まず、のわゆ組の歌う「キボウノツホミ」も収録されているベストアルバム、「勇気の歌」の発売おめでとうございます。
この度、遂に通算UAが三万を突破しました。これまで読んでくれた皆様、ありがとうございます。これからも頑張って更新していくのでよろしくお願いします。
そして新しいSSRの結城さん家の友奈ちゃんが来ましたぜ!後は赤嶺ちゃんですね。
さて今回は対スコーピオン編の後日談前半。死にかけていたラグナですがどうなったのでしょうか。それではどうぞ。
暗闇の中、懐かしいことを思い出していた。かつて、こんな状況に追い込まれたことがあった。その時も自分は勇者たちの助けや芹佳の力の影響で正気を取り戻すことが出来た。
その時は不思議なことが起こって、見知らない女が自分に呼びかけたのだ。何故あれほど親身になって語り掛けてきたのかは分からないが、アレも自分が仲間たちの元へ戻る手助けになった。
何故そんなことを思い出したのか、意識が深い眠りから浮上しかけている自分には良く分からない。それについて考える暇もなくラグナの視界に光が差し込み、やがて自分の身はそれに包まれていった。
「……ぅ…」
目を覚ますとまず視界に入ってきたのは白い天井。窓からは月が美しく輝いているのが見える。元の世界に帰ってこれたようだが、その時にラグナは樹海での最後の記憶を思い出す。
「そうだ…俺は…タマコとアンズを庇って…蠍野郎にやられて…暴走して…でも何とか腕を抑えようとして…」
そこまで思い出して彼の顔が青ざめる。
「そうだ!!アイツらは…ぐっ…!!」
急いで様子を見に行かなければと慌てて起き上がろうとしたが唐突に感じた腹の痛みで倒れるように再びベッドへ戻る。ラグナはその部分を軽く
あれからどれくらい経ったのだろうか、皆は無事なのだろうかと不安を感じていると、自分の横から聞き覚えの無い声が聞こえた。
「あら。結構ヤバい傷を負ってたって聞いたけど、案外大丈夫そうね」
いたのは全く知らない人物だった。声のする方へ振り向くとそこにいたのは三つ編みをしたそばかす顔の少女が自分の方を見ている。謎の人物にラグナも警戒した。
「アンタ誰だよ?」
「…聞いていたけど、結構ワルっぽいんだね貴方」
「何で俺は見知らねえねーちゃんに不良呼ばわりされなきゃあならねえんだ」
「いきなりそんな喧嘩腰で人に話しかけたらそう思われても仕方ないでしょ。あの娘たちも貴方は良い人だって信頼してるし、私も気にしないけどそんなヤンキーみたいに話してたら貴方社会に出たら苦労するわよ」
どうもこの人物は自分を知っているようだ。それに話している内に彼女からはどこか逆らいにくい雰囲気を感じた。
「……分かったよ。それでお前は誰なんだ?俺を知ってるようだし、恰好から見て巫女みてえだが」
「アタシは『安芸真鈴』。貴方のことは上里ちゃんや藤森ちゃんから聞いていたわ」
「アイツらからか…それに…アンタが…か…」
予想外の名前にラグナは少し面食らった。この時代にも安芸という苗字の人物がいることはひなたから聞いていたが、まさか目の前の人物だとは思わなかった。少なくとも顔からでは分からない。
「ん?アタシがどうかした?」
「いや…悪ぃ、なんでもねえ…こっちのことだ。それよりマスズ。アンズとタマコは?」
特に危険な状況に置かれていた二人の状態を聞いたラグナに安芸が答える。
「あの娘たちなら二人とも入院してるけど心配ないよ。球子はちょっとギプスがお世話になってるけど元気みたいだし、伊予島ちゃんも毒は神樹様が身体を癒して下さったおかげで解毒出来たわ」
「毒…ああ、蠍野郎の…」
以前戦った時はそんなものあったっけとか考えながらラグナは続けた。
