蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

きらめきの章を見た時の赤嶺ちゃんが物凄い筋肉フェチになっていてびっくりした。こりゃあアズにゃんに逢わせるべきか?

え?どのって?そりゃあもちろんムスタング持ってる方ダヨ。ホントダヨー。

とまあゆゆゆいで色々あったり、昨日は姫様の誕生日だったりと色々ありますが、今回で原作のわゆのあの戦いの前半戦です。それではどうぞ。


Rebel76.吹き荒れる雪

「タマっち先輩、もう明かり消すね」

「ああ、良いぞ」

 

寝る準備が整った杏は自身の部屋の明かりを消し、親友の球子の隣に寝そべった。彼女が勉強を終わらせたタイミングで丁度球子が入り、流れのまま二人は共に寝ることにした。

 

しかし実際に杏が考えていたのは精霊、そしてラグナの腕についてで全く勉強など頭に入れなかった。同じように人外の力であるはずなのに自分たちの切り札と彼の腕には差が存在した。

 

自分たちの場合、極度の疲労などが起き、それでもまだ謎が多い。しかしラグナの話に一つ、自分たちも他人事ではないものがあった。彼の弟である刃の凶暴化だ。詳細にではないが、ラグナはこの出来事も話している。

 

(その刃さんはオーバードライブという技術の多用の末に凶暴になっていった…多分だけど…アレは私たちの切り札に近いものかもしれない…)

 

だったら自分たちはどうなるのか。正直若葉、球子、そして千景は一度使っているにも関わらず人格の変化は見られなかった。友奈に至っては二度やっているが、特に問題があるようには見えない。それでもまだ安心はできない。

 

(逆にラグナさんの場合、精神へのダメージはない。その代わり、何の処置もなければ周囲に悪影響を及ぼすことがあって…しかも元のバーテックスが暴走を起こす可能性がある)

 

本人は大丈夫というらしいが、それでもやはり心配にはなる。ただ暴走してしまうかどうかではなく、仲間として。友達として彼が心配だ。

 

「あんず? どうしたんだ?」

「あ、ううん。何でもない」

「ホントか~? なーんか胡散臭いな~」

「あ、あはは…」

 

苦笑いする杏に球子は話題を変えることにした。

 

「にしてもこうしても見ると本当に姉妹みたいだな」

「ふふ、そうだね。タマっち先輩と本当に姉妹なら楽しいんだろうな」

「そうだな! その時はタマが姉ちゃんで、あんずは妹だ!!」

「え~、そんなこと…ないと思ったけど、ラグナさんも言ってたもんね。初めて会った時に」

「きっとあんずから溢れ出る妹オーラをラグナが感知出来たんだ!!」

「…ある意味、そうかもしれないね」

「ん?どういうことだ?」

「だって、ラグナさんって元々本物のお兄ちゃんでしょ?しかも妹がいるんだし」

 

その事実を球子もああそうだったと思い出す。時たま自分たちの様子を懐かしそうに見ているときがあるが、もしかしたら弟妹たちを思い出しているのかもしれない。それだけで彼とその弟妹はかなり仲が良かったことが分かる。

 

「でもそうだね。いつも元気いっぱいのタマっち先輩がお姉ちゃんで、私は妹」

「ああ! 世界一の仲良し姉妹だ!!」

 

そう言いながら球子は杏に抱き着く。杏もクスリとしながらそれを受け止めた。二人が仲睦まじく笑い合いっていると球子の温かさに触れている内に杏は意を決してその不安を切り出した。

 

「タマっち先輩、この前ラグナさんの弟さんの話、覚えてる?」

「あー、ちょっと怖くなったって話か?」

「うん。その時の彼が使ったものが私たちの切り札に似ているなって思って」

「そうか…つまりタマたちもそうなるかもしれないって心配してんだな」

「うん…」

「そんでその上にラグナの腕もバーテックスだから動けるときはタマたちでいう常に切り札状態みたいでアイツにとっても危険なんじゃって心配したわけか」

 

球子の言葉に小さく頷いて答える杏。仕方ないなと言いながら球子は杏の顔を自分の方へと向ける。

 

「だからタマたちもそうならないように一緒に戦うんだよ。アイツ、仲間を守るためなら全部しょい込んで自分から危ない目に遭いそうだからさ」

「タマっち先輩…」

「なーに、もし何かあっても心配すんな! ラグナもあんずも皆も! タマに任せタマえ!!」

「あはは。それやっちゃったらラグナさんと同じだよ」

「あ、やべ」

 

