蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも、お久しぶりです。勝石です。

これが完成させようとした日がひなた様の誕生日でしたが、残念ながら間に合わなかったぜorz。間に合わせたかったなぁ…

気持ちを切り替えて、今回のお話ではラグナがついに西暦勇者たちに自身の正体を暴くことに!一万字オーバーですが、どうぞ。


Rebel71.死神の真実

一夜明けて目を覚ました時に石造りの天井を見て、ラグナが最初に感じたものは悔しさだった。あの後、レリウスの後を追いかけようとしたが、結局崩壊していく窯から彼を捕まえることが出来なかった。

 

今いるアルカード城へ避難した後、急いで自分だけを戻すようレイチェルに頼んだが、行っても窯はもう使い物にならない上に自分が通過するのは危険すぎると彼女に諭された。ラグナは唇を噛みながらもその言葉に納得し、従った。

 

今頃奴は現代、つまり自身の兄妹と勇者部の皆がいる時代にいるだろう。幾ら彼女たちでもレリウスを相手取るのは難しいとラグナは考えていた。あの男はそれだけ強いのだ。

 

あそこで止められてさえいれば、他の者たちを危険に晒されることはなかっただろう。しかし今はどうすることも出来ない。未来に帰りたくても帰れないから。

 

それに例え帰れても、このまま西暦の勇者たちを放っておいて行くことにも躊躇があった。まだタケミカヅチの問題が解決したわけではない。もし自分がいなくなれば、アレを一時的、しかし確実に足止め出来る存在は恐らくひなただけになるだろう。それでも押し切られる可能性があるので、安心は出来ない。

 

しかもこの時代ではまだ黒き獣は出現していない。つまり、今後出現する可能性が高いのだ。そして自分がいないということは黒き獣を一年間差し押さえるという最終手段すら取ることが出来ないということでもある。

 

もしこんなとんでもない化け物二匹と戦うことになれば、勇者から死亡者が出る可能性がある。そんなことは絶対にごめんだ。

 

帰れないことに不安、しかし帰った場合も不安。意識が冴えてきたことでラグナが徐々に思考を巡らせるようになっていくと、ドアからノックの音が聞こえた。

 

「ラグナ。もうそろそろ起きてってレイチェルが言ってたよ」

「……………ああ。今行く」

 

取り敢えず外着に着替えてドアを開けると、そこには友奈がいた。

 

「おはよう。今日の朝ごはんは小ぶりだけどかけうどんだって。ここの家の人が気を掛けてくれたのかな?」

「そうだろうな…クラヴィスの爺さんならそうするだろうよ」

「レイチェルちゃんが言ったりしていてね」

「そういやアイツ、四国に来てからはうどんも良く食うようになったんだっけ」

「あはは。そうだね…」

 

友奈は笑っているが、若干気まずい空気が流れていた。それも仕方がない。何せ今まで共に戦ってきた仲間がまさか別世界の人間だなんて思いもしなかっただろう。実際、あの後も勇者たちはそれ以降互いと話し合うことなく、アルカード城で就寝したのだ。

 

ラグナは友奈に先日の戦いで起きた、もう一つの出来事についても聞いてきた。

 

「…ユーナ。チカゲの奴、あれからどうしてんだ…」

「…ここに来てから全然元気が無くて。なんだか、怯えた感じだったよ…」

「……そうか」

 

友奈は今朝、千景の部屋にも寄って食事に来るように呼び掛けたが、彼女はまるで返事を返す様子が無かった。何とか説得して外に出てもらったが、かなり憔悴した様子で全く睡眠が取れた様子がない。部屋に集まって皆が挨拶しても上の空、気づいても生返事しか返さないと深刻な様子だった。

 

こればかりは親友である友奈が心配だった。千景や彼女の心を傷つけたレリウスのことを話し始めた彼女の表情は辛いものになり始めたが、自分に気合いを入れなおすかのように顔を手で叩いた。

