蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

ここ最近めっちゃ忙しい…冬至イベントでは雀ちゃんが大活躍だったようで良かったけど…

さて今回ではラグナが不在の中での丸亀城の様子…人類は黒き獣に勝てるのか?それではどうぞ。


Rebel82.心を惑わす少女

とある曇りの日、若葉たち、勇者たちはいつもの教室に集まっていた。普段は誰かが世間話などをしていたりと騒がしい部屋だが、今日は一人として口を開いていない。

 

黒き獣の出現から丸一週間、大社の尽力も空しくいまだに解決の糸口は見つかっていない。今は壁を元自衛官が搭乗した船で厳戒態勢の元で監視されているが、そちらでも大きな動きはないにしても、唸り声や壁に躰をぶつけた時の揺れは健在だった。

 

間違いなくそうしない内にアレは四国へ攻撃するだろう。それが一度蒼の魔道書の力で躰を覆う瘴気が剥がされても尚自分を睨む敵に対して若葉が思ったことだ。

 

「…皆が知っての通り、あの敵…ラグナは『黒き獣』と呼んでいたが、アレは近いうちにこの四国を攻撃する。その時の戦いは…この前の完成体との時よりも過酷なものになる」

「…そうですね。あの敵は未完成とはいえ、本州を抉るほどの攻撃を浴びても全く傷を負うことはありませんでした…恐らく…これまでの敵の中でも…飛び抜けて強い個体だと思います」

「全く平気だったのか!?」

 

杏の言葉に球子が問いかける。以前戦ったスコーピオンの完成体は勇者の武器が通用しなかった。ものによっては切り札の力すらも意味を為さない。それでも希望を捨てたくはなくてつい聞いてしまった。そんな球子の言葉に若葉が答えた。

 

「…いや。アレは効いていないというものとは違う気もする」

「どういうことだよ?」

「ラグナが奴に辿り着く前に成り行きで私はアレの相手を少しする必要があったが…その時に切り傷を浴びせることが出来た」

「本当ですか!?」

「ああ…だがその傷もすぐに再生してしまったんだ。その時も壁が腐食し、他の星屑が灰になっていき、私自身もぶつかり合う度に力が失っていくように感じた」

 

その話に更にひなたも付け加えた。

 

「そして恐らくですが…黒き獣はラグナさんの右腕と同じバーテックスであるとも考えられます。どうも彼の右腕の力で活動が停止したようです」

「…そういえばあの男の元の世界にも出現したと言っていたわね。自分もそれを止めたことがあったから同じ方法を試したのでしょう」

「だが敵はまだ止まっていない…そういうことですな」

「…確かにかなり弱体化はしたが、残念ながらまだ動くことが出来ます。早急に対策しなければ…樹海を破壊しながら奴は四国へ進行し…我々は敗北するでしょう」

 

勇者の敗北。それは四国の滅亡を意味する。元からここに暮らしている者も、遠い地からここへたどり着いた者も、そしてこの三年間で新たに生を受けた者も皆死ぬ。

 

「若葉、壁が腐食したというのはこの前のバーテックスと同じ現象かしら?」

「その通りだ。だがそれと同時に壁も脆くなっていっているようにも見えた。樹海でも…同じことが起こる可能性がある…」

 

樹海が腐食することで以前、丸亀市に大きな被害が出た。それと同時に樹海そのものが脆くなるということは樹海がそれの守る街ごと破壊されるということだ。勇者たちは頭を痛めた。

 

「…かなり危険な状況ね」

「樹海での防御が厳しいと分かった以上、香川の民は一時的に他の県へ移るように大社からの知らせが出ています。どれだけの被害が出るのかが分からない以上、最悪を回避するための努力は怠ることは出来ないと…」

「そのために…大社も『あのこと』を公表したそうよ…」

 

市民たちの迅速な疎開のために大社は以前の竜巻がバーテックスの仕業であることを公式に発表した。結果として大規模な避難活動は可能になったが、それによって少なからず四国中で犯罪や自殺者が出始めるなど、四国の平安に陰りが見え始めた。

