蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

クリスマスという名のノエルの誕生日に遅れて投稿です。色々考えると中々筆が進まない…誰か筆力をおくれ…

最近の良いことはゆゆゆいで紫勇者が増えてきたことですね。これで何とか黄色ダンジョンの負担がぐんと減る。

さて今回は黒き獣との第2ラウンド!!それでは

The wheel of fate is turning...Rebel2...Action!!


Rebel83.黒き獣、侵攻

雄叫びを轟かせながら全身黒のバーテックスは香川の海を突き進む。肉の切れ目のような場所や口から瘴気が微かに漏れ出す。対峙する勇者たちを優に超える巨体は嫌でも目立った。

 

「おぉぉぉぉ!!!」

 

その怪物、黒き獣に先手を取ったのは乃木若葉だった。義経が憑いたたことで得たスピードで一太刀を浴びせ、そこから瘴気が飛び出るとすぐに後退した。以前戦った時よりかは回復する速度は落ちていたが、それでも身体の力が抜け落ちる感覚は健在だった。

 

獣の周りを勇者たちは旋回しながら攻撃の機会を窺っていた。隙が生じれば攻撃し、その後すぐに退却する。小回りと機動力で勝る勇者が勝つにはヒットアンドアウェイに徹する他なかった。

 

だが並みの攻撃では獣は倒れず、すぐさま傷は再生する。それを見て千景は舌打ちした。

 

「ただでさえ攻撃が効いているか分からないのにエネルギー吸収能力までなんて…反則も良いところだわ…」

 

義経による超加速の斬撃でも獣は怯まない。そうしている間に首はそれぞれの勇者たちに襲いかかった。

 

神樹は根を張って足場を作ってくれているが、それも獣が触れるたびにあっさりと炭のように灰色へと変色していく。こんな敵を樹海に入れては被害も甚大になるだろう。

 

「千回連続…勇者パーンチ!!!」

 

瘴気の薄い部分に友奈が鉄拳を喰らわせると、獣は呻く。殴られた場所も再生が上手く行き届いていないか、ポロポロと少し崩れているようだった。

 

友奈の手甲に宿る霊力は『(あま)逆手(さかて)』。地の神の王子が死に際に放った天津神に対する呪詛だ。故にその拳は天から来襲したバーテックスに対して無類の力を誇る。

 

怪物が自身の傷を見るや否や、友奈に攻撃対象を移した。それまでバラバラに戦っていた頭は全て彼女の方へと向かう。ここで彼女を排除すれば、後は碌な打点のない者たちだけだ。

 

「そうはさせない!!」

 

それを黙って見過ごすことを千景は許さない。七人の分身と共に首の半数に攻撃を仕掛ける。大鎌は獣の肉に深く刺さり、それを抉り取った。

 

獣はそれが気に食わなかったのだろう。七人のうち、二人の千景をその顎で捕らえた。そのまま一瞬で分身はバラバラになっていった。

 

自分と同じ姿のものが怪物に食べられるところを見て、千景は全身にただならぬ悪寒を感じたが、一先ずは友奈の救出を優先した。

 

「高嶋さん…大丈夫だった?」

「ぐんちゃんのお陰で助かったよ」

 

今の友奈が身に宿している精霊は一目連である。戦う前から他の勇者たちと相談した結果、酒呑童子の危険性を考慮して使わないようにとのことだ。

 

それでも必要になるなら彼女はそのカードを切るだろう。千景にはそれが分かっていた。だから友奈の負担を減らすためにも獣にダメージを与えたいが、中々そう上手くはいかない。

 

敵も二人に食いかかろうとしたが、突如バランスを崩してしまう。その足元の海では渦潮が発生していて、獣の身体を絡め取っていた。

 

「これは…棗さんか!」

「海の中で戦うって言っていたけど…こんなことも出来たのね」

 

棗は今、水中で黒き獣から距離を離しつつヌンチャクを振るっていた。手足や耳には魚のヒレのような装飾があり、実に泳ぎやすい恰好だ。

 

(力を貸してもらうぞ、『水虎(すいこ)』!)

