蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

ゆーゆのAHは勇者パンチじゃなくてあの弾けるような笑顔で十分よ(某つべの五周年記念絵描き動画を見ながら)。見た時に心臓が散華しかけたわ。

さて、今回の話では刃に関する話がメイン…というか刃がメインのはずが椿姫を入れた瞬間、フィーバーしてしまった。そんな彼女と刃兄様の話ですがどうぞ。


花結いの確率事象8.少佐の一面

ある暖かい晴れの午後、勇者の訓練部屋では二人の剣士が睨み合っていた。一方の名は乃木若葉。西暦勇者のリーダーにして居合の達人。ここでは使っていないが、精霊義経を纏った彼女に追いつく者はいない。

 

もう一人は衛士にして神世紀の剣豪、如月刃。本来は骨の髄までもが凍てつくような冷気を出すユキアネサで戦うのだが、訓練では木刀を使っている。

 

両者の試合を二人にとっての幼馴染である上里ひなたと弥生椿姫が立ち会う。他に訓練している者も二人の模擬戦を見学するのに手を止めて観戦していた。

 

「…貴様とは幾度と無く刃を交えてきたが、今回勝つのは僕だ」

「悪いが私も簡単に勝利を譲るつもりはない。全力で行かせてもらうぞ」

 

慎重に互いの間合いを測りながらも二人はすぐには攻撃しない。部屋の空気は極限まで張りつめ、観戦する者すら物音を立てることなく見守る。しばしの沈黙を得て、両者は同時に剣を抜き放った。

 

「雪華塵!!!」

「『藤蔓居合うち』!!!」

 

両者の剣戟が試合開始の合図となる。先に攻めへと転じたのは若葉だった。

 

「ハァッ!!」

 

若葉の一閃を刃が鞘で弾き、刀を横に薙いで攻撃を返した。

 

「氷連双!!!」

「ぐぅ…!!」

 

その攻撃を若葉も防御しようとするが間に合わず、反撃を受けて後ろへと吹き飛ばされた。しかしこれで黙ってやられる彼女ではない。空中で鞘を振り抜いて攻撃する。刃も咄嗟に躱すが、髪が何本か斬り落とされた。

 

着地してすぐに構えた若葉と、再び木刀を鞘に納めて居合の態勢に入る刃。二人の闘いを見ながらひなたたちに集まった杏と夏凜が漸く口を開いた。

 

「…またこの時間が来たのね」

「はい…お二人が闘うときはいつもとは違った空気が部屋を支配します」

「まあ…若葉ちゃんも刃さんもこと訓練に関しては手を抜かない方たちですから」

「皆さん、二人が動き出すみたいですよ」

 

杏の言葉に従って二人の方を見ると再び若葉が刃に攻撃した。しかし刃もそれを的確に処理していく。その様子を夏凜は冷静に分析した。

 

「それにしても、あの二人は武器が同じなのに戦い方はこんなにも違うのね」

「そうですね。若葉さんは攻めを基本としていますが、刃さんは守りを重視しているイメージがあります」

「実際、無茶苦茶固いわよ、少佐は。それを突破して来る若葉もとんでもないけど」

 

彼の教え子であった夏凜は杏の言葉に同意する。実はこの二人、出会った時からこんなことをしていた。刃と西暦にいる四国組は同じ時に勇者部と合流し、樹海で一悶着があったのだ。

 

初めは刃も若葉たちを気にも留めていなかったが、バーテックスとの戦いが終わって彼女たちがラグナに話しかけようとしたら刃が怒って立ちふさがってきたのである。その時の彼の相手が若葉だった。

 

その時に互いの実力を認め、更にラグナたちによる説得も相まって彼は刀を納めた。その後は何度かラグナや夏凜以外では時々若葉と訓練するようになった。

 

そんなことを思い出していた杏や夏凜を余所に若葉が後ろへ少し下がると、刃が彼女の方へと駆ける。

 

「ハッ!!」

「そこッ!!」

 

刃が若葉に跳び蹴りをかまし、若葉はそれを切り払う。彼女の木刀で刃は地面に叩き伏せられ、そこへ若葉も追撃してくる。

 

