URのたかしーをゲットしたぜ、ヒャッハー!!次は赤嶺ちゃんか…と思ったら恵みがない…だが私からすれば大勝利以外の何物でもないぜ
さて今回はオムニバス形式で日常編です。感覚的にわすゆ三話みたいな感じ。それではどうぞ!
春になってそろそろ気候も暖かくなってきた頃、ラグナは諏訪組と雪花と共にデパートの洋服店で買い物をしていた。事の発端は昨日の畑での歌野と雪花の何の変哲もない会話からだった。
「そういえば、歌野たちって普段どんな服着てんの?」
「やーね、雪花さん。私の一張羅はいつだってこれよ!」
そう言いながら歌野は自慢げに自分に指を差した。自信満々でそう言う彼女が着ている衣装はいつも畑仕事をしているときのジャージと中心に大きく「農業王」と書かれたTシャツである。
この答えに雪花は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になるが、なんとか正気を取り戻した。
「いやいやいや!!? 他にもあるっしょ!? こう、オシャレな奴!!」
「うたのんは諏訪にいる頃からいつもこの恰好ですよ?」
「言われてみれば、制服以外だと確かにウタノはこの恰好しか着てるところを見たことねえな」
「それ…花の女子中学生としてどうよ…」
三人の言葉に雪花は首を振ると歌野はさらに語る。
「でもこのジャージはこれでとても快適なのよ。汗は良く吸うし、動くやすい!しかもそれなりに丈夫で袖が長いから日焼けや虫に強いわ!」
「確かに服装でそいつは大事なところだぜ」
「…ひょっとしてラグナも歌野と同じ意見?」
「俺もぶっちゃけ動きやすけりゃそこまで見てくれは気にしてねえし」
「まあ、ラグナさんは男の人ですし。あんまり服装を気にしなくてもおかしくないかも」
「いや気にしようよ!?」
「あ、でもそろそろ新しい服を買わないといけないのよね」
何かをふと思い出したように歌野が思い出すと、その話題に雪花が反応する。
「あはは。なーんだ、やっぱり気を配ってるじゃん」
「この前、洗濯し終えたジャージをテイクしたらポケットに穴があるのを見つけちゃったのよね」
「あ~、それはいけないにゃあ」
「せっかくポケットに入れた種が全部漏れ出ちゃって鳥たちに群がれて大変だったのよ」
「気にするとこ、そこ!? 他にもあるっしょ!? ラグナだってそう思うわよね!!?」
「そうだな、そいつは不味いな」
「流石は大人…分かってるぅ」
「破れちまったなら早く直さねえとな」
「そっちに走った!!?」
「何言ってんだよセッカ。服が破れたら直すだろ? 俺は基本的にこの恰好で戦うから服が破れたりすることがあんだけど、そういうときは大体直してるぞ?」
「いや、まあそうだけど…こう、うーん…」
言いたいこととちょっと違う気がする。雪花は考え込んでいると水都も歌野をフォローしようとする。
「あ、でもうたのんは他にもいっぱい服がありますよ!」
「そ、そうだよね~。やっぱそうですよね」
「いつものジャージの色違いとか他にも色んなことが書いてあるTシャツとかあります!」
「大まかなデザインは全然変わってないじゃん!!!」
「俺なんて大体似たような奴しかねえぞ?」
「どういうことなの…」
頭を抱えている雪花だが、そこで歌野がラグナたちの発言で自分たちの服の似たり寄ったりっぷりに気付いたようだ。
「でも雪花さんの言う通りね…諏訪のファッションリーダーとして全く同じものはいけないわ!」
「おお!ようやく理解してくれたのね!!」
「みーちゃん、ジャージの背中の部分にも農業王って書くのはどうかしら!」
「何でそうなるの!!?」
「良いね、うたのん!! なんかユニフォームみたいですごくカッコ良さそう!!」
「でしょでしょ!! 胸のところにもアイコンとか付けるとかしてね!!」
「シャツの方も色違いにして色に応じた野菜の名前を書いたりとかも良いよね!!」
