赤嶺友奈の章がとうとう配信されましたね。まさかナレーションがあの人だったなんて驚きです…
さて今回は芹佳が登場する回!かなり長めに書かれていますが、どうぞ!
「この近くへ来たのも久しぶりね」
「ここ最近はもうずっと讃州中学の方だもんね」
勇者部への依頼を達成させた防人たちは讃州中学の方へ帰ろうとしていた。今いるのは大束町のゴールドタワー付近でだったので、少し懐かしそうにしていた。
「でも私は色んな方々と触れ合えて楽しいですよ」
「…神樹館にいた頃の勇者に逢えた」
「敵側ですが、ご先祖様の盟友に逢えたことも貴重な体験でしたわ」
多かれ少なかれ、彼女たちもこの世界に順応し、それぞれ楽しい日常を過ごしている。そんなことについて話している帰路の途中で周りをキョロキョロ見回っている少女の姿が見えた。
「あの娘、どうしたのかしら?」
「何だか困っているようですね。私、話しかけてきます」
不憫に思った亜耶は彼女に声を掛ける。白いブラウスに黒のスカートの学生服を着た茶髪ポニーテールの少女はそれに答えた。
「あの、すみません。お困りのようですが、よければお話を聞かせてくれますか?」
「ありがとう!実は私、友達と学校から帰る途中だったんだけど気づいたら逸れちゃってて…」
「お友達とですか?それは大変ですね」
「うん。だから一緒に探して欲しいの。彼女、心配しているかもしれないから」
「良いですよ。丁度芽吹先輩たちもいらっしゃいますからすぐに見つけられるかと」
「本当?じゃあお願いするね!」
少女が朗らかに笑いながらそう言って防人たちと合流した。少女の明るい雰囲気に次第に防人たちも打ち解けていく。
「ところで、貴女はどこの学校の出身でしょうか?見たところ、あまり見ない制服のようですが」
「神樹館だよ。今は中等部に所属しているの」
「…私は初等部だった…」
「そうだったんだ~。よろしくね!」
「うん…」
「いや~、それにしてもまさか須美ちゃんたちと同じ学校だったなんて驚きだよ~。やっぱりそっちでも有名だったの?」
須美たち、小学生組は元々少女と同じく神樹館に所属している。例え学年が違っていてもきっと良く名前を耳にしていただろう。
「須美ちゃん?誰の事?」
『え!?』
だから少女の口から出た言葉に防人たちは驚いた。声を上げる彼女たちを見て驚いている様から嘘を吐いていないことは明白だった。
「いやいやいや噓でしょ!?だって勇者だよ!?知らないはずないじゃん!?」
「あの頃は皆知っていたけど…四人がいなくなってからはあまり話さなくなった…」
「あ…ご、ごめん…」
「え、何を言ってるの?『勇者ってまだいないんでしょ?』」
それを聞いて雀たちは悟る。この少女と自分たちの間には決定的な認識の違いが存在しているのだ。夕海子はそれを見て芽吹に耳打ちする。
「芽吹さん…これはもしかしすると…」
「ええ…彼女は寧ろ勇者部へ連れて行った方がいいかもしれないわね…」
「どうしたの、二人とも?」
「ねえ…突然で驚くかもしれないけど…貴女は元々いた世界からこちらへ連れて来られたのかもしれないわ」
「そうなの?あ、でも街の光景は確かにちょっと変わってる!すごーい!!」
「…意外とすぐに順応出来たわ」
「それでしたら一緒に勇者部へ向かいましょう。何か分かるかもしれません」
「そうね…貴女もそれで構わないかしら?」
「良いよ!それじゃあ行こう!」
「何でだろう…嫌な予感しかしない…」
そう小さく雀は呟いた。一同は駅へ歩き、改札の前に着いた。
「さあ、行きま…あら、雀はどこかしら?」
「そういえば先ほどの方もいらっしゃいませんね」
「…加賀城が迷子…珍しい」
「それでしたら早く連絡を取らないと」
「皆~~、ここだよ~~~!」
芽吹たちが端末で雀に連絡を取る前に全く注目していなかった方向から雀が少女を引き連れてこちらへ向かってきた。そんなところから来たはずがないのにどうしてそこから二人が現れたのか、芽吹たちには理解出来なかった。
「雀…私たちが来た方向だとそこから来れないと思うんだけど…」
「仕方ないじゃん、メブー!?私だって意味分かんないんだよ~!?」
「おっかしいな~…初めはちゃんと付いて行ったはずなのに…」
「自信満々で真逆の方向へ歩いてたじゃん!?気付いたらいきなりいなくなってるし!見つけてメブと合流しようとしてたら『あっちが近道だ』って言って全然違う場所へどんどん行っちゃうし!?」
「今回は雀の生存本能が一役買ったわね」
「それにしても驚いたのはこの方の凄まじいほどの方向音痴ぶり…」
「そんなことないよ?」
「そんなことある…」
「ありがとうございます、雀先輩」
「あ~~…あややに癒されるぅ~」
少女に振り回されて疲労困憊の雀を労わる亜耶。しかしこの規格外の方向音痴に対応できるのはこの中では雀だけだろう。芽吹は複雑な顔をしたが、雀に言った。
