蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

このssを書くようになって早半年。遂に感想が100個になりました。今まで書いてくれた方々、ありがとうございます!

さて今回は沖縄の勇者との合流、そしてあのレクリエーション回です!勇者たちとラグナのバトルが今始まる。それではどうぞ!

The wheel of fate is turning...Rebel...1...Action!!


Rebel73.南北交流戦

ラグナたちが北海道にいた頃、一つの船が四国へ向かっていた。船では多くの人が乗っているが、かなり切羽詰まった状況に置かれているようだった。

 

「くそぅ…ここまで来てバーテックスに襲われるとは…」

「何とか四国の結界の中に入ればいいが、これではとても…」

「このままでは、外で守ってくださっている『(なつめ)』様が…」

 

船の外では彼らを守ってきた勇者の少女が懸命に戦っている。ようやく四国を覆う蔦の壁が見えるところまで来れたのだが、その周囲にいた星屑たちに自分たちは見つかってしまったのだ。

 

「『天破海神』!!!」

 

少女は今、武器のヌンチャクを振るいながら迫りくる敵を撃滅している。一度海の中へ潜水して敵の死角へと移動し、そこから飛び出て一気に敵を殲滅していた。それを繰り返す形でヒットアンドアウェーを繰り返していた。

 

だがかなり体力が減ってきており、これ以上戦うのは困難になってきた。どうしたものかと少女は悩んだが、そこへ新手がやってくる。

 

「多分呼ばれてないけどただいま参上!! バーテックス、テイクジス!! 『パイナポーボム』!!!」

 

気づけば頭上から数体のバーテックスが爆散しながら海の中へと沈んでいくのが見えた。すると船の上では自分の着ている勇者服と色が違えど同じものを身に包んだ少女がいた。

 

「良かったわ。何とか間に合ったみたい」

「済まないが…お前は誰なんだ?」

「白鳥歌野よ。貴女と同じで勇者をやっているわ」

「そうか…四国からの援軍が来たのか…」

 

それを聞いて少女は一先ず安心したが、まだ敵はいる。しかし、今は先ほどのような不安はない。

 

「私は『古波蔵(こはぐら)(なつめ)』だ。共に戦ってくれ、歌野!」

「オッケー!! バックはまっかせなさい!!」

 

陸と海の勇者が互いを背中合わせにして自分たちを取り囲む星屑へと目をやり、進行し続ける船の上で二人は戦う。旋風のようにしなる歌野の鞭は敵を切り裂き、棗の振り回すヌンチャクから出る変幻自在の連撃に捕らえられた敵は海流に攫われるように消え去って行った。

 

「『カキ・ハンドグレネード』!!!」

「『大海乱舞』!!!」

 

二人の勇者の活躍で誰も犠牲にされることなく、無事に危機を脱することが出来た。棗に船へ戻って疲労を癒すように言うと歌野は端末から丸亀で待っている水都に連絡した。

 

「あ、みーちゃん? うん。今沖縄の人たちをレスキューしたわ。出来ればヘルプに大社から誰か来て欲しいんだけど…え? 諏訪の皆も来てくれるって? ホントに!!? 皆、ありがとう!!!待ってるわ!!」

 

その後、大橋から結界の中へ入ってきた船は無事に四国の陸に到達し、沖縄の人々は大社の神官と諏訪の人々に助けられた。

 

「ありがとうございます…御礼に何といえば良いのやら…」

「いえ、私たちもあの子たちに助けられてきた身ですから」

 

様々な異なる地域の人々も勇者の存在でつながり合う。まもなくして遠征に出かけていた丸亀勇者たちが帰還し、大社に外の世界の状態を報告した。

 

現在、彼女たちはいつもののうどん屋で食事をしながら楽しく談笑している。新たな仲間が二人も増えて、以前よりも賑やかになってきた。

 

「しかし、香川のうどんは美味しいね。やっぱ本場は違うって感じだにゃあ」

「そうだな…これは美味しい」

「それはタマたちも同じだったな! 初めて食った時はほっぺが落ちるかと思ったぞ!!」

「本当にあの時は感動したな〜」

 

こうして様々な勇者が四国という一つの安全地帯に集結している状態に、ラグナはかつての世界の『イシャナ』を連想した。あの島も又、黒き獣という人類の敵を倒すために集った『六英雄』たちの拠点だった場所だ。

 

「お二人に喜んでもらえて何よりです」

 