「今回の勝負は私がもらうぞ!」

「…勝手に決めるな、裂氷!!!」

「ぐはッ!!」

 

起き上がり様に刃は自分へ突撃してくる若葉の懐に潜り込み、刀を上方へと斬り上げる。ガード出来なかった若葉は堪らず宙へと打ち上げられ、刃も追撃に斬りかかる。

 

「氷斬閃!!!」

「うあぁぁッ!!」

「うわ、今のは痛い」

「見事な切り返しですね」

 

杏と夏凜が戦況を見定めている横でひなたと椿姫は静かに見守っているが、内心ではもう興奮しまくり。握りしめた手に汗が滲んでいる。今にも声が出そうだが、ぐっと堪えていた。

 

若葉はまた立ち上がる。着地した刃を見て刀を一度鞘に戻すと再度彼女は突進した。刀に手を付けて居合の体勢に入った彼女に対して刃も冷静に対応する。

 

「終わりだ……」

 

若葉が自分の前までに来ると刃は赤い方陣を出現させ、彼女の攻撃を受け止める構えに入る。数多のバーテックスを屠った彼の奥義、虚空刃雪風の態勢だ。

 

「ここだッ!!」

「何ッ!?」

 

しかし若葉が取った行動は刃の予想とは違った。彼女は抜刀しようとする直前にすぐしゃがんで足を刀で切り払った。バランスを崩した刃は地面に膝を屈し、そこへすかさず若葉は鞘でアッパーを喰らわせる。

 

後ろへ吹き飛ぶ刃を見てギャラリーからも感嘆の声が出る。雪風が破られることは極めて珍しく、勇者部の中でもこれが出来た者はいなかったのだ。

 

「うっそ…雪風を破ったの…!?」

「今のは若葉さんの反射神経でないと出来ませんね…あんなに近い状態から雪風に反応するなんて」

「流石は私の育てた若葉ちゃんですね!」

「いえ!まだ刃兄様は負けていません!!」

 

倒された刃に若葉は追撃しようと急行するが、刃もやられっぱなしでは終わらない。すぐに起きて攻撃態勢にはいろうとする。

 

最大の攻撃の機会を逃さんと若葉は刃に一閃を放つ。だがよく見れば刃は刀を納刀していない。こちらも瞬きする間もないほど速い斬撃を放った。

 

「一閃緋那汰!!!」

「凍牙氷刃!!!」

 

斬撃のぶつかり合いで両者は後退した。次の剣戟に備えて刃と若葉は体勢を立て直す。再度の激突が起きるかと部屋が緊張に包まれる中、部屋に風が入ってきた。

 

「じ~ん。ちょっと剣道部の方でアンタと話がしたいって来てるんだけど…ってぇもしかして、お取込み中?」

 

風が来たことで訓練部屋の雰囲気がいつものものへと戻っていく。二人が戦闘体勢を解くと最初に若葉が口を開けた。

 

「ああ、風さん。今、刃と模擬戦をしていたが、急用なのか?」

「うーん、まあそんなとこ。男子たちが部員が足りなくて刃を助っ人に頼みたいから相談したいらしいんだけど、今時間取れるかしら?」

「……仕方がない。乃木若葉、今日はここまでだ」

「良いだろう。その時も頼んだぞ」

「刃兄様、お疲れ様です。木刀は私が片付けておきますよ」

「ありがとう、椿姫。依頼が終わったらどこかへ茶でも飲みに行こうか」

「は、はい!刃兄様とならどこへでも行きたいです!」

「そうか。では少し待っていてくれ。すぐに戻る」

「はい」

 

椿姫の返事を聞くと刃は部屋を後にし、若葉も一度休憩するのにひなたたちの元へ戻った。ひなたは用意していたタオルとスポーツドリンクを彼女にあげた。

 

「お疲れ様です、若葉ちゃん」

「ありがとう、ひなた。しかし…今日も良い訓練が出来たよ」

「うふふ。若葉ちゃんは夏凜さんや芽吹さんたちとしているときもそうですが、刃さんを相手にしているときも楽しそうで何よりです」

「刃兄様も若葉先輩から良い刺激を受けているみたいですよ。自分と同じような武器を持っている分、自分も勉強になるんだそうです」

「そうだったのか。彼のような猛者が私のような者から学んでいると思うと光栄だな」

 

