蒼の男は死神である   作:勝石

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どうも勝石です。

新年明けましておめでとうございます。一月は忙しいのですが、とうとう書きたかった部分に入ってきた。どうすりゃあ良いんだ。

さて、今回は黒き獣との決着!!それではどうぞ

The wheel of fate is turning...Rebel3...Action!!


Rebel84.想いの力

大社の外で巫女装束を着たひなたと水都は大社にあるシェルターで他の巫女たちや神官たちと一緒にいた。戦場から遠い場所であるこの場所でも戦いの喧騒が聞こえてくる。

 

黒き獣がここに来ることはない。しかし普通のバーテックスであれば可能である。それもレイチェルの防御のおかげでどうにかなっているが、破られればここにいる者たちではどうすることもできない。二人に向かって真鈴がやってくる。

 

「上里ちゃん、藤森ちゃん。ここにいたんだね」

「安芸さんも、御無事で何よりです」

「まあね、でもここ最近はあちこち大騒ぎだよ。あの真っ黒い怪物が来てからね」

「…そうですね。アレが現れてから四国の混乱は酷いものです」

「…天恐患者にも酷い影響が出てるって。酷い場所だと…何でもなかった人から一気にステージ4になった人も…いたって…既になってる人の中には…」

 

そこまで言って真鈴の顔に暗い陰が落ちる。彼女には弟がいて、天恐を患っているらしい。大社が殆どの巫女を一箇所に集めている関係上、親族との接触も極稀で、自分から会いに行くことも難しい。そもそも天恐のせいで彼は外に出ることが出来ない。

 

「…ねえ、二人とも」

「はい。どうしました?」

「何で…神様ってこんなことしたのかな…私たち、そんなに悪いことしたのかな?」

 

それを言われてひなたは伊勢で見た研究施設とレリウス=クローバーのことを思い出す。あの場所にあった研究は大社から見れば神域を侵すものだった。神が怒る理由としては考えられるものだろう。

 

あの男ははっきりと言った。真理に辿り着くためならば良心など必要ない、と。直接は対面してはいないが、あの実験所にいた者たちも彼と同じような人種だったのだろうか。それを確かめる手段はない。

 

「…それは私でも分かりません」

「…そうだよね。理由があるなら、言って欲しいくらいだよ」

 

真鈴はそう言ったが、それをここで言うわけにはいかない。神を自在に操ろうとした者がいたなどと知られれば、大社は勿論、四国はこれまで以上に混沌とした状況になる。

 

「上里ちゃん。その赤コート、この前直してたやつだよね」

「はい。ラグナさんのコートです」

「そっか…ラグナ君の…」

 

ラグナのコートは今、ひなたが持っている。丸亀城に置いていくより彼女に預けた方が良いと判断された。

 

「安芸さん…やっぱり休んだ方が良いですよ。顔色があまり良くないみたいですし」

「…そうね。でも伊予島ちゃんは今アレと戦っているし、球子も旋刃盤が直ったらすぐに飛び出しちゃったし…正直、あんなことがあった後だと…やっぱ不安だよ…」

 

三人は自分たちの安全でなくなることよりも今最も危険な場所で命がけ戦っている友を想っていた。その友たちはいつも今ある世界を守るために戦い、ボロボロになって帰ってくる。中には直接会えない者もいる。

 

それを見ると、巫女たちはいつも心を痛める。こうしてただ待つことがもどかしく感じる。でも今回はそれだけではなかった。

 

「…でも、きっと大丈夫ですよ」

「どうして?」

「若葉ちゃんたちもラグナさんも必ず戻ってくると言っていましたから。だったらきっとそうしてくれるのだと思います」

「それって、幼馴染みの勘ってやつ?あ、でもラグナ君たちは違うか」

「いえ、どちらも違います。でも、信じているんです。皆さんなら、きっと大丈夫だと」

 

それに自分は勇者と共に行動する巫女であると同時に、乃木若葉の一番の親友だ。その言葉を信じずに何を信じるんだというのだ。

 

「信じる…か」

 

その言葉に真鈴は何処か考えていると水都も話し始めた

 