 

彼女の身に宿る精霊は水虎。海や河に生息すると言われている妖怪。河童と混同されて認識されているが、体格は段違いで人も進んで襲う。

 

そんな水の怪異の力を得たことで今の棗にとって海中は陸上よりも戦いやすい場所となった。ヌンチャクを振る度に海流が発生し、それに呑まれた獣は身動きが取れない。

 

それに逆らおうと獣も力の限り暴れる。しかしそれを勇者たちは許さない。

 

「そんなに暴れないで、ちょ!!」

 

遠くから援護している者のうち、その身を毛皮のマントに包んだ雪花は獣に向けて槍を投げ込んでいく。獣も首を捻ったりしてそれを弾き落とすが、落とされた槍はミサイルのように獣の肉の切れ目や眼へ向かって刺さっていく。

 

「今日の私は『ツイてる』からね。槍を落としたくらいじゃ安心するのは早いよん」

 

現在の彼女に憑いている精霊は「コシンプ」。人に取り付いて悪事を成す北国の精霊。しかしモノによっては善い個体も存在し、気に入った者を良い運命へと導くとか。

 

そのおかげか、今の雪花の槍は百発百中である。それも悉くが瘴気の漏れる場所だから勇者たちもより安全に立ち回ることができる。

 

「そのまま…動かないで!!」

 

そこへ杏も加勢する。雪女郎の起こす猛吹雪は獣の首の何本かを押し返していく。因みに海に潜ったことで棗はある程度寒さを克服することができた。

 

他の首は自分たちを邪魔する少女に喰らい付こうとしてもそこをレイチェルとヴァルケンハイン、歌野が牽制する。

 

「『テンペスト・ダリア』!!!」

「『シュツルム・ヴォルフ』!!!」

「『パンプキンストライク』!!!」

 

呼び起こされた嵐は津波と巻き上げられた岩石や船をぶつけ、その間を縫うように覚を宿した歌野と彼女のことをよく理解しているヴァルケンハインが移動して攻撃する。

 

獣はどうにかその攻撃を耐えるが、そこへ追い討ちのように上空から若葉と千景、そしてレイチェルの発生させた波と風で勢いの増した棗と友奈が攻撃に転じた。

 

「飛閃緋那汰!!!」

「『幽世煉獄大鎌』!!!」

「『熱血!!勇者パーンチ』!!!」

「『天水乱流撃』!!!」

「グァァァァ!!!?」

 

どんどん攻撃を叩き込まれた獣は首を振って少女たちを追い払い、忌々しそうにそれを見る。自分が圧倒的に有利なはずなのにいつまで経っても目障りな人間たちは壊れない。

 

ならば次は別の場所へ進んで彼女たちの動揺を誘うべきかと考えて獣は大社の方を見る。そこからは強い力を感じ取ることができた。恐らく神樹の本体はあそこなのだろう。

 

しかし同時に嫌な気配も感じ取った。近づいていくほど自分の力が落ちていく感覚だ。

 

「敵は大社の方を見ても行こうとはしないようね…」

「ヒナちゃんがいるから安心だね!!」

 

それを見て少女たちは笑っている。それが黒き獣の気に触れたようだ。咆哮を上げると自分が作った穴から星屑たちが入ってくる。

 

「これは宜しくありませんな。彼奴等、大社の方へと向かっておられます」

「これほど手の掛かる敵を相手にしながら増援まで来るのか…厄介だな…」

 

圧倒的な数で大社へと特攻を仕掛ける星屑たちを見て勇者たちは焦る。その時に彼らの前に先ほどまで後ろにいたレイチェルが転移していた。

 

突然の出現に星屑たちも動揺して一度止まるが、ゆっくりと彼女を包囲していく。奇しくもそれは以前の若葉が取られた戦術とほぼ同様なものだった。

 

「レイチェル!」

 