 

現在丸亀市には殆ど人が残っておらず、大半の人間は他の県へ移っていった。大社関係者以外で丸亀市にいるのは、大社に対して不信感を持った者たちや自身の生まれた土地への愛着が強い者たちくらいだ。

 

だがそこに人がいるならば負けることは出来ない。そもそも丸亀市だけではなく、他の都市にも危険性は大きい。

 

「何にしても傷が再生するところがネックになってくるにゃあ」

「はい…それに若葉さんが傷つけたと言ったのは切り札を発動しているときです。恐らくですが…今回も使うことになると思います…」

「寧ろアレ相手に出し惜しみなんて出来ないわ…そんなことしていたらこっちの身が持たない…」

 

千景の言う通りで杏も悩むが、そこへひなたが手を挙げた。

 

「少しいいでしょうか?」

「どうしましたか、ひなたさん?」

「…ラグナさんの腕と同類の敵なら…私もアレに影響を与えることが出来るかもしれません」

「あ…」

 

言われてみればその通りだ。最近になってからは見られなくなったが、ひなたにはラグナの右腕の力を抑えていた秩序の力を持っている。今の黒き獣がラグナの右腕の過去の産物なら、まだ抑えられた頃の状態かもしれない。

 

「だ、ダメだダメだ!戦場へ巫女を連れて行くだと!?危険すぎる!!」

 

当然幼馴染が危険地へ赴くことに若葉は反対した。しかしそれでもひなたの決意は固かった。

 

「若葉ちゃん。今回の襲撃ではどこにも安全だと保障できる場所はありません。それにもし皆さんをお助け出来るなら…やはり私はじっとしていたくはありません」

「ひなたさん…」

「ひなた…しかし…あまりにも危険では…」

「そもそも樹海に巫女って行けたのか?」

「それは承知の上です。ですから、外で戦うなら…私も同行したいんです」

 

ひなたの意志は固く、若葉の言葉でも説得が出来ないようだった。これまで長い間、ひなたは勇者たちの戦いを見守ってきた。彼女たちが帰ってくるのを見るとき、いつも感じることがある。

 

いつも安全な場所で自分は留まっていて、彼女たちの助けになれないことを気に病んでいた。以前ラグナが死にかけたことがその思いをより強めた。

 

それを聞いて若葉も悩み、その気持ちが理解出来てしまう他の者たちも暗い顔になる。解決策が見つからないまま、時間だけが悪戯に過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒き獣の内部に突入したラグナはというと因縁の深いニューの姿をした黒き獣の御魂相手に苦戦を強いられていた。能力(ドライブ)、ソードサマナーによって四方八方から発射される剣がラグナの動きを封殺する。

 

「クソッ!!見た目だけじゃなくて戦い方まで模倣してんのかよ!!」

《アハハハハハ!!!》

 

最後に本物のニューと戦った時は自分もかなり強くなったこともあってあの世界では勝つことが出来たが、御魂が彼女の戦闘能力をどこまで再現しているのかが分からない今、油断は出来ない。その前までは敗北していたのだから。

 

今も御魂は宙を高速で移動し、電子雲に包まれた刃を飛ばしながら純粋な子供のように笑う。それを叩き落としても次には弾丸のように迫ってくると身体中の刃物で自分を切り付けてきた。

 

「甘え!!」

 

しかしそれをラグナは大剣で受け流す。火花を散らしながら過ぎ去っていく御魂に彼は斬りかかろうとするが、後ろから斧が回転してきた。何とかジャンプして躱すが、ラグナの頭上からいきなり刃が出現して彼を地面へと叩き伏せる。

 

「ぐはッ!!?」

《『カラミティソード』》

「ぐああッ!!?」

《『シックルストーム』》

 

落下と同時に追撃まで喰らってしまった。斬られた部分から血が滴る。何とか致命傷は避けられたが、依然としてラグナは不利な状況に追い込まれていた。

 