「雀、今日は訓練を休んでも良いから、その娘の傍にいてあげて。多分その娘が逸れたら貴女しか彼女を連れて来れないと思うから」
「う~~ん…嬉しいような…でもこっちの方が疲れそうな…まあいいや」
「ありがとう、雀ちゃん!」
「ええ、どういたしまして…そういえば貴女の名前って何?それが分かれば逸れても見つけやすいだろうし」
「うん!私の名前はね…」
「綾月…芹佳…と」
「はい!」
困難(少女の度重なる消失)に打ち勝った末、防人組は無事に部室へ帰還することが出来た。芹佳が消える度に雀は彼女を連れて芽吹たちの元へ連れて帰った。
今彼女の相手をしている部長の風はちらりと後ろを見ながらも芹佳に状況を話した。
「えーと、芹佳…さん?」
「芹佳で良いですよ、風さん」
「分かったわ。じゃあ芹佳。ここはね、多分アンタのいた世界から数年先の未来よ」
「未来!?じゃあ私、タイムスリップしたんだ!!なんだかワクワクする!!」
「そ、そうね。そういうことになるわ」
慌てるどころか芹佳は寧ろ目をキラキラさせていた。風の後ろで控えている三兄妹と比べると大違いだ。
母の登場にラグナは頭を抱えながら天を仰いでいた。刃は渋柿を噛んだようなムスッとした顔をしており、沙耶はあたふたしていた。
「方向音痴なのは知っていたけどよ…時空を超えて迷子になるのは勘弁してくれよ…」
「またしても面倒なことになってしまった…」
「こここここういう時ってどうすれば!!?」
芹佳は勿論三人のことは知らないが、三人は成長した彼女を知っている。一度芹佳から離れた風は話が出来そうなラグナとヒソヒソ話した。
「ねえ…まさかだけど…あの娘…芹佳さんよね?」
「…御察しの通り、俺たちの母親だ。あの様子じゃあ俺たちを知らねえと思うがな」
「やっぱりかぁ…アンタもだけど、あの刃まで動揺してるものね」
「しかしあの方がラグナさんのお母様だとは思いませんでした…雰囲気は全く違うように感じますし…」
「べ、別にいいだろ、ンなこと」
自分の今後について三人が話し合っている横で芹佳は結城友奈とコミュニケーションを取っていた。
「ねえ、この部活ってどんなことをしているの?」
「色んなことをやってるよ!幼稚園や学校のお手伝いとか、猫の里親探しとか、後ね!この前はラグナ君と刃君が野球部の試合の助っ人に行ったんだ!」
「部活の助っ人もやってるんだ~!ここの皆は何でも出来てすごいんだね!」
「芹佳ちゃんは何をやってるの?」
「私はちょっと事情があって部活に入ってないの。だから部活を頑張っている結城ちゃんたちが輝いて見えるんだ」
「あはは…そこまで言われると照れちゃうなぁ…あ、そうだ!だったら私と一緒に園芸部の方へ行こうよ!丁度花壇の整備を手伝う依頼が来てたんだ!」
「本当?ありがとう!精一杯頑張るね!」
意気投合して友奈と芹佳は部屋に出ようとするのを見て、ラグナたちは慌てる。もしここでまた見失ったら次はどこにいるのかが分からなくなってしまう。
「ユウナ!!絶対に巫女…じゃなくて!セリカから目を離すんじゃねえぞ!行くなら手を繋いで行け!見失ったらマジでシャレにならねえから!」
「でもラグナ君。私も一緒だし、大丈夫だと思うよ?」
「友奈さん!!せめて獣兵衛さんが来るまで待ってください!!」
「そ、そこまでなんだね…芹佳ちゃんの方向音痴」
「ラッくんもサッちゃんもせりりんのことが大好きなんだね~」
以前も聞いたことがあったけど二人の必死な様に友奈も改めて事の大きさを理解した。対する芹佳はというとあっけらかんとした様子で
「二人とも心配しすぎだよ。さっき東郷ちゃんに学校の見取り図を貰ったから大丈夫だよ?」
「そうよ。幾らなんでも言いすぎよ?」
「こういう時のセリカの大丈夫は大丈夫じゃねえんだよ、トウゴウ…」
個人的に友奈が他の誰かと手を繋ぐことにちょっと抵抗を感じたと同時にここまで言う二人に違和感を感じた東郷は物申す。だがラグナたちだって別に大袈裟なつもりで言っているわけではない。
芹佳の迷子っぷりは大人になっても直ることはなかった。子どもの頃は木苺を取りに行こうと神社の近くの森へ入ったら一時間近く同じ場所を歩き続けたり、自分だけで仕事へ出かけようとすれば目的地に着くことなく、気づけば隣の県まで行ってしまうことがあった。
地図を持つこともあったが、どういうわけか彼女は地図に記された目的地とは全然違う場所へ行ってしまう。しかも自分が迷っていることに全く自覚がない。地図なんというものは芹佳に持たせたところでただの紙切れなのだ。
大人でこれなのに若い頃がマシなわけがない。当時の姉である九江や友人である獣兵衛たちの苦労が思われる。そんなことを思い出していると彼女と縁のある人物が二人が来た。
「…芹佳が来ているとは聞いたが…まさか本当にあの頃のアイツがいるとはな」
「獣兵衛がこういうなら本人で間違いないな…私は写真でしかこの姿は見たことないからな」
「ああッ!!
