蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

前回のぶるらじの後半が配信されましたが、面白いコーナーだったぜ…ラグナが最後に猫になるって何だよ…そしてハクメンの扱いェ…

さて今回は壁の外に出た時のあの回です。やはりアイツが待ち受けているわけですが。。結果や如何に。それではどうぞ。

The wheel of fate is turning…Rebel…1…Action‼


Rebel80.獅子と獣

「うおらぁ!!!」

 

四月が終わって五月に入り、ラグナは丸亀城の訓練場で一人右手を翳しながら瘴気を飛ばしていた。黒い炎で包まれた右腕を横に払うと火柱が立って地面を切り裂いた。

 

そこへ千景が訓練室へ入って来る。彼女が部屋に入って来るのを確認するとラグナも声を掛けた。

 

「今日も訓練か、チカゲ」

「ええ。貴方こそ私よりも早く来てるじゃない。鎌を使ってないみたいだけど何をしていたの?」

「久しぶりに術式の訓練をな。確かめてえことがあったしよ」

 

ラグナが確かめたかったこと。それはすなわち自身の右腕の調子である。ここ最近右腕の調子が現実世界、そしてひなたが近くにいても動くようになった。

 

それがどのような状態になっているのかを確かめる最も手っ取り早い方法は術式を使うことである。元々術式適性のなかったラグナが術式を使えるようになったのはこの蒼の魔道書のおかげといってもいい。

 

だから術式を使えば魔道書がどのような状態なのかが分かると踏んだが、結果はあまりよろしいものではなかった。

 

(この状態なのに術式の威力が今まで蒼の魔道書を起動させているときと殆ど変わらねえじゃねえか…)

 

安全を考えて蒼の魔道書を起動させていない。それでもなお以前のものよりも強力になっていた。これから先完成体などと戦うことを考えれば嬉しい報せだが、それでも問題があった。

 

(…今度暴走したら…文字通り俺は止まらなくなる…な)

 

そうなったら人類を滅ぼしてしまうのは天の神ではなく、自分になるだろう。だがそうならないためにもこいつを制御出来るようになる必要がある。

 

「……ねえ」

「どうした?」

「…少し動きを見てくれないかしら?」

「ああ良いぞ」

 

頼まれた以上はなんだかんだ引き受けるラグナは自分の訓練を中止して千景と大鎌の訓練に付き合った。

 

千景は初めてあった頃よりも大鎌の振るスピードは速くなったし、刃の軌道も殆どぶれていない。こんな斬撃を喰らえば並のバーテックスは一瞬で真っ二つになるだろう。

 

しかしそれでも完全体には他の勇者たちの武装が効かなかった。これからの戦闘を考えると完成体に対しては必然的に切り札を頼ることになるだろう。しかし友奈のような過剰な反動が生じるならばあまり使わない方が良いだろう。

 

せめて神世紀の頃のように精霊をある程度安全に使えれば良いのだろうが、そういった技術はこの時代にはない。

 

「…どう?」

「良いじゃねえか?攻撃の速度は中々だし、次の攻撃に繋げられている」

「……うん…」

 

そう言われて千景は小さく笑ったが、すぐに顔が曇った。

 

「…次の任務、聞いたかしら?」

「ああ。また壁の外へ行くんだよな?」

「ええ…奴らを討伐するためにね」

 

今回大社から出た任務は壁の外にいる敵の討伐だった。理由は明白で、完成体が肉体を形成し終える前に敵を倒すためだ。

 

「…完成体でこの前のより強い奴はいたの?」

「色々な奴はいたが一体だけならどうにかなる奴らが多かった。寧ろ連中によっては組んできやがる奴がいて、この前の蠍野郎はその中でも一際厄介な奴だった」

「それ以外は?」

「…完成体で限定するなら火の玉をばらまく輪っかみてえな奴」

 

苦い顔をしながらラグナはレオ・バーテックスについて言及する。あれだけは他のバーテックスと一線を画していた。何せ体格も能力の凶悪さも段違いである。

 

「…まあだから外で動けねえ内に叩くんだろ。前の丸亀城の戦いだって形成中だったから倒せたわけだしよ」

「そうね…」

 