「うぐ…クソが…」

《どうしたのラグナ?もっと殺り合お!殺し合お!もっと…もっと…》

「黙れ…そもそもテメェ…ニューじゃねえだろうが!アイツみてえな喋り方をしてんじゃねえ…!!」

 

確かに殺し合ったりと敵ではあったが、だからと言って今の自分はニューのことが憎くはない。それにこの御魂は自分の知り合いの姿を盾に自分と戦っているようでひたすら不快に感じた。

 

「つーか…どうしてテメェは俺の名前を知ってんだ!!」

《そりゃあ…観測()えたんだもん。ここでは色んなものが観測えるんだよ〜。ラグナのことも…ニューのことも…》

「…そういうことか」

 

以前の黒き獣を倒した時もそうだったが、御魂の話が本当ならばここは境界と同じ性質を持った場所なのだろう。コアがその入り口である窯だったから妥当な憶測だろう。

 

(そもそも黒き獣の骸である蒼の魔道書自体が窯に近い性質を持ってるからな…)

 

境界と同じような場所ならば、ここには様々な情報が溢れているだろう。失敗したとはいえ、人間が造ろうとした次元境界接触用素体のことも、ラグナのことも、他の世界のことも。故に御魂はそこからニューの人格や力を再現出来たのだ。

 

一人で結論に達していると、御魂は自分に問いかけてきた。

 

《そんなに戦うのが『怖い』の、ラグナ?》

「誰がンなこと!」

《だってその腕から感じる力、ぜーんぜん使って来ないよね?》

 

御魂の言葉にラグナは思わず自身の右腕へ視線をちらりと移す。彼女の指摘通り、ラグナは戦闘に突入してから一度も蒼の魔道書を使用していない。

 

あのスコーピオンとの戦いからラグナの腕は確かに以前よりも強くなっていた。しかし、同時に開帳すると制御が殆ど効かない状態になってしまったのだ。

 

それでも無理やり制御しようとすると体力をごっそり持っていかれてしまう。それもあって今の蒼の魔道書はラグナの文字通りの切り札となった。起動させなくても魔道書の力を少しながらも行使出来るのが幸いである。

 

こんな場所で使って暴走とか考えたくもない。そんな思いを振り払うように叫ぶ。

 

「…態々こいつを使うまでもねえ!こいつ抜きで…テメェを倒す!」

《アハハハハハ!!嬉しいよ、ラグナ!!さあ……殺し合おう!!!》

 

御魂はそういうと無数の刃を彩らせた方陣を展開し、ラグナに向かって回転しながら突撃する。自身から展開されたペタルを前方へ突き立て、ラグナを貫かんとした。対してラグナも大剣を取って迎え撃った。

 

「カーネージシザー!!!」

《キャアッ!!》

 

流石に御魂も正面からのラグナの攻撃を耐えることが出来なかったようでラグナが振り払うと同時に吹き飛ばされる。

 

「ブラッドサイズ!!!」

 

それを見るやラグナは大剣から変形させた大鎌で御魂に追撃を喰らわせようとする。エネルギーの刃は少女の顔を捉えようとした。

 

《『グラビティシード』》

 

しかしその直前に大鎌の刃は空中で止まった。いや、ラグナの身体が虚空を無様に浮いていた。何が起こったのかが理解する前に御魂の顔に凶悪な笑顔が広がる。

 

《つ・か・ま・え・たー♡》

「しまっ」

《トゥルーインプレッサ》

「ぐあぁぁぉぁぁぁ!!!!」

 

無抵抗のラグナに御魂は容赦なく剣の雨を降らせる。肩や背中に刃物が痛々しく刺さっていき、ハリネズミのようになっていく。

 

攻撃が終わるとようやくグラビティシードが解け、ラグナは力無く地面に伏した。少女は機械音を鳴らしながら場を発生させる。

 

