた『タカマガハラシステム』とかゆー奴か」

「その通りだ。最も、アレは実に下らない玩具なのだがな。私の追い求めるものの足元にも及ばん」

 

レリウスがバッサリとそう切ると、立ち上がった。

 

「どこに行くつもりだぁ? まさかあのメスガキ共の様子でも見ようってんじゃねえだろーなぁ?」

「いや。今はその時期ではない。言ったはずだ。この世界を私は知らなすぎる、と。それに貴様によれば、あそこにはラグナ=ザ=ブラッドエッジとこの世界のジン=キサラギがいるそうではないか。幾ら子供とはいえ、事を為すための手札もない状態で今あの二人と余計な衝突を起こすのは得策ではない」

「ま、ガキ共はともかく、大赦の雑草共に嗅ぎ回られちまったらメンドーだからな。今は大人しく裏方にでも回ってるよぉ。それで、何しに行くんだぁ?」

「貴様が教えた情報の中に興味深いものがあってな。何でも勇者とは三百年前にも存在していたそうではないか。そしてその時代にも、『友奈』と呼ばれる少女がいる」

 

それを聞いて峡真も彼の目的が分かったようで、残虐な笑顔を浮かべた。

 

「…ケヒヒヒ!! なるほどなぁ!! 境界を越えてあっちを見に行くってか!!」

「最も古い時代の勇者であれば、誰にも邪魔されることなく貴様の言う勇者システムも、勇者という存在も、そして『友奈』という少女について更に詳しい情報を得られるだろう。何より私個人もこの世界での次元境界接触実験がどのような結果に終わったのか,興味があるのでな」

「そうかい。それでどっから行くんだよぉ?」

「私がここへやってきたときに通った窯でだ。それでは、そろそろ行かせてもらおう」

「ま、精々頑張りなぁ。こっちはこっちで色々やっておくからよぉ」

 

峡真と一時の別れを告げ、レリウスは西暦の時代へと飛ぶために窯へと向かっていった。

 

 

(だが…ここで『蒼の男』と出会うとはな…しかしこれも『この世界での』あの男を観測するまたとない機会だ…)

 

少々予定が狂ったが、観測()ておきたかったものが今、ほぼ全て眼の前にある。調べたかったものも全部調べ済みだ。ならばここは寧ろ対峙するべきだ。

 

「おい! 答えろ、レリウス!! 何でテメェが『ここ』にいやがる!!」

「しかし驚いた。肉体はかつてよりも少々未熟だが、魂の質はまるで変化していない。これ程完全な状態で個としての存在を確立させているとは、これも『第一素体』の干渉か…? レイチェル=アルカードもあちらとは存在の形も性質もほぼ同一…」

「くっ! 相変わらずこっちの話を聞かねえな、テメェは!!」

 

苛立つラグナを放棄してレリウスは次に勇者たちの方へ眼を向ける。自分たちをまじまじと見つめながら徐々に口角を上げていく仮面の紳士に彼女たちは嫌悪感を示し始める。

 

「あ、あの。一体何者ですか、貴方は? ラグナさんの知り合いのようですが」

「…これが勇者…神より力を与えられた少女たち…なるほど、確かに通常の人間よりも特異な魂の持ち主のようだ。あの男の話もあながち偽りというわけでもないらしい」

「えっと、あの男というのは誰なのでしょうか?それに私は…」

「しかしこれだけではその力と彼女たちが用いるシステムの真価を知ることが出来ない…やはりそれを検証するには…より深く観察する他あるまい…」

 

意を決して話しかけてきたひなたの問いにも全く反応を返すことなく、考察を続けるレリウス。流石に我慢の限界が来たラグナは大剣で切り掛かってきた。

 

「いい加減その人を観察するような態度を止めやがれ!!!」

「待ってください、ラグナさん!! 不気味なのは分かりますが、その人は」

 

生存者なのかもしれない。ひなたがそう言い切る前に突如レリウスの前にマゼンタ色の女性のような大型人形が出現し、ラグナの攻撃を弾き返した。後ずさりながら戦闘態勢を解かないラグナは人形を見るや舌打ちする。