ひなたが微笑んでいると、店内のテレビから大社の発表が聞こえてきた。主な内容としては南北の勇者たちとの合流やバーテックスの数が減っていることなどについてのものだった。

 

言っていること自体はそれほど違っているわけではないが、バーテックスの数がまだ多いという方が事実である。しかもまだ敵は切り札であるタケミカヅチを持っているんだ。だがその情報を流したりはしない。民衆が不安になることが分かり切っているからだ。

 

ある意味接触実験やラグナの正体についても話さなかった自分たちと同じなので、若葉たちは複雑な気持ちだった。因みに歌野たちにはラグナの事情や実験のことは説明している。

 

「そういえば皆さんは諏訪へは立ち寄ったんですか?」

「いえ。伊勢に赴いた後はレイチェルちゃんの城へ転移しました。その時にトラブルに遭いましたので」

「そうですか…出来ればタケミカヅチがどんな敵なのかを知りたかったんですけど…」

「…タケミカヅチか。結局はこの眼で見ることは出来なかったが、ラグナ。奴はどんな敵なんだ?」

 

若葉の質問にラグナが答える。

 

「…黒い巨人だ。俺の世界では身体が魔素の集合体で出来ていて、口から都市を一発で壊滅させる砲撃をぶっ放していた。ある意味、黒き獣の人型ともいえるな」

「問題はどうやって倒すか…ですね。一度勝っているラグナさんが再戦して死にかけた相手なら私たちは切り札を使うことになりますが…」

「切り札は勇者への負担が大きいと聞いているからな。そこがネックになってくる」

「でも確か、南北の神様が神樹様と合流したから結界の力とかが強化されて勇者の力も上がるようになったんだよね!だったらどうにかなるんじゃないかな?」

「…高嶋さんの言う通りね。彼の世界ならともかく、こちらの黒き獣が彼の腕と同じなら、敵はバーテックスよ。タケミカヅチがアレと同じような存在ならどちらも勇者の力が有効のはずだわ」

「また遠征する機会があったら、諏訪の方にも行きましょう…直接対峙する必要はなくても、どんな敵かを実際に見ることが出来ればそれだけ対策が立てられるかもしれません」

 

杏の提案は尤もだが、ラグナは彼女たちをタケミカヅチと対面させることに少し抵抗があった。確かに今は沈静化しているが、それでもそこはタケミカヅチ。何かの拍子でちょっとでも砲撃されたら間違いなく消し炭になる。

 

せめて遠目で見れれば良いのだが。そう苦悩していると、レイチェルが仕方ないと言いたげにしながらも提案してきた。

 

「…だったらその時は最低限の人数で行って、私も同行するわ。もし見られたらその時はすぐに撤退するし、万が一砲撃されたら…『アレ』を使う」

「…良いのか?」

「良いのよ」

 

レイチェルは何でもなさそうにそう言うが、それを使うということはそこまで勇者たちを大事に思ってくれていることだ。

 

「それに問題はタケミカヅチだけではないわ。ひなた、次の襲撃が来るのは何時かしら?」

「残念ながら時期までは不明慮で…ただかつてない事態が起こるとのことです」

「私も似たようなもので…ごめんなさい」

「そう…分かったわ」

 

ひなたたちや大社の巫女たちの神託でも襲撃の詳しい時期が分からないらしい。これからのことに不安を覚える者がいる中で友奈が明るく言った。

 

「大丈夫だよ。これだけ頼もしい仲間が増えたんだから、次の危機もきっと乗り越えられるよ!」

 

その言葉を聞いてラグナは改めて思い出した。自分が真正面から困難に突っ込んでいくことも大体の理由だが、自分は想定外の出来事に巻き込まれることが数多くあった。

 

それでも危機を切り抜けることが出来たのはいつの時も仲間たちのおかげだ。それが分かったラグナは笑顔で友奈に同意した。

 

「…そうだな。ユーナの言う通りだ。それにかつてない事態なんてこれまでよくあることだったしな」

「貴方ってそんなに器用に立ち回れたのかしら?」

「それでもここにいられるのは…まあ、テメェらのおかげだ。だから滅多なことは起きねえ。起こさせねえ」

「………………ふふ、そうね」

 

それを聞いてレイチェルも微笑む。そんなやり取りをしている内に若葉が一つの提案を出した。

 

「…なあ、皆。レクリエーションをやらないか?」

『レクリエーション?』

「ああ。雪花と棗さんの歓迎会も兼ねてやろうと思うのだが…どうだ?」

「その理由を聞いても良いかしら、乃木さん?」

 