「…きっと…祈れば、想いは届く筈です。それが、皆の力になると思います」

「…そうだね。そうすれば、神樹様も守って下さるよね」

 

巫女たちは目を閉じて友の無事を祈った。ラグナのコートを持ちながら祈りを捧げるひなたの手に力が籠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ…くそがッ…」

 

何とか剣を回避したラグナだが、既に満身創痍で地面に倒れていた。対する御魂は宙に浮きながら彼を嘲笑していた。

 

《キャハハハハ!!!無駄無駄!!!無駄なんだよ、ラグナ!!何も変わらない何も変えられない何も助けられない何も守れない何をしようと無駄なんだよ!!!》

 

止まることなくそう言った彼女の言葉にラグナの頭の中で今までの出来事が反芻する。これまで自分はこの力を使い、この世界での仲間たちを守ってきたつもりだ。

 

しかし、神世紀のあの時の暴走が取り返しのつかない失敗を生んだことはまだ何処かで心に引っかかっていた。だからこの状況でも蒼の魔道書を使うことを躊躇ってしまう。

 

(…情けねえな…俺は…どうしても…目覚めたあの日の記憶がチラついちまう…)

 

御霊の言う通りだ。まだ自分は恐れている。アレを繰り返すことを恐れている。再び大事だった日常が、人々が、自分の手で滅茶苦茶になることを恐れている。

 

しかし使わなければ、この敵を倒すことは出来ない。皆の日常を守れない。

 

そんな時に空間が大きく揺れた。ラグナはそこへ視線を移すとそこには大天狗を憑依させ、空を自由自在に飛び回る若葉だった。

 

(何だ、アレは…ワカバの新しい力、か?)

 

身体に火傷を負わせる灼熱の炎を纏い、襲いかかる獣の首を切り飛ばしていく彼女の姿は友奈の酒呑童子を彷彿させるものだった。だがそれならば若葉とて精霊の危険性を理解している筈だ。

 

それでも使った、ということは彼女なりに覚悟し、その上で使ったということだろう。そして何より今の若葉には以前のような危うさはまだ見られない。

 

《こいつ…さっき壊した筈なのに、また出てきた!》

 

御魂は空を翔ける若葉を苛ついた様子で見ながら他も見る。そこでは精霊の反動で手甲がボロボロになった友奈や応急処置をしている杏、一生懸命獣を押さえようとしている球子や千景、歌野に棗、更には大社に向かう経路を塞ぐレイチェルやヴァルケンハインに雪花もいた。

 

(ウサギ…『あっち』じゃあ傍観者のテメェが本当に表舞台でアイツらと戦ってくれるなんてな…)

 

これも勇者たちの人柄のおかげか、と考えていると今度は声が聞こえて来た。聞き覚えのある、巫女二人の声だ。

 

『神樹様…どうか皆さんが無事に帰って来れますよう、御守り下さい…お願いします』

『うたのん…皆…きっと勝つって信じてるよ…』

 

2人の『願望(祈り)』を聞いた以上、倒れたままではいられない。ラグナは決意した。

 

御魂が声を疑問に思っている内にボロボロの身体に鞭を撃って立ち上がり、腕に力を入れる。それを見て御魂は歓喜した。

 

《あー!!ラグナ、やっと本気になってくれたんだね!!私と殺し合うために!!私と一つになるために!!!》

「…おい、テメェ」

 

ラグナは御魂に一つ質問をした。

 

「何故アイツ…ニューが俺と一つになりたいだの言ってたのか、知ってるか?」

《知ってるよ〜!!ラグナと一緒に世界を壊すためだよね!!延々と壊し続けるために!!》

「ああ、そうだ。人間も…神も…世界も全て壊す。俺と共にだ」

《そう!!だから私はラグナと一つになるんだよ!!さあ早く、ね?》

 

舞い上がる御魂の言葉を余所にラグナは言った。

 

「…それは出来ねえよ。テメェはニューじゃねえ。違う存在だ。だからアンタじゃあ俺と一つにはなれねえよ」

《どうして?ラグナだってこんな世界大っ嫌いでしょ〜?自分を苦しめるこんな世界、嫌で嫌で仕方がないでしょ?私には分かるよ!だって私とラグナは!》

「同じだってか?そいつは違えな。何故なら…」

 