 

「…うーん、ダメダメ!こんなことじゃいけないね!大事なのは今傍にいる私たちがぐんちゃんを元気づけないと!取り敢えず出来ることからコツコツと、だよね!」

 

いつものように明るく振る舞おうとする友奈だが、何処か少し無理をしているようだった。

 

「ユーナ、お前…」

「でもすごいんだね、レイチェルちゃんって! 吸血鬼って聞いたときも驚いたけど、まさかこんな大きいお城が実家だったなんて! 本物のお姫様ってことだよね!」

「…そうだな…ここには何度も来てたけど、いつ見てもバカ広え」

「丸亀城よりも大きいのかな?」

「案外すっぽり入れるかもな」

「すっごい! でもここまで広かったら維持するのに大変じゃないの?」

「ヴァルケンハインのオッサンがいるからな。そこんとこは問題ねえよ…」

 

そんな他愛もない会話が続くが、すぐに途切れてしまった。どうすれば良いのか分からない状態のまま、ラグナは未来にいる勇者部を思い出す。こういうとき、あの時代の皆ならどうしただろう。そんな時にあることを思い出した。

 

(そういや、レリウスが最後に抜かしやがったアレもあるんだよな…ユーナが多分話してねえだけでアレが原因に含まれているかも知れねえ…)

 

悩んだら相談。あまり守られていなかった気がする五箇条の一つだが、結果としてそれが原因で大惨事になったわけだから今回はきちんと話し合った方が良いだろう。

 

(だが…本当に話してもいいのか? あっちじゃあ知ってるのは俺の事情をすぐに理解してくれたウサギと実際に『眼』の力で観測()たユウナだけだぞ?)

 

それにそれを話すということは必然的に壁の外についても話さなければならないだろう。しかし今の勇者たちにその現実を受け入れられるだろうか?怒るのだろうか?怯えるのだろうか?それとも、拒絶するのだろうか?

 

(いや…違うな…それはただの言い訳だ…)

 

恐れているのは自分の方だ。未来での友奈に初めて正体がバレた時、ラグナは冷や汗を覚えた。レリウスが自身の真実を勇者たちに伝えた時、怒りと同時に僅かながらも恐怖を覚えた。

 

(…俺は拒絶されるのを恐れてるのかもな…あの世界じゃあそんなことなかったのによ…)

 

寧ろアイツらだからこそ、恐れているのか。決して平坦ではないが、どちらの時代でも仲間が共にいてくれることの楽しさ、そして峡真から真実を告げられた時に見たこの世界の仲間たちの辛い顔をラグナは思い返しながら結論付けた。

 

「ラグナ?」

 

隣を見ると黙り込んでる自分を見て友奈が心配そうにしていた。

 

「悪い、ユーナ。どうした?」

「ううん。ラグナも、ぐんちゃんと同じ目をしていたから…つい…」

「そうだったのか…なあ、ユーナ」

「なーに?」

「もし…お前の知り合いの誰かが昔…すっげー悪いことをしていたり…お前にとっても傷つくような現実をお前に教えようとしていたら…お前はそれを聞きたいか?」

 

今思えば情けない話だ。思わず弱音を吐いてしまった。あっちの世界でも滅多にこんなことをすることなかったのに。それに気づいたラグナはそれを恥じてすぐに言葉を撤回しようとしたが、その前に友奈が答えた。

 

「そうだね…そういう話を聞くのはちょっと怖いし、嫌だけど…もしその人がそれを言えずに苦しんでいるなら…私はその人の話を聞いてあげたいよ」

「………そうか」

「それにそれはきっと…他の皆も一緒だと思うよ。だから、遠慮なく話して欲しいな」

 

そう言いながら友奈はこちらを真っすぐ見つめていた。隠そうにも筒抜けだったようだ。自分の例えが下手だっただけかもしれないが。

 