それに気づいた球子はキョドってしまったが、それを見て杏は微笑む。彼女が球子の手を取ると彼女に聞き取れない大きさの声で呟いた。

 

「ありがとう、タマっち先輩」

「ん?何か言ったか?」

「ふふ、秘密」

「なーにぃ?こいつめぇ、白状しろ~」

 

そうじゃれ合っている内に球子と杏は眠りについた。

 

 

そうして翌日の教室で杏は球子と共に次の襲撃では極力切り札を使うのを控えて戦おうと皆に進言した。

 

「なるほど…それも一理あるな」

「はい。だから次の戦いでは切り札等の使用を控えた方が良いと思うんです」

 

周りの者たちも彼女の意見について考える。千景が自身の意見を出した。

 

「…どうしても使用せざるを得なくなった時は…どうするの? 藤森さんによると今回の敵はかなり厄介だそうなのだけれど」

 

数日前、水都の神託によると敵は今までののものと比べてもかなりの巨体なのらしい。それを聞いて勇者たちが真っ先に思い浮かんだのは丸亀城の戦いの最後に出てきた超大型バーテックスである。

 

「…できるだけそうならないように立ち回ります。融合するのを防げばどうにかなると思うんです」

 

それに対して杏も策で何とか精霊の乱用を防ぎながら星屑たちの融合を防ぐと言う。それを聞いて千景も穏やかな顔で言葉を返した。

 

「そう……それなら分かったわ」

「ありがとうございます。ラグナさんの方は?」

「俺も賛成だ。こいつ抜きで倒せるならそれに越したことはねえ」

 

自身の右腕を見ながらラグナはそう伝える。周りの勇者たちも杏の言葉に賛同するように頷いた。それを見てホッと安心したように杏に胸を撫で下ろす。

 

「本当に良かったです。正直反対意見が出ると思っていましたから。特に千景さん」

「…そうね。確かに前なら言っていたかもしれないわ」

 

でも今ならある程度冷静に杏の話を聞くことが出来る。正直今でも少し切り札を使わないことに不安はあるが、危険性があるなら無暗に戦いで使わない方が良い。

 

(これも…皆と触れ合うようになったからでしょうね…)

「千景さん?」

「あ、ごめんなさい。これからもよろしくお願いね、伊予島さん」

「あ、はい! こちらこそ!」

 

二人が仲直りしている様子を見て球子は嬉しそうに笑っている。その様子にラグナも気づいた。

 

「どうしたんだタマコ? そんなに嬉しそうにアンズたちを見て」

「ラグナか。いやな。今すごく良い顔してるだろ、あんず?」

「そうだな、この前も不安がってたし。何か話を聞いたのか?」

「まあな。昨日の夜にあんずが不安そうだったからタマが話を聞いてやったんだ。そしたら悩みも晴れたみたいだぞ」

 

その話を球子から聞いてラグナは犬吠埼姉妹を思い出す。二人が一緒にいるところを見つけると姉妹と同じ雰囲気を感じることがある。

 

「そうだったのか。良かったな、タマコ」

「まあな! この勇者タマ様にかかればあんずの不安も裸足で逃げ出すさ! ラグナも悩みがあったらいつでも頼ってくれよな!!」

「お前にか?」

「そうだ!!」

 

元気いっぱいにそう宣言する球子を見てラグナは笑う。杏に対しては間違いなく頼りがいのあるお姉さんなのにどうして普段はこんな男子っぽいのだろう。

 

しかしおかげで話しやすいのは間違いないからこちらとしても助かっている。突然のことに首を傾げる球子にラグナが彼女に心の中で感謝しながら答えた。

 

「いつも頼りにしているつもりだったけどな…まあそん時ぁ頼んだぜ、タマコ」

「お、言ったな~!!絶対だかんな!!」

 

彼の返事に満足した球子は他の勇者たちの輪に入っていった。

 

「なあ、皆!! タマの提案だけどさ、次の戦いが終わったら皆で花見しに行こうと思うんだ!!」

「それはナイスアイデアだよ、タマちゃん!! この時期ならそろそろ桜が満開になる時期だしね!!」

 

友奈の言葉に歌野が反応した。

 