「なるほどな。じゃあ刺された俺も無事なのもシンジュのおかげか」
「ううん。違うわよ」
「何?」
「貴方の場合、毒が見つからなかったのよ。伊予島ちゃんの身体の毒は大社だって調べてたから間違ってないはずよ」
「…つーことは大社は俺の身体を調べたってのか?」
「結局原因が分からなかったみたいだけどね。その変な腕が原因かと睨む人もいたけど調べようにもわけが分からないから保留ってわけ。まあ何はともあれ、良かったわね。神樹様に感謝しなくちゃ」
「お前…結構フランクな奴だな」
この人物の子孫があの真面目な安芸先生になるのだから世の中どうなるか分からないものである。
「まあでもアタシが一番感謝してんのは貴方なんだけどね」
「俺に?」
「…二人から聞いたよ。あの娘たちを庇ってその怪我を負ったのよね」
「……ンなこと気にしなくて良いのによ…」
助けたかったのは事実だし、あそこで間に合わなければ杏と球子は死んでいた可能性が高い。でもこうして結果的に全員助かった。だから気にする必要はないというのがラグナの考えだった。だが安芸は違う。
「これでもさ。あの娘たちがどうしてたのか、ちょっと気になったりしてたのよ。球子はちょっと無鉄砲なところあるし、伊予島ちゃんも落ち着いてるようで怖がりなとこあったから。この前写真で見た時は元気そうだったけど今回の神託を受けた時…嫌な予感がしてね…」
「…違えねえな」
「そんでこの前やっと私も外出許可を貰って二人を見に病院に来たらボロボロになった二人がいてさ、球子なんて旋刃盤が粉々になっちゃってて…不謹慎な言い方かもしんないけど貴方があの娘たちを庇ってくれなかったら、二人とも死んでたかもって…そう思っちゃって…」
「…実際あの時はそういう状況だったからな」
「だから…どうしても御礼が伝えたかった。あの娘たちを守ってくれて、本当にありがとう。まさか本人が起きているときに言うことになるなんて思わなかったけど」
「気にすんなって。俺にとってもアイツらは大事な仲間だしよ…そういや他の奴らは?」
しかしそれを聞いて安芸は苦い顔をしながら黙り込んでしまった。それを見てラグナは少年の頃の出来事を思い出す。
「おい……まさか!!?」
「ううん。乃木ちゃんたちとかは大丈夫。ちょっと身体を診てもらっていたけど大したことじゃないわ。でも、高嶋ちゃんは…」
「ユーナに何かあったのか!?」
そういえば意識を失う前に見たことない姿で腕から血を流した友奈が見えたが、一体何があったのだろう。必死に彼が聞いてくるので安芸も事の真相について話し始めた。
「高嶋ちゃんは腕をかなり酷く痛めていて、今も意識が戻っていないわ。貴方と違って面会まで禁じられてて…多分切り札を使った影響よ」
今までに聞いたことがないほど深刻な反動が友奈を襲ったらしい。そしてそれを使わせた原因は恐らく自分だろう。自分の力の足りなさを悔やみながらラグナはベッドから出ようと起き上がる。
「…クソッ!!」
「こら止しなって。もう夜だし、貴方だってお腹に穴開けられて五日は寝込んでたんだから…安心して。体の傷は結構治ってきて、容態も落ち着いてきたらしいわ。あともう少ししたら目を覚ますかもね」
安芸の言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻したが、意識を失って大怪我したと聞いては真に心から安心出来ない。
「そうか…」
「心配なのは分かるけど今日はもう休みな。明日はあの娘たちのところへ顔を出すつもりでしょ?」
「ああ。心配も掛けてんだろうしな」