「…そうだな。済まねえ、気を遣わせたみたいでよ」

「気にしないで。困ったときはお互い様だよ」

「そうか。それと俺…決めたよ」

「どんなことを?」

「今出来ることをとにかくやる。だから…話そうと思う。俺のこと、それと俺がいた世界のこと。知らねえことは話せねえし、話してどうなるかは分からねえ。でも…もうずっと隠すわけには行かねえ。他の連中だって気になってる奴はいるだろうしな」

 

それを聞いて友奈は少し驚いたが、その意思を完全に否定することはなかった。

 

「…分かった! じゃあ、食べ終わっても皆に席を外さないように言うよ」

「ありがとよ。一応、北海道に行くかどうかも決めねえといけねえからな」

 

そう決めると二人は居間に到着し、全員が集まったことで食事が始まった。そしてそれが終わると、ラグナたちは皆にここへ残るように指示し、皆にかくかくしかじかと自身のこれまでの出来事を大雑把に話した。

 

彼の話に少女たちは無言のまま聞き入った。彼の口から語られていく出来事はどれも現実離れしたものばかりだった。

 

しかし、戦闘慣れした動き、研究所であったものに関する知識、そして先日のレリウスに対する反応。彼の話が真実だと証明してくれる根拠があまりにも多かった。

 

ラグナが話を終えると、勇者たちの間でしばしの沈黙が広がった。

 

「……俺が話せるのはここまでだ」

「…お前、一体どれだけ壮絶な人生を送れば気が済むんだ…」

「思った以上に重い話だったぞ…元の世界でも別の世界の現在と未来でも大変だなんて、何の罰ゲームだ…」

 

何か訳アリだろうなとは思っていたが、まさかこれ程だったとは全く若葉も球子も予想していなかった。それは杏も同様だった。

 

「まさか…そんなラノベか絵本の主人公のような人生を歩んだ人が現実にいるなんて…」

「…あながち間違った表現じゃねえのが困るな…」

 

あの世界で時間のループが途切れる前までは六英雄たちが戦った暗黒大戦から自分が死んだところまで百年ほどが幾度となく繰り返されていたり、自身もジ・オリジンの「神の観る夢(セントラル・フィクション)」であるわけだから割と的の射た表現ではある。

 

「そして亡くなったあとはこちらの世界…それも300年後の未来…そんなところから来たんですか…」

「ああ…流石にあっちでの名前は教えられねえが…そう言う認識で間違いねえ」

「なるほどね…でもどちらも境界を越えてきたということよね…あそこを通ったら並の人間なんてあっという間に身体が崩壊するというのによく無事に来られたじゃない、厨二病患者」

「…またその反応かよ、ウサギ…言っておくが、俺は頭がおかしくなってるわけじゃねえからな」

「またって…ああ、そういうこと。それは随分と大変そうだったわね、その時の貴方は」

「誰のせいだと思ってんだ…助かりはしたけどよ」

 

おかしいものを見ているかのように笑うレイチェルに悪態を吐きながら小さく感謝を口にするラグナ。実際、記憶を取り戻した時に最初に出会ったのが彼女で良かったと思っている。

 

当時の他の者たちにこんな話は出来ない分、この世界で恐らく自分の話を唯一理解できるであろう人物に会えたのは紛れもなく幸運だろう。

 

「それで…貴方はこの時代に来たのは、皆を助けるため、というところかしら?」

「少なくても黒き獣がこの時代にも現れると聞いた以上、俺も来た方が良いと思ったからな」

「だけど神樹様の精霊に頼まれたのは『皆を助けて欲しい』なんだよね?」

「…そうだな。それもある」

 

彼女たちには伝えられていない精霊になった若葉があまりにも一生懸命頼み込んでくるのもあって、彼女をそのまま放っておけなかったラグナ。今思えば所々で勇者たちが危うい場面に遭遇していたので、当時の彼女はこのことについて話していたのだろう。

 