そんな相談をしている内に他の勇者や巫女たちもやってきた。

 

「今日もラグナさんは早く来ていますね」

「まあな」

「千景もやる気満々みたいだな!」

「本当だ!私も負けてられないよ!」

「え、ええ…でも高嶋さん身体は…」

「もうばっちり治ったから大丈夫だよ!!」

 

先日退院したばかりの友奈はガッツポーズしながら朗らかにそう言った。

 

「む~…タマも行きたいんだけどな~。あんずが心配だぞ…」

「仕方ないよ、タマっち先輩。旋刃盤はまだ直ってないし、今回はお留守ということで」

「まあ仕方ないか。ンだったら今回は大人しくする」

「そういえば貴女たち。今日は協力者を呼んできたわ」

「協力者ってこの前言ってた?」

「ええ。ヴァルケンハイン」

「ここに。レイチェル様」

 

レイチェルが指を鳴らすと同時に一人のダンディな紳士が虚空より現れた。いきなりの登場に勇者たちも驚く。

 

「レイチェルちゃん。この方は確か城にいらっしゃった」

「以前にもお会いしましたな。改めて、ヴァルケンハイン=R=ヘルシングにございます。以後お見知りおきを」

「もしかしてレイチェルちゃんが言ってた助っ人って」

「ええ。今回の任務では彼にも手を貸してもらうわ」

「それは良いのだが、バーテックスと戦っても大丈夫なのか?」

「それならば問題ないわ、若葉。ヴァルケンハインの爪や牙ならばバーテックスに傷を入れるのは容易いわ」

「微力ながらも此度は私めも力をお貸しいたします」

「よろしくお願いします、ヴァルケンハインさん!!」

「はい。よろしくお願いいたしますぞ、友奈殿」

 

ヴァルケンハインも加わり、少女たちも盛り上がる。しばらく城にいた北海道の民たちが気になった雪花は彼らについて聞いてきた。

 

「そういえばヴァルケンさん。一か月くらいは経ったみたいだけど、北海道の皆はもうこっちに引っ越したんですか?」

「心配はいりませんとも、雪花殿。先日皆さんは無事、かの天災においても被害の少なかった徳島で大社が用意した住居へ移りました。」

「へえ~、あそこの生活って結構快適だったのに良く皆付いて行ってくれましたね」

「生活の快適さはあれど、我々のような存在よりも同じ人間と共に生きる方が良いと初めより説明はしておりますので。見送りの際は少しばかり名残惜しさはありましたがな」

「そうですか…」

「それに今の彼らであれば相当の危険も問題なかろう。ほれ」

 

ヴァルケンハインが一つの写真を見せるとそこに北海道の者たちが写っていた。何人かは雪花の見知った者たちで元気そうなのを見て雪花も安心する。

 

しかし少し横の方を見ると彼女も思わず目を細める。写真には人間の中に二足歩行した猫や犬、尻尾やヒゲを生やしたり、あげくにフードを被っているせいで顔が分からない人がいたのだ。

 

「…えっと、ヴァルケンさん?私の気のせいか、人の中に猫とか犬とかが混ざってるんですけど…」

「…ああ、この方たちですが…どうしても強くなりたかったのか、何人かが『城の厨房』で『調べもの』をしている内に我がアルカード家の保管していた『獣薬』を見つけたようでそれを『うっかり』摂取してしまったようです」

 

レイチェルの手前ということもあってヴァルケンハインはあくまで笑いながらぼかして答えているが、現場に出くわした時はそれはもう激しく怒った。思わず人狼化してしまったくらいだ。

 

何となく彼が自分のために本当のことを言っていないことを感じ取った雪花は溜息を吐きながらも謝罪した。

 

「…多分元々はお偉いさんだった人たちですよね?本当にごめんなさい…」

「…まあ確かにそのようなものたちもいましたが、中には訓練での彼らの様子を見て『勇者に頼らずとも自分の身や思い人などを守りたい』と正面から私やクラヴィス様に必死に頼み込んだ方々も何名かいらして、元の身体に戻れないことを承知に自ら薬を摂取した者もおりました。無論どちらも質は分け隔てなく、鍛えましたが…志願者はやはり覚悟の違いもあって訓練の量は他よりも勝っておりましたな」