「ワーオ、みーちゃん! とっても素敵なアイデアだわ!!」
何故か明後日の方向へ盛り上がっていく諏訪組。このままではいけないと感じた雪花はすぐにある提案を出した。
「あ~、もう!! ちょっと二人とも!! 明日服を買いに行こう!!」
『何で!?』
「普段からとまでは言わないけど大事なときとかのためのオシャレな服がないと困るっしょ?それにせっかく素材が良いんだからもっとたくさんの服を着てみた方が良いって」
「つまり雪花さんがコーディネートしてくれるんですか?」
「もっちろん。私だって自分が言い出した以上はついてくるよ。ラグナも来たら?他の服を試してる内に案外気に入ったのを見つけられるかもよ?」
「他の服か…言われてみりゃあ考えたことなかったけど試してみんのもアリだな」
「でも出来れば畑仕事と被らない日が良いんだけどねぇ…」
「じゃあ買い物が終わったらその日は私も手伝うから!ね?」
「分かったわ!それならオーケーよ!!」
歌野が雪花の提案に賛成したことで、四人は近くのデパートにあった洋服店へ行った。今彼女たちは女性服のエリアで買い物しているのでラグナは特に何もしていない。
「にしてもこんなに服ってあったんだな」
あまり関心のなかった分野なだけあってラグナは素直に感心していた。すると奥から雪花が自分を呼んでいる声がした。
「ラグナ〜。歌野たちが持ってきた服に着替えたからちょっと見に来て欲しいんだけど〜」
「ああ、良いぞ」
急いで彼女たちの元へと向かうと、そこには黄色のブラウスに少し丈の短いスカートをした歌野とピンクのワンピースを着た水都がいた。
「おお。お前ら、似合ってんじゃねえか」
「うんうん! 私の目に狂いはなかったね!」
「サンクス、二人とも!」
「ありがとうございます。なんだか自分じゃないみたい…」
「そんなことないわ! 普段でもチャーミングなみーちゃんがレベルアップしてるんだもの! 自信持たないと損よ!」
「えへへ…ありがと、うたのん。そっちもいつにも増して素敵だよ!」
二人が互いのことを褒めあっていると、雪花はラグナの方へと向いた。
「んじゃあ、次はラグナの番ね」
「俺か…でも服とか言われても何を着りゃあ良いんだ?」
「だったら私が選んであげるわ、ラグナ!」
「ウタノがか? じゃあ頼むぜ」
「ええ! ちょっとみーちゃん、手伝って欲しいんだけど」
「良いよ、どこに行くの?」
「さっき私たちが自分たちの服を探してる時に男性服のところにあったんだけど、ラグナにマッチしそうだと思ったのが結構あったのよ」
「それじゃあ早く取りに行こ。他の人が買っちゃうかも」
急いで服を取りに行った歌野たちの楽しそうな笑顔を見て、ラグナと雪花も微笑む。やはりああして楽しそうにしているのを見たら連れてきて良かったとこっちも感じるというものだ。
歌野たちが服を手に戻ってくると早速ラグナは試着することになった。少し時間が過ぎると、彼が姿を現わす。それを見て雪花はなんとも言い難い顔をしていた。
「うん。うたのんの見立て通り、似合ってますよラグナさん」
「やっぱりそう思う? テーマはとにかくロックな感じにしたの! 正にヘヴンオアヘルってね!!」
「確かに悔しいくらい似合ってるにゃあ。やれば出来るじゃない歌野」
「雪花さんのおかげよ!」
今ラグナが着ている服は歌野が用意したものだ。赤いバンダナとノースリーブの赤ベストを着ていて、中には黒のインナーを着用していた。
下は白のズボンを着ていて、何故か歌野から渡されて咥えさせられたココアシガレットを手で取ると自身の感想を述べた。
「結構良いけど…こいつで街中を歩くのは流石の俺でも少しヘヴィーだぜ…袖ねえし」
「腕のことかあ。結構似合ってたけどそれなら仕方ないや。ていうかなんでちょっと声低くしてんの」
「それでしたら他にもこんな服もありますよ。良かったら試してみてください」