「おお、懐かしい名前だな。それは俺たちが学生の頃の呼び名だったか」
獣兵衛は懐かしそうに笑うが、知らない呼び名に他の勇者部部員はキョトンとする。それについて樹が皆を代表して聞いた。
「獣兵衛さん、名前変えてたんですか?」
「ああ。結婚した頃にな」
獣兵衛が結婚を話題にした時にその相手を真っ先に思い浮かぶことの出来た芹佳は興奮する。
「え?結婚?もしかしてお姉ちゃんと!?」
「まあ…今のお前さんに言ってもあまり実感はしないかもしれんが…アイツと俺は色々あって結婚したよ」
「そうだったんだ~…てことはこの人が?」
「…九重だ。一応、お前の姪になる」
「うん。確かにお姉ちゃんの子どもだね。目が鋭くて気の強い感じなんてそっくり!」
不愛想に自己紹介する九重を見て芹佳はニコニコしている。頭から伸びたアホ毛も嬉しさのせいか勢いよく振れている。
「まあ、積もる話もあると思うが、それは園芸部の方へ行きながら話そう。アイツらも待っているだろうしな」
「じゃあせっかくだし、ラグナ君たちも行こうよ!」
「私もラグナたちと一緒に行きたいな」
「んじゃあ行くよ。テメェらはどうするんだ?」
「私もおか…芹佳ちゃんと行きたい!」
「…僕も行く」
「なら決まりだな。現場へ向かうぞ」
そう言って獣兵衛たちは園芸部のいる屋上へと向かっていった。彼の背中を見て鼻歌を歌っている芹佳に樹は話しかけた。
「芹佳さん…本当に嬉しそうですね」
「前からお姉ちゃんと光義さんは仲良しだったからね。お姉ちゃん、無茶する人だからしっかり者の光義さんが一緒になったら良いなぁって思ってたの!」
「でも驚かなかったんですか?猫さんがお姉ちゃんの結婚相手だなんて」
「ううん。例え見た目が人間とちょっと違ってもお姉ちゃんと一緒にいてくれて安心出来るのはやっぱり光義さん以外考えられないよ」
笑いながらそう話す芹佳に樹は彼女が姉のことを強く慕い、信頼していることを感じた。自分も姉が大好きな分、彼女の気持ちが良く分かる。
「そういう樹ちゃんもお姉ちゃんが大好きなんだね!」
「あ、はい!お姉ちゃんは本当に強くてカッコよくて優しくて…私の自慢なんです!!」
「私も、お姉ちゃんは誰よりも強くて優しくて頭良くてどんなこともやってのけちゃう…自慢のお姉ちゃんだよ!!」
なんだか同じような感性を持った人間に会えて樹も楽しそうに話す。二人の会話を聞いて他の者たちも嬉しそうに微笑む。そうこうしている内に一同は屋上へと着いた。そこでは先にいた歌野と水都が手を振りながら呼んでいた。
花壇の整備はそれほど難しいものではなかった。花たちに水と肥料をやり、余計な部分はハサミで切り落とす。必要ならば手入れもする。芹佳にとってはあまり難しいものではなかった。
「エクセレント!芹佳さん上手ね!」
「ホントだ〜!なんだかお花たちもさっきより元気になったみたい!」
「えへへ…家には畑があったからね。こういうのも出来るんだ」
「綾月さんの家にも畑があったんですね。結構広い家だったんですか?」
「森に囲まれている神社でね。その傍に小さな畑があるんだ。そこでお母さんをよく手伝ってたんだ」
「ファミリーで農業を…素晴らしいわ!!芹佳さん!!貴女なら農業四天王になれるわ!!」
「うたのん、いきなり勧誘!!?」
「え、良いの?良く分からないけどやったー!」
「しかも綾月さん、喜んでるし!!?」
同士を得たかのように興奮する歌野と比べて芹佳は無邪気に喜ぶ。作業はなおも続く。
「セリカ。あんま無理すんじゃねえぞ。お前はここに来て色々騒がしかったろうからな」
「うん!でも安心して!まだまだ作業出来るよ!」
「綾月君、ちょっと土の入れ替えとかやりたいけどちょっとこれも運ぶの手伝ってのくんない?」
「ああ、待ってろ」
園芸部員に呼ばれてラグナもそちらへ向かっていった。それを見て刃は不機嫌になった。
「おのれ女…兄さんを勝手に連れていくなど…」
「まあまあ、刃もそんなに怒らないの。ラグナは優しい人だし、頼りになるから引っ張りだこにされても仕方ないよ」
「ぐ…」
「今日の少佐はえらく大人しいわ…」