若葉はそれを見て彼女の方へと駆けつけようとするが、レイチェルは手を挙げてそれを制する。

 

「心配はいらないわ。貴女たちはあの獣の相手をなさい」

「でもお前が危険だろ!?すぐに助けに向かう!!」

「貴女も頑固ね。まあ、見ていなさい」

 

そう言ってレイチェルはその場で浮遊したまま目を閉じる。それを好機と見た星屑たちは一気に飛びかかった。人形のような彼女に星屑たちの鋭利な歯が食い込もうとした。

 

「消えて…」

 

しかし、噛み付く直前にレイチェルの下から薔薇を彩った巨大で赤い方陣が出現する。光の柱に捕らえられたバーテックスたちは身動きが取れず、徐々に空へと上がっていく。

 

方陣から茨と鉄格子が出現し、そこから石造りの十字架が出てきた。それは大社への進路を塞ぐように建っていた。

 

そこへレイチェルは溜め込んだ力を一気に解放する。特大の稲妻は大量の星屑を焼き切り、爆砕させた。

 

「『クラウニッシュ・カレンデュラ』!!!」

 

雷鳴と同時に十字架から無数の薔薇の花びらが舞う。星屑たちの成れの果ては燃えながら海の中へと落ちていった。

 

それを呆然と見ている他の星屑に対してレイチェルは見下ろすように見ながら罵った。

 

「…この先には大社(あそこ)だけでなく、『丸亀城(私たちの城)』もあるの。そこへ土足で踏み荒らすようなら、それ相応の対価を支払うことになるわ。それでも来るなら…掛かってらっしゃい」

 

微塵の容赦を見せない紅い瞳は星屑たちを射抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《何で…》

 

外の様子を見ていた御魂は苛立ちを隠せずにいた。繰り出す手の内がどれもこれも対策されてばかりだ。

 

《何で…何で壊れないの!?あれだけやってるのに!!》

「…テメェじゃあ分からねえだろうよ」

 

後ろで倒れているラグナが呟いた。その方へと御魂は振り返る。

 

「アイツらにはな…守らなきゃあならねえモンがあんだよ…テメェが相手だろうと、負けられねえ理由があるんだよ!!」

 

それは神世紀の頃から変わっていない。元は殺伐とした世界で生きていたラグナにとって、何気ない日常を守るために戦う彼女たちが眩しく見えることもあった。

 

《……ふざけるな》

 

今まで格下だと思っていた少女たちに御魂は怒りを露わにする。そして何より目の前の男の口から彼女たちの話が出てくるのが納得できない。

 

《ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁ!!!》

「のわっ!?」

《嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!!!あんな奴ら、大嫌い!!!弱くて不完全な存在のくせに!!抗ったところで無駄なのにしぶとく立ち上がって!!》

 

壊れた機械のように御魂は勇者たちへの罵詈雑言を繰り返す。感情の起伏で剣が乱れ飛ぶ。それに応じて黒き獣が暴れ出したことで足場が揺れ動く。

 

《消えろ!!消えろ!!アンタたちなんて、消えちゃえぇぇぇぇ!!!》

 

それを見て力を振り絞って服を破きながらも剣の拘束から脱出したラグナは御魂の方へと駆けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、気をつけて下さい!!敵の様子に変化が!!」

 

杏が叫んだ瞬間、敵はなりふり構わず暴れ狂い始める。吠え続けながら無理やり首を振り回して自身の周囲の根を破壊し、躰から猛毒の瘴気を撒き散らしていった。

 

壊れた根は街の方へ飛び、家屋に突き刺さっていく。瘴気が落下した場所は溶けていき、やがてタールの池のように黒い池を作った。それによって汚染は更に広がった。しかし、獣が取った行動はそれだけではなかった。

 

「アイツ…まさか強引に街の方へ行こうとしているのか!!?」

「あっちには大社が無いのよ!?何で!!?」

「歌野!!」

「…理由は無いわ。アレはただ、ディストラクションのために、行動しているみたい。入ってくる情報はそれだけよ」

 