「でも実際レリウス=クローバーに関してはラグナさんがいなければもっと大変なことになっていたかもしれませんね…あの地域は元々大社からも避けるように進言されていましたし、私たちだけでしたらあの研究室を見つけることはなかったでしょうから」

「そしてあの性格だ。どうせあそこで調べものをしながら人の道から外れた実験を繰り返していただろう。早めに見つけることが出来て何よりだ」

 

レリウスの話が出始めた途端、ラグナの顔は険しくなり、千景も肩を震わせた。どちらもレリウスが原因で大変な目に遭わされている分、彼への嫌い様は分かりやすい。

 

「…野郎は間違いなくくたばってねえ…あの程度でおっ死んじまうなら、まずあの世界からこっちに来ることはねえはずだ」

「あの男が…生きている…」

「元の時代って言ってたもんね…つまりあの人はその時代に行けるってこと?」

「ああ。あの時代には…野郎が実験に使いたがるような連中がワラワラいる。じゃなきゃ勇者を知っているとは思えねえ…でもどうやって大赦のガードを突破したんだ…いや、野郎なら出来ても不思議じゃねえか…」

 

裏から工作するレリウスをラグナが想像しているところを千景は質問してきた。

 

「……貴方に…聞きたいことがあるわ」

「なんだ?」

「……未来から来たなら…西暦の勇者たちの結末(終わり)を知っているでしょう…私たちはどうなったの…?」

「…テメェらがどうなったのかは俺も知らねえ…何人かの奴の名前は聞いたことがあったが、ここにいる奴らの詳しい事情はここに来て初めて知ったんだ…俺の時代の大赦は勇者をあまり公にしなかったからな…」

「そんなことがあったんだな。じゃあ壁の外はどうなってんだ?」

「それは…」

 

ラグナは口ごもってしまった。いざ真実を言うと決意はしたものの、やはり伝えるのは怖い。それでもラグナは口を動かした。

 

「…外…は…火の海…だ…」

「……その様子から察してはいたが、やはりそうだったんですね」

「…どういうことだ?」

「…ラグナさんの話に出てきた黒き獣という怪物は周囲の環境を人の住めないものに変えていきましたね? この世界にそれが現れた時にもし、先に他の場所を攻撃していたなら恐らく外の世界は…貴方の言う人の住みにくい場所になっている可能性があると思ったんです」

 

ひなたの指摘にラグナはハッとした。言われてみれば黒き獣が倒された後も世界各地は魔素に冒されていた。ラグナの世界の術式はそれをエネルギー源に使っている技術だ。

 

「…そうだな。確かにアレが黒き獣が原因なら…あの日の暴走も合点は付く…」

「つまり…壁の外に人はいない…ということですね…」

「いや、あんず。これから行く北海道とか沖縄にも神様と勇者がいるわけだから、未来にも人はいるんだろ?」

「……俺はこの時代に来るまで北海道も沖縄も昔の地域だったとしか聞いてねえんだよ」

「マジか…」

 

球子が静かに驚いているとラグナの言葉を聞いた千景は別の質問をぶつけた。

 

「そう……だったらもう一つ…」

「ああ」

「仮に貴方が私たちの味方だとして…私たちを傷つけない保証はどこにあるの?」

 

千景の眼からはラグナに対して何やら嫌悪、そして恐怖のようなものが映っていた。ただでさえ敵のバーテックスと融合しているような状態なのに暴走した経験すらあるなんて今の千景からすれば堪ったものではない。

 

千景からすれば数か月過ごしてきただけの異邦人であるラグナよりも、あまり接してこなかったとはいえ、三年以上共に過ごし、現在も一緒に戦ってきた勇者たちの方が大事だ。

 

特に故郷の村での辛い記憶がある千景からすれば友奈、そして自分が勇者であることは最大の心の支えだ。その二つを奪い取れる可能性を抱えているラグナを彼女には看過することは出来なかった。ようやく手にした小さな幸福を彼女もまた、失うことが怖いのだ。

