蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

ゆゆゆ五周年、そして赤嶺ちゃん参戦おめでとうございます!これからの原作での彼女たちの活躍をこれからも期待していますよ!

さて今回の話ではレクリエーションの勝者が決定!長い闘いの果てに何が待っているのか…それではどうぞ!

The wheel of fate is turning…Rebel…1…Action!!


Rebel74.闘いの覇者

「うひゃ~、皆張り切ってんね~」

 

遠目から雪花は敷地内の林でラグナたちの闘いを観察していた。近接戦が出来ないわけではないが、若葉たちには劣るのでこうして数が減ったところを待つ算段でいた。

 

「ま、一度こうして潜伏していた方が体力を温存出来て良いんだけどね…と思ったけど!」

 

後ろからの攻撃を察知して雪花は後ろを振り向いて槍を投げる。投げた場所からはガサッと音を立てるとそこからもう一人の参加者が姿を現した。

 

「やっぱり杏だったかぁ…」

「あはは…雪花さんはやっぱり分かってたんですね」

 

出来ればもう少しここであの四人の様子を監視していたかったが、見つかった以上は撤退するしかない。ここでは自分の武器である投げ槍を使うのに障害物が多すぎる。

 

「待ってください。私は雪花さんに協力を要請しにきたんです」

「協力?それはまた急だね。何で」

「この闘いの勝敗はどうあれ、恐らく最低でもラグナさん一人か複数の勇者です。残った皆は私たちが遠距離から闘えることを知っているから一人で闘おうとはせず、協力関係を結ぶと思います」

「だから私たちもってことか…」

 

そう言って雪花は暫く考え込んだ後に答えを示した。

 

「ん、分かった。じゃあそーゆうことにしますか」

「では暫くあの闘いの様子を見守っていましょう」

「そこまで堅実に事を進めるなんてよっぽどやりたいことがあるんだねぇ」

「まあ、そんなところです」

 

そうして二人は若葉たちとラグナの激闘へと注意を向けた。ラグナは殴り掛かる友奈は蹴りで後退させ、斬りかかる若葉と千景の攻撃は大剣で受け止めて弾き返し、更に球子の旋刃盤は叩き落としていた。その様子を先に脱落した歌野と棗は見ていた。

 

「この人数でも闘えるとはな…大したものだ」

「でもラグナのムーブもさっきよりはスローになってきてるわ!」

「言ったはずだぜ!簡単にゃあ負けてやらねえってな!」

 

ラグナの剛腕から振るわれる大剣の一撃が若葉を後退させると、今度は若葉達を援護している球子に狙いを定めた。彼女に飛び掛かると同時に大鎌を出して切り掛かる。

 

「ブラッドサイズ!!!」

「まだやられてタマるかッ!!」

 

大鎌による攻撃を球子が旋刃盤で弾くと、彼女は空中のラグナに向けて旋刃盤を向ける。この距離で攻撃されれば命中する可能性は高い。

 

「どうやらタマの勝ちみたいだな、ラグナ!」

 

球子はすかさず旋刃盤を飛ばす。だが自分に攻撃してくるのはラグナも分かっていた。

 

だからラグナは着地する前に大鎌を大剣に戻し、一気に大剣を切り下ろしてきた。

 

「ナイトメアエッジ!!!」

「な!? こうげ、のわぁぁぁぁ!!?」

「タマちゃん!!」

「土居さん!!」

「球子!!」

 

球子は旋刃盤ごとラグナに切り伏せられてリタイヤした。後方からの貴重な援護を失ってしまい、少女たちも一層緊張を高める。

 

「くっそ~…いけると思ったけどな~」

「テメェのイケイケなところは良いとこだけど、あんまやりすぎると読まれるぞ、タマコ」

「だがこれで後は私たちの三人か…」

「まだせっちゃんやアンちゃんがいるかもしれないからそうとは言い切れないけど…」

「でもあの娘たちには逢っていない。だとすると協力してくれる可能性は低いわね」

 

彼と今対峙している少女たちは考え込む。このメンバーで小細工をやるのは難しいだろうし、相手も並の力で押し切れる相手ではない。そんなときに友奈があることに気付いた。

 