「本当にそうね…」
夏凜の言葉に東郷も納得する。しかしその隣の花壇から小さな悲鳴が聞こえた。
「痛っ!」
「沙耶ちゃん!」
「沙耶、どうしたの!?」
「だ、大丈夫です…ちょっと刺さっただけで」
そうは言っていたが沙耶の指からは血が少し出ていた。少し葉の後ろなどに虫がいないかを確認するだけだったから軍手を着けていなかったようだ。
「とにかく保健室へ連れて行きましょう!」
「私、部室から絆創膏持ってくるよ!」
結城の言葉に他の者たちも同意している中、芹佳は沙耶の傍に座ると
「沙耶ちゃん、ちょっと怪我見せて」
「え…あ、はい」
「待ってて。すぐに『治して』あげるからね」
「え?」
何が何やら分からない沙耶に芹佳は笑いかけながら両手で彼女の指を包む。手の隙間から淡い青竹色の光が一瞬漏れると沙耶は自分の指から痛みが引いていくのを感じた。
「はい。これでもう大丈夫!」
「あ、治ってる!芹佳さん何したの?」
自分の身体に何が起こったのかが分からない沙耶は訳を聞いたが、芹佳は自分の口に自身の指を当てる。
「沙耶ちゃんの怪我が治りますようにってちょっとだけ怪我に魔法を掛けたの。痛いの痛いの飛んでいけーって。出来れば他の人には内緒にしてね」
「このことって十兵衛さんとかは…」
「うん。知ってるよ」
芹佳と沙耶が話し合っていると妹のことを聞いたラグナが二人の元へ駆けつけた。
「おいサヤ!話は聞いたが一応念のために保健室へ…てあれ?テメェ怪我はどうした?」
「えっと…恐らく気のせい…だったのではないかと?」
沙耶の顔はしどろもどろで何かを隠そうとしているのは明白だった。何よりラグナ自身も沙耶の怪我はその目で見ている。彼は不意に芹佳の方へと振り向く。そしてラグナは何かを悟った。
「…はぁ…分かったよ…園芸部の連中は上手く誤魔化しとくから話を合わせろよな」
「わ、分かりました」
「う…うん?でもどうしてそれをラグナが知ってるの?」
「…まあ俺もサヤにジンも師匠や未来のテメェには世話になったからな。多少師匠から話は聞いている」
昔のことを思い出しながらもラグナは絆創膏を沙耶に手渡し、傷のあった場所に貼ってもらった。その後は作業を終わらせ、部室へと戻った。芹佳は沙耶と保健室へ同行した。部屋へ戻るとラグナは獣兵衛に話を切りだした。
「…師匠。やっぱサヤのあれってセリカが…」
「…まあお前たちには話してもいいだろう。他の皆も気になっているようだしな」
一度悩むが、獣兵衛は話すことを決意する。ゆっくりとその口を開けた。
「芹佳は生まれた時から蒼の魔道書を封印する力と同時に『癒しの力』を持っていてな。おかげで他者の傷の治癒を子供のころから出来たんだ」
「生まれつき巫女の力が発現していたんですね」
「何を言っているんだ、獣兵衛。そんなこと、母さんは僕たちの前では一度もやったことないぞ」
刃の言う通り、大人になってからの芹佳は一度もそんな力を披露したことはない。しかしラグナがすぐにその答えを言った。
「…年を重ねていく内に使えなくなったんだな」
「もしかしたら巫女の宿命かもな。神託を受けることは稀だったらしいが、その力に当時の大赦は注目していた」
「何故だ?確かに治癒能力があるのは凄いとは思うが…巫女を樹海へ連れて行くのはあまりにも危険だろう」
若葉の指摘に獣兵衛は首を振る。
「それだけならば奴らとて貴重視しない。奴らが注目したのは…芹佳の能力を応用すれば樹海の外…あの炎の海に緑を増やせる可能性があったことだ」
それを聞いて防人組は何かを察し、亜耶は恐る恐るそれを確かめた。
「獣兵衛様、それはもしや…」
「そういえば亜耶たち防人は当事者だったか。ああそうだ。お前たちが外の世界での任務に使ったであろう種やそれを発芽させるための術式は元々芹佳の能力を見てアイツの父…
「…つまり芹佳は利用された可能性があったの!?」
「…可能性ではない。されかけたんだ。宗一郎が病で亡くなった後、大赦の一部の急進的な人間にな」
「そんなことってあるのかよ!!?」