 

最終的に志願者たちの熱意とクラヴィスがまあまあとで事態は丸く収まったが、流石に盗人がお咎めなしというわけには行かなかったので、ヴァルケンハインがクラヴィスの許可の下、盗人と共に志願者たちを徹底的に鍛えこんだ。

 

獣人となったことで彼ら全員の身体能力は大きく向上したが、それでも歴戦の戦士であるヴァルケンハインの鍛錬は付いて行くだけでやっとだった。その成果として今では一対多でも星屑数体を相手に肉体一つで戦うことが可能になった。

 

そんなこんなをしている間に大社が用意した住宅の知らせが来て、彼らは皆その地へ向かっていったらしい。そんな彼らの近況を聞いて雪花はちょっと苦い顔をしたが、もう過ぎたことだし、願いが叶ったからいいんじゃないと結論付けた。

 

獣人に関しても大社の判断は正しいというのも個人的な意見だった。ただでさえ以前のスコーピオンの件で不穏な空気が流れていた香川では彼らの住む場所はない。更なる混乱が生まれるだけだ。

 

皆がヴァルケンハインと話している中、水都とひなたは一人勇者たちを見守っているラグナに話しかけてきた。

 

「…ラグナさん。出来れば今回は四国に留まってください」

「…神託で何かあったんだな」

「はい…外に出れば、貴方は敵を飲み込むほどの巨悪となる、とのことです」

 

彼女たちによると任務は数日後の朝に決まったらしいが、その時に気になる神託が下りてきたらしい。

 

ひなたたちが見えたのは壁の外では赤い太陽がその後ろから迫りくる闇の中へと消えていき、闇はそのまま神樹へと迫って行く様だった。神託に出てきたそれに多くの巫女たちは恐怖し、そのショックで他者と口がきけない状態になっていると本庁にいる安芸から聞いた。

 

その時にひなたと水都が真っ先に思い浮かんだのはラグナの暴走。出来ることなら彼は中で待機していて欲しかった。

 

それを聞いてラグナも一度悩んだ。初めて樹海へ行ったときの数日前に神樹は直々に自分の大怪我を警告した。それも神託の一種でそれに応じて自分も身を隠したが、結局樹海へ飛ばされ、この右腕を手に入れた。しかももし自分が行かなければ、あの時は恐らく死者が出た可能性もあっただろう。

 

だから今回もこの場に留まったところで行かされるだろうし、行かないとなっても若葉たちが危険な目に遭ったら元も子もない。

 

「……いや。俺は外へ行くよ。もしその闇が俺のことを差してんなら…その敵と俺はぶつからなきゃあならねえ。それに完成体のこともある。爺さんがいると言ってもアイツらを放っておくのも心配だ」

「…そうですね。何となくそう言うとは思っていました。諏訪の時もそうだったし…」

「まあ心配すんな。俺だってそう簡単にゃあ暴走してやるつもりはねえ」

 

無数の敵が来ると聞いても尚戦った彼を止められるとは水都は思っていなかった。ひなたも同じことを考えたが、彼に優しくも釘を刺すように言った。

 

「…はい。ですがくれぐれも用心してくださいね。貴方が思っている以上に貴方は皆さんの助けになっていますから」

「…肝に銘じておくよ」

 

こっちの方が年上のはずなのに何だか母親から念を押される子どものような気分にラグナはなった。数日して壁外の任務の当日になると一同は久しぶりの外の世界を見た。そこでは

 

「これはまた面妖な…」

「…もうこいつを投入するたぁ奴さんも随分とヤル気満々じゃねえか」

 

形成途中ではあるが、レオ・バーテックスがいた。かの敵を見てラグナは思わず舌打ちをする。しかし勇者たちは別のことが気になった。

 

「さっき壁の内側にいた時はこんな敵いなかったはずだが…」

 

若葉の言う通り、ここに来る前までは敵の姿は見えなかった。どうやら神樹の結界の効果によるものだろう。

 

「流石にこんな敵を見てしまったらねえ…中の人たちも平静じゃいられないっしょ」

 