歌野は切り札、覚りを使うことで敵や味方の動きの情報を読むことが出来るが、それだって今の黒き獣の溢れるばかりの破壊衝動で遮られている。いや、もう理性的に行動しているわけではないから読もうにもただ、壊すという一つの理念で動いているのやもしれない。

 

「レイチェルちゃんは!?」

「ダメだ!!今あそこから離れたら、今度は星屑たちが大社へ行ってしまう!!」

 

ここぞとばかりに雪崩れ込んできた星屑たちをレイチェルはほぼ単独で戦っている。何とかヴァルケンハインや雪花が助けに向かったが、今広範囲の攻撃が出来る彼女がそこから離脱してしまうと大社の防御が疎かになってしまう。

 

「貴様…それ以上そっちへ行くなぁぁ!!」

 

若葉たちも決死の思いで敵に攻撃する。だがそれでもなお獣は大暴れする。切られようが撃たれようが殴られようが止まる事がない。街の建物を根こそぎ破壊し、行く道全てを瘴気で犯していく。

 

絶望的な状況の中、獣の振るう首は遂に若葉に命中した。同じように吹き飛ばされた彼女はビルを突き破って地面と激突した。

 

「若葉!!」

「乃木さん…まさかあれで…!!」

「…こうなったら!!」

 

黒き獣が街を横切って人がいる場所へ向かう様子を見て友奈は覚悟を決める。一目連を解除すると意識を集中するのに目を瞑った。それを見て千景が思わず叫んだ。

 

「高嶋さん、それを使ったらまた身体が!!!」

 

事実変身中の友奈は反動のせいか、少し苦しそうだった。それでも友奈は倒れなかった。

 

「絶対に…ここは通さない!!ここに住んでいた人たちのためにも!!待ってくれている皆のためにも!!ここで頑張ってる皆のためにも!!!」

 

赤い角の髪飾りに大きく肥大した手甲が浮かび上がる。鬼王の気迫を纏った彼女は正面から黒き獣へ突撃した。

 

「勇者〜…パーーーーンチ!!!!」

 

渾身の一撃は獣の頭の内一つの顎を捉え、抉り取るように引きちぎった。もげた頭は落下と同時に霧散していき、頭の一つを失った怪物は悲鳴を上げる。

 

「もう一回ぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

確かな手応えを感じると友奈はもう一撃鉄拳を振り下ろす。今度は敵の胴にめり込んでいく。呪詛に当てられた獣は目に見えて弱り始める。だがその衝撃のせいか、自身の手甲にも亀裂が走った。友奈の腕から血も噴き出てくる。

 

「友奈さん、それ以上は!!!」

「まだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

それでももう一発拳を叩き込んでいく。負けるものかと獣も嚙みつくのに彼女を迎え撃つ。

 

友奈の拳は獣の鼻頭を潰すように入り込むと、首が爆散した。しかし獣の突進を殺し切る事が出来ず、友奈は後ろへと吹き飛んだ。

 

「かはっ…」

「高嶋さん!!!」

 

また一人が追い払われ、黒き獣は侵攻を再開しようとした。その前に地面に倒れている友奈を見つける。血を吐いていてまともに立つことも出来ないが、獣は彼女の方へと数本の頭を近づけていく。

 

この少女の攻撃は特に自分に効いている。そう感じた獣は一刻も早く障害を排除しなければならない。そのために獣はその大顎を開ける。柔らかい肉を喰い千切れる牙が今にも迫りそうだった。

 

「退いて!!退きなさい!!」

「友奈さん!!」

 

冷気を浴びてもすぐに溶け、並みの斬撃や打撃もすぐさま再生する。友奈によって消し飛んだ首も少しずつだが、再生し始めた。友奈の方を見る獣を見て、千景は先ほど喰われた自分の分身を思い出した。

 

(早くアイツを倒さないと…殺さないと、今度は高嶋さんが!!)