「今度のはみーちゃんが見つけたんだったわよね。どんなのか楽しみ!」
「じゃあそれも着てみるか」
水都から別着の服を受け取ると、ラグナは再び試着室に入って着替えた。部屋から出ると三人は三者三様の反応を見せる。
「うたのんが選んだのは薄着だったから私は厚着を選んでみたよ」
「全身を覆って顔まで隠すフードの付いた白いローブか…寒い時とかだったらアリかも?」
「良いわよみーちゃん、ラグナ! こっちはキュートな感じになっているわね!」
「特にこの赤い模様とか可愛いと思ったんだ。特に頭の十字架みたいなの」
三人がそれぞれの意見を述べていると、ラグナが手を上げて少女たちに呼びかけた。
「悪ぃ…この服だとちと暑くてな…そろそろ脱いで良いか?」
「え~、せっかく似合ってたのに~」
「まあまあ、せっかくだし他の服も選んでみようよ」
「じゃあ今度は服を黒に統一するのはどうかな?」
「いいわね! 後はテンガロンハットとサングラスを掛ければラグナもマーベラスでダンディーなお兄さんに!!」
「うーん、ラグナってダンディーというには流石にまだ若すぎるんじゃない?」
「テメェらは俺に何を目指せってんだ…」
結局その日は歌野たちだけが服を買うことになってその日の午後は雪花と共にラグナは歌野の畑仕事を手伝った。
「そんなことがあったんだね~」
「服を買ったウタノとミトもそうだが、セッカも楽しそうだったぜ。服関係が好きなんだな、アイツ」
「それは知らなかったな~。それで他には服を着たの?」
「あの後は革ジャンと膝のとこに穴の開いたズボンとか白い着物とか…後アロハシャツに短パンまで着せられてたな」
「楽しそう! 私も普段と違うラグナを見てみたかったよ~」
「それってそんなに見たいモンなのか?」
「うん!」
翌日、ラグナは友奈に誘われて千景の部屋にいた。今日ひなたは街で若葉と出かけているので右腕が動く。彼自身もあまりゲームをやったことがないので友奈についていくことにした。
初めは千景も微妙な顔をしていたが、友奈が千景が対戦相手を欲しがっていることを見破っていたため、普段の礼も兼ねて彼を迎え入れることにした。
「二人とも。準備が出来たわ」
「わーい! そういえばこのゲームってどんなゲームなの?」
「今回は彼もいるからアクション要素の少ないパーティタイプのゲームを選んでみたの」
「別に遠慮することねぇんだぞ? お前らの好きなヤツをやれ」
「貴方ってあまりゲームをやる印象がないからこういうのから始めた方が良いと思って」
「ゲームのことはやっぱりぐんちゃんが一番よく知ってるね!」
「分かった、じゃあ早速やろうぜ!!一位は俺のモンだ!!」
「今凄まじく大きなフラグが立ったわ…」
「あ? ふらぐ? 何だそりゃ?」
「なんでもないわ…」
早速ゲームを開始した三人。各プレイヤーが指定した回数のミニゲームを行い、最も勝利数の多いプレイヤーがこのゲームの覇者となる。ゲームは大体シンプルな操作のものが多く、ラグナでもなんとかプレイすることが出来たが、それでも千景に勝つのは至難の業だった。
「………全く勝てねえ」
「強いからね~ぐんちゃん」
「まだまだね」
「うぐぐ…もう一回だ!! もう一回やろうぜ、チカゲ!!」
「良いわよ」
その後も諦めずに何度も挑戦したが、ラグナは結局一度もゲームの勝者になることが出来なかった。彼もプレイしていく内に操作に慣れて勝ち数も少しずつ増えてきたが、それでも千景には敵わない。
「後少しで勝てそうなんだけどなぁ…」
「貴方…ギャンブルとかには全然向いてないわね…負けが増えるとドツボにハマるみたいだから」
「…それは否定できねえな…こいつを見ちまうと」
「そ、そろそろ休憩しよっか?」
「そうだな…仕切り直すためにも休むか」
「まだやるつもりなのね…」
「私、何か買ってくるよ。二人は何が良いの?」
「いや、そんなに気を遣わなくても良いぞ。俺が買いに行く」
