蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

もうハロウィンイベントも始まってしまいましたね。園子が手掛ける劇のシナリオなんてカオス以外の何が起きるというんだ…後半楽しみだぜ。

さて、今回でラグナたちは北海道へ!そこで何が待っているのだろうか…それではどうぞ


Rebel72.雪原の花

北海道の地に足を付けたラグナたちを最初に出迎えたのは極寒の雪風だった。二月が過ぎたばかりだとはいえ、気温は真冬の四国よりも低く、目に映るのは山と木と雪ばかりの世界だ。

 

現在彼女たちがいるのはある山の麓。その先から辛うじて街が見える。勇者服の上から厚手のコートを着た若葉が身体を押さえながら少し震えていた。

 

「さ、流石日本最北端…骨に染みる寒さだな…」

「クラヴィスさんが貸して下さった防寒具が無ければ凍え死んでいたかもしれませんね…」

 

一応自前のものを用意していた勇者たちだったが、クラヴィスにその話をするととても足りないから持っていきなさいと追加の防寒具を貰った。

 

「アンちゃんとラグナは結構平気そうだけど、大丈夫なの?」

「私の場合は主に使っている精霊のおかげで大分平気です」

「俺の方は…まあ、ジンと何度も戦っている内に慣れたとしか言えねえな。元々俺は厚着だしよ」

 

第一、弟の出す冷気は大体これと同程度で出力を上げればもっと寒くなったりする。これでへばっていたらラグナの命はまずなかった。

 

「ラグナのコートも暖かいからね~」

「え? 高嶋さん、どういう事?」

「ちょっと前に借りたことがあったんだ」

「…それ見たかったわ」

 

小学生の頃から着ている赤コートだが、戦闘で破れた物を直す度に袖や丈等を上手く調整したおかげでギリギリ今のラグナでも着られるものになっている。そのため、当然友奈よりも大きいので萌え袖状態になる。

 

そんな姿の友奈を見れなくて千景が少し悔しそうにしていると、ラグナはいつもより着こんでいるレイチェルに今回の目的地について聞いてきた。

 

「それでウサギ。その勇者がいるかもしれねえってところは何処よ?」

「『旭川市(あさひかわし)』の『神居古潭(カムイコタン)』と呼ばれるところよ。この辺りは山の神…『カムイ』がいるらしく、その庇護の元で人々は暮らしているわ」

「そうだったのか。それが四国の神樹みたいな存在なんだな?」

「そうよ、球子。でも、最近ではこの地でのバーテックスの攻撃は次第に激化していっているらしいわ。そろそろ限界が来てしまうそうよ」

「…どうやら思った以上にヤベーみてえだな。街の方を見ろ」

 

ラグナが街の方を指し示すと、山から下りたところに街があり、そこから見慣れた複数の星屑がそこを攻撃していた。

 

「もう襲われていたのか!?」

「神託が来なかったのはこちらの土地神様が私たちの存在をまだ感知していないからでしょうね…でもこれはバーテックス側も同様のはずです」

「それじゃあ、早く助けに行かないと!」

 

友奈の言葉に全員が同意する。今の北海道がどうなっているのかは分からないが、到着が早ければ早いほど生存者が多くなるに決まっている。

 

「急ごう。ここから見る限り、まだ襲撃はされていないようだ。今なら話が聞けるかもしれない」

 

人々の無事を祈って、勇者たちは街へと急いだ。

 

 

「てやぁッ!」

 

眼鏡を掛けた一人の少女が槍を投擲しながらバーテックスを次々と撃破していた。敵の数はかなりのもので、一人で捌き切るのには困難だった。

 

「もう。敵さん、今日はいつにもましてやる気満々だねぇ。少しは手加減してくれても良いんじゃない?」

 

気怠そうに愚痴る少女だが、長期戦でかなり疲労が出始めていた。だが敵の侵攻が止まらない。流石にこれは参ったと少女は渇いた笑いを出すが、そこへ別の勢力が乱入してきた。

 

「『飛翔閃』!!!」

「ブラッドサイズ!!!」

 