 

「チッ! まさか『波動兵器(デトネーター)』まで一緒だったなんてな!!」

「ほう…それは…以前のものと性質は多少異なるが、蒼の魔道書か。しかしこの状況下でうまく起動していないところを見る限り、勇者ではないものが秩序の力を有しているようだな。益々貴様らに興味が湧いてきた」

「…貴女たち。すぐに戦闘の準備に入りなさい。彼は敵よ」

「そんな! だってあの人、人間だよ!?」

 

人を攻撃することに勇者たちは躊躇するが、そんな彼女たちに対して楽しそうに笑いながらレリウスも戦う体勢に入る。

 

「これだけの観察対象がいるのだ…その力、観測()せてもらうとしよう。ここで検証実験をするのも…悪くないものだからな」

「胸糞悪ぃ変態仮面が…誰も彼もテメェの『実験材料』だと思ってんじゃねえぞ!!!」

「行け、『イグニス』」

 

レリウスが指示を送ると人形、イグニスはラグナたちに襲い掛かる。当然ラグナも向かい打つが、片腕のため、力負けしてしまう。

 

「ぐあっ!?」

「どうした、蒼の男。それで終わりか?」

「ンなわけあるか!!」

「であれば続けるぞ。『バル・テュース』!!」

 

レリウスの言葉に反応してイグニスは自身の手の爪を長い刃物に変えて斬りつけてきた。ラグナもなんとか大剣で攻撃を弾くが、そんな彼の足元からは鋏のようなものが突然出現した。

 

「『ギラ・ルギア』!!」

「ぐおっ!!」

 

レリウスが離れたところから放ってきたらしい。機械仕掛けの鋏はラグナの足を思いっきり挟んだ。そこへイグニスの攻撃も飛んで来たことで、ラグナがダメージを受けてしまった。

 

二対一の状況。しかも相手側のコンビネーションはバッチリ。対して自分は右腕が動かない上に右の視界は塞がっている。このままでは不利だ。

 

「クソがッ!!」

「どうした。私はいつでも良いぞ?」

「だったら遠慮なく行かせてもらうわ」

「敵だと言うなら、容赦はしない!!」

 

そう言って割って入ってきたのはレイチェルと若葉だった。若葉はすぐにレリウスに接近して生太刀で切り掛かり、レイチェルはシルフィードで彼女を補助しつつ、イグニスを何とか抑える。そのうちに他の勇者たちも戦線に参入する。

 

「どうなってるんだよ、ラグナ!? アイツは何なのか教えてくれ!! あの仮面親父、お前の話もひなたの話も全然聞かないからこっちは訳が分からないぞ!!」

「…アイツは…一言で言うなら実験にしか頭にねえ変態仮面だ!」

「そこまでなの? 確かに私たちを見る眼が何だか変な感じだったけど…なんだか、物みたいに見られてる感じで…」

 

友奈の予感はずばり的中している。レリウスの関心は今勇者たちに向かっており、どんな実験をしようかと思考を凝らしている最中だ。はっきり言って目の前で戦っている若葉の攻撃で死ぬかもなどという考えはないのである。

 

「くっ…何だ、こいつは!? どこからこんな機械を取り出して!!?」

「なるほど、神樹から与えられた力がそのように肉体に作用しているのか…実に興味深い…」

 

そう呟きながら戦うレリウスに若葉は悪寒を感じる。何故だか分からないが、この男に見られているとまるで自分の心が見られているような感覚が生じる。それでも彼女はレリウスに再び斬撃を浴びせた。

 

「『レド・リー』!!」

「あッ!?」

 

しかし躱されてしまった。それもあっさりと。攻撃目標を見失った若葉はそのまま前へ直進してしまう。それはレリウスにとって攻撃に転じるのに十分な隙だった。

 

「『イド・ロイガー』!!!」

「かはッ!!?」

「若葉ちゃん!!」

「若葉!!」

 

レリウスの足元から野太いマジックハンドが出現し、若葉をアッパーで打ち上げる。そこへ更にイグニスを彼女の頭上に転移させて追撃させた。

 