「でも休まないとぐんちゃんに勝てないよ?」
「……わーったよ。ンじゃあお茶で頼む」
「私もそれで」
「分かった!それじゃあ行ってくるね~」
ラグナたちが自分の分の代金を渡すと友奈は出かけて行った。その間に千景はラグナに話しかけてきた。
「ねえ」
「なんだ?」
「どうして…貴方は諦めないの?何度も負けてるのに…」
「これってすぐに何度も出来ちまうだろ?だから次は勝てるかもって思っちまって勝負にのめり込んじまうみてえなんだ。まあお前が迷惑してんならもう次で止めるよ。結局は俺の我が侭だしさ」
「…ううん。正直ちょっとしつこいと思っているところはあるけど、それも含めて楽しいから」
「お、おう。ありがとな」
楽しいと思ってくれてはいるが、自分は負けて意固地になり過ぎてしまったようだ。次は気を付けよう。
「にしても本当に強えな、チカゲは。どうやったらそんなに上手くなるんだ?」
「…気づいたらゲームに没頭してたわ。小学生の頃から…ずっとやってたの」
「他の奴とはやってねえのか?」
「アーケードとかネット対戦でそこそこ名の知れたプレイヤーだったわ。『Cシャドウ』というハンドルネームでやってたの」
「そうだったのか…そんなに長え間色んな奴とやってたらそりゃあ俺がボロ負けしても不思議じゃねえな」
「…そんなの、貴方の方がよっぽどすごいじゃない」
「どうしてだ?」
ラグナが千景の言葉に疑問を覚えると彼女は小さな声で話し始めた。
「子供の頃、あっちの記憶を思い出す前から…他の何かを守るために修行して…多くの敵を倒してる…色んなことがあっても多くの人のためになることをやってる」
「そうかもしれねえな」
「…私は…それが…」
そこまで言うが、千景の口から言葉は続かなかった。その真意を知りたくとも顔を伏せるのだからこちらからは分からない。
「チカゲ。もし悩みがあるなら俺で良ければ話してくれねえか?」
「……良いの?」
「これでも二人の弟妹の兄貴だったんだ。遠慮しなくても良いぜ」
「…そう」
彼に促されて千景は話し始めた。
「……私は…価値のある存在なのかなって。最近考え始めてきたの」
「どういうことだ?」
「私たちが北海道の人々の提案を拒否した時、彼らは急に冷えた反応を返したの、覚えているかしら?」
「…ああ」
「…私たちがあそこに行ったばかりの反応が…私の故郷での村人たちの反応によく似ていたの。だから…私も多分勇者じゃなくなったら…また前のような反応をしてくると思う」
「…そうか」
「だから、考えてしまって…私が勇者じゃなかったら…何が残ってるのかなって。私の価値って何だろうって」
寂しげにそう言う彼女を見て、ラグナは真剣な顔つきで答えた。
「そうだな…俺にはお前の価値って奴を言うことは出来ねえ。それは…結局自分にしか見つけられねえからよ」
「そう…」
「…でもな、チカゲ。お前には俺じゃあ出来ねえことがごまんとあるぜ」
「そんなこと…」
「言っちゃあアレだが、俺は師匠にいつも『どうしてお前はいつもそう大雑把なんだ』とか言われちまうぐらい戦いでも直感と力任せのゴリ押しだぜ? 細けえこと考えるのとか苦手だし」
「…そうね。ゲームをやっているときもそうだったから」
「けどお前はそのCシャドウっつーイカしたセンスの名前を考えつくほど頭良くて努力も出来るし、俺よりも精密に大鎌で相手をぶった切れるし、ゲームだって今のとこ俺は一回もまともに勝ってねえぞ? それだけでも十分すげえ奴だよ、テメェは」
まあ少し後ろ向きなところが玉にキズだけどな。少し冗談っぽくラグナはそう言った。それを聞いて千景は俯きながらも小さく笑った。
「…ありがとう。少し…気が楽になったわ」
「そいつは良かった……」
こんな兄がいて、彼の弟妹たちは幸せ者だなと千景は感じた。対してラグナはあるものに気づく。千景の左耳だ。
(あれは…切り傷か?)