雪花の指摘に一旦少女たちも目の前の敵へと意識を切り換える。杏が各自に作戦を伝えた。

 

「この敵を通常の手段で傷つけるのは難しいと思いますが、むき出しになっている部分なら攻撃が通ると思います。そこを集中的に攻撃しましょう」

 

その言葉に他の者たちも頷き、すぐさま攻撃を開始した。星屑たちを足場として利用しながら若葉と千景は薄い場所を斬り、棗、友奈、歌野は打撃でむき出しの部分を攻撃。雪花と杏は遠距離から勇者たちに近づく星屑たちを倒して援護していた。

 

ラグナとヴァルケンハインはというと正面から一気に攻撃している。元々魔道書の力が強まったこともあって大剣を纏う瘴気の力は増しており、レオの装甲にもかなりダメージが入るようになった。ヴァルケンハインも手足を爪に変えたりして敵の皮膚を裂いていた。

 

当分大社から精霊の使用を控えるように注意されている若葉達にとってこれは大助かりだったが、当然敵はやられっぱなしとはいかない。レオは身体を回転させて勇者たちを振り切った。

 

何とか敵から弾かれる前に退避したラグナたちだが、レオは次に千景に向けて巨大な火球を放ってきた。

 

「千景さん!!」

「ぐんちゃん危ない!!」

「くっ!!」

 

命の危険を感じた千景だったが、突如現れた狼が襟首を加えて彼女を火球の射程から持ち去った。いきなり何事と考えた千景だが、思い返せばこんなことが出来そうなのは一人しかいない。

 

「…狼男だけでなく、狼そのものになれるなんて」

「ウゥゥ」

「良かった…助かったよ、ヴァルケンハインさん」

「ああ…頼もしい限りだな」

 

棗が彼を懐かしそうに見ているとヴァルケンハインは壁に着地して千景を下ろす。対象を失った火球はそのまま本州へと飛んでいき、閃光と爆発音を放つ。

 

命中した場所は文字通りの焼け野原となり、地形も変形を起こしていた。こんなやつを野放しにして大丈夫のはずがない。それがその場の全員の答えだった。

 

すぐに人型に戻るとヴァルケンハインはラグナに声を掛ける。

 

「小僧!私が彼奴を攪乱する。その間に攻撃しろ!!」

「おうよ!そっちこそヘマすんじゃねえぞ爺さん!!」

 

縦横無尽にレオの周りを駆ける彼の言葉を聞いてラグナも攻勢の準備に入る。神世紀で大橋をも吹き飛ばしたレオの火力が未熟な今でも健在ならここで決着を付けるしかない。

 

「第666拘束機関開放!」

 

右腕を出して起動の準備に入ると同時に全身の血が逆流するような、妙な痛みが走った。思わずラグナも顔を顰めて瘴気が流れ込む右腕を左腕で押さえる。

 

「ぐ……今は…大人しく…言うことを…聞きやがれ!!!」

「ラグナさん!!」

「ラグナ、やっぱりまだ!!」

「大丈夫だ…次元干渉…虚数方陣…展開!!」

 

あの時と変わらぬほどの右腕の暴れっぷりにラグナの額にも脂汗が浮かぶ。それでも方陣は展開され、次の段階に入った。

 

「イデア機関…接続!!!」

 

その言葉と同時に白い光が流れ込み始める。そのおかげか、幾分ラグナの方も表情がマシになったものの、いまだに息が荒い。

 

蒼の魔道書(ブレイブルー)起動!!!」

 

起動が完了し、かつてないほどの瘴気を纏ったラグナはレオに向かって突撃する。

 

「ガントレットハーデス!!!」

 

初めに燃え盛る右手でジャンプパンチを決め込み、更に蹴りも決め込む。しかし予想よりも敵は大きく仰け反る。だがそんなことを気にしている場合ではない。寧ろ怯んだ今がチャンスだ。

 

「爺さん!!行ったぞ!!」

「ウォゥ!!」

 

ラグナの叫びに応じてヴァルケンハインも突進し、自慢の牙でレオの肉体を食いちぎる。その後はレオの身体中を爪で裂いていき、最後には人狼に変身してレオを切り裂く。ラグナも大剣を逆手に持って構えながら一気に切り上げた。

