気付けば評価バーが再び赤になりました。評価して下さった方、ありがとうございます。
イベントが終わったと思ったら早くも中園がURとして登場するとは…もう恵みの当てなんてないんだけど…(基本課金しない)取り敢えず溜めるか…
さて今回の話のメインキャラはハザマ!原作ブレイブルーでも本編でもかなり凶悪な彼でしたがギャグ時空だとどうなるのでしょうか?それではどうぞ。
拠点の高地ではなく、香川で勇者たちに警戒しつつも、次にどう打って出るかを考えながら街を歩いているのは黒スーツを着た優男風の男、結城峡真。彼はあることに悩んでいた。
(最近になって勇者たちの戦力が些か大きくなりすぎていますねぇ…)
事実としてここ最近では勇者部の規模も以前よりも大きくなっている。それに対して自分はただ一人。ここは神樹が造り出した特殊な空間である故、元が神樹の負の情念から生まれたような自分ならともかく、元の世界では協力関係にあるレリウスはいない。
一応ここではバーテックスを操ることは出来るし、自分もかなり強いのでまだ何とかなっているが、それでも日に日に強くなっていくラグナや勇者部の面々に苦戦している。
大きな問題を解決するのに峡真は頭を捻るが、いいアイデアが思い浮かばない。今の彼らは近距離においても遠距離においても隙が無い。精神攻撃も考えたが、その前に攻撃される未来しか見えない。
(一対一に誘う必要がありますが、彼らは基本的に二人以上ですし、一人でいる者も全くそういった攻撃が通用しない方々だらけですからねぇ…)
そもそも来たばかりならまだしも、仲間に囲まれている脳筋集団に精神攻撃を成功させるには綿密な準備が必要なのだが、それでも全く安心することが出来ない。何せ今の勇者部には峡真に対する切り札がある。
(何より目障りなのは…今の大赦の基盤を作ったとも言われている上里家のひなたさんですよねぇ…まさか魔道書の力を封じ込むことが出来るとは…)
ひなたの力は過去の世界ではラグナの腕を一時期封じていたが、それが今度は自分に降りかかってしまった。もちろんラグナも初めは魔道書が動かなくなったことに動揺していたが、後に香川開放前の戦いと共に召喚された九重がノイズキャンセラーを左腕の中に仕込んでくれたおかげで問題なく動けるようになった。
敵はどんどん強化されていくわ、自分を無力化する奴がいるわで色々と苦労が増えた峡真である。そんなときは好物でも食べて気分転換だ。
丁度卵が切れていることを思い出して、峡真は近所のスーパーに向かう。肉や魚の売り場の近くまで来ると、そこに目的のブツは
「さてと卵は……なッ!?」
なかった。大抵は必ずある卵が一パックどころか一個もなかったのである。これには峡真は意表を突かれた。店員に聞いたら今日は偶々幼稚園でイースターを模したイベントをやるらしく、そのために勇者部が卵を買い込んでいたらしい。
彼女たちが去るとそこへ更に特売シールを貼る時間になり、主婦たちがそれをガンガン取っていったのでそのまま在庫切れ。しばらく卵は手に入らないらしいのだ。
「クソチクショウがァァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
スーパーから出た後に出口で峡真は盛大に吠えた。普段は外出するときは紳士として振る舞っているが、こればかりは怒りのあまりに髪も逆立っていた。
何を隠そう、峡真の好物は茹で卵。これを食べる時が至高の時間と言ってもいい。大赦で働いていた頃も上層部にキレだすことなく仕事で来たのもこれのおかげといっても良い。
今日は切らした卵を補充したらもう拠点に戻って茹で卵片手に勇者部相手にどうするかを思案するつもりだったが、ここでも勇者部から悪影響を受けるのは想定外だった。