「あら? そうなの、友奈さん?」

「うん! この近くの亀山公園は桜の名所があってね! 毎年たくさんの人が来るんだ!!」

「そうだったんですね…それを聞いたら楽しみになってきました」

「私もだよ。お城の近くで花見だなんて夢みたいだもん」

「そういえば花見と言えば料理なのだが、この中で料理出来る者はいるのか?」

 

棗の指摘にひなたが微笑みながら答えた。

 

「ふふふ、だったら私は料理を用意しましょう」

「あら。それは期待してしまうわ」

「私も手伝います。簡単なものなら作れますので」

 

そう楽し気に杏は答えたが、それを聞いたラグナは一瞬震えた。その様子を訝しんだ友奈が彼に尋ねる。

 

「あれ? どうしたの、ラグナ?」

「いや…ちょっと寒気が…」

「今は春だぞ?」

「棗さん、多分気温がじゃなくてラグナさんは別のことに不安に感じたんじゃないんですか?」

「どうしたんですか、ラグナさん?」

「…なあアンズ。テメェは料理出来るっつて土留め色のクッキーとかエキセントリックな色合いのカレーとか出したりしないよな?」

「そんなことしませんよ!!? そもそも料理でなぜそうなるんですか!!?」

「ダメだよラグナ。そんなこと言っちゃったらアンちゃんに失礼だよ?」

「それもそうだな…アンズ、悪かった」

「本当ですよ、もう…」

 

変な印象を持たれていたことにちょっと拗ねる杏にラグナが手を合わせて謝罪するが、何処か和やかな雰囲気が部屋を包んでいた。

 

「だったらタマは川で魚を釣って皆の前で捌くぞ!」

「もうそれ花見から随分と離れてしまっているわよ、土居さん…」

「ならば私は海で天然のワカメを取りに行こう」

「古波蔵さんまで乗ってはダメでしょ…」

「棗さんの場合、割と本気でやってしまいそうですけどね…」

「それは否定できないわ、水都」

 

水都の言葉にレイチェルも賛同する。実際棗は休日の時間を多くの場合海に泳いで過ごしているので、もうすでにどの辺りにあるのかが分かるのかもしれない。意見が多く出る中、若葉がまとめに入った。

 

「よし、作戦の内容もその後のことも粗方決まったことだし。ここから切り替えよう。そろそろ時間だ。そうだろう、水都」

「はい。襲撃は夕方のはずです」

「それじゃあパパっと倒して、帰ろう!! そして花見の準備をするんだ!!」

 

そんな約束を交わして少しすると樹海化が久しぶりに発生した。樹海に入った勇者たちはすぐに戦いに備えてそれぞれの配置へ移動する。まもなくして敵もその姿を見せるようになった。

 

「あり? なんか数少ないか? こりゃあ楽勝だな!」

「油断するな球子。まだ戦いは始まったばかりだ」

「分かってるって。若葉は真面目だな」

「それでも用心することに越したことはないさ。今回も気を引き締めていくぞ!!」

『おおッ!!』

 

士気が高揚した勇者たちが次々と敵を駆逐していった。今回は新たな仲間が二人も加わったことでサクサクと星屑たちを倒していくことが出来た。

 

「ハアッ!!」

「ヤアッ!!」

 

棗や千景たちは近づいてくる敵を薙ぎ払っていく。その甲斐もあって敵は殆ど勇者たちを通り過ぎて神樹に近づくことが出来なかった。

 

「えいやーッ!!」

「たあッ!!」

 

雪花は槍を投擲して星屑たちを杏と球子と共に遠くで敵が集まって進化体を形成しようとしているところを射抜く。この調子で行けば何事もなく敵を倒せるだろう。

 

だが敵も黙っていないようだ。既に集合体を作り出している星屑たちがいた。それを見て球子が決意する。

 

「仕方ない! 切り札を!」

「待って!!」

 

それに杏が待ったをかけた。球子は既に一度切り札を使っている。友奈は何ともなさそうだといえ、次使った時に何が起こるのかは分からない。だったら

 

「タマっち先輩は手を出さないで。アイツらは…私が倒す!!」

 

杏は意識を集中して自身と神樹との間にある繋がりを頼りに精霊を身に宿らせる。途端周りから激しい冷気が放たれると同時に彼女の勇者服も形状を変えていった。

 