「……若葉ちゃん、ぐんちゃん。ちょっと話したいことがあるんだけど」

「どうしたの、高嶋さん?」

「私の作戦だけど」

 

暫くゴニョゴニョと話し合っているが、千景が友奈の話に良い顔をしなかった。

 

「その作戦には反対よ。上手く行くどうかは分からないし、第一それでは高嶋さんが…」

「…友奈。お前、本当にやるのか?」

「うん。私もラグナに勝ちたいからね」

「でも高嶋さん…」

「大丈夫だよ、二人とも。私だって簡単にやられるつもりは無いから!」

 

友奈が大きく笑う顔を見て、千景と若葉は納得する。何をしているんだろうとラグナが三人の様子をうかがっていると、友奈が彼と対峙する。

 

「ラグナ、お待たせ! 今すっごいのを行くよ!!」

「おう! どっからでもかかってこい!!」

「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

気合いを拳に込めると友奈は全速力でラグナの方へ駆けて行った。それを見てラグナも大剣を振りかぶり、友奈に向かって突進する。両者は激突と同時に渾身の一撃を炸裂した。

 

「『爆裂!! 勇者…パーーーーーンチ』!!!!」

「カーネージ…シザーーーーーーー!!!!」

 

友奈の手甲とラグナの大剣の激突は丸亀城中に響くような轟音と衝撃波が発生させた。思わずそれで若葉と千景、少し離れた位置にいる杏と雪花も顔を守る。

 

だが残念なことにラグナの攻撃は終わっていない。身体を捻って振り下ろした大剣をぶん回し、友奈の胴を捉える。これで友奈もリタイヤだ。

 

「きゃっ!」

「危ねえ…今の一撃はマジで鳥肌も…てなんだこれ!?」

 

友奈に攻撃を当てた時の感触に違和感を感じたラグナが手を見ると、そこにあったのは柄が根本から完全に折れ曲がり、ヒビの入った刃の部分も可動部にめり込んだ自身の木剣だった。

 

ラグナは友奈の方を見る。彼女はというと自分に向けて小悪魔のような悪戯っぽい笑顔を見せていた。

 

(まさか…ユーナの狙いは、俺の武器を先にぶっ壊すことだったのか!?)

 

友奈はラグナの武器を見た時、それがこれまでの激戦でかなりダメージがたまっていることを見破った。勇者の中で一撃の破壊力が一番高い自分なら今、その武器を無力化することが出来る。

 

もしラグナが彼女との力比べに応じなければ彼女はただやられただけだったかもしれないので、かなりリスクの高い作戦だった。しかしおかげで形勢が大きく逆転した。

 

可動部まで壊されていては、大鎌に変えることも出来ない。試合でのラグナの当たり判定となる武装はこれで殆ど使い物にならなくなってしまった。

 

何とか峰を掴んで構えようとしているとすぐに若葉と千景が神速の勢いで接近した。

 

「友奈が作り出したこのチャンス…逃すわけには行かない!!!」

「これで…終わりよ!!!」

「クソッ!!」

「いっけー、二人ともぉぉ!!!」

「タマたちの仇を討ってくれぃ!!!」

「『祈祷緋那汰』ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「『天界ノ毒炉鎌』ぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぬあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

若葉と千景の二人が全身全霊でラグナに必殺技を叩きこむ。盾にもならない壊れた武器では抵抗することも敵わず、ラグナは成すすべなくリタイヤした。

 

「ラグナが吹っ飛んだ!てことは…」

「やったぞ、皆! 私たちが勝ったんだ!!」

「本当に…私たちが…あの人に…」

「コングラチュレーション、若葉、千景さん!」

「見事な連携だったぞ」

「二人とも! 最後の同時攻撃、カッコよかったよ!!」

 

勇者たちは優勝における最大の難関を突破したことに喜び合う。ラグナも吹っ飛ばされたところから起き上がると少し悔しそうにしながらも少女たちに賛辞を贈った。

 