 

「『ケーニッヒ・フルーク(グォォォォォォ)』!!!」

「インフェルノディバイダー!!!」

 

上下から斬られてレオも真っ二つになりかける重症を負う。対して人の姿へと戻ったヴァルケンハインはまだまだ余裕のようだが、ラグナはかなり消耗しているようだ。

 

「はぁ…はぁ…」

「どうした?もう下がった方が良いぞ?」

「ンなこと…するかっての!平気だ」

 

だが実際は着地してすぐ膝を落としてしまった。これほど体力が持っていかれることなんてなかったのに今では右腕が弾け続ける爆竹のように暴れている。

 

(クソ…情けねえ…一度切るしか…!?)

 

このまま使い続けていてはまた暴走する可能性がある。そう考えると同時に激しい地鳴りと共にレオが火球を放った場所から轟音と天までに届きそうな土煙の柱が出来ていた。

 

全員がその方向へ向くとそこにはもう一体、完成体らしきバーテックスがいた。最も今度の敵はこれまでのものとは異質過ぎる風貌だった。

 

「おい…何だあれは!!?」

「…『黒い…バーテックス』!!?」

「皆さん、すぐに集まってください!!あれと戦ってはいけません!!」

 

それは全身が黒一色で赤く燃えるような牙を生やした蛇のバーテックスだった。複数の頭を持ち、周囲に大量の瘴気を撒き散らし、口からそれが漏れていた。

 

「グオオオオオォォォォォォォ!!!!!」

 

怪物がレオを見つけると大地を揺るがすほどの雄叫びを上げながら地からその身体を引き摺り出してこちらへと進んできた。その声に勇者たちも思わず耳を塞ぐ。

 

怪物に気付いたレオは火球を放つ。避けることの出来なかった怪物はその劫火に焼かれるが、火柱からその姿を露わにした。

 

怪物は身に着いた炎を吹き飛ばし、レオに噛み付いてきた。強靭な顎は容赦なくレオの身体を噛み砕き、バラバラにしていく。レオも数十個もの火球を作り出して至近距離でそれを怪物に打ち込む。

 

「そんな…あれだけ喰らってもビクともしないなんて…」

 

壁から怪物たちの戦いを観察していた杏は火球の連射を喰らってもなおレオを離さない怪物に戦慄する。当の怪物はレオの攻撃が鬱陶しかったようでレオを咥えると海へ叩きつけた。

 

派手な音と共にレオは水中から浮かび上がろうとするが、怪物は容赦なくそれに喰らい突いてくる。ほぼ一方的な二体の戦いはさながら獲物を食い散らかす猛獣とその餌のようだ。

 

その様にラグナも含めた全員が茫然とした。最終的に怪物はボロボロになったレオを投げ捨てる。レオはそのまま海へと沈んでいった。

 

咆哮を上げる怪物を見ながら一同は集まる。怪物も少女たちを見ると唸り声を出した後に結界ではどう足掻いても遮断できないほどの怒号を出す。聞くだけでありったけの勇気も散ってしまいそうだ。

 

ラグナの腕である蒼の魔道書も激しい反応を見せる。怪物と共鳴しているように見えた。

 

「冗談じゃねえよ…何でここで『テメェ』が来るんだよ!!!」

 

理不尽に舌打ちをしながらも右腕で大剣を強く握りしめ、ラグナは怪物へと一歩踏み出す。こいつはいずれ出てくる。そんなことは知っていた。この腕が存在する以上、彼の怪物の存在もまた確立していた。

 

でもいつ出てくるのかは知らなかった。せめて球子が戦える状態ならまだ良かったのだが、そんなことを待たずしてこいつは出現した。切り札の問題が解決できる手段が見つかっていない中でタケミカヅチ並みの脅威と戦う、最悪の事態だ。

 

「…これはまた、とんでもない化け物を喚び出したものよな。味方をも攻撃するとは」

 