ラグナは一呼吸を置いてから言った。

 

「それは『ニューとかつての俺の願望(ゆめ)』だからだ。それも『俺』がアイツから持っていったものだ。そもそも、そんなに俺と一つになりたかったんだったらテメェは他の連中なんざに眼を配らねえはずだ。ここにいるのは俺とテメェだけだからな。アイツだったら俺を観測()たら真っ先に殺しに来るぜ?」

《それが何か問題あるの?》

「大有りだ。俺は…テメェを、テメェの本質を観測()ていなかった」

《…意味わかんないんだけどどうゆうこと?》

「…さっきのテメェの言葉は、正しかった。俺は…また過ちを繰り返すことが…怖え…また化け物になって、世界を破壊して、アイツらまで壊しちまうのが怖くて仕方ねえ」

 

その言葉を御魂は何も言わずに静かに聞いていた。ラグナにとってニューそのものが恐怖の対象ではない。自分が黒き獣になる条件が最も整った状態で力を使うことが問題だったのだ。

 

「だが…だからこそ、俺はテメェから眼を逸らしちゃあならねえ!この眼で、恐怖(テメェ)観測()なきゃならねえ!!」

《…つまり?》

「俺は、『俺自身(テメェ)』に、打ち勝って…アイツらを助けてみせるってことだ!!」

《…何それ、つまんない》

「知るかよ。俺にとっちゃこっちの方が大事なことなんだ…そういやテメェ、散々『コイツ』を使えってせがんでたよな?」

《それがどうかしたの?》

 

一気に冷たい雰囲気になっていく御魂に対してラグナは不敵に笑いながら力強く叫んだ。

 

「だったら見せてやるよ…『蒼』の力をな!!」

 

その掛け声と共にラグナの右腕へ瘴気が集まっていく。ラグナも一度顔を歪ませるが、目に秘めた力は衰えを見せない。

 

「第666拘束機関解放!!次元干渉虚数方陣展開!!イデア機関接続!!」

 

戦う意思を見せる彼に御魂もペタルを展開する。最後にラグナは魔道書のスイッチを入れる言葉を言い放った。

 

蒼の魔道書(ブレイブルー )起動!!!」

 

蒼い光が空間を満たすと同時に再び戦いの幕は降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ!」

「どうしました、水都さん!?」

「今…一瞬だけラグナさんの気配を…感じ取れました!!」

「本当に!?」

「はい…!!」

 

友の気配を捉えたという水都の知らせにひなたたちも喜びを見せる。あの男が生きているなら、他の者たちもきっと大丈夫だ。想いが届いたと感じた一瞬だった。

 

同じ頃、戦っている最中、黒き獣の躰の胸部らしき場所から見えた。

 

「あの光は!」

 

獣の周りで敵を攻撃していた千景はそこから蒼い光が漏れてくるのを見た。他の勇者たちもそれに気づいたようだ。

 

「アレは、あの人が腕を使う時に良く出てくる光!?」

「てことは…ラグナは生きてる!あそこにいるんだ!!」

「そうと分かれば…我々も負けていられないな!!」

 

ラグナの生存を確信した少女たちの攻撃は益々激しいものになっていく。

 

「若葉ちゃん!!私、もう一回だけ攻撃してみる!!」

「いけるのか!?」

「一回なら何とか!!」

「あそこを攻撃すれば、何とかなるかも知れないぞ!!」

「杏!友奈は本当に大丈夫そうなのか!?」

「…一度だけなら大丈夫です!!」

「…分かった!!だったらやろう!!」

 

若葉の号令の元に勇者たちは獣との戦いに終止符を打つべく、攻勢に出る。初めに友奈が獣に向かって一直線に駆ける。

 

獣も友奈を近付かせまいと嚙みつこうとするが、何本かの首は歌野の鞭で締められ、残りは棗の広範囲の打撃で地面に叩き伏せられた。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