「『ナイア』!!!」

「そうはさせません!!!」

 

イグニスは両足からドリルを出現させて若葉を穿たんと圧し掛かってきたが、寸前で杏の援護射撃が入ったことで攻撃の軌道が狂わされた。おかげで何とか若葉は無事に済んだ。

 

「済まない、杏…助かった…」

「気にしないでください。それよりもあの仮面さん、相当危険な相手みたいです」

「ぐッ…悔しいが、奴はかなり強い…躊躇していたらこっちがやられる…」

「先ほどのイグニスの攻撃を凌いだか…なるほど…同じ勇者でもどうやら個体によって少々力量や特性に差が生じるのだな…もっと観察させてもらうぞ。『バル・ラント』!!」

 

早くもレリウスは次の一手を繰り出して若葉たちに襲い掛かるが、その前に人影が若葉の前に現れた。

 

「やらせないぞ!!!こんなのに負けてタマるか!!」

「球子!?」

「タマっち先輩!!」

 

何と飛び込んできた球子が両腕を高速回転させながら突進してきたイグニスを旋刃盤で正面から受け止めた。だがレリウスも攻撃を出そうとする。

 

「タマちゃん!! 下がって!! 足元から来るよ!!」

「おう!! 任せたぞ、友奈!!」

「勇者ぁぁぁぁ…パァァァァンチ!!!」

 

攻撃を弾いた後に球子が一旦下がると、友奈はレリウスが放ったギラ・ルギアをジャンプで躱しながらイグニスに向かって渾身の右ストレートを叩きこんだ。こればかりはイグニスも主の方へと吹き飛んでしまった。

 

友奈はファイティングポーズを取りながらレリウスを見据え、彼女の隣で千景は大鎌を構える。それに対してレリウスは全く焦る様子を見せない。寧ろ宝箱を見つけた冒険者のように顔に笑みを広げていた。

 

「そうか…これが話に聞いていた『友奈』…それも原初の友奈か…ふふふ、確かにこれまでの勇者とは違う…一線を超えた力と高潔な魂の持ち主のようだ…面白い…実に面白いぞ…!」

「…くぅ…もう、何なのよ!! あの人を見定めるような眼は!!? 高嶋さんをイヤらしい目つきで視姦して!!!」

「…あんまり人に向かってこういうことはしたくないけど…私の大切な人たちを傷つけるつもりなら戦いますよ!!」

「遠慮など必要ない。寧ろそう来なければ、観測()応えがないというものだ」

 

不気味な笑みを崩さないまま、レリウスは自身の後ろにイグニスに似た方陣を展開する。そのせいか、イグニス自身も先ほどよりも力が増し始めた。

 

「『デュオ・ヴァイオス』!!!」

「『百回!勇者パーンチ』!!!」

「『乱れ裂き地獄花』!!!」

「『ガド・レイス』!!!」

 

勇者と人形とその主は激しくぶつかり合う。友奈はイグニスと拳と爪の撃ち合いになっており、千景も中距離から絡繰りで攻撃してくるレリウスとやり合っていた。両陣の戦いの余波で施設も破壊されていく。

 

「倒れな…さい!!!」

「…ふむ。やはりか。必ずしも無垢だからといって、勇者に選ばれるわけではないらしい」

「どういうことよ!!」

「とにかく。私は今、貴様に『興味はない』。これ以上検証の邪魔をするつもりならば、痛い目に遭ってもらうぞ!」

 

その直後、レリウスのマントから二本の灰白色の腕らしきものが飛び出て、千景を突き飛ばす。一度後ろへ飛んでしまったが、彼女の下から同じような腕が伸びて来て、千景を突きながらレリウスの方へと運んでいく。

 

最後に待ち構えていたレリウスは千景をマジックハンドで捕まえ、アームのバネで力の溜まった状態からパンチを繰り出させた。成す術も無く、千景は友奈の方へと吹き飛ばされてしまった。

 

「『ゼラ・ヴァリアス』!!!」

「うあぁぁぁぁッ!!!」

「きゃっ!!?」

 