兄妹や神世紀の勇者部メンバーなどの親しい者以外には千景以上に気難しい彼だが、それでも何度か訓練している内に彼の人となりが何となく分かってきた気がした。

 

「そういう若葉ちゃんも彼の守りの固さを参考にしているのでしょう?」

「はじめは全く崩すことが出来なかったからな。園子たちと共に戦うことが出来た理由が良く分かったよ」

「雪風とか、一部のバーテックスからすれば天敵のような技だものね」

 

少女たちが普段の刃のことを思い返していると、杏がふと別のことを考えた。

 

「そういえば園子ちゃんたち、小学生組とも一緒に戦っていたんですよね」

「…そうね。まあ、初めてここで会った時のあの娘たちの反応を見ている限り、あそこまでブラコンじゃなかったみたいだけどね」

 

勇者部と合流したときには当然小学生組がおり、全く自重しない中学生の刃を見たときはドン引きしていた。今となっては良い思い出である。

 

「でもそう考えると、昔はどんな人だったのかなとか思ったんですよ」

「昔から刃兄様はとっても素敵な方よ!!」

「つ、椿姫!?」

 

杏の疑問に椿姫が目を輝かせながら食いついてきた。若葉は若干驚いてしまっていたが、杏は気にした様子はなかった。

 

「どんな思い出があるの、椿姫ちゃん?」

「ええ!子どもの頃の話だけど」

 

椿姫はかつての刃との思い出を語り始める。彼女にとって、刃との時間はとても楽しいものだった。

 

「休日で私の家に来てくださった時は一緒に勉強したりして。分からないところがあると丁寧に教えてくれたの!」

「おおぉぉ!!二人で勉強会!!それ良いね、椿姫ちゃん!!」

「ええ!その後はお茶を飲みながら最近あったことについて話したり、時代劇を見たりしてたわ。本当に平和で…幸せな時間だった」

「あぁぁ、良いな、良いなぁ!!そういう話、私大好きだよ!!」

 

椿姫の刃との思い出話を聞いている内に杏の中で何かのスイッチが入ってしまった。若葉と夏凜は杏にステイさせるべきか考えたが、ひなたは楽しそうにしているからと言って続けるように促した。

 

「他には!?他にはどんなことがあったの!?」

「私が家出、といっても刃兄様のお宅へ無断で訪問しただけなんだけど」

「そういや、椿姫ってすごい箱入り娘だったって言ってたものね。そんなことして大丈夫だったの?」

「それが当時ダメだったんですよ。でもどうしても刃兄様に会いたくて…それで意を決して自分から行ったんです」

 

当時の刃も来客が椿姫だと知った時はさぞ驚愕しただろう。家がそこそこ近いとはいえ、何せ彼女は一人でここまで来たのだから。

 

「そしたら刃兄様は困った顔をしながらも快く中へ案内してくれたのよ。お父様たちが私を迎えに来るまでは刃兄様の刀の訓練などを見ているだけだったけど本当にかっこよくて!」

「うんうん!!続けて!!もっと!!出来れば詳しく!!」

「刀を振るうお姿は正に刀と一心同体、一本の白刃のようでそれはもう見てるだけで来てよかったと思ったわ!!」

「あの、椿姫?そろそろ落ち着いた方が」

「しかもお父様に私がこれからも刃兄様の家をお伺いしても良いかと聞いて断られたと学校で相談したら態々家まで足を運んで一生懸命一緒に説得してくれたの!!!ああ、もうこんなに強くてイケメンで優しい殿方なんてこの世界で他に誰がいるのって感じで!!!」

「きゃーーー!!!親に二人で直談判だなんて素敵ーーー!!!」

「ちょっとアンタたち、興奮しすぎ!?」

 

