探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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序盤から王国心要素があります。
アンジェリーナは、戦う技術を二年かけて身につけた設定です。
  


スケジュール調整(1)

闇が町を支配する宵の時刻、ロンドン市内をある人物が徘徊していた。

フードを深くかぶり、黒いコートに身を包んでいる。

 

「今日はこの辺から…ですね」

 

ほとんどの人が寝静まったこの時間帯にたった一人でうろついている

…第三者がいれば、明らかに不審者とみられるだろう。

 

その人物の背後から忍び寄る黒い影。

人影と思わるソレは、うねうねと形を変えていき、影から生まれ出る形で、魔物として姿を現した。

 

―――《ハートレス》

 

ハートレスは、まだ前方を向いたままのその人物に狙いを定めて襲い掛かった。

 

 

 バシュッ

 

 

しかし…その人物の胸を貫く事は叶わず、一閃されて黒い霧と化し、ほのかな薄桃色に輝くハートが現れた。

その仲間の消滅を合図に、建物の壁や道などから続々と出没するハートレス。

 

「…フフッ、いらっしゃい」

 

右手を差し出して、挑発を含んだ誘いの言葉を呟くその人物。

触発されたハートレス達は、勢いよく一斉に飛びかかった。

 

 

*** ***** ***

 

 

「ふぅ、終了しました」

 

暗闇に綺麗な明りを灯すたくさんのハート。

それらは、その人物の持っている星形の杖に装飾されている結晶石に吸い込まれていく。

 

「早く元に戻りますように…」

 

祈りの言葉を囁くと、その人物…リエは被っていたフードを取り外した。

栗色の長い髪を、さらぁと綺麗な円を描く形で靡かせる。

青空を連想させる両方の空色の瞳を開くと、闇夜へ視線を上げた。

 

「…星が見えないのが残念ですね」

「ぜぇぜぇ…同感ね」

 

後方から聞こえてきた女性の声に、リエは首だけ後ろへ向けた。

 

「アンさん。そちらは終わりましたか?」

「…はぁはぁ…完了よ」

 

息切れしながら、親指を立てるものの、顔色は疲労に満ちている。

二時間ほど、彼女はリエと共にこの地帯に潜んでいたハートレスを退治していたのだ。

 

「…ったく、なんなのよ! あの『ハートレス』ってありんこ!

あの変則的な動き! 反則よ反則!」

 

「でも、二年前よりもずっと上達してきましたよ」

 

リエが素直な感想を言った。

「あら、そう?」とアンジェリーナは満更でもなさそうにほほほ…と笑う。

そんな彼女に、リエはふふふっ…とほんのり笑う。

 

これはお世辞ではなく、本心からだ。

二年間、リエはアンジェリーナに戦闘の基礎を教えてきた。

体力にはそこそこ自信があったアンジェリーナでも、最初は戦闘を見守るだけ…

視覚でリエの俊敏な動作を追いかけるのに精一杯だった。

 

それが今では、リエのサポートなしでハートレスを倒せるレベルになった。

まだレベルが高かったり、巨大なクラスのモノには敵わないが…

それ以外のタイプのハートレスには臨機応変に対応できるようになっている。

 

「…にしても、今夜はやけに多いわねー。十匹は遭遇したわよ」

「…今夜だけとは限りませんよ」

「?? どういう事???」

 

リエが口にした言葉に、アンジェリーナは疑問符を浮かべる。

 

「この一年の間に、全体的にハートレスが活発化しています。

以前は夜の時間帯にしか出現しなかったのに、最近は限られていますが…

人通りの少ない場所にも出てくるみたいです」

 

「ちょ、それ…マジで!?」

 

「まだ一般市民の方々には被害が出ていないようですけど…

近い内にまた『封印術』を施す必要はありますね」

 

リエは真剣な表情で語っていると、パッと右斜めにある建物の屋上へ視線を向けた。

 

「なに、ハートレスがいたの?」

 

「いいえ…気の所為でした。

この一帯にハートレスの気配もありませんし、今日はこの辺にしましょうか」

 

「そうね…ふあぁ~…明日は遅寝決定だわ」

「お仕事は?」

 

「明日はお休み。ハートレス退治の翌日はどっと疲れがでるもの。

ゆっくり体を休めないとねー」

 

口元を手で抑え、ふぁーと生欠伸をするアンジェリーナ。

 

「もしよかったら家まで来ませんか?

以前依頼で知り合った方から、美味しいコーヒー豆を頂いたんです」

 

「さんせーい♪」

 

先程の疲労はどこへやら…深夜のお茶会を楽しむため、アンジェリーナはルンルン気分でリエの隠れ家へと足を進める。

苦笑しながら、リエも後をついていく。

 

しかし、二人は気付いていなかった。

その様子を別の建物の上から眺める一人の影がいた事に…。

 

 

 

 

 

三日後、王立ロンドン病院の食堂でアンジェリーナは休憩をとっていた。

 

「今日も待合室は満員ね」

「今年は、例年に比べて風邪をこじらせる人が多いらしいですよ」

「予防法を書いた張り紙を出した方がいいんじゃないか?」

「最近新しいコーヒーハウスができたんだって。今度仕事帰りに行かないか?」

 

同僚の医師達と、仕事と余暇の話題で盛り上がっていると、一人の医師がある話を口にした。

 

「そういや、今日の新聞読んだか?」

「ああ、見た見た…物騒だよな」

 

そういえば、今日の新聞読み損ねたっけ…とアンジェリーナは思い出した。

 

「何か恐ろしい事件でもあったの?」

「ホワイトチャペルで娼婦が殺されたらしいんだ…さっき店で購入したものがある…っとコレだ!」

 

散らかった机をあさりながら、その医師は今日の新聞を見つけ出すと、アンジェリーナにそれを渡す。

どれどれ…とアンジェリーナはその記事を見た瞬間、大きく開眼した。

 

記事に書かれていた被害者の名前は―――『メアリ・アン・ニコルズ』

一週間前に、アンジェリーナのもとへ堕胎手術を依頼に来たあの女性だったからだ。

  

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