星屑の群れに若葉とラグナが切り込む。目の前の敵を切り伏せると、すぐさま二手に分かれて民家に迫る他の星屑たちを倒しにかかった。彼女たちに続いて他の者たちも参戦する。事態についていけない彼女に合流したひなたが寄ってきた。

 

「こんにちは。貴女が北海道の勇者ですね」

「確かに私がそうだけど、貴女たちもそうなのかな?」

「はい。四国から来ました、上里ひなたです。もう大丈夫ですよ」

 

ひなたの言葉に少女が一安心する。助けが来るなんて正直思っていなかったけど、来てくれたならこちらとしては万々歳だ。

 

「色々話したいとこだけど、取り敢えずこいつらを倒してからで良いかにゃ?」

「ええ。まずはこの窮地を切り抜かねばなりません」

「オッケー。だったら茶々っと片付けますか」

 

少女がそう言うと戦線に再び参加する。戦力が一気に増加したことで形勢が逆転し、無事に被害を出すことなく街を守り切ることが出来た。

 

戦いが終わると、人がどんどん若葉たちに集まっていく。人だかりの中から男性が彼女たちに必死の形相で問いかけてきた。

 

「何!? それでは救援が来たということですか!?」

「そういうことになります」

「ありがとうございます!! 皆ぁぁぁ!! 四国より勇者様と巫女様がいらっしゃったぞぉ!!」

 

エライ歓迎様だが、これが勇者たちが来た時の現在の北海道の有力者たちの反応である。彼らを含め、町民の心底喜んでいる様子を見て勇者たちは嬉しそうにしていたが、ラグナとレイチェル、そしてもう一人の少女は有力者たちの反応に苦い顔をしていた。

 

「…なーんかきな臭えよな」

「…同感ね。十中八九、腹に何かを抱えているわ」

「あちゃー。やっぱり分かっちゃいますかー」

「お前は分かるのか?」

「そりゃあ、ずっとここにいますからね。嫌でも耳に入って来るってもんですよ」

 

確かに助けが来たと喜んでいるのは分かる。だが同時に何か別の意図があることを感じた気がした。それが少女の話によると当たりらしい。やがて初老の男性がリーダーである若葉に声を掛けた。

 

「勇者様方。長旅にお疲れでしょう。どうですか?私の家に泊ってはいかがですか?」

「本当ですか? それでは」

 

若葉がその話を受けようとしたが、彼女たちの話に別の男性が割って入ってきた。

 

「何を言っているんだ。勇者様は私の家に泊らせるべきだろう」

「いや、家の方が良い」

「あの、皆さん?」

 

突然空気がおかしな方向に向かい始めて、勇者たちは少し動揺する。一方ラグナたちはというとその様子を見て少しイラッとした。

 

「あの野郎ども…テメェよりも小せえガキの前で何やってんだ…」

「全くだわ…みっともないったらありゃあしない」

「にゃはは…なんというか、面目ないね」

「…お前が謝る必要ねえよ」

 

自身のために『力』のある勇者(少女)たちを手元に置こうとしている。少しでも自分が死なないために。気持ちは分からないわけではないが、せめて見てないところでやれと言いたい。

 

「だがこいつぁ…やっぱバーテックスによる襲撃もデカいよな…」

「…お兄さん、とんでもないお人好しだね…聞き慣れてる私でも嫌になっちゃうのに」

「世界そのものが狂いだしたんだ、そりゃあ人間だってこうなるだろ…」

 

もしこの地がバーテックスに襲われていることがなく、世界が平和だったらきっとこんな打算的な行動を取ることなんてなかっただろう。

 

(どんな世界だろうとお構いなく周りをぶっ壊そうとする頭のおかしい連中もいれば、酷い世界だろうが真っすぐな連中もいる。でも…同時に世界がおかしいことを知ったから手を汚そうと考えてしまった奴もいる…)

 

ラグナは樹海に穴を開けて一度世界を滅ぼそうとした東郷のことを思い出す。結果的に世界は守られたわけだが、あれも結論から言えば天の神が原因で彼女の大切なものがどんどん失っていくという恐怖があったからだ。

 

それはこの北海道の民衆も同じだ。先の未来がいつ来るかも分からない死。しかもそれは化け物に無残に食い殺される最期が常に思考の端でチラついてくる。おかしくならないわけがない。