「ふざけんじゃねーーー!!!イースターが何だってんだ!!つーかイースターをやるって何だ!!?何でどこぞの馬の骨か知らねえ聖人サマにちなんだイベントをやる必要があんだゴラーーーー!!!?」
割と好き勝手に言っているが、やっているものは仕方ない。このイライラを解消するためにもかめやへ行こう。
適当な席に着くと茹で卵入りのうどんを注文すると、峡真は箸に手を付けて丼の中を目を移す。そこには確かに茹で卵があった。
「……あのー、すみませーん。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「おや?お客様、何か不十分だったでしょうか?」
「いえ…これはもしや『半熟卵』ですか?」
そう。半熟の茹で卵。卵入りとメニューに書いてあったのでこれを選んだのだが、出てきたものは想像したものとは違っていた。
「ええ、そうですが…」
「…単品の『固茹で卵』の方もお願いできないでしょうか?」
そう頼むと店員は構わないと言って厨房の方へ向かう。これで何とか解決できただろうと峡真は安堵した。
しかしその希望も長くは続かなかった。少しすると厨房から何かが割れるけたたましい音が響いた。何事かと店内の人間は騒ぎ始める。
峡真もこれは何かあったなと考えていると先ほどの店員が自分の方へとやってきた。申し訳なさそうな顔を見て峡真は嫌な予感をした。
「申し訳ございません、お客様…本日は茹で卵を提供出来ません」
「え、えーと…もしや厨房で何かトラブルがあったからですか?」
「はい…私が卵を全部落として割ってしまいまして…誠に申し訳ございません…」
今にもキレそうだったが、騒げば警察どころか勇者たちが来て面倒なことになると考えた峡真は我慢する。
「…いえ、気にしないでください。寧ろ無茶な注文をしてしまってすみませんねぇ…」
食事を終わらせた後も峡真は卵を探すために街中を巡った。
「残念ですが今日は品切れで…」
「そ、そうですか…」
「本日は取り扱ってないんすよ~」
「な、なるほど…」
「うちも仕入れんのは一週間後になるかもな~」
「は、はあ…」
三日ほど探し回ったが、信じられないことにどこの県のデパートやコンビニに行っても卵は見つからない。どこに行っても品切れだったり、あっても壊れたり、運良く買えた時も猫に持ち去られたりととにかくついてないとは言えないレベルだ。しまいには養鶏場へわざわざ足を運んだが、ここでも鶏の調子が悪いらしく、一週間は卵は出せないらしい。
「ここまで…手に入らないものなのかよ…クソッたれがァ…」
あまりにも手に入らない卵に峡真は愕然とする。まるで神樹が峡真から卵を遠ざけようとしているようだった。
最早怒る気にも怒鳴る気にもなれないほど元気が無かった。大きなため息を吐きながら拠点のある高知へ帰ろうとしたが、その時に公園からふと中学生二人組の駄弁り声が聞こえた。制服から見て讃州中学の生徒のようだ。
「明日勇者部の皆、また何かやるみたいだね」
「なんだっけ……『エッグハント』だよね?」
一度スルーしようとしたが、エッグハントという言葉に峡真も興味を示す。あまり聞きなれない言葉だが、直訳すれば卵狩り。そして話題に出てきたのは最初のスーパーに出てきた勇者部だ。気になった峡真はそのまま聞き耳を立てる。
「確か卵を校内に隠すんだって風ちゃんが言ってたよね」
「言ってた言ってた。勇者部皆で卵を隠すんだよね」
まさかのところへ僥倖。どうも卵が余った勇者部はエッグハントと称して卵を校内に隠し、それを見つけ出す催しを計画しているらしい。
これで自分も上手く紛れ込めば卵をかすめ取ることが出来る。思わぬところで目的の情報を得た峡真の顔は獲物を見つけた蛇の如く、残虐な笑みを浮かべていた。
こうはしていられない。明日の