「ホントだよ。貴方たちが病院に担ぎ込まれた時は皆大変だったからね。あんな真っ青な顔した上里ちゃんと藤森ちゃん、見たことなかったんだから」
「ミトはまあ想像できるが…ヒナタまでそんなことになってたのか…」
意外な事実にラグナは少し驚いていると安芸は続けた。
「上里ちゃん、あの二人と高嶋ちゃんの部屋は見に行ったらしいんだけど、ここだけ来なかったって藤森ちゃんから聞いたわ。何でかは良く知らないけど、遠慮してるとか」
そうは言っているが、今までにないほどボロボロになって帰ってきてしまったんだ。きっと心配させてしまったに違いない。申し訳なさでラグナが俯いていると安芸は席から立ちあがった。
「さて、もう時間だし。アタシはもう帰るわ」
「ちょっと待ってくれ」
「どうかした?」
「ヒナタに連絡が取れそうなら俺が意識を取り戻したことを伝えてくれ。それと、遠慮なんざしなくて良いから来いってな」
手で確かめたら傷は塞がっているから彼女が来ても問題ない。もしそうでなくともそのくらいの痛みや不調など根性で捻じ伏せてやる。成せば大抵のことはなんとかなるんだ。
「…もちろん!あの娘にもそろそろ笑ってくれないとね!」
「ああ、頼んだぜ」
「んじゃあまたいつかね、ラグナ君~」
それだけ言って安芸は去って行った。そしてラグナも明日に備えて大人しくするのであった。
翌日。体力を回復させたラグナは諸々の検査を終えた後、まず球子と杏がいるという病室へと向かって行った。情報をくれた看護師によると二人は同じ病室で治療を受けているらしい。
部屋の前に来ると、中から騒いでいる声が聞こえてきた。二人が元気にやっている証拠だ。一度ノックしてから引き戸に手を掛ける。中には左腕を固定された球子の口に食事を運んでいる杏だった。
「お、おいあんず。右腕は動くから平気だって。お前もまだ食べてないだろ?」
「その状態じゃあ食べにくいし、それにタマっち先輩だってあまり動かない方が良いんでしょ?ここは私に任せてよ」
「いや、でもな…」
「朝から仲いいな、テメェら」
「ああ、ラグナか…ってラグナぁ!!?」
「ラグナさん、気が付いたんですね!!」
「昨日の夜にな。テメェらもその様子じゃあ心配いらねえみてえだ」
ラグナは楽し気に二人を見てそう言うが、二人からすれば数日前では生死を彷徨っていた筈の彼がここにいることに驚愕していた。
「みてえだ…じゃないだろ!!お前もう何ともないのか!?」
「ああ。取り敢えず、今は大丈夫そうだ。流石に走り回ったりってのは出来ねえけどな」
それを聞いて心底安心した表情を浮かべる二人。あの大怪我を間近で見た身としては無事だったのが信じられないくらいだ。しかし事実として彼は生きていて、目の前に立っている。
「そ、そうか…そうなんだ…」
「…本当に…良かったです…あの時はラグナさんが死ぬかもって思ってしまって…」
「心配させちまったのは悪かったよ。でももう問題ねえ。こうしてピンピンしてるわけだしよ」
不敵に笑う彼だが、それに対して球子は自分の袖を掴んできた。よく見たらフルフルと震えていた。
「タマコ?」
「…ン本ッ当に良かっだぁ~~~~!!!」
「おわッ!?急に泣き出した!?」
「タマっち先輩。ずっと心配してたんですよ、ラグナさんのこと。私もそうでしたけどタマっち先輩がこんな感じだったから逆にちょっと落ち着いちゃって…」
「ごめんなラグナ!!タマがもっとしっかりしていればお前もあんずもあんな危険な目に遭わなくて済んだのに…」
おいおい泣き続ける彼女を見て改めて自分は色んな人々に心配を掛けてしまったことを認識する。
「…そんなこと言うなよタマコ。あれだけの敵が出てきたんだ。寧ろ誰も死ななくて良かったって喜ぶところだろ?」