 

「…とにかく、アイツらが正しいかどうかの禅問答なんて今はどうでもいい。それよりもすぐにこいつらを四国に連れて帰ることが先決だ」

「そうね。腹に抱える程度なら別に泳がせても構わないわ。たかだかその程度で彼らを咎めるほど、私は鬼ではなくてよ。今は精々吠えさせておきましょう」

「テメェってこういう時は本当に頼りになるよな」

「あら? 珍しく褒めるのね。明日は嵐かしら?」

「明日どころか、さっきからずっと吹雪いてんだろうが」

「そうだったわね…それで、ラグナ。彼らをどうするの?」

「……まあ、見捨てるつもりもハナからねえけどな。助けるよ」

 

あんなことを言っているが、彼らだって被害者だ。好きでこうなったわけではない。勇者がいなかったことで完全な無法地帯となっていた大阪を思い返しながら、ラグナは助けることを選択する。

 

「そう。なら私は少し準備を整うために少し離れるわ。戻るのに一日くらいかかると思うけど、それまでにここの町民全員を一ヶ所に集めさせなさい。あの娘たちのことも、お願いね」

「任せとけ」

「はいな」

 

それを聞いてレイチェルは微笑しながら消え去った。周囲の人間がどよめいていると、ラグナが彼らのところに向かった。

 

「悪ぃな、遅くなった」

「ラグナさん、レイチェルちゃんとの話は終わりましたか?」

「まあな」

「そ、それより君! アレは一体なんだね!? あの娘が急に消えたように見えたが!?」

「そんなところだ。それとアンタたちに頼みがある」

「な、なんだね」

「レイチェル…さっきの奴だが、この街にいる皆を救助するための準備をするのに一日かかるみてえだ。だからそれまでこの街の人たちをどこかに集めてもらえるように手伝って欲しいんだ」

 

ラグナの話を聞いて、有権者の一人が声高に叫んだ。

 

「何を呑気なことを言っているんだ! 明日までに待っていたら助かる前に奴らが来てしまうかもしれないのだぞ!」

 

不安のせいで彼はその言葉を発する。気持ちが分からないわけではないが、ラグナが彼を諭そうとした。

 

「これだけの人数を避難させるんだ。それなりの準備が必要だろ? 急にやって準備不足で誰かが死んだらどうするつもりだよ」

「そ、それはそうだが…遅すぎても問題だろう!?」

「アイツは一日で、つまり明日のこの時間までには準備を全部済ませるって言ったんだ。だったら問題はねえよ」

「何を根拠にそんなことを!!?」

 

有権者たちの何人かが苛立ちを隠すことなく、彼に問い詰める。悪意を向けられたラグナを助けようと勇者たちが彼を庇おうとしたが、その前にラグナがきっぱりと言った。

 

「アイツを信じている。それが根拠だ」

「な…」

「アイツはいつも俺を揶揄ってうぜー時はあるが、アイツは嘘を絶対に吐かねえ。アイツがやるって言ったならやるよ」

「それで来れなかったらどうする!?」

「そん時は来るまで俺たちがここに残ってテメェらを守り続ける」

 

何の迷いもなく彼はそう言い切る。喧嘩し合いながらも何だかんだ二人はここでも相性がいい。ぶれない彼の眼を見て、有権者たちは引き下がった。

 

「……分かった。その言葉、忘れるなよ」

「ああ」

「では私たちは街の住人をここに集まるよう、呼び掛けよう。勇者様方はいかがなさいますか?」

「私たちは出来れば街の皆さんが集まっている場所が良いです。その方が皆さんを守りやすいですし」

「…分かりました。そのように手配しましょう」

 

そう言って彼らは勇者たちから引いた。正直なところ、先ほどの剣幕もあったので提案を出した杏も他の勇者たちも納得してもらえて内心ではホッとしていた。

 

大人たちが街の者たちを集会させる準備をさせるために一度彼女たちから離れていくと、少女がラグナたちと向き合った。

 

「さて、自己紹介がまだだったね。『秋原(あきはら)雪花(せっか)』だよ。よろしくちゃん」

「よろしくね、雪花ちゃん!」

 