翌日の午後になって峡真は讃州中学の校門を通って学校の至る場所の方へと回った。朝方に行っても彼らと出くわすだろうし、そもそも卵も隠せていないだろう。昼休みならば隠している途中かもしれない。
(そりゃあ私もこんな藪蛇のような手段を使いたくはありませんでしたが…今回はそうとも言ってられませんからね)
だって本当に見つからないんだもの。目の前にあるのに手段なんて選んでいるわけがない。勇者たちが楽しみにしているかもだって?そんなこと知ったこっちゃない。
学校の裏口から侵入し、周りの様子を窺う。どうやら今は劇をやっている最中で誰も外にはいないようだ。これは好機だと考えた峡真は周囲を探してみる。細い場所にはウロボロスまで使って探りを入れるが、中々見つからない。
(どうやらまだ配置していないようですね…少し早すぎたのでしょうか…それとも屋内、ですか…)
もしそうなら最悪だが、ある意味一番確率が高いだろう。これ以上探しても見つからなければ入るしかない。だが茹で卵のためなら致し方無し。
(…まあ想定していなかったわけではありませんからねぇ…そもそもこうしている外にいたとしてもラグナ君や友奈さんたちと遭遇する可能性はありますから…ですが)
峡真とて無策で来たわけではない。ちゃんと下準備は済ませているのだ。
「そう…あの状態になれば…他の勇者たちに邪魔されることなく、卵を探せますからねぇ…ケヒヒヒヒッ!!」
声を小さくしながらも笑うと、峡真は早速指を鳴らしてバーテックスを呼び寄せる。瞬時に風が止み、音は消える。樹海化の兆候だ。
少しして動いている人の気配は無くなった。今動いているのは巫女組くらいの物だろう。ひなたが近くに来れば自分の体調も酷くなるが、逆に言えばそれを頼りにすれば彼女を避けることが出来る。完璧な作戦だ。
「ケヒヒヒヒヒ…ヒャーッハハハハハハハッ!!!俺様の探す時間を稼ぐためにも精々頑張ってくれよなァ、ウドの大木に造られた木偶共と馬鹿な勇者サマよォ!!!」
すっかり勝ち誇った峡真は校内に入るとまず学校内の教室を探し回る。まあ中々見つからないものだが、意外な場所にあったりする。
「全く…一体誰なんですか、こんなところに隠したお馬鹿さんは…」
何と最初に見つけた場所は石鹸を入れるネットの中だった。一応ビニールに包まれていたが、峡真からすれば考えられない暴挙である。
悪態を吐きつつも次の場所へ向かう。次に見つけたのは廊下に転がっている一個だった。素の状態のままでポツンと置いてあったそれを見つけて峡真はブツブツ文句を言いながらも拾った。後で丹念に洗うつもりだ。
その後は色んな場所を探す。教室の机の中、美術室の備品入れ、体育館の教壇の影、はたまた園芸部の花壇の中。当てが外れることもあったが、大体は見つけることが出来た。
そうしている内に何個か卵を確保することが出来た。しかし峡真もまだ満足していない。次は職員室に探りを入れようとする。扉に手を掛けて開けかけるが、その時に異変に気付いた。
(チッ……思った以上に樹海から戻ってくるのが早かったようですねぇ…)
このまま学校にいれば自分が見つかる可能性が格段に上がる。ここは撤退するしかないと判断した峡真はそのまま帰ろうとした。
その時に一個の卵が扉の向こうから自分の方へと転がってきた。
(お、これはこれは…最後に思わぬ福が舞い込んできたようですね「ニャー」え”!?」
卵に手を付けた瞬間、峡真の耳はある音を捉えた。この世界で最も彼が嫌う存在の声。ある意味ひなた以上に自分の弱点と成り得る物。恐る恐る音の方へと顔を上げるとそこにいたのは
「ニャー」
小さな子猫だった。卵を追いかけて職員室から出てきたのだ。実はこの子猫、勇者部がエッグハントを行う際に学校に預けていた子だったのだが、その近くに結城友奈は卵を隠していたのだ。