「やられたぜ。テメェら、本当に強くなったな」

「私たち全員でなければ勝てなかったよ。次こそは一対一で勝つからな」

「タマも、タマも!」

「わーった、わーった。そん時もまた相手になってやるよ」

「それより乃木さん。安心するのはまだ早いわ」

 

千景の言う通り、雪花と杏の姿はまだ確認されていない。二人は遠距離から攻撃出来る分、姿が見えないということはかなり危険だ。下手をすれば一方的に攻撃されてしまうこともあり得る。

 

「そうだな。取り敢えず二人を倒すまでは共に行動した方が良いだろう」

「…そうね」

 

千景が若葉の提案に同意すると、横から矢と槍が迫ってきた。二人は急いで回避し、矢が飛んできた方角を見る。あちらもあちらで移動を開始したようだ。

 

「どうやら、向こうは場所を変えるつもりのようだな」

「どうするの?」

「無論、追いかけるさ」

 

若葉と千景は杏たちを逃がさないように追跡する。攻撃されやすい位置へ移動されては不味い。しかしあちらもこちらの接近に気付いたのか、向かってくる自分たちに攻撃を仕掛けてきた。

 

その攻撃を若葉と千景は回避したり、攻撃を弾いたりして彼女たちに接近する。そうしない内に二人は杏たちに追いついた。

 

「ようやく追いついたぞ、杏、雪花!」

「これでやっとまともに闘えるわ」

「若葉さん、千景さん。決着の時が来ましたよ」

「悪いにゃあ。一応こっちも勝ちたいからね、手は抜かないよ」

 

四人は今か今かと戦闘態勢に入る。ジリジリと互いに接近しながら武器に手を取る。そしてとうとう両者の闘う運命がついに交差する。

 

「うおぉッ!!」

 

我先に地面を蹴って若葉が杏たちに接近する。その攻撃を雪花が槍で受け止めた。

 

「むっ、雪花は接近戦も出来るのか!!」

「これでも一人で戦っていたからね! どっちも出来ないとやってられないってもんですよ!」

「乃木さん、危ない!」

 

千景の声に応じて若葉も後退する。どうやら杏が横から射撃してきたようで矢も素通りしてしまった。

 

「こうなったら私が伊予島さんの相手をするわ」

「分かった。頼んだぞ、千景」

「千景さんのことは私が何とかしますので、雪花さんは」

「ノギーだよね。まあ心配しないでちょ」

 

互いのタッグが役割を振り分けると、再び闘いが始まる。雪花と若葉は武器を打ち合い、千景は杏の(いしゆみ)による連射を躱しながら彼女に鎌で切り掛かる。

 

「ノギーの攻撃は重いね~、もう少し優しくしてもいいんだよ?」

「そう言っている割には攻撃を全部捌いているではないか」

 

事実若葉の攻撃を雪花は全ていなしている。必要以上に力を入れず、適度にやり過ごしたところを槍で突いてくるのだから若葉の攻めが中々功を奏さない。

 

何とか優勢に回りたいところだが、槍のリーチが長い分、攻撃範囲が広い。間合いでも今は雪花の方が有利なのは変わらない。

 

(何とかこの状況を打開したいところだが…そうだ!)

 

その時、若葉は策を思いつく。再び彼女は雪花に対して猛烈な刀の連打を加えるが、今度も雪花はそれを上手く受け流す。

 

「おんなじように攻撃しても私は突破できないからね」

「ぐッ…」

「今度はこっちから攻めさせてもらうよ!」

 

雪花が若葉の攻撃を弾き終えると若葉の剣技にも劣らない凄まじい速さの乱れ突きを放ってきた。

 

「『神威乱槍舞』!!!」

 

雪花が繰り出した連撃は無数の点となって若葉を襲った。しかし彼女が攻撃することを若葉は待っていた。自身も神速の居合で全ての攻撃を叩き伏せて、攻撃が止むと同時に雪花へ突撃する。

 

「そう来たか! でも思い通りには行かせないよ!!」

 

若葉の接近を見て雪花も槍を横へ振って若葉を薙ぎ払おうとする。だがそれは彼女に命中することはなかった。

 

「おおおおおおぉぉぉ!!!!」

「嘘!?」

 