真っ先に挨拶する友奈を始めに他の者たちも自己紹介していく。街の見回りをしながら雪花は次にラグナたちのことを聞いてきた。

 

「そういやさっきのは大胆だったねぇ。『アイツを信じている。それが根拠だ』だなんてさ」

「勘違いすんな。アイツとは意味わかんねえ理由でちょっかいを掛けられてるだけでただの腐れ縁だ。まあ、長い付き合いだからこういう時のアイツは信頼できるのは本当だけどよ」

「ラグナとレイチェルちゃんは仲良しだからね!」

「いや、そういうわけじゃ」

「へー…それは面白いこと聞いちゃったなぁ」

 

何故かこっちを見て雪花はニヤニヤしていた。その笑顔が何を意味しているのかは分からないが、なんとなく変なことを考えているのが分かる。

 

「…何がそんなに面白えんだよ」

「別にぃ~」

「…はぁ。なんか問い詰めても碌な答えが返ってくる気がしねえから聞かねえでおく」

「じゃあ私もそーゆうことにしておくわ」

 

なんだか変な印象を持たれてしまった気がするが、それを気にしていたら多分無駄な心労が増えるだろう。その後もラグナたちの北海道見学は続き、やがて日が沈み始めた。

 

「まあ、こんな感じかな。それで、これからどうするの?」

「今日は先ほどの人たちにも言ったように、街の人々のいる場所で留まる予定です。雪花さんはどうするんですか?」

「私は良いや。一人でいる方が気楽だし」

「そうか…明日はよろしくな」

 

それだけの別れを交わすと、雪花は自宅の方角へ向かい、ラグナたちは街の人々がいる集会場となっている近隣の学校の体育館へと帰った。

 

夜になって周りに多くの人々がいる中で友奈たちが眠りにつく中、ラグナは見張りのために一人起きたままだった。自分たちも見張りすると言う者もいたが、ラグナは自分は大丈夫だから明日に備えて休めと言ったのでその言葉に甘えて先に休んでいる。

 

少女たちの安全を確認してから少し気分転換に少し外に出ると、部屋の一つから明かりが見えた。気になって窓の側に立つと話し声が聞こえた。

 

「どう思う、先ほどの青年の話は」

「全く持って信じがたいな」

「この人数を連れて行く準備を一日待てだと?馬鹿馬鹿しい」

「しかし、これだけの数の勇者がいるのだ。船で何とか四国へ合流出来ないだろうか」

「だが…私にはあの青年が嘘を話しているようには見えなかったぞ」

「その青年が言っていた助けが来なかったらどうするのかね?」

「それに関しては心配ありませんよ。あの青年も言ったじゃあありませんか。助けが来るまでここに居続ける、と」

 

どうやら有権者たちは自分たちで打開策を考えていたり、自分たちを利用しようと考えていたようだ。あの場での言葉は自分との話を途切るためのものだったらしい。

 

聞くに堪えないと判断したラグナはその場から離れ、仲間たちがいる場所へと戻っていく。そこでは帰ったはずの雪花がいた。

 

「よう。こんな遅くに何やってんだよ。帰ったんじゃねえのか」

「ありゃ。こんな時間でも起きてる人がいたんだね」

「俺は見張りだよ。明日に備えて他の奴らには寝るように言っておいた」

 

それを聞いて雪花は悪戯っぽく言う。

 

「えー、そりゃあ羨ましいにゃあ。だったら私もそうしても良い?」

「…まあ、別に構わねえけど」

「いや、冗談のつもりだったんだけどね…私も夜の見回りの途中だし」

 

一度苦笑いした後、雪花は少し真面目な顔になる。それを見てラグナも少し警戒を強める。

 

「まあまあ、そう身構えなさんなって。ちょーっと聞きたいことがあっただけだよ」

「…何だよ」

「あの人たちを聞いて、どう思った?」

 

彼女が何について言及していたのかは分かり切っていた。彼女の態度から彼女はあのような話も何度も聞いているようだった。

 

「…聞いていて気分の良いモンじゃなかったとだけ言うよ」

「…まあ、そうなりますわな」

「別にそんなこたぁどうでもいいよ。ああいう連中はどの時代もいるモンだって知っているし」

「大人だね~。でも私には貴方が怒っているように見えるよ」

「…ここで下手に騒いで解決するわけじゃねえからな。ムシャクシャはするが、今はウサギの帰りを待つしかねえ」

 

