たかしーの誕生日に合わせて投稿しようとしたけど構成とか色々考えていたら過ぎてしまった。
さて今回から少しずつのわゆでの悲しいパートに入っていきます。それではどうぞ。
今日も勇者たちは樹海の中を駆け巡り、侵入してきた星屑たちを殲滅していく。普通であれば苦戦する必要はない。しかし彼女たちの顔に疲れが見え始めていた。
(アレから…何回戦ってきたのかしら…)
あの戦いから壁に穴が開いたことでバーテックスたちが以前よりも侵入しやすくなっており、今月6月に入ってきてから実に連戦に次ぐ連戦である。そのせいで勇者たちは昼夜問わず戦っている。
これももしこれだけだったら良かったものの、神樹は今黒き獣によって汚染された街を浄化しており、そのせいで力を割く必要があった。そのため、すぐに壁を直すことが出来ずにいた。
そして勇者たちにとって大きな打撃となったのは若葉と友奈の不在である。2人は意識を取り戻しているが、精霊の影響で肉体の損傷が激しく、病院で寝ている。レイチェルとヴァルケンハインも樹海に入れないため、頭数には入れられない。
最後の一匹が屠られる。その時に千景は大鎌を大剣に戻す赤コートのラグナを見る。あの戦いで彼は重症を負っていたが、元々の傷の治りの早さもあってすぐに戦場に出るようになった。
「しかし…今回は侵食される前にどうにかなったな」
「はい…そうですね」
最近になって、迫ってくる星屑たちは樹海を腐食させる力を持つようになった。そのため、勇者たちは必然的に短期決戦を求められた。リーダー込みで2人が不在とはいえ、人数が多い分、切り札を使わない状況も多かったのが幸いだ。それでも使うときは使うが。
「…?どうした、アンズ。俺の顔に何か付いてんのか?」
「いえ…そういう訳では…」
しかし切り札を多く使った者たちから何処か不穏な空気が出てきた。来たばかりの雪花や棗はまだ何ともなさそうだが、不安な気持ちになりやすい杏や千景からは特に顕著だ。
そんな中で球子は殆ど変わっておらず、疲労は見えているものの、歌野も比較的平気そうだった。ラグナに至っては少し前に比べて、何処かすっきりしたように見える。
「どうかしたのか、あんず?」
「あ、ううん…まだ外に完成体がいるのかなって…」
今のところ、スコーピオンや黒き獣に匹敵する敵は出現していない。それは喜ばしいのだが、外の世界で躰を形成しているとも考えられる。
大社は強力な精霊を使う以外の対策を模索しており、そういった発表もメディアを通じて出している。しかし、その方法は未だ見つかっていない。
戦いが終わると少女たちは若葉たちのいる病院へ向かう。念のための検査のためである。特にラグナは念入りに検査をされていた。
黒き獣が封印された後、当然ながら大社はその実態を調べた。しかしどれだけ調べても分かったことは極僅かであった。
その中でこれが他とは違う、特殊なバーテックスであること。そしてラグナの右腕がこれに類似した存在であることが分かった。
今大社の多くの人間はラグナ=ザ=ブラッドエッジに対して警戒している。正体不明の力を持つ彼がもし以前のように暴走すれば、被害は今回と同規模、もしくはそれ以上のものになるだろう。そのため、彼の検査にかかる時間は決まって長かった。それでも分かったことはなかった。
検査が終わると、ラグナは待合室へと向かった。そこではレイチェルや巫女たち、そして先に検査を終えた勇者たちの何人かがいた。
「あ、ラグナさん…検査はどうでしたか?」
「この後もまだあるが、今のとこは問題ねえよ。ヒナタたちこそ、待たせちまって悪ぃな」
「いえ、私たちがそうしたかったからここにいるので…」
「そうか…ありがとな」
「後は若葉ちゃんと友奈さんと面会出来れば、一番ですが…」
ラグナは待ってくれていたことに一言礼を言うとここにいない者たちについて聞いた。
「ウサギ。ワカバとユーナにはまだ面会出来ねえのか?」
「…ええ。大社の方でも、あの娘たちについて何かと慎重になっているわ」
「…そいつは精霊のことでか?」
「そうよ」
レイチェルが言うに精霊が持つ勇者たちの精神への悪影響について漸く注目し始めているらしい。元より警戒してはいたようだが、酒呑童子を使ってからの友奈を見てから特に警戒するようになった。
「テメェらはどうなんだ?」
「まあ…ちょっとハードだけど何とかなってるわ。最近は使う前に倒せているもの」