 

不安は獣の瘴気の如く溢れ出す。それが的中しないように大鎌を振るうが、どんなに攻撃しても友奈の元へ進めない。まさに無限の闇である。

 

意識が朦朧とする中、友奈は獣と目が合う。それは殺意と破壊衝動に満ちた眼だった。

 

(…身体が…動か…ない)

 

いざ命の危険が迫ると今まで蓋をしてきたものが徐々に溢れ出ていく感覚が彼女を襲う。起き上がろうとするが、身体に力が入らない。どうしようもない状態だった。

 

(ごめん、皆…ぐんちゃん…ラグナ…)

「嫌ぁぁぁッ!!!!」

 

終わりが来たと思って友奈は目を閉じた。それを見て獣は邪悪に笑う。そして友奈に喰らい付かんと飛び付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぁぁぁぁ!!!!」

《うぁッ!!?》

 

大剣でラグナは一心不乱に御魂に切り掛かる。途中でソードサマナーの剣も刺さっていくが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 

《何で!?何でまだ分かってくれないの、ラグナ!?アイツらを助けたって何にもならないのに!?だったら壊した方が何倍も良いよ!!》

「そっちこそふざけんじゃねえ!!テメェが今『ぶっ壊そうとしてるモン』はアイツらの、『俺』にとっちゃ『大事なモン』なんだよ!!ンなこと聞いて、黙ってられるわけねえだろうが!!!」

 

御魂に向かって怒鳴るラグナは死力を持って大剣を振るう。

 

「インフェルノディバイダー!!!」

《あぁッ!!》

 

怯んだ敵に次はナイトメアエッジで叩き斬ろうとするが、その前に御魂も反撃をしてきた。

 

《『クレセントセイバー』!》

「チッ!!」

 

瞬時に生じた刃はラグナの大剣とぶつかり合う。浮遊の出来る御魂は剣を飛ばしてくるが、それも全部ラグナが空中で叩き落としていく。着地するやすぐさま拳に黒炎を纏わせて殴りかかった。

 

「ガントレットハーデス!!!」

《グッ、痛いよ!!》

 

攻撃を受けて御魂は地面に倒れる。それを追ってラグナも殴りかかろうと突進する。伸ばした手は以前よりも禍々しい姿になっていた。彼の感情の昂りで右腕から漏れる瘴気は余計に濃くなっている証拠だ。

 

「ヘルズファング!!!」

《『アクトパルサー』!》

 

パンチは見事に御魂の顔面に直撃したが、彼女も高速で後ろへ下がり、衝撃を殺す。距離が空くと御魂は広がった8枚の刃が描かれた赤い方陣を展開する。

 

《『レガシーエッジ』!!》

 

そこから無数の刃が弾幕のように放たれた。射線上にいたラグナは避ける前に防御に徹する。どれも速すぎてとても避けられるものではなかった。

 

《これで終わりだよ…ラグナ…》

 

そう言うと御魂は手を宙に翳し、機械のように淡々と何かのコードを口にする。

 

《我が魂の帰する場所にて根源に生まれ出でし剣よ、全てを無に帰する刃を我が前に示せ》

 

8枚のペタルが円状に広がり、光は巨大な方陣を形成する。そこから出てきたのは野太い一本の剣。御魂は手を前に振る。

 

《『滅びの剣』–––滅べ》

「クッ…オォッ!!!」

 

剣の嵐を突破しようとラグナは突っ込んだが、巨剣は無情にもラグナのいる方へと振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友奈がいくら待っても何も起きることはなかった。ゆっくりと目を開けると自分の視界に入ってきたのは木の板のようなものだった。それを見たからなのか、他の勇者たちも驚嘆の声を上げる。

 

「アレって…まさか!!」

「そのまさかだ!!」

 

声の方角へ真っ先に杏が振り向く。そこには小さいながらも頼りになる人影があった。それを見て杏の目頭が熱くなった。

 