そう言いながらもラグナの顔から苛立ちは消えていなかった。そんな彼に雪花は勇者たちのことを聞いてきた。

 

「ねえ、ラグナさん。あの娘たち、ここに来るまでああいう話に触れたことあった?」

 

雪花の言葉でラグナが真っ先に思い浮かんだのは研究所にあったマスターユニットへの接触実験についての日記だった。

 

「…一応はある」

「うーん。その様子だと嘘ってわけじゃないけど、あまりそっち系の話に耐性があるってわけじゃないみたいだね」

「そういやお前もここの勇者ってことは、連中の話を聞いたことが何度もあるってことか…大変だったんだな…テメェも」

「まあそこは色々ね。でもどうすんの? 貴方が守るつもりでも、あっちはそうじゃないみたいよ。場合に寄っちゃあ力が奪われたり、手元に置こうとしたりするかもよ」

「俺に関しては好きにすりゃあいいさ。だが…もし連中が本当にアイツらにまで手を出すようなら…その時はどんな理由があろうが黙ってるつもりはねえ」

 

そう言うラグナの眼は本気だった。もしそれを見たからなのか、雪花は小さく呟いた。

 

「…なんだか羨ましいな」

「なんか言ったか?」

「まあね…貴方は本当にあの娘たちのことを大事に思っているのが良く分かったよ。お偉いさんたちに遠ざけようとしてたりさ」

「下らねえ大人の喧嘩にまで意識を向けていちゃあ明日の戦いに集中出来ねえだろ。ただでさえアイツらは面倒事に巻き込まれやすいってのに」

 

頭を掻きむしりながらラグナは悪態を吐いた。そんな彼を見て、雪花が彼に忠告を残した。

 

「…ラグナさん、明日なんだけど…さっき山のカムイが言うにここ、結構大規模な襲撃を受けるかもだってさ。出発するならいつでも出かけられるようにしておいた方が良いよ」

「どういうことだ?まさかテメェ、巫女の力もあんのかよ?」

「いんや。ただ私は山のカムイや精霊と話が出来るんだよ。それで毎回襲撃の時期を聞いているんだ」

「…その山のカムイたちは何でヒナタには何も言わねえんだ? アイツは巫女だから神託を受けるはずだぞ」

「貴方たちの神様とカムイとじゃあ勝手が違うのかもね。まあ、もう一つ原因はあるけど」

「…俺か」

 

ラグナの推測に雪花は静かに肯定した。

 

「カムイが言うに貴方の存在は非常に危険だとさ。何せ、『バーテックス』が腕になってるみたいだからね。そんな人が近くにいるから簡単には情報をくれてやれないってさ」

「…否定はしねえよ。別にそっちが間違ってるわけでもねえからな」

「しかも周りの大人たちはこんなんばっかでしょ? 流石の私も敵を抱えながら戦うのは勘弁ですから様子を見に来たわけ」

「なるほどな。『街の』じゃなくて、『俺の』見回りに来たのか」

「ま、そーゆうこと。でも結局は何だかんだ良い人みたいだから情報を教えたらもう切り上げようとしてたわけ」

「…そうかよ」

「じゃ、私はこれで。じゃね」

 

そう言って雪花は夜の闇の中へと向かおうとした。その時だった。

 

「待てよ。せっかく来たんだ。もう寒いだろうし、こっちで泊まっていけ」

「いや、大丈夫だよ。こーいう場所なもんだから寒いのには……まあまあ慣れてるかな?」

「テメェの話じゃあ明日に襲撃があんだろ? だったらこっちにいてもらった方が連携を取る身としても助かる。アイツらも喜ぶだろうしな」

「そりゃあ…確かにそうかもしれないけど…」

「…それと今日は俺が見張ってる。だから変な輩は来ねえ。安心して休んでいけ」

「………仕方ないにゃあ…そんじゃ、お言葉に甘えさせてもらいますわ」

 

今でも若干警戒はしているが、ラグナや丸亀勇者たちが悪人でないことが分かったので、雪花は彼女たちと一緒にいることを決めた。

 