《さあラグナ…もうそんなに傷だらけになってまで頑張る必要ないよ…今こそ…》

「ふざ…けんな…!!まだ…やれる!!」

《そっか〜…でもようやく分かったよ〜。何でラグナがこんなに弱いのかが》

「ンだと…テメェ!」

 

キャイキャイとそう話す御魂に対してラグナがボロボロの身体を無理やり起こして食ってかかる。

 

《敵と戦うこと…敵を倒すこと……ラグナが怖いのはそんなことじゃない…ラグナが怖いのは…》

 

御魂は一拍置いてから口を開く。

 

《大事なものを自分が壊してしまうことだよね?》

 

その言葉にラグナは言い返すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者たちの方でもまだ話し合いの決着が着けられていない。空気が更に張りつめる中で一人、声を出した。

 

「…皆、ちょっと待ってて」

「友奈さん?何処へ行くんですか?」

「うん。ちょっと取りに行くだけだから」

 

そう話すと友奈は少し部屋から出た後にしばらくして戻ってきた。抱えていたのは見慣れた赤コート、ラグナのコートだ。それを友奈は傷つけないように優しく机の上に広げた。

 

「…あの人のコートね。この前も見せられたけど高嶋さんに託したって」

「前にひなたが直したのよね。こうして身近に見ると結構オシャレなデザインだわ」

「ええ。やはり彼はこの服装が一番似合っていますから、綺麗にして返したかったんです」

「そりゃそっか」

「かなり暖かかった」

 

全員が赤コートに注目している中で友奈は珍しく真剣な顔で話し始めた。

 

「このコートを抱えた時、すっごく重かった。多分ラグナはこの世界に来てから…ううん。未来や元の世界でもこれを着て、ずっと戦ってきたんだと思うんだ」

「そういえば、『7・30天災』の時も彼はこのコートを着ていたな」

「もしかしたら…バーテックスが天から降ってきたあの日にこの時代へ来たのかもしれませんね。数えきれないほどの思い出がこれに詰まっているのでしょう」

 

そう考えながら勇者たちは思い返していた。彼の話は聞いていたが、その戦いの歴史の証拠である赤コートを見ると改めて考えさせられる。

 

「これを託された…ううん、『預けられて』行った時のことを考えてたんだ。あの時も、ラグナは諦めてなかった。だからきっとまだあの中で頑張ってるんだよ。皆のいる場所へ帰るために…」

「皆のいる場所…」

 

友奈の言葉に千景が思わず声を漏らす横でひなたも何かを思い出したように言った。

 

「そうでしたね…ラグナさんは皆さんが笑っていることを大切に思う方でした。長い間、戦いの中で生きて来た分…皆さんと楽しくしているこの場所にいて、嬉しかったのかもしれません」

「…ああ、そうだな。アイツは最後まで諦めていなかった。ならば私たちも四国を守るために尽力せねばならない。私たちの居場所を…そして私たちにとっての未来を守るために」

「そうだそうだ!それにラグナが苦戦してるってんならタマたちの方から助けに行けば良いんだ!黒き獣なんてぶっ飛ばしてな!」

「ふ…その通りだな、球子」

「さっすがタマちゃんだよ~」

 

球子の言葉に友奈も笑みを返す。それに他の勇者も少しずつだが、前向きな気持ちを取り戻していった。

 

「そうですね…かなり厳しい状況でありますが、まだ負けが決まったわけではありません。壁や樹海に悪影響を出すなら壁を越える前に向かい打つという手もありますし」

「お!良い顔になってきたな、あんず!3タマポイントをや~ろ~」

「あはは…でもタマっち先輩、まだ戦えないんじゃ…まだ旋刃盤直ってないし…」

「何言ってんだよ。武器なんてなくてもタマは勇者だ。避難の手伝いとかはやれる。まあ間に合わなかったら実戦はあんずたちに任せるぞ。それに」

 

球子は自分の額を杏のものに合わせながら言った。

 

「大丈夫だって。例えそこにタマが居なくても、タマはいつだってあんずを守っているからな」

「…タマっち先輩には敵わないや…」

 