一人冷静に言うヴァルケンハインの視線の前で怪物の周囲の星屑たちは枯れた葉のように干からびていく。神樹の根で形成された壁も腐食し始めた。文字通り敵味方関係なく問答無用に力を吸収しているのだ。

 

「…おい爺さん。他の皆を連れて、壁の中の連中にすぐ他の場所へ逃げろって伝えてくれ。アンタならウサギが呼べばすぐそっちへ行けるだろう?」

「そんな、どうして!?確かに強い敵なのは分かるけども…ここで戦わないと…勇者である私たちがやらないと四国が!!」

「今ここでアレと戦ってもここの皆も四国の奴らも殺されるだけだ…」

 

千景の言葉を悔し気にしながらもラグナは否定する。確かに一つだけ案はあるが、それだって上手く行く保証はない。そんな作戦で他の者たちまで巻き込めない。

 

「悔しいが貴様の言う通りだな…だがそれはそうとして、貴様はどうするつもりだ、小僧」

「…野郎は俺が食い止める。確証はねえが…俺の右腕の力を使えば一時的だが、アイツを止めることが出来るかもしれねえ。それに」

 

ラグナが怪物と目を合わせると怪物も又、頭の一つを自分に向けてきた。口から瘴気が涎のように溢れ出す。

 

「どうやらあっちも、俺のことを逃がすつもりはねえみてえだ」

「…死ぬ気か?」

 

死という言葉を聞いて他の勇者たちも流石に動揺する。この前、事実死にかけた者もいたから猶更敏感になっていた。

 

「ハッ、まさか。こんな奴に殺される命なんざ持ってねえよ。逆に野郎のタマを取るつもりで行く」

「全く、命がいくつあっても足りんぞ」

「うるせえ、とっとと行きやがれ」

「少しはその口を…まあ、貴様とここで下らん言い争いをして仕方がない。先を行かせてもらおう…次にこの怪物と相まみえた時にまた会おう」

「…ああ」

 

そう言ってヴァルケンハインは急いでレイチェルに連絡を飛ばして自分がそちらへ行けるように手配を取る。だがもちろん勇者たちは彼の言葉を聞いて黙っているはずがなかった。

 

「ふざけないでよ!!正気なの!!?」

「おわ!?急に声上げんなって!…心配すんな。ちょっとアイツを黙らせるだけだ」

「一人で!!?あんな巨体と星屑の大群のセットよ!!一人でどうにかなる相手のわけないでしょ!!!」

「千景さんの言うですよ!!いくら何でも危険すぎます!!」

 

杏たちの言葉は最もなことだが、そこへ若葉が出た。

 

「ならば私もここに残る。千景たちは先にヴァルケンハインさんたちと戻っていてくれ」

「若葉さんまで!!?」

「テメェ、聞こえてなかったのか!!?殺されるっつたはずだぞ、俺は!!」

「何、別に私はアレとここで一戦交えるつもりはないさ。だが、お前だって奴の元まであの星屑たちまでも相手にするのか?先ほどの戦いでもかなり疲れているようだったぞ」

 

若葉に最もなことを言われてラグナも苦虫を噛んだ顔をする。

 

「確かに奴に辿り着く前に力尽きちまっても仕方がねえ…」

「だろう?ならば私はお前の道の露払いを務めよう。お前も出来る限り体力は温存しておけ」

「……はぁ、分かった。でも俺がアイツに辿り着いたら…何があってもすぐに逃げて戦う準備を整えておけ…そう長くは持つかは分からねえ」

「承知した」

 

不敵な笑みを浮かべる若葉にやれやれと言いつつも頼もしさを感じるラグナ。二人の意志を折ることが不可能だと悟ると雪花は言葉を掛ける。

 

「アンタら。二人で盛り上がりすぎないでちょ。それと、殿を務める以上、絶対に帰って来なさい。特にノギーの場合、何かあったらひなたがどうするか分からないし」

「ああ。ひなたには少し遅れているとだけ伝えてくれ」

「ええ!」

「任せろ」

 

歌野と棗はそう言ってサムズアップを若葉に返した。少ししてヴァルケンハインが少女たちを呼ぶ。レイチェルの元へ転移する準備が整ったようだ。

 