 

「千景!その言い方はないだろう!それではまるでラグナを」

「怪物として見ているみたいだ、とでも言いたいの?だったら乃木さんこそ分かってるかしら?この人は…かつて人を実際にその手に掛けているのよ。そして勇者にも悪影響を与えてしまっているわ。今度は私たちになるかもと疑わない方がおかしいわよ」

「分かっている!しかし!」

「貴女が彼を信じることにとやかくは言わないわ。でも私は…そんな簡単に『分かった、でもお前を信じる』だなんてとても言えない…」

 

若葉からすればラグナの話はとても他人事には聞こえなかった。ユウキ=テルミやバーテックスがいなければ彼だって、きっと弟妹たちとささやかで幸せな日常を過ごしていただろう。

 

それなのにあちらでは大切なものを奪われ、こちらでは自分の手で自分や他者の大切なものを壊してしまった。そして気付いたときは既に遅く、自身の無力と後悔しか残らない。バーテックス襲来の日、そして以前の戦いで危うくその域までに達していた可能性があった若葉からすればどちらの心情も痛いほど理解出来るものだった。

 

確かに多くの人々を傷つけてしまったことは罪だ。だが同時に彼はもうそれに報いるほど多くの者を守ったのだ。世界を守り、妹を『救い』、この世界に来ても尚多くの人々を現在でも未来でも助けている。

 

それなのに彼が報われたようにはとても感じられなかった。最初から戦う必要が無ければそんな罪も負う必要もなかった。あまりにも理不尽だと感じたのだ。

 

「良いんだよ、ワカバ。チカゲの言うことは正しい」

「だが、ラグナ!お前は十分すぎるほど多くの人を救ってきたじゃないか!それなのに!!」

「…それがやらかした人間が…俺が受ける『報い』って奴だよ、ワカバ。こいつはどこに行こうが、死のうが俺についてくる。だがな」

 

そういう彼の瞳には覚悟が籠っていた。何者にも負けない強い意志が宿った瞳だ。

 

「俺は…そいつを背負い続ける。赦されるだなんて到底思ってねえけど、俺は犯したモンと向き合い続ける。その上でそいつらを背負って生き抜くんだ。世界を破壊する黒き獣としてでなく、人間として」

「……そうか。なら私からはこれ以上は言わない。千景も、怒鳴ったりして悪かったな」

「別に…」

「チカゲ」

 

ラグナは彼女の名前を呼びながら真っすぐ千景を見据えながら静かに言った。

 

「お前の言う通りだ。俺はあっちでも…こっちでも過ちを犯した。お前にそう言われても…文句は言えねえ」

「な、なにそれ…そんなこと言って…信頼が獲得できるとでも…?」

「ンことねえよ。大体それで信じたとして何になるんだ」

「だったら何なの…」

「約束する。俺は絶対に暴走はしねえ。お前の大事なモンを奪わねえし、奪わせもしねえ」

「…もしそれが出来なかったら?」

「その時は…お前の判断に任せるよ」

 

全員が注目している中、そう言い切ったラグナを千景はじっと見つめた。その後、仕方なさそうに嘆息しながらも彼に返答を返した。

 

「…そこまで言うのだったら…信じてあげるわ。だから…必ず果たして…別に私だって貴方のことが嫌いだというわけじゃないから…」

「そうか…だったらその言葉にゃあ応えねえとな」

 

彼女の言葉に対してラグナは更に決意を強くする。そんな彼を見て、千景は思わず呟いた。

 

「…………どうして貴方はそんなに強いの…」

「あ? なんか言ったか?」

「言ってないわ」

「いや、言っただろ!?」

「声が大きいわ…バナナの叩き売り商人か何かなの…?」

「仕方がないわよ、千景。吠えると書いてラグナですもの」

「声が大きいから納得だわ」

「俺は吠えるだけの存在だけだってか、テメェら!?」

 