二人は他のものから離れたところへ飛んでしまう。そして倒れているところへレリウスと一緒にイグニスもやって来た。

 

「なるほど…想定していた以上に勇者システムとは単純なものだな…しかし、それを扱う勇者は大変興味深い。特にこの友奈という勇者は詳しく研究したいものだ」

「け、研…究?」

「貴様はこの中でも特に『力』の強い勇者のようだ。是非とも私の工房へ連れて行きたいものだ…期待度の高い実験が出来そうだからな」

 

そう言いながらレリウスは邪悪な笑みを浮かべる。この時、友奈は確信した。今、この男の興味は自分にある。そして恐らく捕まれば自分はとんでもないことにされるだろう。

 

だが今なら自分はこの敵の注意を仲間たちから引き離すことが出来る。千景を庇うように友奈が出ようとするが、その前にその千景が起き上がりながら彼女を止めた。

 

「ふざ…け…ないで!!!」

「ぐんちゃん!? ダメだよ! あの人の目的は私なんだから、ここは私が!!」

「ええ、分かってるわ!! だからこうしているの!! 高嶋さんをあんな男に盗らせない!!」

 

憤怒の形相で目の前に立っている仮面の紳士を睨む。千景からすれば友奈は自分が心の開ける数少ない存在だ。そしてこの男は自分からその友奈を奪い取り、更に人体実験を施すと言ってのけた。

 

そんなことは絶対にさせない。彼を攻撃的な目で威嚇する千景に対して、レリウスはどこかつまらなそうにしていた。

 

「全く…邪魔をするな、と忠告したはずなのだが…」

「高嶋さんをモルモットに使うと宣言した以上、貴方の邪魔をするのは当然でしょう…来るなら来なさい…その人形、バラバラにしてあげるわ!!!」

「ならば…終わりなき痛みに溺れるが良い…イグニス、やれ…『アルター・オブ・ジ・パペット』!!!」

 

その宣言が出るや否や、イグニスは千景に掴みかかる。危険を察知した千景はすぐさま友奈を突き飛ばして自分から離れさせるが、それによって自分が捕まってしまった。

 

妙な場が形成されていく中、千景は奇妙なものを見始める。そこは薄暗い部屋で自分は黒い影に囲まれている。一体何が起こったのかが分からないでいると、影から声が聞こえてきた。

 

『あんな親から生まれたんじゃあねえ』

「…へ?」

 

聞き覚えがあるどころではない。寧ろ良く覚えている。忘れるはずがない。いや、「忘れることが出来ない」。記憶に焼き付いた数々の罵倒や心ない言葉。

 

『ゲームばっかやってんじゃねーよ、根暗』

『阿婆擦れの子が来たぞー、逃げろー』

『うぜえんだよ』

「…やめなさい…」

 

影たちの言葉は容赦なく千景に襲い掛かる。これまで勇者たちと過ごしていた分、もう治ったと思っていた傷が今、無理やり抉じ開けられて見せつけられているようだ。

 

『問題ばかり起こさないで頂戴…全くもう』

『寄るんじゃねえ。帰れ帰れ』

『服着たらどうなのぉ、淫乱?』

『長い髪うざったい』

『あ、階段から落ちた』

『血が出ちゃったね~』

「やめて…やめてよ…!!」

 

影たちを切り払おうと千景は大鎌を振り回すが、影たちは切れた後も再生しながら彼女を嘲笑し続ける。

 

どれもかつて、現実にあったこと。勇者になる前の千景が自身の村で本当に受けていた数々の虐め。両親の仲の不和が原因で村での彼女は酷く煙たがられ、理不尽な扱いを受けていた。

 

それが勇者になって少し経った後、掌を返すように村の者たちから、そして両親からも称賛され、祝福され始めた。それが悪いことに千景の心を蝕んだ。今まで真っ当な愛情を知ることのなかった彼女からすれば村の者たちの言葉は劇薬も同然だろう。

 

自分は彼らを守ってくれる勇者だから愛されている。だが今、彼女は目の前の男に負けようとしている。もしこれがバーテックスであったなら、きっと村の者たちはこう思うだろう。

 