少女たちはヴァルケンハインが開けたポートを通じて丸亀城へと戻っていく。最後の番が来た手前で友奈は通る直前にラグナと若葉の方へと駆け寄る。

 

「ラグナ!!」

「おい友奈!!何をしている!!?」

「馬鹿、ユーナ!!早く行け!!アイツが本格的に攻撃を始めたらアイツらのところへ跳べなくなるぞ!!本格的に巻き込まれる!!」

「でも!!二人ともが死んだら…だったら私が酒呑童子で!!」

「待て!!この前の戦闘を忘れたのか!?またお前の命が危なくなるぞ!!」

「でも…二人が死ぬのに比べたら…私もここで頑張れば「ダメだ!!!」」

 

明らかに危ない橋を渡ろうとしている友奈にラグナは一喝した。

 

「アイツを今ここで戦えば…確実に誰かが死んじまうんだよ!!そもそもそいつを使って死にかけたのに、こいつ相手にそれを使ったら…それこそ本当にお陀仏だぞ!!」

「で…でも…」

 

友奈だってそれは分かっている。酒呑童子を使ったらどうなるかなんて言われずとも自分が良く分かっている。だがそれでも使う決意は強かった。

 

スコーピオンによって死にかけたラグナ。それを見て泣いていた杏と球子。その後で分かった丸亀市での犠牲。どれも友奈にとって悲しく、苦しく、そして辛い出来事だ。

 

それをまた、ここで繰り返してしまう。ラグナと若葉が死に、それを聞いて多くの者たちが嘆き悲しむ。普段は気丈なレイチェルだってきっと例外ではないだろう。

 

そんな光景を友奈は見たくない。だから拳を振るうのだ。例え自分がどれだけ危なかろうと。ラグナに叱られても尚下がらないのはそれが原因だ。

 

そんな彼女の意志が何となく感じ取れたのか、ラグナは困った顔をすると唐突に上着を脱ぎ、状況が良く分からない友奈にそれを押し付けた。

 

「持っとけ」

「え?」

「野郎とケリを付けたら取りに戻る。約束だ」

 

ただそれだけ言った。友奈はラグナと目を合わせる。彼の眼は諦めた者のそれではなかった。

 

「……分かった。あっちに戻って準備が出来たら…すぐに助けに行くね!!」

「ああ」

 

友奈はそれを受け取る。抱いてみればその重みが良く分かる。恐らく自分と会ってからの三年間…いや、それよりも前。この時代に来る前から彼はこの赤コートを着て強敵を相手に戦ってきたんだろう。

 

ヴァルケンハインの方へ行き、ポートを通る前、友奈は確認するようにラグナの方へと叫んだ。

 

「約束だよーーーー!!!絶対…絶対に無事でいて!!!」

「ああ、分かってるって!!俺たちは絶対死なねえから早く行け!!」

 

それを最後に聞いて友奈はヴァルケンハインと共にポートを通る。残ったラグナと若葉は目の前の怪物と相対した。獣も戦闘態勢に入り、こちらに全ての頭を向ける。ラグナと若葉は同時に叫んだ。

 

「ブレイブルー起動!!!!」

「降りよ義経!!!!」

 

ラグナの腕から怪物に負け劣らぬほどの瘴気を出し、若葉は切り札を躊躇いなく切る。殿でも相手が相手。一瞬でも手を抜いたら命はない。眼前の敵の雄叫びに負けじとラグナたちは絶叫を上げて武器を抜き、突貫した。

 

「行くぞ、『黒き獣』!!!!」

「貴様らの相手は私たちだ!!!!」




あれ~、おかしいな~。若ちゃんって原作だとハクメンに近いタイプの立ち位置のはずなのに、こっちだとなんか丸くなったおかげか、だんだん十兵衛様ポジになってきた気がしてきたのだが…

さて、とうとうバーテックスとしてですが、出てきてしましました。ブレイブルーのもう一つの全ての元凶、全てを破壊し尽くす怪物。黒き獣、満を持して参戦。さあ四国よ、絶望の時だと言わんばかりの暴れっぷりが待っているでしょうか。

さて次回はその黒き獣との戦いでの作戦建て諸々などです。それではまた。
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