「でも……!!」
「それによ、テメェだってしっかり守れてんじゃねえか」
彼の言っていることが良く分からなかった球子だが、ラグナは杏に視線を移した。
「あんずがこうして殆ど無事でいられたのはタマコがずっと守ったからだ。だから俺も間に合えた。まあ…俺がヘマしちまったせいでテメェにいらねえ心配を掛けちまったな…」
「ラグナ…」
「だからもう気にすんなよ。誰もテメェを責める奴なんていねえ。少なくても俺は絶対に責めねえ。本当に…よく頑張ったな」
「……うえ~~~~~~ん!!」
「あーもう、だから泣くなって!…ったく、仕方ねえな」
ラグナは彼女の頭をわしゃわしゃと撫で、背中をポンポンと叩きながら泣き止ませた。
「落ち着いたか?」
「ああ…何というか…すっげースッキリした」
「そいつは良かった。凹み続けてるなんざテメェらしくねえからな」
球子が落ち着いた様子を見せるとラグナも笑う。杏も安心したように二人を見ていた。彼女もラグナは心配だったが、自分を責めている球子のことも心配だったのだ。そして今度は彼女が球子の方へと寄った。
「タマっち先輩。私もね、タマっち先輩が守ってくれたから戦えてきたんだよ。タマっち先輩じゃないと、ダメなんだよ」
「あんずぅ……」
「バーテックスの襲撃に遭ったあの運命の日から…タマっち先輩は…私の一番の
「あんずぅ!!お前はホントに可愛いやつだな~!!」
「ああ!?まだ身体を動かしすぎちゃダメだから~!!」
「良いではないかぁ、良いではないかぁ~」
「ダメだって~!」
感極まって杏に飛び掛かろうとする球子だが、流石に危ないので杏は彼女を宥めた。その様子をラグナは微笑まし気に見ていた。当然これに二人は気づく。
「…ターマ…じゃなくて、まーたその目をしてんな、ラグナ」
「え?」
「ラグナさんって私たちを見ているときに時々そういう目をしますから…こう、懐かしんでいるような」
それを聞いてラグナは少し決まりの悪い顔をしたが、観念したように話し始めた。
「そうか…確かにそういう顔をしてしまったのかもしれねえな」
「と言いますと?」
「テメェらを見ているとさ、時々思い出すんだ。未来にいるとある姉妹と…後アイツらをよ」
「姉妹?アイツら?」
「俺と一緒に戦っていた姉妹がいてな。そいつらの雰囲気がテメェらによく似てたんだ。アイツらの仲良しっぷりも相当だしな」
「そんな子たちがいたのか…」
「そんでアイツらってのは…ジンとサヤ」
「ラグナさんの弟妹たちですよね」
「ああ。アイツらは俺にとって大事な家族だったからな…だから何というか…仲良くしてるテメェらを見てるとアイツらと過ごしてた頃を思い出しちまうんだ。特にアンズはその…結構サヤに似てるからな」
正直初めて会った時は驚いたものだが、この世界での沙耶は巫女だ。勇者服を着ているはずがない。そもそもこっちにいるはずがない。
そして刃と同様、冷気を扱うような能力の精霊を使った時も驚いたが、あれはあくまで切り札で彼の場合はドライブだ。似て非なるものだ。恐らく関係性はないだろう。
「まあ、そんだけのこった」
「…もしかしてそれが「勘違いすんじゃねえぞ」え?」
「俺があの時助けたかったのはタマコとアンズ、テメェらだ。そこにアイツらがどうとか関係ねえ」
杏が疑問を言い切る前にラグナはキッパリとそう言った。例え誰に似ていようがいまいがそんなことはこの男には関係ない。そんな彼の言葉に杏は嬉しく思った。
「そうですね…ありがとうございます」
「良いってことよ」
「おお。ひなたの言う通り、意識が戻ったようだな」
「その様子だと心配は必要なかったわね!」