そうして夜は何気なく過ぎ、朝がやってきた。太陽がその姿を露わにするのと同時に大量の星屑が出現する。事前にラグナと雪花から話を聞いたため、丸亀メンバーも万全の状態で迎え撃つことが出来た。

 

「せっちゃんの言う通りだったね!」

「なんかいつも樹海に来る連中に比べたら何だかヘロヘロに見えるぞ?」

「でもそれならチャンスよ。これなら数が多いだけで案外簡単に倒せるわ」

 

千景が息込んでいると、そこへ小さな女の子が彼女たちの元へ駆けてきた。見覚えのあるその少女の相手を雪花が務めた。

 

「どうしたのかな? こんなとこにいたら危ないよ?」

「あ、あの。勇者様、これ!」

 

少女は菓子袋を手渡してきた。

 

「いつも頑張ってくれてる勇者様にあげる! 皆まだ朝ご飯食べてないっておばあちゃんから聞いたから」

「あはは。大丈夫だよ。お菓子は貴女でとっておきなさい」

「う~~~ん…でも…」

 

それでも少女は心配そうに勇者たちを見ていた。それを見て友奈が口を開いた。

 

「じゃあ、一つだけ貰っても良いかな?」

「うん!」

「雪花もそれで良いか?」

「まあ、それならいっか」

 

友奈たちが自分たちの分のお菓子を取ると、少女は笑顔で帰っていった。その後ろ姿を彼女たちは見届けた。

 

「ああいう娘もいるから、私たちも頑張れるんですよね」

「よーーーし!! お菓子のおかげで元気百倍!! 力が湧いてきたよぉ!!」

「皆、準備は出来ているな? 行くぞ!」

『おおっ!!』

 

勇者たちが学校の周囲を囲む形で陣取りながら敵を撃滅していく。先陣に立つ前衛の若葉、友奈、千景、ラグナ。彼女たちを後ろから援護する杏、球子に雪花。おかげで敵の数が大量だったにもかかわらず、殆ど苦労することなく撃退することが出来た。

 

(もし一人だったら、こんな簡単には行かなかったね…)

 

なんだか安心するな。槍で的確に相手を撃ち抜きながら心の内で熱を雪花は感じていた。大体片付き始めるとレイチェルが転移で戻ってきた。

 

周りの人々が彼女の元に集まっていくと、彼らを連れて転移した。暫くしてから友奈たちを連れて行くために戻り、こうして無事に北海道から撤退することが出来た。

 

 

「なあ、ウサギ…確かにテメェは準備をしてくれると言った…」

「そうよ」

「確かに準備が出来てたのは間違いねえよ…」

「当たり前でしょ」

「だけどさ…」

 

アルカード城に戻ってきた時、ラグナは目の前の状況に頭を抱えていた。逆に一仕事を終わらせたといわんばかりに誇らしげなレイチェル。その原因は目の前の光景だった。

 

「△△殿。少しこちらの鍋を見て下され」

「は、はい!」

「〇〇殿。貴方はこちらで洗濯の手伝いを。これから人が増えるのでな、手が足りんのだ」

「りょ、了解しました~!」

 

何故か大人たちがヴァルケンハインと共にアルカード城の家事に取り組んでいた。中には先ほどの有権者たちの姿見える。全く予想していなかった事実に勇者たち、特に雪花は驚きを隠せないでいた。

 

「………何があったの、これ?」

「四国の方の準備が出来るまでここで一時的に北海道の民を保護するの。でも何もさせなければ先ほどの街の繰り返しになってしまうわ」

「それでこんなことになったのか?」

「そうよ。何もしないことほど、人間を堕落させるものはないんですもの。保身に走るような話し合いをする時間があるなら少しでも働かせてはと思って、お父様に快諾してもらったわ」

「因みに子供たちは?」

「遊ぶことと学ぶことが子どもたちの仕事よ」

「そうかい」

「でも大丈夫なのかねぇ?反乱を起こっちゃったりしちゃうんじゃない?」

「案外そうでもないわよ」

 

彼女たちの見る方向ではおばちゃんたちがヴァルケンハインと話し合っていた。

 