自分とレイチェルに猛抗議するラグナを放っておいて千景は他の者たちの方へと向いた。

 

「貴女たちはどうなの…」

「私は…過去に大変なことをしてしまったと聞いて平気だったかというと違いますけど…それでもやっぱりラグナさんのことを信じたいです」

「タマもそうだな…確かにラグナの話を聞いたときはおっタマげたけど…やっぱり普段のこいつを見ていると、信じたくなるんだよ」

「ラグナさんはきちんと約束を果たす方だということは今までのことでも知っていますから、私に異論はありません」

「高嶋さんはどうなの?」

 

千景は友奈の方へと振り向くと、友奈はその言葉に答えた。

 

「私は信じるよ。今までラグナのやってきたこと全部聞いた上で、ラグナの言葉を信じる」

「そうね…高嶋さんならきっとそう言うと思ったわ」

「さっきの話を聞いても、やっぱりラグナは優しいんだって良く分かったからね」

「優しい…?」

「いつだってラグナが戦うのは…誰かのためだったでしょ? そして自分のやったことについて本気で悩んで、そしてその上で前に進もうとしてる。そして大切な人が酷い目にあった時に本気で怒って、良いことがあると喜ぶ。こんなことが出来る人が優しくないわけがないよ」

 

彼女が話す優しさとは、誰にだってあるであろう何気ないものだ。だけどそれを友奈は優しいと言う。

 

「それに本当はこれを話すこと、すごく怖かったと思うんだ。自分や未来のこと…それも多分私たちが知ったらかなりショックを受けることもあったから…話すかどうかはすごく悩んでたと思う。特に別世界にいた話は信じてもらうのは難しいからね」

 

でも、と友奈は続ける。

 

「それでも話してくれたのは…もちろんあの仮面の人のこともあるけど…それだけ私たちのことを信頼してくれているからだと思うんだ。もしそうじゃなかったら、嘘を吐いて誤魔化しただろうから」

 

そう言い終えると友奈は嬉しそうに笑いながら言葉を続ける。

 

「だから、私は嬉しかったな。ラグナが未来の話をちゃんと話してくれて。確かにこれからも四国は大変なことになるかもしれないけど…私たちの戦いに無駄なことなんてなかった。人間は生きていて、こんなに頼もしい人が未来にいたのだから」

 

友奈はラグナの方へ歩んでいくと、笑顔を浮かべながら彼の左手を取る。

 

「ラグナ。この時代に来て、いつも助けてくれて、そして私たちに本当のことを話して…ありがとう」

「ユーナ…」

「今まで大変なことがたくさんあって…過去にたくさん、ラグナは人を傷つけてきたけど…それでもラグナが立ち上がり続けてきたから、それに負けないほどたくさんの人を守ってきたんだよ」

 

その言葉に他の勇者たちも頷いて肯定した。義手であるはずの左手から確かな温もりが伝わってくる。ここまで他者から頑張ったと言われることにあまり慣れていないラグナは少し気恥ずかしく感じた。

 

「…俺はただ…理不尽に奪われるのが嫌で抗っただけだ」

「だからラグナに助けられた人がいるんだよ。私も、若葉ちゃんたちも、それに歌野ちゃんたちも。そういう人たちがいっぱいいるよ。それに私たち勇者だって、バーテックスに皆の大事なものを理不尽に奪われないために戦っているから、同じだよ。色んなことがあるかもしれないけど、これからもよろしくね!」

「………ああ」

 

少し安心したからか、それとも友奈の言葉が嬉しかったのか、ラグナの顔が綻ぶ。もし帰ったら、アイツらにも話してみようかなと考えていると友奈が呆気に取られていることに気付いた。

 

「ん? どうした?」

「いや…ラグナが笑ってるなって思って」

「俺は普段だってそこそこ笑うことくらいあるだろ」

「そ、そうだよね! あはは…」

 