かなり古いもののようだからバーテックスによるものではないだろう。だがここでジロジロ見てしまっては千景も不快に感じるのやもしれない。今の安心した表情の彼女の顔を曇らせないためにもラグナはそっとしておくことにした。
それと同時に友奈が部屋に戻ってきた。二人に飲み物を配っていると彼女は千景の笑顔に気付いた。
「あ! ぐんちゃん、さっきよりもいい顔になってるね! 何かいいことあったの?」
「ちょっと彼と話をしただけだけど…」
それを聞いて友奈がラグナの方を見ると、嬉しそうに彼を見た。実は彼を誘った理由の一つに千景の不安を感づいたからだ。しかし自分に話さないところを見る限り、友達である自分を心配させたくないのことだろう。
でも不安を溜め込むのは良くない。ならば誰が一番話を聞くのに適任か。それは自分以外で千景とそこそこ親しく、年上でかつ話を真剣に聞いてくれるであろうラグナしかいないと友奈は考えた。迷惑にならないのかと心配しながらも彼に相談したら二つ返事で承諾してくれたのだ。
「ありがと、ラグナ!!」
「テメェも気にすんなって。仲間だしよ」
さてと。友奈は外に出ていたこともあってしばらくは休んでいる二人がプレイしている様子を見せて欲しいと言って二人の間に座り込む。その後、千景はゲームを変更した。内容は格闘ゲームで相手を場外へと押し出すというものだった。
「貴方は戦うタイプのミニゲームが得意だったし、これなら押し出されるまで負けじゃないから諦めの悪い貴方に合うんじゃないかしら?」
「そうかもな…ンじゃあやるか!!」
「二人とも〜、頑張れ〜!」
両者は再びコントローラーを握り、激戦を繰り広げる。その後は暫く二人のプレイを見て再びゲームがやりたくなった友奈と三人でゲームを遊んでその日は終わった。
また別の日、ラグナはその時の勝敗を棗、若葉、球子、ひなた、レイチェル、そして杏に話していた。この日は勇者たちが訓練を終えて各自で自由な時間を過ごしていた。
「つーことがあってな。そのゲームでも毎回良いとこまで行ったが結局最後は完敗しちまったぜ」
「千景のゲームの技術は本当に高いからな。私も以前モンスターを狩るゲームで困っていた時に助けてもらったものだ」
二人がその時の得意げな千景を思い返しながら笑っていると杏はラグナに話しかけた。
「そういえばラグナさん。その時の右腕の調子はどうだったんですか?」
「特に何もねえけど、どうかしたのかアンズ?」
「いえ、何でもなければ良いんですけど…ほら、ラグナさんの右腕は一応バーテックスじゃないですか」
「確かにそうだな」
「それが使える状態にあるということは切り札を使っている時の私たちに近いものを感じて…それなのに一切代償がないとは考えられないんです」
元々勇者たちの切り札は精霊を身に降ろすものなので身体への負担がかなり大きく、使用を控えるように言われていた。
だから人でない存在を常に内包しているような状態のラグナが心配になった。以前の丸亀城での戦いでも切り札を使った球子は疲労していたのもある。
それを聞くとラグナは杏の頭に手を置いて落ち着かせるように撫でた。
「大丈夫だアンズ。今のとこは何ともねえし、心配要らねえよ」
「そ、そうですか…なら良かったです…」
「おーい、ラグナぁ? 安心させたいのは分かるけどさぁ、いきなりあんずを撫でるのはどうかと思うぞ〜」
「あー悪ぃ。つい妹にやる時の癖でやっちまった」
球子に指摘されてすぐに彼も手を離した。因みに撫でられた当の杏はというと特に気にした様子はなかった。
「でもまあ、そうだな。強いて言うならここ最近は温かくなったせいで朝起き辛くなったな。午前中も眠くて敵わねえ」
「分かるぞ、ラグナ!! 周りがいつもよりも温かくて気持ちいいもんな!!」
「その通りだぜタマコ!!」
「二人とも〜。そこで意気投合しないの」
「そもそも春でなくとも貴方たちは朝の授業だと寝てばっかりじゃない」
「……今は普段の六割増で眠くなるんだよ」
「そうだ! 温かい陽射しか悪いんだ! タマたちは無罪なんだ!」
中々頭に痛い突っ込みが杏とレイチェルから飛んでくるが、それを聞いて棗が声をあげた。
「いつも朝は眠そうにしていたのは気になっていたが、二人は身体が怠く感じるのか?」
「まあ、そういうことになるな」
「だったら身体の調子を直さなければいけないな。なに、安心してくれ。こう見えて私は整体に覚えがあるんだ」