獣兵衛の口から出てくる言葉に勇者たちは衝撃を覚え、下の弟妹を持つ風や銀たちは怒りを覚える。特に風は自分もかつて妹を戦いに巻き込んだ罪悪感があったので、芹佳のことを他人事だとは思えなかった。
「宗一郎は確かに造りはしたが、最後まで使うことを渋ったまま亡くなった。だが彼が亡くなった後、過激な者たちが『アレ』に眼を付けてな。何度かアイツらの家へ足を運んだ」
「それって…まるでお姉ちゃんと私の時と同じ…」
「そうだったのか…その時、九江は…奴らの言葉を拒んだよ。元々アイツは研究ばかりに時間を使っていた父をあまり良く思っていなかったが、何より幼い頃に母親を失ったアイツにとってその頃の唯一の肉親は芹佳だったからな。当時は本当に可愛がっていて、大赦の監視下に置かせるなどもってのほかだった」
「獣兵衛さんとはその頃から知り合いだったんですか?」
「ああ。俺はあの頃獣人や亜人の里の学校に通っていたが、元々内輪で留まる性分ではなかったからよく街の方へ行っていたよ。その時に度々アイツと会って、気づいたら家へ行くくらいの仲になったな」
「その頃から放蕩癖があったとはな…」
「いや…大人になってからは壁や各地の異常調査…うむすまん」
九重の悪態に獣兵衛は苦い顔をするが、話を続けた。
「まあそんなアイツでも何度も来られると困る訳だ。そこで俺や数少ない友人の三恵に相談して来たんだよ」
「ママも獣兵衛様もそんなことがあったのか…」
「大赦の神官をどうにかして追い返すためね…」
千景の言葉を獣兵衛は笑いながら否定する。
「ははは。少し違うな。どうすれば大赦そのものを黙らせられるかについてだ」
「そっちなのね…」
「あの時は面食らったものだ」
「獣兵衛様たちスゲー!」
「いえ十兵衛様、笑いながら言う事ではありませんよ!!?」
「た、大赦と対立するって!!?相手は組織ですよ!!?」
獣兵衛の話に巫女組は度肝を抜かれる。気持ちは分かるが、たった三人で国の根幹を担う組織を相手取るのはいくら何でも無茶ぶりである。
「俺たちもそう思って一度止める側に回ったさ。だがな、アイツの決意は固かった。何が何でも…それこそ自分の全てを賭けてでも芹佳だけは守ってみせると言ったよ」
「…私の母様らしいな」
「…そうだよな。本人が覚悟ついてんならまだしも、弟が勝手に利用されたらアタシだって黙ってられないよ」
「当時の俺たちは高校へ通い始めたばかりで芹佳は力の関係上、学校へは行っていなかったが、小学五年くらいの年齢だった。だが俺たちは出来る限りの力と知恵を絞って策を講じた。当然その頃も神官共は来たが、九江に玄関から蹴りだされているのを見た時は壮観だったよ」
もろに急所を狙うように本気の蹴りをかましてくるわけだから見ている獣兵衛も嫌な錯覚に襲われたものである。
「そして準備が整った俺たちは行動へと移した。三恵とアイツが
「直談判したって言いたいのは分かりますが前半はテロ行為ですよね!!?」
「若さゆえのちょっとしたやんちゃさ」
「完全に高校生のやんちゃを超えています!!」
「そう言えば話では聞いたことがあったな…数十年前、大赦に殴り込みながらも奇跡的にお咎めなしになった若者たちがいたってな」
神楽の話からも獣兵衛たちの行動が真実であることが分かる。まあラグナはそれほど驚いていない。何せあの三人は別の世界では六英雄と呼ばれたものたちだ。まして、あの世界では『大魔導士ナイン』という名前だったが、九江ならば芹佳のためならばどんな無茶も敢行し、実現してしまうだろう。
「良く大赦から何も言われなかったわね…」
「アイツも大赦がただで妹に手を出すなと言われたくらいで引き下がらないのは知っていたよ。彼らからすれば俺たちは邪魔者でしかないからな。だから…脅しながらも奴らにとっても有意義な取引を持ちかけたんだ」
「…何をしたのよ?」
獣兵衛の話をのめり込むように聞き入っていた風はその続きを話すように促した。
「自分ならばあの宗一郎の作ったもの以上に有益なものを用意できる。それこそ勇者システムよりも強力かつ利便性の高いものを、と大赦の神官たちの前で豪語したのさ」
「…先ほどから思いましたが、本当に大胆不敵ですね、その九江さんという方は」
