探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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アンジェリーナ視点です。
   


捜査協力(1)

 

「今日はいい天気でよかったわ、絶好の外出日和ねぇー♪」

「雨が続いていたからね~」

 

揺れる馬車の中、私は裏の社交界で付き合いのある中国人、劉(ラウ)と

一緒にある場所へ向かっていた。

 

 

私の名前は、アンジェリーナ・ダレス。

王立ロンドン病院勤務の医師であり、元バーネット男爵の妻、子どもがいる未亡人。

表の社交界では【マダム・レッド】の名で知られている。

 

私の甥は裏社会の秩序を守る【女王の番犬】 シエル・ファントムハイヴ伯爵。

今回、彼から招待状をもらって町屋敷へと出向く事となった。

 

「マダム・レッド。そちらのお嬢さんは?」

 

「彼女はセリア・メイシー。

最近、息子のガヴァネス兼、私の個人秘書になった子よ」

 

「お、お初にお目にかかります。ら、劉様」

 

あと、私のお気に入り…セリアも秘書として同行してもらっている。

セリアには、もう裏社会の事を大まかに教えておいた。

彼女が、これから私の秘書として仕事をしていく上で、裏社会へのある程度の関与は絶対避けては通れなくなるだろう。

 

だからといって、強引にこちら側へ引き摺りこむのは可哀想だと、

事前に私は選択肢をもちかけた。

 

…話をなかった事にして、息子のガヴァネスとして働き続けるか?

 

…裏社会に関与する事を覚悟で、私の秘書をやるか?

 

予想通り、セリアは悩んだ。

少し時間が欲しいと懇願してきたので、私は快く了承した。

 

『アンジェリーナ様…どうかご指導お願い申し上げます』

 

一日半かけて、彼女が紡ぎ出した答えは後者だった。

その瞳には迷いはなく、強い意志を宿していた。

 

私の目に狂いはなかった。

彼女、セリア・メイシーは単純な勧善懲悪だけが価値観だという固定概念に囚われない柔軟性がある。

 

…鍛え上げたら、優秀なレディになるはずだ!

 

「そんな畏まらなくても、我(わたし)の事は劉って呼んで構わないよ」

「そ、そんな恐縮でございます!」

「いいのよ、セリア。この人は気軽に呼び捨てでOKだから」

「そ、それでもアン様のご友人を呼び捨てにはできませんよー!」

 

慌てふためくセリアはどこか小動物的な可愛らしさがある

…からかい甲斐があるわー♪

 

そうこうしている内に、私達は目的地へと到着した。

 

 

「いらっしゃいませ。マダム・レッド」

 

 

扉をノックすると、セバスチャンが出迎えてくれた。

 

「劉様、ご無沙汰しております」

「マダムに誘われて来ちゃったよ」

「失礼ですが、レディ。お名前をお聞かせいただけますでしょうか?」

「セリア・メイシーです。先月からアンジェリーナ様の秘書として働いております」

 

「左様ですか…それでは改めまして、セリアさん。

私、セバスチャン・ミカエリスと申します」

 

自己紹介するセバスチャンに、セリアは微かに頬を赤らめている。

初めて接触する大半の女性は、彼に胸をときめかせるパターンが多い。

容姿端麗な青年の執事なんて、そうそうお目にかかる事はないからだ。

 

「主がお待ちです。こちらへどうぞ」

 

セバスチャンに案内されて、私達は奥の部屋へと進んだ。

 

 

「ようこそ、マダム・レッド、劉。

それから…初めまして、レディ・メイシー」

 

 

上等な椅子に座った各人に、この屋敷の主…シエルが挨拶をする。

 

「お久しぶりね、伯爵。

招待状をよこすなんて…今回は、どんな勅令が下ったのかしら」

 

「それはおいおい説明する、まずはお茶でも飲みながらリラックスしてほしい」

「じゃあ、お言葉に甘えるよ」

 

アンジェリーナと劉は慣れた感じで、シエルと会話をする。

ただ、新参者であるセリアだけは上流階級の雰囲気に呑まれつつ、恐縮しているようだ。

 

「どうぞ」

 

セバスチャンはさりげなく、紅茶を差し出した。

セリアはどうも…と軽く会釈すると、それを口にする。

 

「あっ…おいしい…」

 

「お褒め頂き光栄でございます。

本日はジャクソンの『アールグレイ』をご用意いたしました。

こちらのレアチーズケーキも一緒にご賞味くださいませ」

 

長机にコトッと置かれたレアチーズケーキ。

上に薄切りのレモンを乗せた見た目も綺麗なデザインだ。

フォークで一口切り分けて口へ入れると、濃厚なチーズの味が万遍なく広がる。

それでいてしつこくなく、一噛みしていく毎になめらかな味わいへ変化していく。

すぅーと舌へ浸透していき、完全に消えた後も余韻に浸ってしまう。

 

「うーん…セバスチャン、あんたの作るデザートも最高だわ!」

 

アンジェリーナも、セバスチャンの菓子作りの腕前を高く評価した。

 

「昔、どこかで菓子職人(パティシエ)の修行でもしてたのかい?」

 

「そんな大層な事はしていませんが…ファントムハイヴ家の執事たる者、

主を満足させるデザートをつくれなくてはなりませんから」

 

セバスチャンは、にこやかに劉の質問に答える。

 

(一流の執事って、こういう技能も持ち合わせていないといけないのね…)

 

レアチーズケーキを味わいながら、セリアは一流の執事の凄さに衝撃と感銘を受けていた。

実際の執事がそういう技能が必須と言う訳ではないのだが…。

 

 

「…ここからが本題だが」

 

 

ティーカップを皿に置くや、シエルが口を開いた。

 

「あら、ようやく話してくれるのね」

「今回はどんな命令を受けたんだい?」

「…数日前、ホワイトチャペルで娼婦の殺人事件があった」

 

シエルが口にした話題に、アンジェリーナは微かに目を見開く。

 

「何日か前から新聞が騒いでいるヤツね、知ってるわ。

だけど、アンタが動くってことは何かあるんでしょう? シエル」

 

「そうだ、ただの殺人ではない。猟奇的…最早、異常といっていい。

それが‟彼女”の悩みのタネというわけだ」

 

「どういうこと?」

 

「被害者の娼婦、メアリ・アン・ニコルズは何か特殊な刃物で

原型も留めない程、滅茶苦茶に切り裂かれていたようです」

 

アンジェリーナの疑問に、セバスチャンが答えた。

シエルが、ケーキを一口食べながらその続きを紡ぐ。

 

    

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