後ろから若葉や歌野たちといった入院していなかった者たちも部屋に入ってきていた。
「テメェらは元気そうだな。調子はどうだ?」
「ノープロブレムよ。寧ろ大変だったのって貴方の方でしょう?」
「こっちだって結構調子が戻ってきてるぜウタノ。取り敢えず日常生活には問題ねえ」
「回復が順調なのは何度か見に行った時からお医者さんから聞いてましたけど、そんなに早く完治したんですか?特にその、お腹と右腕」
「流石に走り回んのは出来ねえが、特に痛えとこはねえよ。それに右腕の方も落ち着いている」
「そ、そうなんですね…でも良かったぁ」
彼の耐久力に感心していると同時に無事であることに水都は胸を撫で下ろした。次に千景が話に入ってきた。
「…本当に現実味がないわね。あれだけの大怪我をした人間にまたこうして話が出来るなんて…」
「悪運としぶとさには自信があるからな」
「誇ることじゃないでしょ、それは…」
「確かにこれが役に立つ事態は勘弁して欲しいぜ。それよりテメェこそ大丈夫か、チカゲ」
「…どういうこと?」
「ユーナも入院してんだろ?テメェのことだから不安になってねえかと思ってな」
実際彼女はこうして病院に来ること以外殆ど外出しなくなっているが、病人に心配事を開示するのも良くないと考えた千景は首を横に振った。
「…そんな子どもみたいなことになってないわ。それに今は私のことより自分が治ることに集中して…高嶋さんだって貴方が元気になってるのを見なかったら悲しむだろうから」
「…そうか。でもなんかあったらいつでも言ってくれよ」
「…善処するわ」
千景がそれだけ言うと今度はレイチェルがラグナに話しかけてきた。
「流石あのタケミカヅチと戦って生き残れただけはあるわね。どうせ今回も生きているとは思っていたわ」
「…ウサギ。なんかいつもより口調にハリを感じねえぞ」
「そりゃあそうだよな~。タマたちを見舞いしている間もずーーっとチラチr「タイニー・ロベリア」もがッ!!?」
何かを言う前に球子の口は突然出現したラベンダーの枕みたいなものを押し付けられてしまった。言うまでもなくレイチェルが召喚したものである。
普段ではあまり見ない彼女の行動にラグナが首を傾げているが、杏はイイ笑顔を浮かべていた。実害の出るものではないが、何故か妙な寒気を感じる。
「どうしたアンズ?」
「いえいえ。ご馳走様ですホントに」
「テメェまだ食ってねえんじゃなかったのか?」
「ええまあ…とにかく美味しくいただきました」
意味の分からないことを言っているがそっとしておこう。なんかこれ以上追究したら色々とダメな気がする。レイチェルが一度咳払いすると彼女はラグナに顔を向けた。
「とにかく、ドブネズミの如くしぶとい貴方が生き残ったわけなのだけれど」
「なんかさっきよりきつくなってね?」
「お黙りなさい。話の腰を折るものではないわ。今回の戦いはどうやら敵の力量だけが想定外ではなかったそうよ」
「どういうことだ?」
ラグナの疑問に若葉が答えた。
「それだが、お前と友奈が倒したバーテックスには樹海を侵蝕する力があったようでな…そのせいで…一般市民にも被害が出てしまったんだ…」
それを聞いてラグナも理解した。要は神世紀と同じことがこちらの世界でも起き始めたということだ。しかしこちらの結界はまだそれほど強いものではない。つまり
「……俺も侵蝕させてしまったのか?」
「…していたと言うべきだろうか、あれは。少なくとも球子たちがいた場所では奴らの時と違って根が少し灰色に変色しただけだと聞いたが」
「はい。あの状態になってからのラグナさんの周囲における樹海の変化はそれしかありませんでした」