「それで大赦は引き下がったのか?」
「もちろんあちらも九江の言うことを本気にはしていなかったさ。何せ相手はまだ学生だからな。そこで期間を設けてやったのさ。高校を卒業するまで何か有用なものを作れれば金輪際芹佳に手は出さないとな」
「そんな口だけの約束をあの組織が聞くとは到底思えんぞ、獣兵衛」
「そこは抜かりなかったぞ、刃。俺がきっちりと言質を録音しといたからな」
「皆さん、本当に高校生だったんですか?」
流石にこれには何人か顔を引きつらせた。それでも当時の九江が啖呵を切ったときの様子を懐かしそうに思い出しながら話した。
「だがその条件を聞いて九江は逆に言い返してやったよ」
『在学中?ハッ!!笑わせないで!!勇者システムを見せてもらえばそんなもの、一年で開発できるわ!!なんだったらあんたたちが散々手を焼いている勇者システムもついでに強化してやろうじゃないの!!』
『九江!?それはいくら何でも不可能では!?貴女のお父様だってアレの研究で苦労したというのに!?』
『アイツは『出来なかった』だけよ、三恵!!不可能ですって?やってやろうじゃないのよ、そのくらい!!』
『…九江。何か当てはあるのか?』
『当てなんてないわ、でもやってみせるわよ!!絶対、誰にもあの子の…芹佳の未来を奪わせてたまるものですか!!』
「そしてアイツはきっちりそれを実行した。気に喰わなかった父の過去の論文やレイチェルから借りた、大赦のデータバンクにもない、神世紀初期頃の著名な博士の文献を読み漁り、勇者システムもいじりながらアイツはそれを基にバーテックスに対して有効な攻撃手段となった術式の基礎を築き、勇者システムの基礎能力も当時の数倍強力なものに改良した。少なくとも須美たちが使っていたものの基本構造の内、七割はアイツがその時作ったものをベースにしている…アイツは不可能を可能にしたんだ」
「…そうね。そんなこともあったわ」
獣兵衛が語った九江の実績に勇者たち全員は黙り込んだ。彼女たちも術式、ないし勇者システムが無ければ戦うことは出来ない。その基本構造をたった一年で彼女は築き上げたというのだ。
その一年だって本当ならば部活を頑張ったり、友達と遊びに出かけたり、青春したり。要は普通の女の子と同じようなことをしたかったのかもしれない。しかし彼女たちは九江を憐みとは別の感情を持った。
「九江さんにとって…芹佳ちゃんは本当に大切な存在だったんですね」
「…アタシは同じく妹を持つ一人の姉として素直に尊敬するわ。その人は…間違いなく自分の全てを芹佳を守るために使って…そしてそれを成し遂げた。それがどれだけ大変なことなのか、よく知ってるつもりよ」
「お姉ちゃん…」
「アタシもです…家も弟が二人いるんですけど…父さんと母さんもいるから…寧ろアタシは色々あってアイツらの傍にいられなくて苦労かけちゃった…」
「でかいアタシ…」
「俺もだ…ナ…コノエは間違いなく自分の力でセリカを守り通した。紛れもねえ英雄、勇者だ」
「兄さん…」
年長組が各々の気持ちを小さく吐露した後、ラグナは一つ獣兵衛に確認した。
「そういや師匠、あの服装だとセリカは学校へ通ってるようだが」
「ああ。九江は約束を果たしたとして芹佳が中学校から高校まで神樹館へ通えるように大赦に図らって貰ったんだ。芹佳自身も学校へ行きたがっていたからな。当然、力は隠さねばならなかったが…まあ一人だけ見せたものがいた」
「それが…友達…」
「ああ。少し堅苦しいところはあったが、良い娘だったぞ」
そこまで説明し終えると突如樹海化警報が鳴り響く。バーテックスが来たようだ。少しして芹佳と沙耶が部屋へと戻って来た。
「兄さま!皆さん!」
「お、戻ってきたな。何ともなかったか?」
「はい!それより、敵が!」
「ああ。そろそろ行かねえと」
勇者たちは樹海に入る準備が整えていく。その最中に芹佳がラグナを呼び止める。
「ラグナ…戦うってバーテックスと?」
「…ああ。お前の時代から少し経った未来、バーテックスがまた世界を攻撃し始める。俺たちはそいつらと戦っているんだ」