渾身の力を乗せて友奈は光のある方に拳をぶつける。今までで一番の攻撃をまともに食らった躰に風穴が開く。友奈の方も殴った衝撃で手甲から嫌な音を立てる。

 

すぐに飛び退くと入れ替わるように七人の千景が穴の方へ突撃する。千景の大鎌は宿った霊力のせいか、赤く揺らぐ光を帯びていた。白いフード付きのローブに身を包んだ彼女はまるで獣の命を刈り取る死神のようだ。

 

「これで…くたばれ!!」

 

1人目の千景が穴のある方を切ると、そこから2人目、3人目と全く同じ場所を切る。決してぶれない精密な攻撃の後、最後の7人目が横薙ぎに力一杯攻撃した。

 

「『冥闇ヲ翔ル鎌刃』!!!」

 

脆くなった穴は更に広がり、そこから獣の核が見えた。獣は何とか傷を再生させて穴を塞ごうと試みる。それを見て離脱しながら千景は声を張り上げる。

 

「伊予島さん!!」

「はい!!」

 

杏も弩を構え、冷気を集中させていく。巨大な矢が形成されると、それを獣の穴へと撃った。

 

「氷河の弓よ、撃ち抜け!『ヘルマン・アンド・ドロテーア』!!!」

 

放たれた矢は獣の傷に命中すると穴は凍りつき、再生することが叶わなくなった。いよいよ持って敵も自分が危険な状態だと分かったのか、逃亡を図ろうとする。しかしそれを球子が許さない。

 

「おっと、逃げられるなんて思うなよ!」

 

旋刃盤に退路を塞がれ獣はとうとう後がなくなった。その時、炎で軌跡を描きながら空へと急上昇する若葉を確認した。せめて奴だけでも道連れにしてやる。そう考えて獣は構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからしばらく経っても、ラグナと御魂は戦っている。しかし、それまでの様子とは全く違う状態になっていた。

 

「オラァッ!!」

《くぅッ!!》

 

それまで劣勢だったラグナは一瞬で戦況を巻き返していた。御魂の攻撃を悉く捻じ伏せ、逆に返り討ちにしていく。それは御魂にとって相当衝撃的だったようだ。

 

どれだけペタルを飛ばそうと、剣を放とうと、刃の付いた足で蹴ったり殴ったりしようと、ラグナは大剣と魔道書の力で応戦する。息は上がっているが、それでも屈する様子を一切見せない。

 

《嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!こんなはずない!!ラグナが…『人』がこんなに強いはずない!!》

「たく。テメェのそれを聞くと、天の神ってのがどんだけ人間が嫌いなのか良く分かるな。何だってそんなに嫌うんだよ?」

《…人は弱く、不完全な存在。だから奪い、憎しみ、争う。果てには禁忌に触れ、万物を統べる力に手を伸ばす『罪』を犯す》

「…確かに一理あるかもな」

 

御魂は更に言葉を続けた。

 

《ねえ、ラグナだってそう思うでしょ?こんな無価値な存在に手を貸す理由がどこにあるの?》

『…私たち人間は…弱い。臆病で、脆くて、そして悪意に落ちやすい』

《!?》

「ワカバ?」

 

突然空間に若葉の声が響く。外の様子を見るに彼女は何かを話している様子はなく、当然ここでのやり取りは外には聞こえたりはしない。なのにここで声が聞こえるのは

 

(これが…正真正銘、アイツ自身の想い、か)

 

ひなたたちと同様、強い想いが境界を通じ、ここまで届いてきた。そうだろうとその言葉を御魂は肯定するが、若葉の言葉は続いた。

 

『だが…同時に人は護るべきもののためならば、無限に強くなれる!!どれだけ傷つこうと護るべき人たちのためならば、巨悪に立ち向かうことが出来る!!』

 

その台詞を聞いて、ラグナは小さく笑った。初めて会った時の小さな子どもとはもう違う。すっかり頼もしくなったと感慨深く感じていた。

 

『それが…弱き人間が、強き貴様らに勝てる理由だ!!!』

 

若葉がそう啖呵を切ると、急降下して獣の核がある場所へと迫る。スピードは音速を超え、肌を焼く炎は蒼白くなっていく。それはまるで惑星をも貫く彗星のようだった。

 