どうも彼女たちが言うに現実世界でライブラやスコーピオンたちがいた場所では大規模な竜巻が発生し、それで数十人が巻き込まれて死者も出ているとのことだ。その時は樹海の根は燃え盛っている木炭のように赤黒かったらしい。
対してラグナがいた場所では樹海の根は色が霞んで灰色になり、現実でも何人かが体調を崩して寝込んだだけで目立った被害はない。恐らくこれも出力の調節が出来るイデア機関や吸収されていた銀の勇者の力という緩衝剤があったからなんだろう。
だが以前の暴走を考えれば彼も深刻な侵蝕を起こす可能性があり、杏が言っていたように必要以上に使わない方がやはりいいようだ。これから現れるだろう完成体たちにそれが通じるかと言われたら難しい話だが。
「クソッ……」
それでも犬吠埼家のような人間が生まれてしまったのかもしれないと思うとやはりやりきれない様子でいた。そんなところへ棗が何かを差し出してきた。ラグナの赤コートだ。
「お前が目を覚ましてから返したかったんだ。おかげで何とか寒さを凌げた」
「そ、そうか」
「…後そこまで気にするな。傷に響くぞ」
「…ああ。ありがとな」
少し急な気もしなくもないが、彼女なりに元気づけようとしていることが強く伝わった。それに応じてラグナも笑顔でコートを受け取る。見れば彼が雑にしていた縫い合わせや染みついていた汚れも全部なくなっていた。
「スゲー…かなりの年代モンのはずなのにピカピカになってんじゃねえか」
「当然だ。ひなたが手入れしてくれたからな」
「アイツが…」
「…ひなたもお前のことを心配していてな。来れない代わりに何か出来ないかと考えていたようだったから私が棗さんと一緒に提案したんだ」
「丁度汚くなっていたからね。にしてもラグナってこのサイズを着てたの?今の肩幅じゃあ結構ギリギリだと思うけど?」
「まあな、慣れってやつだセッカ…つーかそのヒナタはどこにいんだ?」
「おかしいな…さっきまでは一緒だったはずなのだが」
若葉が周りを見るとひなたがいないことに気付く。幼馴染の不在に頭を捻るが、扉の窓からこちらを覗いて来る見慣れたリボンを見つけると彼女はそこへ向かっていった。
「ひなた、いい加減入ってこい。ラグナがお前に礼を言いたいみたいだぞ」
「で、ですが…やはり私と一緒では彼の身体に悪影響が出るかも知れないのでは…」
やはりひなたはラグナの身体を治すことの出来る魔道書の側に自分がいたら彼に悪影響が出ると考えたんだろう。故に彼女は自分からラグナから遠ざかることを選んだ。
普段の若葉との関係が逆転しているなと考えていると、気づけば雪花が自分の肩を叩いている。
「何だ?」
「ありゃあ貴方の方から行かないとダメみたいよ。行って来たら?」
「…仕方ねえな」
そう言いつつも何だかんだラグナは出口の方へと向かい、右腕でドアを開ける。いきなり現れた彼にひなたも驚いているようだった。
「ラグナさん!?」
「よう。待ちくたびれたからこっちから来てやったぜ」
「そ、そうですか…」
ここまでぎこちなくてもいいと思うが、恐らく自分がいても平気かを気にしているのだろう。取り敢えず先に礼を言った。
「ありがとな、ヒナタ。こいつがここまで綺麗になってんのは初めて見たぜ」
「いえ、私に出来るのはこれくらいですから」
「…こいつはさ、俺の母さんの大事なモンだったらしいんだ。なんでも代々家に伝わるって言ってたが」
「何!?そんな大事なものだったのか!?」
「ああ。それで俺自身もこいつとは長え間一緒に戦ってきてな。相棒みてえなモンだ」
「そ、それを私が勝手に直しても大丈夫なものだったんですか?」
「良いに決まってんだろ?今のこいつを見たら母さん、きっと大喜びだぜ?」
