探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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第2章の始まり。
変身中のある人物とオリキャラが登場します。
  


第2章:人には【光】と『影』がある
『彼女ら』と『彼ら』のとある午後の話(1)


「リエ~…」

 

その日、リエは庭で摘んだイチゴを使って、ジャムを煮詰めている最中だった。

甘い香りがキッチンに広まっていたその時、バーンと扉が盛大な音を立てて開く。

客人は、アンジェリーナだった…が、その表情はいつになく疲れていて…不機嫌であった。

 

「いらっしゃいませ、アンさん」

 

挨拶をすると、アンジェリーナはソファーに座り込んで大きく溜息を吐いた。

 

「ごめん……嫌な事があって」

「…もうちょっとでジャムができます。スコーンも焼けましたし、お話聞きますよ」

 

 

 

 

 

「まったく…やになっちゃうわ!」

 

サクサクのスコーンにたっぷりいちごジャムをぬるや、アンジェリーナは齧り付いた。

アンジェリーナが怒っている理由…それは、仕事関係で、女性患者が言い放った言葉だった。

 

「なにが『子どもは邪魔』よ! 『子連れじゃ客もとれやしない』よ! ふざけんじゃないわ!」

「…アンさん。落ち着いてください。口周りがジャムだらけになっちゃいますよ」

 

うがーと吠えながら、スコーンを一気食べするアンジェリーナ。

今日、担当した女性患者は娼婦だった。

妊娠したために、仕事に支障をきたすから堕ろしてくれと頼んできた。

 

「お腹に芽生えた命をなんだと思ってんのよ、あの女! 物じゃないつーの!」

「それで、アンさんは…その患者様の依頼を受けたんですか?」

 

「あの時、怒りを抑えるのに必死で、堕胎するにはそれなりに時間とコストがかかるから考え直したらって指示したわ。

そしたら、あの女、『そんなに時間がないから安く請け負ってくれる別の医師のところに行く』って出ていったのよ!

…あぁ~! 『だったら最初っから来るな』って追い返しゃよかった!」

 

女性患者の去り際のムカつく態度と言動を思い出して、アンジェリーナはさらにスコーンを食べまくる。

 

「娼婦の方々は生活のために好きではない男性と身体を重ねないといけない。

そういうやむおえない事情もありますけれど…子どもを簡単に堕胎する選択は賛成できませんね」

 

「…もし、私があの時…『あの子』を救えていなかったら、今日来た女性患者を憎んでたわ。

世の中、子どもが好きでも妊娠できない女性だっているのに…」

 

ハァと軽く息を漏らして、アンジェリーナは紅茶を飲む。

言いたい事をぶちまけたおかげで、大分スッキリしたようだ。

 

「ごめんなさい、愚痴聴いてもらっちゃって」

「いいえ、私で良ければいくらでも」

「…~ッ! いい相棒に恵まれてよかったわ。私が男だったら、迷わず貴女にプロポーズしてるわよ!!」

「あらあら、それは魅力的な事ですね」

 

いつもの調子が戻ってきたようだ。

リエは「ありがとうございます」とほんのり笑って言葉を返すと、冷蔵庫にしまっていたアイスクリームを取り出して、

彼女に食べてもらう事にした。

 

 

◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇

 

 

「坊ちゃん、『例の件』の報告書がまとまりました」

 

同時刻、ファントムハイブ邸の書斎で書類をまとめていたシエルのもとに、セバスチャンが報告をしていた。

例の件―――先日のマフィアが関与していた誘拐事件の際に彼らの前に現れた謎の女の事。

 

 

「過去10年以上を遡り、英国内で発生したすべての大小の事件を検証した結果、一人の人物が浮上しました。

―――『リエ・クローチェ』

事件記録は市警(ヤード)の権限から名前は省かれていましたが、当時の事件関係者の証言から、明らかになりました」

 

「10年前…先代の頃から市警(ヤード)と繋がりがあったのか」

 

 

あの屋敷から脱出する前に、市警(ヤード)がやってくるとリエが発言していた事から、相互関係があるとは思っていた。

先代…シエルの父親が、リエの存在を知っていたかどうかは不明だ。

少なくともこちら側が、女王から命令されて担当した案件以外…表側の人間のみで解決できるだろう事件に、リエが携わっていた事になる。

 

「表では市警(ヤード)が解決した事件の半数近くは、実際はリエ・クローチェの助力によって迷宮入りを

免れたものばかりの様です」

 

「フンッ、表社会で対処できるレベルの案件すら人の手を借りなければまともにできないとは

…呆れたものだ」

 

市警(ヤード)の無能さに、シエルは冷笑を浮かべる。

 

「それから…興味深い事もいくつか判明しました」

「なんだ?」

 

セバスチャンが、口元に綺麗な弧を描くとさらに報告を続けた。

 

 

 

 

 

「あれとそれ、ちょうだい。あとそこの帽子もお願い」

「かしこまりました」

 

あれから数時間後、アンジェリーナは只今、買い物を楽しんでる真っ最中。

仕事上でのストレスを発散するため…もあるが、折角ロンドン市内まで足を運んでいるのだ、

以前から気になっていた商品が買いたい。

 

思い立ったら吉日。

本日は非番なリエを巻き込んで、贔屓にしている御店を何軒かはしごする事にした。

 

「リエ、折角だから貴女も何か買いなさいよ」

「いえ、特にありませんので」

「遠慮しないでちょーだい! 安心しなさい、今日は私が奢るから」

「ハァ…どうも(奢るって…そんな気軽にラーメンを食べに行くような感覚にはなれませんよ)」

 

リエは冷や汗を流し、苦笑するしかない。

何故なら、アンジェリーナが回っている御店はすべて一般庶民には届かないレベルばかり。

上流階級お達しの物をおいそれと購入するなんて恐縮する。

 

「あらっ、あそこにある服もいいわねぇ」

 

アンジェリーナが最新のファッションに目を奪われている中、リエは店内を目で楽しむ事にした。

 

(買うのは躊躇っちゃいますけど…見るだけなら)

 

服、帽子、靴、小物…煌びやかな一流の商品を眺めていると、どこか非現実的で夢見心地に浸ってしまう。

  

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