「…これが、アイツらの『可能性()』だ。悪ぃが…こっちもそろそろ決着を着けようぜ!!」

《ッ!!レガシーエッジ!!!》

 

御魂は方陣を展開して剣を飛ばそうとし、ラグナは大剣を大鎌に変形させて方陣に斬撃を繰り返す。

 

攻撃を受ける度に方陣は砕けていき、剣も飛ばせなくなっていく。やがて方陣はガラスのような破砕音と共に消滅。ラグナの攻撃は御魂を直撃する。

 

《がぁぁぁぁ!!?》

「…テメェらの上に会ったら伝えとけ。何が来ようと、俺たちは負けねえってな」

 

力を貯めていく彼の姿は、異形の怪物のそれだった。だが、それでも彼は自身を見失わない。ラグナのとどめの一撃と同時に若葉も大太刀で獣を一刀両断する。

 

「ブラックオンスロート!!!!」

「祈祷緋那汰ぁぁぁ!!!!」

《ぁ◾️ぁあぁ◾️ぁあ◾️ぁあ◾️◾️ぁ◾️◾️◾️◾️!!!!!》

 

ラグナの大鎌の攻撃は御魂の身体を貫き、それによって獣は踠き苦しむ。そこへ若葉の刀は黒き獣に致命傷を負わせた。遂に、黒き獣は、倒された。

 

破壊された御魂は姿を維持させるのに精一杯で、身体がスノーノイズが掛かったように不安定になる。最後に狂気を孕んだ眼を宿しながら御魂は雑音の混じった声で言葉を漏らした。

 

《……ラグ…ナ…私たちは…まだ…諦めてない…からね…》

「…そうかよ」

 

それだけ言うと御魂は元の四角錐へと戻り、砕けた。不安定になった空間から外へと脱出すると、ラグナは久しぶりに外の景色をまともに見れた。

 

街は破壊され、汚染された場所も数多くあった。後ろを振り向くと、そこには躰を霧散させていく黒き獣の骸があった。そして

 

「いたぞ!!ラグナはあそこだ!!」

 

仲間たちは生きていた。1人たりとも欠けることなく、生き残ることが出来た。それを見て一先ず安心したラグナはそのまま気絶した。

 

獣が倒れたことで、大社へ向かっていた星屑たちも撤退していくが、殆どが雪花やレイチェルによって撃墜されていった。取り敢えず窮地を脱することは出来た。

 

「でも…これは勝利というには…あまりにも…」

「そうだな…街が一個機能できなくなってしまった」

「…それでもアレを倒すことが出来たわ。これで、少なくともアレによる被害を食い止めることが出来た…」

「それより、早くラグナや若葉たちをホスピタルへ連れて行かないと!!」

 

長い間、黒き獣の中で戦っていたラグナは勿論、酒呑童子を使ったことで両腕が再びボロボロになった友奈に大天狗の炎で肌が爛れるほどの火傷を負った若葉、そして他の勇者たちもすぐに病院へと運ばれていった。ひなたと水都も彼女たちの帰還を聞き、病院の方へと駆けつけた。

 

こうして、黒き獣と人類の戦いは終焉したのであった。汚染された都市が一つあったり、壁が破壊されたりと甚大な被害は出たものの、事前の準備のお陰で人的被害はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本当に良かった。あの敵が倒すことが出来て…」

 

あれから数日。勇者たち全員が入院している中、千景は夜1人、自分の病室のベッドに寝そべりながら呟いた。

 

戦いの後、あの怪物の死体は神樹様が回収し、あの土地の近くで封印したらしい。今は汚染された街の浄化や壁の修復を行なっているらしいが、まだ終わっていないとのことだ。

 

千景は今回の戦いを振り返る。あの敵は間違いなく危険だった。今度は本当に死ぬ。そう感じた。

 

「…でも、まだアレに近いものが来る…それももうすぐ…」

 

そう。まだ戦いは終わっていない。黒き獣は確かに退けることが出来たが、今度は諏訪を壊滅させたタケミカヅチがいる。前々から聞いてはいたが、今回の黒き獣の強さを目の当たりにして千景は余計に不安に思うようになった。