何だかぎこちない気がするが、友奈が元の席に戻ったので真相は謎のままだった。彼女が腰を下ろすと、隣にいる親友に声を掛けた。

 

「ねえ、ぐんちゃん。ぐんちゃんも何かに悩んだりしていない?」

「そ、そんなこと…」

「さっきはラグナが悩んでるみたいだったけど、今度はぐんちゃんの(ことば)を聞きたいな。ずっと怖がっているように見えたから、心配だよ」

「なんだ? 千景も何か困ってるのか?」

「タマっち先輩〜。そんなに寄ってきたら千景さんも困っちゃうよ?」

「千景、何か困っているのか? もし力になれそうなら遠慮なく言ってくれ」

 

仲間たちがそれぞれの形で自分を心配してくれていることが千景にも伝わる。こんなことを伝えたら、自分は嫌われるかもしれない。かつての村の出来事を伝えることに恐怖を覚える千景だが、その時にラグナと目が合う。

 

ラグナは何も言わず、ただ自分に真剣な眼差しを送ってくる。どんなことでも聞く覚悟が出来ている者の眼だ。彼の大暴露を思い出す。

 

(あんなにも強い人でも…自分のことを話すことが怖かった…元の時代でも殆ど誰にも話してないって言ってたし…)

 

でも彼はそれを乗り越えて話した。そして、ここにいる仲間たちはその事実を受け入れてくれた。だったら

 

(私も……少しでもあんな風に…なれないのかしら…)

 

もし話すとしたら今しかない。この機会を逃せば一生話すことはないだろう。千景は意を決してレリウスと戦った時のこと、そして自身の過去にあったことも話した。

 

「っく!!」

「どこに行くの、タマっち先輩!?」

「決まってんだろ!! その村の連中をとっちめてやるんだ!!」

「やめておきなさい、球子。そんなことをしたところで根本的な解決にはならないわ」

「けど、レイチェル!!こんなのって!!」

「…腹立たしいことは理解できるけれど…そんなものたちに時間を掛けることは千景にとっても、貴方にとっても何一つ益になることはないわ」

「だったら、どうすれば良いんだよ…」

 

悔しそうにそう言う球子にレイチェルは答えた。

 

「『逃げる』のよ。文字通り、臭いところから離れること。自分に害をなすことにしか能の無い寄生虫なんて、相手にしないことに越したことがないわ。寧ろそんな虫けらの羽音をまともに聞いていたらこっちの方がおかしくなってしまうもの。昔ならともかく、今の貴女はもう大人になる年頃だから、やろうと思えば自立は可能でしょう」

「それでも鬱陶しく纏わり付いてくるようだったら、いつでも俺たちに知らせてくれ。必ず力になってやる」

「随分と冷静じゃない。貴方のことだからすぐに仕返しだとか言って突撃すると思ったけれど」

「ンなことをしたところでチカゲを『助けた』ことにはならねえからな…だったらテメェの言う通り、そんな連中をどうするかよりもチカゲがこれ以上そこに行かなくても済むように力を貸した方が良い。テメェこそ、今にも雷をぶっ放しそうになってたじゃねえか」

「私は百歩譲ってラグナ(馬鹿)に寛容であっても、愚鈍にも堕落し、地面に這いずり回ることにしか能のない愚か者にあげる情けはなくてよ。それが…私とそれなりに親交のある人間に対して付きまとうようならなおさら。その者たちの愚行と存在が如何に矮小で塵に等しいものかを分からせてやるわ」

「おい。言いてえは分かるが、その馬鹿を何のつもりで言いやがった、テメェ」

 

悪びれる様子を一切見せることなく、レイチェルは言う。かなり過激な言葉に聞こえる気がしたが、千景は何故かその言葉がとても納得出来た。そして自分のことを思ってくれている仲間たちを見て少しずつ胸が熱くなっていくのを感じていた。

 

「ぐんちゃん」

「た、高嶋さん!?」

 