刃との時間を語るにつれて興奮した椿姫の語彙力がどんどん低くなっていき、杏は鼻血を漏らしながら目をシイタケにしながら息を荒くし始めてきた。流石にここまで来たら二人を止めた方が良いのだろうが、そこへ更にひなたまで入ってきた。

 

「椿姫さん!それは聞き逃せませんね!それならば家の若葉ちゃんも負けていませんよ!!」

「お前まで張り合うのか、ひなた!?」

「若葉ちゃんは昔から真面目な娘ですから堅物だと思われることが多いですが、実は皆さんのことをとても考えていて、いつも誰かのために頑張ろうとする誠実な娘なんです!!強さは最早語るまでもありませんし、立っているだけで万人を惹きつけるような輝くオーラの持ち主!!正に西暦の風雲児に相応しい娘です!!!」

「そ、それは流石に言いすぎだろ…」

「そしてそれだけではありません!!」

「まだ何かあるのか!?」

「かっこよさなども然ることながら若葉ちゃんの真の魅力…それは可愛さにあるのです!!!」

 

今度はひなたが怒涛の勢いで若葉の昔話を語り始めた。

 

「昔、若葉ちゃんが鏡の前で睨めっこをしていたことが会ったんです。何やら指で顔を執拗に触っているものですからどうしたのかと聞いたのですが」

「何をしていたんですか?」

「鏡の前で笑顔の練習をしていたんですよ!皆さんと少しでも打ち解けられるように陰ながら頑張っていたんです!それが成功したときに見せた笑顔が本当に眩くて!!せめてこの時代に丸亀城にある当時の写真を持って来れないことが本当に悔やまれます!!」

「そんなことが…正直若葉先輩にあまり可愛いというイメージがなかったのですが、想像してみれば確かにそれは可愛いですね」

「それだけではありませんよ!若葉ちゃんは疲れたり、困りごとがあったりするとよく私を訪ねて耳かきをねだったり、相談をしてくれたりするんです!!その時の表情を見るだけでうどん三杯は食べられます!!」

「…若葉。アンタって結構甘えん坊なのね」

「そ、そんなことは…ない…ぞ…」

 

せめての抵抗に否定はするが、夏凜に指摘されて若葉は思わず顔を赤らめる。幼馴染とはいえ、ここまでベタ褒めされるとこそばゆい感覚もしてくるものだ。ひなたの話を聞いている内に椿姫は真面目な顔で聞いてきた。

 

「ひなた先輩…それって全部ひなた先輩の前だけですよね?」

「はい?ええ、そうですよ」

「そうですか…」

 

そういって椿姫は少しだけ落ち込んでいた。どうしたのだろうと周りが心配していると椿姫はポツリと言った。

 

「…見たことない…」

『え?』

「ひなた先輩の言う可愛い刃兄様を私、見たことないんです…」

 

寂しそうにそう言う椿姫。確かに彼女は普段のかっこいい時や嬉々として兄の話をしているときの彼はよく見るが、ひなたの言う類の刃は一度も見たことがない。それ故にそう言った話が出来るひなたが羨ましかったのだ。

 

「でもまあ、少佐は男だし。年下の女子に甘えるのは男として恥ずかしいんじゃないの?」

「今初めて刃兄様が同性だったらと願ってしまいました…」

「いやそういう問題じゃなくて…」

「それに例え同性でもあの刃が他人に甘えるとは…いや、案外するか」

「いや、アレは甘えるに分類されるの?」

 

確かに刃は甘えるときは滅茶苦茶甘えてくる。主にラグナに。ただしその内容は若葉とひなたのそれとは全くの別物であり、傍から聞けば狂人の雄叫びにしか聞こえない。

 

「そうでしょうか?私には刃さんが十分なほど椿姫さんに可愛い一面を見せていると思いますが」

「私もそう思う。刃さん、椿姫ちゃんに対してだけは明らかに優しいよ。須美ちゃんたちにもそこそこだけど」

「それはやはりかつての戦友だからじゃないか?」

「傷だらけになっていくのを身近に見てきたものね…ラグナも良い顔してなかったけど、アイツ以上に三人が来てからずっと拗ねてたわ」

「椿姫さんが来た時もかなり怒ってましたね。丁度歌野さんたちが来た頃でしたか」

 