自信満々にそう言う球子とそれに笑みを返す杏のやり取りを見て巫女組も何か感じるものがあったようだ。そんなところへ若葉がひなたに言葉を掛けた。

 

「ひなた…お前の方も苦悩していたんだな…」

「いえ…私こそ、勇者の皆さんの近くにいますのに…力になれなくて…」

「そんなことはないさ。球子の受け売りというわけではないが…お前がここにいるから私も安心して戦えるんだ」

 

若葉はひなたの肩に手を掛けながら言葉を続ける。

 

「だからひなた。ここを…私たちの居場所を頼む。そして宣言しよう。必ず黒き獣を倒して私たちはお前たちの元へと帰ってくると!!」

 

力強くそう言う若葉にひなたは面食らったが、その後は次第に笑い始めた。

 

「な、何がそんなにおかしかったんだ!?」

「ふふふ…いえ、いつにも増して熱く頼もしい言葉だと思いまして…まさに情熱若葉ちゃんですね♪」

「うぅ…また変なあだ名が…」

「ですが分かりました。私はここで…皆さんの帰りをお待ちしています。ですから…どうか無事に帰ってきて下さい」

「…ああ!」

 

二人のやりとりを見て他のも安心したように胸を撫で下ろした。皆の士気が上がっていくのを傍目から見守るレイチェルとヴァルケンハインは感慨深そうにしていた。

 

「…本当に心強いわね、彼女たちは」

「左様ですな。ああいった者たちを見ますと、未来が明るいと感じさせます」

「…ええ…そうね」

 

そうは言っていたが、レイチェルの顔は少しばかり覇気がなかった。それを見てか、ヴァルケンハインが笑みを浮かべる。

 

「やはり気がかりですかな?」

「……ええ」

「…レイチェル様は本当にあの男と彼女たちのことがお気に召さったのですな」

「…そうね。彼女たちと過ごす時間は、退屈する暇がないくらい騒がしいわ」

 

そうは言っていたが、口元は笑っている。今までの日々を思い出していたのだろうか、その目は優しいものだった。その様子を見てヴァルケンハインも嬉しそうだった。

 

「左様でございますか…それでは、レイチェル様の御学友のために私も気を引き締めねばなりませんな」

「貴方の知識はきっと彼女たちの力になってくれるわ…あの娘たちのこと、お願いね」

「仰せのままに」

「アルカードさんたち、何かあったの?」

「いいえ、少しヴァルケンハインと話していただけよ。すぐそっちに向かうわ」

 

千景に呼ばれて二人は勇者たちの話の輪に混ざった。香川と壁を写した地図を広げて樹海の広がったときにどこで戦うのかを吟味していく。

 

「万が一樹海を破壊するなら海のある辺りで戦うのはどうだ?」

「本当にそうなった場合ですと、そこが一番位置的にも的確ですね」

「しかしそうなりますと漁師の皆様が危険かもしれませんよ?」

「諏訪の時みたいに海が危険だってアラームで知らせれば良いんじゃないかしら?」

「そんなにすぐたくさん警報付けられるかな?」

「皆で付けまわっていけば出来るよ、きっと!」

「海で戦えるなら一番だがな…」

「そこは上手く神樹も援護してくれると思うわ」

「まあ、壁の外で戦った方が一番いいかにゃ?」

「四国の民を不安にさせないという意味でもその方が良いでしょう」

「神樹様~!!タマの!!タマの旋刃盤を早く直してくれぃ~!!」

「そればかりは…神頼みね」

 

少女たちの思案は続く。しかしその時の彼女たちの眼には希望が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

《あ~、やっぱりそうなんだ!!ラグナが腕を見た時、ちょっとだけ、不安な顔してたからね》

 

御魂に指摘されてラグナも心を見透かされたような気味悪さを覚える。足が身体の傷とは別の理由でガクガク震えていた。

 

覚えがないわけではない。ないはずがない。力を抑えられなくなった時、どうなるのかなんて自分が一番良く分かっているじゃないか。

 