若葉は手に持った鞘で雪花の攻撃を受け止めながらも歩みを止めなかった。もう片方の手にある木刀を前面に出しながら弾丸のように突っ切る。

 

「これでどうだぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁ!!!」

 

会心の突きが決まり、雪花は後ろへ吹き飛ばされる。これで彼女もリタイヤだ。

 

「あいたたた…攻撃が来るのに突っ込むなんてとんだ脳筋だよ…」

「これぐらいしなければお前を突破できるとは思えなかったからな」

 

後は千景の方か。そう考えて彼女の方へ振り向くとそこでは杏が自身に向かってくる千景に弩を撃ちながら回避していた。追いかける千景の方が若干辛そうだ。

 

「くっ!」

「まだ負けません!」

 

杏は千景を抑えるのに、攻撃の度合いを調整しながら自身の立ち回りやすい状況を作っていた。おかげで自分は千景がどこへ攻撃するのかが分かるし、自分も最低限の動きだけで彼女の攻撃を回避できる。実際に先ほどから翻弄されている千景はかなり辛そうだった。

 

「千景、加勢するぞ!」

「乃木さん!」

 

若葉が助太刀に入り、千景の注意が僅かに彼女へ向いた瞬間、杏は弩を彼女たちに向ける。すると彼女の前方から流星の如く、矢が二人に向かって射出された。

 

「今です!『ルルージュエルノアール』!!!」

「うあッ!!」

「あッ!!」

 

若葉と千景に矢がそれぞれ命中し、これで二人はリタイヤ。これにより、このレクリエーションでの勝者は杏となった。

 

「うーん。最後は勝てると思ったのだがな…」

「最後の最後で伊予島さんに隙を突かれてしまったわ…」

「でも今の躱されたら流石にもう降参するしかありませんでしたよ」

「それでも結果として杏は勝ったんだ。間違いなく実力でな」

「ありがとうございます」

「ところで杏はどんなことをする予定なの?」

「それはですね~…」

 

そう言いながらニヤケる杏に若葉は何とも言い難い不安を感じるのであった。

 

 

「私と付き合えよ、球子…」

「そんなことを言われても…タマには他に好きな人が…」

 

教室に戻った若葉は男性用の制服に着替え、普段結っている髪を下ろしてしおらしくなった球子に壁ドンをしていた。周りでは彼女たちの様子を見守るラグナたちとカメラで激写するひなた、そしてメガホンを取った杏がいる。

 

杏の命令とは自身が読んでいる恋愛小説のシーンを勇者たちが実演で再現することである。最初は真似事かと思ったが、どこから取り寄せたのか、芝居用の衣装を揃えており、いつでも出来るように準備していたようだ。

 

そして今が若葉たちの番である。若葉は俺様系の男子を演じており、球子の役柄は大人しくて内気なヒロインである。二人が絡んでいると、教室が開くと同時に友奈が入ってきた。

 

「やめなよ、若葉君。球子さんが嫌がっているじゃないか」

「高嶋君…私…」

 

友奈が入って来るのを確認すると球子の顔は徐々に赤くなっていく。もちろん演技…のためではない。

 

「うがぁぁぁぁぁ!!!」

「ハイ、カットー! タマっち先輩。ダメだよ、急に暴れたりしたら」

「だからこんなこと、タマには出来ないって!!」

「いや~。結構様になってたよ、タマちゃん」

 

雪花はこう言ってくれているが、普段あまり女子らしいことに免疫のない球子からすればヒロインの演技はかなりむず痒く感じたようで、正気に戻らなければ自我崩壊の一歩手前だった。

 

「大体何でタマがヒロイン役なんだよ!!」

「だってこのヒロイン、背が低い設定だから」

「タマがチビだってか!!? それだったらレイチェルにやらせればいいだろ!!?」

 

自分よりも瀕差ではあるが、背の低いレイチェルを球子は推薦する。彼女ならばこの役にぴったりだろうというのが球子の言い分だった。

 