千景の疑問に若葉は答える。今までにない状況に皆が不安を募らせているからこそ、自分たちは互いと触れ合い、共に生きる時間を楽しむ時間が必要だと。そのためにゲームでもして気分転換をしようと考えたのだ。

 

「その案、すっごく良いと思うよ!! 若葉ちゃん!!」

「…そういうことなら参加しても良いわ」

「タマもその案に賛成だな! あんずはどうするんだ?」

「私も賛成だよ。もっと二人と仲良くなりたいし」

「俺もその案に乗ったぜ。セッカ、ナツメ。テメェらはどうするんだ?」

「もちろん参加させてもらうよ。なんだか面白そうだしね」

「皆と少しでも多く触れ合えるんだ。断る理由はない」

「それで若葉ちゃん。どんなことをするんですか?」

 

若葉は自身の企画について説明をし始めた。やることは勇者たちとラグナを混ぜ込んだバトルロイヤルである。戦いの舞台は丸亀城の敷地全体で、使う武装は主に訓練用のもので切り札や魔道書は使えない。脱落の判定は本来の武器であれば致命傷だと判断される攻撃を受けた場合か、本人が降参した時とする。

 

そして最後までに残ったものがゲームの勝者となり、参加者に対して一つ好きな命令を下すことが出来る。つまりは勇者式王様ゲームである。

 

「どうだ?」

「良いですけど、ラグナさんは右腕が…」

 

水都はラグナの右腕が動かないことに少し懸念を示した。確かに彼は片腕でも十分強いが、視界が半分しかない分、死角が他の参加者よりも大きい。つまりこのルールでは最も不利な人物なのだ。

 

それを言われて少しルールを変更させてみようと若葉は考えるが、レイチェルがそれに待ったをかけた。

 

「まあ待ちなさい、若葉。貴女だって…本当は万全の彼と闘ってみたいと思っているでしょう?」

「それは…否定はしないな」

「正直者ね。ひなた、貴女も彼の本気を観測()たくはないかしら?」

「はい?確かに興味はありますが」

 

ひなたもレイチェルの言葉に賛同の意志を示す。しかしひなたにどうやって模擬戦を見れるようにするつもりなのかとラグナたちは疑問だった。しかし、レイチェルに抜かりはなかった。

 

「その心配は無用よ。私たちは最も貴女たちの闘いを見るのに相応しい観客席にいるわ。ひなたの力がラグナの腕に作用しない場所でね」

「それはどこなんだよ?」

「丸亀城の天守閣の屋根からよ。これだけ戦いの場から離れていれば問題ないと思うわ。二人には私と一緒に貴方たちの闘いを観戦させてもらうわよ」

「そこからでも見えんのか?」

「それなりに倍率の高い双眼鏡を使えば見えるわ」

「ではその形で進行してみましょう!」

 

その後の調べから、参加者の天守閣に近づくことは禁止というルールが付随されたことにより、漸く右腕が動くラグナと闘える条件が出来た。そして数日後、運命の歯車が回り始めた。

 

「おおッ!!!」

「ヤァッ!!!」

 

会敵してから三十分間、若葉とラグナは丸亀城二の丸で激しいぶつかり合いを繰り広げていた。お互い刃の無い訓練用の武装を使っているが、二人の気迫は本物。鉄芯入りの木製の大剣と刀の表面の木材が今にも壊れそうだ。

 

「沈め!!!」

 

右腕と右目が自由になったことでラグナの攻撃は普段訓練している時よりも力強いものになり、真正面から受ける度に骨がきしむように若葉は感じた。魔道書のことを考慮したとしても腕力は勇者のそれすらも凌ぐようだ。

 

「まだまだ!!!『蒼天一刀』!!!」

 

だが若葉とて簡単には負けられない。上手く刀と鞘で彼の猛撃を流して衝撃を和らげようとする。隙が出来れば若葉も素早い斬撃を繰り出して反撃した。

 

「そうはいくか!!!」

「くっ! やはり簡単には行かないな!!」

「ハッ! そう易々と喰らって堪るかよ!」

 

視界が広くなったこともあり、ラグナは自分に迫ってくる攻撃に気付きやすくなった。後は長年の経験で培った直勘を辿れば回避できる。一旦下がったラグナを逃がさんと若葉が切り掛かった。

 

「だが距離を離したのは失策だったぞ! これならば攻撃が来る前に懐に入って攻撃できる!!」

「そいつはどうかな?」

「何っ!?」

 