宿した精霊の名は『雪女郎(ゆきじょろう)』。いかなる敵を雪と氷で凍てつかせ、無へと回帰させる死の象徴。

 

「『ワザリングハイツ』!!!」

 

杏は弩を集合体に向けるとそこから夥しい数の雪の結晶が放たれ、それは極寒の猛吹雪となって樹海を覆い、集合体を襲った。

 

「さ、寒いよ~~」

「私もコールドなのには慣れてたつもりだけど…これは規格外ね」

「私は寧ろ寒さよりこの視界の悪さが問題だねえ。これじゃあ下手に攻撃出来ないにゃあ」

「皆さん、今は動かないでください!! 敵は皆私に任せて!!」

 

勇者服のおかげで辛うじて寒さに耐えることの出来る四国勇者はもちろんのこと、比較的寒さに耐性のある歌野や雪花も少し辛そうに言う。

 

「けどあんず!? 切り札の危険性を一番心配していたのはお前じゃないか!?」

「私はまだ一度も使ってないから…大丈夫だと思う」

「全く、後で説教だからな!」

 

杏の身を心配する球子。そんな中、約一名、致命的に不味い状況に追い込まれた人物がいた。

 

「ガクガクブルブルガクブルガクブル…」

「棗さん!? しっかりしてくれ棗さん!?」

「え!? どうしたんですか!?」

「南国育ちの古波蔵さんにこの寒さは相性が最悪のようね…」

「あ、あれ? ペロ? 何故ここに…それに海の中から頭を出してどうしたんだ…?」

「棗さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!? その海は入ったらダメだ!! 泳いで行こうとするのもダメだ!!!」

「と、とにかく今は上着を貸してやるから頑張ってくれナツメ!!」

「す…すまない…」

「で、出来るだけ早く敵を殲滅しますから何とか持ち堪えてください!!」

「頼んだよ、アンちゃん!!」

 

大急ぎで傍にいた彼女に上着を貸し与えながらも吹雪で世界が白く染まっていく中、ラグナはこの寒さに懐かしさと頼もしさを覚えた。雪の結晶は集合体を包み、やがて敵と共に砕け散った。

 

その後も猛威を振るう杏の生み出す吹雪は敵を一掃していく。星屑たちは瞬く間に氷塊となって砕ける。その後は塵一つ残すことなく消滅していった。杏が弩を下げると吹雪は収まり、敵の数も僅かになっていた。

 

「これで大体の雑魚は片付いたな」

「まだ油断出来ないよ。水都さんが言ってた大型はまだ出てきてない」

 

杏が真剣な顔つきで壁の向こうに注意を向けるとそこからバーテックスの一団がこちらに近づいてくるのが見えた。どうやら敵も更なる戦力を投入してきたようだ。

 

その中でも一際目立ったのがこれまでの進化体を超えた大きさの個体だった。見た目は壺を抱えた海老のようだが、長い尾に付いた鋭い針は尋常でない危険性をこちらに示してくる。尾に当たる部分は半透明の球とそれを通る管で形勢されており、壺から何かを吸い出しているように見える。

 

「なんだよ……あれ……」

 

球子もその姿を見て生唾を飲む。明らかにこれまでの敵とは訳が違う。ラグナもそれを見た時に一瞬驚くと舌打ちした。

 

「…なるほどな…今度はテメェが来やがったのか、この『蠍野郎』が…!!!」

「ラグナどうしたの!?」

「…野郎は…未来で俺たちを倒しかけたことのある奴だ」

 

彼の言葉に驚愕する友奈の横でラグナは蠍、スコーピオン・バーテックスを睨む。神世紀ではよく共に戦っていたサジタリウスとキャンサーはいないようだが、それでも奴は当時の勇者たち、特に小学生時代に三人も一度の戦闘で重傷を負わせている。危険な存在であることに変わりはない。

 

「私が行きます!!」

 

現在切り札を発動している杏が冷気を収束させてスコーピオンにぶつける。白色のレーザーは周囲の星屑を氷結させていくが、肝心のスコーピオンは霜が少しついただけで殆ど傷はなかった。

 

「アイツ、効いてないのか!?」

「そんな!!?」

 

精霊による一撃が通用しない敵に勇者たち、特に攻撃をした杏は戦慄する。あの攻撃が通用しないとなると恐らく今の自分たちの戦力で倒すことはかなり難しいだろう。彼女はそう悟った。