「そうなんだね…じゃあお姉ちゃんが作ったあれとかは…」
「ああ。俺たちは…コノエが造った術式のおかげでかなり助かってる」
「…良かった。お姉ちゃんの努力はちゃんと人を助けられたんだね」
「どういうことだ?」
「私が中学校に入る前にね。お姉ちゃん、すっごく苦労していた時期があったんだ。私のためなんだっていうのは分かるし、それが今のみんなを助けているのは嬉しいけど…偶に思うんだ。もし私がいなかったら、お姉ちゃんはもっと普通の人生を歩めたんじゃないかなって…」
「芹佳さん…」
そう言いながら芹佳は少しだけ悲しそうに俯いていた。子どもの頃、学校から帰ってきては神官を追い返しつつ、一時期は部屋で夜遅くまで何かをしていたのは知っていた。
そんな疲れた様子の九江を見て自分が姉の負担になっていると感じたのだ。沙耶や樹はその話を聞いて少し悲しそうになる。自分たちも同じことを考えていた時期があったので、その気持ちは理解できるのだ。しかしそれをラグナは強く否定した。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ、セリカ!!!」
「キャッ!?」
「兄さま!?」
「テメェ、イツキにも言ってたじゃねえか!!!強くて優しい…自慢の姉ちゃんだって!!!」
「そ、そうだよ。でも私がいなかったら…」
「それが間違ってるんだって言ってんだよ!!良いかセリカ!!テメェが思ってる以上にテメェの姉ちゃんは…兄貴や姉貴ってのは弱えんだ!!」
意外な言葉をラグナからぶつけられて芹佳は困惑しながらも反論する。
「そ、そんなことないよ!!」
「いーや、違うね!コノエ博士はな、天才だったから今の術式が造れたんじゃねえ!アイツは…テメェが大事だったから…テメェのことを諦めなかったから出来たんだ!!テメェがいなかったら…はじめから頑張ろうなんてしなかったし、術式もなかったし、勇者システムも今よりも性能が低かっただろうよ!!」
それを言われて芹佳は思い出す。あの頃、影から見た姉はいつだって必死な顔だった。でも自分と一緒に居る時だけは優しい笑顔を向けてくれた。
「俺はよ…弟と妹と長い間離れ離れだったことがあったんだ…アイツらのことが気がかりだった…もし今の勇者部の仲間に逢わなかったら…かなり荒れてたと思う」
「そうだったんだ…」
「下の兄妹を失うってのはお前が思っている以上にキツイんだよ…でもだからこそコノエは出来ないて言われたことをやってのけたんだ。お前がいたからアイツは頑張れた。だから…そんなこと言わないでくれよ」
「…うん…うん!!」
ラグナの言葉で自身の認識の誤りに気付くことが出来た芹佳は思わず涙を零す。彼女に風や銀たちも更に言葉を加える。
「芹佳。安心しなさい。アンタに一つ教えてあげるわ」
「風さん…?」
「この世に…自分の妹がいなければ良いだなんて考える姉、兄はいないってことよ!!!」
「そうっすよ、芹佳さん!!アタシだって弟たちなんてどんなに目に入れても可愛くて仕方ありませんから!!」
「寧ろそんなことを感じてるって聞いたらお姉さん、かなり心配しますよ?」
それを言われて芹佳も姉が自分の悩みを知ったらと想定してみたら小さく笑った。
「うん…そうだね。お姉ちゃんのことだからきっとそうするよ」
「でしょ~?」
「ありがとう、風さん、小さいのと大きい銀ちゃん、ラグナ。おかげで…少し気持ちが楽になったよ」
「そいつは良かったぜ…後さ、俺たちはお前に礼を返しきれないほど助けられたんだ。だからお前には笑っていて欲しい」
「ありがとう…ラグナ。私もこれからはお姉ちゃんを助けられるように頑張るね!」
「ああ。その意気だぜ!!」
芹佳がラグナに笑いかけると同時に樹海が広がり始める。花びらが巻き上がる中、芹佳は彼らを呼び止める。
「刃、沙耶、ラグナ、皆」
「あ?」
一同の中でも特に名前を呼ばれたラグナ、刃、沙耶は振り返る。芹佳は笑いかけながらエールを送った。
「皆、頑張って!」
他の勇者たちは頷くだけだが、三人は違った。一瞬だったが三人にははっきりと見えた。その時に眼の前に立っていたのは少女ではなく、自分たちのよく知る巫女服の女性だった。