『お前に価値など、ない』

「お願いだから………もう…やめて…」

 

千景の心は折れかかっていた。しばらくすると影たちは道を開ける。そこには分厚い金属製の扉があり、開くとそこからレリウスとイグニスが入ってきた。

 

「仮にも勇者だからなのか、存外頑丈のようだ」

「……ぁ…」

「だが、これで終わりだ。退屈凌ぎにもならないとは、期待外れだな」

 

とどめを刺そうとレリウスが絡繰りのアームから刃物を取り出す。既に戦意を喪失してしまった千景にはどうすることも出来ない。

 

その時だった。突如扉から鈍器で殴られたような轟音が響いた。何事かとレリウスは後ろへ振り向くと、扉は吹き飛ばされ、部屋の中へ友奈とラグナが駆け込んできた。

 

二人とも、部屋の中へ流れ込んでくる追い風のおかげで通常よりも動きが素早く、そのおかげでレリウスたちが反応するよりも早く攻撃に転じることが出来た。

 

友奈は既に神樹の概念的記録へとアクセスし、精霊を呼び出していた。精霊の名は、『一目連(いちもくれん)』。イグニスへ飛び込みながら友奈は凄まじいラッシュを掛けた。

 

「『千回!!勇者パーンチ』!!!」

 

イグニスも何とか友奈の攻撃を防ごうとするが、反応が遅れたことで瞬く間に鋭い拳の雨が機体に降りかかる。最後は締めに渾身の力を乗せてイグニスを殴りつけた。ほぼ同時にラグナも片腕ではあるが、レリウスに大剣の一撃を喰らわせ、思いっきり大剣を振り回した。

 

「カーネージシザー!!!!」

「ぐほっ!!?」

 

二人の攻撃で先ほど形成された場は消えていき、レリウスもイグニスも後退する。友奈はすぐに千景の元へ駆けつけ、抱きしめた。その前でラグナは他の勇者たちとレイチェルと一緒にレリウスと対峙する。

 

「これは…魂の定着…既に一つの魂を宿した肉体にもう一つ、異なる魂を定着させて力を上げているのか…『シュウイチロウ』が聞いたら何と言うだろうか。それに彼女たちから感じる神樹の力…これはまさか…ふふふ、これもまた興味深い事象だ」

「レリウス…テメェの目的は何だ!? どうして『ここ』にテメェがいる!!」

「…何。簡単なことだ、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。『この世界』での次元境界接触実験はどうなったのかについて、興味があったのでな。境界を渡ってこちらへ来た。最も、貴様らのおかげでより実りある時間を過ごすことが出来た」

 

笑みの絶えないレリウスの言葉を勇者たちは理解出来なかった。彼の口から出た言葉に若葉が疑問を投げかけた。

 

「どういうことだ? その口ぶり、やはりこの実験場を知っているのか!?」

「当然だろう。この実験には私と友であるシュウイチロウが参加していた。『こちら側』では『違う』ようだがな」

「どういうことだよ…」

「この世界には、レリウス=クローバーという人間の痕跡が『存在しない』。この世界はどうやら、私に当たる存在がいないようだ。まだ現れていない、とも言えるが」

 

その言葉にラグナは驚きを覚える。確かにこの男に当たる存在がいれば、人間はもっと早い段階から素体の精錬に取り掛かることが出来ていたかもしれない。当然マスターユニットに近づける可能性もぐんと上がる。

 

困惑するラグナを余所にレリウスは言葉を続けていた。

 

「しかし、ここの研究は少し誤りが存在するな。確かにこれならば素体自体を製作することは可能だが、この方法では『第零素体』にも劣る劣化品を乱造するだけに留まってしまう。より質の良い素体を精錬するにはこれでは足りない…だが、この時代での技術の限界だと考えれば仕方がないか」

「な…何ですか、その言い方…まるで人を造ることを…命を好き勝手に使うような実験を行うのに何の躊躇いもない…そんな…良心の呵責はないんですか!?」

 

ひなたの言葉にレリウスはさも当然のように淡々と話した。

 