その後は椿姫や須美たちが自分の意志で戦うことを示したことで漸く納得した。それでも神樹や大赦に対しては依然として辛辣である。

 

「それを鑑みれば椿姫さんを非常に大事に思っているのは良く分かります」

「…う~~~~!!違うんです!私は刃兄様の可愛いな一面が見たいんです!!」

 

ひなたたちの言葉を聞いても椿姫は引き下がらなかった。二人が困っていると、部屋の中へ園子が入ってきた。

 

「あ、園子先生。今日は訓練するんですか?」

「ううん。何だかね、こっちから面白い話をしてる予感がしたから飛んできたんよ~」

「どういうことよ、それ…まあ、アンタに聞いた方が解決する話かもしんないけど」

「どういうことかな~?」

「それが…かくかくしかじかでして」

「なるほどね~。ジンジンの可愛い一面か~」

 

家族以外であれば恐らく椿姫並に刃との付き合いが長い園子は考える。園子から見ても椿姫に対する刃の態度は十二分に特別なものだ。それを椿姫は気づいていないだけ。それが園子の椿姫の悩みに対する感想だった。

 

「そうだよね~、特別な人のそういう面はみたいよね~」

「はい!!」

「でも私はツバッキーが言うようなことを見たことはあんまりないかな~」

「つまり一度はあるんですね!!」

「ひゃっ!?落ち着いてツバッキー!?」

「お願いします、教えてください!どんな刃兄様を見たんですか!!?」

 

椿姫があまりにも急に迫ってくるのだから園子も思わずたじろぐ。刃のためにも言わない方がいいのではと思ったが、この様子だと椿姫は逃がしてくれなさそうだ。

 

「……う~ん、分かった~。アレは小学六年生の遠足の日だったんだけどね~」

 

ラグナにとっての運命の日。この日は園子たち、神樹館組は峰山公園へ遠足に出かけており、ラグナに関する神託の心配をしながらも日常を送っていた。その昼には焼肉をしていたのだが、このときの刃の取った食材に銀や須美は疑問を持った。

 

「あれ?刃、お前大丈夫か?肉全然食べてないけど?」

「本当だわ。焼きそばの具でも避けるなんて…せっかく美味しいのにどうしたの?」

 

二人の何気ない疑問に刃は少しバツの悪い顔をした。答えたくないという雰囲気が伝わってくるから二人は聞いてこないし、園子も理由を知っていたから何も言わなかった。

 

そこで銀が担任だった安芸を見つける。特徴的なフォルムの緑の物体を嫌そうに眺めていた。

 

「ところで安芸先生、ピーマン残してない?」

「ギクーッ!!」

 

図星のようである。

 

「ちゃ、ちゃんと食べるわよ!!ちょっと苦手だけど…」

「前世に何かあったのかな…」

「そういうときはピーマンの精が夜中に会いに来てくれると思えば楽しいですよ~?」

「そ、そう…中々ユニークなアドバイスね…頑張ってみるわ…」

 

安芸は微妙な顔をしながらもアドバイスを受け取った。それでも嫌悪感を示している様子はない。少女たちが朗らかに笑い合い、穏やかな空間が保たれているのを見て気が変わったのか、刃は小さく言った。

 

「……いんだ」

「ん?どうしたの、刃君?」

「僕は…どうしても肉が食べられないんだ」

 

嫌いなものを示すことはあっても、家族の前ぐらいでしか刃は自身の苦手なことを見せない。彼の言葉を聞いて須美たちは言った。

 

「そうだったのね。それなら具を交換しましょう」

「なっ!?そんなことをしなくても良い!」

「でも刃、それで良いのか?麺ばっかりになったら飽きると思うぞ?」

「…今更誰に交換してもらうんだ。お前たちのものを貰うのは流石に…」

「私たちは構わないけど…ジンジン的には安芸先生の方が頼みやすいんじゃないかな~?」

「私は問題ないわよ」

「…ならばそれで頼…お願いします……感謝するぞ、お前たち

 