「整体…ああ、マッサージか」
「若葉ちゃんも最近疲れが溜まっているようですし、受けてみてはいかがでしょう?」
「そうだな…良いか、棗さん?」
「ああ。それでは皆私の部屋に来てくれ」
棗の言われるがままに六人は彼女の部屋に向かい、ラグナは棗に促されて彼女の部屋のベッドの上で横になった。
「それでは施術を開始する。ラグナ。身体を楽にして、私に身を任せろ」
「分かった」
「それでは行くぞ……ふん!!」
棗は力一杯ラグナの身体を押していく。その時に出てくるゴリッという音を勇者たちは聞き逃さなかった。
「あがッ……!!?」
「ら、ラグナさん!?」
「だ、大丈夫なのかこれは!? 苦しんでいるように見えるぞ!?」
「心配ない。だが、体幹が若干ずれているようだな。今直してやるぞ」
「いでででででっ!!!?」
「ラグナさんが……棗さんの上で海老反りになっていきます!!」
棗の上で海老反りになりながら白目を剥くラグナを見て、少女たちは棗に戦慄する。特に次にやられるであろう球子は冷や汗が止まらないでいた。
「ま、まさかタマもあれを受けるのか…?」
「そうなるわね。頑張りなさい、球子、若葉」
「骨盤も少し歪んでいる…ここも調整してやるからな。息を吐いて…そこっ!!」
「ぐぉぉぉ!!?」
「ひなた、筆を用意してくれ」
「辞世の句を読もうとしないで下さい、若葉ちゃん!!」
身体をありとあらゆる方向へと押され曲げられた末にラグナの整体は終わった。一仕事を終えた棗は実にスッキリした笑顔を浮かべているが、やられたラグナは力なくベッドから床へ転がり落ちた。
「ラグナさん…ピクピク痙攣していますね…」
「これはまた愉快なものが観れたわ。よもや彼がこんな養豚場の豚みたいになるなんてね」
「起きた時には前よりも調子が良くなるさ。さて、次は球子だったか?」
「いやいやいや!!? タマは平気だぞ!! 今は痛みも痒みも全ッ然ないからやらなくても大丈夫だ!!!」
「痛みを感じない?それなら尚更やらないと」
「タマっち先輩…もうやるしかないみたいだよ…」
「…好きにしてくれぃ」
「任せろ、すぐに楽にしてやる」
最早抵抗は無駄だと悟った球子はベッドに乗ると棗は再び整体を開始した。
「ぎょえええええ!!!!?」
「タマっち先輩ーーーーーーー!!!!」
案の定、球子は悲鳴をあげる。彼女もまた最終的にはラグナ同様、海岸に打ち上げられたセイウチのようにぐったりしていた。
「うぐふっ……」
「ラグナさんに続いて球子さんまでもが…」
「ラグナ…球子…お前たちは正に…勇者だった…」
「か…か…」
「ラグナさんが正気を取り戻したようです!!」
「だ、大丈夫でしたか!? ラグナさん!!?」
「か、身体が…」
起き上がったラグナに他の少女たちが注目する。その時の彼の第一声は
「身体が…今までにねえくらい軽い!!!」
『アレで!!!?』
「ほ、ホントだ…今のタマなら誰にも負ける気がしないぞ!!」
「言われてみれば、二人とも目の輝きが先ほどとは違うようね」
「ナツメ。テメェの整体の効果、絶大だったぜ」
「今ならバーテックスが何体来ようと勝てる気がするぞ!!」
見違えるほどに元気になった二人を見て、少女たちは言葉を失うが、棗だけはこの反応を予想していたようだった。
「それは良かった。二人には元気でいて欲しいからな」
「なあ若葉。お前も受けてみたらどうだ?ひなたが言うにかなり疲れてるんだろ?」
「そうなのか、若葉?」
「あー……」
踏ん切りの付かない顔をした若葉だが、いつもよりも元気そうにしている二人を見て彼女も決意する。
「ええい!!私だって頼んだんだ!!一度言ったことを撤回してしまっては乃木の名に傷が付く!!やってくれ、棗さん!!」
「応とも」
そう強く宣言した若葉はベッドに横たわり、棗の整体を受けた。勇者たちのリーダーであるだけあって悲鳴を上げることはなかったが
「……ぅ…くっ………がくッ…」
「若葉ちゃーーーーーーん!!!!?」
「身の危険より誇りを選んだのね。天晴れだわ、若葉」
最初の二人同様撃沈してしまった。やっとの思いで立ち上がった彼女はよろよろとひなたのところへ近づき、倒れそうになったところをひなたが抱きかかえた。
「若葉ちゃん、気をしっかり持ってください!!」
「……ひなた」
心配してくれる幼馴染の言葉にしばらくして若葉は答える。それも久しぶりに聞くほど力強い声で。