「確かにそうだけど…レイチェルちゃんはレクリエーションに参加してないし」

「そんなの本人に頼んでみないと分かんないだろ! どうだ、レイチェル!? タマと交代してくれタマえよ!!」

「今の貴女の方がとても魅力的なのになぜ私と交代する必要があるのかしら?」

「そんなぁぁぁぁぁぁ!! あんまりだぁぁぁ!!」

 

代役の有力候補に断られてしまい、どうすれば良いんだと嘆く球子。若葉達はというと自身の配役についての感想を話していた。

 

「しかし…私が男子役とはな。こういうのはあまり慣れないのだが」

「私もちょっと恥ずかしいかな」

「いえいえ!! 素敵ですよ、お二人とも!!」

 

カメラから手が離せないひなたは残像を残しながら三人を撮っている。文句を未だに言う球子に杏は代案を出してきた。

 

「しょうがないな…だったら若葉さんたちの役を別の人にやらせるのはどう?」

「誰にだよ?」

「そんなの…棗さんとラグナさん以外誰がいるの?」

「私たちか」

「……なんとなーく予想はしてたよ…」

 

杏の次の指名はラグナと棗だった。正直こういった事柄とは無縁だったラグナからすればどうやれば良いのかは分からないが、約束した以上はこなす。それは棗も同様のようだった。

 

「分かった。やろう。それで私はどちらの役をやれば良いんだ?」

「テメェは意外とノリノリだな」

「元よりそういう頼みだからな。それに皆が楽しそうだからしっかりとやりたい」

「…それもそうだな」

「それでは棗さんは友奈さん。ラグナさんは若葉さんのやってた役でお願いします」

『ああ』

「え、マジで?」

 

正直二人が拒否すると考えていた球子は驚きを隠せなかったが、二人が参加する以上、自分が不平ばかり言っても仕方がないので条件を飲むことにした。こうして三人の劇が始まる。

 

ラグナは球子に壁ドンして顔を近づけようとする。しかし、その時にあることに気付いた。

 

「…なあ、タマコ」

「なんだ」

「今の状況、どう思うよ」

「ぶっちゃけ見下ろされてるって感じが強くて全くドキドキしないぞ」

 

そう。残念なことにラグナと球子とでは背丈が三十センチ以上も差があるため、壁ドンすると互いの顔を見るのに苦労してしまう。これではラグナがしゃがむしかないが、それでは子どもをあやしている大人にしか見えない。

 

「悪ぃ、アンズ。俺では駄目みたいだ」

「うーん、性格とか声とかは役とぴったりだからやらせたいけど…でもそれだったら…」

 

杏が何かを閃いたようでラグナと棗を集めて何らかの指示を送ると、二人はそれぞれの配置に着いた。球子に壁ドンしてきたのは棗の方だった。

 

「私のものになってくれないか、球子」

「で、でも…タマにはもう好きな人が…」

 

ここまでは先ほどの若葉たちと同じだ。しかし次に棗は行動に出る。足を球子の股の間に入れ、顎を指で持ち上げて彼女の視線を自分の方へ向けさせた。

 

「ふぇッ!?」

「ん? どうした? そんな可愛い声を出して」

「ぁ…んぁ…」

 

急に変な声を出してしまった球子に対して棗は疑問に思った。対して壁ドンをされている方の球子は全く冷静ではない。目と呂律がグルグル回っていて思考がオーバーヒートを起こしていた。

 

「あらあら? これはまた面白い展開になりましたね」

「た、タマちゃんの顔が真っ赤になって頭から煙が出てるよ!」

「伊予島さん…貴女、まさか…」

「きゃーーー! タマっちぃ、可愛いよタマっちぃ!!!」

 

千景は荒ぶる杏を見て全てを察した。大方彼女はラグナと棗に先ほどのシーンで交代すると同時に追加注文をしたのだろう。

 

「私は…お前を誰にも渡したくない。お前はどうなんだ?返事を聞かせてくれ」

「た……た……ま……は…」

 

もう大慌ての球子に向けて棗は更に聞いてくる。だがそこへラグナが入ってきた。

 