寧ろ前までボロボロになっていたのを見たら俺が説教されちまうと彼は冗談っぽく言った。最も、内容の九割は自分の怪我を心配してのことなのも知っている。
「それなら良かったです…それでは私はこの辺りで」
「……テメェ、バカか」
「ば、バカ…?」
「俺は気にしてねえってマスズから聞いただろ?それに秩序の力がなんだ。テメェに魔道書を抑え込まれたくらいで死んだりなんざしねえよ、俺は」
ここでひなたを逃したら益々来なくなりそうな気がしたのでラグナは彼女を両目で真っ直ぐ見ながら語り続ける。
「それに、テメェもいなきゃアイツらは笑えねえ。ユーナがいてもそいつは変わらねえ。皆の笑顔ってやつが守れねえだろうが」
その言葉にひなたは驚く。以前大社へ向かった時もそんなことを言っていたが、覚えていたのか。
「ラグナさん…」
「だからよ。早くこっちに来やがれ。皆待ってるぞ」
「そうだぞひなた。お前もいてくれなければ始まらない」
「……はい!」
そうしてようやく丸亀勇者たちの殆どの面子が揃った。後は友奈が回復するのを待つだけだ。
ひとしきり語り合った後、若葉たちは友奈を見舞いに行き、その後は帰っていった。その時はラグナも同行した。
友奈の病室を覗き込むとベッドには両腕を包帯で巻かれた彼女が寝ていた。千景の話によると来たばかりの頃は呼吸器などを当てられていて危険な状態だったらしいが、峠を越えてからは外されたらしい。
その姿を見たとき、ラグナは昔の芹佳や結城友奈のことを思い出す。こんな状態の人間を見るのは辛いものだったが、寂しそうに彼女を窓の外から見ている千景を見ると更に来るものがあった。まるであの時の自分を見ているようだった。
「高嶋さん…」
「……大丈夫だ。アイツは…きっとすぐにでも目を覚ますよ」
だが安芸の話が正しければ彼女も目を覚ますまでそう長くはないらしい。それに色々ありはしたが、芹佳も結城友奈も最終的には意識を取り戻したんだ。だから彼女もきっと目を覚ます。
その後はまた杏と球子の部屋に戻って話をしている内に面会時間が終わり、若葉たちは帰っていった。
「でもこの調子ならもうそろそろラグナも球子たちも退院するな」
「後は高嶋さんさえ目覚めてくれれば…全て元に戻るわ」
「そうだな。何、あれだけの重症を負っていたラグナが目覚めたんだ。友奈だってきっと目を覚ますさ」
勇者たちが彼らの帰還をについて話している中、水都は何かを考え込んでいるようだった。それにひなたは気づく。
「どうかしましたか、水都さん?」
「あ、ひなたさん。その、ちょっと気になったことがあって…」
「何かありましたか?」
「いえ…気のせいかもしれませんけど…ラグナさんの右腕から以前よりも強くなっているのを感じて…本人は大丈夫って言ってましたけど」
それを指摘されてひなたも思い出す。普通の人間なら当たり前のことだからあの時は気にしていなかったが、ラグナの右目は開かない。少なくとも自分の前では。
それが今日、開いていた。自分に彼を抑える力がなくなったのか。それとも
「……まさか…彼自身の力が…」
どこまで彼は苦難と抱き合わせなんだ。そう思わざるを得なかった。
一難去ってまた一難。主人公とはトラブルに巻き込まれるものです。
次回は高嶋さん家の友奈さんが目覚めてからの出来事。それとここでアンケートを出したいと思います。いずれの話もゆゆゆい時空での話なので全部ギャグです。気軽に選んでくれれば幸いです。
それではまた。
確率事象
-
峡真、動く(なおギャグ全振り)
-
芹佳・トゥ・ザ・フューチャー
-
食いしん坊のアイツ
-
ナオト=アルフレッド