自分を自身の方へと引き寄せていく友奈に千景は驚くが、それでも友奈は離さず、彼女に語り掛けた。

 

「本当に…ぐんちゃんはこれまでいっぱい頑張ってきたんだね。辛いことをたくさん我慢して…悲しい目にも遭って…でももう大丈夫だよ。ぐんちゃんの周りにはたくさん、友達がいるから」

「そうね…でもね、高嶋さん」

 

千景は自分を抱きしめ続ける友奈に自身のこれまでの想いを伝えた。

 

「初めて勇者として戦った時に怯えていた私を一番最初気付いて、元気づけてくれたのは貴女だったから…ここに来てから楽しく思えたのは貴女が私にいつも話しかけてくれていたから…だから私とって高嶋さんは一番大切な友達よ…いつだって側にいてくれて…ありがとう」

「こっちこそありがとね、ぐんちゃん。私もね、いつも頑張っていて、勇者らしくあろうとするかっこいいぐんちゃんも何だかんだ言いつつも皆のことを大事に思っている優しいぐんちゃんもだーい好きだよ! だからいつも笑っていて欲しいな。だからさっきのレイチェルちゃんの言ったみたいに…本当に困ったら私たちに言ってね」

「………うん」

 

それを聞いて千景の視界が少しぼやけ始める。目頭の辺りが熱くなっていくのを感じる。

 

「あれ、ぐんちゃん!? もしかして私、力入れすぎた!?」

「ううん…そんなことない…寧ろこのままでいて」

「…分かった!」

「千景、少し良いか?」

「乃木さん…」

 

気が付けば若葉が自分の目の前に立っていた。何事だろうかと思索していると、彼女の方から先に口を開いた。

 

「お前があの時に怒ってくれたのは、他の誰よりも傍にいてくれる者が大事だと理解していたからなんだな」

「…違うわ。あの時は単に高嶋さんを失うと思ったら…怖くて…」

「似たようなものだ。それにだからこそお前の言葉には説得力があった。だが、あの時のお前の言葉で私は自分の戦う理由を考え直すことが出来たよ」

「そんなの…あの人のおかげでしょ…」

「確かにラグナも私に行くべき道を教えてくれたが、それでも千景が間違いを指し示したことが一番大きい。だからな、千景」

 

若葉は千景に手を差し伸べてきた。

 

「私たちは…私は千景が必要だ。色々迷惑を掛けてしまうかもしれないが…それでも私はお前と共にいたい。ダメか?」

「……そこまで言われたら断るわけないでしょ。頼りにしているわ、リーダー」

「ああ、任せろ!」

「良かったですね、若葉ちゃん」

 

固い握手を交わす二人を見て、ひなたは嬉しそうに笑う。そうして勇者たちがしばらく時間を共にした後、クラヴィスが彼女たちを呼んだ。どうやら北海道での人間の生活圏をヴァルケンハインに探させていたらしい。

 

勇者たちは気を引き締める。北の大地へと足を踏み出すときはもうすぐそこまで来ていた。




例え未来を知らされることがあっても、彼女たちはそう簡単に諦めたりはしない。何せ自分たちが皆の明日を守り通したという生きた証が傍にいてくれたから。

それで次回なのですが、次は北海道に行く!あの娘が参戦しますね!…と言いたいところですが、ここで悲報。一回だけ、番外編を挟ませてもらいます。

理由は至ってシンプルで、久しぶりにジンたちも書きたいから。いや実際筆者にとってブレイブルー組の中でもジンは書いていて指折りに楽しいんですよ、本当に。大体カオスになる予定ですがお楽しみに。

因みに筆者として個人的に気になるのですが、皆さんはクロスオーバーした組み合わせだったら誰と誰が個人的に面白いのでしょうか?あまりこういうことは直接聞くべきではないかもしれませんが、気になるもので…気が向いてくれれば感想欄とかにちょこっと書いてくれるとありがたいです。

それではまた次回。
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