だから最近になってそうならないように昔の修行などをして制御できるように努力していたが、レオの戦闘がそれでは不十分だと理解した。

 

また大事なものを失うのではないか。居場所を壊してしまうのではないか。誰かの大事なものを奪ってしまうのではないか。今のラグナにとってそういったもしかしてには現実味が感じられた。

 

《またその手で傷つけるのが怖いの?一人になるのが怖いの?》

「うるせえ!!」

《強がらなくても良いよ。でもしょうがないよ。ラグナの周りは弱い。ラグナの力でなくてもあっさり壊れちゃう。だからラグナは一人になってしまう。だからこのまま皆のところにいて大丈夫かなって考えてしまう》

「クソ…クソぉぉぉぉ!!!!」

《『ルミナススレイブ』》

「ガハァッ!!」

 

瞬時に飛ばされてきた剣にわき腹が切られて、ラグナも膝をつく。御魂は続けて言う。

 

《でも私なら大丈夫!ラグナと一緒だったら何だって壊せるよ?絶対に壊れないよ?いつだって…ず~っとラグナの傍にいられるよ?》

「……ッ」

《だからね?私と一緒になろうよ?そしてアイツらを…ラグナのことを傷つける奴らを…人間を…世界を…壊していこうよ…》

 

妹と全く同じ声から紡がれる破滅への誘惑。失血と痛みで意識が朦朧とするラグナにはかなり効くものだった。だが、それでも首を縦には振らなかった。

 

「…断るッ!!!」

《…どうして分かってくれないの…?アレは…》

 

ラグナの方へと近づいていこうとする御魂は何かに気付く。そこは壁の中、丸亀市の様子だった。恐らく黒き獣が壁の外から覗いているのだろう。

 

そこでは必死に動き回っている勇者たちがいた。ある者は訓練で汗を流し、ある者は街の見回り、またある者は港から壁の様子を偵察する者がいた。

 

見えない者も屋内で対策を立てたりしているのだろう。この空間では時間の流れが外とは違うため、どれだけの時が過ぎたのかは分からないが、無事な様子が見れてラグナもホッとした。

 

「アイツら…」

《……ふーん。ねえラグナ?》

 

しばらくそれを凝視していた御魂が静かに質問する。それまでの幼い少女のものとは打って違って

 

《あの女たち、誰?》

 

恋敵を見つけた時の女の、冷酷さを帯びた声だった。ラグナは黙秘を決め込んだが、それだけで御魂は理解する。

 

《そっかぁ…アレがラグナを縛るものなんだぁ…》

「テメェ…何するつもりだ!!」

《待ってて、ラグナ。ラグナと私の邪魔する奴なんて…み~んな殺してあげるから》

「やめ…ぐっ!!」

 

言葉を言い切る前に身体が剣で地面にピン挿しされる。必死にもがくラグナを余所に御魂は機械的に告げた。

 

《敵性反応を確認—―排除に移行します》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また一週間経ったが、まだ奴に動きはないな」

「それも良いじゃないか。おかげで友奈も身体を休める時間も出来た」

「しかしここ最近は大人しいわね。こっちにとってはありがたいけど、同時に不気味だわ…」

 

街の見回りでまだ避難し終えていない人々がいないかを確認していた若葉、棗、千景は丸亀城へ帰ろうとしていた。いつものような日常だが、街にはもう人っ子一人も見当たらない。

 

そんな現状を考えているといきなり街中に取り付けたサイレンから警報が鳴り響くと同時に若葉の端末が振動する。電話の主はひなただった。

 

「私だ。どうした、ひなた」

『若葉ちゃん!!すぐ港に向かってください!!敵が来ます!!』

「港!?何故そこかは良く分からないが…とにかく分かった!!」

 

若葉が電話を切ると同時に二人の方へと振り返る。会話の流れから全てを察したようだ。

 

「急ぎましょう。樹海化が始まる前に」

「ああ!!杏の指定した場所だな!!」

 

