探偵は秘密がお好き   作:ねことも

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(1)の続き。
  


捜査協力(2)

「市警や娼婦達はこう呼んでいるそうだ。

―――【切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)】

僕も早く状況を確認せねばと思い、急ぎロンドンへ来たというわけだ」

 

 

説明を聞きながら、アンジェリーナは眉を潜める。

まさか、あの患者が殺された事件の話題がこういう形で出てくるとは…。

診療を遠回しに断ったあの日…彼女は別の医師を探すと言っていた。

その間に、犯人に殺されたのだろうか?

 

(あんな結末を迎えるだなんて…思わなかった)

 

授かった命を簡単に殺そうとした事は許せない。

同時に、無残に命を奪われてしまった被害者を可哀想だと思う自分がいた。

 

 

 

「話が変わるが…マダム・レッド」

「うん?」

 

一通りの話を終えるや、シエルが話しかけてきた。

 

「貴女を招待した件なんだが…聞きたい事があるんだ」

「どんな事で?」

「『リエ・クローチェ』という女性をご存じか?」

 

一瞬だけ固まってしまった。

何故…シエルが彼女の事を聞くのか?

 

(…てか、私とリエとの関係、もう調べ上げてるの?)

 

この間のガヴァネス誘拐事件で間接的とはいえ、ファントムハイヴ家を利用してしまった。

それがバレてしまったのか?

いや、もしくはリエの情報をちらつかせて、こちら側が動揺するのを誘い、

確信を得ようとしている可能性もある。

 

「リエ・クローチェ…って私立探偵をやっている婦女子の事だよね~」

「劉様はご存じなのですか?」

 

その時、劉が会話に参加してきた。

これは、うまくかわすチャンスかも…とアンジェリーナは思った。

 

「名前だけね。我の知人が昔、世話になったらしくて…時々手伝ってるとは聞いてるよ」

「…ほぉ、裏社会にもコネがあるのか、あの探偵は」

「ハハハ、みたいだね。で…マダムはどうなの?」

 

「すぐにブーメラン、返さないでよ!」とアンジェリーナは胸中でツッコんだ。

しかし、沈黙したままだと逆に怪しまれてしまうため、ココは…試しに探る事にした。

 

「ええ、その名前は知ってるわよ。でも、なんで彼女の事を訊く訳?」

 

「以前、誘拐事件で接触したんだ。

念のために彼女の素性を調べてみたんだが…貴女と接点がある事が判明した。

マダム・レッド…彼女とはどういった関係で?」

 

そう尋ねてはいるものの、シエルの事だ…既にリエの探偵の助手を務めている事は

お見通しだろう。隠す必要もないな…とアンジェリーナは口元に綺麗な弧を描く。

 

「ふふっ、リエとは確かに面識はあるわ。

彼女とはここ数年来の親友みたいなものよ」

 

「では、あの誘拐事件の際に、坊ちゃんに紹介したガヴァネスは…

彼女だったのですね」

 

「仕方なかったのよ。誘拐されたガヴァネス達を救おうにも手段が限られていたし…

時間も限られていたもの」

 

その件ももうバレてるか…とアンジェリーナは肩を竦めて白状した。

 

「まあ、事情を説明しなかった事は悪かったわ。ごめんなさいね」

「謝らなくていい。ただ、事実確認をしたかっただけだ」

「(あら?)…そう、ありがとう」

 

嫌味の一つでも言うかと思ったが、シエルの態度は意外にあっさりしていた。

 

「ところで、レディ・クローチェは今回の事件に興味を持っているのでしょうか?」

 

「そうだな。表社会でも騒ぎになっているくらいだ。

依頼がきている可能性もありそうだが…」

 

二人は、どうやらリエが切り裂きジャック事件を捜査しているのかどうか…

探りを入れているようだ。

 

「ああ~…この間リエに会いに行ったけど、彼女…今、別件で忙しいみたいよ?」

「そうですか、残念でしたね。坊ちゃん」

「…別に急ぐ事でもないだろう」

 

セバスチャンがクスッと笑って、主であるシエルにそう言葉をかけると、

シエルはそっけない感じで返事する。

 

(この二人…リエと接触したがってる?)

 

前の一件をすんなりと許してくれたものの、彼らの言動の節々から、

リエの事を深く詮索しようとする魂胆が見え隠れしている。

 

(また、隙を見てこの事連絡した方がいいかしらね…)

 

…女王の番犬に目をつけられてしまった。

アンジェリーナは、胸騒ぎがした。

リエとこの二人が再会した時…何かが起きる、そんな予感がしてならない。

 

 

 

【捜査協力】

 

 

 

「それよりも、これからどうするの? 現場に直接行くつもり?」

 

「いや、行く必要はない。

どうせ既にヤジ馬だらけでろくに調べもできんだろう。

僕がいけば、警察もいい顔をせんだろうしな」

 

確かに…ランドル卿が露骨に嫌な顔をする場面がいとも容易く想像できる。

それに、検死に慣れているアンジェリーナとそういった血生臭い事は平気な劉は

ともかく、今回は裏社会とは今まで無縁だったセリアがいる。

 

凄惨な女性の遺体を目にするのは、10代後半の彼女にとっても酷な話だろう。

 

「伯爵…まさか…」

 

劉がハッとした顔で息を飲み込む。

 

 

「そのまさかだ。僕もできるなら避けたい道だが、やむを得ん。こういう事件に奴ほど確かな情報を持ってる奴はいないからな」

 

 

シエルもあまり気乗りしていないが、切り裂きジャックに関する有力な手掛かりを

提供してくれる情報屋がいるようだ。

 

「セバスチャン、馬車の準備を」

「イエス・マイロード」

「セリア…貴女どうする? 此処で待ってる?」

 

外出の準備をする中、アンジェリーナはセリアに行くか否か聞いた。

シエル達が切り裂きジャックの犯行の手口を話していた時から、

彼女の顔色はすぐれなかった。

 

これから赴く情報屋でも、遺体に関する話題がでるはずだ。

秘書とはいえ、あまり無茶はさせたくないが…

 

「だ、大丈夫です。私もお供いたします!」

 

どうやら、セリアの熱意は本物のようだ。

 

「そう…じゃあついてきて。でも、気分が悪くなったら遠慮なく言ってね」

「はい…!」

 

こうして、アンジェリーナ達はシエルの贔屓にしている情報屋の元へ向かった。

 

 

 

【つづく】

  

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