 

「杏!! タマちゃん!! そこ危ない!!」

 

そんな事情など知らんと言わんばかりにスコーピオンは尾針を杏たち後衛組に向けて突いてきた。雪花の声もあって杏たちは散開して回避することが出来たが、杏と球子が他の勇者たちと離れてしまった。

 

スコーピオンは杏たちのいる方へ振り向く。自分を攻撃した相手から倒す算段のようだ。

 

「アンちゃん!! タマちゃん!!」

「くそッ!待ってろ、すぐそっちに………!!」

 

ラグナも急いで彼女たちと合流しようとするが、彼らもまた災難に遭っていた。それまで姿を見せていなかった進化体が複数登場し、その中にも見覚えのある巨大な一体がいた。

 

「今度は天秤っぽいのが!!」

「あの重りに当たったら大変ね…」

 

両端に重りを付けた天秤のようなそれはライブラ・バーテックス。こちらはあまり見慣れていないが、少なくともこれまでの進化体のようにはいかないだろう。

 

杏がスコーピオンに再び冷気をぶつけようとしているのを確認するとライブラは唐突に回転し始める。それによって樹海に勇者たちを巻き上げるほどの暴風が吹き荒れ、杏の吹雪をかき消した。

 

「風で攻撃が無力化されちゃった!?」

「これはかなりまずい状況だな…」

「でもこんなに進化体がいたら杏さんたちをレスキューしに行けないわ!」

「……済まん、アンズ!!」

 

出来れば使うなと念を押されているが最早一刻の猶予もない。ラグナはすぐに右腕を翳して封印を開帳するためのいつもの祝詞を詠み始めた。

 

「第666拘束機関開放! 次元干渉虚数方陣展開!! イデア機関接続!!!」

「ラグナ、お前まで!!」

「このままだと手遅れになっちまう!! 悪ぃが四の五の言ってられねえ!!」

 

徐々に自身の腕へと瘴気が集まっていき、ラグナは最大の切り札を発動させるための最後の言葉を放った。

 

蒼の魔道書(ブレイブルー)起動!!!!」

 

蒼い光がラグナから放たれると進化体の群れが彼の方へと向かう。前回の戦いで、そしてこれまで散々邪魔してきた彼をここで倒すつもりのようだ。

 

しかしそれでもラグナはめげない。瘴気を纏った大剣は次々と敵は消滅させていき、ガンガン敵の数を減らしていく。

 

それを見てライブラは回転を強める。すると巨大な竜巻が発生し、周りの星屑たちを巻き込みながらもラグナを足止めしてしまう。突風の中でも比較的動けた進化体たちは彼を囲い始めた。

 

「こうなっては私たちも切り札を使うしかないわね」

「……そうだな。歌野、行けそうか?」

「バッチリよ」

「よし。棗さんは?」

「残念だが…まだ海神は精霊を送れるほど他の神々と馴染み切っていないようだ…」

「分かった。となると雪花も…」

「うん…私の方もまだっぽいね。ここは棗さんとタッグでラグナを助けに行くわ」

「じゃああの大きいのは私たちでやろう!!」

 

友奈の言葉に他の勇者たちも頷き、それぞれ切り札を使ってラグナに加勢する。その様子を見て杏は自分の力の足りなさに心を痛めた。仲間たちに無理をさせてしまった。

 

そんな彼女にスコーピオンの攻撃が襲い掛かる。杏も気づくが、既に時遅く、針はすぐそこまで迫っていた。

 

「あんずこっちだ!!」

 

そこへ割って入って来るように切り札を使った球子が巨大化させた旋刃盤に乗って杏を救出する。二人はそのままスコーピオンから距離を取って安心するのもつかの間。杏は自分の左腕に違和感を覚える。

 

「何とか間に合ったな…てあんず、それ!!」

「…あの敵、毒があるみたい…」

「そんな!!」

 

先ほどの突きが掠ってしまったようで、そこから毒が入ってきてしまった。腕の傷口周辺はどんどん赤く腫れていき、感覚も麻痺し始めてきた。

 

「大丈夫、右腕だけでも戦える」

「……分かった!!」

 

一度安全なところへ避難させようと思ったが、杏は戦うと言った。そもそもライブラによって皆と合流するのも難しくなっているからここで戦うしか選択肢はない。

 

「だったらタマと同時攻撃だ!!」

「うん!!」

 