「心配を掛けてしまったな。私はもう大丈夫だ」
「す、すげえ…ここまで堂々としたワカバは見たことねえ」
「それだけ棗さんの整体の効果は大きいんですね…どこで習ったんですか?」
「沖縄のおばあやおじいたちにだ。よく一緒にやってたからな。杏もやるか?」
「い、いえ結構です…」
「しかも三人に整体を施したのにも関わらず汗一つ見せないなんて、底知れない体力の持ち主ね、棗」
「何、普段の鍛錬のおかげだ」
「それもそうね…でも面白かったわ。誰かさんのとても愉快なところが見られたから」
レイチェルがラグナの方を見てクスクス笑う。それを見てラグナも苦虫を噛んだような顔になるが、すぐに何かを思いついたようだ。
「おいウサギぃ。その愉快だったってのはひょっとして俺のことじゃねえだろうな?」
「貴方意外に誰がいるの? 情けない叫び声を上げながらタコのように料理されてしまったのに。もう少し受けていたらその性格も矯正出来たのかしら?」
「言ってくれるじゃねえか。そう言うテメェだって『色々とひん曲がってんだろうがよ』」
「貴方ほどd「レイチェル。お前もどこか悪いのか?」え?」
レイチェルがラグナの言い分をいつもの要領であしらおうとすると、棗が彼女を心配そうに何かを聞いてきた。何のことか分からなかったレイチェルは一瞬思考が止まってしまった。
「…棗。どういうことかしら?」
「何。さっきラグナがお前に歪みがあると聞いてな。もし本当なら私が治そうと思ったんだ」
「いや、別にそんなことしなくても良いのだけれど」
「逃げんのかよウサギ? 俺のことを散々抜かしやがったクセにいざになったらテメェだけトンズラすんのか?」
彼女はラグナの顔を見る。やり返してやったといわんばかりに憎たらしくも勝ち誇った顔をしていた。しかし彼の言う通り、ここで逃げるなど出来るはずがない。自分がまずそれを自分に許さない。
「……まさか。そんなわけないでしょう?相変わらず短絡的な駄犬ね」
「じゃあやるのかよ?」
「貴方に言われなくても受けるわよ。それでは棗、お願いするわ」
「任された」
勝気な笑顔を浮かべたレイチェルもベッドに乗って寝そべると先の三人と同様に整体を始めた。先ほどの若葉とほぼ同様に声を出さないように懸命にしていたが、時々漏れてしまうこともあった。
「うん…後はここを正せば…せいっ!!」
「ン……くぅ……ぁ…パタリ…」
「何となく知っていたが…やっぱウサギでもダウンしてしまうのか…」
「ラグナさん。今のは少し大人げなかったですよ」
「…まあそれもそうか。おいウサギ。悪かったよ」
自分から仕掛けてしまった責任もあるので、ラグナはレイチェルに謝った。だが彼女が起き上がってこない。
「おいレイチェル! いい加減起きろって!!」
流石に少し心配になったのでラグナもレイチェルに近寄り、彼女が起きるのを助けるために手を伸ばす。しかしその直前に目の前の彼女は消え去り、背後にはいつの間にか自分のコートの襟を掴んで笑顔を浮かべた彼女がいた。
「…あー…ウサギ?」
「なるほど、確かに効果は本物ね。こんなにも素晴らしい整体を施してくれて感謝するわ、棗」
「ど、どう…いたしまして?」
普段はあまり動じない棗でも少し口ごもってしまった。というのも今のレイチェルの笑顔からは得体の知れない威圧感を感じたからだ。気のせいか、部屋の温度が十度近く落ちた感覚すらしてくる。
「さて、ラグナ。私、棗のおかげですこぶる身体の調子が良いの。少し『遊び』に付き合ってもらうわよ」
「いや、遊びっておま」
最期の言葉を言い切る前にレイチェルはラグナを連れて転移し、数分後に雷の轟音が何度も丸亀城に響き渡った。遊びに付き合わされているラグナに向けて合掌しながら若葉たちはその日、棗と沖縄の話をしながら過ごしたのであった。
ということでハチャメチャな騒ぎが起こりながらも一時の平和をラグナたちが興じる回でした。
因みに雪花ちゃんと棗さんの勝手にブレイブルーのBGMイメージは
秋原雪花:Marionette Purple II(カルル=クローバー。紫眼鏡キャラのイメージが強すぎた)
古波蔵棗:Stand Unrivaled(十兵衛。曲の雰囲気が何となく沖縄っぽい感じがしたから)
さて次回ですが…いよいよここからのわゆ下巻のシリアスパートへ突入です。勇者たちに迫る脅威に果たしてラグナは勝てるのか。それではまた。