バックステップしながら身体を捻ると、ラグナの大剣の刃はずれていって変形した。今回のために特別に作られた武器で、こちらも普段使っている得物と同じように大鎌に変わる。ただしこちらではあのエネルギーの刃はなく、変形した大剣の剣身が鎌の役目を果たしている。

 

大きく大鎌を振り回してラグナは若葉に攻撃する。若葉は咄嗟に鞘で攻撃を防いで踏ん張るが、衝撃で大きく横へずれてしまった。それでも当たったのは鎌の柄の部分だったので、まだ脱落としては認められていない。

 

「流石だぜ、ワカバ。やっぱテメェ相手じゃあ隙は見せられねえ」

「ふふ…それはこちらの台詞だ。強いことは知っていたが、いざこうして対峙すると改めて思い知らされる」

「俺は寧ろ対人の方が得意だからな。そう簡単に負けてやれねえよ」

「それでも勝ちをもぎ取らせてもらう!!」

「面白え! やれるもんならやってみやがれ!!!」

「なら遠慮なく行かせてもらうよ!!」

「おわッ!?」

 

後ろから布で覆われた鉄甲で友奈が殴り掛かってきた。攻撃を何とか躱したラグナは武器を大鎌から大剣に戻して構えると友奈が若葉と合流していた。

 

「ユーナも来たのか…けどそれぐらいなら!」

「残念だけど」

「タマたちも」

「ここにいるぞ」

「ハーイ」

「え」

 

友奈の出現を皮切りにどんどん勇者が出現し始める。しかも全員自分を取り囲む形になっていた。

 

「さっきのを見てラグナは少なくともタイマンで闘っちゃあダメだってよーく分かった。というわけで、タマたち、勇者連合軍が相手だ!!」

「本気で闘えるようになったもの。このくらい、どうということはないでしょう?」

「じゃあ、こっちもフルパワーで行くわよ、ラグナ!! 貴方の力、見せてもらうわ!!」

「……ククク」

 

衝撃の事実が球子たちの口から出るが、ラグナは抗議はしない。寧ろ低い笑いを上げ始めた。少し容赦なさすぎたのだろうかと勇者たちは思ってしまったのだが、ラグナは大きく叫んだ。

 

「上等だ!!! その挑戦、受けて立とうじゃねえか!!! こっちも容赦しねえから全員纏めて掛かってきやがれぇぇぇ!!!!」

「分かった!!! 全力で行くね!!」

「皆、気を付けろ。ラグナは一筋縄では倒せないぞ」

「それには違いない。間合いの取り方や瞬時の判断は素人のものではなかった。気を引き締めよう…来るぞ!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

大剣を手に勇者たちの方へとラグナは突貫する。勇者たちも各々の形で回避行動を取る。反逆の再開だ。

 

天守閣の方でその様子を見ていたひなたと水都はその様子に苦笑いしながらも勇者たちとラグナの闘う様を微笑まし気に見ていた。

 

「ラグナさん…早くも大変なことになりましたね…まさかいきなり六対一になるとは」

「ここまで不利だとちょっと可哀想…本人は結構やる気満々だけど」

「彼自身も勇者たちの実力を見ておきたいでしょうからね。そもそも単独の彼に勝てないようでは、これから来るであろう強敵に勝つのは難しいわ。それはこの逆境に置かれている彼自身も然り」

「だから劣勢でもラグナさんは敢えてこの状況を受け入れている…ということですね」

「そういうことよ。闘いの興奮で気づいていないだけかもしれないけど」

「それはまたあり得ますね。ラグナさんと若葉ちゃんたちなら」

 

彼女たちから見て、ラグナたちの闘いは迫力満点だった。二人や三人同時に来たところをラグナが上手く武装や体術でいなし、反撃を加えてくる。正に大乱闘勇者兄妹状態だ。

 

正面から突撃してきた千景がラグナに鎌の一閃を加えようとしたが、それを彼は大剣で上手く弾き返す。だがそれでも千景は止まらない。怒涛の連続攻撃でラグナを追い詰める。

 

「『血濡ラレシ深淵』!!!」

「ブラックザガム!!!」

 

それに合わせてラグナも大鎌で応戦する。鎌同士が激しくぶつかり合って木粉をまき散らす。

 

「また腕を上げてきたじゃねえか、チカゲ!!」

「おかげ様で…ね!!」

 

だが二人が打ち合っているところで球子が千景の後ろからラグナに向かって旋刃盤を飛ばしてきた。

 

「くッ!!」

「千景、そこだ!!」

 