「ちょっと待てよ」

「ちょっと待てよコーーーーーーーール!!!!!」

「騒ぎ過ぎだっての! …そいつから離れろ。嫌がってんだろうが」

「そう言うお前も彼女を手にしたいだけだろう? 残念だが私が先に彼女に話しかけたんだ。退いてもらうぞ」

「だったらなおさらだぜ。テメェみてえな野郎に譲ってやれるほど安い女じゃねえんだよ、そいつは。悪ぃが…力づくでも止めさせてもらう!」

「やれるものならやってみろ」

「…ゃ……ゃ…やめて!た、た、タマなん…かのために……争わないでぇぇぇぇ!!!」

 

やっとの思いで何とか台詞を言った球子だが、我慢の限界が来たのか、その後は絶叫しながら床に転がり始めた。

 

「タマちゃーーーん!!?」

「うああああぁぁぁぁぁおおぉぉぉぁぁぁ~~~!!!?」

「球子さん…完全にブレイクしてしまったわ…」

「でも…こうなっても仕方ないかも…皆の前でこれは恥ずかしい…」

「レイチェルちゃんさ、あーゆうのってなんていうんだっけ?」

「認識の乖離と羞恥による自我崩壊。それに抗うために七転八倒、というところかしら?」

「うーーーん、もう少しでクライマックスだったのに…」

 

いまだに地面に転がる球子をラグナと棗が座れる席へと運んだ。慣れない演技をした球子はグロッキーになっていた。

 

「おい、タマコ。安心しろ。もう終わったぞ」

「よく頑張ったな。取り敢えず水分を取れ。少しは安らぐはずだ」

「ぅぅぅ…らぐな~~~…なちゅめ~~~…」

「…仕方ねえな、テメェは」

「そんなに泣かなくとも良いと思うのだがな…よしよし」

 

もう色々とボロボロの球子の頭をラグナと棗は撫でた。普段の元気な姿と違って、二人に泣きつく彼女に他の勇者たちも呆気に取られていた。

 

「どうしよう…土居さんが本物の女の子に見えてきたわ…」

「タマちゃんは女装していた!?」

「いや、タマコは女だからな!? ちょっと元気が良すぎるだけで女だからな!?」

「それで杏、これで良かったのか?」

「そうですね…正直に言うならクライマックスまでやりたかったんですが、タマっち先輩も頑張ってくれたことですし。皆さんはもうここまでにしましょう」

「ということは次は私たちのターンね」

「あんまり過激じゃない方向でお願いするにゃあ」

 

次の準備に歌野と雪花が入ろうとしたが、その前に気力を一部取り戻した球子が割って入った。

 

「ちょ……ちょっと待った!」

「ちょっと待ったコーーーーール!! それでどうしたの、タマっち先輩?」

「やっぱ……納得なんか出来ないぞ!! どうしてあんずは自分からやらないんだ!?」

 

球子の意見に他の者たちも同意する。自分が小説の内容を追体験するというなら分かるが、他人にこれをやらせて彼女に何の得があるのだろう。

 

「ふふふ…タマっち先輩。私、最近気づいたことがあるんだ」

「な、なんだよ…」

「今までは自分をこういうシチュエーションに置いたときはドキドキするのが一番だと思ってたけど…」

「けど…?」

「それ以上に、自分が傍観者として恋の渦中で奔走する少女たちを観測()るのもまた乙なんだって!!!」

「よりにもよってウサギと同じような理由だったよ!!」

「おめでとう、杏。貴女も傍観者(こちら側)の住人になったようね」

「何でテメェは地味に嬉しそうなんだよ!!?」

「レイチェルちゃんがよく私たちを遠くから観察してる理由が分かった気がするよ。確かにこれは楽しい!」

「何言ってるんだ、あんずぅぅぅ!!?」

 

固い握手を交わすレイチェルと杏を横にラグナと球子は慌て始めた。このまま杏がレイチェルのようになってしまったらどれだけこういったことが起こるか分からない。思考がマッハまでに加速していると、球子が妙案を思いついた。

 

「そうだ、ラグナ!! 今すぐお前がさっきタマにしたようなことをあんずにやるんだ!!」

「自力でやったことねえのに出来るか、そんなこと!!」

「とにかく話題を逸らせれば何だって良いんだ!! 早くしてくれ!! じゃないとあんずが変な扉を開けてしまう!!」

 