「巫女…」
「必ず帰ってきてね!待ってるから!!」
それだけが聞こえると同時に彼らは樹海へと移動する。最初に声を漏らしたのは刃だった。
「……行くか」
「はい!!」
「ああ!!やってやろうぜ!!」
その日の戦闘では三兄弟はたった三人でバーテックスの大群相手に無双したのは別の話。
「……か…りか…芹佳!」
「はう!?」
机にうつ伏せて寝ていた芹佳は自分を起こす声を聞くと慌てて勢いよく起き上がった。時計を見てみるとすでに下校時間を過ぎており、日も沈み始めていた。
「あれ?どうして私ここに?確か私、誰かの帰りを待っていて、その人たちが無事に戻ってきたのが見えて、その後は…そもそも家へ帰る途中だったんじゃ?」
「どうしたのよ、芹佳。普段は人一倍元気な貴女が居眠りなんて珍しいじゃない。それに帰るのはこれからでしょ?」
「え?じゃああれって…」
「夢でも見てたんじゃないかしら?結構気持ちよさそうに寝てたわよ?」
横を見るとそこには眼鏡をかけた同年代の少女がいた。中学に入ってから得た芹佳の友人である。
「そ、そんなに?」
「ええ。あんまりにも気持ちよさそうだったから起こすのも悪い気がしてね。放っておいてみたのよ」
「ええ~!?起こしてよ~」
「寝ていたのは貴女でしょ?さ、準備が出来たら帰りましょう」
そう言って少女と芹佳は共に下校する。帰路の最中も芹佳は先ほどの夢について考えていた。名前や顔ははっきりと思い出すことは出来ないが、ただの夢とは違う感覚だった。
(…なんだったんだろう…?)
夢にひっかかりを覚えていると芹佳は少女が自分に話しかけていることにようやく気付いた。
「芹佳?」
「あ、ごめんね。どうしたの?」
「ううん…なんだか今日の貴女、ぼーっとしてるみたいだから調子悪いのかと思って」
「ああ、そういうこと。ううん、ただあの夢のことを考えていたの。不思議で…なんだか大事なことを教えられた夢だったんだ」
「そう…もしかしたら神樹様が見せてくれたのかもしれないわね。貴女、一応素質はあるし」
「そんなことないよ~」
駄弁りながらも二人は道を歩いていく。
「そういえばそろそろ未来の自分についての作文を提出しないといけないんだったわよね」
「あああああ!!!そうだった!!そういえば期限は明後日くらいだよね!?」
「もう…そうよ。遅れそうなら相談は受けるけど」
「ありがとう~。そういえば『安芸ちゃん』は何について書く予定なの?」
「私は…大方家のこともあるから大赦務めになると思うけど…教師とかにも興味があるからそっちを書くわ」
「安芸ちゃんならきっといい先生になれるよ!」
「そ、そうかしら?」
「うん!!」
芹佳に言われて少女、安芸は照れ臭そうに笑う。この娘は本心からこういうことを言うものだから少し恥ずかしいものだ。それでも悪い気はしないが。
「それじゃあ芹佳は何を書く予定なの?」
彼女に指摘されて芹佳が考えると、不意にちらっと誰かの人影が頭をよぎった。赤コートを着た、白髪の青年だ。自分に必死に語り掛ける彼を思い出して芹佳は小さく笑うと安芸に返事をした。
「そうだね…まずは一歩ずつで良いから…誰かの助けになれる自分についてかな?」
今回は色々とてんこ盛りでしたが、場合によってはこのぐらいの長さにしようと考えています。普段は平均文字数を超えないようにしますが。
さて今回のゲストキャラはシスターとしてではなく、少女期での登場。原作ブレイブルーにおける(ラグナの)ヒロイン、セリカ=A=マーキュリー!!正直あの世界で勇者部に最も適応しそうな人物ですね。因みに作者の中ではノエルは寧ろ(統制機構視点の)主人公タイプだと思っている。
それと一つお知らせに本ssでは赤嶺ちゃん陣営の味方サイド加入と同時にゆゆゆいでの花結いの章からきらめきの章時間帯へとシフトする予定です。ゆゆゆいでの最終決戦を期待していた方々、すみません。
さて次回は本編です。壁の外へ向かうことになったラグナたちだが、そこに待ち受けていたものは…それではまた。