何とか旋刃盤を鎌で弾き飛ばすが、それが隙を作ってしまった。

 

「貰ったッ!!!」

 

球子の作った好機を逃さないよう、千景は身体を軸に回転しながら突進してきた。高速で回転してくる大鎌は今にもラグナの首を刈り取る手前だ。

 

「まだ終わりじゃねえぞ!!!」

 

しかしラグナも勝ちを譲るつもりは毛頭ない。自分も大きく身体を大きく捻ると大鎌を大きく切り上げてきた。

 

「『焦熱ノ遊戯闇刃』!!!」

「シードオブタルタロス!!!」

「っあ!!」

 

二つの鎌の激突を制したのはラグナだった。押し返された千景に反撃するため、すぐに攻撃に転じる。

 

「今だ、ブラッドサイズ!!!」

「させないよ!!『全力!勇者サマーソルトキック』!!!」

 

何と友奈がキックでラグナの攻撃を弾いた。急いでラグナは鎌を大剣に戻してそれを構える。友奈も千景の前に立ちながら彼と対峙した。

 

「まさか今のを弾くたぁな。やるじゃねえか、ユーナ!」

「悪いけどぐんちゃんはやらせないよ、ラグナ!」

「来るならこっちも負けねえぞ!!」

「いいえ、貴方の相手は私よ!!」

 

そう言って攻撃をしてきたのは歌野だった。しなる鞭は長距離からラグナへと飛んでくる。何とか後ろへ跳んで回避するが、歌野が友奈たちから彼を遠ざけるように攻撃を続行する。

 

「友奈さん! ここは私に任せて、千景さんと一緒に体勢を整えて!」

「分かった! ありがとう、歌野ちゃん!」

「ここでウタノか!中々面倒なことになったぜ!」

「さあ、行くわよ!イッツショータイム!!『ソラナムフラワー』!!!」

 

歌野の鞭による乱れ打ちが容赦なくラグナに叩きこまれていく。ラグナも堪らず大剣で直撃を防ぎながら後退していった。友奈は後ろの千景へ振り向いた。

 

「ぐんちゃん、大丈夫だった?」

「平気よ、高嶋さん。さっきは助かったわ」

「えへへ。気にしないで。それにしてもやっぱりラグナは強いな~」

「ええ。間違いなく人はもちろん、これまで戦ってきた進化型のバーテックスよりも強いわ。この人数で苦戦するなんてデタラメすぎるわよ」

 

千景は悪態を吐くが、それを見て友奈は嬉しそうに笑っていた。

 

「高嶋さん? 私の私の私の顔に何か付いているかしら?」

「ううん。でも今のぐんちゃん、すっごく楽しそうだから」

 

友奈の言葉に千景も覚えがないわけではない。ここまで自分の力が通用しない相手を前にしているのに、感じるのは嫌悪ではなく高揚。ゲームで言うなら難易度地獄級の隠しボスと闘っている気分だ。

 

殺し合いではなく、純粋な力比べだからこそこの感覚を感じることが出来る。千景は何とか立ち上がりながらそう考えた。

 

「そうね…確かに…少し楽しいかも」

「あはは! 今のぐんちゃんの顔、とっても素敵だよ!」

「そ、そうかしら?」

「うん!」

「ありがとう…そういえばあの人たちは…」

「あそこだね」

 

見ればラグナは歌野と加勢してきた若葉と棗に苦戦を強いられていた。歌野の鞭が的確にラグナの足場へ攻撃してくるため、動ける範囲が限られてしまっている。そこで更に若葉と棗を相手にしなければならないのだから全く気を抜くことが出来ないでいた。

 

「クソッ! 攻撃のキリがねえ!!」

「いくらお前でも三対一は厳しいようだな!」

「ハッ! 後で逆転されても知らねえぞ!」

「悪いが、そろそろ決めさせてもらう」

 

そう言って棗はヌンチャクを振るう。その時に出来る不規則な軌道から飛んでくる打撃が原因で先ほどからラグナは苦戦していた。

 

「『連波双連撃』!!!」

「『桜乱閃』!!!」

 

そこへ更に若葉まで加わってくると防戦一方になってしまう。何とか攻撃を大剣で耐えながら、ラグナは歌野にも注意を払う。何とかこの密着した状態から抜け出さないといずれ自分がやられてしまう。

 

「そこだ!!!『ベジタブルストライク』!!!」

「甘ぇ、よっ!!」

 