必死な球子を見てラグナは考え込む。今の杏を納得させるのは難しいと考えていたが、あることを思い出した。

 

「………そういやまだあれをやってなかったな」

 

ラグナはそう言って杏に歩み寄った。

 

「あれ? どうしましたか、ラグナさん」

「アンズ。楽しんでるとこ悪ぃけどそろそろアレをやっても良いんじゃねえか?」

「……ああ、そうですね!それでは…千景さん!」

「へっ!?」

 

自分の名前が呼ばれて千景が身体を震わせる。先刻の球子の惨状を見た身としてはこの芝居もどきに参加したいとは思えないのである。

 

「ぜ、絶対やらないわよ!!あんな恥ずかしいの!!」

「まあまあそう言わずに~」

「うぅ…」

「というのは冗談で」

「…え?」

「千景さんには別であるものを受け取って欲しいんです。お願いできますか?」

「な…何を?」

「棗さんとも関係していることですから心配しなくても大丈夫ですよ。取り敢えず席に着いてください」

「わ…分かったわ」

 

そう言って千景は教室での自分の席に着いた。見れば周りの他の者たちも席に着いている。

 

(何が始まるのかしら…)

 

周りの様子が気になっていると、教壇にはレイチェルが立っていた。レイチェルは一呼吸入れると、千景の名前を呼んだ。

 

「郡千景」

「は、はい!!」

 

何故呼ばれたのかが分からずに驚いた千景は反射的に立ち上がるが、友奈は彼女を後押しする。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。どうしても皆がぐんちゃんに渡したいものがあって、それを受け取って欲しいの」

「そ、そうだったの」

 

何かを渡すために呼ばれたらしい。レイチェルの方へ歩みながら千景は周りを見渡す。皆何やら緊張しているような、しかし同時にワクワクしている様子だった。

 

この雰囲気をどこかで感じたことがあるなと考えながら彼女が教壇の前に立つ。そこでレイチェルは手に持った紙を読み上げた。

 

「卒業証書。郡千景殿。貴女は本校の過程を修了したことをここに証します。勇者一同より」

「…卒業…証書?」

「考えてみれば三月になったからぐんちゃんたち、高校生になる時期になったんだよね」

「まあ学級が変わっても教室が変わるわけじゃない。だが形式だけでも卒業式をやった方が良いなと思ってな」

「それを皆でこれを作って、計画したんです」

「そう…だったのね…」

 

これまで戦いの連続で千景はすっかりそういった日常を忘れていた。杏が彼女に告げた。

 

「千景さんへの命令は…『これを受け取ること』です。受け取ってくれますか?」

 

その言葉に対して千景は静かに卒業証書を受け取る。普通の学校のものとは違い、少しザラザラした画用紙の質感を感じることが出来る。だがそれでいい。それと同時に仲間たちが丹精込めてこれを造ってくれたことが伝わってくるから。

 

「……命令なら…仕方ないわね…」

 

そう言いながら卒業証書を抱える彼女の顔は満ち足りたものだった。彼女が席へ戻ると同時に仲間たちが温かい拍手を送る。次にレイチェルは棗を呼んだ。

 

「古波蔵棗。以下同文」

「ありがとう。まさか来たばかりの私にも用意してくれとは思わなかった」

「棗さんも同じ仲間だもん!これからよろしくね!」

「ああ」

 

棗にも同様の証書を進呈し、彼女も席へと戻る。レイチェルが短く終了の挨拶を終えると、杏がまだ撮り終えていない歌野や雪花の劇を撮るなど、その一日では穏やかな時間が過ぎて行った。




というわけで勝者は原作通り、あんずんになりました。まあ、あの劇回は原作の方でも笑わせてもらいましたのでここでもやりました。

因みにラグナですが、仮に頑張って本気のイケボをやればかなりヤバかったのではというのが筆者の考え。多分絶対にやらないと思うけど。

さて次回ですが、本編のもう一つの日常回に入る前に刃メイン回をやろうと考えています。若葉との模擬戦とか色々。それではまた。
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