 

何よりアレは単騎とはいえ、ラグナを一度倒した敵だ。彼に訓練を見てもらっている千景からすれば、自分よりも強いラグナが勝てない相手に自分が勝てるとは思えない。

 

(そもそも…あの人があんな状況でも生きていられるのは魔道書のおかげだし…)

 

果たして自分は生きているだろうか?七人を同時に殺せる可能性のある敵を相手に。それを考えてしまうとどうしてもネガティブに考えてしまう。

 

(…高嶋さんの面会謝絶期間が以前よりも長い…やっぱり無理をしてしまったから…)

 

会いたい。今すぐにでも会いたい。心の拠り所である少女に。だが、今はそれも出来ない。

 

(…あの人たちなら…)

 

一瞬だけ、ラグナやレイチェルを頭に思い浮かんだ。比較的接しやすい上に2人は自分よりも年上だ。他の勇者たちよりかは話しやすいかもしれない。

 

(…でもこんな話を聞いても、困らせちゃうわよね)

 

彼らは強い。どんな困難にぶつかろうと全力で乗り越えていく類の人間だ。それは千景からすれば、とても眩しいものだった。

 

とにかく気を紛らわせようと千景は部屋のテレビの電源を付ける。映ってきたのはニュースだった。

 

「次のニュースです。先日の黒い怪物に関する話題です」

 

あの戦いの映像は全国のテレビで流されており、当然ながら勇者たちの活躍も映っていた。詳しい戦いの状況が説明されていく。

 

(そうよね…あれだけ頑張ったんだもの…皆…喜んでくれるはず…)

 

そう思いながらテレビを見ていた千景の淡い期待はすぐに裏切られた。

 

出てきた建物は大社本庁。そこでは群衆が看板を持ち、大声で騒いでいた。怒りや憤りの篭ったものが多かった。

 

「全然俺たちを守れてねえじゃねえかよ、勇者!!」

「もうあそこには住めねえぞ!!どうしてくれるんだ!!」

「ガキのお守りに俺たちの税金使ってじゃねえぞコラァ!!」

「役立たず!!!」

 

それ以上は聞きたくなかった。気づけばテレビのリモコンを画面に投げつけ、液晶を破壊していた。テレビは映らなくなったが、あの声が耳から離れてくれない。

 

(どうして…何で…あんなに…頑張ったのに…死ぬかもしれなかったのに!!?)

 

受け入れがたい事実に千景は過呼吸を起こす。パニックになり、震える手で端末を操作して勇者に関するネット掲示板を閲覧する。そこには勇者を称賛する書き込みがあったが、やはりテレビに映っていた人々と同じように、勇者を貶す内容も多々あった。

 

(こいつらは…勇者(私たち)を『否定』した…)

 

獣が自分の分身を噛み砕く光景がフラッシュバックする。戦う度に傷ついていく仲間たちを思い出していく。

 

その時、千景は見つけた。見つけてしまった。

 

『何か獣を倒した時のフォトがあるけど、こいつをどう思う?』

『ちょー悪人面』

『こいつ、戦ってたの?』

『いや、勇者って女子だけだろ?巻き込まれたんじゃね?』

『こいつ、バーテックス』

『マジか、晒そうぜ』

 

そこには丁度黒き獣から出てきたばかりの、恐らく最も危険な目に遭っていであろう人物が写っており、好き放題に書かれていた。いつもなら赤コートを着ているあの男だ。

 

今日の夜は月の光もない。弱り、傷ついた人の心など、簡単に喰らってしまうほどの真っ暗闇だ。画面を見つめていた千景の魂の中で不気味な黒が疼いた。




とうとう黒き獣は倒されました。ただし、万事OKではない。

若葉ちゃんのラストアタックですが、これはセリカ(というよりミネルヴァ)のアストラルヒートを意識した描写となっています。絶対見映え良いぞ、ゲームに出したら。ゆゆゆいスタッフ、まだですか?

さて次回は…うん。しばらくは恐らくのわゆ読者のトラウマになったであろうぐんちゃんメインの話。それではまた。
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