こうして肉と野菜を交換し合うことで無事にこの場は収まった。いつもの仏頂面をしながらも小さく礼を言う刃を見て、園子たちはまた刃が心を開いてくれたように感じた。その話を聞いて椿姫は驚きの声を漏らしていた。

 

「あの時のちょっと素直になったジンジンは可愛かったな~」

「そうだったんですね…私の家では基本的に魚料理が多く出されるので全然知りませんでした…」

「まあツバッキーが言うみたいにジンジンが優しくて強いのはちゃんと知ってるけど、それはあくまで仲間としてなんだよね~」

 

そもそもジンジンは特別な人なら猶更弱ったところを見せたがらないしね。園子がそう考えていたが、椿姫はまだどこか納得しているようには見えなかった。

 

「…よーーーし!それじゃあ見る方法は後一つしかないね!!」

「え、どうやってですか?」

「ジンジンの家に忍び込むよ~!!その時のジンジンの様子を観察するんよ!!」

「なるほど!一人の時にしか見せない一面もありますから!!」

「可愛い一面を見れるかもしれませんね!!」

「いやお前たち、そんなことしたら怒られるぞ!?」

「そ、そうよ!流石にそれは不味いわよ!?椿姫もなんか言ってやってよ!!」

「…行きます!!」

『椿姫ぃぃぃぃ!!?』

 

園子の言葉に乗ってしまったことで椿姫たちは刃の家への潜伏を決行することになった。

 

そうして数日後、勇者の何人かが如月家の庭にある藪の中で身を隠していた。いつもの刃の訓練する時間は終わり、彼は家の中へ戻っていた。

 

「今日は両親から刃兄様が大橋の実家へお帰りになっていると聞いたので皆さんを連れてきました」

「それではどこから探した方が良いのでしょうか?」

「訓練が終わった後ですので自室で自主学習をしていると思います」

「それじゃあ探しにいこ~」

「ところで何故若葉さんと夏凜さんまでここに?」

「お前たちがやりすぎないか見張るためだ」

「それに椿姫のことも心配だしね」

 

何だかんだついてきた若葉と夏凜も加わったことで椿姫たちは刃の家に足を踏み入れた。しかしどこを探しても彼の姿が見当たらない。ここまで見当たらないと予定を聞いた椿姫も不安になってくる。

 

「おかしいですね…思い当たる場所のどこにも見当たりません」

「そうですね…他の施設で改めて訓練をしてるということは?」

「確かに刃兄様は室内で訓練することがありますが、今日はもうしないと思います。この時間であればもう決めていた量を全部こなしたはずです」

「そこはきちっとしてんのね」

「ジンジンは若ちゃんに負け劣らずの真面目さんだからね~」

「そうだったんですね…うん?皆さん、アレはなんでしょう?」

 

杏が指さしたのは屋敷の横にある倉庫のような建物だった。少し古びているが、それがかえって趣きを感じさせる。

 

「椿姫ちゃん、あそこには入ったことある?」

「いえ、あそこへは行ったことがないんですよ。ああいう場所は大体物置きとしてあるだけで人が出入りするような場所ではありませんし」

「…そうだ!だったらあそこに行ってみようよ~」

「え、でも流石にあそこは…」

「ですが他の場所にはいない以上、後はあそこしかありませんよ?」

「まあまあ椿姫ちゃん、いなかったらいなかったでまた今度があるよ」

「この辺りで切り上げるという選択肢はないのだろうか…」

「というかさらっとまた今度って…もう一度ここに忍び込むつもりなの、アンタら」

 

結局椿姫たちは倉庫の中を見ることにした。中は少し薄暗かったが、それでも床や作業机の上にある大量の金属品と、壁や天井に貼り付けられた写真を確認することが出来た。埃があまりないことから管理自体は行き届いていることが分かる。

 

「いろんなものは確かにありますが、物置きにしては人が使った痕跡が多いですね」

「ということはやはり刃兄様はここにいらっしゃるのでしょうか?」

「まるで秘密基地だね~」

「しかし…これは何なんだ?金属の…何かの部品と…これは…バイクの写真か?」

「あ、見てください。あちらの方で明かりが」

 