傍から見れば可愛らしい子猫だがそれを見ると峡真の顔が青ざめていく。足は釘で打ち付けられたように動かない。彼がブルブル震えているのに対して子猫は無邪気に峡真に飛びついた。それだけでもうダメだった。
「ギャアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!猫ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
猫に怯える峡真は後先構うことが出来ずパニックに陥って悲鳴を上げる。何とか振り下ろそうとするが子猫の爪がスーツに引っ掛かって払えない。騒ぎを聞きつけて他の人間や教師たちもやってくる。
「ちょっと、大丈夫ですか!!?」
「全然大丈夫じゃ…ヘークション!!!ありません…ブエックション!!!」
猫アレルギーが発症し始めると峡真からくしゃみと鼻水が止まらなくなり始めた。そんな混沌とした現場へ勇者たちの何人かが駆けつけたわけだが、悲鳴を上げた人物が峡真であることに気付くとかなり驚いていた。
「峡真さん!!?何で貴方がここに!!?」
「結城峡真!!良くその顔をここへ出せたわね!!」
「うわ~、パンパンの袋だ~」
「クッ!!よりにもよってこの獣畜生がいるとひいへーーーークショーン!!!」
くしゃみが止まらず、鼻水も酷くなっていく峡真の元へやってきたのは友奈の卵を確保しに来ていた東郷、水都、小学生園子だった。身体を回転させている彼を見て、小園子は背中の子猫に気付く。
「あっ!わっしー先輩に水都先輩!ハザマンの背中に子猫が乗ってるよ~!」
「早く助けないと!!」
「だったら早くこれを取ってくださいよ~~!!!」
「ほら、子猫ちゃん!そこは危ないから早くこっちに来て!」
「ニャーン♪」
「ニャーンじゃねー!!獣ふぜ…ハーックション!!!」
必死の峡真と勇者たちに対して子猫は楽しそうに彼のスーツにしがみついていた。どうも絶叫マシーンにでも乗っているように感じているのだろう。
これ以上は堪らんと峡真はとうとうスーツの上着を脱ぎ、子猫が自分に向かって飛び掛かる前に東郷たちの方へと投げて逃走した。それを見て何とかそれを東郷が受け止めた。
「良かった。無事のようね」
「でも峡真さんが逃げていきますよ!?」
「心配はいらないわ、水都さん。今の彼ではもう何も出来ないんですもの」
「鼻水ビービーしてましたからね~。それにすっごく子猫さんを怖がってたみたいですけど、猫が苦手なんでしょうか~?」
「そういえば友奈ちゃんも以前言ってたわね。とにかく子猫が無事で良かったわ」
そう言って三人は子猫の無事を喜んだが、その時に小園子があることに気付いた。
「あれ~?でもわっしー先輩。友奈先輩の卵って子猫の傍に置いてあったんですよね~?でも子猫がここにいたら卵はどこにいっちゃったのかな~?」
「もしかして…峡真さんが持って行った…とか…」
「そんなまさか…ねえ…」
小園子の指摘に東郷は苦笑いをする。いくら峡真でも卵を外に出すことはないだろう。そう考えて一同は先生に話を聞いたが
「え?卵?そういえば子猫が卵と戯れながら扉の向こうに出たけど」
「そしたら急に叫び声が聞こえて、ねえ」
教師たちの話を聞くにつれて水都と小園子は嫌な汗を感じる。横の東郷を見ると、彼女は笑顔を浮かべていた。最も背筋に悪寒を感じるものだったが。
「………水都さん。園子ちゃん」
「は、はい!何でしょうか!?」
「私、少し用事が出来たの」
「わ、わっしー先輩の笑顔が怖いぃ~…」
「あの…どこへ?」
「ええ。心配はいらないわ。少し…『狩り』をしに…『卵』ではなく…『蛇』をだけど…うふふふふふふ…」
その時の東郷の眼は表情と言葉とは違って全く笑っていなかった。
「ハァ…ハァ…何とか…切り抜けることが出来ましたねぇ…」
戦利品を持ちながらも辛うじて学校から出ることの出来た峡真は校門にもたれかかっていた。幸いなことに卵も無事のようだ。