「うたのん…あんまり無理し過ぎちゃダメだよ。戦うこと自体で身体が疲労するから。良かったらあっちで座ろう?」
「サンクス、みーちゃん。それじゃあよっこらせっと…」
歌野が水都の隣で腰を掛け、棗や雪花は元気に返事する。
「私はもう少し休みが欲しいんだけどにゃあ…いくら何でもハードワーク過ぎるって」
「今のところは問題ない。でも、海に入りたいな…」
「…流石に早すぎやしねえか?」
沖縄と四国の気候のギャップを少し感じていると、ラグナは千景がこちらへ向かってくるのを見つけた。ラグナは彼女の方へ手を振るが、返事をする彼女の表情は沈んだままだ。
「チカゲ、検査はどうだったんだ?」
「…いつもと同じよ。心身に疲労が見えるから適度に休養を取れって…それと精霊の使用は今まで通り控えろって」
「…そうか。確かにそれが一番だろうが…時々それが出来ねえのがな…」
千景は不満や文句を並べていた一般市民の言葉を思い返しながら苛立たし気に言う。今彼女からすれば医者の言葉はまるで自分を批判しているようにも聞こえた。
樹海で腐食が発生すると、その地点を中心に事故や災害が発生する。殆どのケースではカバーすることが出来ているが、それでもどうしても間に合わないこともあった。
その少ししたミスを心無い一部の人々がネット上で勇者たちに対する不満を書いたりと批判する。また、各地で犯罪や自殺など、治安が黒き獣が出現した直後よりも悪化していた。滅んでなお四国を混乱に陥れているあたり、正に厄災そのものである。
あれだけの怪物を相手にして、今でもいつ休めるか分からないほど自分たちは戦っているのに、周囲からここまで言われることに千景は苦痛に感じていた。
「アイツらは…大社も四国の人も理解してないのよ!そんなことしていたら、どれだけの被害が出るのか分かっているでしょうに!」
「…そうだな。せめて壁が元に戻りさえすればこの襲撃ラッシュも治まるだろうが…それがまだ出来ないんじゃおちおち休んでられねえ」
「そうよ!!こっちだって精霊を使わなければならない時だってあるのに!!」
その言葉をラグナは否定しない。偶に現れる大群に対しては精霊を使わねば対処出来ないのを知っているからだ。千景は不満を漏らし続ける。
「そんなに言うんだったらそれこそ切り札の使用を封印してやるわ…!!そうすれば安全な場所から言いたいことばかり言っている奴らだって…!!」
「…チカゲ。言いてえことは分かるが、せめてそいつはレイチェルたちの前では言わないでやってくれ。全員が全員、そのつもりはねえよ」
外での三年間、ラグナは様々な人を見てきた。だから少なからず、強者に擦り寄ったり、千景の言うように何もしていないのに他者のことをどうこう言う人間も見てきた。
しかし例え戦えずとも、自分たちのことを心から想っている人間がいることを知っている。戦える力があるのに樹海へ行けないばかりに戦えない者もいることを知っている。
それを理解して欲しくてそう言ったが、納得出来ない様子の千景の苛立ちは治まらずにいた。それを見かねてひなたが千景の手を取った。
「いえ、良いんです。もし話すことで少しでも千景さんの気持ちが楽になるのであれば、私に聞かせてください」
その言葉を聞いて千景も一度黙り込む。しかし
「…放っておいて…安全な場所にいる巫女の貴女には…関係ないことだわ…」
そう言って彼女の手を振り払って病院から出て行こうとした。その時、ラグナは千景の肩に手を置いて引き留めた。
「おい!断るにしても今の言い方はねえだろ!ヒナタはテメェのことを想ってああいったのによ!」
「ッ!」
語気をいつもよりも強めるラグナに千景も怯むが、それに負けじと言い返した。
「…じゃあ貴方。私たちが四国の人たちになんて言われているのか、知っているかしら?」
「あぁ?いや、あまり知らねえが…テレビとかあんま見ねえし…」
「…アイツらははっきりと言ったわ!!私たちは無価値だって!!いらない存在だって!!そう罵っていた!!そんな人たちのために、戦わなければならないのよ!!貴方なんて…もっと酷いことだって言われてるのに!!」
怒り任せに
「…そいつらをぶん殴りてぇくらいムカつくのは分かるが、それだって結局好き勝手に抜かしてる奴らだろ?そういった輩はよくいるモンだし、気にかけるほどの連中じゃねえよ」