一行が明かりのある方へ向かうとそこには何かを磨いている刃がそこにいた。普段の彼からは想像できないほどご機嫌な様子だ。

 

「刃兄様…一体何をしているのかしら?」

「何か聞こえてくるよ~?」

「フフフ……♪」

「これは…鼻歌です。あの刃さんが鼻歌を歌っています」

「それにこのバイクたちが関係している、ということか?」

 

もう少し近づいてみるとそこには若葉たちの時代から見ても若干前時代のデザインをしたバイクを丹念に磨く刃がいた。他にも違うデザインのものもたくさんあり、どれもピカピカだ。

 

「あれは…全部刃のバイクなのか!?」

「それもビンテージもののバイクばかり…少し意外でしたね」

「それだけじゃありません。ここまで見てきた金属品ですが、恐らくアレは全部ビンテージバイクの部品なのではないかと」

「東郷さんの軍艦好きや雪花さんのお城好きなどに通じるものがあるのでしょうか?」

「メブーのプラモとも趣味が合いそうだよね~」

「しっ、なんか喋ってるわよ」

「…この輝き、この曲線。ハァ…何度見ても惚れ惚れするほどに素晴らしい。やはりバイクとは良いものだ」

 

すっかりバイクに和んでいる刃を見て椿姫たちは驚きはしたものの、同時に少し安心した。どうやら刃にも兄に絡む以外で自分の時間を過ごす手段はあったようだ。

 

「幸せそうだね、刃さん」

「はい」

「さて、手入れも終わったことだ。そろそろいつものアレをしよう」

「あ、バイクに乗るみたいよ」

「でも刃兄様はバイクの免許なんて持ってなかったはず…」

「もしかして…椿姫ちゃんにサプライズするために密かに取っていて、今ドライブの練習を!?」

「いや、免許を取ろうにも年齢が低すぎるだろ…」

 

各々の見解を示している内に刃は「バイクのエンジンをかけずに」跨り、ハンドルを握る。それに一行が疑問を持つ間もなく、それは始まった。

 

「…ブルン」

『え?』

「ブルン…ブルン…ブルルン、ブルルン!ブルルルルブルーンブゥーン!!ブゥンブゥンブゥーーン!!!ブゥーー、ブゥーーン!!」

 

一瞬何が起こっているのかが少女たちには分からなかった。ただ分かるのは目の前にいる刃が声でエンジン音を再現しながらご満悦の様子でバイクに乗っていることだけだった。

 

「…………………何やってるの、あの人…」

「これは…もしや脳内ツーリング…なのでは」

「アハハハッ!!」

「しかも物凄く楽しそうだぞ…」

「まあ、本当に運転するのは出来ないからね~。仕方ないんよ~」

「でもこれ、椿姫ちゃんにはかなりショッキングな光景じゃ…」

 

杏が後ろの方へと振り返る。当の椿姫はというと

 

「刃兄様…お兄さまの話をしている時とはまた違った笑顔をするんですね…」

「あれ!?意外と平気だった!?」

 

何だかほっこりしていた。他の者たち、特に中学生の刃しか知らない者たちからすればあまり理解できないことだが、そもそも椿姫は刃のラグナについての話を長い間聞いてきた人物だ。今更変なところを見たとしても驚いたり、気味悪がったりはしない。

 

「あの、椿姫…何というか…」

「どうしましたか、夏凜さん?」

「いや、ね?アンタ、平気だったの?」

「刃兄様が御自身のお兄様についての自慢話をするときもあんな感じですよ?」

「少佐ェ……」

「ただ、今の刃兄様はいつもとは違う感じがするんです。本当に子どもみたいに純粋に楽しんでいるご様子で…見れて良かったです」

「なんて良い娘なの、アンタ…あの少佐には勿体ないくらいだわ…」

 

軽く涙が出そうになるほど感動している勇者たちである。どうかこの娘が報われますようにと願うばかりだ。ただ少女たちが騒ぎすぎたのだろう。刃が自分たちに気付いた。

 