「待たせたなあんず!!皆!!タマは帰ってきたぞ!!」

「タマっち先輩!!!」

「タマちゃん!?でもどうして!?旋刃盤はまだ直ってなかったのに!!?」

「壁が壊れてから一気に直ってさ!神樹様が融通を利かしたんだろ!!それより千景!!ここはタマが抑えるから友奈を頼んだぞ!!」

「ええ!!」

 

切り札の輪入道を発動したときの球子の旋刃盤は人が数人乗れるほどの大きさになる。それが今黒き獣を押し留めていた。その間に千景は急いで友奈を連れて他の勇者たちと合流する。しかし旋刃盤にも瘴気による侵食が起こり、球子も押され始めた。

 

「くう〜…何とか一発ぐらいお見舞いしたいってとこだけどな!!」

 

助けに入ったは良いものの、邪魔されて怒り狂う獣に球子は心底参っているようだった。それと同時に瓦礫から火柱が立つ。天をも焦がしそうなそれを見て獣が驚く。刹那。

 

「グゥゥゥゥァァァァ!!!!?」

 

大きく仰け反って後退し始めた。ガクガクとぎこちなく動きながら慟哭を上げる。何が起こったのかは少女たちでも分からなかった。分かるのは今、獣の躰は燃え盛っており、その首元の中心にある股が大きく裂かれていることだけだった。

 

「ふぅ…今のは頭が揺れたな…我ながらよく気絶しなかったものだ」

「乃木さん!!」

 

獣よりも高い場所では黒い法衣に身を包み、背中に翼を生やした若葉が佇んでいた。手に握っていた生太刀はこれまでよりも長い大太刀となり、身体の周りでは火の粉が飛び散っていた。

 

「済まなかったな、皆!!少し寝ていた!!」

「こんな状況で少し寝ていた、ではないでしょ!?本当、心臓に悪いわ!!」

「あはは…ぐんちゃん、若葉ちゃんが吹っ飛んだのを見て心配してたもんね」

「そ、そんなこと…!?」

「それより皆、あのビーストはウェイトする気が無いみたいよ」

 

目の前の怪物は傷つきながらも彼女たちを潰したくて仕方がないようで、口より瘴気を垂らしている。棗は見上げながら若葉の姿が変わったことについて指摘した。

 

「若葉、その姿…」

「…一週間の鍛錬も無駄にはならなかったみたいですね」

「でも良くこれだけ早く身につけられたわね。私たちはまだなのに…」

「そう言うな。身についたと言っても殆ど突貫工事みたいなものでまだ不完全なものだ」

 

この一週間、勇者たちは避難活動と同時に訓練に打ち込んでいたが、大社の方も戦闘になった時の苦肉の対策を取っていた。その内の一つが若葉の今身につけている精霊だった。

 

黒き獣と対峙する若葉は呼吸を整える。これを使った以上は自分は友奈と同じレベルの反動が来ることを覚悟するしかない。

 

(だが、この逆境でも…お前ならば諦めないだろ、ラグナ?)

 

目の前の怪物に対して静かに問いかける。しかしその身の周りの炎は少しずつ勢いを増していく。対する獣は唸り声をあげるのみだった。

 

「黒き獣よ…これ以上、貴様には何も壊させはしない…奪わせたりはしない」

 

ゆっくりと息を吐いて、敵を睨み、

 

「ここより先には多くの人民が暮らしている…いや、ここにも、ここで生きていた人々の大事なものがあった… それを…破壊した罪は…重い。ここで、その報いを受けろ!!」

 

そう言葉を続ける若葉の周りでは火が強くなっていき、刀の刃先を敵に向ける。若葉は身に宿る精霊の名を叫んで再戦の狼煙を上げた。

 

()くぞ、『大天狗(だいてんぐ)』!!!」




ちょっと前倒しだけど若葉ちゃん、早くも大天狗を使うことになりました。黒き獣なら恐らく6体の完成体に匹敵する筈ですからね。

次回の更新、年内行けるかなぁ…無理かなぁ…頑張ってみますが、出せなかったらすみません。

そして次回は黒き獣との戦い後半戦!!それではまた。
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