ラグナなりに気にするなと励ましてはいるが、この言葉に千景は怒りを覚える。
「そんな風に割り切れるのは…貴方だけよ!!『
「そんなんじゃねえよ!俺はただ」
「うるさい!!!この『化け物』!!!!」
そういって千景は自分に近づくラグナを自分の視界から押しのける。その時、彼は後ろにあった植木鉢と衝突し、それを倒壊させながら尻もちをついた。身体に傷はない。しかし、それ以上に彼らを動揺させることが起きた。
我に返った千景は自分がとんでもない言葉を口走ってしまったことを自覚した。ラグナの顔を見ると、そこには千景の言葉に驚きを隠せずにいる彼がいた。
「……ぁ…」
悲しそうな彼の顔を見て千景の心臓の鼓動が速くなる。思わず目を反らしてしまうと周りも自分の方を注目していることに気付いた。
いきなりの千景の行動に仲間たちは戸惑い、病院にいる者たちも怪しむような視線を向けてくる。それが千景の心を蝕む。
しばしの沈黙の末、罪悪感から千景はその場から逃走した。それに気が付いたラグナたちは慌てて彼女を追いかけようとした。
「待ってくれチカゲ!!行くな!!」
「千景さん!!」
その言葉は千景には届かず、彼女は病院を後にした。ラグナも起き上がって追いかけようとするが、レイチェルが彼を引き留めた。
「待ちなさい、ラグナ」
「ウサギ!何で止めんだよ!?早くチカゲを追いかけねえと!!」
「…貴方はまだ検査があるだろうし、何より今の千景は精神的に不安定な状態よ。さっきのやり取りの後でまた貴方が話しかけても逆効果だわ。私が行ってくる」
「…分かった。頼んだぞ」
それを聞いてレイチェルはそれ以上何も言わずに転移した。そしてラグナは再び検査へと向かった。
「高嶋さん…高嶋さん…高嶋さん…高嶋さん…あぁ…会いたい…会いたい…!!」
その頃、丸亀城の自分の寮室へ戻っていた千景はベッドの側で顔を伏していた。自分の最大の理解者である少女と接することが出来なくてただでさえ陰鬱な気持ちが心を支配していたのに、最後はラグナに放った言葉で自己嫌悪に陥っていた。
「どうして…どうして…こんなことに…!!」
千景は懺悔するようにポツポツ言う。今までの四国の人間や大社の者たちに対する怒りを誰かに分かって欲しかっただけなのだ。ここ最近は良くカウンセリングを受けるよう、大社からメールが来るが、自分たちへの悪感情を彼らが理解できるとは思えない。
「だって…あの人があんなこと言うから…!!分かってくれないから…!!」
それに対して散々嫌われていたらしい過去の話を聞いて少し自分に近いものがあるように感じたラグナならばある分かってくれるかもしれないと思った。しかし彼から返ってきた回答は自分の求めていたものではなかった。
そこからこれまで初めて彼の暴走や黒き獣を
「うぅ…うぅッ…!!違う…違うの…!!そんなつもりなんて…なかったのよ!」
『果たしてそうかしら?』
「………え?」
突然流れ込んでくる声に疑問を覚えると、千景の視線の先にいたのは自分にそっくりの少女だった。しかし、気持ち的に弱っている自分に対して少女は愉悦に満ちた顔だった。
『本当は恐ろしいのでしょう?信用出来ないのでしょう?『あの男』のことが…だから貴女はあの男を『拒絶』した…』
「そんなこと…」
『恐ろしいわよね…だってあの男には貴女を…
「違う…そんなこと…」
千景は必死に否定するが、少女の笑みは広がるばかりだ。それに千景は不気味さを覚える。何故かこの少女の言うことが恐ろしいことに強く反論することが出来なかった。以前戦ったレリウスと同じように自分が見抜かれているように感じた。
『だったら何故…あの男は貴女の言うことに賛同しなかったのかしら?過去の世界でも…彼自身の世界でも嫌われていた彼なら…貴女の言うことを理解出来たわよね?』
「それは…きっと…あの人は…心が…強いから…」
『いいえ…あの男には人の心がないからよ…だから…貴女の言うことを理解できなかった…』
「……何が…言いたいの…?」
少女の言うことに千景は困惑していると、少女は千景の耳元まで近づいて囁く。
『怪物なのよ。あの男は…』
「…どう…して…そんな…」
『
「でも…彼…傷ついて…」
『あんなもの…演技に決まっているでしょう?』
「な…んで…?」
『貴女を悪人に仕立てて…正義の名の元に成敗するため…貴女から何もかもを奪うため…あの男は味方でも理解者でもない…昔貴女を虐めていた者たちと同じ…』