「ですがこれでもう問題ないでしょう。後は拠点の高知へ戻るだけ。それにしても…うあ~実に獣臭い…これだから猫は嫌いなんですよ」
早急に帰ろうと学校を後にしようとする峡真だが、その時に大きな罵声が聞こえた。振り返るとそこには
「おぉぉぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!?今度は鬼婆ぁぁぁぁ!!?」
阿修羅の形相でこちらに全速力で追いかけてくる東郷だった。いつの間にか勇者服に着替えていて銃もこちらに向けていた。本来ならこれだけ自分に向けて怒りを向けてくれている方が峡真としては好都合なのだが、今回の東郷はあらゆる意味で有無を言わせない迫力を感じた。
躊躇することなく東郷は峡真に向けて銃弾を放つ。弾丸の嵐を躱し、ウロボロスで弾いていくが、東郷の気迫によって峡真は完全に劣勢となっていた。
「友奈ちゃんの卵返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「友奈さんに卵なんてあるわけないじゃないですか!!?好きすぎて妄想までし始めたんですか!!!?」
「友奈ちゃんの卵ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ダメだ!!!この方、全くこちらの言葉が聞こえてない!!!」
得意の挑発や口八丁も今の東郷に対しては全くの無力だ。こうなっては武力で叩きのめせばいいが、アレルギーの症状で万全でない今の峡真には乱心した東郷を倒すほどの力はない。
「チクショウ!!このクソレズ女ァ!!何本頭のネジがトンでりゃあ気が済むんだよ!!?」
「これで終わらせてやるぅぅぅぅぅ!!!!」
「…いい加減調子に乗ってんじゃねーよ、クソアマァ!!!蛇刃牙!!!」
追われていることに切れだした峡真は髪を逆立たせ、瘴気を飛ばした。それに反応した東郷は咄嗟に横へ飛んで回避した。
「…以前殺り合った時よりも早くなってやがるたぁ…めんどくせえ…」
「フー…フー…卵泥棒を成敗するのにこれくらいできないといけないもの!!」
「うるせー!!テメーらこそこんな下らねえことに使えるほど卵買いやがって!!!おかげでこっちは茹で卵を食べることすら出来ねえんだよォ!!!」
「今までやってきたことの報いだと思いなさい!!そもそもそんなに茹で卵が食べたいのならうどんに付いてくる半熟卵で満足すれば良いじゃないですか!!?」
東郷の言葉に峡真の眉がピクリと動く。逆立った髪も落ち着きを取り戻し、息も整えた。
「……全く持って愚問甚だしいですねぇ、東郷さん。茹で卵と言ったら…固茹で卵に決まっているでしょう!!?」
「……は?」
何故か急に峡真は茹で卵について力説し始めた。これには興奮状態の東郷も呆気に取られた。そんな彼女を放っておいて峡真は更に語りだす。
「固茹で卵のあのつるーんとした丸み!!歪み一つない形!!!艶やかさを際立たせる光沢!!!そして引き締まった栄養!!!あれ程食材としても美としても完璧な要素を兼ね備えたものはこの世で他に存在などしない!!!そう!!アレは茹で卵という名の芸術品なのですよ!!!」
「え、はあ…」
「それに対して何ですかぁ、半熟卵というのはぁ?とろーんとしていて割れば卵の味が漏れ出てしまう、あのだらしない様は!!?実にみっともなく、中途半端極まりない!!!あんなものが茹で卵の一種だなんて私は絶対に認めませんよぉぉぉぉ!!!!」
明後日の方向へ怒りを爆発させる峡真に東郷は何も言えなかった。
「そ、そういうこだわりがあったんですね…」
「それなのにあの愚弟はさっぱり理解できなったようで、半熟も固茹でも同じだろと抜かすんです!!!本当あの時ばかりは彼の顎に向けて蛇翼崩天刃を放とうかと思いましたよ!!!!」