「ヴァルケンハインさん。こんなのはどうだい?」

「うむ…これは美味ですな。あちらではよく使われる味付けですかな?」

「ええ。それでよければですが…おもてなしというのも兼ねてこれを使うのはいかがかね?」

「是非とも頼みますぞ。これほど素晴らしいものであれば、クラヴィス様も喜んでくださるでしょう」

「いやーもう。うまいこと言っちゃって~」

「それじゃあ任せて頂戴。腕によりをかけるよ」

「感謝します、ご婦人方」

「なんかナチュラルに溶け込んでんだけど、おっさん」

「流石はヴァルケンハインね」

「でもさ。街のお偉いさんはどうしたのさ?そんな簡単に従うとは思えないんだけどね」

「それも心配はいらないわ。ほら、そろそろ始まる」

 

レイチェルの言葉に続くかのようにヴァルケンハインが今度は有権者の男たちを集め始めた。

 

「さて皆さん、これから昼食の準備にダイニングの掃除を始めます。用品がある場所へご案内しますので、ついてきてくだされ」

「こんな広い部屋を全部か…」

「それも必要なことだ。偶には肉体労働をするのも悪くなかろう。では行くぞ」

『ひぃ~~…』

 

彼に逆らうことが出来ないため、大人しくヴァルケンハインについていくことにした。その様子を雪花は目をパチクリしながら凝視する。

 

「あのー…因みにレイチェルちゃん。これにお金とかは支払われるんですか?」

「当然働きに応じてお父様が払うわ。生活面でもサポートはするし、一応四国に行った時に困らないよう、食べていけるだけの技術を見に付けさせるわ」

「それはまたすごいな…大社も説得したのか?」

「ええ、彼らのための住宅が出来次第迎え入れるそうよ。因みに仕事を怠けるものやバーテックスが怖いなんて吠えて居座りたい臆病者は少し長めにいてもらって、ヴァルケンハインと一緒にアルカード式ブートキャンプを受けさせるのも考えているけれど」

「死人が出そうだから勘弁してやれ」

 

ラグナたちが彼女の発言した不穏なプロジェクトに突っ込んでいると、雪花は笑い声をあげ始めた。

 

「あははは!!いやーそれはまたキツそうだね~。私だったら絶対参加したくないや」

「私はヴァルケンハインさんは素手で戦えるって前にレイチェルちゃんから聞いていたからちょっとだけ興味あるな~」

「友奈さんは何を目指しているんですか…」

 

そんな風に少女たちは言葉を交わしているが、その時にひなたが急にふらつく。咄嗟に彼女の身体を若葉が支えた。

 

「大丈夫か、ひなた。疲れたなら部屋で休んで良いぞ」

「いえ、違うんです…」

「なんだって?」

「先ほど…神樹様から神託がありました」

「何があったの?」

「一つは…先ほど北海道の土地神様が四国の方へ移動したとのことです」

「良かったー!土地神様は無事だったんだね!」

「はい。それともう一つ。南国から四国へ近づいている船があったらしいのですが、四国の傍でバーテックスに襲われているところを歌野さんたちが無事保護してくれたみたいです」

「じゃあ、この前言っていた沖縄の勇者ってのは」

「それらしい人物が乗り合わせていたようなので恐らく無事でしょう」

 

若葉たちはその報を聞いて嬉しそうにしていたが、ひなたはというと少し不安そうな面持ちだった。どうしたんだとラグナが聞くと、彼女は深刻そうに言う。

 

「四国に再び危機が訪れる、とのことです」




ゲームでの秋原雪花の章ではかなりドロドロしていましたが、それでもぐんちゃんの村と大阪のアレとかに比べたらまだ現状としてはマシという(良くはない)。

さて今回で初登場、紫のメガネっ子勇者、秋原雪花参戦!原作では恐らく勇者の中で最も孤独だった娘ですが、今回は仲間ありです。ゲームでは杏同様、高速の援護射撃をしてきますが、こちらでもそれが発揮されるか。

次回、沖縄の勇者との合流の流れ(その頃の四国)とレクリエーション回!果たして何が起こるのか…多分今回以上に長くなるかも。その時は済まない。他に番外編もやるかもしれない。それではまた。
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