「そんなこと…そんなこと…!!」
『あの時に彼のせいで集まった皆の視線を忘れたの?紛れもない証拠じゃない?』
そう指摘されて千景はかつての忌々しい記憶を思い出し始めた。涙を浮かべ、声が聞こえないように耳を塞ぐ。嫌だ。味方だと思っていた人物が敵だったなんて想像したくない。それでも少女の声が未だ聞こえてくる。
『どれだけ否定しようとしても…その事実は変わらないわ…』
「もう…黙って…!」
『覚えておきなさい。あの男は…ラグナ=ザ=ブラッドエッジは…黒き獣…いいえ、『黒き者』は…貴女の敵よ』
「やめて!!!」
千景はベッドからガバリと起き上がりながら叫ぶ。息を切らしながら外へ目をやると、空には月が昇っていていた。どうやら部屋についてから数時間眠ってしまっていたのだろう。
「夢…だった…?」
気づけば自分はベッドで寝ていなかったはずなのに、自分には布団の中で寝ていて掛布団が掛かっていた。その理由が分からない千景は部屋を見渡すと、部屋の椅子にレイチェルが腰かけていた。
「やっと起きたわね、千景」
「…どうして…アルカードさんが…」
「貴女のことが気になってここへ来たの。そしたら貴女がベッドの側で魘されていたわ」
「それで…看ていてくれたのね…」
「…お茶でもしましょうか?紅茶で問題ないわよね?」
いきなり話に入るのも問題かと考えたレイチェルは紅茶を勧め、千景もカップを受け取る。紅茶の温かさは身体中に澄み渡っていく。静かに茶を飲んでいると千景の方から話し始めた。
「…あの人…どうしてたの?」
「ラグナならまだ病院にいるわ。検査の続きだそうよ」
「そう…」
それを聞いて千景は申し訳なさそうにしていた。それを見てレイチェルは一言添えた。
「…安心なさい。彼、気にしていなかったわ。寧ろ皆、貴女のことを心配していたわよ」
「…そうだったの?」
「一々やられたことを気にする男ではないもの」
そんな中で沈黙が続く中、自分の机が綺麗に整理されているのに気づく。
「あれも貴女が片付けてくれたの?」
「まあ、少し乱れていたようだから。置いてあった資料は纏めておいたわ」
「そう…なら良かったわ。あれは…新しい精霊について書かれたものだから」
それを聞いてレイチェルはあまり良い気がしなかった。その資料に記されていた精霊はいわば若葉の大天狗や友奈の酒呑童子に並ぶ知名度を誇る大妖怪だ。つまり、今の友奈たちと同じ反動が起こり得る可能性がある。
「…そう」
注意するのは簡単だが、今の千景にとってそれは神経を逆なでする言葉でしかない。だから敢えてそれについて何も言わない。
「…貴女は何も言わないの?」
「自分で危険性は分かっているのでしょう?ならば余計なことを言う必要はないじゃない」
「…ありがとう」
「それでは、私はここで御暇させてもらうわ。大分落ち着いてきたみたいだし…それと一つ」
「何かしら…?」
「先ほどひなたから連絡が来たわ。若葉の面会謝絶が明後日解除されるそうよ。よければ来なさい」
「…分かったわ…お休みなさい」
「ええ…ご機嫌用」
挨拶を交わすとレイチェルは転移していく。ラグナたちが心配しているのを聞いてまだ罪悪感があったが、彼らが気にしていないと聞いて少しだけ心の重荷が軽くなった。
(…次に会ったら…謝らないと…)
そう考えていると千景の端末が光った。また大社がカウンセリングを受けろと連絡してきたのかとうんざりしながら内容を見るとそれには別のことが書かれていた。
そこに記されていたのは、千景の両親を丸亀市へと呼び寄せ、共に暮らせるように準備しているという報せだった。そのために明後日、神官と共に両親を迎えに行って欲しいという旨の書き込みもあった。
今更両親と暮らすことなんて千景にとって嬉しいことでもなんでもない。しかしここで自分が断れば他の誰かが行くことになるだろう。
(そうなったら…皆きっと、傷つくわよね)
以前自分が過去の出来事を話してくれたとき、仲間たちは大なり小なり村の人々に対して嫌悪感を示した。そんな皆にあの村の人々を会わせるのは良い気がしない。そう思いながら千景は改めて床に着いた。
原作での大社ってぐんちゃんの家庭環境をちゃんと調べてたのかな?調べてたら本人に絶対両親を迎えに行かせないと思うんだけど…
さて次回、精霊の危険性が明らかになっていく…その時、ラグナはどうするのか。それではまた。