歌野の攻撃が自分に向かって飛んでくると分かると、ラグナは素早く横へと跳んだ。そこへ棗は素早くヌンチャクで会心の一撃を放つ。

 

「甘いのはお前だ!『海鳴一心撃』!!!」

「ぐあっ!!」

 

真下からの攻撃はラグナの手から大剣を吹き飛ばした。武器が宙に舞い、今のラグナは手ぶらになってしまった。

 

「行け、棗さん!!」

「ああ。『海明蒼打』!!!」

 

若葉の呼びかけに応じて棗は攻撃を仕掛けてくる。武器がない今、攻撃を防ぐことは出来ない。それに例え万が一武器の落下が間に合って取り戻すことが出来ても、予測不能な場所から飛んでくる攻撃に今対応するのは至難の業だ。

 

だがその棗の攻撃が繰り出される前にラグナの方が動いた。

 

「ヘルズファング!!!」

「ぐはッ!!?」

『棗さん!?』

 

武器を失ったラグナはすぐさま徒手格闘での闘いに移った。素早く突進しながら相手にパンチを決め、もう片方の腕で追撃の一発をかます。当然蒼の魔道書を使っていないので瘴気は発生させていない。

 

「ぐっ…まさか素手で突っ込んでくるとは!」

「今度はこっちの番だ!!!」

 

怯んだ棗に掴みかかったラグナは彼女を歌野のいる方へ投げた。落ちてくる大剣を空中で取り戻すとラグナは大剣を構えて空中で突撃してきた。

 

「ベリアルエッジ!!!」

「うわあぁ!!」

「ひゃあ!!」

 

回避しようとしたが間に合わず、今の攻撃で歌野と棗はリタイヤ。追い詰められた状態で形勢を逆転したことに球子は驚くしかなかった。

 

「二人を同時に倒すとかこっちに取っちゃあタマったもんじゃないぞ…」

「これが敵だったらと考えるとゾッとするな…」

「これで四対一だぜ!!」

 

若干疲れが見え始めたが、それでもラグナの眼から闘争心は消えていない。いまだに姿を見せていない杏や雪花のことは気がかりだが、今はまず目の前の相手を全員倒すのが先決だ。

 

「今度は私が行くよ!!」

「いいぜ、ユーナ! 今度こそ決着を付けてやらぁ!!」

 

次に友奈がラグナと激突する。友奈はラグナに比べてリーチこそ短いが、接近されればラッシュで押し切られてしまい、下手すれば若葉よりも脅威である。だがそれでも臆せずラグナは攻めの姿勢で挑む。

 

「でりゃッ!!!」

「なんのぉ!!!」

 

とにかく友奈に攻撃の機会を与えないように攻撃をし続ける。友奈も彼の攻撃を手甲で弾きながらも一切後退しない。両者互角のまま、拮抗し続ける。

 

「ガントレットハーデス!!!」

「『押忍!勇者キック』!!!」

 

そんな中、ラグナは友奈のガードを崩そうと彼女に向かって跳躍しながらパンチとキックを叩きこみ、友奈もそれに応じて二度のハイキックを放つ。結局両者とも決定打を得ることは出来なかったが、ラグナはそれで終わりではなかった。

 

「これならどうだ!! インフェルノディバイダー!!!」

 

さらに大剣を切り上げてきたが、友奈は命中する前に後ろへ下がった。

 

「ぐんちゃん、交代!!」

「任せて、高嶋さん!『鮮血ヲ舐メリシ凶刃』!!!」

 

空中で二人の一撃がぶつかり合い、お互いとも弾き飛ばされた。

 

「ナイスファイトだったよ、ぐんちゃん!」

「さっき守ってくれたから、そのお礼よ」

「でもあっちもまだ余裕あるって感じだな」

「だが疲労しているのも確かだ。ここで肩をつけるぞ!」

 

少女たちはそれぞれの武器を構える。対するラグナも四人を見据える。

 

「本当の戦いはここからだぜ。死神の名は伊達じゃねえってことを教えてやるよ」




流石にバトルパートが長くなりすぎると考えたので、一旦後半戦は次回に回ります。後衛組もそこから本格的に動き出しますね。

今までは模擬戦で闘ってきたのはハンデ付きでしたが、今度はハンデなしのラグナ君。統制機構の支部を潰しまくってた元SS級犯罪者兼賞金首は簡単には倒せない。

さて次回はレクリエーション後半戦!資格者(勇者)の激闘を制し、蒼(王様の命令権)を手に入れるのは誰だ!?それではまた。

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