急いで港へ走っていくと轟音が響く。見張っていた武装船も撤退していくようだ。しかしそれと同時に勇者たちの予想だにしないことが起こった。

 

その時、大橋近辺から木の根が引きちぎれるような音と共に木屑や土煙が巻き上がった。瞬間空は綺麗な蒼から一転して赤の混じった黒へと変貌する。夜中に大火事が起こったような色彩が彼女たちの目に映ってきた。

 

「そんな!!?壁を突き破ってここまで来たというの!!?」

「考えている時間はない、急ごう!!」

 

港へ着くと他の勇者たちとヴァルケンハインも敵の動向を見ながら三人を待っていた。

 

「状況は?」

「敵が大橋からこちらへ向かっているみたいです…まるで丸亀城へ行こうとしているかのようで…」

「タマちゃんの旋刃盤、まだ直ってないのに…ホント勘弁してよね」

「それより変ね…さっきから樹海化が起きないわ…もう起きてもおかしくないのに」

 

黒き獣が出現したというのに未だ勇者たちを戦いの場へと移す樹海化が始まらない。イレギュラーに次ぐイレギュラーに勇者たちも驚きを隠せないでいた。

 

「…結界が破壊されてしまったことも大きいかもしれません。こんなことが起こるなんて…」

「多分みーちゃんやひなたさんがいる大社には近づけないと思うけど…これはこれでソーバッドね」

「…奴はここで迎え撃って決着を付ける。かなり不利な戦いだが…来てしまった以上はやるしかない」

「…本当に勝てるの?アイツ、この前と殆ど変わってないみたいよ」

 

千景は思わず弱音を吐いてしまう。あの敵が健在になったということはラグナはもういないのかもしれない。腕の方も圧倒的な力の持ち主への恐怖から震えている。

 

しかし友奈は優しく千景の手を取って微笑みかける。彼女の温かい手に自分の手が包まれていると友奈が自分に話しかけてくるのが聞こえた。

 

「大丈夫だよ、ぐんちゃん。この日まで私もたくさん身体を休められたし、みんなも出来ることをやってきた。きっと大丈夫だよ」

「高嶋さん…」

「私たちは、戦える。人間は、あんな奴には負けない!!」

 

友奈の言葉に他の者たちも頷く。そんな友奈の言葉に千景もまた笑みを返した。

 

「そうね…今までだって…それに…あの人も…きっと…」

 

同じことを言うだろうなと頭の中で想像していると、レイチェルが転移してきた。

 

「レイチェル!?城にいたんじゃ!?」

「済まないわね、若葉。でもこの場所の方がやりやすいから来たのよ」

「何を?」

「香川の防衛よ」

 

その言葉にヴァルケンハインも思わず口出ししてしまった。

 

「まさかレイチェル様ご自身が?」

「良いのよ、ヴァルケンハイン。こうなってしまった以上今回は…表舞台に立たせてもらうわ」

「でも大丈夫なのか?レイチェルが戦う姿はあまり想像出来ないが…」

「…あの中でまだ抗っているであろうお馬鹿さんくらいには、戦えるわ。後ろは私に任せて、杏は他の皆の指示に集中なさい」

「は、はい!」

「そういうことなら…任せたぞ、レイチェル!!」

「ええ」

 

そうして少女たちは怪物を見据える。対してあちら側は自分たちが視界に入ると、こちらに向かって直進した。若葉は刀を抜き放ち、喉が張り裂けんばかりの声で号令を挙げる。

 

「勇者たちよ!!!私に続け!!!」

『おおッ!!!!!』

 

精霊の名を叫びながら勇者たちは前進する。とうとう人類と獣の戦いの幕は切って落とされた。




取り敢えずBGM:Six Herosでお願いしますと言いたいラスト。黒き獣は壁ぶち抜いたけど。

次回遂に若葉達、西暦勇者たちと黒き獣が激突!!それではまた。

The wheel of fate is turning…Rebel1…Action‼
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