関係ないところまで峡真は怒り心頭の様子を見せる。今までの紳士らしい部分や残酷さが嘘のようだ。
「……なるほど。貴方の意見は分かりました。でも皆の隠した卵は返してもらいますよ」
「貴女ごときの意見を私が素直に聞き入れてくれると思いますかぁ?そうでしたらいい病院へ駆けこんだ方が良いと思いますよ~。何だったら私が紹介して差し上げましょうかぁ?」
東郷が落ち着いてきたのを確認すると峡真は邪悪な笑いを浮かべて彼女を挑発する。しかしそれに対して東郷も同じ悪い笑みをした。
「それはどうかしら、峡真さん。今不利なのは貴方の方よ」
「面白いことを言います…おや?このにおいは…」
気付けば周囲に奇妙な匂いが立ち始めていた。初めは何なのかが分からなかったのだが、東郷の笑みを見てその正体を察した。
「これは…まさか…!!」
「まさか本当に使用することになるとは思いませんでしたが…用意しておいて良かった」
しばらくすると猫の大群が峡真のいる場所へと迫ってきた。それを見て峡真は再び大慌てになって声を荒げた。
「ぬわーーーーーー!!!!実弾にしちゃあやけに火力が低いと思ったらテメー、弾にマタタビ仕込みやがったのかァぁぁぁぁぁ!!!?」
「そう!!これが九重さんと私が考案した貴方に対する秘技!!『護国弾・
「しょうもねえことに知恵絞ってんじゃねーーーーーー!!!!!!」
「さあ、卵を返しなさい!!!然もないと」
「あー分かったよォ!!どうせこいつはあのクソ猫がべったり触ってたみてーだからなァ!!!ンなモン返してやらァ!!!」
そういって峡真は東郷が言葉を終える前に友奈の隠した卵を思いっきり放り投げた。ここまで踏んだり蹴ったりだったことに対するせめての抵抗のつもりだ。
卵を追いかけて東郷は峡真から背を向ける。無事に受け止めて峡真に文句を言おうと振り返ると、峡真は猫たちに追いかけられながらも逃亡していた。
結果から言うと峡真はボロボロになりながらもどうにかして拠点へ戻ることが出来た。しつこかった猫たちもウロボロスを使っての空中移動には追いつけなかったのだ。
「……もうしばらくはどこへにも出かけたくありません」
本当にここ数日は峡真の人生においても屈指の不幸の連続だった。極み付きの昨日は正に厄日だ。その日の夜、拠点へ戻った峡真は卵を冷蔵庫に入れるとそのままベッドへ直行し、気絶するように眠った。
その翌朝は風呂に湯舟を張る。中に入浴材を大量に入れることも忘れない。長い間それに浸かると今までに溜まったストレスも大分薄れ、峡真は気持ちよさそうにしていた。
「…ですがこれまでの努力のおかげか、ようやく安寧が得られました…ああ、そうそう。忘れかけていました。やはりこれがないと一日は始まりませんよね」
専用のボウルを自分の方へ引き寄せるとそこから茹で卵を取り出した。湯を張っている間に作っておいたのだ。
「それでは、いただきます」
峡真は茹で卵を口に含むとそのまま卵を一切噛むことなく丸呑みした。外から分かるように卵は食道を通って胃へと落ちていく。
一般人からすれば異様な光景だが、これこそが峡真のスタイルである。満足そうに峡真はどんどん茹で卵を食していく。
長い風呂と食事を終えた後、峡真はいつもの黒スーツに着替える。あれにはちゃんとスペアがあり、峡真はそれを着回しているのだ。
「…今回は想定外のハプニングもあって退かせてもらいましたが…次に会うときは覚悟してくださいねぇ…ケヒヒヒヒッ…」
最高の一日のスタートを切り、今日も峡真は悪だくみをする。
流石のハザマも暴走した東郷さんには敵わなかったよ…まあ猫も込みだったからだろうけど。
次回はもう一つの話、セリカがゲストとして登場!まさかの登場に三兄妹があたふたする様をお楽しみに。それではまた。