「何を言っている。真理に辿り着くのに『良心』などというものは足枷でしかない。そもそも何故『非効率的な手段』を態々取る必要がある?」

 

あんな悲しい実験を行うことにもこの男は眉一つ動かすことなく実行出来る。そういった旨のことを言ったのだ。同じ人間だなんてとても思えない。その事実に勇者たちは絶句する。

 

「だが、蒼の男。貴様はやはり面白い…いや、先ほどの少女はどうやら、最後の最後で興味深い事象を見せてくれた、というべきだな」

「何言ってやがる!!」

「貴様には分からないのか…ならば彼女はよく観測()ることだ。そうすれば、近いうちに答えが分かるだろう」

「答えになってねえよ!!」

「そもそも、なんだ!その…『この世界』とか『こちら側』ってのは!!? まるで異世界人みたいな言い方じゃないかよ!!」

 

球子がそう言うとレリウスは返事を返した。

 

「言葉通りの意味だ。私は『この世界』の人間ではない。それに……それは貴様にも言えることではないか、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』」

 

その言葉に空気が凍り付いた。勇者たちは思わずラグナの方へ振り向く。それに対してラグナはレリウスの方を見ていた。

 

「て…テメェ…まさか、勇者を知ってたってのは…あの時代にいたからなのか!!?」

「そこまで分かるとは、流石は蒼の男。しかし分かったところで、出来ることなどない」

「ラグナが…違う時代の人間…」

 

友奈が小さく呟いていると、レリウスは踵を返しながら窯へと向かって行った。

 

「さて…この時代での観測は終わった。エンブリオで収集したデータを基にしてもまだ足りなかったのでな。早速元の時代へ戻るとしよう」

「逃がすと思ってんのか、テメェぇぇぇぇぇ!!!!」

 

ラグナはレリウスを逃がすまいと突貫しようとするが、地面が突如揺れ出した。周りを見ると天井は崩れ始めており、物も落ち始めている。

 

「な、なにが起こっているんだ!?」

「どうやら先ほどの友奈の力でこの精錬場は崩壊し始めているようだ。直にここは決壊する」

「ッ!! ウサギ!! どこでも良いから他の連中を安全な場所に連れて逃げろ!!!」

「貴方はどうするの!!?」

「こいつをここで逃がす訳には行かねえんだ!!! 頼む!!!」

 

駆けだそうとするラグナだが、その前方に瓦礫が落下してきた。寸でのところで彼のコートを若葉が鷲掴みすると、彼を自分たちの方へと引き込む。

 

レイチェルが転移する直前、ラグナはレリウスと目が合う。その時に彼の言葉が聞こえた。

 

「さらばだ、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ」

「レリウス=クローバーぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

それを最後に両者は崩落する窯から消え去った。

 

 

「おや、随分とお早い帰りですねぇ」

「どうした、その恰好は?」

「いえ、少し大赦へ…まあ道のゴミ集めとでも思ってくださいな」

「そうか」

 

今は黄色のフードを取り去って、黒スーツと帽子を着用した峡真がレリウスと再会した。最後に彼らが別れてから殆ど時間は経っていない。対するレリウスは笑っていた。

 

「おや、その様子ですと、何か良いことでもありましたか?」

「ああ…後で話すとしよう。こちらも少し体力を消耗したのでな」

「そうですか…ま、私はそれほど変化はありませんよ。まあ、少しだけ…情報を得ることが出来ました」

「そうか…だが仕掛けるのは万全の状態になってからだ。思った以上に有用な情報が得られたのでな、少し忙しくなるぞ」

「了解ですよ。私も間抜けではありませんからね」

 

それで、どこから取り掛かります?峡真がそう聞くとレリウスは怪しい瞳を大赦のある方角に向けながら言った。

 

「まずは、アレの下見に行くとしよう」




エゲツナイ。レリウス大佐、マジエゲツナイ。

それとタケミカヅチさん。香川はダメだけど、ぐんちゃんの村だったら砲撃して良いよ。というかやってくれ、頼む。イブキドよろしくで破壊してくれ。

とまあ、正体がバレてしまったラグナ。次回、それを受けて勇者たちは…それではまた。
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