「ここで何をしているんだ、貴様ら」

「げっ!!少佐!!」

「いつの間に!!?」

「せっかくツーリングを楽しんでいたのに、聞きなれない声がしたのでな。さあ、説明してもらおうか」

 

プライベートの空間を侵されて刃はご立腹の様子だった。部屋の気温は一気に冷えていくのを肌から感じる。だがそこへ椿姫が声を上げた。

 

「待ってください、刃兄様!!」

「椿姫!?何故お前がここにいるんだ!?」

「私が皆さんに刃兄様のお宅を一緒に黙って訪問しようと誘ったんです!!罰するなら私一人にしてください!!お願いします!!」

「ちょ、ちょっと椿姫!?何言ってんの!?」

「私たちも黙って入っちゃったから椿姫ちゃんは悪くないよ!!」

「頼む、刃!!私たちは咎めても良いから椿姫は見逃してやってくれ!!」

「私からもお願いします、刃さん!!」

「ごめんね、ジンジン。家の中を勝手に入るのは私が考えついたことだからツバッキーは悪くないんよ…この娘は許してあげて~」

 

頭を下げる椿姫に彼女を庇う勇者たちを見て刃は苦い顔をする。

 

「…何故こんなことをした?」

「…兄様の…」

「僕の?」

「兄様の…可愛い一面を見たくて…」

「……良く理解できないのだが、何故僕の可愛い一面を見たかったんだ?」

「それは…私が若葉ちゃんの自慢話をし過ぎてしまったことが原因で…」

「自分も刃さんが自分にしか見せない可愛いところ…多分特別な一面が見たかったんだと思うんです」

 

ひなたと杏に説明されて刃の怒りは治まっていった。理由が少し意外だったが、どうも自分と関係していることだったようだ。

 

「…椿姫。理由がどのようなものであれ、お前たちが勝手にこの部屋へ入ったことは揺るぎない事実だ」

「はい……」

 

頭を下げたままだが、椿姫の眼に涙が浮かびそうになる。刃を失望させてしまったと感じたからだ。しかしここで泣くことは出来ない。それこそ彼は良しとはしないだろう。刃は言葉をを続けた。

 

「……剣道部の大会の助っ人として僕が出ることは知っているな」

「はい…先日、話されていました」

「…その時に椿姫、僕と一緒にお前も手伝いに来てもらう」

「え…」

「大会中はゴタゴタしていて僕や選手たちでも手の余るからな。椿姫にはサポート面で手を貸してもらう。それが出来ればこの件は不問にする」

「い、良いんですか?そんなことで…私を連れて…」

 

敬愛する刃の言葉を確かめるように椿姫が問うと刃は少し俯きながら顔を背けて言った。

 

「……お前だからこんなことが頼めるんだ…」

「刃兄様!!!」

 

何やら杏、夏凜、園子はガッツポーズしていて、若葉とひなたは温かい微笑みを見せているが、多分気のせいだろう。だが目の前の椿姫は弾けるように嬉しそうにしているのは事実だ。それだけ分かれば十分だ。

 

「ありがとうございます、刃兄様!!私、精一杯頑張りますね!!」

「張り切りすぎて怪我しないようにね。後、せっかく来たんだ。家に上がりなよ」

「あの…それでしたら出来れば皆さんも…」

 

それを聞いて刃は若葉たちを一瞥すると、溜息を吐きながら答えた。

 

「…椿姫の件を不問にしたんだ。貴様らも許してやる。もうこんな真似はするなよ」

「ああ。済まないな、迷惑を掛けてしまって」

「だったら今度来るときは正面から堂々と来い。貴様らならば僕も拒む理由はないんだ。最も普段は讃州市のアパートで暮らしているがな」

「ありがとー、ジンジン~」

 

刃に案内されて少女たちは彼とお茶をしたりして一日を過ごした。その時の椿姫と刃の会話している様子を見ながら若葉たちは思った。刃は既に椿姫に対して十分すぎるほど特別な一面を見せているなと。




ジン=キサラギはツバキ=ヤヨイが関わると何だかんだカッコよくなる印象がありますね。CPとか正にそうだったし。

さて次回は日常回。西暦での平和なひと時をお楽しみに。それではまた。
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