輪入道の炎と雪女郎の冷気が交互にスコーピオンを襲い、更に旋刃盤をベイゴマのように回転させての体当たりまでも喰らう。それでもなお敵は不動のまま、悠然といた。

 

「ど、どうしよう……」

「諦めるな。まずは一度退いて」

 

球子が撤退の意志を告げようとするその時。スコーピオンは尾で旋刃盤を地面へと叩きつける。それに乗った二人もまた同じように吹き飛んだ。

 

それを若葉たちが見逃すはずがない。旋刃盤が落下したときに発生した土煙を見ると徐々に焦りが生まれていく。

 

助けに行こうにもライブラの竜巻で足止めを喰らい、唯一対抗できるであろうラグナも進化体の群れに囲まれている。それも雪花と棗と共に少しずつ処理していっているが、やはりこの巨大な敵の存在は大きかった。

 

「早くこいつを何とかしなければ杏たちが!!」

「若葉!! 私のプラン、聞いてくれる!?」

「なんだ!?」

「私が合図したらこの敵にフルパワーで攻撃して!! そうすれば私が鞭で押さえるわ!!」

「承知した!! 友奈、行けるか!?」

「うん!!!」

 

訓練用の武装とはいえ、ラグナの渾身の一撃を真正面からやり合った友奈の鉄拳であればアレを止められるだろう。そう考えた若葉は彼女を指名する。

 

それを聞いて歌野は意識を集中させ、敵のライブラを注意深く見る。彼女も杏と同様、切り札を発動させており、勇者服も変化して鞭も猿の尻尾のようになっていた。

 

彼女の精霊は『(さとり)』。人間の心を読むことが出来る山の妖怪だ。それを宿した今の歌野ならばライブラや他のバーテックスの行動を読むことが出来る。

 

先ほどは敵の数が多かったので情報量も多くなったが、ラグナたちが進化体の数を減らしている今ならそれが出来る。ライブラがスコーピオンの方へ動き始めた瞬間、彼女は声を張り上げた。

 

「今よ!! やっちゃって!!」

「友奈!!」

「高嶋さん!!!」

「行くよ、一目連!!『千回!勇者パーンチ』!!!!」

 

合図と共に友奈はライブラに突貫し、発生した竜巻も強引に痛烈なラッシュで切り裂いていく。ついにライブラの身体まで辿り着くとそのまま攻撃を続行。装甲を破壊することは出来なかったが、それでも敵を押し倒すことが出来た。

 

「貴方は…ここで私との綱引きに付き合ってもらうわよ!!」

 

すぐに敵も起き上がって回転を再開しようとしたが、その前に天秤の片側を歌野の鞭が絡めとる。これで風は収まった。敵も必死に起き上がろうと抗うが、歌野も負けじと踏ん張る。そのおかげでラグナたちの方も動けるようになった。

 

「退きやがれ、このクソ野郎が!!!」

 

炎のように揺らめく大鎌の刃で横薙ぎし、目の前の進化体の一群を両断する。あっけなく切られていった敵はそのまま砂となって消滅した。

 

後ろにも敵が彼の行く手を阻もうとするが、それらの前に棗と雪花がラグナを庇う形で立ちふさがった。

 

「ラグナ。ここは私たちに任せて、お前は杏と球子のところへ行け」

「ナツメ!! セッカ!!」

「これでも元ソロ組ですから。貴方が大暴れしてくれたおかげで大分数も減ったし、そんな簡単にはやられないよ。だから貴方は貴方のやるべきことをやって」

「…おう!!」

 

後ろの進化体は棗と雪花に任せ、ラグナは球子たちの元へ駆けだしていった。残った進化体たちも追いかけようにも二人の勇者は退かない。

 

「さーて、君たち。あの人の相手をしたいのは分かるけどここからは私たちで我慢してちょ」

「ここから先は通さない。人類の敵…花により散れ」

 

二人の言葉を聞いて尚進化体たちは退かずに突っ込み、数秒後には棗の連撃で打ちのめされ、雪花の投げ槍でハチの巣になっていた。




よくよく考えたら蠍座って元々ギリシャの英雄であるオリオンを殺したから星座になったようなものだよね。そりゃあ原作でもあれだけの勇者特効を持つわな。

次回ですが原作杏タマの本格的な危機回。そろそろ物語も動き出しますね。それではまた。
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